※ストーリーのネタバレに触れています。
データ
シーズン3 第8話 (通算28話)
“Crisis Point 2: Paradoxus” 「クライシス・ポイント2」
配信日: 2022年10月13日 (米国) 10月14日 (日本)
配信:Amazon Prime Video (吹き替え版) (字幕版)
監督:Michael Mullen
脚本:Ben Rodgers
声優クレジット
原語 | キャラクター | 吹き替え |
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Starring | ||
タウニー・ニューサム | ベケット・マリナー | 小島 幸子 |
ジャック・クエイド | ブラッド・ボイムラー/ウィリアム・ボイムラー | 平野 潤也 |
ノエル・ウェルズ | ドゥヴァナ・テンディ | 種市 桃子 |
ユージン・コルデロ | サム・ラザフォード | 最上 嗣生 |
ドーン・ルイス | キャロル・フリーマン | 磯辺 万沙子 |
ジェリー・オコンネル | ジャック・ランサム | 志村 和幸 |
フレッド・タタショア | シャックス/クジン人少尉 | 後藤 光祐 (シャックス) |
ジリアン・ヴィグマン | タアナ | 橘 U子 |
Special Guest Star | ||
ジョージ・タケイ | ヒカル・スールー (加藤) 大佐 | 坂東 尚樹 |
Guest Cast | ||
メアリー・ホランド | ヘレナ・ギブソン | |
セス・モリス | イラスター | |
レオナルド・ナム | オーストラリア人のチンピラ | |
Ben Rodgers | スティーヴ・スティーヴンズ/ニックナック | |
カール・タート | ケイション | |
アリス・ウェッタールンド | メルポナール三姉妹 | |
その他の吹き替え声優:後藤 ヒロキ、櫻庭 有紗、魚 建、塩田 朋子 |
レビュー
シーズン1の公開時にはかなり驚かせてくれた、「クライシス・ポイント」のお楽しみの続編です。
セリトスの危機に駆けつける、ソヴェリン級の艦長になっているボイムラー。もっとも、今回も映像が横長になっているのであからさまなわけですが。ホログラムの映画の続編を楽しむというストーリー自体が、続編になっています。
ランサムに呼ばれて、戻ってきたボイムラーは明らかにやる気を失っています。自分が作った本筋のロマンスやカーチェイスにも興味を失い、「キティホを探せ」という脇役キャラに興味をもつことに。順応プログラムという設定は面白いですね、ぜひ遊んでみたい。
ストーリーの進め方でボイムラーとケンカしたマリナーは、なんともう一人のボイムラーであるウィリアムが死んでいたことを知ります。それは確かにショック…。ランサムは、さらっとマリナーが改心していることにも触れてましたね。
友達として接するマリナーのおかげで、変なストーリーとは言え映画を進めることにするボイムラー。ずっと付いてきてた仲間のニックナックとのロマンス? もあり、ついにキティホと対面します。それ自体はしょうもない結果だったものの、その後の夢のような世界で出会ったのはカークと思わせといてのヒカル・スールー! レジェンド中のレジェンドの登場です。「突然の死は人生で見つける喜びの裏返し」という、ホログラムでは生み出せない言葉を残しています。
一方ホロ映画の本筋を進めたテンディは、時を越えていろんな時代へ。艦長になりたいという自分の願いに気づき、最後には事件自体の発端を変えるというある種禁じ手で見事解決しました。これまでの描かれ方といい、ますますステップアップの道筋が見えてきてますね。
最後は実は生きてたウィリアムがセクション31に入り、クリフハンガー。ノリにノッてた前回のインパクトに比べるとさすがに劣るかもしれませんが、予想外のゲストも含めて見所満載でした。シーズン残りもわずか2話、期待できそうです。
トリビア
◆ホロデッキの映画のシーンは前回同様に横長になっているほか、映画風に粒子ノイズが入っています。
◆ロミュラン艦は映画「ネメシス/S.T.X」のヴァルドア型。以降、ホロ映画では劇場版のオマージュネタが大量にあります。
◆「2人の自分」以来のセリフありとなるホロ・ケイション、新スタートレック シーズン5「謎のタマリアン星人」より「テンバ!」。
