テーブルに手をつくカーク。「今のを聞いたか。」
エイルボーン:「もちろん、聞きましたよ? それが、何か。」
カーク:「…ミスター・スポック。全ては、私達次第らしいな。」
スポック:「そのような情勢ですね。」
「連邦は我々の訓練に莫大な費用をかけたので、この辺でささやかな恩返しをしようではないか。」
「しかしこれ以上、オルガニア人の犠牲者が出ると…」
「いや、我々のためにもう一人の犠牲者も出せない。フェイザーはどこだ。」
エイルボーン:「それは言えません。」
カークはエイルボーンに近づき、椅子を自分の方に向けた。「君たちは暴力を否定することばかり繰り返して話してきたが、フェイザーを渡さないとかつて経験したことのないような暴力行為に見舞われるぞ!」
エイルボーン:「暴力を振るうつもりですか。」
「君たちの出方次第だ。」
トレファイン:「エイルボーン、これでは話にならん。何でも欲しい物を渡してあげたらどうだ。」
エイルボーン:「決していい結果は生まれんのに。戸棚に入ってます。」
取り出すスポック。
カーク:「聞きたまえ。我々はこの惑星にも文化にも、君たちにも興味はない。にもかかわらず、私とスポックは司令部へ侵入し…多分そこで死ぬだろう。これは、命を捨てる価値のあるものの存在を君たちに教えるためだ。」
エイルボーン:「相手は何万を数える軍隊です、初めから望みのないことがわからないんですか。」
「…行こう、ここにはいたくない。」 スポックと出ていくカーク。
オルガニア人は席を立った。「勇敢だ。」
エイルボーン:「しかしバカげてる。」
「興味深いね。」
「ああ、許すわけにはいかん。何とかして、止めないと。」
「放っておくと彼らは傷つけ合うね。」
「君は?」
トレファイン:「暗くなるまで待とう。」
「そして?」
「耐えられない野蛮な行為だが…」
「よし、待とう。」
夜になっている。イヌが鳴く。
要塞に近づくカーク。「あの見張りを倒せるかなあ。我々が生き残れるチャンスはどのくらいだ。」
スポック:「正確にはわかりませんね。しかし大体、7,824.7分の1 ぐらいではないかと思います。」
「…正確にはわからん? 7,824分の1 でか?」
「7.824.7分の1 です。」
「かなり正確な予測のように思えるがね。」
「正確を好みますので。」
「いい心がけだ。フェイザーを麻痺にセット。最終目標は司令官だということを忘れるな?」
「わかりました。」
「しかしいざとなれば、何人殺しても構わん。」
「はい船長。」
「私は左を狙う。…撃て。」
フェイザーで撃たれ、見張りのクリンゴン人が倒れた。突入する 2人。
トレファインは言った。「始まったぞ。」
エイルボーン:「そのようだ。」
オルガニア人:「きついぞ。」
「準備しよう。」 手を組むエイルボーン。
他のオルガニア人も目を閉じる。
コールに尋ねるクリンゴン人大尉。「何か反応は?」
コール:「ない!」
「不思議な種族ですねえ。」
「奴らは死を知らんのだ。」
「全て超越しているように見えます。」
「この俺がヒツジの群れを相手にしなきゃならんとはな。こうなったら、さらに 200名だ。」
「了解!」
「愚か者どもが!」 部屋に入るコール。
要塞の中に入ったカークは、ヒモを準備した。並んで歩いていた最後尾のクリンゴン人大尉の、首を絞める。
カーク:「私が聞くことに、正直に答えろ。反抗すればこの場で殺す。」
大尉:「やめろ、わかった。」
「コールは、司令室にいるのか。」
「…います。」
「人質はどこなんだ。話せ。早く!」
「…また、200名集めるとこです…。」
「殺すためにか。」
「そうです。」
「ミスター・スポック。」
スポックは、ヴァルカン首つかみで大尉を倒した。
カーク:「…どうだ、成功の見込みは。」
スポック:「7,000分の1 以上に増えました。ここまで来られたとは奇跡です。」
「7,000分の1 以上か。ま、少しずつだがいい傾向だ。」
音に構えるコール。
フェイザーを向けたカークが入る。「コール、そこを動くな。」
ドアを閉めるスポック。
