ディープスペースナイン エピソードガイド
第43話「二人のキラ」
Crossover
イントロダクション
ワープ航行中のランナバウト。 ベシア:『医療日誌、記載追加。キラ少佐と僕は、ベイジョーがガンマ宇宙域に造った初の植民地、ニューベイジョー※1の病院を訪れ、帰途についた。』 ため息をつくキラ。「操縦代わってもらえる?」 ベシア:「もちろん。音楽でもかけますか?」 「悪いけど、2、3分静かに瞑想したいのよ。」 「ええ、どうぞ。…よくやるんですか?」 「毎日するの。」 「僕も学生時代に、イサム・ヘレワ※2って友達から瞑想を教わって、少しやるんですよ。…空を飛ぶような感じで。あいつからはいろいろ教わったなあ。ポイントは独特の呼吸法で…」 「今度ゆっくり教えてね? …暇な時に。」 「喜んで。ああそうだ、僕にもベイジョー流の瞑想の仕方を教えて下さいよ。すごく興味あるな。」 「…そうねえ…普通はゆったり座ってするの。…黙ってね?」 目を閉じるキラ。ベシアは突然、変な呼吸を始めた。 キラ:「何をやってるの?」 大きく息を吐くベシア。「…呼吸法ですよ。短い呼吸を繰り返した後、一つ深く鼻から吸い込み…止めて、はき出す。…気が高まるんですよ。すごく簡単だからやってみます…?」 キラ:「音楽でもかけましょうか。」 「ああ。何にします?」 「あいにく私はベイジョーの作曲家のしか知らないんだけど。」 「コンピューター、トール・ジョラン※3の曲を何かかけてくれ。」 音楽が流される。 「よく知ってるわね。」 「こっちに来てからベイジョーの音楽家がすっかり気に入っちゃいましてね。」 「ほんと?」 「特にトール・ジョランが好きなんです。前世紀のボルダリックの巨匠たち※4の影響がやや見られますけど、聴いてると心が和みますからねえ。…うーん、嬉しいなあ。少佐とこういう機会がもてて?」 「どういうこと?」 「こうして話してみると、共通の趣味もあるし、斧を埋めたってとこだ。」 「斧?」 「インディアンの風習でねえ、過去の対立を水に流すって意味なんですよ。」 「そして新たな対立へと向かう。」 笑うベシア。「まあね? ねえ少佐、ネリスって呼んでいい?」 キラ:「どうぞ?」 「あなたが僕を…敬遠してたのは知ってたけど、でも僕は…あなたは魅力的な女性だって思ってました。…ほんとですよ。」 「…ありがとう、ドクター。」 「ジュリアン。ドクターなんて、やだなあ? ジュリアン。」 「…ジュリアン。」 「…チーフも最初しかめっ面をしてましたよ。昔は距離があったけど、今は仲良しです。」 「ワームホールまで 1分。減速し、通常エンジンに。」 「今度ディナーを一緒しません?」 「…悪いけど、そういうのはダックスを誘ったら?」 「何でです? ああ…」 笑うベシア。「いや僕はそんな、違いますよ…」 「ああ、ごめんなさい。」 「でも、もしそういうつもりで誘ってたら…」 「もう忘れて?」 「了解。」 「ワープから出るわよ?」 速度を落とすが、突然大きく揺れだした。 キラ:「…どうしたの?」 ベシア:「ワープフィールドが解除されず、インジェクターからプラズマ漏れが。」 「プラズマ噴射コントロールを作動させるわ?」 ワームホールに入るランナバウト。 内部を航行する。 キラ:「プラズマ噴射口を開き、速度を減…」 光に包まれる。 ベシア:「どうしたんだ。」 キラ:「非常事態。機体安定コントロールを作動。」 ため息をつく。 「大丈夫ですか。」 「…めまいがする。」 「ええ、僕もです。しかしよく切り抜けられましたね。」 ランナバウトはワームホールから出た。 キラ:「ああ、オブライエンに連絡して、牽引してもらいましょ…どういうこと?」 窓の前には、宇宙空間が広がっている。 ベシア:「ステーションがない。ステーションが消えた?」 「長距離センサーの探知では…ベイジョーの軌道上。」 「少佐、船が真っ正面からこちらに向かってきます。」 ランナバウトの前からやってきたのは、クリンゴン攻撃巡洋艦だった。 船内に転送してくるクリンゴン人たち。銃を持っている。 突きつけられるベシア。 だがキラを見ると、クリンゴンは驚いた。 キラ:「どうなってるの?」 クリンゴン人※5:「閣下、失礼しました。ステーションを出られたとは知らず。」 「あなたは誰?」 「パ、パトロールをしていましたら、いきなり閣下のシャトルが現れましたので。どうも申し訳ございません、ステーションへお帰りなら、護衛いたします。」 うなずくキラ。クリンゴンたちは転送帰還した。 ベイジョー軌道上のステーション。 クリンゴン人:「でもすごく近くから見たんです。偽者のはずがありません。」 軍服を着たエリム・ガラック※6。「だが偽者だ。」 エアロックから出てくるキラ。「一体何がどうなってるわけ?!」 ベシア:「ガラック。」 ガラック:「ああ、私はガラックだが?」 キラの声が聞こえる。「それより問題は…」 近づいてくるもう一人のキラは、黒いスーツを着ていた。「あなたが…誰かよねえ?」 |
