TOS エピソードガイド
第28話「危険な過去への旅」
The City on the Edge of Forever
イントロダクション
※1※2惑星軌道上のエンタープライズ。 ブリッジでは警報が鳴っている。揺れる船。 カーク:「ミスター・スールー、全力を尽くせ。」 スールー:「軌道を維持しています。でも、舵が重くて。」 揺れは収まらない。惑星はスクリーンに映っている。 身体を支えているスコット。「…コントロール回線が過熱気味です。」 カーク:「厳重にチェック。ミスター・スポック。…これ以上の障害は危険だぞ。」 スポック:「あと 2、3周で障害の原因を突き止められるはずです。」 スールーのコンソールが火を吹いた。 カーク:「ドクター・マッコイ、ブリッジへ。」 代わりに操舵席につくスコット。「手動に切り替えます。まだ軌道を維持しますか。」 カーク:「どうだ。」 スポック:「これは科学的に非常に重要な現象で、我々は時間の波を通過しています。」 「軌道を維持したまえ。」 スコット:「はい。」 「宇宙艦隊司令部に連絡。非常態勢でチャンネルをオープン。まず我々の計器にこの異常な反応が現れてから、いかにして我々がここに来るに至ったかを記した航星日誌を…全文報告したまえ。私の判断ではこれは明らかに…この惑星上で何かが、あるいは何者かが…」 やってきたマッコイに指示するカーク。「スールーを診てくれ。…時間流に影響を与え空間に変化を起こす障害波を作り出している。」 意識を失ったままのスールー。 マッコイ:「動悸が激しい。コルドラジン※3を少し注射してみよう。」 カーク:「危険な薬だ。万一のことがあったら…」 ハイポスプレーを打たれるスールー。目を覚まし、微笑んだ。 マッコイ:「…聞き逃したが今何て言ったんだ?」 カーク:「…誰がだね?」 スコット:「…時間波動をコントロールできるようになりました。」 「よし。ミスター・スポック。」 スポック:「一つだけ、コントロールできません。間もなくそれに乗り入れますが、かなり大きな波のようです。」 立ち上がるマッコイ。また船が大きく揺れた。 その時、マッコイは手に持っていたハイポスプレーで腹に注射してしまった。 叫ぶマッコイ。倒れ込む。 カーク:「ドクター! 君たちは配置につけ。」 スポック:「自分で注射器を。」 「コルドラジンにセットされてた。」 ハイポスプレーを確認するスポック。「空です。」 カーク:「非常救急班を至急呼びたまえ。」 マッコイは顔を上げ、絶叫した。 汗をかいている。「人殺し! 私は殺されんぞ。私は死なん、先に殺してやる。こっちが殺してやるー!」 カークやスポックを払いのけるマッコイ。「捕まるもんか、人殺し! 人殺しー!」 ターボリフトへ向かう。 カーク:「ドクター!」 スポック:「ドクター!」 到着した医療部員の代わりにマッコイはターボリフトに入り、ドアが閉まった。 カーク:「非常態勢。」 |
※1: このエピソードは 1968年度ヒューゴー賞 (映像部門) を受賞しました。TOS ではほかに第16話 "The Menagerie" 「タロス星の幻怪人」も受賞しており、スタートレック全体では TNG の 2話を含めて計4回となります ※2: ハヤカワ文庫のノヴェライズ版は、「宇宙大作戦 謎の精神寄生体」収録「永遠の淵に立つ都市」になります ※3: cordrazine 初言及 |
本編
『航星日誌、補足※4。コルドラジンは 2、3滴なら人命を救うが、それ以上は危険だ。だがドクター・マッコイの身体に 100倍※5に上るコルドラジンが偶然に注入されてしまった。その結果現れた狂気の症状は、一時的なものか永続的なものなのか、今後どのような変化が現れるのか、何一つわからない。』 廊下。 マッコイがいないことを確認し、報告する保安部員のギャロウェイ※6。 マッコイはドアを開けた。転送室だ。 ミスター・カイル※7は気づいていない。後ろからマッコイに殴られ、気を失う。 マッコイはカイルのフェイザーを奪い、転送機を操作した。 ブリッジに戻るカーク。「現状維持。非常態勢継続。医療部の専門家にも予想はできない。一度多量に与えたら、誇大妄想狂になった記録があるだけだ。」 スポック:「それは、ライブラリーテープで確認しました。患者は友人を恐れ、自分の生命が脅かされているとヒステリックに信じて手段を問わず脱走を試みたそうです。もしそれを妨害したら、その相手だけではなく患者自身…」 通信が入る。『こちら保安部、緊急事態!』 カーク:「ブリッジ、どうした。」 転送室にいるギャロウェイ。「こちら保安部 054。転送ルームで、チーフが倒れていました。」 保安部員※8に起こされ、転送機のレバーを下げるカイル。「船長、ドクターが惑星へ降りました。」 スポック:「転送装置は時間障害を引き起こしている地域に、焦点を合わせてあったはずです。」 カーク:「ドクターは独りで、真ん中へ降りたわけだ。上陸班を編成、救出する。以上。」 惑星の地表。 カークたちが転送されてくる。辺りには機械的な音が聞こえ、風が吹いている。 その先に、巨大な物体があった。周りには建物の残骸も転がっている。 カーク:「この廃墟は地平線まで続いている。……記録開始。」 ウフーラ:「…記録開始。」 その中央に穴が空いた物体に近づくスポック。「かなり昔の物ですね。反応では、一万世紀を経ています。」 カーク:「捜査班、散開。……この大きな輪は何だ。何かのエネルギーが鼓動しているようだが。…分析したまえ。」 