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TNG エピソードガイド
第79話「恐怖のワープ・バブル」
Remember Me

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・イントロダクション
クラッシャー:『医療部長日誌、宇宙暦 44161.2。クルーの交代のため、第133宇宙基地※1に停泊する。ここで私の恩師であり旧友のドクター・ディラン・クエイスが乗船し、故郷のケンダ2号星※2へ帰ることになっている。』
惑星軌道上の宇宙基地へ向かうエンタープライズ。
中に入った。

転送されてくる、年老いた医療士官。
待っていたクラッシャーは駆け寄り、抱きついた。「先生!」
クエイス※3:「ビヴァリー、相変わらず元気そうじゃないか。」
「先生もお元気そう。」
「まさか、ヨレヨレだよ。うちまで送ってくれるとは親切な艦長だな。」
「通り道ですから。ありがとう、オブライエン※4。」
オブライエン:「どういたしまして。」

ターボリフトを出るクラッシャー。「奥様※5のことを聞いてびっくりしました。」
クエイス:「ああ、前から悪かったんだ。」
「奥様が亡くなったから、退職されたんですか?」
「長い間連れ添って、何でも一緒にやってきたからね。ずーっと。家内がいなくなってから、仕事をしてても何の張り合いもないし夜も…なかなか寝付かれんのだよ。身体の調子もすっかり、悪くなってしまってね。まあ、若い君らにはわかるまいが。」
「私がジャックと暮らしたのはほんの何年かだけでしたけど、わかりますわ。主人が亡くなってしばらくは、私もそうでした。」 クエイスと腕を組むクラッシャー。
「年を取って一番嫌なことはな、昔なじみの友達がどんどん減ってくことだよ。…世話になった礼をしなければと思ってるうちに先だたれてしまうんだからな。ああ、こりゃ失礼。君に、年寄りのぼやきを聞かせたところで気を重くするだけだ。何でも軽いのが一番。」 クエイスは荷物を持ち上げる。
笑うクラッシャーだが、表情は硬い。

エンタープライズは基地内部でドッキングしている。
機関室でパネルを操作していたウェスリー。
ラフォージがエレベーターを降りてくる。「ウェスリー、実験はもう終わりだ。ワープエンジンを元に戻せ。」
ウェスリー:「もう少しですから。」
「もうすぐ発進するんだぞ? あとで艦長にももう少し待ってくださいって言うつもりか?」
「新しいワープフィールドの実験をしてるんです。」
クラッシャーがやってきた。
ウェスリー:「…ママ?」
クラッシャー:「何でもないわ、続けて?」 ウェスリーを見つめる。
ウェスリーが操作するコンピューターには、幾何学的な図形※6が表示されている。
ラフォージ:「ウェスリー!」
ウェスリー:「あと少し!」
その時、図が変化して光が走った。無言のウェスリー。
ラフォージ:「コンピューター、ワープドライブ・システムにレベル2 の分析を行え。」
コンピューター※7:『反物質の漏れはありません。ワープドライブは通常通りです。』
ラフォージ:「今の光は何だ。」
ウェスリー:「…おかしいな、何だろう。ドライブ装置の外で目に見える現象が起こるはずがない。」
ライカーの通信。『全艦出航※8に備えよ。』
ラフォージ:「もういいか?」
ウェスリー:「ええ。…マ…」
クラッシャーの姿が見えない。作業に戻るウェスリー。
ライカー:『出航準備完了、船尾エンジン点火。』
ラフォージ:「了解、エンジン点火。通常エンジン、作動しました。」
出ていくウェスリー。振り返った。

第133宇宙基地を離れるエンタープライズ。

廊下を歩いてきたクラッシャーは、ドアチャイムを鳴らした。2度鳴らしても応答がない。
ボタンを操作して開けた。「先生? …先生、ビヴァリーです。」 クラッシャーは奥へ向かうが、クエイスの姿はない。「コンピューター。ドクター・ディラン・クエイスの現在位置は?」
コンピューター:『ドクター・ディラン・クエイスは、本艦に乗船していません。』
首を振るクラッシャー。


※1: Starbase 133
TNG第51話 "The Survivors" 「愛しき人の為に」より。TNG第15話 "11001001" 「盗まれたエンタープライズ」の第74宇宙基地と同じく、映画 ST3 "The Search for Spock" 「ミスター・スポックを探せ!」に登場したスペースドックの使い回し

※2: Kenda II

※3: ドクター・ディラン・クエイス Dr. Dalen Quaice
(ビル・アーウィン Bill Erwin) 声:辻村真人

※4: マイルズ・オブライエン Miles O'Brien
(コルム・ミーニー Colm Meaney) TNG第77話 "Brothers" 「永遠の絆」以来の登場。声:辻親八

※5: 原語ではパトリシア (Patricia)。パトリシア・クエイス (Patricia Quaice)

※6: セリフ中にはありませんが、図形の下にミリコクレイン (millicochrane) という単位が表示されています。ワープの発明者ゼフレム・コクレインより (TOS第31話 "Metamorphosis" 「華麗なる変身」など)。亜空間のゆがみの単位として、コクレインが導入されるのは初めて

