カーク:『個人日誌、宇宙暦 3013.2※10。ミスター・スポックを裁く軍法会議は続行され、かつてない不思議な証拠が提出された。あと一時間の距離に迫った謎の惑星タロス4番星から、パイク大佐の物語が送信されてきたのだ。』
審理室。
集まるカークたち。パイクの車椅子も保安部員によって運ばれる。
再びタロス人が去るところから再生される。
パイク:『何しに来たんだ。』
ヴィーナ:『もてなしに。』
『…本物か、君は。』
『それはあなた次第よ…』
『駄目だ、それは答えになっていない。君は会ったことも想像したこともない女だ。』
ヴィーナ:「じゃあ多分忘れた夢から作られた女じゃない?」
パイク:「奴らと同じ、金属のドレスを着た夢の女か?」
「お望みに従って何でも着るわよ。何にでもなってみせるわ。」
「標本の行動を観察するためか。私の反応を研究したいんだろ。」
「あなたには何か、子供の頃から望んでいた一生の夢のようなものはないの?」
「ただ私を観察するだけではなくて奴らは…共に感じるのか。」
「どんな夢でも、すぐに叶えられるのよ? 私はどんな女にでも、あなたの望み通りの女になってみせるわ。あなたが欲しいと思うものは何でも手に入るのよ。私と、楽しみましょ。」
「楽しみたいのならそうだなあ…奴らのことを話せ。…心を見抜かれないようにする方法はあるのか。奴らのコントロールから逃れる方法は。…なぜそんな顔をする。何か方法があるのか。」
「…あなたってバカよ。」
「どうせ君は幻影なんだから、こんな話をしても何の意味もないがねえ。」
コミュニケーターを使うナンバー・ワン。「全回路接続完了。」
スポック:『退避して下さい。』
「全員待避。」 みなゴーグルをつけ、その場を離れる。
『10、9、8、7、6、5、4、3、2、1!』
パワーが充填され、レーザー砲が火を吹いた。
継続して爆発的なエネルギーが照射される。
ナンバー・ワン:「エネルギーを最大レベルに上げて!」
真っ赤になる岩山のドア。
ナンバー・ワン:「効果がないわ、もっと上げて。」
スポック:『回路が過熱してきました。止めないと危険です!』
「…照射中止!」
ドアの色も、すぐに元に戻った。
ナンバー・ワン:「普通の岩なら一瞬のうちに飛び散るのに。」
ボイス:「恐ろしい岩だ。やはり私の予測が現実になった。彼らの計り知れない力に、私達は見るものやすることに、確信がもてない。」
檻で話すヴィーナ。「いいわ。私に教えられることがあれば、教えてあげるわよ。」
パイク:「奴らはどの程度まで私をコントロールできる。」
「それを言えば、私と一緒にあなたの素晴らしい夢の中で楽しく暮らす?」
「…そうだな。」
「あなたが絶対嫌だと思うことは強制できないの。」
「でも幻影を使って罠をかけてくる。」
「それでも協力的にならなかったら罰を与えるの。やがてわかるでしょうけど。」
「…奴らは地上に住んだことがないのか? …なぜ地下へ潜ったんだ。」
「戦争のためよ、何十万年も昔の。」
「だから地上はあんなに荒れてるのか。」
「最近までは、地上では生物は住めなかったの。」
「仕方なく地下へ潜ったタロス星人は、もっぱら精神力を発展させることに力を注いだわけか。」
「そしてその結果に気づいた時は、もう遅かったのよ。夢が現実より重要な意味をもつようになってくると、自分で何かを作り出すことを忘れてしまうのね。先祖が残してくれた機械の直し方までわからなくなってしまうわ。ただ座って、夢の人生ばかりに生きながら…思考の世界に取り残されてしまうの。」
「私のような標本の心をもてあそびながらか?」
「彼らにとっては御芝居を観るより楽しいのよ、幻影を作ってあなたの反応や感情を自分のものとして味わうのが。だから彼らは、この銀河系のほとんど全てのものの標本を手に入れて、子供を産ませて何千年も飼ってるのよ。」
「…というとそれぞれの標本は 2匹ずついるわけだな?」
「…やめて。」
