惑星ベイジョー。
身軽な服装のキラは、水辺で石と格闘していた。※3
やってきたバライル。「どうした、キラ。何をしているのかね?」
キラ:「ああ…ひねくれてるわ?」
「ひねくれてる?」
「もう一時間もやってるのに、こっちから見て良くても下がってそっちから見ると…ああ。私ってきっと才能がないんだわ?」
「たかが石に何を言う。」
「問題は私なんです! 石は真っ直ぐだけど私がひねくれてるのよ。」
「…自分のことをそう思っているのか?」
「時にはね? そういう自分が好きな時もあります。……これ以上ここにいたら、お庭をめちゃめちゃに壊してしまいそうですね…。」
「…なら、彫刻とか木工を手がけてみたらどうかね?」
笑うキラ。「秘密を言っても構いません?」
バライル:「もちろんだ。」
「内緒ですよ?」
「ああ、わかっている。」
「私…芸術関係は、全くダメなんですよ。4歳の時に私の描いた絵を見てあまりのひどさに親が嘆いたぐらいで。」
「誰にも言わないよ?」
「だからここにいても…役立たずなんです。」
「だから?」
「だから…役立たずは私嫌なんです。」
「しばらく、役立たずの気持ちを知るのもいいことだ。勉強になると思うよ?」
「…私を御存知ないから。」
「だんだんわかってきた。……そろそろいいだろう。」
「…いいって?」
「私についてきなさい。」
「でも、石をちゃんと並べないと…」
「来るんだ。」
部屋に入るバライル。
キラもだ。「僧院のこんな奥まで来たのは今日が初めてです。」
バライル:「これから何度も、来ることになるだろう。」
「…バライル、こんなところに連れてきて…」
言葉を止めるキラ。その視線の先には、発光体の箱があった。
うなだれ、目を閉じるキラ。「バライル。私に見せて下さるなんて。」
バライルは箱を開いた。発光体が輝く。見とれるキラ。
バライル:「第三の発光体だ。預言と変化とを司っている※4。」
キラ:「…どうすればいいんですか?」
去っていくバライル。「自分では、何もしなくていいんだよ。預言者が導くままに任せなさい。」 出ていった。
箱に反応があり、発光体の光がキラを包んだ。
ベイジョー人の声が飛ぶ。「キラー! おい!」
キラ:「政府の閣議室?」
振り返ると、ベイジョー人僧侶の格好をしたダックスがいた。
キラ:「ダックス?」
ダックス:「キラ、この声を聞いて。」
「聞こえないわ?」
「大丈夫よ? 聞いて。」 抱き合う 2人。
離れると、相手がヴェデク・ウィン※5に変わっていた。「皆の声が聞こえますか?」
後ろにはジャロ。「私には聞こえる。私を呼んでいるのだ。」
バライル:「ジャロに耳を貸してはいけない。彼らの声を聞こうとしてごらん? 君を呼んでるんだ。」 キラと同じ制服だ。
ウィン:「罰当たりめ!」
キラは裸になっていた。
バライル:「彼らの声を聞くのだ。」
キラ:「教えて下さい。どうやって聞けば。」
「知っているはずだ。」
裸のバライルが背後から近づく。キラは目を閉じた。
バライル:「知っているはずだ。」
バライルに身を任せるキラ。
バライル:「知っているはずだ。」
二人の口が近づく。
現実に戻るキラ。息を荒げる。
DS9。
コンソールに映ったベイジョー人※6。『昨夜だけで 6件もの暴行事件がありましたが、駆けつけると犯人は逃げた後で。』
オドー:「ということは、大きな権力をもつ黒幕が奴らをかばってるってことか。」
『そうですね。とにかく今のうちに手を打ちませんと。ベイジョー政府は首都に軍隊を招集しましたから。』 クワークが保安室に入る。
「軍隊を?」
『サークル弾圧のためです。ステーションも気をつけた方がいいですよ?』
「…ご忠告ありがとう。」 通信を終えるオドー。「クワーク、残念だがお前を襲った犯人はまだわからないんだよ。」
クワーク:「もうおしまいだ。」
「捜査はまだ終わりじゃないぞ? できるだけのことを…」
「捜査のことじゃねえよう! もう終わりだ。」
「もう終わりって何がだ。」
「何もかもだよ。ベイジョーもベイジョー政府も惑星連邦も全部おしまいなんだ! …逃げるが勝ちだよ。おらあ出ていくぜ、お前は椅子にでも化けな?」
「サークルにビビっちまったのか? ハ! 世間の注目を浴びたいだけの暴徒の集団だろうが。」
「サークルの奴らは正規の軍隊に匹敵するほどの、武器も弾薬も蓄えてるんだ。」
「…何でそんなことを。」
「お前と違って俺には闇の世界の情報網ってのがあるのさ?」
「しかしそんな大量の武器をどこから。」
「クレサリ人※7だよ。」
「クレサリ人? だがクレサリには軍隊もない。植物の DNA 貿易で食ってる国じゃないか。」
「近頃は花以外の物も売るんだ。…嘘じゃねえって。」
「…コンピューター、次にクレサリの船が立ち寄るのは?」
コンピューター:『クレサリの船コロンドン※8が 36時間以内に到着する予定です。』
