ドクターが話している。
「どこか、この完全無欠の宇宙に、天の川という銀河がある。この銀河の端に、プカリと浮かぶ地球。その星に、マントヴァ※1という街がある。泉を越え、まっすぐ行き、右へ左へ、また右へ。するとそこでは、せせらぎのそばで、男が歌を唄っている。愛する人の心変わりを。魚さえ涙する歌です。ヴェルディ、『女心の歌』※2です。」
食堂に並べられた椅子にはクルーが座っており、ニーリックスは目をつぶっている。曲に合わせて歌い出すドクター。
「ラ ドンナ エ モビレー クア ピュアマール ヴェントー ムーター ダチェントー」 聞き入るジェインウェイ。
「エ ディ ペンシエロー センプレ ウ ナ モビレー」 笑うチャコティ。
「レジアドロ ヴィーゾ」 微笑むセブン。
「イン ピアントゥ インリーゾ エー メンゾー ニエーロ」 退屈そうなキム。
「ラー ドンナー エ モッビール」 椅子に片足を上げるドクター。
「クア ピュアマール ヴェントー ムター ダーチェーントー…」 トゥヴォックが…泣いている。
「エ ディー ペンシェール エ ディー ペンシェール」 トゥヴォックの様子に気づくパリス。
「エーー…」
パリス:「トゥヴォック?」
「エ ディー ペンシェール」
今度は大声で笑い出すトゥヴォック。苦しみ、倒れこむ。
「トゥヴォック!」 近づくパリスを押し飛ばす。
ジェインウェイ:「ジェインウェイより保安部。すぐ食堂へ来て。」
ドクターは言う。「下がって。ポンファーの季節なんだよ。ホルモンの変化で発情期に入ったんだ。今は口で言っても無駄だ。」
トゥヴォックは静止させようとするチャコティやキムをはねつけ、保安部員からフェイザーを奪った。ドクターの歌が続く。
「トゥヴォックわかるよ 君はヴァルカン もう七年も なしできてる」 フェイザーを構え、うろたえるトゥヴォック。
「パリス頼むよ ハイポスプレー 合図するから 後ろへ回れ」 医療キットを取り出すパリス。
「ホルモンのせいだ 気が高ぶって とにかくとーてーー…」
設定したハイポスプレーを投げるパリス。宙を舞うハイポスプレー。受け取るドクター。
「…もー…非論理的」
注射を受けたトゥヴォックは倒れこんだ。ハイポスプレーを落とすドクター。
「非論理的 非ーー…」 テーブルに座り、足を組むドクター。「…非論理的」
一斉に拍手。ニーリックス:「ブラボー!」
立ちあがり、手を挙げるドクター。
ジェインウェイ:「ブラボー、ドクター!」
キムとチャコティ:「ブラボー!」 「ブラボー!」
たくさん花が降ってくる。その一本を手にし、匂いをかぐドクター。投げキッスをするジェインウェイ。
「ドクター? ドクター! ちょっと。」 トレスの声。
医療室で満足そうな顔をしていたドクターは、我に返り、コンピューターを操作する。
トレス:「聴覚サブルーチンの検査した方がいいかもね。」
ドクターは言った。「耳は大丈夫だ。ただちょっと、空想にふけってただけだよ。」
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※1: Mantua 北イタリアの都市。「マンチュラ」と吹き替え
※2: "Quando la Donna e Mobile" ジュゼッペ・ヴェルディ (Giuseppe Verdi、1813〜1901年) 作曲、「リゴレット」より。邦題は冒頭の訳詞の「風の中の羽のように」とも。タイトルは "quando" をつけない場合が多いようです。なお「ヴェルディ」は原語にはありません。また、ここで歌をわざとカタカナで書いてるのは、吹き替えの中博史さんご本人が歌ってるからです。参考
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