撤収が進む DS9 内。宇宙艦隊士官の指示の下、エアロックへ入っていく。 
 その様子を見ているクワーク。「何百人って人間が出ていくのに、使えるシャトルは 3隻しかない。これがどういうことかわかるか?」 
 ロム※3:「…そりゃあ…ああ…もちろん、大勢置いていかれるってことさ。…悲劇だなあ。兄貴も、さすがに同情を抑えきれないみたいだね。」 
 「バーカ、一財産作るチャンスだ。」 
 「チャンス?」 
 「みんなシャトルに乗るためならいくらでも払うだろうよ。」 
 「ああ…あ、兄貴まさか…俺の席は売らねえよ!」 
 「ロム。」 
 「いやだ、俺はここに残って殺されて、兄貴は儲けるなんて!」 店のカウンターにはモーンが見える。 
 「ロム! …実の弟のお前を、犠牲にしてまで金儲けするとでも思ってんのか?」 
 「ああ…」 
 「兄弟じゃねえか。」 
 うなずくロム。 
 クワーク:「…一世一代の大儲けができるってもんだ。」 
 ロム:「でも! 命あっての物種だよ…」 
 「安心しろ、お前もちゃんと逃がしてやる! アホな人間どもからラチナムの延べ棒をたっぷり巻き上げてから、トンズラしようぜえ?」 
 笑うロム。
  
 走るノーグ※4。 
 前からジェイクがやってくる。「ノーグ!」 
 「ジェイク! ずっと、探してたんだぞ。」 
 「乗るシャトルは?」 
 「リオグランデだ。」 
 「ああ…僕はガンジス。ああ、ああ…」 
 「ガッカリすんなって。2日後には、ハノラン・コロニー※5で会えんだから。」 
 「僕はハノランには行かない。」 
 「でも、親父が言ってたけど。」 
 「ガンジスはクーラット星系※6へ行くんだ。艦隊士官の家族はそこへ行くみたいだよ。ああ…」 
 「あ…またすぐ戻ってこられるさ。そしたらまた、ケイコ先生にヒステリーを起こさせてやろうぜ。」 
 「…新しい場所にもやっと慣れて、友達もできた。そう思うと途端にいつもこれだ!」 
 「…暗いぞ!」 
 「当たり前だろ!」 
 「…人間とフェレンギ人の組み合わせで、俺たち以上のコンビがいるかよ。」 
 「…いないよ。」 
 「親父どもの迫害にも負けなかったんだぜ? こんなクーペ、じゃない…クー、クークーデ…」 
 「クーデターだよ。フランス語だ。」 
 「とにかく邪魔されてたまるかよ。必ずまた会えるさ、すぐにな。約束だ。」 
 オドーが通りかかる。「ジェイク、ノーグ! 遊んでる暇なんかない。早くシャトルに乗り込んでくれ。」 
 抱き合うジェイクとノーグ。別れる。
  
 憂鬱な顔をしているケイコ・オブライエン※7。 
 モリー※8を抱いたオブライエンが近づく。「…仕度はできた?」 
 ケイコ:「ええ。」 
 「頼むよ、ケイコ。そんな顔はやめてくれ。」 
 「どんな顔よ。」 
 「こうするしか仕方ないんだ。」 
 「そうかしら。」 
 「司令官を助けなきゃ。」 
 「私達は?」 
 「カーデシア人にワームホールを渡すわけにはいかない。」 
 「ガンマ宇宙域なんか、奴らにくれてやればいいのよ!」 
 外へ向かうオブライエン。 
 ケイコ:「あなた? …一緒に行きましょう。」 
 モリー:「これからどこ行くの?」 
 オブライエン:「シャトルに乗るんだよ?」 
 「パパも一緒に来るんでしょう?」 
 「ああ、すぐね?」 ケイコに言うオブライエン。「すぐに後を追いかけるよ。」 部屋を出た。「エアロックまで送るよ。」 
 ケイコも向かった。
  
