TNG エピソードガイド
第6話「宇宙の果てから来た男」
Where No One Has Gone Before
イントロダクション
※1エクセルシオ級の宇宙艦と並行して飛んでいるエンタープライズ。 『航星日誌、宇宙暦 41263.1。U.S.S.フィアレス※2と、ランデブーを行う。宇宙艦隊のエンジンのスペシャリストと、そのアシスタントを受け入れるためだ。彼らは艦隊機を渡り歩いてワープドライブ・エンジンの整備を行っており、我々エンタープライズ※3で 3機目だという。』 ピカード:「何が納得できんと言うんだ? 彼らはエンジンの改造をするわけじゃないんだぞ? 艦隊司令部からの通達では、別のシステム※4を使って加速方法などをテストするだけという話だ。問題はないだろ。」 ライカー:「作業内容を検討しましたが、意味があるとは思えません。」 「なぜだ。」 「データ、説明してくれ。」 データ:「…コジンスキー氏からの説明書に従ってあらかじめテストしてみましたが、エンジン性能は変わりませんでした。」 ピカード:「報告によれば同じ整備を受けた U.S.S.エイジャックス※5およびフィアレスでは、推進力は増大したということだぞ。」 ライカー:「…本艦のエンジンは最新型です。…彼らのエンジンは古いので、多少性能が上がったんでしょう。」 通信※6が入る。『転送部からブリッジへ。フィアレスからの受け入れ準備、完了です。』 ピカード:「…副長がそちらに向かう、待機せよ。」 『了解。』 「整備に疑問があるんだろ。」 ライカー:「そうです。」 立ち上がる。「艦長、その客を…カウンセラーに見てもらいたいのですが。」 「いいとも。」 トロイもブリッジのターボリフトに入る。 転送機が操作される。 宇宙艦隊士官と、異星人が転送されてきた。 ライカー:「ようこそ、コジンスキー※7さん。…はじめまして、副長のライカーです。彼女は…」 コジンスキー:「艦長はどうしたんだね。」 「…別の任務を遂行中です。」 「エンジンといえば、船の命だと思うがねえ?」 「もちろんです。…だからこそ、副長の私が作業の指揮を直接執ることになったのです。もちろん機関部のアーガイル少佐※8の、協力の下でですが。」 アーガイル:「お待ちしておりました、説明書は拝見しております。」 コジンスキー:「そのことで、質問があるんだろ?」 「はい、あります。」 ライカー:「そちらの御方は?」 異星人:「アシスタント※9ですが名前は失礼します。人間には発音不可能な名前なんです。」 「タウ・アルファ※10星人だね? ずいぶん遠い星…」 コジンスキー:「あらかじめ艦隊通信で、プロフィールは送ってあるはずだ。じゃ、早速エンジンルームへ向かうとするか。」 「それでは、少佐に御案内させましょう。」 「結構だ。…船の構造はわかっている。」 アシスタントとアーガイルも転送室を出ていく。 ライカー:「どうやら嫌な性格の持ち主らしいなあ。」 トロイ:「同感です。横柄で威圧的で尊大な人物ですわ。自分の能力に絶大な自信をもっています。」 「アシスタントは、どうだい。」 「不可解ですね。普通はどんな生命体でも目の前にすれば、何か感じるものがあるんです。それが何かはわからなくとも、存在は感じます。あの人には、全く何も感じません。まるでここにいないみたいに。なぜだかはわかりませんが、漠然とした不安を感じているんです。」 「その理由を探ってくれないか。この船の安全に関わってくるからねえ。」 |
※1: このエピソードは、1988年度エミー賞で音響ミキシング賞にノミネートされました ※2: U.S.S. Fearless エクセルシオ級、NCC-14598 (エンサイクロペディアでは 4598 と誤記)。TNG パイロット版 "Encounter at Farpoint" 「未知への飛翔」の U.S.S.フッドとのシーンを使い回しているため、その時同様エクセルシオ級にしては大きすぎるという指摘があります。吹き替えでは全て「(U.S.S.) フィアレス号」 ※3: 吹き替えでは「エンタープライズ号」 ※4: 混合式 intermix formula formula = 化学式と訳されている個所もあります。TOS第7話 "The Naked Now" 「魔の宇宙病」より ※5: U.S.S. Ajax アポロ級、NCC-11574。初言及。ギリシャ神話に登場するトロイア戦争で活躍した英雄、大アイアスおよび小アイアスにちなんで。吹き替えでは「U.S.S.エイジャックス号」 ※6: この転送部長の声は、小室正幸。TNG/VOY アリドール、DS9 エディングトン、ルソット、VOY バーレー、ケオティカなど ※7: Kosinski (スタンリー・カメル Stanley Kamel) 階級章は最初で最後の使用となる四角いもので、コミュニケーターもつけていません。バッジが一つなので本来大尉か中尉に相当するはずですが、ライカーはコジンスキーを "sir" と呼んでいます。通常の宇宙艦隊士官とは異なり、一種の嘱託とも考えられます (DS9第114話 "Doctor Bashir, I Presume" 「ジュリアンの秘密」のルイス・ジマーマン博士も、似たようなものかも)。