スポック:「とても信じられません。」 「何がだ。」 「時間障害は全てこれが引き起こしていたんですね。」 「もっと詳しく。」 「わかりません。…私が理解してる科学では、そのようなことは不可能なはずです。」 回り込むスポック。「現在もなお活動しています。何百万キロ※9彼方で我々がキャッチした時間の障害波も、これが出していたんですね。」 コミュニケーターを使うウフーラ。「上陸班からエンタープライズ。ドクターの手がかりはありません。捜査続行中。」 ウフーラたちが通り過ぎた後、岩陰に隠れていたマッコイが姿を現した。走っていく。 トリコーダーで調べたスポック。「恐るべき力です。我々の知っている技術からは考えられません。」 カーク:「何だろ。」 突然、その物体が明滅した。『質問か。……諸君の太陽が燃え人類が生まれる以前から、私は質問を待ち続けていた。』 カーク:「……何者だ。」 『私は永遠の管理者※10だ。』 「…というと、機械かそれとも生物か。」 永遠の管理者:『どちらでもないと言っておこう。私は私だ、ほかに同類はいない。』 スポック:「それでは回答にはならんな、依然として謎だ。」 『諸君が理解できるように易しく言ったつもりだが。』 スコットに見つからぬよう、隠れているマッコイ。去ったのを確認して動き出す。 永遠の管理者を見るスポック。「これは時間の門です。他の次元や時代に通じる一種のゲートに違いありません。」 永遠の管理者:『諸君のレベルで言えばそうだ。諸君の科学知識は非常に低い。』 「何?」 カーク:「ショックかね?」 眉を上げるスポック。 永遠の管理者:『見たまえ。』 穴の部分に白い気体が降ってくる。『望むなら、過去への通用門になってみせよう。』 穴の向こう側に、地球のエジプトが見える。 次々と切り替わる場面。全て過去の地球だ。 マッコイ:「人殺しー!」 保安部員から逃げる。「人殺し、捕まってたまるか。先に殺してやる。こっちが、殺してやるー! 人殺しー、人殺しー!」 駆けつけたスポックから、ヴァルカン首つかみを受けた。倒れるマッコイ。 永遠の管理者は、まだ過去を映し出している。 カーク:「スポック。…もしあれが過去への門だとしたら、どうだろう。一度ドクターを一日ほど過去に戻して、そして…」 スポック:「事故を再現しますか。あの注射の事故だけは、起こらないように手配して。」 変わり続ける「過去」。 スポック:「しかし過去は大変なスピードで流れていますよ。こちらの望む正確な日に戻るのは……。」 カーク:「管理者。…昨日のところまできたら、スピードを変えられるかね。」 永遠の管理者:『私はこの方法で過去を提供するように造られている。変えることは、できない。』 永遠の管理者に見入るスコットたち。 カーク:「不思議な誘惑を感じる。…一歩踏み込めば、自分が過去の世界へ行ってしまうんだ。」 マッコイは目を覚ました。 トリコーダーを使うスポック。「うっかりしてました。…トリコーダーならこのスピードでも記録できるはずです。何世紀もの生きた歴史を記録すきるチャンスを逃したとは実に残念です。」 マッコイは身体を起こし、素早くスコットたちの間をすり抜けた。 スコット:「ドクター! 待って下さい!」 カーク:「ドクター、やめろ!」 マッコイは永遠の管理者の中へ飛び込んだ。 その途端気体は消え、過去の場面も見えなくなる。 間に合わなかったカークは、地面に倒れ込んだ。「どこへ行った。」 永遠の管理者:『いま現れていた過去へ戻った。』 ウフーラ:「…船長。船との連絡が切れました。いま反応があったのですが急になくなってしまって。信号音も、一切しません。」 カーク:「カークからエンタープライズ。スコッティ。」 スコット:「……通信機には異常ありません。」 永遠の管理者:『諸君の船も記録も、あったものは全て消えてしまった。』 カーク:「……ドクターが…歴史を変えてしまったんだ。」 スコット:「じゃあ我々はここに置き去りですか。」 スポック:「過去も未来も、何もない。」 ウフーラ:「…船長。どうなるんでしょう。」 カーク:「もう地球もない、少なくとも我々の地球は。…我々は、宇宙の孤児だ。」 空を見上げるカーク。 宇宙にはエンタープライズはない。 |
※4: 吹き替えでは「宇宙暦 0401.8532」。一部資料ではこのエピソードの宇宙暦が 3134.0 となっていますが、実際には全く言及されていません ※5: 吹き替えでは「100滴」 ※6: Galloway (デイヴィッド・L・ロス David L. Ross) TOS第23話 "A Taste of Armageddon" 「コンピューター戦争」以来の登場。一部資料では、他のエピソード同様階級が大尉となっていますが、今回は少尉 (帯なし) です。声は、一部資料では永遠の管理者役の大木さんが兼任となっていますが、違うような… ※7: Mr. Kyle (ジョン・ウィンストン John Winston) クレジットでは転送部長 (Transporter Chief)。TOS第24話 "Space Seed" 「宇宙の帝王」以来の登場。声は警官役の神山さんが兼任? (次項参照) ※8: 保安部員その1 Guard #1 (マイケル・バリア Michael Barrier TOS第18話 "The Squire of Gothos" 「ゴトス星の怪人」などのデサル大尉 (Lieutenant DeSalle) 役) 一部資料ではデサルと同一になっていますが、役職・階級 (少尉) が異なります。