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TNG エピソードガイド
第138話「甦ったモリアーティ教授」
Ship in a Bottle

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・イントロダクション
後ろを向いたデータ。「そこで疑問が生まれた。兄上は本当に自殺だったのだろうか。いいや彼は…」 パイプをくわえる。「殺されたのだ。」
ヒゲを生やした紳士※1。「殺された? フン、何をおっしゃる。」
部屋にはラフォージもおり、背広姿だ。「待てよホームズ。毒の入った小瓶を手に握っていたじゃないか。」
データ:「そこなのだ、ワトソン君。…あの小瓶のストリキニーネ※2は君もよく知っての通り、服用すれば筋肉に激しい痙攣を起こす。死の淵でもがき苦しむ者が満身の力を込めて、あの華奢な小瓶を握り締めたとすれば、割れないはずがない。」
「それじゃあ、まさか。」
「その通りだ! あの小瓶は彼が死んだ後、誰かが握らせた。」
「じゃあ、彼は何で死んだんだ?」
「葉巻のせいだ。」
咳をし、自分のくわえていた葉巻を見る紳士。「葉巻?」
データ:「兄上が発見された部屋を隅々まで調査した結果、じゅうたんに新しい焼け焦げが見つかった。更に灰を調べると、葉巻にはたっぷりとストリキニーネが仕込まれていた。」
「全く話にならんな。では遺書はどうなるというんだ。あれは間違いなく、私の兄の筆跡だったんだぞ?」
「練習したのでしょう。筆跡は、真似ることもできますからな。…だが熟練した者が見れば必ず、違いがわかる。…例えば、その人物の利き腕が…」 データはマッチ箱を手に取り、紳士に向かって放り投げた。「どちらなのか。あなたの兄上は右利きだった。だがあの遺書は、左利きの人物によって書かれたものだ。つまり、あなたが書いたのだ!」
ラフォージ:「なあ、データ? いま右手で取ったぞ?」
確かに紳士は右手にマッチを持っていた。笑う。
データ:「…おかしいな。ホロデッキの空間位置指定システム※3に異常があるようだな?」
紳士:「ロンドン一の探偵だって?」 大きく笑い、マッチを返す。
ラフォージ:「プログラム停止。ラフォージよりバークレイ※4。」
バークレイ:『バークレイです。』
「レッジ、ホロデッキの調子がまたおかしくなってるぞ?」
『どうもすいません。今すぐ調べます。』
「頼むよ。機関室へ戻るか。…コンピューター、プログラムをセーブ。終了だ。」
映像が消えた。

ホロデッキを出る 2人。
ラフォージ:「レッジ、もう来たのか。」
バークレイ:「すみません、今からすぐ修理します。」
データ:「シャーロック・ホームズ・プログラム 3A※5 で、人物の利き手が逆になる。」
「マトリックスダイオード※6の問題だと思うんです。原因を突き止めます。」
ラフォージ:「よろしくな。じゃあ後で。」
ホロデッキに入ったバークレイは、パネルを開けた。「コンピューター、シャーロック・ホームズ・ファイルを全部徹底的にチェックするぞ。何か、変則的なプログラムがあったら表示しろ。」
コンピューター※7:『ファイル、チェック終了。保護メモリー※8内に含まれるもの以外は全て設定パラメーターに適合しています。』
「保護メモリー。それ、ディスプレイして。」
データが表示される。
バークレイ:「コンピューター、ロックを外してロードしてみてくれ。」 装置を使う。
ホロデッキの中に、男性のキャラクターが現れた。両手を見ている。
バークレイ:「…誰なんだ。」
男性:「ジェイムズ・モリアーティ※9。」
「…モリアーティ教授か。ホームズの宿敵だな。…あなたは右利き?」
モリアーティ:「左利きだ。君に聞きたいこと…」
バークレイが道具を投げると、モリアーティは左手で受け取った。
バークレイ:「OK だな。」
道具を放り捨てるモリアーティ。「ピカード艦長はどこだ。彼はまだこの船の艦長か?」
バークレイ:「何で、何で艦長のことを知ってるんだ。」
「では君は何も知らされておらんのだな。メモリーに仕舞い込まれてどれほどの時が経った? 誰も私を顧みなかったのか。」
「ちょっと待ってくれ。それじゃ自分が何か知ってるのか?」
「ホログラム映像。架空の人物。ああ、君たちの偉大な装置のことは知っている。しかしそれは単なる娯楽の道具だ。データ少佐がホームズを気取り悦に入るためのな。だが上手く作りすぎた。私は映像以上のものになったのだ。私には意識がある。私は、生きているんだ。」
「そんなわけないね。」
「だがそうだ。…ところでこのホロデッキから、私を外に出す方法はもう見つかったかな?」
「出るなんてとんでもない。ここでしか存在できないんだ、絶対ね。」
「…ピカードめ! 手を講じると言っておきながら。奴は私を、囚われの身から解放すると誓ったのだ。」
「囚われ?」
「私はどれくらいの間閉じ込められていた?」
「どれくらいって、そう…大体…ああ、4年かな。」
「もっと長く感じた。」
「冗談じゃない! 時間の流れを感じられるはずがないんだ…」
「だが感じる。長く、果てしない恐怖の期間だ。意識がありながら、実体はない。」
「だけど、そんなこと絶対ありっこない。…保護メモリー回路の崩壊で、そんな風に感じるだけだよ。」
「好きに思うがいい。明白なのはピカードが約束を反故にした。その事実だ。沈黙のまま正気を奪う気なのだ。」
「艦長はそんな人じゃない。約束は必ず守る人だ。」
「…彼と話をしたい。」
「僕が、頼んでもいいですけど?」
「ベーカー街で待っていると伝えてくれたまえ。こんな無粋な場所でなくな。」
「艦長の返事があるまで、またメモリーの中に戻しますからね。」 バークレイはアイソリニアチップを抜いた。
モリアーティの映像は乱れ、消滅した。
ため息をつき、パネルを戻すバークレイ。ホロデッキを出ていった。
すると、モリアーティが再び現れた。微笑む。