◆U.S.S.ウェイフェラー NCC-80035 はソヴェリン級。ホログラムのクジン人 (クジンティ、まんが宇宙大作戦シーズン1「過去から来た新兵器」より。当時の吹き替えではクーガン人) 少尉 (S2「あからさまなスパイ」など) のセリフを含め、映画「ファースト・コンタクト」でエンタープライズ-E がディファイアントの前に駆けつけるシーンに似ています。音楽は映画ST2「カーンの逆襲」より。ボイムラー (ダガー) たちの制服も、黒っぽいデザインになっています。
◆4人のキャラクター名は以下。艦長席に座るボイムラーは、ライカーのように寄りかかっています。
ボイムラー:ブケファラス・ダガー艦長
マリナー:レベッカ・ドゥードル副長
ラザフォード:スィルヴォ・トゥーサント機関部長
テンディ:ミーナ・ヴェスパー少佐
◆ホロ・フリーマンがダガー (ボイムラー) に対して「ラクタジーノでも飲んでた?」。クリンゴンのコーヒーで、DS9シーズン1「共生結合体生物“トリル族”」など。
◆メルポナール三姉妹 (三つ子) は、明らかにデュラス姉妹のパロディ。新スタートレック シーズン4「クリンゴン帝国の危機(前編)」、映画「ジェネレーションズ」など。チラッと映るボイムラーの脚本のシーンでは、それぞれの名前が単純に「左」「中央」「右」と書かれています。
◆クロノガミ (Chronogami) というプロトタイプ装置がキーになっています。妙に丁寧な説明にもあるように、クロノ (時間)+日本の芸術である折り紙。面白くて嬉しいネーミングです。
◆ランサムはテラライト・デッドリフトという技を覚えたそうです。
◆タイムトラベルものと聞いて、マリナーは「時をさかのぼってケネディ暗殺するとか言わないでね」。1980年代に映画スター・トレック (1979) の続編としてジーン・ロッデンベリーが書いた、カークがケネディと出会う (そしてスポックがケネディを殺さなくてはならなくなる) というボツストーリー案に由来。さらにマリナーは「別の時間軸が発生して、この宇宙と並行してるんだけど違う役者がウチらの若い頃を演じる?」と言っており、テンディも「エヘヘ、科学的にはちょっと無理があるんじゃない?」。「2人の自分」に続いて、映画スター・トレック (2009) 以降のケルヴィン・タイムラインをネタにしています。
◆前回主人公の自分になぞらえて、「ヴィンディクタヴァース (吹き替えではヴィンディクタ・ユニヴァース)」と映画の世界を表現するマリナー。非公式に映画スター・トレック (2009) 以降の3作を「エイブラムスヴァース」、ウィリアム・シャトナーの小説シリーズを「シャトナーヴァース」と言ったりもします。マリナーが自分の世界観を壊さないように話しているのは、ファンの正史論争をイジったものですかね。
◆「危機一髪 (クライシス・ポイント)2:パラドクサス」のオープニングは、映画ST2「カーンの逆襲」のパロディ。タイトルは映画スター・トレック (1979) のロゴ風。今回の原題でもあり、このタイトルがあるため通常のエピソード名表記が含まれません。
◆宇宙艦隊時間ラボ (日本語版では Temporal が「臨時」と訳されています) があるのは、木星の衛星エウロパ。ラボは映画ST2「カーンの逆襲」のレギュラ1の上部だけを切り取ったような形状です。テロップのフォントもST2風。時間ラボの内装や科学者の士官も、レギュラ1に似てます。
◆ヘレナ・ギブソン博士は映画ST2「カーンの逆襲」の (レギュラ1にいた) キャロル・マーカス博士のオマージュだと思われます。ダガーとライサで週末を過ごしたそうです。
◆「極秘」の妙に古臭い映像は、これも映画ST2「カーンの逆襲」でのジェネシス装置の説明映像のパロディ。ラザフォードが「うわー、このグラフィックめっちゃいい!」と感激しているとおり、ジェネシス効果は当時ILMによってCGが使われた草分け的な映像でした。今回は新旧を表現するため、初代エンタープライズとエンタープライズDが使われています。
◆ボイムラーの神妙な話を聞いたマリナー、「ウィンガー・ビングストンの演技クラス受けたのかな」。ビングストンはシーズン1「湿った船」などに登場した中尉。
◆タタショア9号星は、シャックス役のフレッド・タタショアにちなんで。