声は、一部資料では警官役の大木さんが兼任となっていますが、そもそもセリフがないと思われます。カイルとの混同でしょうか? ※9: 原語では「マイル」 ※10: Guardian of Forever (声:バーテル・ラ・ルー Bartell La Rue TOS第18話 "The Squire of Gothos" 「ゴトス星の怪人」のトリレーンの父親 (Trelane's Father) の声、第43話 "Bread and Circuses" 「もう一つの地球」の帝国アナウンサー (Imperial Announcer)、第46話 "The Gamesters of Triskelion" 「宇宙指令! 首輪じめ」の支配者その1 (Provider #1) の声、第52話 "Patterns of Force" 「エコス・ナチスの恐怖」のニュースキャスター (Newscaster)、第77話 "The Savage Curtain" 「未確認惑星の岩石人間」のヤルネク (Yarnek) の声。1990年1月に死去) スタッフは「ドーナツ」と呼んでいたそうです。声:大木民夫、旧ST4 スポック、VOY ブースビー、新旧ST2 カーン、旧ST5 サイボック、叛乱 ドアティなど |
惑星。 『航星日誌、宇宙暦なし。我々にとって、もはや時間は存在しない。ドクターが過去へ戻り、時間の流れを変えてしまったのだ。今や地球もエンタープライズも、何もない。望みはただ一つ。私とスポックも過去に戻り、ドクターに歴史を変えるようなことをさせないことだ。』 ウフーラやスポックはトリコーダーを操作している。 再び永遠の管理者には、過去の様子が見える。 スポック:「ドクターが入った時に記録を始めていましたが、あれはアメリカのかなり原始的な時代でしたね。我々が入る時間は、大体計算できます。恐らく、誤差は一ヶ月とないでしょう。運が良ければ、一週間です。」 カーク:「ドクターが着く前に行かなければ意味がないぞ。たとえどのようなことでも、歴史を変えるようなことを彼にさせてはならない。……管理者よ。もしこれが成功したら?」 永遠の管理者:『諸君はここへ戻れる。そして全ては元通りになる。』 ウフーラ:「……船長。望みはありませんわ? たとえ正しい日にちが計算できても。」 スコット:「ドクターを見つけるなんてまさに奇跡ですね。」 スポック:「ほかに方法はない。」 カーク:「……スコッティ。いつまでも戻らなかったら、君たちも試して欲しい。もし失敗しても、過去のどこかの世界で人類と共に生きられるからだ。」 スコット:「はい。」 スポック:「間もなく時間です、待機して下さい。」 「幸運を祈ります。」 ウフーラ:「どうぞお幸せに。」 20世紀の様子が見える。 スポック:「用意。…今です!」 2人は飛び込んだ。 街角に現れた。後ろにはボクシングの試合を告知するポスターが貼ってある。 街を行き交う人々。自動車も走っている。 ※11カーク:「この時代は、古い写真で見たことがある。…経済に大変動が起こった時だな?」 スポック:「『大恐慌※12』と呼ばれました。1930年代です、原始的ですね。」 通りかかった女性が 2人に気づいた。耳を隠すスポック。 怪訝な顔をしながらも、歩いていく女性たち。 カーク:「この時代から見ると、我々の服装は常識外れだな。」 スポック:「いずれにせよ、私の場合はちょっと説明に困りますね。」 「もし外見がごまかせなければ、私が何とか上手く…理由をつける。」 「それは楽しみですね。」 依然として注目を受ける。 カーク:「とにかく行こう。」 道路を渡ろうとする 2人。 自動車が急停止した。「バカ野郎!」 スポック:「はい※13。」 カーク:「スポック。」 運転手※14:「轢かれたいのか、真っ直ぐ前見て歩け。」 走り去る車。 道路を渡りきったカークは、上を示した。階段の途中に服が掛かっている。 スポック:「盗みですか?」 カーク:「いや。富める者から頂いて、貧しい者に与えるんだ※15。…待ってろ。」 階段を上がっていくカーク。服を失敬し、降りてくる。 辺りをうかがうスポック。 カーク:「この時代が気に入りそうだな。この調子なら、何でも簡単にできるぞ。心配いらなかった…」 咳払いが聞こえる。 警官※16が来ていた。「……どうした?」 後ろから見ている者もいる。 カーク:「あなたは警官ですな。そのう…伝統的な服装ですぐわかります。」 スポック:「……船長が上手く説明するはずでしたね。」 「この男は、ご覧のように変わってまして※17…耳に気がついたでしょう。これには簡単なわけがありましてねえ。」 「…子供の頃不幸な事故に遭ったというのはどうですか?」 「子供の頃不幸な事故に遭って、頭を機械に突っ込みましてね。…麦刈り機※18に。…ところが運のいいことに、近くにアメリカ人の牧師が住んでおりまして、その人が、その…実は一流の整形外科の腕をもってまして…」 警官:「いつまでバカなことを言ってる! 盗んだ物を置いて、両手をあの壁につけろ! とぼけるな!」 人も集まっている。 身体検査する警官。 カーク:「おや? 出てくる時奥さん何とも言ってませんでしたか?」 警官:「え?」 スポック:「だらしなくボタンが外れてますよ、はめてあげましょう…」 その瞬間、スポックはヴァルカン首つかみをした。 見ている野次馬。カークは服を持ったまま、スポックと共に反対側に逃げ出した。 警官の笛が響く。