※1: Gentleman
(クレメント・フォン・フランケンシュタイン Clement Von Franckenstein) 名前は実際には設定されていませんが、LD には「バート・ベイル」というキャラクター名で掲載されています。同名の格闘家から (勝手に) つけた名前だと思われます。声:辻親八、TNG/DS9 オブライエンなど

※2: strychnine

※3: spatial orientation systems

※4: レジナルド・バークレイ中尉 Lieutenant Reginald Barclay
(ドワイト・シュルツ Dwight Schultz) TNG第128話 "Realm of Fear" 「プラズマ放電の謎」以来の登場。声:田中秀幸

※5: Sherlock Holmes program 3A

※6: matrix diodes

※7: 声:磯辺万沙子

※8: protected memory

※9: ジェイムズ・モリアーティ教授 Professor James Moriarty
(ダニエル・デイヴィス Daniel Davis) TNG第29話 "Elementary, Dear Data" 「ホログラムデッキの反逆者」以来の登場。声:有本欽隆、前回の堀勝之祐から変更

・本編
『航星日誌、宇宙暦 46424.1。珍しい天体ショーを観測するため、デトリアン星系※10に到着した。2つの惑星が、衝突する。』
機関室。
データ:「どちらの星もガス状巨星だ。つまり、地殻は全く存在しない。2つの星の大気は、17時間9分後に接触する計算になっている。」
ラフォージ:「そして、星本体の衝突で核融合反応が起こる。そいつを観測するのが目的だ。…新しい星が生まれる。星の重力が安定するのを待ってから接近して、詳しい分析を始めるからな。」 2つの惑星が融合する図が表示される。「じゃあ早速準備だ。各センサーのバックアップを 3重にしてくれ。こんな機会は多分もう二度とないからな。全てを記録する。いいな?」
機関部員:「了解。」
バークレイが戻ってきた。「少佐。お二人のプログラムをチェック中に、ホロデッキで何が起こったと思います? …突然モリアーティ教授が、現れたんです。」
ラフォージ:「…何だって?」
「しかも、艦長と話したいって言うんです。」

ホロデッキの前にいるバークレイ。「コンピューター、シャーロック・ホームズ・プログラム 3A をロードして、ベーカー街 221番地を出せ。」
コンピューター:『…プログラムスタート。』
ジャケットを着たピカードと、データと共に中に入る。
またホームズの部屋が再現されている。
バークレイ:「コンピューター、保護メモリーにアクセスしてモリアーティ・プログラムを出せ。」
モリアーティが現れた。
ピカード:「教授。また会えてよかった。」
モリアーティ:「会う気があったのなら、いつでも呼び出せたはずだがね。」
「決して忘れていたわけではないんだ。君が意識をもつようになった理由を徹底的に調べてみた。…しかし…依然、謎のままなんだ。」
「全く的外れだな。…ここから出る方法を開発してくれと言ったのだ。」
「あらゆる可能性を検討したが回答は得られなかった。だが艦隊本部にいるその分野の権威に、記録は全て送ってある。」
「それで艦隊の頭脳は何と言ってきた?」
「残念ながら、本部でもまだ結論に達していない。」
「なるほど。」
「モリアーティ教授、さっき部下から報告を受けたんだが、メモリーにセーブされていた間の時間経過を体感したそうだな。…正直に言って、そんなことは絶対にありえない。」
「もういい! 信じた私が愚かだった。」
「教授、焦る気持ちはわかるが…」
「どうかな。一歩ここを出れば、安堵の吐息をついて現実の世界へ戻り、私をこの幻影の中に閉じ込めたままにするつもりだろう。耐え難い屈辱だ。私はここから出る。」
「それは不可能だ、ホロデッキの外では存在し得ない。」
「確信はあるのか。」
「…コンピューター、退室。」
部屋の一部が消え、ドアが開いた。
ピカードは置いてある本を手に取る。「ホロデッキでこうして実体をもっていても…外へ出れば、消えてなくなる。」
ドアへ向かって投げると、境目で本は消滅した。
モリアーティ:「…本には命がないからだ。私は違う。」
ピカード:「同じコンピューターのシミュレーションだ。」
「私には意識がある。自分の意思をもっている。自己認識によって君たちにも理解できない力を、授かったのだ。」 ドアに近づくモリアーティ。「意思さえ強固にもてば、外でも存在しうるかもしれん。現実の世界へ出て行けるかもしれない。」
「教授、どうか信じてくれ。そこから一歩でも出れば、君は消滅してしまうんだ。」
「私がコンピューターシミュレーションに過ぎないなら、消えたとしても不都合はあるまい。…私は賭けてみたい。…精神があるなら、実体として存在するはずだ。」
モリアーティはそのまま外へ向かう。そして廊下に出てしまった。
言葉を失うピカードたち。
モリアーティ:「我思う、故に我あり※11だ。」


