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TNG エピソードガイド
第88話「空白の一日」
Clues

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・イントロダクション
※1星雲に近づくエンタープライズ。
ウォーフの指導の下、太極拳のようなモクバラ※2を行うライカー、ラフォージ、トロイたち。
『航星日誌、宇宙暦 44502.7。ハラキス5号星※3での任務が予定より早く完了したため、クルーに多くの自由時間を与えることができた。このところスケジュールがきつく、十分な余暇を取らせてやれなかったので気になっていたのだ。』

クラッシャーは小さな球体の器を並べ、見つめている。
ピカード:『…レジャーやレクリエーションは、エンタープライズでの生活の重要な一部だ。次の任務まで、各自自分の時間を楽しむことになる。』

ディクソン・ヒル※4探偵事務所のドア。
ピカード:『…私自身は、この休みをクルーの一人と一緒に過ごす計画を立てた。』
ドアを開けたのは、タバコを持っているガイナン※5だった。当時の服装だ。
サングラスに手をかけるガイナン。「ディクソン探偵は?」
秘書のマデリーン※6。「ディクソンさんは今お忙しいの。」
ガイナン:「グロリア※7が来たって言って。」
「できません。仕事の邪魔になるので。」
「グロリアって言えばわかるわよ。…シカゴ※8のね。」
「どこのグロリアさんだろうと関係ありません。ディクソンさんは今おこり…おこりとみ…あら、何だっけ。」
「お取り込み中?」
「それよ! …出直して。」
「…へえ。もう一度だけ、頼むわ。グロリアが来たって伝えてちょうだい。」
「しつこいわね、お取り次ぎできませんって言ってるの。…誰も中に入れるなって言づかってるんです。悪く思わないでください。」
「ディクソンさんと会う約束をしてあるの。ここで。2時にね?」 壁時計を見るガイナン。
「今は 2時10分よ?」
「ドレスアップにちょっと手間取ったの、仕方ないでしょ! もっと言うとね、これのつけ方がわからなくてあれこれやって悩んでたもんだから。」 ガイナンはスカートをまくり、ガーターベルトを弾いた。「フン!」
「ハー!」 電話を取るマデリーン。「ディクソンさん、すみません。『お客様』がいらしてます。お名前はですねえ…」
「グロリア。」
「グロリア。」
「シカゴのグロリアよ?」
「シカゴのグロリアさんです。そうですか。」 マデリーンは受話器を置いた。「知らないと言ってます。」
「知らないですって?」
「ええそうです。」
「そんなバカなことあるわけないじゃない。」 笑うガイナン。「だってちゃんと打ち合わせしたのよ? 私はシカゴのグロリアって役で、2時に第4ホロデッキに来るようにって言われたんだから。あの人そういう説明全然あなたにしてないわけ? それならいいわ。」 奥へ向かう。
「勝手に入らないでください!」
ガイナンがドアを開けると、いきなり銃を向けられた。「さっさと入ってドアを閉めろ!」
従うガイナン。タバコを置く。
※9:「この女は。」
両手を挙げているディクソン・ヒルことピカード。「彼女は…私の従姉妹なんだ。」
ガイナン:「そうなの、グロリアよ。…シカゴから来たの。」
男の顔はよく見えない。
ピカード:「すまないがガイナン…グロリア、君を巻き込みたくはなかったんだが。グロリアは関係ない、助けてくれ。」
銃を上げる仕草をする男。
ガイナン:「あれどういうこと。」
両手を動かすピカード。
ガイナン:「ああ、それねえ。」 手を挙げた。
男:「そう、それでいいんだ。…俺をバカにするんじゃねえぞ。従姉妹なんて嘘だろう。とっくにお見通しだぜ。俺の金をどこへやった。」
「お金って?」
「こいつが盗んだ金だよ!」
「あなたお金盗んだの?」
ピカード:「こいつの言うことなんか信じるな、全部嘘だ。」
「そう、はあ。ねえ、やめて! お願い! 話し合いましょう。話せばわかるわ。」
男:「話すことなんか何にもありゃしねえ。俺の金をよこしな。でなきゃ…」 窓のそばに近づく。
いきなりマシンガンの音が響き、男は苦しむ。ガイナンをかばうようにしゃがむピカード。
男はデスクの書類をぶちまけ、床に倒れた。
這ったまま近づくピカード。男は血を流して死んでいた。
ガイナン:「あなたってこういうのが趣味だったの。」
ピカード:「ミステリーだよ。こいつは誰だ。誰が殺した。盗まれた金とは一体何のことか。全て謎だ。これから謎解きを始めるのさ。」
「それで、楽しいの。」
「面白いだろ。」
外で車が急停止する音が聞こえた。人々が騒いでいる。
車は発進して去ったようだ。
窓から見るピカード。「48年型のパッカードだ。ダメだ、ナンバーは見えなかった。」
マデリーンの声が聞こえる。「…ピカード艦長? いいえ、こちらにはいらっしゃいませんが。多分波止場の方に尋ねたらいいんじゃないかしら。そこなら毎日船が出入りしてるから…※10
ピカード:「いいんだ、マデリーン回してくれ。」 電話を手にした。「私だ、どうした。」
データ:『艦長、こちらデータ少佐です。本来なら、お邪魔するべきではないのですが。状況を考えますと、ホロデッキプログラムを中断してでも御報告すべきと判断したものですから。』
「…いいんだ、そんなに気を遣うことはない。報告してくれ。」