走り続けるカークとスポック。 人々が並んでいる建物の隣に逃げ込んだ。地下への階段を下りていく。 地下室に入った。倉庫のようなところで、クモの巣が張っている。 カーク:「私が苦境に立ってるのを楽しんでたな? ああいう君は地球人そっくりだ。」 服を置く。 スポック:「上官と言えども私を侮辱する特権はないと思いますがね、いかがでしょうか。」 その服を手に取っていく。 「すまん。」 着替え終わった。 カーク:「この辺で、情勢を分析しよう。」 スポック:「まず、ドクターが現れるまでに約一週間はありますねえ。しかしそれはあくまでも…」 「どこへ現れる? ホノルルか、ニューヨーク※19か、サンディエゴか? ちょっとするとモンゴリアの外れかもしれん。」 「ある理論では時間とは川の流れに似たものであると言っていますが、もしそうなら望みをもてますね。場所に関して。」 「ドクターをある場所へ運んだ、その時の流れに私達も乗れば…同じ場所へゆけるかもしれんな?」 「この理論が駄目なら望みはありません。…残念です。ここには、ドクターが現れる場所と時間がロックされています。彼が、これからすることも。…ほんの 2、3秒でいいから、船のコンピューターにこれをかけられたらいいんですが。」 「コンピューターに似た物をここで組み立てられないかな。」 「この亜鉛板と真空管の時代にですか。」 「そうだ。理論的には非常に困難な命題を、あえて課すことになるな。……いやあすまん、君の才能に期待しすぎてた。」 かまどを見るカーク。 目を開くスポック。 地下室に明かりが灯り、女性の声が聞こえる。「誰なの?」 すぐに帽子を被るスポック。 降りてきた女性に話すカーク。「申し訳ありません。下心はないんですが、外は寒くて。」 女性:「…もっと上手な嘘をおつきになったら? 外が寒い?」 「……あ、いえ。実は、警官に追われまして。」 「どうして?」 「…この、服を…盗んだんです。…お金がなくて。」 手すりのホコリに気づく女性。「…あのう、ちょうど人を捜してましたの。もしお皿洗いや御掃除をして下さるなら。」 スポック:「報酬はいくらでしょうか。…趣味で、ラジオの真空管や道具を買いたいんで。」 「……一日 10時間で一時間 15セント。お名前は?」 カーク:「私はジム・カーク。彼は……スポックです。」 「…私はエディス・キーラー※20よ。まずここの御掃除から始めて下さい。」 「失礼ですが……ここはどこです。」 キーラー:「21番街の伝道会館※21。」 「あなたが持ち主ですか。」 「そうらしいですわね。」 上がっていくキーラー。 スポックに話すカーク。「真空管や、道具か。その趣味は大いに奨励するぞ。」 男達が順番に食事を受け取っている。同じように受け取り、匂ってみるカーク。 スポックと共に席についた。 キーラーがやってきた。「こんばんは。」 本を携えており、中央にあるピアノのそばに立つ。 カークの隣にいる男、ローデント※22。「食うのやめな。」 カーク:「なぜだ。」 「ただで食わせてもらうつもりか。話を聞きな。飯代の代わりに。」 キーラー:「どなたかが先に言って下さったようですけど、お代を頂く時間です。」 笑う男性たち。 「もっといい女だといいんだけどよ。でもま手が欲しけりゃ俺に一言言ってくれりゃ…」 カーク:「うるさい。」 「いやあ…」 「黙ってろ。…何を話すつもりなのかな。」 スポック:「興味がありますね。」 キーラー:「まずはじめに一つはっきりとさせておきましょう。私は慈善家ではありません。だからこの中に怠け者のルンペンや、何か悪いことをして生きてる方がいらっしゃったら帰って下さい。」 微笑むカーク。 キーラー:「私はここで、愛や幸せについて語ろうとは思いません。ただ生きるのさえ辛い時ですもの。だから強調したいのは生きるということです。なぜならば生きていなければやがてくる素晴らしい未来を見られません。いつか近い将来…人間は、巨大なエネルギーを利用することに成功するでしょう。…原子力かもしれません。そうなれば人間はついに宇宙船のようなものに乗って、別の世界へ行けるでしょうし、別の世界へ行けるほどの人間なら…この世界の何百万という飢えた人々や病人を救う方法も必ず発見すると思います。この苦しい時代の向こうに待っているのは、輝く素晴らしい未来なのです。その日のためにがんばって生きましょう。どんなに厳しい冬でも…」 カーク:「原子力の開発、それに続く宇宙飛行は遥か未来なのに。」 スポック:「…彼女は素晴らしい才能をもっています。」 「非常に、興味のある女性だね。その辺の人間とは大違いだ。」 話し続けるキーラー。「…輝く未来のために、準備しましょう。」 食器を返すカークたち。 キーラーが近づいた。「カークさん! あなたは働き者ね? 地下室が、見違えるように綺麗になったわ?」※23 カーク:「じゃあまた仕事をもらえるかな?」 「明日の朝 7時に来て? 寝床※24はあるの?」 「何?」 微笑むキーラー。「この土地の人じゃないのね? 寝るところって意味よ?」 カーク:「ああ。」 「うちのアパートに空き部屋があるの。週 2ドルだけど、いらっしゃる?」 「ありがとう。」 キーラーは笑い、歩いていった。 カーク:「寝床があった。」 スポック:「何ですって?」 「寝るところだ。」 「じゃあ、最初っからそう言えばいいのに。」 男がヒゲをさすりながら、2人の間に割って入った。 キーラーのアパート。 いろいろな機械が音を立てており、スポックが作業している。 