※1: New Bajor 初言及 ※2: Isam Helewa ※3: Tor Jolan ※4: Boldaric masters 訳出されておらず、「独創性には少々欠けるところもありますけど」と訳されています ※5: クリンゴン人その1 Klingon #1 (スティーブン・ジェヴェドン Stephen Gevedon) 声:津田英三。この辺りは「第三の男」(1949) を意識して異常を表すため、俯瞰で撮影されています ※6: エリム・ガラック Elim Garak (アンドリュー・ロビンソン Andrew Robinson) 前話 "The Wire" 「義務と友情」に引き続き登場。声:大川透 |
本編
ベシアは尋ねた。「君たち、つかぬことを聞くようだがここは…どこなのか教えてくれないか。」 ガラック:「ここはテロック・ノール・ステーションだ。ベイジョー・セクターの当局の本拠地でもある。」 「当局の本拠地? …当局って、何の?」 「同盟※7のだよ、もちろん。」 キラ:「わけがわからないわ? きっとワームホールの出方を間違えたのね?」 「ワームホール。」 「ガンマへのワーム……一口では説明するのは難しいわ? 私達はすぐシャトルに戻って、元の世界へ…」 もう一人のキラが命じた。「ダメよ、そうはさせないわ?」 ベシア:「おい、ちょっと待てよ…」 ガラック:「閣下に生意気な口を利くんじゃない、テラン※8め!」 「テラン?」 閣下と呼ばれたキラは言った。「もし、あなたの正体が私の考えているとおりなら、このまま行かせるわけにはいかない。男は地下に連れて行って働かせなさい。くれぐれも目を離さないように注意して。」 プロムナードに入ったキラは、立ち止まった。 クリンゴンとカーデシアのシンボルを合わせた、大きな紋章が飾ってある。 身なりも汚い地球人が、多数働かされている。 呼び止める声。「閣下※9、お待ちを!」 閣下:「何かあったの、テロック※10?」 クリンゴン人が近づく。「ステーションから出て行く貨物船にこのテランが潜り込んでいたのを引っ捕らえました。」 閣下:「……あなたのランクはいくつ?」 地球人※11は小声で答えた。「0413、セータ※12です…。」 閣下:「セータ?」 「そうです。」 「必死に働いて信用されるようになって、やっとセータまできたのに。…でもこれで全て帳消しよ? ラムダ※13の鉱山送りにしなさい。」 ガラック:「鉱山へ? 死刑にすべきですよ、ほかの者への見せしめに。」 「そうねえ? 見せしめはあなたの得意技だったわね、ガラック? お楽しみの度が過ぎるわよ?」 「手引きがなければ貨物船に乗り込めるはずがない! ここ 1ヶ月で密航は 3回目です、せめてそいつを尋問する許可を頂きたい!」 「いいわ、尋問なさい。でももし尋問中にこの男が死んだら、私があなたを見せしめにしてやるわよ? 忘れないでね?」 「もちろん、わかっております。」 微笑むキラ。すぐに笑みは消えた。 煙の上がる部屋。 オブライエンが話している。「言っときますけど、トリウム※14抑制室のグレードを上げないとそのうち事故が起きます。このままにしといたら責任もてませんからね。」 服装は他の「テラン」と同じだ。 クリンゴン人:「新入りを連れてきたぞ。生意気な口を利くテランだ。」 オブライエンの話を聞いていたのは、オドー※15だった。「そうか。口の利き方はたっぷり教えてやる。お前のランクは何だ。」 ベシア:「ベシアだ、ジュリアン。」 「何かの冗談か?」 「わからないけど、そうなの?」 殴るオドー。「ふざけるな! それが服従の掟第14条だ。いいか、お前のランクは何だ。」 ベシア:「今のところ僕にはランクはないよ。」 「今のところ僕にはランクはありません、閣下だ。」 「それも服従の掟なの?」 また叩かれたベシア。 「今のところ僕にはランクはありません…閣下。」 オブライエンが様子を見ている。 「今のところ僕にはランクはありません、閣下。」 「何でランクがないんだ。」 「知りませんね、正直言ってここに来たわけも知らないんだから。」 「ここは鉱石の加工場※16だ。以前にやったことはあるか。」 「いや、全くない。」 「鉱山で働いたことは。」 「ない。」 「じゃ何をやってたんだ。」 「医師として働いていたんだ。」 オドーは殴った。「さっき言った服従の掟第14条を忘れたか。」 ベシア:「ふざけてなんかいない。僕はドクターだ。」 「そうかい、ドクター。仕事の前に手を洗うのを忘れなさんな?」 ベシアを押しやるオドー。 ベシアはオブライエンを見た。 DS9 とは全く様子の違う司令室を通り、司令官室へ向かうキラ閣下。 席に座り、指を噛んだ。「座って?」 キラについていたクリンゴン人は去った。座るキラ。 閣下:「あなたは私、そうでしょ?」 キラ:「私はキラ・ネリス。」 「やっぱりそうなの。…あなたの世界も、こことよく似た世界なんでしょうねえ? ステーションがあって、ベイジョーにカーデシアにテランにクリンゴンに…」 「役者は同じだけど、でも…演じる役柄が全然違うわ?」 「あなたの世界に同盟はないの?」 「ないわ?」 「…でもカークって名前は知ってるでしょ?」 「聞いたこともないわ?」 「意外ねえ、こちらの世界ではカークは歴史上の有名人物よ? …今から 1世紀ほど前、テランの宇宙船の船長だったジェイムズ・カークは、転送の際に事故を起こし、もう一つの世界の自分と入れ替わってしまった。