スクリーンの星雲を見ているデータ。「長距離センサーがナガミ星雲※11の中に、Tタウリ型の恒星※12系があるのを発見しました。」

ピカード:「別に変わったことではないだろ。」

オプス席に足をかけているデータ。「そうです。ただ、中に一つだけ Mクラスの環境の星があるのです。生命体がいるかもしれません。」

ピカード:「…それは大発見だ。」
データ:『以上です。』
「ありがとう、データ。早速その星の調査に向かおう。クルーをブリッジに招集してくれ。」
『了解。』
電話を切り、帽子を取るピカード。「ああ実は、グロリア悪いんだが…現実の世界にミステリーが見つかってそっちを解きに行くことになった。よかったら残ってゆっくり楽しんでいってくれ?」
ガイナン:「…いいわ。私もう、十分楽しんだから。」 襟巻きを首に巻く。

ブリッジに入るピカードに、操舵士官のマクナイト少尉※13が報告する。「Tタウリ恒星系に入りました。」
データ:「コース上に不安定なエネルギー波がありますが、発生の原因は不明です。」
スクリーンに現象が映る。
ウォーフ:「エネルギーのひずみが、次第に小さくなっていきます。…消えました!」
ピカード:「ワームホールか。」
データ:「ありえますね。Tタウリ恒星系付近では、ここ 100年間に不安定な移動型のワームホールがいくつも発見されていますから。」
ライカー:「またいつ現れるかわかりません。安全な場所に避難しましょう。」
ピカード:「君の言うとおりだ。少尉、コースをセットして…」
データ:「艦長。」
ブリッジに光が注がれる。ひずみがすぐ前に迫っていた。
即座に収まる。振り返るデータ。
すると、ブリッジのクルー全員が倒れていた。


※1: TNG の国内地上波・初期CS放送分では、ごく一部にカット部分が存在しています (2時間エピソードを前後編に分けた際の、本国でのカットとは別)。DVD には完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります

※2: Mok'Bara
初登場。名前は TNG第143話 "Birthright, Part II" 「バースライト(後編)」で初めて言及され、今回の脚本では「クリンゴンの太極拳と呼べるようなもの」とあるだけ

※3: Harrakis V

※4: Dixon Hill
TNG第12話 "The Big Goodbye" 「宇宙空間の名探偵」など。登場は 3度目で、テレビシリーズ中では最後。その後映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」でも

※5: Guinan
(ウーピー・ゴールドバーグ Whoopi Goldberg) TNG第84話 "The Loss" 「失われたテレパシー」以来の登場。声:東美江

※6: Madeline
(ロンダ・オルドリッチ Rhonda Aldrich) TNG第45話 "Manhunt" 「魅せられて」以来の登場。声:堀越真巳 (継続)

※7: Gloria

※8: 原語ではクリーヴランド

※9: 殺し屋、ガンマン Gunman
(トーマス・ニッカーボッカー Thomas Knickerbocker) 原語ではピカードが「ジョニー (Johnny)」と呼びかけていますが、後で「こいつは誰だ」と言っていることからも、単に「君、お前」だという意味だと思われます。声はオブライエン役の辻さんが兼任

※10: 吹き替えでは「多分どこか機関部にでも行ってらっしゃるんじゃないかしら。ホロデッキには全然…」と訳されています。これだとマデリーンがホロデッキを認識しているようにも取れ、あまり適切ではないでしょうね

※11: Ngame Nebula

※12: T-tauri type star

※13: Ensign McKnight
(パメラ・ウィンスロー Pamela Winslow) 初登場。名前は訳出されていません。声はマデリーン役の堀越さんが兼任

・本編
目を覚ますピカード。
データ:「艦長?」
ピカード:「…データ…。」
起きるのを手伝うデータ。「大丈夫ですか? ワームホールの衝撃波で、全員気を失っていたのです。」
ピカード:「そのようだな。」 制服の裾を伸ばす。「どのくらい気絶していた。」
「およそ、30秒間でした。全艦内をスキャンしましたが、命に関わる傷を受けた者はありません。」
「君は、大丈夫か?」
「はい。…私の、ポジトロニックブレインは影響を受けません。宇宙艦隊に入って以来、移動型のワームホールに遭ったのはこれで 3度目です※14。最初は、U.S.S.トリエステ※15にいたとき…」
「わかった、ありがとう。…それで現在位置は。」
ライカー:「元の位置から 0.54パーセクです。一日分の距離を一挙に飛んでいます。」
「艦長、ワームホールの影響でエンタープライズの時計が標準時間からずれています。ただちに調査します※16。」
「頼むぞ。」
「了解。」
通信が入る。『艦長、ドクター・クラッシャーです。』
ピカード:「どうしたドクター。」
『軽い怪我を負った者が随分多いんですが、何があったんですか?』

医療室のクラッシャー。
ピカード:『エンタープライズがワームホールを通り抜けたんだ。我々は全員 30秒ほど、気を失っていたらしい。』

クラッシャー:『そちらの方は怪我人は?』
ピカード:「…心配いらん、ドクター。ブリッジは全員無事だ。」

クラッシャー:「そうですか、よかった。」

ピカード:「船の状態は?」
ライカー:「見たところ特に問題はなさそうです。」
通信が届く。『ラフォージから艦長。エンジンとワープドライブを検査しましたが、異常は見られません。』
腕を見ていたウォーフ。「防御スクリーン、攻撃システム、異常なし。」
トロイが目を押さえている。
ピカード:「カウンセラー、どうかしたのか。」
トロイ:「大丈夫です。…ちょっと目まいがしただけで…平気です。」
「…ワームホールの後だ、無理もあるまい。」
ライカー:「宇宙の遥か彼方に飛ばされなかっただけでも儲けものですからねえ。」
データ:「現実にはその可能性はありません。ワームホールのサイズが小さければ、移動距離と時間のずれも小規模になります。」
ピカード:「残る問題はさっき発見した Mクラスの惑星だが…戻るか。」
「ワームホールの出現は予測不可能なので、戻るのは危険を伴います。ここから無人探査機を出すのが、賢明な方法でしょう。」
「すぐかかれ※17。」