 報告するダックス。「ベイジョーへつながる亜空間通信のウィンドウは全てスキャンしてみたけど、どれもこれも妨害されてるの。」 
 キラ:「…なら仕方ないわね。直接証拠を持っていくしかないわ。」 
 リー:「だが船で行けば、すぐにジャロの勢力に探知されてしまう。」 
 シスコ:「シャトルだったらかわせるかもしれないが、脱出でシャトルは全部ふさがってる。」 
 「ルナ5 の基地※9は?」 
 キラ:「あそこにシャトルがあります?」 
 「カーデシアが攻めてくる前にサブインパルス戦闘機※10を地下に隠しておいたんだが、10年前だからな。」 
 「脱出シャトルで、私をルナ5 まで運んでくれませんか。」 
 シスコ:「だが戦闘機が飛ばなかったらどうする。」 
 「そしたら助けに来てもらえるまで待ってます。」 
 「すぐには助けに行けないかもしれないぞ。…ダックス。君の本体の中で、サブインパルス反動推進エンジンに詳しい者はいないか。」 
 ダックス:「…ええ、トビン・ダックス※11が。」 
 キラ:「トビン? その名前は初耳だわ?」 笑う。 
 「2番目の本体よ? 面白みのない男だったけど、フェイズコイル・インバーターにかけては右に出る者がいなかったわ?」 
 シスコ:「そういうことなら、君にキラと一緒に行ってもらおう。」 
 オドーに司令室へ連れてこられたクワーク。「こんなことやってる暇なんかねえんだ。荷造りもまだなのに。」 
 シスコ:「何の騒ぎだ。」 
 オドー:「シャトルの搭乗券を高く売りつけていたんです。」 
 「…席に余分はないはずだが?」 
 クワーク:「だって皆さん私に席は余ってないかっておっしゃるんですよう。商売人たるものお客様のご要望にお応えするのが仕事ですから…」 
 クワークの首を締め上げるシスコ。「ステーションには脱出希望者がまだ 200人も残ってるんだぞ! どこで搭乗券を手に入れた!」 
 クワーク:「…買い取ったんですよ! それなりに金を積めば、搭乗券を譲ってもいいって人は、全然いないってわけじゃないんだし。」 
 通信が入る。『ベシアより司令室へ。』 
 シスコ:「どうした。」
  
 ごった返すエアロック。 
 ベシア:「エアロックがパニック状態になっているんです。座席数より多い人数が押しかけて、みな搭乗券は持ってるって言うんですが。」
  
 クワークは言った。「ちょいとオーバーブッキングしちゃったかな。」 
 離すシスコ。「今すぐ行く。」 
 クワーク:「フェレンギ人にとっちゃ当たり前のことですよ! 私謝りませんからねえ!」 オドーに話す。「シスコ司令官ならどんなパニックだってすぐ静まるさあ。」 
 オドー:「伝えておこう。それを聞けば、司令官はさぞお喜びになるだろうよ。」 
 「…もう行ってもいいだろ? 弟が待ってるもんでね?」 
 「ハ!」 
 ターボリフトへ向かうクワーク。「そうだ、オドー。…俺がいなくなったら、寂しくなるよな?」 
 オドー:「ああ、寂しくなるな。」 
 「ほんとかい。」 
 「お前のセコい金儲けを取り締まれなくなると思うとな。」 
 「よせやい。じゃくたばるなよ?」 クワークが笑う中、ターボリフトは降りていった。
  