ドアの音が聞こえ、帽子を被ろうとしたスポック。入ったのがカークだとわかり、やめた。 買い物袋を抱えたカークは、高い音を出す機械のスイッチを切った。 スポック:「船長、プラチナが必要ですね。ほんの 2、3キロ※25あれば用が足りるんですが。……それに、ある回線を通すと界磁鉄心として使用できると思います。」 カーク:「まあ、これを見てからにしたまえ。君にはお好みの野菜。私にはソーセージとパン。そして過去 3日間の給料の…10分の9 は全て君の注文通りの道具に払ってしまったんだ。残念ながらこの袋にはプラチナも金も銀も入ってないし、将来も入る可能性はないな。」 「船長、石の斧やクマの毛皮とあまり変わらない原始的な道具で満足な仕事はできますか。」 「ドクターは後 2、3日で来る。…遅くともだ。しかし我々がすぐに、顔を合わせるという保証はない。…何とか頼む。」 「船長。……多分この調子だと 3週間か 1ヶ月経って、やっと記憶回線※26ができるかどうかですよ?」 ドアを叩く音。 カーク:「帽子だ。」 スポックはすぐに帽子を被り、ドアに立ちふさがるように立つカーク。 キーラー:「すぐ働きがあるなら一時間 22セントの仕事がありますわ?」 機械に気づいた。「それ、何をなさってるの?」 カーク:「記憶回線を作ろうと、全力を傾倒してるところなんですがね。しかも、石の斧とクマの毛皮を使ってね?」 何のことかわからないキーラー。カークとスポックも後に続いた。 道具を使って時計を修理している男たち。 そばでカークとスポックは掃除をしている。 スポック:「船長。」 指さす。「どうです。あの素晴らしい道具。」 暗い部屋で、スポックは箱の錠を回している。 キーラーが地下室に降りてきた。「その道具箱の箱は合わせ番号なのに、あなたプロのように開けたわね。…何のためですか?」 スポック:「…ラジオを作るのに借りたかったんです。朝までにはお返しします。」 「悪いけど、黙って…」 カーク:「ほかの人ならともかく、スポックがはっきりと明日の朝までに返すと言ってるんですからね。…私の、全てを懸けても構いませんよ? キーラーさん。」 「……その代わりに…送って下さる? あなたたちについてまだお聞きしたことがあるの。」 笑うキーラー。「そんな胡散臭そうな顔をして私を見ないでちょうだい。あなたたちが普通の人じゃないことぐらい一目でわかりますわよ?」 スポック:「面白い。では我々は何者だと思います。」 「あなたは…ともかくカークさんといつも一緒で離れられないって感じで、あなたは…まるで、別の世界の人のよう。どうやっていらしたのか知らないけれど、そのうちきっと…突き止めてみせるわ?」 微笑むカークとキーラー。 スポック:「…かまどの掃除をします。」 キーラー:「『船長』。…いつもはそれが後ろにつくんじゃなあい?」 戻っていくキーラー。 カークは後を追った。 夜道を歩くカークは、キーラーの手を握った。 「ラジオ修理」と書かれた店※27の中で、ラジオから歌※28が聞こえている。 キーラー:「どうしてあなたは船長さんなの。一緒に戦争へいらしたの?」 カーク:「同じ、隊にいました。」 「…でもそれは、あんまり話したくないようね。どうして?」 「うん…」 「何か、悪いことでもなさったの? 何かを怖がってらっしゃるの? 教えてちょうだい、力になるわ?」 「…力になる※29。私の予測では今から百年ほど後にある有名な作家がそのセリフを使って素晴らしい作品を書きますよ。『愛してる』という言葉より流行らせるんです。」 「今から百年後に? どんな人でどこから来たの? いいえ、どこから来るんでしょう。」 「バカらしい答えだが、聞いてくれますか。」 「ええ。」 「惑星です。」 空を指さすカーク。「オリオン・ベルト※30の左端の星を回っている。ほら、見えますか?」 見つめ合う 2人。 暮れゆくニューヨーク。 カークとスポックの部屋。 機械を操作するスポック。トリコーダーの画面上に新聞記事が表示された。 キーラーの写真だ。 スポック:「社会事業家、エディス・キーラー死亡。」※31 映像が乱れた。調整するスポック。 帰ってくるカーク。「石の斧に毛皮の具合はどうだ。」 スポック:「問題の時間に焦点が、合いそうですね。」 「焦点が合うのも結構だが、どっかが燃えてるんじゃないのか?」 「わざとオーバーロードしてるんです。我々の望む回答は、この画面に出ます。」 「よし。」 「でも、船長? あまり愉快なことではないかもしれませんが…」 「いいから早く見せたまえ。」 「…例の惑星で収録した記録のスピードを落としました。」 「よし。2月23日、1936年。6年後だ。」 見出しは「F・D・R※32、スラム地区の『天使』と協議」となっており、またキーラーの写真がある。 カーク:「『大統領とエディス・キーラーは…長時間協議をした。』」 映像は消え、真空管が火を吹いた。 カーク:「……どうだ。」 スポック:「重傷です。」 「…大統領と。あのエディス・キーラー。」 「その可能性はあまりありません。実は先ほど、1930年の新聞を読んだんです…」 「彼女の未来か。後わずか 6年後には、彼女は国家的な重要人物だ。」 「あるいはです、死亡するかですね? 今年中に。…死亡記事を見ました。……交通事故に見舞われて。」 「何かの間違いだ。2つの未来があるなんて。」 「このエディス・キーラーが、我々の探していた焦点に違いありません。我々とドクターは彼女の存在を通じて再会できるんです。」 「だから未来が 2つあるのか。そして彼女が、どちらの道を進むかで……世界の歴史は大きく変わる。つまりドクター。」 「鍵を握ってます。」 「あの状態で彼女に何をする。殺すか。」 「それとも事故から救うかですね。どっちかわかりません。」 「……早く修理したまえ。ドクターが現れる前に答えを見つけないと。」 「船長。歴史を変えないためにあのエディス・キーラーが死ななければならないと出たら、船長はどうします。」 一度開けたドアを閉めるカーク。 |