エンタープライズから探査機が発射された。

診察するクラッシャー。「骨は折れてないわ? でも随分ひどく肘のこの辺りの筋をひねってるわねえ。一体何をやってて落ちたらこうなったの?」
痛むマイルズ・オブライエン※18。「プランターを吊してたんです。…ケイコに、園芸の仕事を手伝わされてました。」
クラッシャー:「いいことじゃない。」
「ハ、それが私が触るとみんな枯れちゃうんです。」
笑うクラッシャー。「アリサ※19、ちょっと御願い。痛み止めを取ってくるわ、待ってて。動いちゃダメよ?」

隣の部屋に入るクラッシャー。
ケースから道具を取り出したクラッシャーは、ふと目を留めた。「信じられない、こんな。」
球体の器の中に、全て赤い物が見える。

戻ってくるクラッシャー。「アリサ。」
オガワ:「何でしょう。」
「今日、誰か実験室に入った人はいる。」
「見てません。」
「…実験室の培養カプセルの環境設定を変えたりしなかった?」
「私は、ドクターの指示がない限り触りませんが。何か。」
「そうよね、変なこと聞いてごめんなさい?」 無言になるクラッシャー。

報告するウォーフ。「探査機が Tタウリ恒星系に接近。」
ピカード:「どうだ、データ。」
データ:「お待ち下さい。探査機が惑星の映像を捉えました。」
「スクリーンへ。」
惑星が映し出される。
データ:「大気の成分は、水素およびヘリウムです。…中心は凍ったヘリウム。」
ライカー:「おかしいじゃないか。…ワームホールを通る前はあの星の環境は Mクラスだと言わなかったか。」
「…恐らくセンサーが、ワームホールの影響で間違った数字を出していたのでしょう。ここは、人が住める環境ではありません。」
ピカード:「データ少佐、センサーが受けたダメージが一時的なものかどうか徹底的に検査してくれ。」
「了解。」
「少尉、コースのセットを頼む…」
ライカー:「艦長。」
「…何か問題か?」
「どうも腑に落ちないんです。ワームホールで空間がひずんでいたにしては、あまりにもはっきりと Mクラスを示す数字が出ていました。普通はもっと外れた数字が出るのでは。」
振り返るデータ。「センサーがワームホールを通り抜けて、反対側にある別の星を捉えたという可能性もあります。その星が、Mクラスだったのかもしれません。6日ほどあれば、調査できるでしょう。」
ピカード:「そんなに時間の余裕はない。宇宙には限りない謎がある。今回の謎解きはこれでもう十分だろう。副長。特に問題がなければ、エヴァドネ4号星※20に向けてコースをセットするつもりだが?」
ライカー:「そうですね。」
「セットしろ。」
マクナイト:「了解。」
データはコンソールの操作に戻った。

ドアチャイムに応えるピカード。「入れ。」
作戦室に、培養カプセル一式を持ったクラッシャーが入る。「艦長がお好きなミステリーをお見せしようと思って。」
ピカード:「また『ミステリー』か? どういうわけか最近立て続けだな。」 笑う。「ほう? ダイオメディア星の赤いコケ※21じゃないか。ふーん…珍しいな、君が育てたのか?」
「趣味なんです。」
「ふーん、見事なもんだな。私もやったがこうはいかなかった。」
「…そこでなんですが、栽培を始めたのはついさっきワームホールに入って気を失う少し前です。確か、気絶してたのは 30秒だったかと。」
「そうだが?」
「ここまで成長するには丸一日かかります。」
コケを見るピカード。「…何か成長を早める原因があったんじゃないのか。」
クラッシャー:「…バイオカプセルの中にあるのは、それぞれ違う環境の星から胞子を集めてきて栽培したものです。実験室にはもっとあります。どれか一つに異常が起きたというならまだわかりますが、全部が全部ということは。」
「我々が丸一日気絶していたと言いたいのか? だがコンピューターの記録や時計を見てもはっきり 30秒を示していたんだ。何もかもだよ? 第一データがそう言ってる。」
「ピカード艦長。もう一度言いますが、これは間違いなく 24時間以上経過した状態です。」


※14: 2度目は TNG第56話 "The Price" 「非情なる駆け引き」の、バーザン・ワームホールだと思われます

※15: U.S.S. Trieste
マーセド級、NCC-37124。TNG第15話 "11001001" 「盗まれたエンタープライズ」より。吹き替えでは「U.S.S.トリエステ

※16: 原語では「船の時計を第410宇宙基地 (Starbase 410) の亜空間信号に合わせて調整します」といったことも言っています

※17: "Make it so."