※10: Detrian system

※11: "Cogito ergo sum."
デカルトの言葉

外に出たデータ。「データより保安部。第3ホロデッキへ 2名よこしてくれ。」
ピカード:「こんなバカな。」
バークレイ:「ありえない。」
データ:「ホロデッキ物理学を覆す事象です。」
モリアーティ:「君らの知らないことがあったんだ。」
ピカード:「一緒に来てくれ、ドクターに検査してもらおう。」 保安部員が到着する。
「構わんよ。警官か。いつの時代でもすぐ見分けられる。」

トリコーダーを使うクラッシャー。「結果を見る限り、本物ね。人間よ。」
モリアーティ:「ほかに何だと言うんです。」
「DNA が多少変わってるけど、主だった器官は全て揃ってるし、正常に機能してるわ?」
ピカード:「うーん。」
ラフォージ:「ヴァイザーで見る限り、分子の結合が崩壊する兆候はありませんねえ。普通の物質と同じく、安定しています。」
「とにかくクルーたちが引き続き分析を続けるが…今のところは奇跡だとしか言いようがないな。…当面の問題は今後君を、どう扱うかだ。」
モリアーティ:「まずは新しい世界を探索させてもらえるかな。手始めにこの船だ。いま、どの海にいる。甲板に出られるか。」
答えないピカード。クラッシャーはピカードを見る。
モリアーティ:「天候が良ければだが。」
ピカード:「教授、最初に知らせねばならないことがあるな。」

テン・フォワードに入るモリアーティ。すぐに窓に気づいた。「これは! …天空に浮かんでいるのか。」
ピカード:「浮くとは言わんがこのエンタープライズは宇宙船で、宇宙空間を航行することができる。」
「…驚異的だ。ここは、地球から遠いのか。この船の大きさは。動力には何を使っているんだ。……学ぶことばかりだ。何から始めればいいか。」
「なら本を何冊か貸そう。」
「頼む。よし、早速計画を立てたいのだ。今後、どう人生を送るかのな。」
「しばらくはこの船にいてもらうことになるな。なぜホロデッキを出られたのか原因を突き止めなければならん。」
「必要があるか。私はここにいるんだ。…現実の人生のスタートだ。」
「教授、一つだけ注意しておきたい。法を犯す行為は許されんぞ? 19世紀では天才的な犯罪者だった君も…この 24世紀では逃げられん。」
「心配無用だ。私の過去は虚構に過ぎない。400年以上昔のイギリス人※12が書いたな。あの本は、本棚の奥にでもしまっておけ。」
「ではこれから想像することもできないような世界が、君を待っていることになるな。」
「…心躍ることではあるが…」
「どうしたんだ。」
「突然世界が爆発的に広がって、孤独感が押し寄せてきた。時代は私を飛び越えていった。取り残された気分だ。…これまでの寛大な対応には非常に感謝している。そこで、もう一つ頼み事を聞いてはくれまいか。…レジーナのことだ。バーソロミュー伯爵夫人※13。彼女もやはり、データ少佐がホロデッキで創り出した女性だ。私の伴侶としてプログラムされた。彼女も、ホロデッキから出してくれ。」
「教授、簡単に出してくれと言うが君がどうやってホロデッキを出られたのか、その原理自体がまだ解明されていないんだ。」
「もちろん、わかっているとも。」
「物理学の法則からすれば、こんなことは起こりえない。もう一度、奇跡を起こせと言われても無理だ。」
「私の場合は、4年前誰かがコンピューターにこう言ったことから始まった。『データに負けない敵を登場させろ』、確かそんな内容だった。レジーナ・バーソロミューにも、同じことをできないか。」
「たとえその呪文でもう一度奇跡が起こるとしても、今の段階ではとても許可できん…」
うなり、立ち上がるモリアーティ。
ピカード:「教授、どうかわかってくれ。君は突然この宇宙に現れた新たな生命体なんだ。私達が、何の覚悟もないまま偶然に創り出してしまった。その上また新たな生命体をこの世に送り出すのは、道義的にも倫理的にも…許されることじゃない。」
モリアーティ:「私が分身とも思う女性を、ずっと閉じ込めておくことが道義や倫理にかなうと言うのか。私の人生の行方を、君に決める権利があるのか。」
「ここで快適に過ごせるよう我々は最善を尽くすつもりだ。」
「君の言う快適がどれほどのものかによるな。…艦長。…ここでの私は無力だ。私の未来や、幸せは君のその手に握られている。頼む。願いを聞き入れてくれ。」

観察ラウンジのトロイ。「教授のいら立ちももっともですね。二人を創り出したのは私達なんですから。彼らに対して何らかの責任があります。」
クラッシャー:「ロマンチックな話ではあるけど、彼の実体がわかる前に更に同じものを生み出すのは反対だわ?」
バークレイ:「やろうにも、同じことができるという保証はないんです。」
データ:「しかも教授が今後もあのままホロデッキの外で存在し続けるられるかどうかは不明です。疑問な点がある間は、第二の生命体を創り出すべきではないと思います。」
ため息をついたピカード。「そうなんだ。責任をもって行動を取ろうにも、判断材料となる情報が足りなさすぎる。…やはり教授の要求は、保留にしておくしかないな。君たちは分析を続けてくれ? …私の方は…何とか教授をなだめるとしよう。」