こちらの世界では、当時テランは野蛮で強大な帝国だったの。こちらの世界に来たカークはスポックというヴァルカン人と出会い…スポックに非常に大きな影響を与えたの。※17スポックは後に非武装化と平和を唱えて改革を主張し、帝国の最高司令官の地位に上り詰めた。そして、それまでの政策を 180度転換した。…でもそれが裏目に出て、スポックが全ての改革を成し遂げた時、彼らの帝国には我々に対抗するだけの力はもう残っていなかった。」 「我々?」 「同盟よ。クリンゴンとカーデシアがついに、対立を捨てて手を結んだの。」 「ベイジョーもその同盟に参加してるわけ?」 「私達は何十年もテランの支配下にあった。解放された時、同盟への参加を申し出て認められてね? 今では、同盟の中でもかなり影響力のある存在よ? あなたの世界のベイジョーもそうかしら。」 「いいえ? そんな恵まれた立場じゃないわ?」 「あなたの世界のこともっと知りたいわ。」 「でも私、帰らなきゃ。ここにはいられない。」 「実は、それも問題ではあるのよねえ? どうやってあなたを戻せばいいのか。だけど、一番の問題は…私には、絶対従わなければならない掟があるってことなの。」 像を見るキラ閣下。 「それはどういう意味なのかしら。」 「カークのクロスオーバー以降、そちらの世界から現れた人間によって再び…こちらの世界が干渉されることのないように、クロスオーバーで現れた人間は処理する決まりなの。」 「…なるほど?」 「でも副官のガラックと違って…私は暴力は嫌いなの。暴力を使うたび、たとえ必要でも後悔してしまう。」 「その気持ちよくわかるわ?」 「あなたにわかる?」 「あなたは私を殺したくない。なら殺さずに済む理由があればいいのよ。」 「いい考えはない?」 「私の世界に来るのよ。…そして私達に、どうやって強いベイジョーを造り上げたかを教えてもらいたいの。…今度はあなたが私の世界を変える番よ。」 「私が?」 「昔カークがここの歴史を変えたように、あなたが私達の世界の歴史を変えるのよ。私も教えて欲しいわ? ベイジョーのリーダーになるにはどうすればいいか。あなたみたいに。」 「それも面白そうだわ?」 「戻る方法を見つけなくちゃ。」 「でも、あのお友達は殺さないと。」 「いいえ、ダメよ…あの男はね、生意気なテラン人で、元の世界では威張り散らしてたから、生かしたまま懲らしめた方がいいのよ。」 「…いいえ、それは危険すぎるわ? それにカーデシアもクリンゴンも許さないだろうし。」 「だけどこのセクターのリーダーはあなたでしょ?」 大きく笑うキラ閣下。「…私の使い方をよく知ってるわね。」 キラ:「私があなただったらって考えただけ。私ならカーデシアやクリンゴンの言うことなんか耳を貸さない。」 「その通りよ。私もそう。」 カーデシア人を呼ぶキラ閣下。「こちらの…魅力的な若いレディに、部屋の用意を。」 キラを呼び止める。「キラ・ネリス。あとでまたゆっくりね?」 |
※7: Alliance ※8: Terran 地球人は普通 human と呼ばれますが、鏡像世界でなくともあえて強調する場合は、テランが使われる時が稀にあります ※9: Intendant 後には「監督官」などと訳される肩書き。今回の吹き替えでは "ma'am" などの敬称と区別なく「閣下」と訳されています ※10: Telok (ジョン・コスラン・ジュニア John Cothran Jr. TNG第146話 "The Chase" 「命のメッセージ」のニューダック艦長 (Captain Nu'Daq)、ENT第59話 "The Shipment" 「兵器工場潜入」のグレイリック・ダール (Gralik Durr)、ゲーム「スタートレック・ボーグ」のドクター・ベニントン・ビラカ役。"Klingon" でも声の出演) 声:渡部猛、TNG クンペック、VOY シーマスなど ※11: Human (ジャック・R・オーレンド Jack R. Orend) ※12: シータ・ランク theta designation ※13: ラムダ・ランク lambda designation 吹き替えでは「ランブダ」 ※14: thorium 原子番号 90、元素記号 Th ※15: この制服のベルトや高いネックは、オーバージョノーが気に入ったため第3シーズンより通常の服にも導入されました ※16: このセットには通常は貨物室として利用される第4ステージが利用されました ※17: ここまでの出来事は TOS第39話 "Mirror, Mirror" 「イオン嵐の恐怖」より。今回の鏡像世界 (mirror universe、鏡像宇宙、ミラーユニバース) やテラン帝国 (Terran Empire、この呼称はなし) の設定が導入されたエピソード |