声:谷口節、ENT アーチャーなど ※8: Lieutenant Commander Argyle (ビフ・イェーガー Biff Yeager) 初登場。TNG第3話 "The Naked Now" 「未知からの誘惑」のサラ・マクドゥーガルに続く、第1シーズンにおける 2人目の機関部長。ただし原語では「機関部長の一人」と紹介していることから、この時期は複数いたようです。シフト制といった可能性が考えられます。声:増岡弘 ※9: Assistant (エリック・メンヤック Eric Menyuk ブレント・スパイナーと共に、データ役の最終候補だった俳優。リック・バーマンとボブ・ジャストマンが気に入ったため、今回の出演となりました。ドラマではヒル・ストリート・ブルース「停職」(1987)、"Matlock" (87〜94)、"Cheers" (88)、映画「アフリカン・ダンク」(94) に出演。子供の頃からの STファン) 初登場。声:佐古正誉 ※10: 正確には「タウ・アルファ C (Tau Alpha C)」 |
本編
通常航行中のエンタープライズ。 機関室に入るコジンスキー。「テストはきっかり 15分後に始めると、ブリッジに知らせておいてくれ。子供が何をしているんだ!」 アーガイル:「学校の、カリキュラムです。それより質問をさせてください。まず何のために…」 ウェスリーがコンソールに座っている。 コジンスキー:「時間を節約するために、私が質問をまとめてみよう。…君は艦隊司令部から送られてきた作業内容の説明書を見て、コンピューターに打ち込みをし、その上で模擬テストをしてみたが、驚いたことに…何も起こらない。そこで、こう思った。『こりゃどういうことだ。コジンスキーって奴は、食わせ物に違いない。』 ほかの艦隊機で、2度も同じことを言われてきているんだ。君がそう思っても不思議はない。」 ウェスリーに近づくアシスタント。 アーガイル:「フン、ではわかるように説明してください。」 コジンスキー:「私は教師ではない。なりたいとも思わない。第一教えているような、時間はない。」 ライカー:「時間ならありますよ?」※11 「わからんのか、このテストは艦隊司令部の承認を得ているんだぞ。」 「機関部長と私の承認はまだです。」 「フフン、そんなものは必要ない。」 「あるんです。」 「…そこまで言うなら、艦長と話をしよう。」 「話しても、結果は同じです。」 「…どこまで知りたい。」 「全てです。」 「…補助パネルについてくれないか。」 ウェスリーはアシスタントに席を譲った。 メインコンソールに近づくコジンスキー。「時間を節約するために、アシスタントに基本的なシステムを打ち込んでもらう。人間より数段早い。…この私よりもだ。では、まず最も単純な方法でテストしてみせるからな。このワープドライブ・システムは、私の基準からすると雑にチューンされている。実に反応が鈍いんだな。ま、これを見ていたまえ。いいぞ?」 作業を始めるアシスタント。 コジンスキー:「さてまずはだな、まず言えることはだな。ここの標準は…」 話し続ける。 アシスタントの画面を覗き込むウェスリー。 アシスタント:「この配列に納得がいかないんだね?」 うなずくウェスリー。エンタープライズを取り囲む、波のような図が表示されている。 アシスタント:「これでどうだい?」 ウェスリー:「そっか。でも、こっちをつないだらどう? ここと、ここをつないで。」 「…これなら最善の方法だよ。」 「…そうかな。」 ウェスリーを見るアシスタント。 ウェスリー:「こうした方が、いいかも。」 図が変わっていく。「よし。」 アシスタントは喜んでいるようにも見える。 話すコジンスキー。「…当然のことだよ。このスクリーンを見てくれれば、わかるはずだがね?」 図が変化していく。「いいか、ここで問題となるのは科学では説明のつかない事象なんだ。…宇宙の構成要素は時間と、空間だけではないのだ。君たちは組織の中で訓練されているために、マシンの些末な修理は上手いが頭が固く、発想の転換に乏しい。私のやろうとしているのは、ただの修理ではないのだ。開発だ。さて、どうするかな? 私のおかげで強力なワープシステムになった、フィアレスに戻ろうか? それともここでの作業を、続けようかな。」 ライカー:「システムにダメージが生じないか?」 アーガイル:「何も変わりませんよ。」 「じゃやらせてみるか。」 コジンスキー:「『やらせてみるか』とは何だ! 口を慎みたまえ、人を目の前にして失礼じゃないか!」 アーガイル:「やらせてみてもいいでしょう。」 「『やらせてみてもいいでしょう』、ほー寛大なこった! 坊主、坊主! イタズラするな? フン。」 ※12座るウェスリー。アシスタントは図を見てうなずく。 ブリッジに戻るピカード。 ウォーフ:「艦長、機関部の準備ができました。」 ピカード:「ブリッジから機関部へ。テスト開始。」 コジンスキー:「作業は今まで通りだ。何も変えんぞ。」 うなずくアシスタントは、ウェスリーをそばへ呼んだ。 コジンスキー:「中佐、まず予備調整だが。ワープ1.5 の速度で始めて、4 の段階で完了するからな?」 ライカー:「…機関部からブリッジへ、聞こえましたか。」 ピカード:「聞こえているとも。いいか。」 ライカー:「はい。」 