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TNG エピソードガイド
第58話「亡命者」
The Defector

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・イントロダクション
夜の森で、焚き火のそばに男が 2人いる。そばにはテント。
ニワトリの鳴き声が聞こえた。
男の一人、マイケル・ウィリアムズ※1。「なあジョン・ベイツ※2。向こうが白んでるが夜が明けるのかな。」
ベイツ:「ああそうだろう。…だが俺たちには夜明けを喜ぶ理由はない。」
近づく者がいる。
槍を向けるウィリアムズ。「誰だ!」
男:「味方だ。」
「お前の隊長の名を言ってみろ。」
「サー・トーマス・アーピンガム※3だ。」
「…サー・アーピンガム※4は、我が軍をどう見ておられる。」
「浅瀬の難破船のように次の潮でさらわれてしまうだろうと。」 焚き火のそばに座る男。
ベイツ:「王にそう上申されるのか?」
「いや、申し上げない方がいい。俺が言うのもなんだが、王とはいえ俺と同じ人間だ。」 その男はデータだった。髪型を変えている。「…スミレの花を見れば俺と同じように匂うだろうし、裸になればただの…人間だ。…不吉な話を聞けば疑いなく、俺たち同様に怖がるだろう。」
そばにピカードが立っており、セリフを繰り返している。
データ:「だから王には上申しない方がいいのだ。王が怖がれば軍の士気に関わる。」
ベイツ:「上辺はどんなに勇気を見せておられても、ここにいるよりはテムズ川の冷たい水に浸っている方がマシだとお思いだろうさ。」
「俺は王のおそばで死ねるのならば、どこで死のうと本能だと思っている。それに今度の戦は、正義の戦なんだからな。」
ウィリアムズ:「俺たちの知ったこっちゃない。」
ベイツ:「知る必要のないことだよ。…正義の戦でなくとも、命令に従っただけだと言えば俺たちの罪は消える。」
「正義の戦でなかったならば、王自身が大変な責任を背負うぞ? 最後の審判の日には戦場で切り落とされたたくさんの首が集まり、『俺たちは無意味な戦いで死んだ』とがなるだろう。」
データ:「王が兵士一人一人の死に責任を負う必要などない、招集した時には死なそうとは思っていないからだ。」
ピカード:「素晴らしい!」 手を叩く。「データ最高だよ、稽古の度に良くなる。」
その声に気づき、槍を向けるウィリアムズ。
データ:「一時停止。」
ベイツの動きも止まった※5
近づくデータ。「ありがとうございます。今後はオリヴィエ※6など名優の演技を見て、磨きをかけるつもりです。」
ピカード:「データ。…君の目的は、あくまで人間の心を学ぶことだ。その意味においてはシェイクスピアの作品ほど最良のものはない。いいか? 人の物真似をするのではなく自分で解釈して演じること…」
通信が入る。『こちらライカー、お邪魔してすみません。』
ピカード:「構わん副長。」
『センサーが中立地帯に正体不明の船を捉えました。連邦の領域に近づいてきます。』 ブリッジにいるライカー。
「わかった、そちらへ向かう。データ、稽古の続きはまたの機会にしよう。コンピューター、セーブして終了せよ。」
ホログラム映像は全て消えた。
データ:「艦長? …なぜヘンリー五世※7は身を偽り、一般兵と話しにゆくんですか?」 ローブを脱ぎ、ホロデッキを出る。
ピカード:「シェイクスピアは君主の心理を描いてるんだよ、データ。彼は王として、自分の兵士たちと戦闘前夜の、不安や恐怖を分かち合いたいと望んだんだな?」
データはカツラを取った。「艦長、近いうちにクルーの前で演技を御披露目したいのですが?」
ピカード:「もう少し、じっくりと稽古しよう。」
「フン。」

通常航行中のエンタープライズ。
ブリッジに戻るピカード。
ライカー:「シエラ6号星基地※8との連絡で、謎の船はロミュランの偵察機※9だとわかりました。針路は 270、マーク 14。」 星図に宇宙艦隊とロミュランのシンボルが表示される。
ピカード:「偵察機? …中立地帯で何を探ろうというんだ。」
ウォーフ:「まずは、撤退するよう警告してみましょう。」
「宇宙チャンネルオン。」
「了解。艦長、ロミュランからの通信です。」
「ビューワーオン。」
「電波が弱いので※10。」
「音声だけでいい。」
乱れた音声が届く。『宇宙艦隊、聞こえますか。ただちに保護を願いたい。』
ピカード:「こちらジャン・リュック・ピカード。U.S.S.…」
『宇宙艦隊、至急保護を頼む! 亡命を希望する者だ、追撃を受けてる!』
ライカー:「追撃?」
ウォーフ:「映像が入りました、ビューワーオン。」
スクリーンを横切ったロミュラン船の後ろで、ウォーバードが遮蔽を解除した。


※1: Michael Williams
(パトリック・スチュワート Patrick Stewart) LD など一部資料では「ウィリアムズ (ピカード)」と書かれていますが、ピカードがホロデッキで演じているという設定ではなく、スチュワートがメイクを施されてのホログラムキャラクター。名前は言及されていません。スチュワートはロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに所属していました。声:麦人

※2: John Bates
(S・A・テンプルマン S.A. Templeman) 声はライカー役の大塚さんが兼任。LD など一部資料では「ベイツ (ライカー)」と書かれており、まさかとは思いますがウィリアムズ同様にベイツをジョナサン・フレイクスが演じたものと勘違いした可能性もあります (確かに似てないこともない?)