◆ギブソン「クロノガズミック・マトリックスを動かすのに、ウォレリアン・デュトロニウム (日本語版ではデュトロニウムのみ) を買いたいのかも」 マリナー「そう立て続けに架空の名詞を並べない方がいいかも」
◆タタショア9号星のモブたちのセリフ、「道を見失っている者にミヌーキーのお導きを!」は「機関部を休ませろ!」より。「我らは皆ホログラムのシミュレーションだ」と気づいている(?)人も。「コアラは我々みんなに微笑んでいる」と、またコアラネタ (シーズン1「湿った船」)。
◆タタショア9号星にいたニックナックは、ダガー (ボイムラー) のことをパープル・ヘッドと呼んでいます。ナックナックやナップサックと間違われます。
◆ホヴァーサイクルは、ホロ内の原語ではグラヴ (=重力) サイクルとも呼ばれています。映画スター・トレック (2009) の冒頭では、警官が反重力バイクに乗っていました。また、ロミュラン側が使っている乗り物は後部に銃があるところなど、映画「ネメシス/S.T.X」のアルゴ車に似ている部分があります。
◆マリナー「せっかくここまで一時間かけて話のキーとなるものを見つけたのに、それを追いかけないの?」。「話のキーとなるもの」は、原語ではマクガフィンのバックストーリーとメタ的な表現をしています。マクガフィンは今回で言えばクロノガミであり、映画ST2「カーンの逆襲」ではジェネシス装置であり、映画スター・トレック (2009) ではレッドマターであり。
◆クロノガミによってオリガミック・ホールを抜ける (原語ではオリガミック境界を越える) ロミュラン。この描写、まさに折り紙でいいですね。歴史を変えようとする敵と対峙するのは、もちろん映画「ファースト・コンタクト」でのプロットでもありました。
◆時を越えてやってきたのは、2341年の宇宙艦隊海洋研究所。スーリアン藻大発生という事件が起こり、タコみたいなコーロー大使が藻との意思疎通に成功したそうです。
◆イラスターの「地図」(星図) には、以下の星々が描かれています。
・アルファ7号星 (新スタートレック シーズン7「アンドロイドの母親」のオクダグラム)
・イタミッシュ1号星 (3号星がDS9シーズン2「新たなる脅威」で言及)
・Karzil (つづりが Karzill と違いますが、カージル4号星がシーズン2「ケイション 彼の目は開かれた」で登場)
・ケルヴァ (宇宙大作戦シーズン2「宇宙300年の旅」)
・水星
・タロス5号星 (7号星が新スタートレック シーズン2「運命の少女サリア」で言及。宇宙大作戦S1「タロス星の幻怪人」のタロス星系とは別)
・地球
・ベタゼッド
◆マリナーがホロデッキから外に出る時、映画の「黒い枠」を乗り越えています。そういう仕組みなのか。
◆ウィリアム・ボイムラーは、シーズン2「ケイション 彼の目は開かれた」で生まれたもう一人のボイムラー。死因のニューロシンは、DS9シーズン3「暴徒制圧モード始動」より。
◆ランサムが友達として挙げたのは、バーテンダーのホーナス (シーズン2「ムガートはグマート」)、ナースのウェストレイク (シーズン1「第二次接近遭遇」などのモブキャラ)、クジラのマット (シーズン2「初めてのファースト・コンタクト」)。あれ、スティーヴンズは? (「妄想と悪夢」)
◆次にテンディたちが向かった過去は、1982年7月15日のシドニー。コーロー大使の先祖のタコがいる水族館があります。映画ST4「故郷への長い道」で、クジラを救う必要があったことと似ています。
◆絡んできた不良の中に、ラジカセを担いでいる男がいました。映画ST4「故郷への長い道」より。
◆イラスターの信者たちが乗っていた貨物船は、新スタートレック シーズン1「さまよえるクリンゴン戦士」のタラリア船バトリスが最初で、その後多数の船に使いまわしされたデザインです。「信者2」という、そのまんまな名前のキャラクターがいました。人生の意味を求める信者たちという構図は、映画ST5「新たなる未知へ」のサイボックたちと同じ。
◆マリナー「一作目の成功したところを無視してるからだと思うけど。艦隊の映画だよ、最後までやる意味はあるって!」 ボイムラー「そうか、宇宙艦隊の映画だ! 僕らは艦隊士官だ!」。スタートレックの各シリーズや映画が毎回ガラッとストーリーや作風が変わりがちなこと、それでもスタートレック映画だからファンは応援していることを意識している?