※7: 声:磯辺万沙子

※8: 原語では「連結 (umbilical) 解除」。連結ポート (umbilical port) は、宇宙基地とドッキングしているシーンで見える管状の通路のこと。umbilical=ヘソの緒

・本編
通常航行中のエンタープライズ。
クラッシャーはドアチャイムに応えた。「どうぞ。」
入るウォーフ。
クラッシャー:「ウォーフ大尉※9、昨日まだ基地を離れる前に私の知り合いが乗船したの。ドクター・ディラン・クエイスよ。客室を要請しておいたら、ここが割り当てられたの。」
ウォーフ:「私には知らされませんでしたが。」
「ごめんなさい、でも艦長の許可が下りたら自動的にあなたへ連絡がいくんでしょ?」
「そうです、続けてください。」
「朝食の約束をしてたの。でも来てみたらこの通り空っぽ。荷物もないわ。」
「…コンピューター。ドクター・ディラン・クエイスはどこだ。」
コンピューター:『ドクター・ディラン・クエイスは本艦に乗船していません。』
クラッシャー:「この調子よ。ドクター・クエイスはお年だし、身体も丈夫じゃないの。もしどこかで倒れて、コミュニケーターが壊れてたりしたら…」
ウォーフ:「ただちに捜索を開始します。」
「お願いね?」
「…もしその通り倒れていたとしても、なぜ荷物までないんでしょう。」
クラッシャーは首を振った。

作戦室で話を聞くピカード。
ウォーフ:「艦長、保安部でデッキごとの捜索班を結成しました。もう捜索を始めています。」
データ:「私も全艦をスキャンしましたが、エンタープライズの通常の乗組員以外の反応はありませんでした。」
クラッシャー:「…もし彼が亡くなってたら、センサーは感知しない。」
「その通りです、ドクター。」
ピカード:「その…急な用事か何かで基地に戻った可能性はないのかね?」
クラッシャー:「昨日はたくさんの人が基地とエンタープライズを行き来してましたから。」
データ:「出入りのあった ID※10 をチェックするのは簡単です。」
ピカード:「では早速調べてくれ。…船を降りたという記録がなくても念のため、基地に連絡を入れた方がいいな。」
「了解。」 ウォーフと共に出ていくデータ。
ピカード:「…あ、ドクターちょっと。」 立ち上がり、制服の裾を伸ばした。「旅行者を乗せる際の、手続きは心得ているだろうね。」
クラッシャー:「もちろんです。でもウォーフ大尉に連絡がいかなかったそうですね。」
「私にも来てないが?」
「…でも要請を出したのは随分前です。」
「ふーん…では私のところへ来る前に止まったのか。」
「…じゃちゃんと乗船許可が出たのはなぜです?」
「…ドクター・クエイスはあの基地に、どのくらいの間勤務してたのかね。」
「6年です。」
「…その間、彼に恨みをもった人間がいないか調べてみよう。」
出ていくピカードに続くクラッシャー。
ライカー:「デュレニア4号星※11に向かいます。」
ピカード:「ご苦労、データの方は?」
データ:「…第133宇宙基地に、ドクター・デュラン・クエイスの記録はありません。」
クラッシャー:「ああ…」
ピカード:「6年間勤務したと言ったが?」
データ:「…基地のコンピューターのほかに、艦隊本部の記録にも当たってみました。現在、クエイスの名で勤務しているドクターはいません。…それどころか、過去にもクエイスの名は全くありません。出生記録も調べましたが、クエイスの名は…」
話を聞いているウェスリー。
クラッシャー:「データ。…私は彼についてディロス4号星※12でインターンしてたの。15年前からの知り合いよ?」
「あなたを疑ってはいません。しかしクエイスを 173通りの言語で調べてみましたが…」
「名前はディラン・クエイス。QUAICE。記録がどうでも、実在の人物よ。」
ブリッジに戻ってきたウォーフに尋ねるピカード。「捜索は。」
ウォーフ:「…隅々まで探しましたが、ドクター・クエイスは発見できません。」
ライカー:「わからんなあ。」
クラッシャー:「ちゃんと乗船したのよ。第3転送室へ迎えに行ったわ?」
ピカード:「となると、誰かがある意図をもって彼に関する全ての記録を消したのか?」
ライカー:「ドクターを転送したのは誰でした。」

転送室のオブライエン。「ドクター・クエイス? クルー交代の際の、メンバーですか?」
ライカー:「いや、ドクターの恩師なんだ。」
「いつ着きました?」
クラッシャー:「昨日の 16時ちょうどぐらい。」
「私の当番です。ここに、転送したんですか?」
「ええ、私も迎えに来たわ。…お年を召してて健康状態が不安なの。」
「覚えてませんね。ああいやドクターがいらしたのは覚えてますが、お一人でしたよ。」
「…な、何なのどういうこと? 私一人でおしゃべりしてた?」
「…違いますよ。でも、ドクターは昨日…ここへ入ってきてしばらく部屋を見回して、私が御用はと声をかけるとただ一言『ありがとう』と。私も『どういたしまして』と言い、それで終わりです。ほかに人はいませんよ。」