※3: Sir Thomas Erpingham

※4: 吹き替えでは「サー・トーマス」。敬称は名字につけるべきですね (原語では「彼」のみ)

※5: プログラムを停止させたはずなのに、焚き火の炎が揺らめいているのは変かも

※6: Olivier
ローレンス・オリヴィエ。映画「ヘンリィ五世」(1945) 監督・製作・主演。原語では「オリヴィエ、ブラナー (Branagh)、シャピロ (Shapiro)、カルナーク (Kullnark) の演技を学ぶつもりです」。ブラナーはケネス・ブラナーのことで、映画「ヘンリー五世」(89) 監督・脚本・主演。このエピソードの放送が 90年1月ですから、「旬」の話題だったのかもしれません。残り 2人は架空の人物で、順番からすると現代より後の時代だと思われます。カルナークは異星人?

※7: Henry V
原語では「王」と言っているだけで、後にもう一度言及される際は「ヘンリー王」。当初はホームズネタになる予定でしたが撮影 2日前に中止となり、マイケル・ピラーがスチュワートに相談したそうです。一連のシーンでは古語が使われています

※8: Outpost Sierra VI

※9: ロミュラン偵察船 Romulan scoutship
初登場。Rick Sternbach デザイン、Tony Meininger 製作

※10: 原語では「映像圏外です」

・本編
ロミュラン偵察船を攻撃するウォーバード。

ピカード:「非常警報、戦闘機と連絡を取れ。」
ライカー:「中立地帯には入らず、偵察機の針路へ。」
「宇宙チャンネルオン。」
「彼らが連邦の領域に入るまでの時間は。」
制服に戻ったデータが席につく。「41秒です。」
ピカード:「ロミュラン・ウォーバード、こちらはジャン・リュック・ピカード。宇宙艦隊エンタープライズ艦長だ。君たちは中立地帯に侵入し非常に不審な行動をとっている。この件について説明したまえ。」
ウォーフ:「応答なしです。」
「偵察機の方は。」
「…応えました。」
「ビューワーオン。」
ロミュラン:『エンタープライズ!』 一人のロミュランが映った。『お願いだ、助けてくれ!』
「今そちらへ向かっているところだ。コースと速度をそのまま保て。」
スクリーンの一面が白くなり、映像は途絶えた。偵察船が攻撃を受け、姿勢を崩す様子が映る。
データ:「偵察機のエンジンが故障しました。防御スクリーンも不能です。」
ライカー:「現在地は。」
「座標では、140 マーク 205 です。」
「我々の領域です。」
ピカード:「そうだな、5キロ以内に接近しろ。ラフォージ少佐、防御スクリーンの出力を上げて偵察機を保護してくれ。」

機関室のラフォージ。「それだけ距離が離れていてはスクリーンの効果は上がりません※11。」

データ:「5キロ圏内です。」
ライカー:「エンジン停止!」
ピカード:「出力を上げろ。」
ラフォージ:『出力アップ。偵察機を捉えました。』

ウォーバードが、エンタープライズとロミュラン偵察船に近づく。
ウォーフ:「ウォーバードは兵器にパワーを集めています。」
ピカード:「フェイザー砲ロック、チャンネルオン。」
「完了。」
「ロミュラン艦に告ぐ、君たちは惑星連邦の領域を侵している。ただちに撤退…」
ウォーバードは反転し、遮蔽した。
ライカー:「引き下がるとは。」
ウォーフ:「ウォーバードは中立地帯に戻りました。…ロミュランの領域へ向かっています。」
データ:「偵察機のパワーが著しくダウン。全システムが停止しました。生命維持装置もです。」
ライカー:「第2転送室、偵察機の乗員の受け入れ準備にかかれ。」
転送部員:『了解。』
「ウォーフ、来てくれ。」
ピカード:「データ少佐、偵察機を牽引するんだ。」 ため息をつく。

転送室に入るライカー。「転送開始。」
先ほどのロミュランが後ろ向きに転送されてきた。フラフラと降りる。「今すぐ艦長に会わせてくれ。」
ライカー:「いやまず手当てを受けた方が…」
「そんなのは後でいい! 君たちの生死に関わる問題があるんだ。」 ロミュランは首から緑の血を流している。