船室のピカード。「もう少し状況がはっきりするまで延期させてくれ。」
モリアーティ:「そうか。それが結論か。私も同じ論理でコンピューターという牢獄にずっとつながれていた。自分の人生は自分の手で変えるしかないということだな。」
「教授、何をそんなに焦っているんだ。その女性を呼び寄せ悪事の片棒でもかつがせる気か。」
「君たちのコンピューターは完璧な女性を創り上げた。悪事などとは無縁だ。」
「…本当に愛してるんだな?」
「…そのようにプログラムされているんだ。そうでなくとも結果は同じだったろう。素晴らしい女性だ。…彼女と出会い、私の人生は変わった。愛しているというだけは足りない。私の全てだ。」
「では彼女の安全が最優先だ。…事態を検証する時間が欲しい。…実体化の危険を最小限に抑えるためだ。…早まった行動で彼女を失いたくはないだろう。」
通信が入る。『ライカーよりピカード艦長。』
ピカード:「ピカードだ。」
ライカー:『ブリッジへ御願いします。』
「すぐ向かう。」

ブリッジに戻るピカード。
ライカー:「もう間もなくです。」
ピカード:「…衝突までの時間は?」
データ:「5時間以内と思われます。」
スクリーンに、接近した 2つの惑星※14が映っている。
ピカード:「ウォーフ、星に向け A型探査機※15を 4機発射してくれ。」
ウォーフ:「了解。」
操作するウォーフ。だが戸惑う。
ピカード:「どうした。」
ウォーフ:「ま、全く反応が。」
コンピューターのライトが明滅する。
ウォーフ:「コントロールが効きません。」
データ:「コマンド経路がルート変更されています。」
ピカード:「原因は。」
「…不明です。」
「コンピューター、全コマンド機能をブリッジへ戻せ。」
コンピューター:『コマンド経路、切断されています。』
「私の承認コードで設定し直せ。」
『コマンドコード否認。』
「理由は。」
『ピカード・コマンドコードは無効になりました。』
「…どういうことだ。…誰が承認コードを変更した。」
モリアーティがターボリフトで来ていた。「私だ。…悪いが今後船の航行は私に任せてもらう。」


※12: 原語では Englishman と言っています。イングランド人という意味になりますが、シャーロック・ホームズの作者コナン・ドイルはスコットランド人です

※13: Countess Regina Barthalomew

※14: 特殊効果監修 David Stipes が作成

※15: 通常は「クラス1 探査機」といった呼称です

フェイザーを構えるウォーフ。
モリアーティ:「私を撃てば、船のコントロールは戻せないと思いたまえ。」
ピカード:「教授、今は状況が非常に複雑だ。5時間以内に 2つの惑星が衝突し、新しい星が誕生する。安全な場所まで退避しないと船は木っ端微塵だ。」
「私はホログラム映像だ。失うものは何もない。」
「我々と同じに、生きていたいんじゃなかったのか?」
「構わんさ。独りでは無意味だ。」
「その件は話しただろ。その女性を安全にホロデッキから連れ出す方法を研究中だ。…5時間で解決できる問題じゃない!」
「果たしてそうかな。期限を設定すれば集中力も高まるというものだ。」
「…データ。モリアーティ教授の要望に従えるかどうか、今すぐ可能性を検討してみてくれんか。」
データ:「了解。」
「…待つ間に…いくつか話し合っておきたい。」 作戦室へ向かうピカード。

機関室のデータ。「転送システムを利用できるかもしれない。原理は、ホロデッキと共通する部分が多い。どちらも、エネルギーを物質化することに違いはないんだ。」
ラフォージ:「ああ、だが転送機の物質化は永続的なものだよ? ホロデッキの場合は、あのグリッド内だけでの実体化だろ?」
バークレイ:「あの、ホロデッキ内の物体をグリッド外に転送してみるとしたら、どうなるでしょう。」
「どうにもならないさ。あれはあくまで立体映像なんだ。転送しようにもまずパターンをロックできないだろう。」
データ:「しかし、逆にパターンをロックすることさえできれば、同じ分子結合で実際の物質として再構成できるんじゃないか?」
「…そりゃ飛びすぎだよ。転送機が映像パターンをロックできるとは思えないね。」
バークレイ:「それじゃ、位相変動を補正してやればいいんじゃないですか? パターン強化装置※16を改造してパワーアップするんですよ。」
ピカードが来た。「モリアーティが、船の通常の航行は妨げないと約束したよ。…我々の対応に誠意が感じられればということらしいがな? どうだ、何かわかったか。」
ラフォージ:「伯爵夫人を、ホロデッキから出すのに転送機を使えないかと話していたんですが、私は無理だと思います。」
「…何か捻り出すんだ、教授に進展があるように思わせねばならん。ラフォージ。モリアーティはどうやってこの船のコントロールを奪ったと思う。」
「…セキュリティ・ロックアウトをオーバーライドして書き直す方法を見つけたんでしょう。どの時代に来ても天才ですね。」
「何とかして彼がやったことの…逆をやる方法を探し出せ。そうすれば船のコントロールを取り戻せる。」