※18: Miles O'Brien
(コルム・ミーニー Colm Meaney) TNG第86話 "The Wounded" 「不実なる平和」以来の登場。声:辻親八

※19: アリサ・オガワ看護婦 Nurse Alyssa Ogawa
(パティ・ヤスタケ Patti Yasutake) TNG第82話 "Future Imperfect" 「悪夢のホログラム」以来の登場。クレジットでは「看護婦」のみ。ファーストネームが言及されるのは初めて。声:岡部美和

※20: Evadne IV

※21: Diomedian scarlet moss

通常航行中のエンタープライズ。
『航星日誌、補足。ドクター・クラッシャーの提示した証拠を見せても、データ少佐は気絶していた時間が 30秒だという説を譲らずにいる。』
観察ラウンジに持ち込まれたコケ。
データ:「艦長、説明はつくと思います。…22世紀の物理学者ペル・アンダーヒル※22の説では、連続した時間軸の一部が欠落してしまった場合、均衡を保つため何億という反作用が起こるそうです。…従ってワームホールを通り抜けた後でコケが異常に成長していたというのも、その反作用の一つと言えるでしょう。」
ラフォージ:「今のは、エネルギーに関する理論だろ?」
「そうです。…でも、エネルギーに起こりうる現象ならば物質にも同じことが起こりえます。一定の条件さえそろっていれば、十分可能性はあります。」
ピカード:「…よくわかった。…興味深い理論だな。…まあ恐らく、カプセルの中で嵐でも起こったんだろう。」
クラッシャー:「艦長。」
「データ…ここはもういいからセンサーの検査を手伝ってくれないか。今ネルソン※23がやってるはずだ。第36デッキの方に行ってくれ。」
データ:「了解しました。」 出ていった。
「……データをどう思う。…率直なところを聞かせてくれ。」
ラフォージ:「変ですよ。自分の意見を押しつけてる。」
ウォーフ:「…疑ってらっしゃるんですか。」
ピカード:「…私にもよくわからない。データが嘘をつくなんて…ありえないことだ。そうだろ?」
クラッシャー:「もしワームホールを通っていないとしたら、その一日に何が起こったのかしら。」
ラフォージ:「でも丸一日経ってるんなら、ヒゲが伸びてるでしょう。」
ライカー:「とにかく、データが我々に話せないようなことが起きたんだ。」
ピカード:「あるいは、データ自身も何らかの影響を受けているとも考えられる。隠しているわけではないのかもしれん。…だがそれにしても、謎が多すぎるな。」
ラフォージ:「コンピューターの時計を調べてみます。改竄の跡がないかどうか。」
クラッシャー:「転送の後の身体の変化を調べれば、実際に経過した時間がある程度わかると思います。」
ピカード:「よし、早速調べてみてくれ※24。当面は今のコースのままで行こう。…我々がデータを疑っていることは、まだ本人に気づかれないようにしなくては。」

機関室のデータに近づくラフォージ。「どうだい? どこまでやっつけた?」
データ:「長距離センサーと赤外線センサーを調べたが、ワームホールの影響は出ていない。今は、ニュートリノ探知機の検査を始めたところだ。」
「そうか。残りは俺がやるよ、艦長がブリッジに来いってさ。後で報告する。」
道具をラフォージに渡し、歩いていくデータ。
ラフォージ:「ネルソン。今からコンピューターを調べるぞ。」

転送室に入るクラッシャー。「オブライエン、肘はどう?」
オブライエン:「ええ、まあ何とか。そんなことでわざわざ?」
「…実はあなたに聞きたいことがあるの。ワームホールに遭遇する前、最後に転送室を使ったのは誰だかわかる?」
「見てみます。…ロックリン少尉※25。転送部員ですが?」
「至急医療室に来るように言ってちょうだい。」

調べられる女性クルー。
クラッシャー:「電解質の濃度は?」
オガワ:「転送前より 12%ダウンです。」
「12%。次は、細胞膜を調べて。多分浸透圧の数字も、今と同じぐらい下がってると思うけど。」
「ええ、11.3%です。」
「バッチリ、思った通りね。もういいわ。少尉、協力ありがとう。」
ベッドを降りるロックリン。
クラッシャーはコミュニケーターに触れた。「クラッシャーから艦長。」
ピカード:『何だね、ドクター。』
「結果を御報告したいんですが。」
『機関部に行くので君も来てくれ。』
医療室を出ていくクラッシャー。

廊下を歩くクラッシャー。「私達の身体は、一日ごとのサイクルをもっています。細胞を見れば、24時間周期で変化してるのがわかるんです。」
ピカード:「体内時計か。」
「そうです。つまり細胞を分析すれば、時間の経過がわかります。それで例の事件の直前に転送室を使った人間を調べて、転送前の細胞の記録と今現在の状態を比較してみました。もし本当に 30秒しか経っていないのなら、細胞の変化は小さいはずですよね。」
「結果は?」
「思った通りです。気を失ってたのは 30秒じゃありません。まる一日です。」
ため息をつくピカード。

機関室のはしごを降りるラフォージ。「いい知らせと悪い知らせと、両方ありまして。いい方から言うと、狙いは当たってました。」 裾を引っ張る。「コンピューターの時計にはセーフティ回路がついてるんですが、それが解除されてプログラムし直されています。誰かが時刻を変えたんです。」
ピカード:「今のがいい知らせなら、悪い方は何だ。」
ラフォージ:「この船でそれができるのは、私とデータしかいません。」 歩いていった。

作戦室のデータ。「確かに謎ですね?」
ピカード:「謎で済む問題ではない。君が何かの力で、自分でも気づかないうちに操られる可能性はあるか。」 保安部員も来ている。
「推測では答えられません。」
「…ラフォージ少佐に君を検査させても構わないか。」
「お望みでしたら。」
「データ少佐を機関部に送ってやれ。」
「…独りで行けます。」
保安部員も出ていく。


※22: Pell Underhill
名のペルは訳出されていません。また、原語では「何という反作用」

※23: Nelson
エキストラ

※24: "Doctor, Commander, make it so."