ピカード:『ラフォージ、ワープ1.5 にセット。』 ラフォージ:「ワープ、1.5。セット完了。」 ピカード:「発進。」 ワープに入るエンタープライズ※13。 コジンスキー:「よーし、行くぞ!」 ワープコアの点滅が速くなってきた。 ウェスリーは、アシスタントが扱うコンソールを見つめる。 操作を続けるコジンスキーとアシスタント。無言のアーガイルとライカー。 アシスタントはウェスリーの方を振り返った。高くなる音。 コジンスキー:「何をしてる!」 驚くアシスタント。ワープコアの明滅はますます速くなる。 息をつくコジンスキー。 その時、アシスタントの身体が半透明になった。 離れるウェスリー。アシスタントは元に戻った。 アシスタントの異常にはウェスリーしか気づいていない。 ワープ中のエンタープライズは、さらに加速した。 ラフォージ:「艦長、ワープ10 を超えています※14。」 スクリーンに様々な星雲や星団が映る。 揺れる機関室。アシスタントは立ち上がり、頭を押さえた。 周りを見るコジンスキー。 依然、超速度で飛行し続けるエンタープライズ。 ピカード:「今の速度は。」 データ:「測定不能です※15。」 「…エンジン逆転。」 「艦長、この速度で逆転など前例がありません。」 「この速度自体初めてだ。逆転しろ。」 操作するデータ。 エンタープライズは通常空間に出てきた。きらびやかな宇宙現象が広がっている。 ピカード:「停止。」 ラフォージ:「了解、停止しました。」 スクリーンを見たピカード。「…位置は。」 ラフォージ:「計測中です。データ、そっちはどうだ。」 データ:「…作動しません。故障です。」 ピカード:「位置を知らせろ。」 ラフォージ:「計算では我々の銀河系ばかりか別の銀河を 2つも通り抜けて、さんかく座の彼方に達した模様です。…ここは銀河 M33※16 です。」 「そんなことありえん。…データ、航行距離はどうなる。」 データ:「270万光年になります。」 「とても信じられない。」 「確かです。…比較分析で数値が確認できました。」 ラフォージ:「…計算では最高速ワープで帰ったとしても、最低…300年はかかると、出ています※17。」 |
※11: コジンスキーが振り返る瞬間、上の方に黒い物が見えます。どうやらマイクのようです ※12: TNG の国内地上波・初期CS放送分では、ごく一部にカット部分が存在しています (2時間エピソードを前後編に分けた際の、本国でのカットとは別)。DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります。なお録画素材の不具合により、第4幕の医療室のシーン以降は細かなカットのチェックができませんでした (LD でチェックした結果、少なくともセリフのカットはないようです) ※13: ワープに入る際の爆発的な「光」が、なぜか描かれていません ※14: 本来 24世紀のワープ係数の定義では 10=無限速なので、超えることは不可能です (VOY第31話 "Threshold" 「限界速度ワープ10」)。設定が固まってなかったんでしょうね ※15: 原語では "It's off the scale, sir." と言っており、データが本来使えないはずの短縮形を使用しています ※16: Galaxy M33 別名、さんかく座銀河 ※17: ワープ9.99 でも 270万光年を航行するには約341年かかりますが、エンタープライズ-D はそこまでの速度を出せないはず (ヴォイジャーでも 9.975)。もちろん VOY における「一年で約1,000光年進める」とも矛盾し、その尺度だと 2,700年はかかる計算になります。これも初期ならでは、ですかね |
『航星日誌、宇宙暦 41263.2。この日誌は、貴重な資料となることだろう。…艦隊司令部に届いたならばの話だが。乗組員たちには既に告知したが、ワープエンジンのテスト中に生じたパワーの急増により、本艦は我々の銀河系を飛び出し数分にして 270万光年の彼方にまで到達してしまったのだ。』 ブリッジ。 ラフォージ:「艦隊司令部に、事態を報告しました。」 データ:「司令部に届くまでの所要時間は、51年と 10ヶ月9週間16日…※18」 ピカード:「もういい、データ。」 「は?」 ターボリフトを出るコジンスキー。「ああ、ピカード艦長ですね。」 ライカー:「原因はまだ調査中です。」 「原因は、私のミスですよ。しかし、素晴らしい結果を生みました…」 ピカード:「何が、起こったか説明しろ。」 「パワーアップ中に、突然エネルギーを加えたんです。働くはずの制御装置が効かなかったのは、初めにベッセル関数を使用した私のミスでした。」 「さっぱりわからんな。」 ライカー:「ただの戯言にしか聞こえませんが、でも現実に…」 ピカード:「現実に、ここにいるんだから戯言ではない。」 宇宙空間を見る。 コジンスキー:「フン。」 機関室で忙しく働くクルー。 ウェスリー:「具合が悪いんだね。」 アシスタントのそばにいる。「ママを呼ぶよ、医者なんだ。」 アシスタント:「病気ってわけじゃないのさ。休養が必要なんだ。長い旅だったからね。」 「ワープしすぎたことと、何か関係があるの。」 