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艦長声優特別対談

Vol.1

――皆さんよろしく御願いいたします。
一同「よろしく御願いします」

――歴代スタートレックの番組の中で、艦長・船長・司令官を演じられ、声の出演をされた5人の役者さんの方々にお集まりいただきました。

矢島「カークの矢島正明でございます。カークのキャラクターですか、何と言っても…シャープさと、それから暖かさでしょうかね? その 2つを何とか、きっちりと演じることができるようになればいいなあという風に思いながら、僕はカークをやらしていただきました」

麦人「ピカード艦長をやりました麦人です。完璧な人間ではなくてやっぱり弱さも欠点も時々ポロッと出るような、そういう人間味を随所に出せたらいいなあということは考えながらやってました」

玄田「ベンジャミン・シスコの、玄田哲章です。初の黒人の司令官で、もう周りはとにかくキャラクターの強い人たちが一杯いて、その中でやっぱり支えられて、どんどん成長していったというところを自分としては重きをおいてやってきました」

松岡「キャスリン・ジェインウェイをやりました松岡洋子です。初の女性艦長ということでやっぱり男性にはない暖かさとか柔らかさとか、クルーの中の母親的な存在であったらいいなあと思って、そんな面を出せたらいいなと思ってやってみました」

谷口「ジョナサン・アーチャー役をやらせていただきます谷口節です。未知の世界に初めて乗り込んでいくという魅力あふれる役をやらせていただいてるんですが、現代に一番近いので、非常に人間味がまだいっぱいあるという船長を楽しくやらせていただいております」

Vol.2

――矢島さんは当時30代で、「ナポレオン・ソロ」の後を受けての主役っていうことで、それなりにやっぱりプレッシャーもあったと思うんですけどいかがでしたか。
矢島「ほんとにプレッシャーだらけでした。とにかく当時の録音方式というのは、まだフィルムの時代ですからね? シネシンクロのテープレコーダーというのが発明されて、そしてフィルムのリールと、テープレコーダーのリールがシンクロするように歯車がついてるわけですね? それを同時にパッとスタートしていくわけですね。ですから編集ができないというネックがありました。どのような内容をもったドラマをやってるのかということよりも、どうやってこの映像についていくか、このセリフについていくかってことで一生懸命な時代でしたからね。もう終わってみてから『ああ、この話はこういう話だったか』ということを改めて納得するというような形で。納得できればまだいい方ですけれども『おい、今日の話はどういう話だったんだ』っていうような笑い話があるくらいでしたからねえ。ほんとに探り探りでしたね」

矢島「シャトナーさんともう 35年の間付き合ってきて、僕は取り込めないんですね、どうしてもこっちへ。取り込めたときにナチュラルで自然な芝居ができるんだと思うんですけど、どうしても僕はシャトナーの方へ向かっていくという形でもって、日本語版を作ってるつもりなんですけど。そんなところを僕は個人的に感じてるんですけども、見て下さる方がその辺をどういう風に見ていただけるかな、そこまで見ていただけたら嬉しいな」

――前に久松さん [久松保夫さん] がやったスポックをちょっとやってみたいっていうお話がありましたけど、新録音で例えばスポックをやれるとしたらカークとかマッコイはどなたがよろしいでしょうかねえ?
矢島「さて困ったな、誰がいいだろう。カークはやっぱり玄田さんいいんじゃないですか? ウィリアム・シャトナーのボリューム感。玄田さん見て下さい、ね? ボリューム感をまず満たしてくれますよ。スポックは麦人さんでいいと思うんですよ」
――スポックはでも…
矢島「僕がやるのか。失礼しました」
――松岡さんはウラで。
矢島「そう、ウラで。(麦人さんを指して) でマッコイ、ね? (谷口さんは) チャーリーあたりですね。というのはいいんじゃないですか。今このメンバーで、これからやりましょう」
松岡「やりましょう、いいですね」
矢島「と言うとみんなに怒られる」

Vol.3

――麦人さんは「宇宙大作戦」をもうテレビである程度ご覧になってから、「新スタートレック」のお話がきましたよね。その時に「新スタートレック」って名前と「宇宙大作戦」と、イコールなイメージってあったんですか?
麦人「いやなかったです。僕は 51話 [日本放送順。"The Bonding" 「悲しみの幻影」] からでしたかね『新スタ』参加して、これまで吉水ちゃん [吉水慶さん] って人がやってた。それで突然話がきたもんですから、全然『宇宙大作戦』とはイコールするイメージはないまんま入りましたね」

――周りのレギュラーの方は、もう一年やられてきてますよね。大塚明夫さん [ライカー] にしても芳忠さん [大塚芳忠さん。データ] にしても。そこに後から入っていくっていったときに、チームワークみたいなものがあるじゃないですか。そこに途中から来ましたって感じで行ったときというのは、ちょっとやりにくいとかそういうのはあるんですか?
麦人「それは、なかったですね。みんな知ってる連中ばっかりだったし、ほかの仕事や何かでね? それで皆さん優しい方でしたから、レギュラーメンバーが。いろいろ気を遣ってくれてたのかもしれないけど、自分としてはそんなに緊張して入ったとか (はなかったです)。役に対してどう作り上げていくかって緊張感はあったけど、スタジオのムードとして一年やってきた人の中へ入っていくような、『これは奴らに何をされるのかな』なんて、そういうものは一切なかったですね」