※9: 吹き替えでは全て「ウォーフ尉」。第3シーズン以降、階級は大尉です

※10: 転送 ID 痕跡 transporter ID trace

※11: Durenia IV

※12: Delos IV
TNG第22話 "Symbiosis" 「禁断の秘薬」でディロス (デロス、Delos) 星系が言及。この部分は訳出されていません

ターボリフトのクラッシャー。「…オブライエンが嘘をついてるとは思えないわ。」
ライカー:「もちろん嘘ではないでしょう。あなた以外に彼を見た人はいない。」
「ウィリアム、私だって空想の人物を作り上げたわけじゃないわ?」
「過去の記録が消されているんなら、転送された記録も残っていないでしょう。」
「可能性として昨日は人の行き来が多かったから、オブライエンも忘れたのかも。じゃなきゃ…」
「何です。」
「彼のことを診察した方がよさそうね。」
「記憶障害があるかもしれない。」
「どう思う?」
「わかりました。」 ブリッジに到着した。「フードディスペンサーも調べましょう。乗船して、もう 18時間。普通なら使ってるはずです。」
出ていくライカー。クラッシャーはため息をついた。
再び動き出すターボリフト。

医療室に入ったクラッシャーは、待っていたオブライエンに話す。「ごめんなさい? 検査は 2、3分で終わるわ。」
オブライエン:「異常はありません。」
「座って。」
「…視力検査なんかしたって無駄ですよ? …お知り合いは見てません。」
「今日検査するのは視力だけじゃないの。」 クラッシャーはコミュニケーターに触れた。「クラッシャーからドクター・ヒル※13。…応答願います。…ドクター・セラー※14? どこに行ってるの? …コンピューター、ドクター・ヒルとドクター・セラーの現在位置は。」
コンピューター:『ドクター・ヒルとドクター・セラーは、本艦に乗船していません。』
ため息をつくオブライエン。

作戦室で話すクラッシャー。「ドクター・ヒルとセラー、そのほかにも医療部員が 4人突然消えてしまったんです。…今回消えた 6人の、今までの乗務記録もコンピューターから消されていました。」
ピカード:「基地から新しく乗った者か。」
「いいえ? …何ヶ月も前からいます。でもほかの医療部員に聞いても知らないと言うし、家族でさえそんな人はいないって。」
「オブライエンがクエイスを知らんのと一緒だな。」
「オブライエンの検査をしましたが、何一つ身体的な異常はありませんでした。」
ウェスリーの通信が入る。『クラッシャーからピカード艦長。』
ピカード:「どうした、少尉。」
『機関部で、艦長に見ていただきたいものがあるんです。失踪事件に関係あるかもしれません。』

ラフォージとコンソールを見ていたウェスリー。
ピカード:『すぐに行く。』

ブリッジに戻るピカード。「どうだ、副長。」
ライカー:「見つかりません。部屋のディスペンサーも使われてませんね。」
「ウォーフ大尉、侵入者がないかどうか船体を点検してくれ。」
ウォーフ:「了解。しかし事件以来あらゆるモニターをチェックしていますが、異常な点は何も見つかりません。」
「では艦内、全モニターにレベル1 の分析を行え。加えて空気汚染分析と電磁力の測定も大至急だ。何かあるはずだ。」 クラッシャーと共にターボリフトに入るピカード。
無言のウォーフ。

機関室のウェスリー。「エンジン効率改良のため、コジンスキー※15の方程式を使った実験をしたんです。」
ピカード:「それはレポートを読んだ。」
ラフォージ:「基地の中で、試運転を行いました。これがその時の記録です。」
図形が表示される。
ウェスリー:「この静止ワープフィールド※16をドライブ内に作っていました。…そして、フィールドバブルを維持しようとしたのが今回の実験です。」
ラフォージ:「結果は失敗でした。…一瞬の閃光が走った瞬間、均衡が崩れたんです。」 瞬間だけ乱れた。
クラッシャー:「私も覚えてるわ。」
ピカード:「ではワープフィールドの泡が、ドクター・クエイスを消したというのか?」
ウェスリー:「中に捕らえられれば、そうです。我々には消えたように見えます。」
クラッシャー:「彼は今どこに?」
ラフォージ:「さあ。…違う時空に行った可能性もあります。」
ピカード:「実験中はドクター・クエイスはここにいたのか。」
ラフォージ:「いいえ。」
「バブルは機関部※17の外には出ないんだな?」
ウェスリー:「出ません。」
「…ではどうやってドクター・クエイスたちは捕らえられた。」
ラフォージ:「ほかにも失踪者が。」
クラッシャー:「ええ、ここには近寄りそうもない人たちよ。」
ウェスリー:「…どういうことなんだ。」
ピカード:「ワープバブルがコンピューターの記録まで消すとは考えにくい。…とにかく、調査を続けてくれ。今のところほかに手はない。」

医療室に戻ったクラッシャー。中を見渡す。
すぐに出ていった。

再びブリッジに来たクラッシャー。
ピカード:「何かあったかね?」
クラッシャー:「医療室が空っぽなの、スタッフが一人残らず消えたわ。」
ライカー:「それがどうかしましたか?」
「…どうかしましたかって? 何言ってるのよ、いつでも最低 4人は医療室にいるはずなのに。」
データ:「それは本艦の慣例ではありませんね、ドクター?」
「それどういう意味。」
「…あなたに助手はいません。」
「じゃ 1,000人以上も乗っている艦で、医療を担当するのは私一人だと言うの。」
「…失礼、ドクター。この艦の乗組員は 230名ですが?」
「……何ですって。」
ピカード:「…ドクター。作戦室へ来てくれ。」
クラッシャーを見るライカーたち。