見張りをしているオドー。キラがやってくる。 働かされているベシア。 オドー:「作業所を見学したいなんてあなたも奇特な方だ。質問があるなら説明しますよ?」 キラ:「いいわ? 私も鉱山で働いてたことがあるから。」 感心するオドー。 キラ:「私と来た、テラン人はおとなしい?」 オドー:「もちろんです、この私が監督してるんですから。」 「結構。ちょっと彼と話させてもらうわよ?」 「あ、あ…。」 近づくキラ。「ドクター、平気?」 ベシア:「いや、きついですよ。何かわかりました。」 「宇宙艦隊の船長で、ジェイムズ・カークって知ってる?」 「カーク。ええ、知ってます。転送の際の事故で…それじゃここは、その世界なんですね。」 「ええ、そうらしいの。」 「もう僕と会いました?」 「まだよ? ダックスも、司令官もいないわ?」 「…オブライエンはやっぱり機械通ですよ。少佐、転送で来たなら、転送を利用して戻れるかも。」 「私にはわからないのよ、あなたは?」 「詳しいのはやっぱりチーフ・オブライエンでしょう。」 「でも、こっちの世界のチーフもそうかしら。」 「可能性はある。」 「じゃあ、話してみて。私も協力してくれそうな人を探してみるわ?」 「ええ。」 バーにも、同盟の紋章が飾ってある。 にぎわうダボ・テーブル。クワークは店に来たキラに気づいた。「閣下にそっくりってみんな噂してたけど、その通りですね。」 服装は質素なものだ。 キラ:「元気、クワーク?」 「私を御存知?」 「私の世界にもあなたはいるのよ?」 「そりゃそりゃ。こっちよりは儲かってるんでしょうねえ。そうに決まってらあ。同盟の税金は高くてね。…何にします? 閣下はジャムジャ・ティー※18をよく飲まれますけど。」 「閣下はやめてよ。でもそれをもらうわ?」 「わかりました。」 レプリケーターを操作するクワーク。「ところで…そちらじゃ私達は、お友達で?」 「ええ、とっても仲がいいのよ? クワークは良く私の御願いを聞いてくれるの。」 見張りについていたクリンゴン人から離れるキラ。 「御願い?」 「クワークはねえ、普通なら手に入らないような物でも手に入れてくれるの。この意味わかる? …時には、保安チームの目をかすめてやってくれたりもするわ?」 「で彼にどういう御願いをするんです?」 クリンゴン人の様子をうかがうクワーク。 「ああ、いろいろとよ。例えば…ある物を手に入れてとか。」 「どんなもの?」 「そうねえ、例えば転送機とか? しかもすぐに。」 「……そういやクロスオーバーは転送の際の事故だったそうですねえ?」 「その通りよ?」 取り出したカップを吹いて冷ますクワーク。「じゃあ戻る方法を知ってるんですか。もし条件さえ合うなら、私が転送機を手に入れてきてあげましょう。」 キラ:「でもねえ、クワーク。私ラチナムはもってないのよ。だから手に入れてくれても払えないわ?」 「ラチナムって?」 砂糖を入れるクワーク。 「…じゃ何が欲しいの。」 「みんなをあなたの世界へ行かせるためのドアを開けたい。」 「みんなって誰のこと?」 「誰でもいいでしょう。」 「でもそんなドアを開けるわけにはいかないわ…」 ガラック:「クワーク!」 部下と共にやってきた。 クワーク:「ああ…ミスター・ガラック! 何になさいます、お好きなものを御馳走しますよ?」 「一緒に来てもらおうか。」 「問題でも?」 「そうだ、覚えがあるだろう。お前はテラン人の逃亡を助けていたな。」 「いやあたしゃ、ただの小心者のバーの店長です。そんな大それたこと。」 「だがなあ、今朝捕まえたテラン人の男を尋問したら、お前だって言っていたぞ?」 「ああ、そりゃみんな誤解なんですよう。話し合えば…」 突然、カウンターの下に隠していたライフルを取り出す。 だがガラックに押さえられ、発射されたビームは当たらない。 逃げようとするクワークだが、クリンゴン人たちに取り押さえられた。クワークは叫びながら、連れて行かれる。 銃を取り上げたガラック。「残念だな、気のいい男だったのに。」 シスコがやってきた。「おい、バーテン!」 他のテランたちと一緒だ。 ガラック:「クワークなら逮捕された。」 「逮捕? そりゃ可哀想にな。」 カウンターの中に飛びいるシスコ。「今日は店のおごりだ!」 ボトルを勝手に取りだしていく。 見つめるキラ。 労働に疲れたテランたちが、みな食事を取っている。 自分の分を老人に渡すベシア。「やるよ。」 独り作業をしているオブライエンに近づいた。「マイルズ・オブライエン。……僕の世界にも君はいるよ。」 オブライエン:「へえ?」 「実は親友なんだ。」 「…あんたと?」 「ああ、そうだ。」 「じゃあ俺は、俺もドクターなのかい?」 「いや、君はステーションのテクニカルチーフだ。」 「俺が? ほんとか?」 「ほんとだ。」 「…俺がテクニカルチーフねえ。」 「君も機械には詳しいらしいね。」 「ああ、ちょっとはね。どんな奴なんだい? そのテクニカルチーフは。」 「結婚してるよ。5歳のお嬢さんがいて、きちんとした真面目な奴だ。一緒に危ない目にあったこともあるけど、いざって時は頼りになるし。」 「えらく運がいい奴らしいな。俺よりずっとね?」 「…君転送機をいじったことはあるかい?」 「俺? あるけど何で。」 「こっちのチーフ・オブライエンは転送機の専門家なんでね。」 「…専門家とまではいかないが、大体のことならわかる。」 「じゃ何とかなるかい。」 「何をするんだ?」 