「私の相手をする人間の女も必要なわけだがどこで手に入れる。」 タロス人長官がやってきた。
「約束はどうしたの、あなたの質問に答えたら…」
「君が相手では約束など何の意味もない。だって君は幻影なんだろ。」
「……私は本物よ? この中身はあなたと同じ本物の人間だわ。…私達は丁度、アダムとイヴよ。だから……やめて! できる限りのことはしてるのよ!」 苦しむヴィーナ。
そのまま消えてしまった。
パイクはタロス人を見た。戻っていく。
メンデス:「地球の女か。…じゃあ君と彼女はつがいとして。」
パイク:「(イエス)」
カーク:「なぜだ。動物園の標本を増やすためにか。」
スポック:「それだけではありません。」
また壁を探るパイクが映る。
音がした。壁の一部が開いたようだが、手で開けることはできない。
そばに一本の瓶が落ちていた。
タロス人長官が来ていた。「その瓶には栄養の豊富な複合タンパク質が入っています。」 今度は口を使って話しているが、声は不思議に響いている。
パイク:「動物園の飼育係としては栄養が気になるか。」
「もし型や色が食欲をそそらないのなら、望み通りの食べ物の型に変えてあげます。」
「もし飢え死にしたいと言ったら…」
「無駄です。非協力的な場合は当然の結果として罰を与えます。」
パイクは苦しみだした。
辺り一面が炎に包まれている。熱湯が手にかかる。
元の檻に戻った。
タロス人:「反抗すれば罰を受けるのは当然です。※11今度は栄養素を飲みますね?」
パイク:「だったら、飲みたいようにコントロールしたらどうなんだ。そこまではできないんだろ。お前たちの力にも限界があるんだ。」
「私達の意向を無視し、さらに反抗を続けるなら、さらに不愉快なことが起こるでしょう。」
口にするパイク。うなずくタロス人。
パイクは怒りの形相を浮かべ、タロス人に向かっていく。
後ずさりするタロス人。壁を叩く音だけが響く。
パイク:「どうしたんだその顔は。」
タロス人:「問題の女性ですが。」
「どうしたんだ? 私の心を読めなかったな…」
「あなたの推測通り、地球の宇宙船がここに墜落しましたが生存者はわずかに一人でした。」
「話を逸らせないで欲しいな。さっき私はお前を殺すことしか考えなかったんだぞ?」
「その生存者の傷を治した結果、地球の動物に興味をもったのです。」
「憎悪とか殺意とかいった原始的な考えは読めないんだな…」
「そして今度は男性が欲しくなりました。」
「これじゃいつまで経っても話は平行線だ。断っておくがいくら彼女を魅力的に見せても私は誘いには乗らんぞ。」
「人間を存続させるために相手が必要です。」
「私が彼女を好きになって受け入れたら全ては予定通りか。」
「標本が幸せな新生活を送ることを望みます。」
「ずいぶん聞こえがいいなあ。本当は私達に何を望んでる。人間という標本を永久に存続させるための行為か。単に子孫を作らせるだけではなく、人間の家族や社会を作らせて飼い慣らしたいんだろ。」
「女性は受け入れる準備が整っています。」 戻っていくタロス人。
「お前たちが強制しているんだ! …協力しないのは私なんだから私を罰したらどうだ。」
「まず、本能的に自己を守ろうとし、次に同情か。素晴らしい。」 タロス人はエレベーターに乗った。
場所が変わった。パイクは制服を着ていない。
ヴィーナ:「コーヒーでもいかが?」 白い服になっている。
そこは森の中※12だった。
ヴィーナはピクニックの準備をしている。「あら、ポットを倉に置いたままだわ。」
パイクはつながれている馬に近づいた。鳴く馬。
パイク:「…タンゴ※13! おい、どうしてた。ああ…好物の砂糖がないな。」 ポケットに入っていた。「何でもお見通しってわけか?」
ヴィーナ:「…やっぱり故郷はいい?」
「奴らもいいところを狙う。故郷か。君に協力さえすればもっと素晴らしいことがあるのか。」
「何て穏やかな日なんでしょう、素敵だわ。…その気になれば、いつまでもここにいられるのよ?」