作戦室に入ったクラッシャーに、ピカードは尋ねた。「ああ…何か、飲み物でも。」
首を振るクラッシャー。
ピカード:「では座って。アールグレイ・ティー。」 レプリケーターから取り出す。「君の話では、エンタープライズでは既に…およそ、800名を失ったことになる。」
クラッシャー:「信じられないとおっしゃるんでしょ。」
「スキャンでは何の異常も見当たらない。侵入した者もない。…ウェスリーの実験も、本艦全域に及ぶような影響はないとわかった。」
「艦長、エンタープライズは今非常事態です。どうか私を信じてください。」
「…信じてないわけじゃない。何かが起こっているのかもしれないが一応、確かめる必要がある。」
「…私が正常かどうか? …もう自分で診断しました。もっともこの船に医師は私一人ですから? そうするしかないけど。何の異常もありませんでした。…多少アドレナリンの量が増えてますが、事実を誤認するほどではありません。」
「では、明らかに君だけこの現象の影響を受けてないという証拠になるものがあるか。…それが問題だ。」
「…確かに。…トロイに相談します。」
「…そうした方がいい。」
ドアへ向かうクラッシャー。振り向いた。「艦長、お願いします。第133宇宙基地へ戻って、あらゆる検査を行ってください。論理では説明できませんが信じて欲しいんです…。」
ピカードはカップを置いた。「…副長。」
ライカー:『はい艦長。』
「ただちに第133宇宙基地へ戻ってくれ。」
『了解。』
ため息をつくクラッシャー。
ピカード:「君の言葉だけで十分だよ。」

医療室に戻るクラッシャー。ふいに背後で光が走り、音が響いた。風が巻き起こる。
ドアの部分から、強烈な光が発せられた。クラッシャーを吸い込もうとする。
耐えるクラッシャー。さまざまな物が吸い込まれていく。
しばらくするとそれは収まり、元のドアに戻った。


※13: Dr. Hill
エンサイクロペディアではドクター・リチャード・ヒル (Dr. Richard Hill) とありますが、ファーストネームは脚本にあるだけ。また、この直後に妻であるはずのキャラ・ヒル (Cara Hill) が登場し、リチャードのことを知らないと話すシーンもありました

※14: Dr. Selar
TNG第32話 "The Schizoid Man" 「コンピュータになった男」に登場

※15: Kosinski
TNG第6話 "Where No One Has Gone Before" 「宇宙の果てから来た男」に登場

※16: static warp field
エンサイクロペディアでは「静止ワープシェル (static warp shell)」

※17: 吹き替えでは「エンジン」

報告するラフォージ。「医療室で 2時間張り込みました。あらゆる微粒子に分光計をあて、導波管から放射線が漏れた場合を考えて電磁スペクトルを計り、通風ダクトの上も這い回りました。でもドクターの見た、竜巻の正体はわかりません。」
クラッシャー:「見ただけじゃないわ、あやうく巻き込まれるところだったのよ。」
「今は何もないし、何かあった跡もないんです。」
ピカード:「…それでは、例のクラッシャー少尉の実験が関係している可能性は? …例えば『ワープバブル』が艦内を漂っている可能性はあるか?」
「いいえ、バブルは機関部※17内に密閉されていました。第12デッキにバブルの影響が及ぶことはありえません。」
データが観察ラウンジに入った。「コンピューターへの、レベル1 の分析を終了しました。どこにも異常はありません。」
ライカー:「ではほかの船からの応答はあったか。」
「…艦隊で連絡できたのはウェリントン※18だけです。全て、通常通りだそうです。フェレンギ艦も一隻近くを航行中でしたが、何も異常はないとのことです。」
クラッシャー:「エンタープライズの乗組員はそろってる?」
「ええ、ドクター。」
「全部で何人。」
「エンタープライズの定員は 114名です。」
ため息をつくクラッシャー。
データ:「114名全員いますが?」
クラッシャー:「今やもう 900名以上消えてしまったわ。…ひとデッキごとに空っぽになっていったわけね! 空いた部屋は何のためにあるの。114人が定員なら、こんなに大きな船を造る必要はないわ!」
「移住民の輸送に、外交使節団、緊急避難の際の…」
ピカード:「データ、十分だ。必要最小限の乗組員以外は自室に待機させろ。」
出ていくライカー。
ピカード:「コンピューター、非常態勢だ。」
クラッシャー:「ウォーフに、乗組員全員をモニターするようにセンサーをプログラムさせて。…消える瞬間を捉えれば…」
「待ってくれ。誰にだって?」
「ウォーフよ。保安部長の。……絶対笑わない大男。」
顔を見合わせるクルー。
クラッシャー:「クリンゴンの! …ウォーフまで。」