「転送機を使えば元の世界に戻れるかもしれない。」 「何? じゃ今までの話は俺に、手伝わせようって魂胆てか?」 「違うよ、話したことはみんな本当だ。」 「信じられるもんか。友達でもないのに。もうほっといてくれよ。」 オドー:「休憩は終わりだ。」 戻るベシア。 オドーはオブライエンに命じた。「お前はバーに行ってこい。」 オブライエン:「でもここの修理もまだ…」 「バーでミスター・シスコがお前を待ってらっしゃる。」 作業所を出て行くオブライエン。 盛り上がるシスコたち。 静かにするように言うシスコ。「シー、シー…。見ろよ、驚くよなあ。まさに瓜二つだ。あんたを見せたくて閣下は俺をファウラ星系※19から呼び戻したんだぜえ?」 キラの顔に触れようとするが、はねつけられた。「ヘ、顔つきが似てるだけじゃねえ。気性だってそっくりだ。」 笑うテラン。 キラ:「あなたは下で働かされてるテラン人とは違うわね?」 「俺は閣下から船と部下を頂いてるのさ。それで俺は取り立てをするってわけよ。…強引にな。俺の近くを通る船は可哀想だぞ。」 「何でそんな特別待遇を受けてるの。」 「閣下に気に入られてるからだろ。閣下のお気に入りは少ないがな、どうやらあんたも閣下に気に入られているらしい。」 オブライエン:「お呼びですか、ミスター・シスコ?」 シスコ:「ああ、来たか、スマイリー! 元気だったか?」 「マイルズですよ、ミスター・シスコ。」 「マイルズなんてシケてらあ、スマイリーの方がずっといいぜ。…仕事場じゃ、いじめられてないか。」 「ええ、平気です。ご用件は?」 「お前俺のことが好きじゃないみたいだな?」 「ええ、正直言いまして。」 笑うシスコ。「この俺に向かっていい度胸してるなあ。だから俺はこいつを買ってるんだ。船のインパルスドライバー・コイルが壊れた。修理してくれ。」 オブライエン:「でも作業場で直さないと大変なことになりそうな個所があるんで…」 「作業場なんか後にしろ。それより俺のエンジンを修理してくれる方が先だ。」 酒を飲むシスコ。出ていくオブライエン。 通信が入る。『キラよりシスコ。』 笑顔が消えたシスコ。「…シスコです。」 閣下:『今回の任務についてちょっと話があるの。私の部屋にすぐ来てちょうだい。』 無理矢理笑顔を作り、シスコは歩いていった。からかうテラン。 見つめるキラ。 |
※18: jumja tea ジャムジャは DS9第20話 "In the Hands of Prophets" 「預言者の導き」など ※19: Fowla system |
キラ閣下はバスタブ※20に入っており、ヴァルカン人の男性たちが世話をしていた。 部屋に入るキラ。 閣下:「ああ、来たようね。もう彼には会った? ベンジャミン・シスコよ。……ああ、そうだ。あなたの世界にもやっぱり、ベンジャミンはいる?」 シスコはナイフを触っている。 キラ:「ええ、いるわ?」 「私の彼のように忠実で誠実?」 「…とてもいい人よ。」 「彼も一緒に来ればよかったのに。そしたら楽しいと思わない、ベンジャミン? …あなたを二人侍らせられるわ。」 立ち上がるシスコ。「ちょっと船を調べてきます。」 閣下:「ベンジャミン。…私あなたを傷つけた?」 「元々そんな感情はありませんよ。」 キラに顔を近づけ、部屋を出て行くシスコ。 「さて、あなたは何でコソコソと転送機を手に入れようとしたの?」 立ち上がるキラ閣下に、布が当てられる。「クワークがあなたから頼まれたって白状したわ?」 キラ:「確かにクワークに転送機を頼んだわ?」 「でもなぜ?」 「元の世界に戻りたいからよ。だってカークは転送の事故でこっちへ来たんでしょ?」 「…私に聞いてくれれば、教えてあげたのに。あれ以来似たような事故が起こらないように転送機は全て改造されてるの。だから、戻るのは無理よ。でも…何で聞いてくれなかったの。」 「忙しそうだから。」 近づくキラ閣下。「…信じてないの?」 キラ:「私…あなたが怖くて。」 「自分を恐れないで。あなたには恐れられたくない。愛して欲しいのよ。でなきゃ誰が私を愛してくれる? そんなに急いで戻らないでここにいて。お互いに学び合うことはたくさんあるはずじゃない。」 クリンゴン人の声が届く。『閣下、ガラックが囚人を連れて参りました。』 閣下:「通しなさい。」 ガラックとテロックに連れてこられるクワーク。「ああ…。」 弱っている。 ガラック:「全て自白しました。共犯者は 2人で、既に捕らえました。」 しゃがむキラ閣下。「クワーク。…私あなたのこと大好きだったわ?」 クワーク:「私もずっと閣下を尊敬しておりました…。申し訳ありません。」 「テラン人の逃亡を助けたのは、きつい労働に苦しむ彼らを見るのが辛かったからよねえ?」 「はい、閣下。」 「でも彼らがいなくなったら、誰が鉱山で働くの? …死刑になさい、これ以上苦しませないで。」 「いやです閣下、お許しを!」 連れて行くガラック。「来い!」 クワーク:「…二度としませんから。どうぞ御慈悲を、お助けをー!」 ドアは閉まった。 閣下:「今夜は私達のためにパーティよ? 何を着て行きましょうか。」 ドレスを手にしたキラが部屋に戻ると、ガラックがいた。「素晴らしい。