 エアロックでの騒ぎは収まらない。 
 シスコ:「さあ、通してくれ! みんな落ち着いて! 全員の席はないんだ。子供たちとベイジョー人でない者から、まず優先的に! ああ…」 
 リーが声を上げた。「一体どこへ逃げていこうというんだ!」 静まる。「ここはベイジョーだ。我々の星だ。憎いカーデシアと、長い間闘ってやっと…取り戻した土地を捨ててどこへ行こうというんだ。※12そうだろう。シャトルで脱出するのは、ステーションに残っては危ない異星人が先だ。我々は、ベイジョー人なのだ。…だからこそ、我々の問題は我々で解決しよう。力を合わせ、ついてきてくれるか。」 
 ベイジョー人はうなずき、歩いていく。 
 シスコ:「乗客が全員搭乗したら、直ちに発進させてくれ。」 
 ベシア:「既にリオグランデもオリノコ※13も、発進準備済みです。」 
 「よし、頼んだぞ。」 
 「了解。」 
 乗り込んでいくモーン。キラと、制服を着ていないダックスも続く。 
 シスコ:「仕度できたか。」 
 ジェイク:「あのさ、パパ…僕も残った方がよくない?」 
 笑うシスコ。 
 ジェイク:「何かあったらと思うと心配なんだもん。」 
 抱き合うシスコ。「お前こそ気をつけろ。」 チップを渡した。 
 ジェイク:「なーに、これ。」 
 「お前への手紙だ。」 
 「手紙?」 
 「後で読んでくれ。」 
 「…じゃあ、船に乗ったらすぐに読むよ。」 
 「ゆっくりでいいよ。」 もう一度抱き合い、身体を叩くシスコ。「2週間したら会えるさ。」 
 オブライエンが出てくる。「全員乗りました。」 
 シスコ:「シスコよりガンジスへ。発進開始せよ。」 
 キラ:『了解。幸運を祈ります。通信終了。』 
 ベシアも外に出、ドアが閉まる。 
 クワーク:「おい、待ってくれ! ひでえや。」 大きなケースからは、ラチナムが入っている音が聞こえる。「…リオグランデに、乗るはずなんですよ。弟も乗ってる。…チケットはロムが。」 
 シスコに話すベシア。「リオグランデの乗客名簿には、クワークの名前はありませんでした。ロムは乗ってましたけどね、ダボ・ガールと一緒に。」 
 クワーク:「ダボ・ガールと? 嘘だ!」 
 シスコ:「お前の搭乗券を売ったんだろ。」 
 歩いていくシスコとベシア。 
 独り残されるクワーク。「ああ…ちょっと、待って下さいよ。ねえ、お願いしますよ! 俺だって脱出しなくっちゃ! …殺されちまう。船を呼び戻してくれ! 搭乗券余ってない?! ラチナムの延べ棒 5本出すよ! 5本だ! …10本。あ…ああ…20本! ああ…ああ!」
 
 
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※3: Rom (マックス・グローデンチック Max Grodenchik) DS9第21話 "The Homecoming" 「帰ってきた英雄 パート1」以来の登場。声:山崎たくみ
  
※4: Nog (エイロン・アイゼンバーグ Aron Eisenberg) DS9第15話 "Progress" 「第五の月“ジェラドー”」以来の登場。声:山口勝平
  
※5: Hanolan colony
  
※6: Korat system
  
※7: Keiko O'Brien (ロザリンド・チャオ Rosalind Chao) DS9第20話 "In the Hands of the Prophets" 「預言者の導き」以来の登場。声:吉田美保
  
※8: モリー・オブライエン Molly O'Brien (ハナ・ハタエ Hana Hatae) DS9第16話 "If Wishes Were Horses" 「夢幻の刻」以来の登場。声はウィン役の棚田さんが兼任
  
※9: Lunar-V base ルナ=衛星、つまりベイジョー第5衛星のこと
  
※10: subimpulse raiders
  
※11: Tobin Dax 初言及
  
※12: 原語では「どうして怯えたカーデシア・ハタネズミのように逃げられるんだ」。カーデシア・ハタネズミ (vole) は後に DS9第37話 "Playing God" 「宇宙の原型」で初登場
  
※13: U.S.S.オリノコ U.S.S. Orinoco ドナウ (ダニューブ) 級、NCC-72905。初言及
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