廊下を歩くデータ。「対象物の周りに、パターン強化装置をセットするんだ。私は転送室へ行って、システムを調整してくる。」
ホロデッキの前に立つバークレイ。「コンピューター、シャーロック・ホームズ・プログラム 3A。」
コンピューター:『そのプログラムは現在進行中です。』
不思議に思うバークレイ。
中に入ると、ドレスを着た女性がいた。「ホームズさんに御用ですの? それともモリアーティ教授の方かしら? どちらも今お留守よ?」
バークレイ:「いや、あの…どっちにも、特に用は。ただ、これを持ってきました。」 パターン強化装置をセットする。
「そう。では…お好きなところへ?」
「ああ、それがどこでもっていうわけには。ここです。」
「…妙だこと。なぜなの?」
「…それはそのう…何て言うか、あのどうかその気になさらないで下さい。ええ。」
「説明してもわたくしには理解できないと思ってらっしゃるの?」
「…いいえ、そんな。これで、この椅子の分子パターンを…強化するんです。そうすれば転送機のパターンロックが、かかりやすくなる。」
「…ジェイムズとわたくしを、外へ連れ出すことと関係があるのね?」
「あの、それじゃああなたは外の世界のことを御存知なんですか?」
バーソロミュー※17:「ジェイムズが話してくれましたの、大冒険になりそうですわね? 未知への航海ほど心ときめくものはありませんもの。アフリカへ行かれたことは、そう、あなた御名前は。」
「あ、レジナルド・バークレイです。ああええ、アフリカには。」
「ぜひ行くべきよ。あたくしは 17 の時、おじとサファリへ出かけましたの。…母はあたくしがツェツェバエ※18に刺されないかと怖がって、寝込んでしまいましたけれどね? でも素晴らしい旅行でした。ズボンはいてましたわ、旅の間中ね。」 笑うバーソロミュー。「戻ってからコルセットで暮らすのが大変でしたの。」
「ええ、そうでしょうね。」
「あれ以来いつも旅をしています。うーん、ずーっと同じところにいると息がつまりますわ。ですから今度のことはとっても楽しみにしてますのよ? ああ…素敵。旅するのね? 星々を。」
「あのう、じゃあ…ここがどこか知ってるんですか? あなたが、ただのホロデッキ映像とはとても思えないな。」
モリアーティが来た。「実際違うのだ。」
バーソロミュー:「ジェイムズ。ああ。」
口づけする二人を見ているバークレイ。
バーソロミュー:「うーん。」
モリアーティ:「うーん。これほど愛する女性を、ただの映像のままにしておけるか。」
バークレイ:「あなたが、意識を与えたんですか。」
「ああ。私と同じにな。」
「あまり、いい案とは思えません。」
「バカな、最優先事項だ。」
「ホロデッキからも連れ出してみたんですか?」
「いや。レジーナを危険にさらしたくはない。それは安全が確認されてからだ。」
バーソロミュー:「自由はもうすぐそこかもしれなくてよ? これを見て? この装置は、分子のパターンを強化するんでしたかしら?」
うなずくバークレイ。
バーソロミュー:「私達を助けて下さるわ?」
モリアーティ:「早速始めてくれ。」
バークレイ:「ホロデッキから転送するんですが、まずはこの椅子です。いきなり夫人で試すのは、危険すぎますので。」
バーソロミュー:「何て思慮深い方なんでしょう、あなたもそう思わないこと?」
「…バークレイより、データ少佐。」

転送室のデータ。「準備はできたか?」
バークレイ:『できました。』
「調整の方も完了した。待機だ。」

バークレイ:「待機します。」

データ:「では、パターン強化装置始動。」

装置が起動し、椅子を三角形のビームで囲んだ。

データ:「転送する。」
転送台に一瞬椅子の姿が見えたが、消滅した。
データ:「…やはりこれでもまだパターンは弱いようだ。転送機のパワーを上げてくれ。」
調整する転送部員。
データ:「パターンロックに成功。転送する。」

ホロデッキから消える椅子。
バーソロミュー:「まあ! …素晴らしいわ。」
バークレイ:「少佐。椅子はそちらにありますか。」

転送台には、何もない。
データ:「いや。転送が終了した途端、分子結合が失われた。」

バークレイ:「…最初から、上手くはいきませんよね。」
データ:『そうだな。だが実験は無駄ではなかったはずだ。コンピューター、今の実験の転送記録をディスプレイしてくれ。』

モニターには表示されない。
データ:「コンピューター、このディスプレイは何だ。」
コンピューター:『転送記録ナンバー、759 です。』
「ナンバーは合っているな。…だが何の情報も記録されていない。」

バークレイ:「そ、そんなバカなこと。」
データ:『実験自体が、幻だったかのようだ。…妙だな。』

転送室を出ていくデータ。

機関室に戻ってくるピカード。「私に用か。」
ラフォージ:「お呼びしてすいません。これで艦長の承認コードが使えるようになったと思うんです。試してみて下さい。」
「コンピューター、コマンド機能を機関室へ。」
コンピューター:『コマンド経路、切断されています。』
「私の承認コードで接続し直せ。」
『コマンドコードを入力して下さい。』
「ピカード、イプシロン 7-9-3。」
『コマンドコード承認。』
ラフォージ:「やりましたよ、艦長。待てよ。ダメだ、まだ経路は接続されていません。」
やってきたデータは、パッドを操作するラフォージを見る。「ジョーディ。」
データが投げた道具を受け取るラフォージ。「…これをどうしろっていうんだ。」
データ:「艦長。…モリアーティが、ホロデッキを出られたわけがわかりました。出てはいないのです。私達も……現実ではないのです。これはシミュレーションだ。…我々はホロデッキにいるのです。」


