苦しむジェインウェイ。「トム、反転よ。星雲脱出。」
倒れていたパリスは起き上がって席に戻ろうとするが、その前にまた倒れてしまう。
ジェインウェイ:「ジェインウェイより医療室。」
ドクター:『はい艦長。』
「助けに来て。」
『何です? 呼び出しの嵐ですよ。』 医療室にも、既に患者が何人もいる。
ジェインウェイ:『早く!』
ドクター:「セブン、ブリッジへ行って、皮膚再生装置で火傷の処置を。」
医療室を出ていくセブン。
トゥヴォックは痛みに耐えながら、操舵席に近づいて操作した。「コースをセット。」
次第に落ち着いていくクルー。
キム:「星雲を脱出。」
ジェインウェイの顔にも火傷の症状が出ている。「全艦停止。」
セブンが到着した。ターボリフトのそばに倒れている男性士官を起こす。顔一面に火傷を負っている。
「死んでいる。」
ヴォイジャーの位置と、広大な星雲がスクリーンに映し出されている。セブン:「星雲の広がりは少なくとも 110光年。恐らくそれ以上だ。」
ジェインウェイ:「通り抜けるだけでも、優に 1月以上はかかるわね。迂回してたら 1年以上かかる。」
「星雲内ではクルーは数分も生きられないだろう。1月となれば論外だな。」
"We've come fifteen thousand light-years. We haven't been stopped by temporal anomalies, warp core breaches, or hostile aliens. And I am damned if I'm going to be stopped by a nebula.
「1万5千光年も旅して来たの。宇宙の異常事態も、ワープコアの故障も、危険なエイリアンも乗り越えて来た。こんな星雲一つに邪魔されてたまるもんですか。 医療室にいる。」
天体測定ラボを出るジェインウェイ。
ジェインウェイに説明するドクター。
「星雲内ガスのサンプルを分析しました。原因はサブニュークレオン放射能※4だと思われます。数分さらされるだけで、有機組織には致命的です。」
「何か防御する方法はないの?」
「あります。休眠カプセルです。個々に生命維持装置を取り付けます。」
「じゃあつまり、全クルーを仮死状態にしたまま通過しようっていうの?」
「はい。私は、このままで全員をモニターしますけどね。」
「かなり過激ね。ほかに手はないの? シールドの調整とか、予防接種とか。」
「あらゆる可能性を検討しましたが、これしか方法はないんです。」
「ただクルーをモニターをしてれば済むってわけじゃない。船のシステムに、コースの調整は誰がするの。」
「シミュレーションでやりました。航海術の初歩はプログラムされてますので。」
「確かにできるでしょうけどね。バックアップがいる。放射能があなたのホロマトリックスに影響がないとは限らない。あなたが消えたらどうなる?」
「実は星雲の放射能の影響を受けなかったクルーが一人だけいましてね。」
セブンに話すジェインウェイ。「この任務の責任の重さをよくわかってもらいたい。全クルーの命が、あなたの肩にかかってるの。」
「艦長は私の能力を疑っているのか?」
「普段なら心配ないけど、今は非常事態よ。あなたは集合体にいた。この船の乗組員 150人に慣れる時も、あなたにとって大変だったはずよ。それが今度は、ドクターたった一人しかいなくなる。」
「適応できる。」
「大抵の人間は、普通長期間の孤独には耐えられないものなの。ボーグのドローンならなおさら。」
「だが私は今や人間でもボーグでもない。必ずやり遂げる。」
「……よろしい。クルーと打ち合わせて作業リストを作ります。でも言っておくけど、ドクターが指揮官ですからね。彼の指示は私の指示と思って従って。」
「ホログラムの命令に従うのか?」
「彼は船の医療主任でしょ。それに艦隊の規則を厳守するから、全て彼の許可を得ること。」
「了解、艦長。」
貨物室を出るジェインウェイ。
会議室で報告するチャコティ。
「ドクターが休眠ユニット※5を用意してます。17時までには準備できる。」
パリス:「でも、どのくらい眠るんです?」
ジェインウェイ:「正確には言えないの。1月か、もっとかもね。もし星雲が計算より大きければ。」
トレス:「長期の休眠は初めてなんです。副作用はあるんですか?」
「ドクターによれば、お昼寝と同じですって。カプセルに入ると、心肺機能が低下、神経活動が停止。後は…よく眠ったってすっきり目覚めるらしいわよ。」
キム:「でも 100%安全とはいえないって、読んだことあります。」
「セブンとドクターが、ずっとモニターしててくれるのよ。1日 4回、ヴァイタルサインをチェックして、問題がないようにね。」
パリス:「やっぱり、ほかの方法は全部検討済みなんですよね。」
「不安なのは無理もないけど、私が何の心配もしてないといえば嘘になるし、全くの受け身になるんですもの。常に自分で事態をコントロールできてこそ安心できるのに、休眠中じゃただ受け身で待つだけ。艦隊士官には受け入れがたいわよね。でも 1ヵ月以上の休眠を体験したクルーもいる。何とか乗り切りましょう。いいわね、17時まで自由行動よ。準備できたら全艦に通告します。解散。」
チャコティは残っている。ジェインウェイ:「まだ何か?」
「この選択で間違いないんですね。」
「あなたも不安なのね。」
「少し。でも休眠状態が不安なんじゃない。後を任せる人物です。」
「セブンのことね。」
「もう少し冷静に考えてみて下さい。この船に来た時から艦長と何度もぶつかっているんですよ。指揮系統を無視し、意見が食い違えば命令に従わない。」
「その相手に私は全クルーの命を預けようとしている。正気なのかといいたいんでしょ?」
「そんなとこです。」
笑うジェインウェイ。
チャコティ:「艦長とセブンの関係は、独特なのはわかってます。私たちには見えない何かを彼女に見てる。それを少しはわかるように説明して下さい。」
「うまく言えないけど、感じるのよ。彼女はきっと変わるって、本能的にね。態度は確かに傲慢だけど、いつだって私たちの役に立ちたがってる。」
チャコティはため息をついた。「艦長を信じます。」
「それじゃ、17時にね。」
休眠ユニットの前で、パリスはドクターに言う。
「1月も昼寝するならさ、ここじゃなくて、別にそれぞれの部屋でしたっていいだろう。」
ドクター:「全員、この第14デッキに集めた方がモニターしやすいんでね。入って。」
既に隣のユニットに入っているキム。「トム、おねむの時間だぞ。」
中に入るパリス。「もし、急にどうしても出たくなったら?」
ジェインウェイ:「カプセルは内側からも開けられるわよ。」
確認するパリス。ドクター:「もしかして閉所恐怖症かな、中尉?」
パリス:「ハ、何でわざわざ棺桶みたいな形にするかねえ。」
キム:「テディベアでも持ってきてやろうか。」
ドクター:「さあ眠って。」
休眠ユニットが閉じられていく。
ドクター:「ご安心下さい。ぐっすり眠って、目覚めた時にはご報告しますよ。星雲を抜けましたとね。」
「後は 2人に任せます。全幅の信頼を置いてる。1月後に。」
ジェインウェイが最後に休眠ユニットに入った。ドクターはセブンに言う。
「我々だけになったな。」
貨物室には多数の休眠ユニットが並んでいた。
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※4: subnucleonic radiation
※5: stasis unit ヒューマノイド患者を休眠活動状態で保持するために設計された、緊急医療用設備。TNG第141話 "Tapestry" 「運命の分かれ道」 など
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