「信じて欲しい、この船に危害を与えるつもりは全くない…。」 「コジンスキーさんのことは嫌いさ、バカみたい。」 笑うアシスタント。「そりゃ言い過ぎさ。彼だって少しは原理に気づいている…。」 ウェスリー:「時間と、空間が思考によって…影響されてるってことなんでしょ?」 アシスタントはウェスリーを見た。 ウェスリー:「あなたの化学式を見ていてそのことに気がついたんだ。」 アシスタント:「よせ、それ以上言ってはいけない。君の年齢でそんなことを考えるのは。…危険が大きすぎるんだよ。」 ブリッジのコジンスキー。「ある程度の速度が出るとは予測していたが、まさかこれほどとは…フフン、思わなかった。今後は新しい定義と、変数がいるな。」 アーガイル:「コジンスキー新法とでも呼んだらどうです。」 「そうだな、当然だ。私はワープバリアを、破った功労者なんだからな。艦長、血が騒いでらっしゃるでしょ。」 ピカード:「血が?」 「ええ、探検家の血です。…これまで銀河系のわずか 11%しか探索できていなかったが、これで事態が変わる。」 「…それより今重要なのは我々がもう一度、帰れるのかだ。」 笑うコジンスキー。「…大丈夫ですよ。同じことを、繰り返せばいいんですから。…ライカー、来いよ。」 ピカード:「ライカー中佐は後で行かせる。」 コジンスキーは出ていった。 ピカード:「……意見を聞こう。カウンセラー。」 トロイ:「…彼は自分が正しいと、信じ切っています。」 ウォーフ:「艦長、一度ミスを犯した男にもう一度船を任せるつもりなんですか。」 ラフォージ:「しかし、そうするしかありませんよ。ほかに誰がやれるっていうんです?」 データ:「艦長、それよりここでは巨大な原始星が生まれつつあります。せっかくの研究のチャンスを逃すことはありません。間近に見るのは、我々が初めてです。」 ピカード:「さすがは、優等生の発言だな。…確かに血は騒ぐが。」 ライカー:「全くです。…しかし決定権は、艦長にあります。」 「我々が無事に戻れれば、コジンスキーの実行したシステムを使って調査船をここに…派遣できる。…副長、奴に出発の準備をさせろ。」 「了解!」 機関室のコジンスキー。「これまで人間はより速くをテーマに、多くの偉大な発明を成し遂げてきたのだ。また新たな歴史が一つ、今ここで作られた。私の名は、永遠に残るわけだ。」 ウェスリーはライカーに近づき、ささやいた。「中佐、お話があります。彼は何もしていません。これは全て…」 ライカー:「後にしろ。」 ピカードの通信。『副長、待機せよ。』 アシスタントはウェスリーの方を見るが、何も言わない。 ウェスリー:「でも、僕さっきアシスタントを見てたんですが…」 ライカー:「きっとおもしろい話なんだろうがな、今は聞いている暇がないんだ。後にしてくれ。」 コンピューターに触れた。「了解。」 アシスタントに言うコジンスキー。「行くぞ?」 ウェスリー:「疲労しきってます。独りじゃできないんですか。」 「まさか。そうしよう…」 アシスタント:「いえ、手伝います。」 「好きにしろ。」 何とかコンソールにつくアシスタント。 報告するラフォージ。「逆のコースを、セットしました。」 座るアシスタント。ウェスリーも後ろで見守る。 メインコンソールにつくコジンスキー。「準備完了だと伝えてくれ。」 ライカー:「発進準備、完了です。」 ピカード:『まず、ワープ1.5 から始めよう。』 ラフォージ:「ワープ 1.5、セット完了。」 稼働し始めるワープコア。操作するアシスタント。 コジンスキーもコンピューターに触れるが、同じ動作を繰り返す。「どうもな、上手くいかん。」 アシスタントの身体が再び消え始めた。 気づくライカー。ウェスリーもライカーを見る。 稼働を早めるワープコア。 エンタープライズは消えるように進み始めた。 揺れるブリッジ。また多用な星間現象がスクリーンに見える。 揺らめくブリッジ内の空間。 さまざまな現象が線となり、その中を突き進んでいくエンタープライズ。 静かになった。 ピカード:「停止。」 ラフォージ:「了解。停止に入ります。」 データ:「…計器の数値では、速度はワープ1.5 を超えていません。」 「停止しました。」 ピカード:「そうか。ここは一体どこなんだ。」 スクリーンには青い星雲のようなものが映っている。そして移動し続ける光の塊。 データ:「人類未到の地です※19。」 ラフォージはデータを見た。 エンタープライズの周りには青い現象が広がっていた。 |
※18: 脚注※17 の船の速度とは逆に、亜空間通信では 51年というのは遅すぎるようです ※19: "Where none have gone before." 少し言い回しは異なりますが、原題かつオープニングナレーションに含まれる言葉。元々は TOS のナレーションにある "where no man has gone before" より。スタートレックの世界では、ゼフラム・コクレイン博士の言葉が初出だと考えられます (ENT第1話 "Broken Bow, Part I" 「夢への旅立ち(前編)」) |