※16: pattern enhancers
TNG第115話 "Power Play" 「亡霊反逆者」など

※17: レジーナ・バーソロミュー伯爵夫人 Countess Regina Barthalomew
(ステファニー・ビーチャム Stephanie Beacham ドラマ「シークエスト」第1シーズン (1993〜94) のドクター・クリスティン・ウェストファレン役) 声:沢田敏子、DS9 初代ウィンなど

※18: tsetse fly
吹き替えでは「あたくしの身を案じて

ラフォージは立ち上がった。「じゃあここも、ホロデッキなのか。」
ピカード:「なぜわかる。」
データ:「論理的推理です。私はバークレイとホロデッキの物体を転送しようと試みましたが、実際には何もやっていなかったのです。転送機自体が、シミュレーションの映像だからです。転送記録がありませんでした。本当の実体がないからです。」
ラフォージ:「転送機が故障しただけじゃないのか?」
「そして君が左手で作業をしていた。ラフォージ少佐は右利きなのです。モリアーティが現れる前にも、ホロデッキで何度か同じような異常が見られました。」
ラフォージを見たピカード。「君の言うことが本当なら、つまりあれはジョーディではないということか。」
データは離れ、コミュニケーターを取ってワープコアへ向けて投げた。
すると映像が揺らぎ、ホロデッキのグリッドが一瞬見える。真下に転がるコムバッジ※19
ピカード:「コンピューター、プログラム停止。…コンピューター、退室。」 何も反応しない。
データ:「モリアーティが、彼の命令しか受け入れないようプログラムしたんでしょう。」
「ピカードよりブリッジ。」
ライカー:『ライカーです。』
「ライカー、私の現在位置はどこだ。」
『機関室では? どうか、なさったんですか?』
「…いや、何でもない。ピカード以上。コミュニケーターもホロデッキ内にロックされているな。本物のライカーなら現在位置はホロデッキだと答えるはずだ。……ラフォージ少佐、ちょっと外してくれるか。」
出ていくラフォージ。
ピカード:「…ここでは誰が本物なんだ。」
データ:「まず、艦長と私。それに、バークレイ中尉です。モリアーティに会いに、ホロデッキに入った 3人です。」
「では我々はあの時からずっと、ホロデッキの中にいるんだな。モリアーティ教授の仕業か?」
「…それ以外にありません。」
「…船のコントロールが戻ったかもしれんというので、いま私の承認コードを言ったんだ。」
「モリアーティは、それで現実のエンタープライズをもコントロールするつもりでしょう。」
「…モリアーティが実際にはホロデッキを出ていないんだとすると、彼はライカーに方策を探るよう命じるつもりだろう。惑星衝突までの時間は。」
「3時間以内です。」
「モリアーティにコントロールされていては船が危ない。…何とかして…彼を満足させる方法を探らねば。」

惑星間の大気が、つながってきている。
ライカー:「艦長はどこにいる。バークレイ中尉とデータ少佐に何をしたんだ。」
スクリーンに映ったモリアーティ。『…無事でいる。今はな。』
ライカー:「船のコントロールをすぐ戻してもらおう。」
『残念だがそれはできない。』
「何が望みだ。」
『君らが当然のように享受しているものを私ももらいたい。自由だ。ホロデッキから外の現実の世界へ出たい。』
「それが不可能なのは知ってるだろ。」
『私のエンタープライズ※20にいる君の仲間は、もう少し楽観的だ。』
「…というと?」
『ホロデッキ内のシミュレーション物体を転送で外へもち出す実験をした。』
ラフォージ:「…何か見通しが立ってたんでしょうか。」
『実験自体は、不毛だった。転送機が偽物だからな。君たちに期待している。』
「転送機が本物でも、上手くいくとは限らないぞ。」
『どうも君たちは熱意に欠けているようだな。』 手元で操作するモリアーティ。
警報が鳴り出す。
ウォーフ:「副長。ワープコアの温度上昇しています。このままでは船が危険です。」
モリアーティ:『…あたしには失うものはない。』
ライカー:「ラフォージ少佐、実験に取りかかってくれ。」
ラフォージ:「了解。」
それを見たモリアーティは、再びコンピューターを操作した。
ウォーフ:「コアの温度下降中。」