「これは本物じゃない、幻影だ! 私達は動物園の檻にいるんだぞ。」
「違うわ!」
「君がそういう態度を取るなら 2人とも助からんぞ。奴らが幻影を使うことは君が自分で話したじゃないか。先祖が残した機械の直し方さえ忘れたと言った。私達人間を、奴隷に使うつもりなんだ。」
「やめて! …怒らせたらひどい目に遭わされるわ。」
「さっき檻にいた時、奴らにも私の心を読めない瞬間があったようだった。憎悪とか殺意とかいった、そういう原始的な感情は奴らの読心力を妨害するのか?」
「…そうよ。あの人たちは、原始的な感情があると見通せないの。でもいつまでもそんな感情もってるわけにはいかないわ。私もやったの。でもあの人たちはあきらめないでしつこく追いかけて、罠をかけたり苦しめたりして。…私とうとう負けたわ。征服されたの。…そんな人間は大っ嫌いでしょ。」
「いやあ、そうは言った覚えはない。それどころか同情するよ。」
「…同情では駄目なの。わからないの? 彼らは、私の心を読み取ってしまったのよ。私の理想の男性像も彼らにはわかってるの。…だからあなたを選んだの。私はあなたを一目見て…理想の男性を愛すなと言っても無理よ。」
「私も惹かれてることは奴らにもわかってるはずだ。君を一目見た時に、私の胸は高鳴った。」
その様子を見ているタロス人たち。
パイク:『可愛い。野獣のように新鮮で。』
ヴィーナ:『どうして効果がないのかやっとわかってきたわ。故郷へ帰ったり、さっきはライジェル星で戦ったり、みんな既に経験したことよ。人間の一番大きな望み、自分にはできないことを夢見ることじゃないかしら。そうだわ、船長って言うのはいつも礼儀正しく、上品で任務に忠実でなければならない御仕事でしょ? そういったことを全て忘れて、自由になってみない?』
手をかざす長官。
またパイクがいる場所が変わった。派手な服装だ。
男※14がいる。にやついた宇宙艦隊士官※15も。
音楽が演奏される中、全身が緑色の女性が踊っていた。肌も露わな服だ。
士官:「なかなかいいところを御存知ですな。」
踊っているのは、ヴィーナだった。
パイク:「ヴィーナ!」
ヴィーナの映像を見るカーク。「あれもヴィーナか。オリオンの奴隷女※16になってるな。」
パイク:「(イエス)」
メンデス:「オリオンの女はしなやかで動物的だ。陥落しない男はいないと言われている。」
目を見張るパイクが映る。
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※10: 吹き替えでは「0401.8712」。また、「航星日誌」になっています
※11: 原語では「あなたが子供の頃に聞いた、童話の一場面です」
※12: 後ろに見える都市は、後に TOS第13話 "The Conscience of the King" 「殺人鬼コドス」での惑星 Q の背景都市として再利用
※13: Tango 吹き替えでは「タンダ」
※14: 地球の商人 Earth trader (ジョゼフ・メル Joseph Mell 1977年8月に死去)
※15: 宇宙士官 (オリオン) Space officer (Orion) (ロバート・フィリップス Robert Philips) クレジットでは "Starfleet officer" ではありません。この人物は明らかに宇宙艦隊のマークがついた服を着ていますが、幻影とはいえ何してるんでしょう…
※16: Orion slave girl 初登場。前編では (Orion) animal women とも言っていました (前編の脚注※47 参照)。初期の撮影テストではナンバー・ワン/チャペル役のメイジェル・バレットが全身緑色のメイクを施されており、写真も残っています。DVD・完全版ビデオでは「オリオンの踊り子」に修正
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