『航星日誌、宇宙暦 41263.3。我々は帰路につくどころか、これまで観測すらされたことのない人類未到の地へと更に前進してしまった。現在の位置は、我々の銀河系から 10億光年以上も離れている。』 ブリッジ。 スクリーンを見ていたピカード。「データ、後を頼む。機関部へ行く。」 ターボリフトに入った。 操作するデータ。 ウォーフは音に気づき、ふと横を見た。ブリッジの片隅に、四本足の動物がいる。 その角の生えた獣を見るヤー。「…何なの?」 ウォーフ:「クリンゴン・ターグ※20だ。」 笑う。「懐かしいなあ。…飼ってたんだ。」 ターグをなでるウォーフ。「ヘ。…子供の頃にねえ。」 ヤー:「ネコみたいなものなの?」 「…そうだよ。クリンゴン星ではペットとして…」 ターグは突然消えた。 驚き、立ち上がるウォーフ。 ネコの声がした。ヤーの目の前に現れる。 ターボリフトを出ようとしたピカードは声を上げた。周りは宇宙空間で、ワープしている。 片足を出したところで踏みとどまるピカード。流れる星々。 何とか中に戻った。再びドアが開くと、今度は本来の廊下だった。 振り返るピカード。 ネコを抱きしめるヤー。「どうしてなの。なぜここにいるの。」 肌が濡れているヤー。鳴くネコ。 男たちの声。「こっちだぞ!」「ここにいる。」「あーいた、出てこいよ!」「おーい!」 笑う。 洞窟にライトを持った者がやってきた。 破れた服を着たヤーは、ネコを地面に置く。「逃げなさい、ここは危ないわ。」 男:「もう逃げられんぞ。」 いきなり後ろから肩をつかまれたヤーは、叫び声を上げた。 後ろにラフォージが立っていた。「ターシャ、どうしたんだ。そんなに怯えて。」 ヤー:「…私…。」 制服を着ていることを確認する。「…こんなことって。…故郷の植民星にいて、男たち※21に狙われたの。」 「大丈夫?」 「…うん…」 「落ち着いて?」 古風な服装の人物が、ヴァイオリンを演奏している。その中に混じって弾くクルー※22。 満足そうだ。 廊下を歩くピカードに、男性クルーが近づいた。「艦長、艦長! 助けてください。」 ピカード:「どうした。」 「奴が見えないんですか。」 女性クルーと一緒に走っていった。 先には何の気配もない。 音楽が聞こえる。女性※23がバレエ服を着て、貨物室で踊っていた。 通りかかるピカード。「少尉※24、どうしたんだ。」 注がれるスポットライト。女性は制服に戻ったことに気づいた。 ヴァイオリンを弾いていたクルーは、ふと音楽が途切れたのに気づいた。周りには誰もおらず、単なるバーカウンターだ。 ため息をつく。 立ち止まるピカード。 椅子に、白髪の女性が座っていた。「気が張りつめているようね? いらっしゃい、お茶を入れるわ。」 前にはテーブル。 ピカード:「…母さん。」 イヴェット・ジェサール・ピカード※25は言った。「うんと濃いお茶にするわね? 好きでしょ?」 光り輝く廊下。 ピカード:「母さん?」 「二人で、ゆっくりとお話ししましょう。」 「信じられん。…母さんは…」 「死んだ? …ずっとお前のそばにいたのよ? わかっていたでしょう。」 「…そうだね。感じてたよ。でもなぜこんな、突然。」 「現れたかって? …よりにもよって、こんな宇宙の果てに…それとも宇宙の、入口と言うべきかしら。」 「どういうことなんだい。」 そばに腰を下ろすピカード。「母さん、母さんにはわかるだろ。…この船は今どこにいるんだい。教えて欲しいんだ。」 ライカーが通りかかった。「艦長。機関室に行くんじゃ…」 ピカード:「大事な話をしてるんだ!」 首をかしげるライカー。 イヴェットは消えていた。椅子もテーブルも、お茶もない。 視線を落とすピカードは、立ち上がった。 近づくライカー。ピカードの視線の先を見る。「どうしたんです。」 ピカード:「…いや。…いや、緊急事態だ。」 コンピューターに触れた。「全艦、非常態勢。」 非常警報が鳴る。 機関室でクラッシャーの診察を受けるアシスタント。ピカードたちが来た。 コジンスキー:「なぜ非常態勢など敷くんです!」 ピカード:「全乗員に注意を促す必要がある。…こちら艦長。断っておくが、これは訓練ではない。ここでは物理的な世界と我々の意識の中の世界が、混じり合うようだ。考えたことが、目の前に現れるのだ。」 ブリッジに流れるピカードの通信。『…だから、全員いいか決して任務以外のことを考えるな。』 廊下で聞くクルー。 ピカード:『…なお、新しい情報は速やかに全員に伝える。』 貨物室で座り込んでいる、先ほど踊っていた女性。 ピカード:『…危険が完全になくなるまで、非常態勢を敷くこととする。』 ピカード:「何をしたんだ。」 ライカー:「彼ではありません、艦長。アシスタントです。」 「どういうことだ…」 「テストを行ったのはコジンスキーではありません。」 コジンスキー:「嘘です!」 「彼が打ち込んでいたのは全くの、デタラメです。」 「アシスタントにやらせてはいたが…やろうと思えば…私にだってできる作業ですよ。」 アーガイル:「私にも責任はあります。早くそれに、気づくべきでした。」 ピカード:「誰だって、気づかなかった。」 ライカー:「いえ、あの子が。」 ウェスリーに近づくピカード。「気づいてたなら、なぜ言わない。」 ライカー:「…言おうとしたのに、私が無視したんです。」 「…昏睡か、原因は。」 クラッシャー:「まだわかりません。」 ウェスリー:「消えたせいです。」 ピカード:「…どういうことだ。」 「…テスト中、身体の一部が消えかかってました。…それを見たのは僕だけじゃありません。」 ライカー:「何かにもがいているようでした。苦しみに。」 クラッシャー:「もう駄目だわ。」 ピカード:「いかん、彼なくしては帰れない。」 「そう言われても、打つ手がありません。」 |