廊下を歩くトロイに、クラッシャーが追いついた。「ディアナ。……私が正気を失ってるのなら、正直に教えて。」
トロイ:「…その質問ができるなら大丈夫よ?」
「はぐらかさないで。」
「答えられる質問じゃないわ?」
「…私の取り上げた赤ちゃんたちは、もう存在しないのよ。子供が一人もいないなんて。今でも目を閉じれば、あなたを見るようにはっきり思い出せるのに。なぜこんなことが起こるの、ほんとに私だけなのかしら…。」
「あなただけならどうなるの?」
「任務を遅らせた上に、私も含めて多くの人を怯えさせたわ。」
「だからって何よ。あなたは船とクルーのために信じたことを一生懸命やったの。十分胸を張れることじゃない。…それがもし間違いだとわかったとしても、デュレニア4号星に着くのが少し遅れるだけ。それだけよ。」
「でも理解できないわ。こんなことって。」
「基地に着いたら、心身の精密検査のプログラムを組んでおくわ。」
「もし、基地に着けたらね。…ウェスリー。ウェスリーはどこ。」 歩いていくクラッシャー。
何も言わないトロイ。

クラッシャーは機関室に来た。「…ウェスリー!」
しばらくするとウェスリーの声が聞こえた。「…なーに?」
安心するクラッシャー。
ウェスリーは奥からやってきた。「ママ大丈夫?」
クラッシャー:「ええ。でもあまり時間がないかもしれない。……私を信じないのね。」
「ねえママ、僕はママ…」
「ゆっくり説明している暇はないの! 何百人っていう乗組員が既に消えてしまったわ。考えられる可能性はもうあなたの実験しかないの!」
「じゃ調べてよ。僕はもう手を尽くした。」
「誰か探してみるのよ、ワープバブルについてもっと詳しい人。」
「コジンスキー博士※19とはもう話したけど、彼もよくわからないって。博士の理論を使ったのにだよ? 一人助けてくれそうな人はいるけど、居場所がわからない。」
「誰。」
「コジンスキー博士の元助手で、確かタウ・アルファC から来た『旅人』だって言ってた。その人はワープの技術を、自分の思考と結びつけることができるんだ。」
「そうよ、思い出したわ。ウェスリー、あなたもしかしたら…偶然あの旅人と同じ現象を起こしたんじゃない? 現実を変える世界を創り出したのかも。」
「それはどうかな。説明できるのはあの人だけだよ。タウ・アルファC にも呼びかけたけど、遠いから着くのに 2、3日かかる。」
「とにかく一緒に来て、艦長に相談してみましょう。」
「重い病気だったから、まだ生きてるかどうか。」
「何もしないでいるよりはましよ。…少しでも可能性があれば…」
角を曲がったクラッシャーは、ウェスリーが後ろにいないことに気づいた。「ウェスリー。」 元の場所に戻る。「…ウェスリー!」

ブリッジに入ったクラッシャーは、立ち止まった。艦長席にいたピカードだけが立ち上がる。
クラッシャーは走り、観察ラウンジへのドアを開けた。その様子を見ているピカード。
クラッシャー:「……ほかに誰もいないの? ライカーに、トロイ。データは? 待ってね、当てるから。そんな人知らないんでしょ?」
ピカード:「私は全力を尽くしてきた。…君の言うことを実証するためにありとあらゆる手を。…だがもう、限界のようだ…」
「ウィリアム・ライカーよ? あなたの副長でしょ! 彼は、彼はポーカーの達人だったじゃない。料理が趣味で、それからほらジャズが好きでトロンボーン吹いてたわ。」 副長席に触れるクラッシャー。
「ライカーなんて人間は聞いたことがないんだ。」
「それじゃデータは、オプス席に座ってる※20アンドロイドよ。人間になる夢をもってて、いつもジョークがわからなくって。」 クラッシャーはデータの席に座る。
「ドクター、あと数時間で第133宇宙基地に着く…」
「ディアナ・トロイは。カウンセラーよ、ベタゾイドのハーフであなたの苦手な御母様がいる。…オブライエン、ジョーディ、ウォーフ、息子のウェスリー。」 クラッシャーは隣の操舵席に触わった。「全員 3年以上前から乗ってる実在したクルーだったのよ。…それをそんなに簡単に忘れられるわけがないわ。…今まで何もなかったように片づけられるわけない。…お願い、思い出して。…みんな大切な仲間でしょ。」
近づくピカードは、しゃがんだ。「ビヴァリー? 基地に着くまで、医療室のベッドで横になっていた方がいいかもしれないな。」
クラッシャーは笑い出した。「あなたにはこれが全て普通なのよね、そうでしょ。……艦隊最大級の船※21に乗って、私達 2人だけで銀河を旅してるわけね。」
ピカード:「今までずっと 2人だった。」
「…覚えてないとは思うけど、昔タウ・アルファC の人がこの船に来たのよ。『旅人』って呼ばれてた。…ジャン・リュック、方法はどうあれ私達あの旅人を捜さなくちゃいけないの。彼でなくても、あの星の人なら助けてくれるかもしれないわ…」
「ああ、わかった約束だ。宇宙基地に着いたらその旅人を見つけるために全力を尽くそう。」
「錯覚なんかじゃないの。悪い夢でもないわ。実際この目に見える、物理的な現象がこの艦内で起こってるの。…あなたに証明してもらえるかもしれない。」
「どうやって?」
「コンピューターに、あなたの身体機能をずっと読み上げてもらうのよ。」
「私が消えるまでか?」
「そう、消えるまで。」
ピカードは裾を引っ張った。「…よかろう。…コンピューター、艦長ジャン・リュック・ピカードの生命反応をスキャンし聞こえるよう読み上げろ。開始。」
ピカードは艦長席に座り、制服の裾を伸ばした。
コンピューター:『体温、摂氏 37.2度。心拍数…』 読み上げが続く。
クラッシャー:「私必ずどんな努力をしても、原因を見つけてみんなを連れ戻すわね。…さっきは感情的になったわ。取り乱してごめんなさい。」
ピカード:「いいのさ。…しかし君の言うとおり私が仲間たちを忘れているのだとしたら、あれくらい当然だ。」
「…ずっと前からあなたに言わなきゃと思ってたことがあるの。…いい機会だから言うわ。…ジャン・リュック、私達…」
突然コンピューターの音声が止まった。ピカードは消えていた。
クラッシャー:「……忘れないわ。あなたのこと、忘れない。」
立ち上がるクラッシャー。その時、再び強い光が走った。
スクリーンの中央から発せられている。傾くコンソール席。
倒れるクラッシャー。椅子にしがみつく。
強い風に、身体が真横になる※22。しばらく耐えると、風の勢いは弱くなり始めた。