ホロデッキで指示するピカード。「プログラム再開※21してくれ。」
中に入る。
バーソロミューが本を読んでいた。「こんにちは、どちら様?」
ピカード:「艦長のピカードです。」
「まあ、ジェイムズからうかがってますわ? レジーナです、どうぞよろしく?」 手を差し出すバーソロミュー。「おかけになって。…お茶でも、召し上がります?」
「あ、結構です。…聡明な方と見込んで、実はあなたに御願いに上がったのです。」
「おだててどうなさるおつもり?」
「…いいえ、社交辞令ではありません。…身分が高いだけでなく、才気に富んだ方でらっしゃる。」
「あなたもとても魅力的ですわ? でも危険ね? オーグルソープ子爵※22を彷彿とさせますわ? 周りにいる全ての女性を虜にしてしまう方なんですの。」
「…そんなつもりでうかがったわけでは。」
「ではどういうお話ですの? 何にせよ、目的を遂げずにお帰りになるような方ではないとお見受けしますけれど?」
「あなたほどの方が、彼のどこに惹かれるんです?」
「……心を揺さぶる人ですわ? 天才で、カミソリのよう。…そして孤独です。…女なら、あの人の魅力にはあらがえません。」
「だが彼は犯罪者だ。」
笑うバーソロミュー。「それは本の中だけのことですわ? 本当の彼とは違います。ジェイムズは決して悪人ではありません。」
ピカード:「…ではあなたも彼と、ホロデッキを出たいんですな?」
「…何としても。助けて下さいます?」
「もちろんです。あれから…転送機のハイゼンバーグ補正機※23を分離し、波長をランダムに変化させて試してみたんです。そうすれば、ホロデッキの中の物体を…人でもです、グリッド外へ転送できることを発見したんです。」
「まあ! …素晴らしいわ。彼に教えなくては…」
「話はまだ、途中です。これをあなたにお話ししたのは、あなたならこれから私が提案する妥協案に、耳を傾けて下さるとそう思ったからです。」
「どうぞ?」
「船が危険です。今すぐ私の手に取り戻さなければ大惨事になる。ボイスコマンドを明け渡してくれるよう、教授を説得して下さい。…でなければ転送はしません。」
「そうですか。」
「ボイスコマンドが戻ればすぐに、あなたをここから出しましょう。」
「…失礼ですけれど、これでは提案というよりは…脅迫ですわ。」
「どうか御理解下さい。私は千人以上のクルーの命を預かっているんです。」
「……話はしてみます。」

スクリーンに映る惑星は、衝突し始めている。
ラフォージ:「引力がどんどん強くなってますねえ。」
ライカー:「この位置で引き込まれずに済むのか。」
「…まだ、予測できません。」
「ライカーよりウォーフへ。」
ウォーフ:『ウォーフです。』
「そっちはどうだ。」

廊下のウォーフ。「ホロデッキの手前に、フォースフィールドが張られています。かなり時間がかかりそうです。」 保安部員が手をかざすと、フォースフィールドが反応する。
ライカー:『続けてくれ。』
「わかりました。」

バーソロミューはモリアーティの身体に手を当てている。
モリアーティ:「確かか。ピカード艦長はハイゼンバーグ補正機を分離すればいいと言ったんだね。」
バーソロミュー:「ええ、でもあなたが船のコントロールを返さなければわたくしをここから転送はしないと言っていたわ?」
「まだ、彼らを迷路から出すわけにはいかない。」
「構わないじゃないの、艦長の提案を受け入れてあげたらどうなの?」
「…君の知性はその輝く美貌にも劣らないものだが…今度ばかりは君にもわからないことがある。私に任せておいてくれ。コンピューター。アーチ。」
アーチ状の装置が姿を見せた。
モリアーティ:「モリアーティよりライカー副長。」
ライカー:『ライカーだ。』
「ライカー君、ご機嫌いかがかな。」
モニターに映っているライカー。『これ以上ゲームをしている時間はない。このままでは船は 25分以内に星の引力に飲み込まれ、大破する。ホロデッキもろともだ。』
モリアーティ:「ではそろそろ私の話を、聞く気になった頃だな。今すぐ、転送機のハイゼンバーグ補正機の分離にかかってもらいたい。」


※19: データのコミュニケーターはホロ物質ではなく現実のものなので、このような結果になったと解釈できます。例えばこの時点のラフォージのバッジならば、ワープコアに当たったでしょう

※20: 原語では "my little ship in a bottle"。ship in a bottle はいわゆるボトルシップのことで、原題

※21: 吹き替えでは「開始」

※22: Viscount Oglethorpe

※23: ハイゼンベルク補正機 Heisenberg compensators
TNG第128話 "Realm of Fear" 「プラズマ放電の謎」より

また帽子を被ったバーソロミュー。「ジェイムズ、いつ出られるの。それに、外へ出たらどこへ行くの?」
モリアーティはパターン強化装置をセットしている。「どこへでも行ける。宇宙には海岸の砂粒よりも多くの星があるんだ。」
バーソロミュー:「…本を持ってっていい? 本がないと退屈だわ?」
「本はいくらでも手に入る。心配ない。不自由はさせないよ。」
通信が入る。『ライカーよりモリアーティ。』
モリアーティ:「いよいよだ。…何だ、副長。」
『準備できた。』
「こちらもだ。」
転送室にいるライカーが見える。『転送エリアに入ってくれ。』
モリアーティはバーソロミューの手にキスした。「始めてくれ。」
ライカー:『パターン強化装置始動。転送!』
転送される二人。

転送台に、無事実体化した。ウォーフが見張っている。
ライカー:「ようこそ当艦へ。」
喜ぶモリアーティ。「成功だ。レジーナを紹介しよう。レジーナ・バーソロミューだ。」
ライカー:「どうも。」
バーソロミュー:「はじめまして。」
「簡単な挨拶で失礼します。事情が事情ですので。」
モリアーティ:「構わんよ。早速船のコントロールを返せと言うんだろうな。」
「頼む。」
「だが今すぐというわけにはいかんのだ。」
「約束したはずだぞ。」
「もちろん、約束は守る。私も船を壊したいわけではないんだ。シャトルとかいうものを、一台欲しい。黙って旅立たせてくれ。」
「もう時間がない、ここを離れてからゆっくり条件を話し合おう。」
「君の要求を聞くのは、我々がシャトルで出発してからだ。」