『航星日誌、宇宙暦 43462.5。我々は、ロミュランからの亡命者を受け入れた。彼は武器補給部に属する中尉だと名乗り、ロミュランの軍事機密に関する情報をもっているという。』
観察ラウンジ。
ロミュラン:「我々にとってあのシャロンでの敗戦※12は忘れ得ぬ屈辱なんだ。そこで新首脳陣は平和協定を破り、中立地帯の侵略を始めた。その第一弾がネルヴァナ3号星※13だ。」 保安部員もいる。
ライカー:「その星に既に基地を建設したというんですね?」
「48時間後にはリアクターを入れ、基地活動を開始する。」
「我々はセンサーで中立地帯を監視しているのに、欺かれていると。」
「…そういうことになるな。…2日後にはロミュランのウォーバードが大船隊を組み、君たち惑星連邦の 15 のセクターの目と鼻の先に配置されることになるんだ。」
ウォーフ:「惑星連邦はそんなことを許さん。」
「恐らく戦争になるだろう。だからこうして警告しているんだ。…基地を破壊したまえ。今のうちに。」
ピカード:「あんなことがあった後です、きっとお疲れでしょうし…治療も受けられた方が。あウォーフ、シートール中尉※14を医療室へ御案内するんだ、客室も用意しておきます。」
シートール:「艦長。私を疑ってらっしゃるようだ。」
「…当然です。」
シートールは立ち上がった。無言で出ていく。
ライカー:「バカげてますよ。」
ピカード:「信じないのか。」
「ロミュランだって、いくらなんでもそんな軽はずみな真似はしませんよ。」
データ:「副長、これはいつもの戦術パターンに似ています。これまでの戦法を見ると、向こうから攻撃することはまずありません。今回も、我々の出方を見てくるでしょう。」
「彼は囮だな。…我々を中立地帯へおびき出し、協定違反をさせる気です。」
ピカード:「そしてそれを口実に、我々を攻撃する気だというんだね?」
「恐らく。」
データ:「ロミュランの戦術パターンから言えば、あり得ることですね?」
ピカード:「いつもの駆け引きが始まったという感じだな。」
ラフォージ:「ですが、ロミュランの科学技術を間近で見るいいチャンスができましたね。」 窓から偵察船が見える。
「ラフォージ少佐、早速偵察機を調査してくれ。副長、君はカウンセラーと 2人でシートールを尋問してくれないか。」
データ:「艦長、私も立ち会わせてください。」
「いや。君は一緒にブリッジへ来てくれ、やることがたくさんある。…48時間以内に何らかの手を打たなければ、恐らく…戦争になる。…まずは真相を明らかにする…」
その時、窓の外の偵察船が爆発した。

治療を受けるシートール。「…この船へ来る前に自動爆破装置をセットしてきたんだ。」
ライカー:「なぜです。」
「…わからんのか。君たちに乗っ取られないためだ。」
「一体どういうことなんですか、あなたは亡命者のはずですよね。」
「だが反逆者ではない。…君たちは私から情報を聞き出すことしか興味がないようだ。フン、いつも自分の利益しか考えんのだな。あの船に乗船してどうする気だったんだ、ん? 壊すのが関の山さ。そんなことをしてどれだけの利益になったというんだ。…短絡的だよ。私が亡命したのは、戦争を防ぐためだ。」
クラッシャー:「ジッとしてて下さい? …あなた方の治癒能力なら、すぐに治りますよ。」
「……うーん、助かったよ。ロミュランの医学に詳しいドクターがいたとは。」
「…つい最近患者を診る機会がありましたから。」 ウォーフを見るクラッシャー。
シートール:「ああそうか、ガロンドン・コアの墜落事故※15だ。」
「うん…」
「2人乗ってた。」
ウォーフ:「ただの士官にしてはやけに事情に詳しいようですねえ。」
「…あの事故は、話題になったんだよ。…階級コードを見せよう。」
「偽造した身分証明書など見ても仕方がない。」
「…君たち地球人はクリンゴンのパターク※16に、なぜ艦隊の制服を着せているんだ。」
近づくウォーフ。「…ここがクリンゴンの船でなくてよかったな。スパイは容赦しない!」
シートール:「うーんこのトイザ※17を、追っ払ってくれ!」
ウォーフはうめく。
ライカー:「クリンゴン語の汚い言葉にお詳しいようだ。そういう言葉を使う人をヴァルール※18と、ロミュラン語では言うんでしたよね? …ウォーフ大尉※19、お客様が滞在される間警備を強化しろ。」
ウォーフ:「了解!」 医療室を出ていく。
シートールは笑った。
ライカー:「何かおかしいことでも?」
シートール:「…ウォーフ大尉さ、気に入った。とても理解しやすいタイプだよ。気高く、勇敢な戦士だ。戦闘が生き甲斐だ。…用心しないといつ寝首を掻かれるかわからんぞ。」


※11: 吹き替えでは「これだけ距離が離れていてはスクリーンは届きません」。これでは直後に 5km でシールドに入れたこととつながりません

※12: 正確には「シャロンの戦い (Battle of Cheron) での敗北」。この辺りのセリフから、シャロンの戦いによってロミュラン戦争が終結し、中立地帯が設けられたことがわかります (2160年)。"Cheron" は TOS第70話 "Let That Be Your Last Battlefield" 「惑星セロンの対立」のセロンと同じ名前ですが、その際スポックはその惑星のことを知りませんでした

※13: Nelvana III
カナダのアニメスタジオにちなんで

※14: Sublieutenant Setal
(ジェイムズ・スローヤン James Sloyan TNG第173話 "Firstborn" 「クリンゴン戦士への道」のケムター (K'Mtar)/50歳のアレキサンダー・ロジェンコ (Alexander Rozhenko)、DS9第32話 "The Alternate" 「流動体生物の秘密」などのベイジョー人モーラ・ポール博士 (Dr. Mora Pol)、VOY第15話 "Jetrel" 「殺人兵器メトリオン」のマボール・ジェトレル博士 (Dr. Ma'Bor Jetrel) 役) "Sublieutenant" という階級は宇宙艦隊にはありません。声:筈見純、VOY コロパック、旧ST5 カーク、旧ST6 チャンなど