仕立てのいいドレスは目も、楽しませるものだ。」 キラ:「私の部屋で何をしてるの、ガラック?」 「閣下はあなたを離さない。わかってるでしょ? あなたに夢中だ。」 「夢中ってどういうことよ。」 「閣下はあなたに固執している。あなたになら、ほかの者には言えないようなことだって打ち明けられますからねえ? 何でももっている女にとっては最高の贈り物だ。孤独を癒してくれる存在。家に残してきた、ドレイスの小さなリグ※21のように。どんな秘密でも、どんな悩みでもあなたなら信用して相談できる。どんな、弱味でもね?」 「信用なんかされてないわよ。部屋の外の見張りを見てごらんなさい。」 「護衛をつけたのは私です。閣下じゃありませんよ。閣下はあなたを信用しています。まさか裏切られるとは思わないでしょう。」 「彼女を裏切れって言いに来るとはいい度胸ねえ。」 「たまには博打も打たねば栄光は手に入りませんよ。私の言ったことをよく考えてごらんなさい。閣下はあなたを逃がさない、永遠にね? 私が逃がしてあげます。協力してくれれば。」 「協力?」 「閣下になりすますんです。」 「何ですって?!」 「明日の朝には、閣下は死んでいる。」 「…死ぬ?」 「その通り、死んでもらうんです。何度も言わせないで下さい、時間の無駄ですからね。あなたには閣下になりすましていただき、向こうの世界から現れた自分、つまりあなたは…元の世界へ戻ったと宣言してもらう。しばらくしたら、あなたはステーションのリーダーの地位を降り、パー※22だか何だかを求めて精神修養の旅にでも出る。ベイジョー人ならよくあることだ。そして私があなたの跡を継ぐってわけです。」 「私の友人は?」 「ああ、あのドクターですか。ドクターにはステーションを離れて、カーデシア流のもてなしを楽しんでいただきましょうかねえ? あなたが辞任するまではね? 辞任したらお二人一緒に、元の世界へどうぞ。…ああ、作業場の監督には話をつけてあるんですよ。もしあなたが私の申し出を拒否すれば、明日の朝に遺体で発見されるのは、ドクターの方です。」 口で投げキスをして、出ていくガラック。 |
※20: TNG からの流用で、後に映画第9作 "Star Trek: Insurrection" 「スター・トレック 叛乱」でも使用されます ※21: Drathan puppy lig 訳出されておらず、この個所は「しかもあなたは別の世界から現れた、自分そのものだ」と吹き替えされています ※22: pagh DS9第1話 "Emissary, Part I" 「聖なる神殿の謎(前編)」など。この部分は訳出されていません |
作業場に来たキラ。鉱石を運ぶベシアに近づく。「今夜中に脱出よ?」 ベシア:「何でそんな急に。」 「説明してる暇はないわ? 気をつけてね、狙われてるから?」 「狙われてるって僕が?」 「とにかくシャトルを取り戻すのよ。」 「でもステーションを出て一体どこへ逃げるんです。」 「彼らはまだワームホールには気づいてないわ? 一か八か、ワームホールへ逃げ込みましょう。とにかく、これ以上ここにいるわけにはいかないの。」 「でも、どうやってシャトルまで行くんです。」 オドーが見ている。 「誰かに頼んでみるわ。」 「クワークがテラン人を逃がしてるそうですが。」 「クワークは捕まったわ。いいわね、チャンスが来たら、すぐに出られるように。」 戻るキラ。 オドーはベシアを見て、微笑んだ。 見張りから離れ、レプリマットにいるシスコに近づくキラ。「シスコ。」 シスコ:「…俺は忙しいんだ。」 ナフキンを首につけている。 「あなたに大事な話があるの。」 「言ってみろ。」 座るキラ。「あなたに、ある情報を売りたいの。見返りに助けて欲しいのよ。」 シスコ:「おいおい、ビジネスでも始めるつもりかい?」 「私はこのステーションから出たいだけ。シャトルを取り戻したいの。」 笑うシスコ。「それで俺に助けろってのか、首を切られちまう。…でなきゃ鉱山だな、うん。」 キラ:「でも彼女を助ければ…」 「助ける?」 「ガラックが暗殺を企んでる。今夜。」 「それだけか。それが俺に売るって情報か。ガラックはステーションに来た日から閣下の命を狙ってんだぜ?」 「私を身代わりに立てる気よ。」 「そりゃそりゃ。ガラックにしちゃ随分頭を使ったな。…ま、俺には関係ねえ。」 料理を口にするシスコ。 「あなたどういう人間なの?」 「さあもう昼寝の邪魔だ…。」 「私が知っているシスコは決して同胞を、裏切らない。我が身のため権力に魂を売ったりなんか絶対にしないわ?」 「テラン人は魂なんか信じちゃいねえんだよ。」 「じゃ何を信じてるわけ? …子供にも鉱山で働かせるつもり? 私も鉱山で働いてたけど、我慢できず自由を求めて立ち上がったわ。」 「何でテラン人の自由をそう気にするんだ。」 「自由であるべきだからよ! 何で自由なんかどうでもいいって態度を取るの? このステーションで自由のために行動を起こしたのが、フェレンギ人のクワークだけだなんて!」 「こんなところで英雄を期待する方が間違ってるんだ。俺は部下たちとまあまあの暮らしをしてる。それだけでよしとしないとな。」 「…そうね。あなたは鉱山から這い上がった。