※25: Ensign Locklin
エキストラ

『航星日誌、補足。クルーが気を失っていたのは実は丸一日であったことが次第に明らかになった。だがその間に一体何が起きていたのか、謎は深まる一方だ。データ少佐への不信感も拭いきれない。』
機関室。
データの頭の回路が見えている。
ラフォージ:「検査は高次元の機能から始めて、基本プログラムが最後だ。いくぞ? 痛みはないから大丈夫さ。」
データ:「忘れたのかい、ジョーディ? 私の感覚器官に、痛みを感じるようなプログラムはない。」
「…決まり文句なんだよ。患者をリラックスさせるために医者がよく言うだろ?」
「私は患者ではないが?」
「パターン認識機能、言語アルゴリズム、学習機能全て正常。」
「私は至って正常だ。…君の方が気分が悪そうだぞ?」
「データ、何か俺に隠してることがあるんじゃないのか? …友達だろ? 何かあったなら、話してくれよ。力になる。」
「…話したことは全部事実だ、もう何もないよ。」
「…そうか。」 検査を続けるラフォージ。

ブリッジに入るラフォージ。「お話中、失礼します。」
トロイ:「どうぞ?」
「艦長、データの検査が終わりました。」
手を触っているウォーフ。
ピカード:「それで?」
ラフォージ:「システムには、わずかな異常も見つかりません。全て正常に機能しています。」
「異常があった方が気が楽だった。」
「私の能力では発見できない故障があるのかもしれません。」
「それにしてもおかしなことだらけだ。最初は Mクラスだった星が次に調べたら違うというしな。」
ライカー:「あれは、センサーの間違いでしょう。無人探査機の報告がきましたが、Mクラスではありません。」
「データが出した探査機だ。」
「調べられるか、ジョーディ。」
ラフォージ:「やってみます。」
ピカード:「あの空白の一日に何があったのか手がかりが残っているはずだ。気を失う前に自分が何をしていたか、みんな記憶をたぐり寄せてくれ。よーく思い起こして…」
突然、トロイが苦しみだした。
ウォーフ:「カウンセラー!」
ピカード:「気分が悪いのか。」
トロイ:「ええ、ちょっと。…すみません。…もう大丈夫です。」
ライカー:「どうした。」
「急に目まいがしたの。部屋に戻って少し休むわ。」
ピカード:「医療室の方がいいんじゃないのか?」
「いいえ。…ほんとに、もう大丈夫ですから。」
「…カウンセラーを部屋まで送れ。」
ウォーフ:「了解。」
ため息をつき、ターボリフトに入るトロイ。

ウォーフの腕を持つトロイ。「わざわざついてきてくれてありがとう。」
ウォーフ:「ほんとに大丈夫ですか。」
「少し休めば治るわ? ありがとう。」 トロイは自室に入った。
ウォーフは廊下を歩いていこうとしたが、トロイの叫び声が響いた。
ウォーフ:「ディアナ! 保安部、カウンセラー・トロイのルームロックを解除しろ。急げ!」
ドアが開いた。
中に入るウォーフ。「…どうしました。」
トロイ:「鏡が…鏡を見たら、そこに映ってたのが…私の顔じゃなかった。…私じゃない…顔は私だけど中身は私じゃなかったの…。」

部屋に入ったピカード。「気分は。」
トロイ:「落ち着きました。今は。」
トリコーダーを使うクラッシャー。「ストレスが大きいわ? アドレナリンの量も基準を超えてるけど…ショックを受けたときにはよくある症状です。脳の機能に問題はありません。」
ピカード:「何があったんだ。」
トロイ:「恐ろしいものを見たというか、そう感じたんです。鏡を見たんですがまるでその中に知らない人が私の顔の向こう側にいて、こちらを見ているような。…自分の顔が仮面にされてるみたいで。」
通信が入る。『ラフォージからピカード艦長。』

ラフォージは機関室で、探査機から届いた惑星の映像を見ている。
ピカード:『何だ、ジョーディ。』
ラフォージ:「見ていただきたいものが。」
『いま行く。』

医療室で腕を押さえているウォーフ。
クラッシャーが戻ってきた。「ウォーフ大尉※26?」
ウォーフ:「ドクター。」
「怪我でもしたの?」
「……いえ、別に。」
「ウォーフ。何か用があるから来たんでしょ?」
「…身体の不調を訴えるなど戦士にあるまじき行為です。…だがおかしなことは漏らさず報告しろと言われたので。」
「痛むのね。」 調べるクラッシャー。「まさか、いつの間に?」

惑星の映像が表示されている。
ピカード:「この惑星に見覚えはあるか?」
データ:「あります。Tタウリ恒星系の星で、無人探査機も送りました。」
ラフォージ:「違うだろ? …これはテティス3号星※27だ。コンピューターライブラリーから見つけた画像だよ。地形はちょっとばかり変えられてるようだが、テティス3号星だ。間違いない。」
ピカード:「何百光年も離れた目立たない星を、探査機が捉えたのは妙だな※28。…この星の映像をライブラリーから取り出して、探査機にあらかじめプログラムしたのか?」
データ:「そのような質問には答えられません。」
「否定もしないのか。」
「…しません。」
「…ラフォージ、もう一度探査機を送り直してくれ。」
ラフォージ:「了解。…悪く思うなよ。」 データの部屋を出て行く。
「実はさっきカウンセラー・トロイがひどい幻覚症状に襲われたんだ。」
データ:「…大丈夫ですか?」
「今はな。教えてくれ。トロイの見た幻覚と我々が気を失っていたこととは何か関係があるのか?」
「…答えられません。」
「データ、君が謎を解く鍵なんだ。それなのに全く協力しようとしない、なぜ真実を隠そうとする。」
「私の意思ではありません。」
「どういう意味だ。」
「答えられません。」
「ディアナの身が危ないんだぞ? 友人を助けるためだ、話してくれ。」
「…どちらを優先しますか。一人のクルーの安全と、クルー全員の安全と。」
「君が真実を隠すのはクルーを守るためだと言いたいのか。」
「いえ、そうは言っていません。ただ、質問に別の表現で答えようとしただけです。」
「…そういうことなら、もう一度質問するぞ?」 向かい側に座るピカード。「これは命令だ、質問に直接答えるように。一体何が起こったんだ。」
「お答えできません。」
「…わかっているのか、データ? この状況で自分の立場がどうなるのか。」
「…明らかに私は軍規違反を、何重にも犯しています。記録改竄に、調査の妨害。今も上官である、艦長の命令に従いませんでした。…処分は明白です。」
「軍法会議にかけられたら、君のキャリアはそこで終わりだぞ。」
「わかっています、艦長。」
「それだけでは済まない。君の場合バラバラに分解されてどこに故障があったのか調べられるだろう。」
「わかっています。十分。」