※15: TNG第55話 "The Enemy" 「宿敵! ロミュラン帝国」より」

※16: pahtk
初言及

※17: tohzah

※18: veruul
吹き替えでは "a veruul" で「ヴァルール」と訳されています

※19: 吹き替えでは全て「尉」。第3シーズン以降、ウォーフの階級は大尉です

通常航行中のエンタープライズ。
保安部員が外で警戒する部屋に、シートールが入った。
ライカー:「これがフードディスペンサー。何かあればコンパネルで呼んで下さい。」 出ていく。「あとでもう少し尋問します。」
シートール:「コンピューター、水をくれ。」
コンピューター※20:『温度は。』
「オン氏※21 12度で。」
『このシステムは摂氏で温度設定されています。』
「…何度でも構わんからとにかく冷たい水を出してくれ。」
コップが現れた。口にするシートール。
洗面所をうかがい、座る。足下から丸い錠剤を取り出した。

星図が表示されている。
データ:「ネルヴァナ恒星系には、何も異常は認められません。」
ピカード:「ネルヴァナ3号星だけ拡大してみよう。」 図が惑星のものに切り替わる。
データ:「やはり異常はありません。」
「うーん。シートールの話は、やはり信じがたいな。…しかしながら、ロミュランには戦艦の姿を消してしまう遮蔽装置がある。目の前を大挙して飛んでいる可能性も捨て切れん。…何とかそれを見破る方法はないものだろうか。」
コンピューター:『ピカード艦長、艦隊司令部からの非常時通信を受信しました。』
「作戦室へ。発信からのタイムラグは。」
『ライア3号星※22の司令部で発信後、2時間22分経過しています。』
作戦室に入るピカード。「コンピューター、アクセスキー 412 マーク 80。ピカード、ジャンリュック。宇宙艦隊コード・ガンマ。デコードせよ。」 惑星連邦の紋章が形作られた。「始めてくれ。」
提督のヘイデン※23が映った。『艦長。ロミュラン帝国から亡命者の返還を要求するという、正式な抗議を受けたが。我々は応ずることを拒否した。私も君の意見には賛成している。もしこれが策略なら、ロミュランはそのうち本性を現すことだろう。…連邦議会では緊急会議が開かれているが……この問題の解決は、最終的には君の双肩に懸かるものと確信している。…亡命者の言葉が、真実であるかどうか突き止めてくれ。とりあえず中立地帯と連邦領域との境界線上に乗り、ネルヴァナ3号星へ可能な限り接近してみたまえ。』
ピカード:「…うーん。ウォーフ大尉、ピカードだ。」
ウォーフ:『はい艦長。』
「作戦室へ来てくれ。」
『了解、向かいます。』
ため息をつくピカード。

ブリッジのモニターにロミュランのマークが 2つ表示されている。
ラフォージ:「スロー再生。…2機の速度と、エンジンの数値を表示しろ。…095433時に、ご注目下さい。偵察機はダメージを受け、エンジンパワーが 0.615 まで落ちました。この時、戦闘機は一気に追いつけたはずです。しかし、2.6秒後に戦闘機は偵察機と同じ速度まで減速します。結局 3度減速を行い、偵察機との距離を保っています。捕らえる気などなかったんです。」
クラッシャー:「その気さえあれば、爆破することだってできたはずだわ?」
データ:「爆破の必要はありません。ロミュランの兵器も、相手へのダメージを自在に調整することができます。」
ピカード:「うーん。シートールの傷も故意に作られたものかもしれん。」
クラッシャー:「…ひどい火傷でした。私にはとても。」
「可能性はある。」
「…ええ。」

停止しているエンタープライズ。
『航星日誌、宇宙暦 43463.7。中立地帯との境界線上、ネルヴァナ3号星に最も近い地点で止まっている※24。シートールの話が真実なら、ロミュランの基地が機能し始めるまで後 21時間しかない。』
ヘイデン:『モニター※25とフッド※26の 2機がそちらへ向かった。しかし、間に合わないこともありうる。…境界近くに位置する軍事基地と艦隊機には、司令部から警告を発しておいた。戦争突入は回避したいが…その準備だけはしておかねばならないからな? 全艦隊機にも、警戒警報を発令中だ。』 映像は終わった。
カップを手にしていたピカードは、ドアチャイムに応えた。「入れ。」
データ:「お呼びでしょうか?」
「ああデータ、第1級探査機の準備にかかれ。…センサーは最大にセットしてくれ? ネルヴァナ3号星を、隅々まで調査してもらいたい。」
「早速準備にかかります。」 外へ向かうデータ。
「あ、データ。」
「……ほかにも、何かあればおっしゃってください。」
「…期待しているぞ。君の頭脳と、冷静さに。…座ってくれ。…ことによっては全面戦争に発展するかもしれん。今日一日の、我々の動向が連邦全体の未来を左右することになりうるんだ。君にはこれからの出来事を客観的な視点から観察し、将来に役立つよう記録に残して欲しい。」
「すぐに取りかかります。ほかには。」
「…乗員たちは怯えているか。」
「もちろん緊張はしていますが、自信をもっています。見回ったらいかがですか?」
微笑むピカード。「…ヘンリー五世とは違って…変装して部下の話を聞きに行くというわけにはいかないからな? …頼んだぞ?」
作戦室を出ていくデータ。
ピカード:「……『兵士が悲惨な死に方をしたなら、全ての指揮をした王の罪が重くなるのだ。』」


※20: 声:磯辺万沙子

※21: オンキアン onkians

※22: Lya III
初言及

※23: ヘイデン提督 Admiral Haden
(ジョン・ハンコック John Hancock) 初登場。名前は言及されていません。階級章の星の数は確認不能。TNG での提督用制服は 3種目かつ最終形となります。声:亀井三郎