◆スピーチではなく敵を殴り始めたボイムラーに、マリナー「ああ、力のカーク方式? それもいいね」
◆さらにテンディたちは2161年の惑星連邦の創設時へ。外観は、映画ST4「故郷への長い道」の連邦評議会と同じ。調印式の会場は、エンタープライズ シーズン3「最終決戦」や最終話「最後のフロンティア」でも描かれたものです。小さいですが中央にはジョナサン・アーチャーがいる…はず。爆弾は映画「ネメシス/S.T.X」のセラロン装置と同じデザインで、解除する際にラザフォードはチュー・チュー・ソングを口ずさんでいました。シーズン1「気のいいフレッチャー」より。
◆テンディはロミュランを追うのではなく、事件の発端に文字通り巻き戻し…いや最近は早戻し。ロミュランにクロノガミの代わりに爆弾を持ち込ませる作戦に成功します。前回撃たれて蒸発した科学士官が、わざと箱を渡してますね。
◆岩状の神様キティホがいたのは、シャタナリ第3の月。シャタナリ (Shatanari) はカーク役のウィリアム・シャトナーにちなんで。シャトナーが監督した映画ST5「新たなる未知へ」のシャ・カ・リにも似ています。惑星に独りでいる神というのも、同作とシチュエーション。シャトナーは岩人間を登場させる予定でしたが、予算の都合でなくなっています。「人生の目的は、目的ある人生だ」「信頼のない愛は、水のない川と同じ」「人生は一杯のお茶と同じ、どれだけ濃くするかは君の生き方次第」「笑いとたっぷりの睡眠が人生を…」という、キティホのすっからかんなメッセージが笑えます。
◆マリナーは「ミグリーモに話を聞いてもらったら」と進言しますが、神の内部に突入したボイムラーはキティホと書かれた板を発見。こすってみると、キティホークと書かれた文字の一部だったことがわかります。映画スター・トレック (1979) のヴィジャーの下りと全く一緒。「ライト・フライヤー/ノースカロライナ州キティホーク/1903年」と書かれており、なぜかライト・フライヤーの姿も。ヴォイジャー6号と違ってナンセンスです。
◆リアンと結婚してればと悔やむボイムラー。「自宅待機」で登場した、ブドウ畑の女性です。
◆「タイムトラベルやら何やらでよくわからないが、ゆっくりできない」カークから引き受けた家にいたのは、ヒカル・スールー大佐 (日本語版では船長)! 吹き替え版では伝統に則り、加藤と訳されています。ボイムラーはカークでなかったことに対し、「もっとすごい」。お? 「天国ですか? 死後の世界? ネクサス (映画「ジェネレーションズ」)」と尋ねるボイムラーに、アイダホと答えるスールー。アトラスという馬を飼っており、ネクサスでも馬小屋が出てきました。ボイムラーは「スポックやウフーラと働くのってどうでした? エンタープライズのボタン、なんで透明なんだろうって。そうだ、剣術 (宇宙大作戦シーズン1「魔の宇宙病」) の練習は毎日?」と立て続けに質問します。スールーの原語声優はもちろんジョージ・タケイ、ヴォイジャー シーズン3「伝説のミスター・カトー」以来26年ぶりの出演。吹き替えはキャラクター名つきではクレジットされていませんが、坂東尚樹さんだと思われます。宇宙大作戦の補完部分や、映画の新録を担当された「現在の」スールー役です。
◆スティーヴンズ少佐が「妄想と悪夢」以来の登場。一日に2度もワープコアに寄りかかって火傷をしたそうです。また大変な目に…。
◆マリナーとボイムラーの暗いクリフハンガーは最低というフリの後に、「星系:非公開」の場所にディファイアント級宇宙艦が遮蔽解除して登場! 死んだはずのウィリアム・ボイムラーは実際は生きており、セクション31 (サーティワン) の計画だったことがわかります。入っていたのは、もちろん光子魚雷の棺桶 (映画ST2「カーンの逆襲」)。ディスカバリーにも出てきた黒い記章について、「なんで特別な通信バッジで目立たせちゃうの」とからかうウィリアム。相手のセクション31のメンバーと思われる女性は、後ろ姿で素性は不明です。セクション31はシーズン1「外交特使」でネタ的に言及されたことはありましたが、本格的に登場したのはシリーズ初。DS9 S6「記憶なきスパイ」で導入されました。
<以下、今後のエピソードのネタバレの可能性あり>
後ろ姿の女性は、吹き替えでは塩田朋子さんが演じています。つまり……。ある意味スールーと同じかそれ以上に驚きました。ただ、原語声優は不明であり海外の各サイトを見ても「彼女」と結びつけている記載は見受けられないようです。可能性としては、今回の原語声優は別人が演じているが、今後きちんと再登場するので吹き替えでは気を利かせて塩田さんを配役したのでしょうか。
出典
公式サイト
TrekMovie.com (レビュー、トリビア)
TrekCore.com
Memory Alpha
アイキャッチ画像:スタートレックの折り紙本 “Star Trek: Paper Universe”