※11: TOS の国内オンエア分では、カット部分が存在しています。DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (スーパーチャンネル版との比較)。LD では基本的に、その部分だけ字幕収録です ※12: Great Depression ※13: "Fascinating." ※14: この声は現マッコイの小島敏彦さんが兼任 ※15: ロビン・フッドより ※16: Policeman (ハル・ベイラー Hal Baylor TOS第57話 "Elaan of Troyius" 「トロイアスの王女エラン」の護衛 (Guard) 役。1998年1月に死去) 声:神山卓三、旧ST4 スコットなど ※17: 原語では「ご覧のように中国人でして」 ※18: 米刈り機 mechanical rice picker ※19: 原語では「ボイジー」(アイダホ州都) ※20: シスター・エディス・キーラー Sister Edith Keeler (ジョーン・コリンズ Joan Collins ドラマ「ダイナスティ」(1981〜89) のアレクシス・キャリントン・コルビー役) 声:山崎佐度子、DVD 補完では山川亜弥 ※21: Twenty-First Street Mission ※22: Rodent (ジョン・ハーモン John Harmon TOS第49話 "A Piece of the Action" 「宇宙犯罪シンジケート」のテポ (Tepo) 役。1985年8月に死去) 名前は言及されていません。ローデントには「齧歯類」という意味があるので、一種のあだ名かも。声:永井一郎 ※23: このシーンで壁にカレンダーがかかっており、1日が木曜日で 30日間の月です。本来の 1930年にはそのような月はなく、1928年11月の次が 1932年9月となっています。さらに 14日が祝日であることから 6月とわかり (国旗制定記念日。小さく見える前月の 30日も休日で、5月の戦没将兵記念日)、曜日が合致するのは 1922年の次に 1933年となります。実際には撮影時の 1967年のものだと思われます ※24: flop ※25: 原語では「5、6ポンド」 ※26: mnemonic memory circuit ※27: この辺のセットは、ドラマ「メイベリー110番」(1960〜68) で使われたものの使い回しだそうです ※28: "Good Night, Sweetheart" という曲 ※29: "Let me help" 吹き替えでは「そんなことより、私の予測では今から百年ほど後にある有名な作家があのメロディを使って素晴らしい詩を書きますよ。その詩の中に出てくるのも、愛ですね」 ※30: 「オリオンのベルト」というのは、オリオン座の中心にある三つ星のこと。左からオリオン座ゼータ、イプシロン、デルタ星。吹き替えでは「オリオン雲状帯」 ※31: 見出しを読んだこのセリフは、原語にはありません ※32: フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領のこと |
ローデントが街角に立っている。通りかかる馬車は、牛乳配達用だ。 辺りをうかがい、配られたばかりの瓶を手にするローデント。 その時、道路上にマッコイが時を越えてきた。「人殺しー! 人殺しー。…人殺しー、人殺しー!」 ローデントに気づく。「君! ここはどこの惑星だ。」 動けないローデントに近づいてくる。ローデントは牛乳を落とし、瓶が粉々に砕け散った。 マッコイ:「待て。逃げるな、私は殺さん。人殺しはほかの奴らだ。逃げるな、私は何もしない!」 ローデントを追う。 階段を上りながら笑うカーク。 キーラー:「どうして? 人間が月に行くってことがそんなにおかしい?」 カーク:「…なぜわかります?」 「何となく私にはわかるのよ、身体で感じるの。それにね、いつの日かバカげた戦争や死に莫大なお金を使うこともきっとなくなるわ?」 「人類は団結しますか。」 「そうよ?」 部屋の前に来るキーラー。「私と同じ夢をもってらっしゃるのね。身近に感じるわ。」 「私もです。」 口を近づけるカーク。 ローデントを取り押さえるマッコイ。 ローデント:「…いや、やめろ。」 マッコイ:「君も逃げられてよかった。」 「いやあ、俺は…」 「なぜ奴らは殺したがるんだ。」 「…お前さん、お前さんよ。あんまり悪い酒飲みすぎたんで、な、何だって勝手にそう思い込んじまって…」 「どこだ、ここはどこだ。地球か。…星座から見るとそうらしいな。」 逃げようとするローデントを押さえるマッコイ。「わけを話せ、これはトリックだろ。」 「何の。」 ローデントに見入るマッコイ。「足は 2本。頭は。」 帽子を取り、頭をつかむ。「いい状態で発達している。明らかにこれは人類の先祖の兆候だ。これで私を罠にかけるつもりなのか。よくできてる。