麦人「もう悪役大好きなんですけど、元々この声の業界入ったときはわりかし若かったせいもあるし二枚目も結構やってたんですよ。だけど『今後長い人生これで飯食っていくとなると、キャラクターをもっと増やしていかなきゃいけないな』ってんでね。仕事は確かに増えたんですけど、今度は悪役一色になっちゃってね。ピカードやって、また新しい自分の年齢的なものも含めて、役作りの幅を広げるチャンスだというのはありましたね」

麦人「パトリック・スチュワートさんって役者さんも、イギリスのシェイクスピアの名優だって話聞いてるんですけど。ナチュラルな芝居も振幅のある芝居も両方できる、上手い人ですから。自分がそういう声アテながら勉強さしていただいて。今の自分の仕事にも通じる大きな財産になって、これはもう自分が声優として一番ありがたかったことですね」

Vol.4

――玄田さん自身はスタートレックっていうのは、それまで漠然とイメージはあったんでしょうか。
玄田「もちろん地上じゃなくて銀河を遊泳する、やっぱり壮大な感じの世界じゃないですか。その中でドラマとしては色々ありますけども、最初からもうとにかく壮絶な、自分の肉親の死から始まってますから。子供は小さいし、周りはもう言うこと聞かないし、ぶつかり合うし。そういうシチュエーションの中でほんとにやっていけるのかなっていう、いわゆる司令官としてね。その不安が同じようにアテててありましてね。将来これちょっと、どうなっていくんだろうなあっていうことがありましたね」

玄田「旅の中で遊びができる時期がありまして、皆さんが被り物を取って素顔を出してっていう話があるんですよね ["Far Beyond the Stars" 「夢、遥かなる地にて」]。これがまた、ほかの作品はどうかわかりませんけど、笑っちゃいましてね。どういう顔をしてるんだろうってやっぱり興味あるじゃないですか。オドーっていう加藤精三さんがやってた人なんですけど、あんまり違和感ないんですね。大川君 [大川透さん。ガラック] がやってたキャラクターと、幹本さん [幹本雄之さん。デュカット] がやってた。なかなかみんないい男なんですよ。やっぱりそういった仮面っていうか、掛けた方が魅力あるなっていう、個性が強い方がいいなってのが印象でしたね」

玄田「専門用語が一杯出てくるもんですから、結構トチり出すとみんなトチるんですよ。ほんとにね、連鎖反応でね。ダックスやってた、佐藤しのぶさん。当初緊張してらして、ちっともトチらないんです。小宮和枝 [キラ] とか、まあみんな知ってますよね僕なんかね。『彼女何でトチらないんだろうな』って (話して)、不思議でしょうがなかったんですよ。で、だんだん仲良くなってきたんですよね。そうするとまあトチるわトチるわ。何かねえ、安心したんじゃないですかね。だから不思議な現象ってのはありましたよね」

Vol.5

――最初に松岡さんがスタートレックで、こういう主役みたいなものって話を伺った時のことって覚えてらっしゃいますか。
松岡「ほんとに失礼なんですけど SF ってすごく苦手で、全然観たことなくて。『スタートレックの艦長の役が来たの』って、何それっていう感じで全然ほんとに」
――スタートレック自体は御存知でしたか。
松岡「名前だけは何となく聞いたことはあるんですけど、もう全然観たこともないし。とにかく SF は苦手だったんですよ。わからないっていう、自分の中にあって」

松岡「最初は台本いただいたときに、ほんとにみんなのことなんてもう覚えてないぐらい自分のセリフで精一杯って感じでしたね。最初のパイロット版の時は。役も結局は私と全然共通する部分がないぐらいに、艦長でみんなを引っ張っていって、決断力があって。どっちかっていうと私は甘えん坊で、依頼心が強くて、全然そんなリーダーって感じじゃないんですよ、普段。大丈夫かしらって思ったんですけど、まあこれが役者の楽しいところで、自分とは全然違う役を演じることができるっていうのが、すごく役者としては一番楽しいところで」