コール:「厳重な警戒をくぐってきたとは立派なもんだ。」
スポック:「気の毒だが何名かの見張りは当分満足な行動は取れないだろう。」 銃を取り上げた。
「ヘ。そうか。ついに来たか。」 椅子に深く座るコール。「ではいい情報を教えてやるが、諸君の連邦艦隊は今こちらへ向かっているそうだぞ? それを我が艦隊が歓迎する。」
カーク:「こちらは王手だぞ?」 スポックに外を見るよう合図する。
「俺を殺す前に見たらどうだね? その結果を。」
「私は無駄な人殺しはしない。」
「ほう、下らん感傷だな。哀れみと…平和への熱意か? …そこが貴様たちの弱点だ。クリンゴン帝国は必ず勝つ! …考えてみろ、座っているうちに我が頭上の宇宙では…今後一万年に渡る銀河系の運命が今まさに決せられようとしているのだ。どうだ、飲まんかね? クリンゴン艦隊の大勝利を共に祝おう。」
スポック:「それはまだ早いな。逆の場合もありうる。」
「勝利を握る我々も、いつの日か敗北を味わうときがくるだろう。戦いには運命があり、悪い面もある。」
コールを立たせるカーク。
コール:「なぜ我々が強いか知っとるかね? 団結しているからだ。個人は全体の一部分でしかありえない。ただ服従あるのみだ。占領軍司令官の俺でさえも、常に国家に服従しておる。興味あるかね?」
コールは壁の装置を指さした。
カーク:「敵兵だ!」
クリンゴン人がなだれ込んできた。
その瞬間、全員が叫んで銃を落とした。カークやスポックも同じだ。
コール:「貴様! 撃て、撃て!」
今度は殴り合おうとする双方。だが身体が触れあうと、声を上げて互いに離れる。
エンタープライズのブリッジでは、全員が同時に装置から手を離した。
カーク:「どうしたスポック。」
スポック:「信じられません! 強烈な熱が、武器や身体に突然流れました。」
ナイフを手に取ろうとしたコールも、すぐに投げ捨てた※29。
コールに向かおうとするカークだが、にらみ合うことしかできない。
そこへエイルボーンたちがやってきた。「皆さん、お邪魔をして誠に申し訳ないのですが…傷つけ合うのを許せません。」
コール:「どういう意味だ、それは。」
オルガニア人:「暴力に終止符を打ちたかったのです。」
カーク:「何? 君たちが終止符を打つ?」
「暴力に供される当惑星上の道具は、全て今 350度の熱をもっています。…使用不能ですな。」
コール:「艦隊は。」
エイルボーン:「双方の艦隊にも同じ状態が起こっています。戦いはできません。」
「バカを言うな。」
「連絡してごらんなさい。あなたもどうぞ。あなたの船はもう、通信可能範囲内に来てます。」
コミュニケーターを使うカーク。「カークからエンタープライズ、どうぞ。」
スールー:『船長! 説明がつきません。クリンゴン艦隊に接近中だったのですが、突然全てのコントロール装置が熱をもち触れなくなりました。』
ブリッジのライトが暗くなった。
コンソールを確認するスールー。
スールー:『エネルギーも消えました。フェイザーバンクも空です。』
カーク:「現状で待機。」
コール:「俺の艦隊も…動きが取れん。」
「何をしたんだ。」
エイルボーン:「私は今、ここに立っていると同時にクリンゴン帝国の司令惑星の上にも、君たち惑星連邦の地球上にも立っている。この狂気の戦いをやめさせるためだ。」
コール:「何だと貴様。」
カーク:「とても信じられんな。」
エイルボーン:「事実を見たまえ!」
「艦隊は惑星連邦のものだぞ。止める権利はない!」
コール:「邪魔はできんぞ。宇宙で何が起ころうと貴様たちには関係ない。」
エイルボーン:「双方が敵対行為を中止することに同意しない限り、全ての軍事力はその種類を問わず、ただちに凍結されるだろう。」
カーク:「我々にはクリンゴンと戦う正当な理由がある。彼らは領土を侵犯し市民を殺害し、公然と侵略行為を行って銀河を征服すると宣言した。」
コール:「なぜ悪い! 俺たちは優れている。しかるに貴様たちは、重要物資の補給を断ち貿易に圧力を加えた。挑戦したのは貴様たちだ!」
「紛争地域から軍隊を引き上げ最後通告をしてきたのは君たちだ!」