ラフォージの声。「ウェスリー、どうだやったか。どうなってる。」
ウェスリー:「駄目です、結合が上手く安定しません。」 同じような現象の前に立っている。
それを見つめるラフォージ。「じゃあ、第2方程式を使おう。」
ウェスリー:「駄目です。ほら。消えました。」 モニター上の図形が消滅する。
「…クソー、もう少しだったのに。」
「終わりです。もう救い出せない。」
声が響いた。『あきらめるな、ウェスリー。』
機関室に、一人の人物が姿を現した。「まだ方法はある。」
それは、旅人※23だった。


※18: Wellington
U.S.S.ウェリントン、ナイアガラ級、NCC-28473。TNG "11001001" より

※19: 原語では前回の登場を含めて、博士という肩書きで呼ばれたことはありません

※20: 吹き替えでは「パイロットだった」。いつものミスですね

※21: 原語では「連邦の旗艦」

※22: スタント撮影は全てゲイツ・マクファデン本人が行ったそうです。数日後に妊娠が判明したとか

※23: Traveler
(エリック・メンヤック Eric Menyuk) TNG "Where No One Has Gone Before" 以来の登場。声:沢木郁也、前回の佐古正誉から変更

通常航行中のエンタープライズ。
『航星日誌、宇宙暦 44162.5。ドクター・クラッシャー救出は失敗に終わった。その時、あの旅人が救世主のごとく我々の前に出現したのだ。』
作戦室のピカード。「生きてるんですか。」
旅人:「彼女自身がそう思っているうちは、生きていられる。」
ライカー:「どういうことですか。」
「あなた方の種族は、時間と空間と思考に対する認識がまだ非常に乏しい。ビヴァリー・クラッシャーはワープバブルの中に捕らえられたときから、彼女自身の現実を創り上げた。その時、彼女の頭にあったことがその現実の形や性質を決定する。」
トロイ:「あなたはその現実に入れる?」
「いいや。彼女の創った現実には、私は入れない。彼女の思考に入れないからだ。」
ウェスリー:「でもさっき、まだ方法はあるって。」
「その通りだ。でも私一人ではできない。ウェスリー、人間にはまだごく少数の人しか気づいていない能力が眠っている。…君は気づいてるね。私は君に呼ばれたのだ。私達は、彼女に道を開けるかもしれない。…でも彼女が自分から動かなければ。」

※24医療室を歩くクラッシャー。「コンピューター、これから演繹法に基づいてこの症状を診断するわ。まず、症状が明らかになればそこから原因を割り出し治療法を見つけられるかもしれない。まずは、私が正気だという仮定に基づいて始めるわね。どうせ違ってもう困らないけど。コンピューター、エンタープライズの乗務員名簿を全部読み上げて。」
コンピューター:『ドクター・ビヴァリー・クラッシャー。』
「私がエンタープライズに勤務してから、本艦のクルーは私一人?」
『そうです。』
「…冗談で言ってるなら怒るわよ。」
『質問の意図が不明です。』
「冗談じゃないようね。」 廊下へ出るクラッシャー。

クラッシャーは尋ねた。「私が初めてここに来たのはいつ。」
コンピューター:『宇宙暦、41154。14時3分に乗船しました。』
部屋を見て回るクラッシャー。「大体そんなもんね。コンピューター、U.S.S.エンタープライズはこの船だけ?」
コンピューター:『U.S.S.エンタープライズと呼ばれる宇宙船は本艦で 5代目ですが、現在運行されているのは本艦のみです。』
「…宇宙船エンタープライズの最も重要な使命は何。」
『銀河を探索することです。』
「私には一人でその使命を果たす能力があるの?」
『いいえ。』
「ではなぜクルーが私一人なの。」 コンピューターはすぐに答えられない。「…かかったわね。」
『回答することができません。』
手を挙げるクラッシャー。