※20: targ 初登場。撮影に使われたのは Marilou (Emmy Lou とも) という名のメスのイノシシで、非常に臭く、ブリッジのセットに「粗相」もしたとか… ※21: 原語では "rape gang" ※22: Crewmember (チャールズ・デイトン Charles Dayton) 声優なし ※23: バレリーナ Ballerina (ヴィクトリア・ディラード Victoria Dillard) セリフなし ※24: 実際には階級章をつけておらず、これでは乗組員 (下士官) に相当します。吹き替えでは「ヘンス (エンス?)」。"Ensign" の聞き違いでしょうか ※25: Yvette Gessard Picard クレジットではピカードの母 Maman Picard (ヘルタ・ウェア Herta Ware 映画「コクーン」(1985) に出演。2005年8月に死去) 名前は TNG第137話 "Chain of Command, Part II" 「戦闘種族カーデシア星人(後編)」で言及。声:島美弥子 |
『航星日誌、補足。…無事に帰り着けるかどうか。我々の運命は、瀕死の異星人の手に委ねられている。外見は人間と似ているが生理学的な構造は全く違うため、治療は困難を極めた。』 医療室。 ピカード:「原因は。」 トリコーダーを使うクラッシャー。「不明です。…我々の機械には何の反応も示しません。様子から推測して、過労としか。」 ウェスリーが来た。「助かるよね。」 ピカード:「なぜここにいるんだ。」 「ママ、友達なんだよ。」 ライカー:「…そばにいさせてやってください。彼は、この子に特別な親しみを抱いているようです。」 「僕はもう子供じゃありません。」 ピカード:「わかっている。そうだな? …見込みは。」 クラッシャー:「わかりません。」 「…起こせ。」 「無理に意識を回復させてはかえって。」 「時間がないんだ、早くしろ。」 「死んでしまったら、元も子もなくなります!」 「…ドクター、ウェスリー。起こさなきゃ、我々も死ぬ。これ以上ここに留まれば、想像と現実の区別がつかなくなるんだ。危険は承知の上だ。彼を起こしてくれ。」 クラッシャーはため息をつき、ハイポスプレーを打った。見つめるコジンスキーやウェスリー。 アシスタントは目を開いた。 ピカード:「私は艦長だ、わかるな。質問に答えてくれ。」 アシスタント:「最善を尽くす、すまん。」 「君は、何者なんだ。」 「旅を、する者です。」 「旅人※26か。目的地は。」 旅人:「…目的地。」 「そうだ。どこへ行くつもりだ。」 「ああいえ特に、行くところを決めているわけではありません。」 「ではなぜ旅をしている。」 「好奇心です。」 「答えになってない。」 「私は自分のパワーを使って、エンジン性能を高めます。その代わりに船を渡り歩かせてもらっているんです。」 ライカー:「コジンスキーの仕事だということにして?」 「その方が都合がいい。」 ピカード:「それから。」 「艦長、私はただ皆さんの生活の様子を間近に見て体験したかっただけです。…この船や乗員に危害を加えるつもりはありません。」 ウェスリー:「本当です艦長、保証します。」 ウェスリーに黙るよう示すクラッシャー。 ピカード:「『体験』だなどと言って好奇心を満足させるために、君は私達をこんな危険に追い込んだのかね。」 旅人:「…ミスを犯したんだ。」 「ミスだと? …これはミスだったなどと言って、片づけられるような簡単な事態ではないぞ。」 「…どう説明してもわかってもらえないと思います。」 「…理論上では、銀河 M33 へ行くだけの速度を出すことは不可能ではない。しかし実際のところ、こんな遥か彼方まで瞬時に来てしまうような…速度は出ない。計器に出た数値は正しいのか。我々は…10億光年の、彼方まで来てしまったのか?」 「…そうです。」 「どうやって。」 「思考だ。」 「思考?」 「思考というものは、全ての現実の源なのです。思考のエネルギーは非常に強大な力へと変化します。」 コジンスキー:「それではわからん。」 「私には思考のエネルギーを、拡大することができます。」 笑うコジンスキー。「バカな。それじゃまるで魔法を操るみたいじゃないか。」 旅人も笑った。「そうですねえ、皆さんには魔法でしょう。」 ピカード:「いや。…いや、私には理解できる。そう考えれば、ここで起こっている異常事態も納得がいく。」 「その謎を解く鍵も思考の力にあります。その危険性はおわかりですね?」 「思考が、現実になってしまう。」 「私の不注意で申し訳なく思います。まだ自分の思考をコントロールできない皆さんを…こんなところに連れてきてしまったなんて。…人間がコントロールを覚えるのは遠い先だ。」 ライカー:「君は未来から来たのか。」 「…いや厳密には違います。いやでも、そう考えてもらった方が皆さんにはわかりやすいかもしれませんねえ?」 