※24: 吹き替えでは「境界線上、ネルヴァナ3号星へ向かっている」。映像でもわかるように、エンタープライズは止まっています

※25: U.S.S. Monitor
ネビュラ級、NCC-61826

※26: U.S.S. Hood
エクセルシオ級、NCC-42296。TNG パイロット版 "Encounter at Farpoint" 「未知への飛翔」など

質問室のシートール。「こんなバカらしい質問ばかりでは時間の無駄だ。」
トロイ:「あなたは心を閉ざしています。きっと何か隠してるはずですわ。」
「ネルヴァナ3号星の件については洗いざらい話したぞ。」
「基地のことを言ってるのではありません。」
「ほかに何を話せと言うんだ君は。」
ライカー:「あなたは嘘をついてます。」
「その目で確かめればわかる!」
「真実を聞くまではどこにも行きません。あなたスパイでしょう。」
「違う!」
「では証明を。ロミュラン艦隊の現在地と軍事力を明かせば、スパイではないと信じます。」
「私は知らない!」
「武器補給部の士官が?」
「担当セクター以外知らん!」
「上官の名前は。」
「ジャロック※27提督。」
「中立地帯の付近にある全基地の位置を教えるんだ。」
「知らないんだよ。」
「担当区の基地は!」
「関係ないだろ!」
「提督が指揮している部隊の数は!」
「的外れだ、そんな質問は。」
「……言うとおりだな? 時間の無駄に過ぎん。」
「…判断を誤ったようだ。…愚か者の集団に助けを求めて来てしまったとは。」

コンピューターの音声が流れる。『ピカード艦長、クリンゴン艦ボルティス※28の保安部長から非常時通信が入っています。』
ピカード:「ウォーフ大尉、第9保安デッキ※29で代わりに受信してくれ。」
ウォーフ:「了解。」 ブリッジを出ていく。
データ:「惑星探査用に、センサーをセットしました。準備完了です。」
ピカード:「発進。」
エンタープライズから探査機が打ち出された。
データ:「探査機、発進。センサー作動開始。」
ピカード:「早速分析に取りかかって、できるだけ早く報告してくれ?」 作戦室に入る。

機関室のラフォージ。「俺の第六感※30じゃ、シートールの話は信じといた方がいいと思うね?」
データ:「『第六感』?」
「何か、感じるんだよ。本能というか、直感で。」
「そういったものは、冷静な判断の妨げになるのでは?」
「時にはそういうこともある。」
「では、なぜ直感を信じるんだい?」
「事実に基づいた判断が、いつも正しいとは限らない。当てにはならないさ?」
「しかし、直感の方が信頼性が高いとは思えないが。」
「そうかい? じゃデータはどう思う、彼は本当に亡命者か?」
「これまでの事実から論理的に判断すれば彼は違う。」
「…とにかく、ネルヴァナ3号星でロミュランの化けの皮を剥がさないことにはわからないな?※31
「……『化けの、皮』?」
「慣用句さ、秘密を暴くこと。」
「うう…第六感で、感じるんだね。」
「その通り。だけど、いつも直感だけに頼るわけにはいかない。組み合わせることが大事なんだ。…つまりこういうことさ。確かに人間が物事に対して抱く直感というものは時に、思考の混乱を招いたり先入観となるにしても必要なものだ。判断材料となる、事実の一部が隠されている時にはその部分を埋める手助けになる。」
「…つまり人間は、必要な判断材料の中の抜けている部分を直感で補うというんだね? そして事実同様、その直感で得られた事柄に基づいて判断を下し結論を出す。」
「わかってきたようだ。」
「うん。……しかし、その直感をもたない者はどうすればいいんだろうか。」
反応があり、コンピューターに惑星の図が出た。
ラフォージ:「データ、これを見ろ。新たな事実が見つかった。」

話を聞くピカード。
データ:「探査機はネルヴァナ3号星の軌道に乗り、低レベルの亜空間電波を観測しています。」
ピカード:「自然発生的な電波か?」
「いえ、パターンから言って人為的なものです。」
ラフォージ:「微弱なために、本艦のセンサーでは感知できなかったんです。」
ピカード:「解読できないか。」
「駄目でした。送信者は、恐らくロミュランでしょう。電離妨害波も観測されています。」
データ:「遮蔽装置から、放射されているものと思われます。」
ピカード:「…惑星の表面には何がある。」
ラフォージ:「ただの、岩しかありません。しかし、我々の探査には引っかからないよう基地を隠しているのかも。…上陸して、直接調査するしかないと思われます。」
「…うーん。話はわかった。」
作戦室を出ていくデータとラフォージ。無言で考えるピカード。

テン・フォワードでグラスを手にするシートール。データがそばで見ている。
シートール:「君は、今日初めてロミュランと会ったと見えるな。」
データ:「その推測は間違っています。」
「ではなぜ私をそうジロジロと見るんだ。」
「あなたから何かを感じないかと、第六感というもののテストです。」
シートールは微笑み、立ち上がる。「アンドロイドだね。ロミュランのサイバネティックス学者たちが、君を見たらみんな大喜びするだろうな。」
データ:「…そういった言葉には何の感慨も抱きません。」
「そうだろう。」 窓の外を見るシートール。
「よくクルーが、船の中でお気に入りの場所はその窓だと言うんですよ。」
「うん。確かに心安らぐとは思うが、私の知ってる星とは違う※32。間違ったところへ来てしまった。」 シートールはグラスを口に近づけただけで置いた。「合成アルコールか。君たちのフードディスペンサーは、ロミュランの酒※33を作れるほどの性能はないようだ。」
「その飲み物の分子構造がわからなければ無理でしょうねえ? ロミュランの文化に関する、我々の知識はまだ乏しいのです。」
「それは不幸なことだな。私はこれまでに百を超える地域へ行ったことがあるが、私の故郷ロミュラスほど美しいところは一つもなかったね。」
「私の推測では、ここへ来たことを後悔していますね?」
「後悔しても仕方ない。…だが、もう二度と…ガル・ガソン※34の火の滝を見られないのは残念だな。アペニクス海※35の日の出も。朝焼けに映える我が家の尖塔もな。…故郷を捨てるというのは辛いことだよ。」
「帰郷を望んでも、許可されることはまず不可能です。」
「アンドロイドにこの気持ちはわからんよ…。」
「…ロミュラスに、案内することはできますよ?」