ブリッジに入った。「コンピューター。タウ・アルファC 星人の情報はあるの。」
コンピューター:『あります。』
「コロニーでも基地でもいいわ、ここから通信できる範囲内に一人でもいるかしら。」
『いいえ。』
「タウ・アルファC まで、ワープ9.5 でどのくらいかかる。」
『123日間です。』
クラッシャーは艦長席に座った。「……コースを変更するわ。目標、タウ・アルファC。亜空間通信で本艦が向かっていることを伝えて。」
コンピューター:『了解しました。』
「発進。……コンピューター、コースを変更した?」
『目的地名か座標を言って下さい。』
「たった今言ったでしょ、タウ・アルファC よ。」
『現在の星図に、タウ・アルファC という地名はありません。』
立ち上がるクラッシャー。

現実のエンタープライズ。
『航星日誌、宇宙暦 44162.8。旅人の指導の下、エンタープライズは第133宇宙基地内の最初にワープバブルが発生した地点に向かっている。』
機関室でコンソールを操作するラフォージ。
旅人:「目的は、私達の現実とビヴァリーの現実の間に安定した道を作ることだ。」
ウェスリー:「わかってます。でも安定しなかった。」
「当たり前だ。方程式は最初の一歩だよ。その先は理論を超えねばならない。」
「…やり方を教えて下さい。」
「まず、罪の意識を捨て去ることだ。」
「今回のことは僕の実験が…」
「現在に、集中するんだ。お母さんを戻すには君の力が必要になる。自分を解放するんだ、時間に、空間に※25。先入観を捨て真実を見ろ。…ワープフィールドの公式を入力するんだ。」
操作するウェスリー。
反対側に立つ旅人。「では、目を閉じて。」
ウェスリーは言われたとおりにする。
旅人:「数字の向こうを見るんだ。…自分を信じて。」
そのままコンソールに触れるウェスリー。「…ダメだ、僕にはできない。」
旅人:「時がくればできるようになる。必ず。」

通信コンソールに立つクラッシャー。「第133宇宙基地どうぞ。…133宇宙基地、こちらエンタープライズ。応答して下さい。…スクリーンオン。」
青っぽい空間が一面に広がっている。
クラッシャー:「人だけじゃないわ、宇宙まで消えていってる。…コンピューター、スクリーンに映っている霧は何。」
コンピューター:『センサーの結果では、直径 705メートルの巨大なエネルギーフィールドのようです。』
「この船を包んでるの。」
『そうです。』
「…私に何も異常がないんだったら…異常があるのは宇宙の方かもしれない。…コンピューター、エネルギーフィールドの外側は何。」
『センサーはフィールドを貫通できません。』
「…本来なら次の質問には答えがないはずよ。コンピューター、宇宙の正しい定義を述べなさい。」
『宇宙とは直径 705メートルの回転楕円面の領域のことです。』
スクリーンを見たクラッシャー。目をつぶった。

第133宇宙基地に近づくエンタープライズ。
データ:「艦長、まもなく宇宙基地へ到着します。」
ピカード:「秒速 10メートルに減速。」
ライカー:「ラフォージ少佐、正確な位置を保つ準備を。」

ラフォージ:「了解、予備エンジン準備。」
目をつぶっている旅人。「ほーら、現れた。フェイズの中へ入ろう。…君のワープバブルだ、ウェスリー。」
モニターに図形が表示されている。
ウェスリーは旅人の様子に気づいた。「…何? どうしたんです。」
旅人:「…バブルが、縮小している。」
目を見張るウェスリー。図が小さくなりつつあった。


※24: TNG の国内地上波・初期CS放送分では、ごく一部にカット部分が存在しています (2時間エピソードを前後編に分けた際の、本国でのカットとは別)。DVD には完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります

※25: 吹き替えでは「時に、空間に」

ブリッジで考えるクラッシャー。「コンピューター、宇宙の全体像を画面に出して。」 コンソールを操作する。「前にも見たことがあるわ。」
それはワープバブルとそっくりな図形だった。
クラッシャー:「ウェスリーの実験の時。…バブルだわ、そうよ。…ということは、私の方がバブルの中に捕らわれたの。」
船が揺れた。
クラッシャー:「コンピューター、今のは何。」
コンピューター:『第5 から第14デッキに急激な減圧。シーリングにダメージがあります。』
「原因は?」
『船体の損傷です。』
「見せて。」
図を見ると、エンタープライズの先端から消えていくのが見える。
クラッシャー:「分析。」
コンピューター:『342隔壁までの船体が消失しています。』
「これと同じ縮尺でさっきの宇宙の図をこの上に載せてモニターして。」
船体図とワープバブルの図が重なり、バブルの大きさに合わせて船体が消えている。
クラッシャー:「縮んでるわ。」
コンピューター:『船体の損傷は、第3 から第15デッキに及びました。』
「コンピューター、あと何分ブリッジ内の空気が維持できる。」
『4分17秒間です。』
見る見るうちに小さくなる船体※26

報告するデータ。「艦長、実験地と全く同じ座標に静止しました。」
ライカー:「ジョーディ、位置についた。状況は。」
ラフォージ:『ワープバブルは、毎秒15メートルで縮小しています。消滅まで約4分。』