でも所詮同じことよ。支配される側にいることには変わりないわ?」 立ち去るキラ。 シスコはナフキンを外した。 バー。 クリンゴン人たちが談笑している。 ドレスを着たキラがやってきた。笛を吹く ガラック:「これはこれは。今夜はまた息を呑むほどお美しい。後で是非、一曲ダンスの御相手を御願いしたい。」 ドレスの肩ひもに触れる。 話しているテロック。「で俺はデュラス※23家のガードマンを 4年間やらされた。いい加減飽きがきちまってなあ、ルーサもベトールも食えない奴らでよう、それで…」 テラン※24にぶつかられた。「どこ見てるんだ!」 殴り倒す。「少しは気をつけろ!」 テランは立ち上がり、ナイフを向けた。 テロック:「やるか。」 首を振るシスコ。やむなくテランはナイフを納めた。 テロック:「どうした、テラン野郎。怖くなったか? 今日はまだ死にたくないか、ああ?」 テランの顔にツバを吹きかける。 やはりシスコはテランに首を振った。 テロック:「さあ出てけ、目障りだ!」 去るテラン。テロックの前に、シスコが立った。 拍手が起こる。キラと同じドレスを着たキラ閣下が、ヴァルカン人を連れてやってきた。感嘆の声。「綺麗ねえ…」 笛吹が尋ねる。「キラ閣下、ご要望は?」 閣下:「何か明るい曲を。今日は気分がいいの。」 座ったまま寝てしまったベシアに、オドーが近づく。 後ろから蹴るオドー。「どうやら肉体労働にあまり慣れてないようだな、ドクター? もっと鍛えたかったがな。残念だよ、あんたがここで働くのは今夜が最期なんて…」 突然、近くで爆発が起こった。警報が鳴る。 オドー:「修理班急げ、トリウムが漏れてきたぞー! 保安ロックを解除しろ!」 避難するテランたち。 この騒ぎに乗じてベシアはベイジョー人の見張りを殴り、銃を奪った。 気づいたオドーが武器を向けようとする。だがベシアが先にオドーを撃った。 爆発し、飛散するオドーの身体※25。 逃げていくベシア。 |
※23: 順に「デュラー」「ラーサ」「ベート」と訳されています ※24: クレジットでは略奪者 Marauder (デニス・マダローン Dennis Madalone TNG第20話 "Heart of Glory" 「さまよえるクリンゴン戦士」のラモス (Ramos)、第92話 "Identity Crisis" 「アイデンティティー・クライシス」のヘンドリックス主任 (Chief Hendrick)、第147話 "Frame of Mind" 「呪われた妄想」の護衛、DS9第63話 "Visionary" 「DS9破壊工作」のアートゥール (Atul) 役。TNG/DS9/VOY スタント調整) 初登場。声優なし ※25: 爆発する瞬間には、ろう人形が使われました |
廊下を走るベシア。 通信が流れる。『全ステーションで直ちに非常警戒態勢を取ること。テラン人が 1人逃亡した。』 アクセストンネルに入るベシア。パネルを閉めた。 その後、追っ手が廊下を走っていく。「急げー!」 中を進むベシア。前に開けた場所がある。 作業をするオブライエンだ。こちらには気づいていない。 ベシアは声をかけた。「オブライエン。」 無視するオブライエン。 ベシア:「頼む、助けてくれ。」 オブライエン:「俺を巻き込むな。勝手に行け。今トリウム漏れの修理で忙しいんだ。」 「君はコンジットがどこに通じてるか知ってるはずだ。うちのチーフは知ってる。」 「ああ。」 「シャトルのパッドはどっちか教えてくれ。君もあのマイルズ・オブライエンなら、正義を愛する男のはずだ。あいつは強いぞ。」 「俺は弱虫じゃない。ただ、俺は……お前にはわかってないんだ、お前を助けたりしたら、殺されちまう。」 「今だって死んでるよ。これじゃ生きてるなんて言えない。ここで働かされてる人間は、テラン人はみんな、とっくの昔に死んでるんだ。」 トンネルに入るベシア。 「…パッドはそっちじゃない。」 出るベシア。 オブライエン:「一つだけ、聞きたい。俺も連れてってくれるか。」 ベシア:「僕たちと一緒に来たいのか。」 「ここにいたって仕方ない。」 「宇宙艦隊が仰天するだろうな。…でもまあいいや、行こう。」 別のトンネルに入るオブライエン。ベシアも続く。 パネルを蹴り開けるオブライエン。 廊下を走る 2人。 だが、前からテロックたちがやってきた。「2人ともそこまでだ!」 バーで楽しく話していたキラ閣下。 テロックがベシアとオブライエンを連れてくる。「キラ閣下! 新入りのテランが監督を殺し、オブライエンと逃亡を図りました。」 キラに近づくキラ閣下。「やっぱり、あなたの言うことを聞いて…生かしておいたのが間違いだったわ。」 ベシアに言う。「私は、あなたの世界のことは知らないけど、その態度から見て…あなたたちはもっと勉強しないといけないわね。」 ベシア:「勉強しないといけないだって? ヘ、笑わせるな!」 「お黙りなさい! …この世界では…テラン労働者は、上司に向かってそんな生意気な口の利き方はしないものよ。もちろん殺すなんてもってのほかだわ? あなたが殺した男は、ほかにもう代わりがいないのに。