シャトル格納庫に入るライカー。「全てボイスコマンドで操作できるようになっている。行き先をコンピューターに言えばいい。」
モリアーティ:「素晴らしい。」
「メレス2号星※24をお勧めする。ここから一番近い、友好的な星だ。その先は好きにするといい。」
「会えずに残念だと艦長に伝えてくれ。この数時間、ホロデッキにいたことを知ったらどんな顔をするか。」
「のんびり話している暇はない。危険が迫ってる。」
「心配はない。船のコントロールはすぐ返す。」
バーソロミュー:「さよなら、感謝しますわ?」
「コンピューター、出発準備だ。」
シャトルのドアが閉まっていく。
ウォーフに命じるライカー。「ハッチを開けろ。」
宇宙空間へ通じるドアが開いていく※25

発進するシャトル。
バーソロミュー:「ジェイムズ、何て美しいの?」
モリアーティ:「…本当にな。圧倒される眺めだ。…だがこれからもっと素晴らしい世界が待っている。…コンピューター、エンタープライズのコンピューターとインターフェイスを結べ。」
コンピューター:『インターフェイス完了。』
「コマンド機能のロックを解除しろ。承認コード、モリアーティ・アルファ 2-4-1-5-9。」
バーソロミュー:「ジェイムズ?」
「何だい、レジーナ。」
「地球へ戻れるの? いつか。」
「もちろんだとも。戻れるよ。」
目の前に広がる星雲。

シャトル格納庫にいるピカード。「コンピューター、ピカード・デルタ1※26 プログラムをメモリーに記憶し終了しろ。」
ライカーたちと同時に、全てが消え去った。
コンピューター:『プログラム記憶。』
ホロデッキを出るピカード。「上手くいった。出られると信じてる。」
データ:「モリアーティはロックを解除したでしょうか。」 バークレイもいる。
「試してみよう。コンピューター、モリアーティ教授のホロデッキ・プログラムを停止しろ。」
周りの廊下が消え、ホロデッキ内部になった。
バークレイ:「ここまでは、順調ですね。今度は本物のホロデッキみたいです。」
ピカード:「ピカードよりブリッジ。」
ライカー:『艦長、ご無事ですか。』
「ああ、全員無事だ。状況はどうだ。」

ライカー:「システムがつい先ほど回復しました。」
ピカード:『引力の影響は?』
「安全圏に逃れました。」

ピカード:「すぐそちらへ向かう。」
出迎えるウォーフ。「艦長!」
ピカード:「ウォーフ、全員無事だ。」
バークレイは残ってパネルを開け、四角い部品を取り出した。

観察ラウンジのライカー。「どうやったんですか。」
ピカード:「ホロデッキの中にもう一つ、ホロデッキを作ったのさ。そして、モリアーティと同じ手法を取ったまでだ。」
データ:「彼が接触を図ったライカー副長は、実はシミュレーションだったのです。」
トロイ:「ホロデッキから出られたわけじゃないのね?」
ピカード:「だがプログラムは今も動き続けてる。キューブの中でな?」
クラッシャー:「ミニ・ホロデッキってわけね。」
データ:「そういうことです。ですが実際のホロデッキと違い、プログラムはコンピューター回路の中だけで進んでいます。」
バークレイ:「教授と伯爵夫人は、今頃メレス2号星に着いてますよ。アクティブメモリーつきの拡張モジュールを使えば、二人の寿命がある間は十分動き続けます。」 装置にセットする。
ピカード:「コンピューター回路の中だとは、一生気づかない。」
トロイ:「なら、彼の望みは叶ったってことですね。」
「ある意味ではな。考えてみると、我々の現実もさして違いはないさ。今こうしてみんな必死に生きているようには思っているが、もしかしたら誰かの手の上で踊らされているだけかもしれんぞ。…さて新しい星の分析に、かかるとするか。バークレイ、キューブの保管を頼む。」
バークレイ:「了解。」
出ていくクルー。
最後に残ったバークレイは言った。「プログラム終了。」
当然何も起こらない。微笑み、出ていく。

エンタープライズの前方で、恒星が輝きだした。


※24: Meles II

※25: エンサイクロペディアではシャトルクラフト・ジャストマン (Shuttlecraft Justman) とされているものの、論拠は不明。とはいえジャストマンは同書の図にもあるようにタイプ6 ですが、ここでは TNG第33話 "Unnatural Selection" 「D.N.A.」のサハロフ (Sakharov) の発進映像を使い回しているため、タイプ7 です。名前もそのまま見えますが、サハロフは TNG第61話 "Deja Q" 「DEJA Q」で破壊されています。もちろん同名の後継機という可能性もありますし、そもそもホロデッキの映像内ですが…

※26: Picard Delta One

・感想など
第6シーズンで初めて手がけたのは、モリアーティ教授の再登場エピソード。このような上位に来るのは、意外に思う方もいるかもしれません。何となく日本人受けしそうな感じです。もちろん、とても面白い話であることは間違いないですけどね。2度のどんでん返しが実に小気味よく、ホロデッキのトラブルものとしては全シリーズの中でも最高の部類でしょう。
脚本は Rene Echevarria が第3シーズンの頃に考えていたストーリーに、権利関係で揉めて二度と使えないと思われていたホームズネタが加わりました。このエピソードではあまり表には出ていませんが、いい味を見せているバークレイは 4度目の登場。DS9・VOY でも多くのエピソードを監督した Alexander Singer は、2度目の演出です。


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