コンソールを叩くデータ。
コンピューター:『プログラム完了。』
データ:「開始せよ。」
ホロデッキのドアが開いた。保安部員が監視している。
データ:「中へどうぞ?」
入るシートール。
中には岩場が再現されており、夜の空には複数の衛星が見える。水面に映る月の影。
シートールの声が響く。「チュラの谷※36だ。よく行ったよ。」
データ:「気の済むまでお楽しみ下さい。」
「…私はここを捨てたんだ。…消してくれ。」
「…プログラム終了。」
映像は消えた。
シートール:「ここだ。ここで新しい生活を始めるんだ。何もかも、犠牲にしてきたんだから。絶対に後悔はしない。…ピカード艦長とミーティングの手はずをつけてくれ。……こう伝えろ、ジャロック提督から話があるとな。」


※27: Jarok

※28: Bortas
I.K.S.ボルティス (I.K.S. Bortas)。後のエピソードで登場

※29: 原語では「第9デッキの保安ステーション」

※30: gut

※31: 「化けの皮をはぐ」= "with their pants down" (ズボンを降ろさせる)。"with one's pants down" で「あたふたして、当惑して」という意味があります

※32: 吹き替えでは、シートール「君もか」 データ「よく言われるセリフなんです。私を見るとみんなそう思うらしくて。」 「うん。また拒絶されたかと思ったよ。ここの水は肌に合わん」

※33: ロミュラン・エール Romulan ale
映画 ST2 "The Wrath of Khan" 「カーンの逆襲」など

※34: Gal Gath'thong

※35: Apnex Sea

※36: Valley of Chula
ロミュラスが描かれるのは初めて

コンソールにヘイデンが映った。『艦長、君の船にいる人物は間違いなくアリダー・ジャロック※37提督だ。…かつてノーカン基地※38であった大虐殺の指揮官として記録されている。連邦議会は君に対しジャロックからの情報は信用すべきでないと勧告を出している。』
ピカードはコミュニケーターに触れた。「彼を入れろ。…少尉、君は外してくれ。」 外に立つ保安部員。「おかけ下さい、提督。」
ジャロック:「艦長、もう時間がないのだ。」
「とにかく、おかけ下さい。…私にはあなたのおっしゃってることが、真実とは思えないのです。」
「それでは、どうしろと言うのだ。」
「証明していただきたい。うん…確固とした証拠があれば信じましょう。…これまであなたは、言葉を裏づける証拠を何一つとして提示していません。しかも今まで本当の自分まで偽っていた。…提督、あなたの話には何の信憑性もありません。…ジャロック提督ともあろう人が亡命してきたなどと…一体誰が信じるというのですか。」
「亡命の動機については尋問の際に説明したぞ。」
「ええそれなら聞いてます、宇宙平和のためでしたね。…あなたが平和主義者だとは思えません。これまでの戦歴を見ればそれは明らかだ。」
「だからこそ私は亡命して、新たな生き方を探ろうとしているんだ。」
「ノーカン基地の大虐殺を指揮した責任をどうとる。」
「君たちは『大虐殺』と言うが、我々にとってはあれは単なる『軍事行動』の一つでしかなかったんだ。敵には虐殺者でも、味方には英雄とされることがある。私はそのどちらでもないが。」
「…何に基づいて、あなたを…信じればいい。」 立ち上がり、制服の裾を伸ばすピカード。「ん? …それならば…ロミュランの、Bタイプ戦闘機※39に対する撃滅方法を教えていただきたい。それに、遮蔽スクリーンを張っているときに見破る方法もだ。…これだけ言えばおわかりでしょう。あなたは我々に信じろと、それもどう考えても信じる根拠のないことをですよ? その一方で我々が援助を頼めばそれは断ると言うんだ。」
「私には同胞たちを裏切ることはできない!」
「既に裏切っているではないですか、亡命したことはほかならぬ裏切りだ。厳しいことを言って、あなたを傷つけたならそれは謝りましょう。しかしあなたの言葉に踊らされて私の部下たちを、危険な目に遭わせるわけにはいかない。…あなたは亡命したんですよ。そのことをよく認識してもらいたい。」
「…君には、自分の娘や息子がいるのか。」
「いいや?」
「うーん。自分の人生を仕事に捧げているというわけか。」
「話をすり替えるのはよしてくれ。」
「まあ聞いてくれ。もしも君に子供ができて、その () が初めて笑った顔を見たら私がなぜこんなことをしたかきっとわかるだろう。この娘のために宇宙を平和にしてやろう。子供たちの未来のために。その気持ちで私はここへ来た。ロミュラン帝国を滅ぼすためではない、救うために来たんだ。この数ヶ月、私は最高司令部に対してまた戦争が勃発すれば帝国は滅びると訴え続けてきた。…しかし聞き入れてはもらえず、危険分子として遠方のセクターに転属を命じられた。残された道はこうするよりほかになかったんだ。…もう…もう二度と子供の笑顔を見ることはできない。…大人になればあの娘も、父親が裏切り者だったと知るだろう。…だが未来は残してやれる。君の指揮に懸かっている。戦争になる前に何とか食い止めてくれ。」
「それは無理だ。その意思もない。あなたからの全面的な協力を、得られない限りは。」