「…思考の力を使って、旅を?」 「はい。」 「君の仲間はみんなできるのか。」 「もちろん。」 「じゃなぜ、これまで君たちが我々の元を訪れた記録がないんだ。」 「何の不思議もないですよ、あなた方の元へ訪れた者がいないからです。」 「どうしてだ。」 「それはつまり、最近まであなた方にはその…興味がなかった。失礼ながらようやく注目する価値が出てきたと…」 声を上げる旅人。「すいません。」 ピカード:「どうしたんだ。」 クラッシャー:「また昏睡です。」 「…起こせ。」 「質問するなら、急いで聞き出さないと。」 ライカー:「まとめましょう。あれほどのパワーを出したのは、彼自身誤算だった。」 再びハイポスプレーが旅人に打たれる。 ピカード:「ミスだという言葉を信じればな。」 ライカー:「そのために、彼の身体はすっかり衰弱したんですよ。」 コジンスキー:「嘘だ!」 ピカード:「では原因は何なんだ? 船を戻してくれ。」 「そう慌てなくてもいいでしょう。ここを調査すれば、大発見があるかもしれません。」 「その調査結果をどうやって伝えるんだ、一体。…もう一度やれるか?」 旅人:「やってみます。」 「…副長、機関室へ連れて行け。ブリッジにいる。」 ウェスリー:「やめて! …こんなに弱ってます。」 旅人:「いやあいいんだよ。急がなければ。でもその前に、艦長と話をしたいんですが。…2人きりで。」 指示するピカード。ウェスリーを最後に出ていった。 ピカード:「あの子は君になついてる。」 旅人:「私のことなど、いずれ忘れます。…実はそのウェスリーのことなんです。」 「あの子が?」 「ほかの人にはまだ言わないで下さい、特に母親には。…あの子の能力は自然に伸ばしてやらねばならないのです。」 「今は帰ることが先だ、後にできんのか。」 「できません。」 ベッドから出る旅人。「彼のような人間に会うために旅をしてきたんです。…あなたは彼をのびのびと伸ばしてやる力をもっているのです。」 「何を伸ばす。」 「どう説明すれば。…人間が『音楽』と呼んでいるもののことは御存知ですね?」 「多少は。」 「ライブラリーで調べたがモーツァルトという名の音楽の天才は、子供の頃すでに素晴らしい交響曲を作っています。彼は音楽をただ耳で聞くだけのものから、まるで見て感じるものにまで高めた偉大な天才です。ウェスリーも同じなんです。…あの子には時間やエネルギーや推進力を、これまでの概念から変える力がある。この船で経験を積めば、彼の能力は花開くでしょう。…急いだ方がいいですね、彼はまだ子供ですから騒いで芽を摘まぬよう、あなたが上手く伸ばしてやって下さい。」 旅人を支えるピカード。 廊下で待っていたライカー。 ピカードが出てくる。「さあ始めるぞ。機関室へ頼む。」 ライカー:「はい。」 「ブリッジにいる。」 「了解!」 燃え上がる火に怯えるクルー※27。 ピカードが通りかかる。「早く消せ!」 クルー:「でも。」 「いいか。炎のことは一切考えるな!」 息をつくクルー。しばらくすると、廊下の火は消え去った。 ピカード:「よし、部署に戻って任務だけに集中しろ。」 クルー:「了解。」 |
※26: Traveler 相当する訳語としては直前の「旅をする者」のほか、「宇宙の旅人」も使われています ※27: エキストラ扱い。演じているのはデニス・マダローン (Dennis Madalone TNG第20話 "Heart of Glory" 「さまよえるクリンゴン戦士」のラモス (Ramos)、第92話 "Identity Crisis" 「アイデンティティー・クライシス」のヘンドリックス主任 (Chief Hendrick)、第147話 "Frame of Mind" 「呪われた妄想」の護衛 (Guard)、DS9第43話 "Crossover" 「二人のキラ」などのテラン略奪者 (Marauder)、第63話 "Visionary" 「DS9破壊工作」のアートゥール (Atul) 役。後の TNG/DS9/VOY スタント調整) |
『航星日誌。日付はもはや意味がないだろう。もう一度同じテストを試みるが、今回は少しやり方が違う。今度のワープシステムには、乗員全員の思考の力が反映されるのだ。どうなるか予測はつかないが、この宇宙の旅人に全て任せるしかないのだ。少しでも雑念が入り全員の思いが一つにまとまらないと、帰還の望みは虚しく消えてしまう。』 機関室。 メインコンソールに座った旅人は、後から来たウェスリーを呼んだ。 ブリッジのピカードは尋ねた。「注意することはあるか?」 トロイ:「このテストは乗員にプレッシャーを与えます。…それに負けて、集中力が乱れぬよう配慮して下さい。」 ヤー:「恐怖感も大敵だと思います。先がわからないと、どうしても恐怖を抱くものです。」 連絡するピカード。「こちらは艦長だ。全艦に告ぐ。まもなく我々は帰路につくが、この航行には全員の協力が必要だ。一人一人が自分の任務を集中してこなし、船を推進させるため宇宙人の旅人に協力して欲しい。君たちの力を、彼に与えるのだ。これは命令だ。遂行しろ。それでは、自分に今与えられている任務を遂行すると共に、彼の成功を心に念じてくれ。彼を自分の、大切な人だと想像するのだ。総員、戦闘配置につけ。出発する。」 