博物館の記録を再現したな? …このセメントの道も上出来だ。…大昔の街にそっくりだぞ。なあ、病院はどこだ。病院を見たい。多分、針で…縫い合わせて…悲劇だ。手術の時、人間を布のように切って縫い合わせるなんて。…針で…恐ろしい。悲劇だ。」 倒れ込んだ。 ローデントは周りに誰もいないことを確認し、帽子を拾った。 マッコイの身体を探る。フェイザーを盗み、立ち去った。 離れたところに来たローデントは、フェイザーのスイッチを押した。高い音が響く。 光に包まれる。フェイザーごと、ローデントは蒸発した。 眠ったままのマッコイ。 ※33カークとスポックの部屋。 カークが帰ってきた。機械は更に拡張されている。 カーク:「後どのくらいかかる。」 スポック:「少なくとも、あと 2日はかかりますね。」 「マッコイはとっくに来てるかもしれないんだぞ? …彼女を巻き込む事件が、今夜起きるかもしれないんだ。どうする。」 「船長。…そのわずかな情報でさえ、30時間の労働の末にやっと得られたもんなんです。」 「…もし万が一、彼女が死ぬのだとしたら…できることをしてやりたいんだ。」 朝の街を歩くマッコイ。 売り子の声が聞こえる。「さあ、新聞を買ったかった。買わなきゃ損だよ。面白い記事が一杯だ。さあさあ買ったかった。新聞だよ、新聞。」 伝道会館に、吸い寄せられるように歩いていくマッコイ。 たくさんのカップにコーヒーを注いでいるキーラー。 マッコイ:「あの、ちょっと。そのコーヒーは素晴らしい匂いですね。」 キーラー:「ひどい顔をして。さあ、こちらへ来て座りなさい。」 「ダメだ、こんなところにいたら奴らに見つかってしまう。」 「さあ。じゃあ、裏の部屋で寝たらどう? あそこなら大丈夫、いらっしゃい。」 連れて行くキーラー。 調理場にやってきたスポックが、キーラーの代わりにコーヒーを注いでいく。マッコイには気づかなかった。 操作するスポック。「ドクターが歴史を変えるとこうなります。ほら。1930年代後半に平和主義が巻き起こって※34、その影響でアメリカは第二次大戦に参戦するのが遅れます。平和交渉が行われてる間、ドイツは重水に関する実験を終了しますね。」 映像が次々と映る。 カーク:「ドイツ。ファシズム。ヒットラー。」 ナチスの映像が映る。「ジーク・ハイル! ジーク・ハイル!」 カーク:「ドイツが戦いに勝つのか。」 スポック:「歴史の流れは変わり、ドイツは先に原爆を開発します。念のためにもう一度見てみましょう。」 トリコーダーのスイッチを操作する。「『エディス・キーラー、平和運動の提唱者。』」 「思った通りだ、彼女は平和を望んでる。」 「彼女の運動は、敗戦を招きます。原子爆弾と、それを運ぶ V-2号をもつドイツは世界を征服しますね。」 「じゃあ…」 「これは全てドクターがここに現れ、エディス・キーラーを何らかの方法で交通事故から救うからです。運命に背いて、それを止めなければ。」 「……どんな事故だ。いつだ。」 「この映像から大体の予想はできますが。事故は正確にいつどんな形で起こるかは確認できません。残念です。」 「スポック。…言おう、はっきりと。…私はエディス・キーラーを愛してる。」 「死ななくてはなりません、エディス・キーラーは。」 |
※33: ここでキーラーのアパートの外見が映り、1930年という設定なのに右の方に放射能マーク (核シェルターの表示) が見えます ※34: 吹き替えでは「1939年後半にファシズムが吹き荒れて」と、大事なところで逆の意味になっています。pacifism と fascism の聞き違い? |
伝道会館。 マッコイはベッドで目を覚ました。 キーラー:「あらダメじゃありません。いま無理したら取り返しがつかなくなりますわ? 横になって。」 マッコイ:「…実に下らんことを聞きたいのですが、ここはその…どこでしょう。……いや、やっぱり取り消します。」 「どうしてです?」 「答えを聞きたくないからですよ。もしも聞いたら証明するようなもんだ、私がおかしくなって幻影を見てるって。……古い地球に似てるなあ、1920年か 25年頃。」 「30年にしていただけません?」 「…やはり私はおかしい、これは幻影だ。」 「…あなたと同じようなことを話す人を知ってますわ? お会いになってみます?」 「私は医者だ。心理学者じゃない※35。…名前は、レオナルド・マッコイ。現在、エンタープライズ※36の医療主任を務めています。…あ…。」 「…それを、疑うわけではありませんけど随分変わった軍服ですわね?」 「ご心配なく、もうやめましょう。夢の中で話し合っても仕方がない。」 「おやすみなさい?」 出ていくキーラー。 一度振り返ると、マッコイは穏やかに眠っていた。 キーラーのアパート。 階段を上っていくキーラーを見るカーク。「エディスさん。」 キーラー:「私をつけてらしたの?」 「下心があってと言ったら、どうします?」 スポックも部屋から出てくる。 キーラー:「どんな下心…」 その時、キーラーが足を踏み外した。支えるカーク。 キーラー:「…何千回も上り下りしてるのにバカみたい。首でも折ったら大変。」 キスする二人。 スポックは部屋に戻る。 キーラーは去った※37。階段を下りるカーク。 スポックがまた出てきた。「船長。お邪魔はしたくないんですが。」 カーク:「ですが何だね。」 「いま彼女はその、あのまま落ちていたら…死んだかもしれないのになぜ止めました?」 「…まだ早いさ、ドクターが来てない。」 「正確な事実はわかりませんね。