松岡「最初紹介だから自分の名前言いますよね。何度もジョン・ウェインって言っちゃうんですよ。カタカナ見るとジョン・ウェインって見えちゃって。ジョン・ウェインっていたよなって…」
玄田「いたよね、そういう」
谷口「NG集なんかに入れるとほんとは面白いですよね」
玄田「一杯あるよね、そういうの。とっとけばね、笑えるものは」
松岡「ヴォイジャーはワープ10をやったんですよね? ["Threshold" 「限界速度ワープ10」] パリスとジェインウェイがワープ10 して、サンショウウオみたいな。何でサンショウウオなんですか、あれ」
――松岡さん前にもその話おっしゃってましたけど、よっぽど印象深いんですね。
「そうですか、気に入っちゃって。どうも気に入ってますね、あのサンショウウオ。子供までいてねえ」
――松岡さんは普段からずっと優しい感じの口調でやってますけど、ジェインウェイの方はよく "Do it." って「やれ」「やんなさい」とか、すごい強いですよね。
「語尾とかが結構パキッとしてますよね。あの辺はやっぱり語尾を変えたんですね、台本でも。割と柔らかめの語尾になってるところは、みんなパキッと言うような感じに。後半ぐらいはしっかり言う口調がだいぶ出てきたんじゃないかなと思うんですけどね」

Vol.6

――最初に、スタートレックっていうシリーズの主役ですって話があったときのことって覚えてらっしゃいますか。
谷口「やはり突然のことでして、自然な流れでビデオをいただきましてね、リハーサルしなきゃいけないので。アーチャーの顔を見ましたらバクラさんと僕 2度ほど別のもので、長尺でやらしていただいてて、同じ顔だと [映画「スーパー・タッチダウン」 (1991) と、テレビ映画「ネットフォース」 (99) のことだと思われます]。この顔ならやれるんじゃないかって、何かバクラさんとは鼻のラインが似てるんですね、長いラインが。よく我々も顔でキャスティングされたり、まあ声でももちろんありますけど、そういうことがあるんで。バクラさんの 2本ぐらいやったときに、あまり違和感がなかったんですね。それでリハーサルさしていただいて、本番になったわけですけども、船長としてキツすぎると。もっと包容力をもってみんなを統率してくれないかということがありまして。それからはそれに注意しながら、優しい中に厳しさももった船長というのを心がけてはいるんですけど」

谷口「こんなに船長あるいは艦長は単独でクルーをおいて、外へ出かけていくのかなっていうのを、我々声優仲間でもいつも話してるんですよ。船長行きすぎ、外へって」
――でもカークの時もそうでしたよね。それが普通は船は船長が残って、部下が行くもんだっていうことになって、上陸班っていう設定で細かく作られたのが「新スタートレック」で。だからピカードは割と降りていかないで、ライカーとかデータが行くっていう風になってましたよね?
麦人「少ないですよね」
谷口「それも命懸けで、ほとんど命懸けなんですよ」
矢島「カークの場合ははっきりしてますよね、危険なものは全部自分が負わなければならないという使命感をしっかりと出してますよね?」
谷口「確かにそれは今度のシリーズでもありましたね」

――第3シーズンというのは、いわゆる DS9 の最終章の方にも近い、一つのおっきなアクション的な流れにはなってるんですよね。
谷口「そうですね、時間のことが出てきましてね。とんでもないところへ連れて行かれたりするようなことがありまして」
――出てくる宇宙人も色々多彩ですよね。
谷口「はい、多彩になってきましてね。驚く展開になっていきますもんね」

Vol.7

――「宇宙大作戦」をやってみて、こういうところは面白かったかなってとこってありますか。
矢島「あのロッデンベリーって人が偉いなって思うことですよね。やっぱり宇宙もの、SF の世界ならば、社会的なタブーにもテーマとして触れられるっていうところに、テレビ人としてあるいはドラマを創る人として目をつけたという。その発想の素晴らしさですね? 差別の問題とか、人種的な問題とか、宗教の問題とか、政治の問題とか、それを暗喩的に、寓意的にと言いますか、そういう風に SF ならば使える。そこへ目をつけたロッデンベリーって人は偉い人だなって、常に思いますね」
麦人「全く同感ですね。だから SF もの以上に人間ドラマ、人間くさいドラマになってる。その魅力っていうのは僕なんかずーっとやってて、いま矢島さんおっしゃったように、宇宙という世界を通してやっぱり我々が日常現実で遭遇しているいろんな問題を主張してる」
――現実も絡めてということですね

玄田「スタートレックっていうのはやっぱり、男の夢とかロマンとか冒険、愛。そういったもの全てを果てしない宇宙で描けるっていうのはもう素晴らしいことだし。永遠じゃないかなって思いますね、このスタートレックはね」
松岡「SF っていうとどうしても男の人の方が興味湧くじゃないですか。でも女性も、多分スタートレックのファンがまた増えてくれたじゃないかなと思いますし」
――特に「ヴォイジャー」は艦長がジェインウェイで、後半割と女性のセブンが目立ちますからね。そういう意味ではすごく女性が目立ってる番組ですよね?
松岡「活躍しますよね。そうですよね、嬉しいことです」
谷口「愛とか、人間をテーマにスタートレックは成り立ってますので。会話をしながら愛というものをほんとに感じますね。クルーとの会話もそうですし、異星人との会話もそうですし、それは学ぶところがたくさんありますね」

矢島「というわけで、スタートレックを観るならスーパーチャンネルでどうぞ。では皆さん…」
一同「よろしく御願いします」
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