最後の流動体生物よ! …彼ほど能率よく作業所を回転させた上に、労働者を管理できた監督はいないわ! …笑っちゃうわね…。あなたたちテラン人を…思いやった結果、恩を仇で返されるなんてもういい!」 シスコが話を聞いている。「同じ過ちは、二度と繰り返さないわ。ガラック、そのドクターを好きなだけ見せしめになさい。テラン人どもに思い知らせてやるのよ。プロムナードでさらし者にして、ゆっくり苦しませて死なせなさい。慈悲を求めて永遠と泣き叫ぶ声を、テラン人に聞かせてやるがいい!」 キラ:「でも閣下…」 「もし何か言ったら、あなたにも死んでもらうわ? …それにあなた。オブライエン…あなた、壊れた物をいろいろ直してくれて、便利な修理屋さんだったのに。もう何年もセータで不満はなかったはずでしょ? 一体何に血迷ってこんなことを。何を考えてたの?」 オブライエン:「…答えを知りたいですか。」 「ええ。」 「……この男…こいつは、ドクターだったそうです。向こうの世界には俺もいるそうです。でもあっちの俺は、このステーションのテクニカルチーフだとか。テラン人なのに。信じられます? …作り話かもしれないけど、俺…考えたんです。もし…少し歴史が違ってれば、俺たちもそうなれてたかもって。…だから向こうへ、行こうと思った。たとえ、向こうの世界が…どんな世界でも、ここよりはマシですよ。ここよりは絶対マシなはずだ。」 「残念ね、ミスター・オブライエン? そんなに行きたいなら彼と一緒に行きなさい。ただし、一緒に行く先は、向こうじゃなくあの世だけど。」 指示を受けたガラックは、2人を連れて行こうとする。 だがその間にシスコが立ちはだかった。ガラックに銃を向ける。「悪いな、2人はもらうぞ。」 部下のテランも行動を取る。 閣下:「あなた正気をなくしたの?」 「いいや? その反対だ。正気に…戻っただけさ。」 キラ閣下の顔に手を伸ばした。 キラも見張りに武器を向けていた。 テランと共に店を出て行く。 最後にシスコはドアを撃ち、閉めてしまった。 追いかけようとするクリンゴン人やカーデシア人。 廊下を急ぐキラは、シスコに尋ねた。「これからどうするの? 彼女は必ずあなたを追ってくるわよ?」 ベシア:「一緒に、僕たちの世界へ来たらどうだい?」 シスコ:「いや、俺はやっぱりこっちの世界でやってくよ。そう簡単には捕まらない。心配すんな。テラン人同士で力を合わせ、頑張るさ。」 オブライエンに聞くベシア。「君はどうする、来るかい?」 オブライエン:「いや、こっちに残るよ。シスコさん、僕も連れてってもらえますか。」 シスコ:「もちろんだ、腕のいい修理屋は大歓迎だよ、スマイリー?」 エアロックに入るキラはシスコに言った。「がんばって? ありがとう。」 ベシアも続く。 テランに命じるシスコ。「行くぞ!」 ランナバウトに乗るキラ。「係留クランプを解除。」 ベシア:「解除。」 「エンジン始動。」 「始動しました。」 「直ちにエンジン全開。」 「直ちにエンジン全開します。」 テロック・ノールを離れるランナバウト。 キラ:「ワームホールまで 45秒。」 ベシア:「インジェクターから、まだプラズマ漏れがあります。」 「その漏れのおかげで戻れるかもしれないわよ? 今、来た時のスピードに合わせてるわ?」 「クリンゴン船接近。」 クリンゴン攻撃巡洋艦が攻撃してきた。 ベシア:「シールド 60%。…40。」 キラ:「ワームホールまで 10秒。」 爆発が起こる。 ベシア:「やられた。」 キラ:「行くわよ!」 ワームホールを進む。 光に包まれる。 司令官室から出てくるシスコ。「どうだ。」 ダックス:「調査船が、ワープサインの痕跡を見つけました。…どうやらプラズマ漏れを起こしたようです。」 「船の残骸は。」 「ありません。」 オブライエン:「ニュートリノ数値上昇。ワームホールが開きます。…少佐のシャトルです。」 「司令官。ディフレクターグリッドが壊れてるようです。」 シスコ:「チーフ、スクリーンへ頼む。…ニューベイジョーまで、調査船を出して探していたんだぞ。どこにいたんだ。」 ドレスを着たキラと、体中が汚れたベシアが映った。 キラ:『…鏡の向こう側の世界です。戻れてよかった。』 微笑むベシア。 DS9 へ帰還するランナバウト。 |
感想
TOS の一エピソードを引き継ぎ、DS9 では一種のシリーズものとなった「鏡像世界」。面白い設定だけあって、非正史ではありますが小説でも題材として取り上げているものが多くあります。普段とは違う演技をできるということで、俳優も生き生きしているように見えますね。 今後 DS9 ではこのエピソードを最初として、第3シーズン「鏡の裏のシスコ」→第4シーズン「鏡あわせのジェニファー」→第6シーズン「聖者の復活」→第7シーズン「平行世界に消えたゼク」と続きます。連続して観るのも面白いでしょうね。 その他トリヴィアとして、当初のタイトルは "Detour" 「回り道」でした。また脚本では鏡像ウォーフがキラの部下として登場する予定でしたがかなわず、そのセリフのほとんどはガラック副官のものに変更されました。 |
第42話 "The Wire" 「義務と友情」 | 第44話 "The Collaborator" 「密告者」 |