観察ラウンジに入るピカード。クルーが着席する。
ピカード:「……ジャロック提督は、ロミュラン艦隊の現在地と…軍事力、並びに戦術計画を語ってくれた。…ラフォージ少佐、ウォーバード級の戦闘機のエンジン、兵器、遮蔽装置に関する情報など技術面の知識を聞いておくように。彼には豊富な戦闘経験で培った戦術上の知恵もある。そちらの方が戦闘に際しては役立つだろう。」
ラフォージ:「何でも役立ちますよ。」
「かといって過信はするな? 彼が嘘をついてる可能性もまだあるんだ。副長、ネルヴァナ3号星へ針路を取れ。」

エンタープライズはワープに入った。


※37: Alidar Jarok

※38: Norkan outposts

※39: B型ウォーバード B-Type Warbird
デイダリデックス級ウォーバードの別名で、連邦側の呼称だと思われます

データ:『航星日誌、データ記録※40。宇宙暦 43465.2。我々は、アルジェロン条約※41を破り中立地帯へ入った。ロミュランの戦闘機が我々を監視し、ネルヴァナ3号星で待ち受けている可能性はかなり高い。』
ブリッジ。
ライカー:「動きは。」
ウォーフ:「何も見られません。」
艦長席に座り、裾を伸ばすピカード。
ライカー:「意外です。仕掛けてくると思いましたが。」
ピカード:「…似たような状況で同じ言葉を吐いた指揮官がいるぞ。…君と同じアメリカ人だ。リトル・ビッグホーンの戦い※42で全滅した第七騎兵隊のカスター将軍※43だよ。」
「不吉ですね。」
データ:「ネルヴァナ恒星系に到着。」
ピカード:「通常エンジンに変換しろ。」
ワープを止めるエンタープライズ。
ライカー:「ネルヴァナ3号星を映せ。」
惑星が映し出される。
ライカー:「…やはり異常はありませんねえ。…何事もなく到着しましたが…かえって不気味です。」
ピカード:「周回軌道に乗れ。……どうした。」
データ:「スキャンしてみましたが、生命体もリアクターも兵器も一切ありません。」
ライカー:「基地などないということか。」
「はい。」
ピカード:「探査機が捉えた亜空間信号や、電離妨害波はどうだ。」
「観測はしていますが発生源の特定には、至りません。恐らく、惑星の軌道上高度 800キロの遠地点辺りかと思われますが。」
「うーん。ウォーフ大尉、提督を呼んでくれ。」
ウォーフ:「了解。」
ライカー:「…彼が亡命したために、撤収したのでは?」
データ:「惑星の表面には、基地を建設したような跡は全く見られません。」
「遮蔽装置のようなもので、基地を隠している可能性は。」
「惑星上で遮蔽装置を使えば、その地点はゆがんで映るはずです。」
保安部員と共にジャロックがターボリフトを降りた。
ピカード:「何のために我々をここへ連れてきたのか御説明下さい。」
ライカー:「…基地など全く見当たりません。」
ジャロック:「…何のことだ。」
ピカード:「ネルヴァナ3号星のことですよ、基地もない兵器もない。生命体すら見られません。」
「……だが、だが私は戦術発表で聞いたんだ。計画書も、完成までのスケジュール表も見た。全軍がこのセクションに、集結するよう指示も出ていた。」
「彼らがあなたに偽の情報を与えていた可能性もある。……あなたを危険分子として、左遷させたがそのことで不満を抱いているのではないかと疑って…あなたの帝国への忠誠心をテストしたのでは?」
「まさか。…そんな。…ありえない!」
ピカードはジャロックに近づいた。「あなたに何の価値もない、秘密をつかませて亡命させたのですよ。…ほかにどう考えられます。」
ライカー:「今すぐ中立地帯から離れましょう。」
「できるだけ急いだ方がいいな。」
「機体を 180度転回しろ。ジョーディ、ここから脱出だ!」
座り、制服の裾を伸ばすピカード。
ラフォージ:『了解しました。』
向きを変えるエンタープライズ。だがその前に、2隻のウォーバードが遮蔽解除して現れた。
ウォーフ:「ロミュラン戦闘機が前方に 2機。座標…」
揺れる船。
ウォーバードは攻撃し続ける。
ウォーフ:「スクリーン異常なし。」
ライカー:「損傷は。」
ラフォージ:『第2外壁に、軽度の損傷! それにパワー転送装置が不調ですが、何とかもちます!』 機関室を歩く。
ウォーフ:「反撃を!」
ピカード:「もう少し我慢しろ。まだ挨拶程度に過ぎん。こうして話していられるんだからな。」
「ロミュランからの通信です。」
「…ビューワーオン。」
ロミュラン:『ピカード艦長、こんなに早く再会できるとは思ってもみなかった。』 トモロク※44だ。『今度は君たちが中立地帯に侵入して不審な行動を取っているようじゃないか。』
「トモロク司令官。もちろんよく知っていることだろうがネルヴァナ3号星を君たちが侵略したと聞いてやってきただけだ。」
『しかし艦長、ご覧の通り侵略の事実はない。』
「亜空間信号と電離妨害波を発していたではないか。それについて説明してもらいたい。」
『ああ、あれは単に探査をしていただけだ。ネルヴァナ3号星を考古学的な視点から、調査させていただいたんだ。』
「遮蔽装置つきの衛星でか。」
『…よしたまえ艦長、我々が衛星を使ったくらいで中立地帯を侵犯して不穏な行動をとった口実になるとでも?』
「好きなように解釈しろ。…我々は引き返す。」
『一言ぐらい謝罪してもらいたいものだ。』
「謝って済むのなら、そうしよう?」
『もちろんそれでは済まん。それ相当の恥辱を味わってもらう。』
「勝手にするがいい。」
『いいかピカード。先ほどから君のエンタープライズを詳細に観察させていただいた。外壁が剥がれているようだがそれを頂こうか。…勝利の印として帝国議会に飾らせてもらおう。軍の士気を高めると同時に、反逆を企てる不届き者が二度と現れんように国民をいさめる効果があるだろう。』
ジャロックを見たピカード。
ジャロック:「…私がバカだった。基地計画発表はこの私を、利用するためか。…君たちがでっち上げをしていたとはな。私の忠誠心を試し、私を囮にしてエンタープライズを中立地帯へおびき出したわけだ。」
トモロク:『いいか艦長。まずその反逆者を引き渡すことだ。…そのあと君にも捕虜としてこちらへ来てもらおう。』
ピカード:「私がそんな要求に応ずると思ってるのか。」
『いいや応じないだろうな? それならばそれで構わんさ。…30秒だけやるから考えろ。』
「考える必要など全くない。」
『降伏するよりほかにないはずだ。忘れるな。乗員一人一人の命は艦長である君に懸かっているんだからな?』
ピカードは笑った。「もしもそれが正義を懸けた戦いなら…彼らには死ぬ覚悟はできてる。トモロク、お前には死ぬ覚悟ができているのか?」
トモロク:『…下らんこけおどししかできんとは君には失望したよ、ピカード。』
「ではこれならどうだ。ウォーフ大尉。」
ウォーフ:「了解。」 コンソールに触れた。
エンタープライズとウォーバードを、3隻のクリンゴン・バードオブプレイ※45が取り囲んだ。
ウォーフ:「クリンゴン戦艦、攻撃準備完了です。」
無言のトモロク。
ピカード:「さてどうする、トモロク。」
トモロク:『我々の攻撃を受ければ生きては帰れんぞ。』
「それは君たちも同じことだ。共に戦死するか。」
『……また会える日を楽しみにしているよ、艦長。』 トモロクはうなずき、通信は終わった。
ウォーフ:「ロミュランの主砲のエネルギー値がダウンしました。」
ウォーバードは遮蔽しながら去っていった。
ピカード:「非常警報解除。…ウォーフ大尉、クリンゴン艦にロミュランの撤退※46と私からの感謝の意を伝えてくれ。」
ウォーフ:「了解。」
「…では帰路につこう。」
ジャロック:「私のしたことは無意味だった。故郷も捨て、家族も捨てたのに。無駄だった。」