「紛争地域は明らかに俺たちの領土だ! 下らんトリックを使うのはよせ。」
エイルボーン:「これはトリックではない。戦いをやめさせたいだけだ。諸君の全ての軍事力は今、完全に使用不能となった。」
オルガニア人:「このように他人の問題に口を挟むのは、最も嫌なことですがこうなったのも皆さんの責任です。」
カーク:「なぜ私達に協力しないんだ。200名の市民が殺されたのに。」
エイルボーン:「一人も殺されてはいない。」
オルガニア人:「死んだ者は一人もいません。この何百万年を通じまして。」
コール:「嘘をつけ! 他人の邪魔をするのが貴様たちの趣味なのか。」
カーク:「たとえ君たちがある不思議な…力をもっていたとしても、惑星連邦を支配する権利など、どこにもない!」
「クリンゴン帝国もだ!」
「惑星間の問題に干渉できるのは、この私達だけだ!」
エイルボーン:「戦いに訴えてかね? 無実の市民を何百万と殺し、生命を惑星規模で破壊してかね? それが正しいのか。」
カーク:「……誰も戦いは望まない。…つまり私が主張したいのは、他人の干渉を受けたくないということだ。…終局的には、我々も…」
「そう、平和を得られるだろう。しかし無数の生命が奪われてからだ。諸君が協力し合い、最良の友となる日がやがてくることは間違いない。」
コール:「嘘だ!」
オルガニア人:「あなたは激しい感情をおもちですな。礼儀を失いたくはありませんが皆さん、どうぞお引き取り下さい。」
エイルボーン:「そう、速やかにだ。諸君のような生物が存在するだけで、私達は苦痛を感じる。」
カーク:「私達のような生物とはどういう意味だ。」
「実は何億年※30も昔、私達もやはり人類だった。…だが身体を必要としない段階にまで進化した。いま諸君が見ているのは、便宜上の姿。…仮の姿だ。」
コール:「…これは何かの罠だぞ。撃滅しよう、強力な軍隊で。」
コールを止めるカーク。
その時、オルガニア人の身体が光り始めた。真っ白に輝く。
目を押さえるコール。オルガニア人は、白い光球となった。
スポックやカークも、目を開けていられない。
うなるコール。そしてオルガニア人は、消滅した。
スポック:「素晴らしい※31。純エネルギーとは。純知能だ。実体が全くない。理解を超越した生命です。」
カーク:「この惑星はどうなんだ。あの町や、建物や、この部屋は。」
「やはり、便宜的な姿でしょう。彼らには必要ありません。ここにこういうものがあれば、我々のような訪問者がまごつかずに済むでしょうからね。」
コール:「しかしこんなことがありうるのか。」
「この目で現実に見たじゃありませんか。進化論から判断すると、我々人類が彼らオルガニア人から見れば…恐らくアメーバ程度、でしょうね。」
カーク:「…アメーバ同士が戦っても、虚しい限りだ。第一オルガニア人が戦いを許してくれない。」
コール:「……残念だな、船長。…栄光に包まれたろうに。」
航行中のエンタープライズ。
ブリッジは正常に戻っている。
カークに近づくスポック。「…あれからずっと何を考え込んでるんですか?」
カーク:「…反省してるんだ。…戦いを止めようとした、オルガニア人をあんなに軽蔑して。人間は、宇宙で最も優れた生物だと誰でも思っているんだろうがね? 見事に覆されたよ。」
「…船長。彼らは何億年の歳月をかけてやっと、あそこまでになったんですよ? 神に願っても、一夜でああまではなれませんね? 何も恥ずかしがることはないでしょう。我々は結局任務を果たしたんですからね。」
「いやあ、とんでもない。我々にはそんな力などなかった。偉大なオルガニア人のおかげだ。」
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※29: この瞬間だけ、腰にディスラプターを装備しています。前後のシーンにはありません
※30: 原語では全て「何百万年」
※31: "Fascinating."
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