旅人:「時がきたよ、ウェスリー。」
ウェスリーは目をつぶり、操作する。
ラフォージ:「準備完了です。」
ライカー:『開始。』

ピカード:「機関部に行く。」 立ち上がり、裾を引っ張った。

旅人:「自由になれ、ウェスリー。憂いの心を解き放ち、期待する心も、自分を責め立てる心も、全て解き放て。脱ぎ捨てるんだ。」
ため息をつくウェスリー。
旅人:「そう、既に力は君の中にある。探し求める必要はない。」

コンピューターが報告する。『生命維持可能な時間は、3分30秒です。』
クラッシャー:「ワープフィールドを変えるのに、旅人は思考を使った。思考が現実になり、私はワープフィールドにいる。私の思考が現実を変えたのだとしたら? …頭を使うのよ! …だとしたら次は? …バブルが生まれたとき、私の考えていたことは? ディラン・クエイス。知り合いが次々に先だつとおっしゃって、私はジャックのことを考え※27、ウェスリーを見に行った。その時閃光が走った。あれが始まりだったのよ。あの時から、あの時からみんなが消え始めたわ! 私の思考がこの宇宙を創った、そういうことだったのね?」
『回答することができません。』
「あなたに聞いてないわ。オズの魔法使いみたいに、かかとを 3回合わせればおうちに帰れるといいのに…※28。」

機関室に来たピカード。旅人を見つめる。
すると、旅人の姿が薄くなり始めた。

コンピューター:『生命維持可能な時間は 2分30秒です。』
クラッシャー:「コンピューター、ワープバブルの中に人間が一人捕らえられていたと仮定して、脱出することができる?」
『ワープフィールドと外のフィールドの間に安定した道が開ければ、理論的に脱出は可能です。』
「その道を定義して。」
『不可能です、現在までこの理論が実践されたことはありません。』
「既存のデータを使って推定するのよ、道はどうやって現れるの。」
『強い力で周囲の大気を攪拌して現れます。』
「攪拌する? …竜巻よ。私を助けようとしてるんだわ。…でも、どこで待ってればいいの。…ウェスリー、私はどこへ行けばいいの。…教えて。」

再びぼやける旅人の身体。

クラッシャー:「安定した道。みんなは安定した道を開こうとしてるのよ。どこに入り口を作るの。最初に作ったところは。そうよ、機関部。」
コンピューター:『生命維持可能な時間は、1分30秒です。』
ターボリフトに入るクラッシャー。「機関部へ。」
コンピューター:『第4ターボシャフトに故障。機関部に行くことは不可能です。』
「第36デッキならどこでもいいから行って!」
移動し始める。

今度はウェスリーの身体も消え始めた。

ターボリフトが到着すると、背後の壁がフィールドに飲み込まれて消えていく。逃げ出すクラッシャー※29
廊下を走る。後ろの空間が消滅する。

機関室で光が走っていた。
ラフォージ:「もうバブルが消えます!」
旅人とウェスリーの背後に、道ができている。

機関室に入るクラッシャー。光が見える。
不安定になってきている。強い風が起こる中、クラッシャーはその中へ飛び込んだ。

道を通じて、クラッシャーは現実の機関室に転がった。座り込むウェスリー。
ピカードはクラッシャーに駆け寄った。「ビヴァリー。」
クラッシャー:「…ジャン・リュック。」 喜び、抱き合う。旅人を見た。「…あなた。…あなたが私を助けてくれたの。」
旅人:「いいえ。」
立ち上がるウェスリー。制服の裾を伸ばし、クラッシャーと抱き合った。
クラッシャー:「…ジャン・リュック、ちょっと聞くけど。エンタープライズの乗員数は?」
ピカード:「1,014名だ。ドクター・クエイスも含めてだが?」
ラフォージ:「…乗員数がどうかしたんですか?」
クラッシャー:「別に? ちゃんと全員いるならいいの。」
クラッシャーは、微笑んだ。


※26: この図の通りだと、円盤部最上部にあるブリッジはすぐ消えてしまいそうな印象です。実際にはクラッシャーがその後もしばらく残っています

※27: 吹き替えでは「知り合いが次々にいなくなるので不安に思い」と訳されています。冒頭のシーンを説明しているわけで、人々が消え出したのはその後です。直後のセリフとも矛盾します

※28: 原語では「オズの魔法使いみたいに」の部分はなく、「カンザスに帰れる」となっています

※29: 前のラフォージのセリフにあったように秒速15m で縮小しているのならば、到底走って逃げられるものではないという指摘があります (時速にすると 54km!)

・感想など
艦内だけで話が進み、ゲスト俳優も少ないボトルショー。ところがビヴァリー・クラッシャーの当番ものとして、真っ先に挙げられるべき名作です。というより、これしかないという意見もあるかもしれません。間延びするところも全然なく、人々が消えていくというミステリーをしっかり SF的に説明しています。コンピューターと問答を繰り広げるのも、面白いところですね。いわゆるどんでん返し型のエピソードとして、すぐ見返したくなるタイプです。元々は "Family" 「戦士の休息」のサブストーリーとなる予定でした。
第79話ということで、カウント法によって多少異なるものの TOS の話数に並んだことになります。少しふっくらした旅人は、3シーズンぶりの訪問。この TNG エピソードガイドでは前回の登場話に続いて取り扱うことになりましたが、これは全くの偶然です。3回目の "Journey's End" 「新たなる旅路」は、ずっと後になりそうですが…。


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