※26: 吹き替えでは「ウォーフ尉」。第3シーズン以降、階級は大尉です

※27: Tethys III

※28: 吹き替えでは「どうしてだ、なぜ何百光年も離れた目立たない星を選んで探査機を送った。…それともこの星の…」。そもそもそんな遠距離の惑星に探査機を送るようなことはしませんし、仮に行ったとしても結果が帰るのはずっと後でしょう

ウォーフの手に触れるクラッシャー。「手首の骨が折れてます。ところが医療室の器具を使って治療した跡があり、もうくっついているんです。」
ピカード:「…あの一日に。」
「それしか考えられません。」
「バカな、全員気を失っていたのに。」
「…気を失っていたというのも怪しいですね。私だって気絶したまま骨折の治療はできませんから。」
「…じゃなぜ記憶がない。」
「多分誰かに、消されたんでしょう。」
「誰に。」
ウォーフ:「クルーの中で私の腕を折れるような者はわずかしかいません。もちろんデータ少佐もその一人です。」
「データがやったとは思えんな。」
「それだけの腕力を確かにもっています。」
「ああそうだな。だがデータがあれほど頑なに真実を明かすのを拒否してるのは、それが私達のためだと信じているからのように思えてならない。」
作戦室に通信が入る。『ラフォージからピカード艦長。』
ピカード:「何だ、ジョーディ。」
『探査機が惑星に接近しました。』
「すぐに行く。これで何かわかるだろ。」

ブリッジに戻るピカード。「探査機からの報告は?」
ラフォージ:「今スクリーンに出します。」
ライカー:「Mクラスです、中核はニッケル。大気は窒素と酸素。」 先ほどとは違う惑星が映っている。
ピカード:「例のワームホールに遭遇する前に発見した星に間違いないな。」
「ありません。」
ラフォージ:「惑星の付近に、時空間のゆがみは全く見られません。本当にワームホールが発生したんなら何らかの痕跡があるはずですが。」
ピカード:「ワームホールなどなかったのだ。初めからな。」
ライカー:「というと?」
「我々を遠ざけておくための罠だったのさ。鍵はいろいろある。ドクター・クラッシャーの実験、コンピューターの時計、転送の記録。どれもが空白の一日があったことを示している。…さらにウォーフの腕の怪我から考えると…我々は皆、気を失ってはいなかった。生きるために闘っていたに違いない。」
クラッシャー:「じゃあ今生きてるってことは、闘いに勝ったってこと?」
「残念ながら違うな。勝っていればデータはあんなことはしない。我々を守るために自分を犠牲にしてまで真実を隠そうとしているんだ。」
ウォーフ:「勝ったのでもなければ、負けてもいないのですか。」
「残る答えは一つ、引き分けだな。記憶を消しデータが沈黙を守ることを条件に、許されたんだろ。」
ライカー:「それなら真実を暴くと危険な状態に逆戻りです。これ以上、触れない方がいいのでは。」
「君の言うとおりだ、謎は謎のままにしておいてもいい。だがデータの無実だけははっきりさせなければ。…この先の任務での信用に関わる。少尉、犯行現場に戻るぞ? Tタウリ恒星系へ、ワープ2 だ。」

ワープに入るエンタープライズ。

報告するマクナイト。「惑星に接近しました。」
ピカード:「通常エンジンに落とせ。防御スクリーン最大、攻撃準備。」
ウォーフ:「了解。光子魚雷装填、フェイザー砲スタンバイ。…艦長、惑星との間にエネルギーフィールドが発生しました。」
「スクリーンへ。」
緑色のフィールドが見える。
ピカード:「停止しろ、様子を見よう。」
ウォーフ:「エネルギーパルスを発しながらエンタープライズに近づいています。」
パルスが近づいてくる。
ライカー:「光子魚雷にしては遅すぎる。」
ウォーフ:「…探査機かもしれません。」
ピカード:「防御スクリーンに当たったらどうなるか。」
シールドに当たり、全体が反応する。
ウォーフ:「スクリーン、変化なし。エネルギーパルスは分散しました。」

トロイが眠っている部屋が、緑色に光る。目を覚ますトロイ。
エネルギーがトロイの身体に向かっていく。中に消えた。
表情を変えるトロイ。

データの部屋に、トロイが入った。
データ:「カウンセラー・トロイ。何でしょう。」
不気味に響くトロイの声。『計画は失敗した。』
データ:「…戻ってきたのか。」
『またしても我々の領域を侵した。』
「私の力が足りなかった。」
『理由はどうあれ、許すことはできない。』
「エンタープライズは敵ではありません、時間を下さい。この船を破壊しても…」
ラフォージも来た。「データ、艦長がブリッジで呼んでるぞ。…カウンセラー。」
データ:「すぐに行くから。」
出ていくラフォージ。
データ:「待ってください。この状況を何とかすることが、できるかもしれない。」