「…で武器はベイジョーのどこに送られるんだ?」
クワーク:「場所まではわからねえ。」
「探り出せ。」
「そんなことをしてる暇があるかよう。おらあさっさと荷物まとめてベイジョーにはオサラバさせてもらうぜ? 命は大事だしな?」
「…そうか、実に不本意だが…もうこれしかないな。」
「おい、卑怯だぞ。」
「まだ何も言ってないぞ?」
「とにかく卑怯ってんだよ…」
「助手に任命する。」
「卑怯だ! …あ?」
「私の助手として、お前に武器の行き先を調べ出してもらいたい。私の方は…武器が本当にクレサリから来ているのかどうか調べる。」
「あんたと俺が、組むわけ?」
「その通りだ。」
笑い続けたクワーク。「…じゃ、またな。」
オドー:「断るんなら独房にぶち込む。」
「そんなの卑怯だぞ。…何の罪でだ?」
「公務執行妨害だよ。それともお前に情報を売った人間が誰か教えるか?」
「そいつはできねえな?」
「お前次第だ。助手になるか、独房に入るか。」
「…助手の方がいいな。」
オドーはうなずいた。
司令官室を出るシスコ。「ベイジョーに行ってきます。どうやらクーデターが起きそうな気配ですのでね。現地を見てきます。」
リー:「私にできることは。」
「軍部と連絡を取って下さい。政府が軍部からどれぐらいの支持を得られるのか知りたい。」
「簡単なことだ、留守の間ステーションは。」
「ダックスとオブライエンに指揮を執らせます。もし何か起きたら…」
「司令官。何か起こっても私には何もできませんよ。思ったんですが、戒厳令を出してはどうでしょう。夕べもまた貨物船が襲われたし。」
「それがいい。あなたには護衛をつけるよう言ってあります。」
「ああ、必要ありません。」
「いや、ありますよ。第1ドックへ。」 向かうシスコ。
森で立っているバライル。
キラが近づく。「彫刻でも、やってみようかしら。」
バライル:「預言にそう出たのかね?」
「ええ、そうなんです。金づちや釘やのこぎりの周りに大勢の修道僧やヴェデクがいたわ?」
「本当のことは言いたくないか。」
「ええ。」
「……では、私の秘密を聞いてくれるか。」
「…ええ、私口だけは堅いですから。」
「この前、第三の発光体は私に…預言で君を見せた。」
「私を?」
「だから、ステーションまで行って君をここへ招待したんだ。」
「それで…私は預言の中で何をしてました?」
「それはどうでもいい。ただ、君の預言に私は出てきたかと思って。」
「…いいえ? 出てきませんでした。」
空に音が響いた。
バライル:「こんな晴れた日に雷とはおかしいなあ。」
キラ:「いいえ、この音は雷じゃないわ。銃声です。」
橋の上からウィンが声をかける。「これはこれはお二人とも、精神的な交流を温めていらっしゃるようで何よりだわ?」
バライル:「ヴェデク・ウィン。」
「あなたとは前にお会いしたわねえ。確か…少佐の…」
キラ:「キラ・ネリスです。」
「ああそうだわ。キラ少佐ね。ディープ・スペース・ナインの。なぜこんなところへ?」
バライル:「私が招いたのです。」
「いいことだわ、ヴェデク・バライル? 修行の後はやっぱり連邦の仕事をするのかしら。」
「少佐は自分のパー※9を探求しに来たのです。」
「それは価値のあることだわ? あなたは暴力的な人生を送ってきたし。議会はあなたが発光体の前に立つことを反対はしなかったと思うわ? バライルは議会に聞かなかったけど。」
「わざわざ議会に聞くこともないでしょう。」
「ええ、それはそうよ? でも私は事前に必ず言うことにしているわ? 議会に対する礼儀ですから。たかが礼儀、されど礼儀よ。あなたはいつまでここにいるの?」
キラ:「まだわかりません。」
「どうぞ何日でも滞在なさって構いませんよ? 必要なら一週間でもね。」 歩いていくウィン。
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※3: "In the Hands of Prophets" と同じく、グリフィス・パークの Fern Dell で撮影
※4: 預言と変化の発光体 Orb of Prophecy and Change
※5: Vedek Winn (ルイーズ・フレッチャー Louise Fletcher) DS9 "In the Hands of Prophets" 以来の登場。声:棚田恵美子、DS9 モリーなど。前回は沢田敏子さん
※6: 治安官 Peace Officer (エリック・サーヴァー Eric Server) 声はゼフノー役の青山さんが兼任
※7: Kressari
※8: Calondon
※9: 吹き替えでは「パール」
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