船の各所でピカードの話を聞いていたクルー。 非常警報が鳴る機関室で、旅人は言った。「コジンスキーさんにも手伝ってもらいたい。」 コジンスキー:「…必要か?」 「ええ。」 指差す旅人。 「ああ。」 コジンスキーは旅人の前に座った。 ピカード:「ワープ1.5、逆コースにセットしろ。」 ラフォージ:「ワープ1.5、セット。逆コース 261。マーク 31、セットよし。」 「機関室待機。」 トロイ:「…この船に彼を支える思いがあふれています。…何だかまるで…とても素敵です。」 ライカー:『機関室からブリッジへ。準備完了。』 ピカード:「データ、ラフォージ、点火準備。」 指を構えるラフォージ。 ピカード:「…発進。」 ラフォージはボタンに触れた。データと顔を見合わせる。 航行を始めるエンタープライズ。 コジンスキーと協力して操作する旅人。ウェスリーが見守る。 宇宙空間を進むエンタープライズ。 首を振るピカード。「これじゃ駄目だ、力が足りん。」 ウェスリーは旅人を見た。疲れているようだ。 ウェスリーは立ち上がり、旅人の 3本指の手を握った。うなずく旅人。 身体が半透明になる。稼働を速めるワープコア。 エンタープライズは速度を上げた。 旅人は完全に消滅した。操作を終えるコジンスキー。 エンタープライズはワープを抜けた。 データ:「計器が壊れました。ワープ1.5 を指して止まってます。」 ラフォージ:「どうやらコジンスキーに一杯食わされる前の位置に、戻っているようです。」 ピカード:「警報解除。」 データ:「一杯食う?」 ラフォージ:「わからんだろうが、ピッタリの表現なんだよ※28。」 ブリッジに入るライカー。「アシスタントが消えました。」 ピカード:「またか?」 「今回は、完全に消え去りました。姿が見えません。」 「…全艦に告ぐ。君たちのおかげで、宇宙の旅人は船を我々の銀河系に戻してくれた。残念だが、彼はもういない。彼の幸せを、みんなで念じよう。…副長、あの子をここへ呼んでくれ。」 「ウェスリー・クラッシャー、ブリッジへ。急行せよ。」 「次の任務地へのコースは?」 「これです。」 「ワープ5 に加速しろ、コースは変更なしだ。」 データ:「ワープ5 にセット。」 ラフォージ:「コースは変更なし。」 ターボリフトが開いた。 ピカード:「ああウェスリー、中へ入れ。…早くしろ。…お前の貢献ぶりは、中佐に聞いた。よくやったな? …ああ、楽にしろ。ああ、ここに座れ。」 ライカー:「艦長、これでは艦長命令に反します。」 「ああ、そうか。…士官以外、入室禁止だったな? 撤回できんしなあ…。」 首を振るライカー。 ウェスリー:「いいんです、わかってますから。」 ピカード:「口を出さんでよろしい。」 「…すみません。」 「…入れるのは、少尉からか。」 ライカー:「少尉であれば、入室は可能ですね。」 「…それなら、少尉代理ということにするか。」 ライカーは微笑んだ。 ピカード:「航星日誌、宇宙暦 41263.4。本艦におけるその貢献ぶりを讃え、ウェスリー・クラッシャーに少尉代理の階級を与えることとする。代理から少尉になれるかは君次第だぞ、クラッシャー君。速やかに君の宇宙艦隊アカデミーへの、入学手続きをとってやろう。…入学までに、この船の全装備と機能を学ぶように。…ライカー中佐、クラッシャー君の訓練表を作れ。…みっちり鍛えろ。」 ライカー:「了解!」 「とりあえず、ここで見学してろ。」 トロイの席の脇に座るウェスリー。 ライカー:「艦長、ドクターを呼びますか?」 ピカード:「誰か病気か? …それとも報告に行きたいのかな?」 ウェスリー:「しばらくここに、いさせて下さい。いたいんです。母には後から。」 ピカードは制服の裾を引っ張った。 ワープ中のエンタープライズ。 |
※28: 原語では、ラフォージ「どうやらソリに乗る前の位置に、戻っているようです」 (略) データ「ソリに乗る?」「どう呼んでもいいけど、ピッタリの表現なんだよ」 |
感想など
TNG のエピソードガイド二十数話目にして、初めて第1シーズンを取り扱うことになりました。今後も第4・7シーズンに出てくる旅人が初めて登場し、ウェスリーは比較的あっさりと代理 (臨時) 少尉になります。スタートレック全体を通しても数少ない銀河系を飛び出すストーリーで、SF でありながらファンタジー要素も多分に含まれるもの。考えてみれば、こういう雰囲気は最近のシリーズには欠けている点かもしれませんね。ピカードの母が唯一登場し、ENT まで全く姿が出てこなかったターグ、ヤーの暗い過去と、数々の幻覚も見所です。 旧題はデータのセリフにもあった "Where None Have Gone Before"。脚本としてもクレジットされているダイアン・デュエインの TOS 小説、"The Wounded Sky" が下敷きになっています (デュエインの作品は「スポックの世界」のみ邦訳版あり)。Rob Bowman 監督の初担当で、今後第2シーズンまでを中心に手がけました (参考。後に「X-ファイル」シリーズ (1994〜2000)、映画「サラマンダー」(02) を演出)。「2代目」機関部長アーガイルの声優はマスオさん役ですが、何よりコジンスキー役の谷口さんはアーチャー船長を演じることになります。 |