ブリッジに入るデータ。「艦長、お呼びですか。」
ピカードは立ち上がり、制服の裾を伸ばした。「…データ少佐、全てが始まった場所に戻ってきたぞ?」
まだスクリーンにはエネルギーフィールドが見えている。
データ:「今すぐ引き返してください。」
ピカード:「…なぜだ。」
「急がないとクルーの生命に危険が及びます。」
「なぜだ。何が危険なんだ。…あのエネルギーか。」
「答えられません。」
「いつもその答えばかりだな。聞いているとまるで、壊れたコンピューターだ。自分の意思で答えられるはずだろ。」
「答えないのは私の意思ではありません…」
「どういうことだ。…操られているとでも言うのか? あのエネルギーに。ジョーディは検査で見落としたのか。」
「いいえ、ジョーディの検査は完璧でした。」
「それなら私の命令に背く理由はどこにある。なぜ。…まさかあの日の間に、司令本部の命令を受けたのか。艦隊司令部が、真実を隠せと命じたのか。」
「お答えできません。引き返して下さい。」
「一歩も動く気はない。君から答えを聞くまでな。もう一度聞く、誰が命令した。」
トロイがターボリフトを降りた。無表情だ。
データはピカードに言った。「あなたです。」



尋ねるピカード。「私が嘘をつけと命じただと?」
ウォーフ:「艦長、エネルギーフィールドが接近中です。」
ゆっくりと近づいてくるフィールド。
ライカー:「防御スクリーン、出力最大。」
データ:「いけません。それよりスクリーンの形とスピードを絶えず、変化させるんです。出力を上げれば相手のパワーが増すだけです。」
ウォーフ:「接触寸前です。」
ピカード:「データが言ったとおり実行しろ。」
「了解。」
フィールドはシールドを取り囲むように移動した。シールドの形状が変わり続ける。
ウォーフ:「防御スクリーンの動きに合わせてフィールドが変形しました。」
データ:「遅かれ早かれ、防御スクリーンは破られてしまうでしょう。パクサン人※29の技術力には太刀打ちできません。…必ず捕まってしまいます、逃げ切れません。」
ピカード:「パクサン人だと? 何者だ。」
データはトロイを見た。
トロイ:『侵略者は生かしてはおけない。』
フェイザーを向けるウォーフ。
ピカード:「やめろ、ウォーフ!」
データ:「カウンセラーの身体を傷つけるだけです。」
「侵略者などではない。…宇宙を探検する調査隊だ。」
トロイ:『お前たちは我々の存在を知ってしまった。』
データ:「彼らは孤立主義で、隠れて暮らしています。…高い技術力で無人の原始惑星を改造し、誰にも知られないように隠れ住んでいました。ワームホールのように見えたのはパクサン人の罠で、侵入者を捕らえるものです。…エネルギーフィールドで侵入してくる船の乗組員を気絶させ、生命体を一種の冬眠状態にしていたのです。」
ラフォージ:「それでヒゲも伸びなかったんだな?」
「眠ってる間に船は遠くへ運ばれます。」
ライカー:「目を覚ましたクルーは、ワームホールに落ちたと思い逃げ出すというわけか。」
「その通りです。」
ピカード:「なぜ今回は失敗した。」
「…ポジトロニックブレインは、パクサン人も知らない技術だったのです。」
トロイ:『彼一人だけが気を失わなかった。おかげで計画が、大きく崩れてしまった。』
データ:「クルーが全員倒れているのに気づいて、すぐさま緊急措置を執りました。」

※30気を失っているクルー。
データ:「コンピューター、特別緊急措置。Z-Z アルファ。」
コンピューター※31:『自動防御システム作動開始。エネルギーフィールド、パワー増加中。警告。防御スクリーン、パワー 17%ダウン。』
「コンピューター、防御スクリーンを変形させ、周波数を不規則に変動させろ。」
『実行中。』
データ:『時間稼ぎをしておいてから、クルーの手当てにかかりました。』
トリコーダーを使うデータ。「コンピューター、空気中に ADTH 化合物を投入してくれ。5ppm だ。」
コンピューター:『了解。ADTH、投入開始します。』
気体の音が聞こえる。目を覚ますクルー。
裾を引っ張るピカード。「状況は。」
データ:「エネルギーは、防御スクリーンの周波数に同調しています。」
「…武器は使えるか。」
ウォーフ:「この距離での使用は避けた方がいいでしょう。」
「ワープできるか。」
データ:「駄目です。エネルギーフィールドに捕らえられています。」
ライトが明滅した。
コンピューター:『警告、防御スクリーンが破られました。』
ウォーフ:「全システムが停止しました。」
データ:『パクサン人はエネルギーを自由に操る技術をもっており、カウンセラー・トロイの身体を使って対話を始めたのです。』
エネルギーがトロイの身体に入る。
フェイザーを持って近づくウォーフ。「艦長!」
トロイはウォーフの腕をひねり、突き飛ばした。
ピカード:「待てみんな、手を出すな。…どうする気だ。」
トロイ:『我々の存在を知られてしまった。…意識を失ったままでいれば生きて返すつもりだったが、こうなれば船もろとも爆破するしかない。』
「…この船を爆破したら、必ず捜索隊がやってくる。全てを隠すのは不可能だ、君たちの存在はすぐに宇宙に知れ渡ってしまうだろう。」
『許さない。』
「我々を生きて返すことだ。私達も全力を挙げて君たちの存在を隠すようにする。ここでのことは誰にも話さないと誓う。」
『この船には 1,000人を超える生命体が乗っている。全員が沈黙を守れるのか?』
「…君たちが我々を眠らせた方法は、神経にも影響を与えられるか。」
『もちろん。』
「それなら、記憶を操作することもできるはずだ。クルー全員の記憶を一部分だけ消すことができるか。何が起こったか忘れてしまえば…戻っても誰かに話す心配はない。」
『時間がかかる。およそ 24時間。…記憶を消せない者も一人いる。』
「…データ、君に例外的な命令をしなければならん。だが、その命令は君のプログラムに反するものかもしれない。」
データ:「宇宙艦隊の一員であるからには上官の命令には従います。」
「そうか。…みんなの運命が懸かっている。…ここで起きたことは、今後一切口にしないよう君に命令する。艦隊司令部にも、私にも話すな。君がこの世に存在する限り、パクサン人に関する知識は隠し通せ。言ったとおりにできるか、データ?」
「了解しました。」
「これでいいか。」
トロイ:『いいだろう。』
「よし。さあ仕事にかかろう。船の記録を全て削除しろ。この事件に少しでも関係する情報は残さないように。…かかってくれ。」
データ:『パクサン人と遭遇した証拠は一つ残らず消されました。』