既にもうどこかに来ているかもしれません。もし彼女を心の赴くままに助けたら、死なずに済んだ何百万の人間が死ぬんですよ。」 アパートを出ていくカーク。 カップを口にしたマッコイは、ドアを叩く音に応えた。「どうぞ。」 キーラー:「まあ、すっかり御元気になられましたわね。」 「おかげで。」 「夕刊でもお読みになるかと思って。」 「あまり興味ないですね。とにかくこれは全てコルドラジンによる、幻影だとわかってますので。…でもあなたは本物だ。」 「まあありがとう。」 「だとすると、何者ですか。」 「お友達。お見えになった時独りじゃ寂しそうだったので。」 「助かりましたよ。このうちは、えー…あなたが?」 「皆さんのために。」 「どうして。」 「人間の義務です。」 「立派な態度ですね。あなたは命の恩人だ。」 「もう悪いお酒に引っかかるのはおやめなさい?」 笑うマッコイ。「あんな悪い酒は二度と飲みませんよ。ところで感謝の印に何かお役に立ちたいんですが…いかがでしょう。」 キーラー:「まあ、そのお話は後でまた。もう行かないと、お友達とクラーク・ゲーブル※38の映画を見に行きますのよ?」 「誰の映画?」 「クラーク・ゲーブル。…ご存知ありません?」 「ええ、映画は知ってますけど。でも…」 「不思議な方ね。…どうぞごゆっくり、じゃ行ってきます。」 伝道会館から出てくるカーク、スポック、キーラー。スポックは離れる。 カークとキーラーが道路を渡ろうとした時に自動車が急停止したが、特に問題もなく渡りきる。 キーラー:「…急げばオーフィリウム※39のクラーク・ゲーブルの映画に間に合うわ、早く行きましょう?」 カーク:「誰の?」 「ぜひ観たいの。マッコイ先生も同じことをお聞きになったわ…」 「マッコイ? レオナルド・マッコイか。」 「…そうよ? いま会館にいるわ?」 「ここにいなさい。スポック! そこを動かないで。スポック!」 道路を渡って戻るカーク。 戻ってきたスポック。「何です。」 カーク:「ドクターが、ついに現れ…」 ちょうどマッコイも出てきた。「カーク!」 抱き合うカーク。「よかった。」 3人の姿を見たキーラーは、道路に飛び出した。向こうからトラックが来る。 キーラーに気づくカーク。 マッコイ:「危ない!」 スポック:「船長!」 カーク:「エディス。」 カークは道路に出ず、声も上げない。 マッコイが向かおうとする。カークは身を挺して、それを遮った。 目の前で、キーラーにトラックがぶつかった。絶叫。 倒れたキーラーに人々が駆け寄る。「どうした、大丈夫か!」 目をつぶったままのカーク。 マッコイ:「…君はわざと、私を止めたな? …助けられたのに。自分のしたことがわかってるのか。」 カークはマッコイから離れた。 スポック:「誰よりもわかってます。船長には。」 拳を握り締めるカーク。 永遠の管理者がいる惑星。 カークとスポックが出てきた。元の制服だ。 スコット:「どうしたんですか、いま入ったばかりなのに。」 続いてマッコイも帰ってくる。 スポック:「見事に成功した。」 永遠の管理者:『……時間は正しい流れを取り戻し全ては元に戻った。望むなら今後も、今のような旅は可能だ。』 ウフーラ:「船長、エンタープライズが現れました。転送はまだかと言ってますが。」 カーク:「……早く地獄を出よう。」 並ぶクルー。転送※40されていった。 永遠の管理者の音は響き続ける。 |
※35: "I'm a surgeon, not a psychiatrist." ※36: 吹き替えでは「エンタープライズ号」 ※37: キーラーが足を踏み外した直後、両足の靴はそのままです。ですが階段を上がっていく時、いつの間にか右靴が脱げています ※38: Clark Gable 映画 "Sporting Blood" (1931)、「紅塵」(1932)、「ダンシング・レディ」(1933) などに出演していますが、1930年時点ではエキストラのような役しか担当していませんでした ※39: この部分は訳出されていません ※40: 転送室で一度に転送できるのは 6人までのはずですが、7人になっています (マッコイが加わっているため) |
感想など
TOS、更にはスタートレック全体を代表する名作です。私はその評判を聞いてストーリーは先に小説版で知りましたが、思い切った設定と悲劇的な最後に驚きました。映像としても、永遠の管理者 (原語ではガーディアンなので守護者) や過去の風景など、タイムスリップものとしての魅力が満載です。自分でも脚注で細かいミスをたくさん挙げていますが、そんな些末なことはどうでもいいんですよね。この話を気に入っているというシャトナーは、エディス役の才能に妬みすら覚えたとか。 脚本は SF作家のハーラン・エリスン。ヒューゴー賞のほか、アメリカ脚本家組合 (WGA) 賞も受けています。エリスンの作品には「世界の中心で愛を叫んだけもの」のように、「中心」や「淵 (縁)」を冠したものがいくつかありますね。ただし当初のストーリーと大きく変わったことを彼は不満に感じており、後にオリジナル脚本を収録した書籍 [Amazon.com / スカイソフト / Amazon.co.jp] を出しています。元々は騒動を引き起こすのはマッコイではなく、何と麻薬中毒の一クルーでした。DS9 のように多彩なストーリーを扱えるならともかく、この頃としては変更して正解だったように思います。歴史を正す最後の行動を取るのも、カークではなくスポックだったそうで…。 |