廊下を歩くピカードとデータ。保安部員が前に立つ部屋に入る。
クラッシャーとライカーが中にいた。
クラッシャー:「フェロデシン※47を服用したようです。用意してきていたんでしょう。残念ですが解毒剤はありません。」
ジャロックが横になっていた。
パッドを渡すライカー。「家族に宛てた遺書です。」
データ:「艦長、家族に届くことはありえないのになぜ書いたんでしょう。」
ピカード:「…いつの日か、彼のような勇気ある者がロミュランからまた現れるさ。そしてこの遺書を届けに行けるような平和なときが…一日も早く来て欲しいな。」

エンタープライズは、ワープに入った。


※40: 原語では「第二副長日誌」

※41: Treaty of Algeron
初言及

※42: The Little Bighorn

※43: 原語では「ジョージ・アームストロング・カスター (George Armstrong Custer)」

※44: Tomalak
(アンドレアス・カツラス Andreas Katsulas) TNG "The Enemy" 以来の登場。声:加藤精三

※45: 今回のバード・オブ・プレイはエンタープライズやウォーバードとかなり近づいた状態で描写されているため、これまで映像で描かれた中でも飛び抜けて最大級の大きさ (700m 程度?) になっているようです。一般的には小型=23世紀のブレル級、大型=24世紀のクヴォート級とされていますが、それだけでは説明がつかないようで… (参考ページ)

※46: 原語では「連邦 (と私個人からも感謝の意)」

※47: Felodesine

・感想など
前回のロミュラン話を緩やかに引き継いだ、亡命者ジャロック提督のエピソード。今回も「ロミュランと言えば策略」という印象を強く与える仕上がりになりました。ロナルド・ムーア 2話目の脚本ですが、中立地帯など過去の設定を熟知し、違和感の全くない描写はさすがです。彼自身は「中立地帯でのキューバ危機」と呼んでいるとか (旧題という意味ではありません。そっちは "A Question of Trust" 「信用の問題」)。クリンゴン艦が現れるところは鳥肌ものですね、音楽にも注目。
ジャロック役は DS9 でのオドーの研究者モーラ博士をはじめとして、その後も出演する度にメインゲストとして印象深いキャラクターを演じています。当初はジャロックとクラッシャーのラブストーリーだったそうです。


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