現在のデータ。「…コンピューターの時計にも細工をし、クルーは事件の記憶を奪われました。そして再び全員が気を失い、意識を取り戻したとき実際には一日経っているのに 30秒だと思い込んだのです。」
ライカー:「そうだったのか。」
ピカード:「…そして戻ってきた。」
トロイ:『計画は失敗した。…この船を、破壊するしかない。』
「いや、待ってくれ! …計画が失敗したのは、いくつもの手がかりが謎として残ってしまっていたからだ。…人間には好奇心があり、謎に出会うと解かずにはいられない。必ず解いてしまう。…ドクターの実験の結果やウォーフの怪我…トロイの見た幻覚もそうだ。糸をたぐり寄せるように次々と手がかりが見えてくる。…時計や、転送室の記録…」 笑うピカード。「データのおかしな態度。こういった手がかりを残らず消し去って、もう一度やり直せばいい。」
『やり直す?』
「そうだ。一度目は…失敗したが、練習だと思えばいい。あれはリハーサルだった。今度こそ本番だ。同じ失敗は二度と繰り返さない。」
『お前たちは興味深い種族だ。…もう一度チャンスを与えよう。やるがいい。』
目を閉じるトロイ。エネルギーが出ていき、倒れる。
起こすライカー。「ディアナ。」
ピカード:「…大丈夫そうだな。ジョーディ、データ、コンピューターの記録を書き換えろ。ライカーは各デッキの監視を頼む。いいかみんな…頼んだぞ?」

通常航行中のエンタープライズ。
目を覚ますピカード。「…何があったんだ。」
起きるのを手伝うデータ。「ワームホールの衝撃波で気絶していたのです。」
ピカード:「そのようだな。」 制服の裾を伸ばす。
「私以外は、全員気を失っていました。ポジトロニックブレインは影響を受けません。」
「どれくらいの時間だ?」
「30秒間です。」
「現在位置は。」
マクナイト:「元の位置からの距離は、0.54パーセク。方位 285、マーク 147。」
「…意外に近いな。」
データ:「そうですね。…比較的小さなワームホールだったようです。」
通信が入る。『クラッシャーです、何があったんですか?』
ピカード:「エンタープライズがワームホールを通り抜けた。その影響でクルー全員が 30秒ほど気を失っていたらしい。」
『ブリッジの方に怪我人は?』
「全員無事だ。」
『ではこれから、各デッキをチェックします。』
「船の状態は?」
ウォーフ:「防御スクリーン、攻撃システム、異常ありません。」
ライカー:「機関部も異常なし。」
ピカード:「カウンセラー。」
トロイ:「艦内に戸惑いの気持ちが広がってますが、さほど深刻なものではありません。」
「いいだろう。…まださっきの Mクラスの惑星調査が残っているな。少尉、コースを元の位置に向けて…」
データ:「艦長。…Mクラスの数字が出たのは、ワームホールの影響があったからだと思われます。数字も不安定でした。…戻って調査するのは危険過ぎます。いつまた、ワームホールが出現するかわかりません。」
ライカー:「探査機を出しては。」
「その方が賢明でしょう。」
ピカード:「……そうしてくれ※17。…艦隊司令部に事故報告を出すように。少尉。エヴァドネ4号星に向かえ。」
マクナイト:「了解。」
「発進。」
データは、わずかに微笑んだ。


※29: パクサン Paxans

※30: この辺のシーンは過去であることを印象づけるため、長回しで撮影されています

※31: 声はクラッシャー役の一城さんが兼任

・感想など
今回もミステリー型 SF ものの傑作で、マイケル・ピラーのお気に入り作品。データの「あなたです」というセリフは、誰もが驚くところでしょうね。またありきたりな感想を書いてしまいますが、見直すことによってデータやウォーフのさりげない行動に感心できます。ディクソン・ヒルの下りがあったことは忘れていましたが、2シーズンぶりですね。
原案はファンの郵便配達員による売り込み。脚色に名を連ねている Joe Menosky は 2度目のクレジットで、これを機にスタッフになりました。原題は「手がかり、鍵」などと訳されている単語の複数形です。


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