ベシアは尋ねた。「君たち、つかぬことを聞くようだがここは…どこなのか教えてくれないか。」
ガラック:「ここはテロック・ノール・ステーションだ。ベイジョー・セクターの当局の本拠地でもある。」
「当局の本拠地? …当局って、何の?」
「同盟※7のだよ、もちろん。」
キラ:「わけがわからないわ? きっとワームホールの出方を間違えたのね?」
「ワームホール。」
「ガンマへのワーム……一口では説明するのは難しいわ? 私達はすぐシャトルに戻って、元の世界へ…」
もう一人のキラが命じた。「ダメよ、そうはさせないわ?」
ベシア:「おい、ちょっと待てよ…」
ガラック:「閣下に生意気な口を利くんじゃない、テラン※8め!」
「テラン?」
閣下と呼ばれたキラは言った。「もし、あなたの正体が私の考えているとおりなら、このまま行かせるわけにはいかない。男は地下に連れて行って働かせなさい。くれぐれも目を離さないように注意して。」
プロムナードに入ったキラは、立ち止まった。
クリンゴンとカーデシアのシンボルを合わせた、大きな紋章が飾ってある。
身なりも汚い地球人が、多数働かされている。
呼び止める声。「閣下※9、お待ちを!」
閣下:「何かあったの、テロック※10?」
クリンゴン人が近づく。「ステーションから出て行く貨物船にこのテランが潜り込んでいたのを引っ捕らえました。」
閣下:「……あなたのランクはいくつ?」
地球人※11は小声で答えた。「0413、セータ※12です…。」
閣下:「セータ?」
「そうです。」
「必死に働いて信用されるようになって、やっとセータまできたのに。…でもこれで全て帳消しよ? ラムダ※13の鉱山送りにしなさい。」
ガラック:「鉱山へ? 死刑にすべきですよ、ほかの者への見せしめに。」
「そうねえ? 見せしめはあなたの得意技だったわね、ガラック? お楽しみの度が過ぎるわよ?」
「手引きがなければ貨物船に乗り込めるはずがない! ここ 1ヶ月で密航は 3回目です、せめてそいつを尋問する許可を頂きたい!」
「いいわ、尋問なさい。でももし尋問中にこの男が死んだら、私があなたを見せしめにしてやるわよ? 忘れないでね?」
「もちろん、わかっております。」
微笑むキラ。すぐに笑みは消えた。
煙の上がる部屋。
オブライエンが話している。「言っときますけど、トリウム※14抑制室のグレードを上げないとそのうち事故が起きます。このままにしといたら責任もてませんからね。」 服装は他の「テラン」と同じだ。
クリンゴン人:「新入りを連れてきたぞ。生意気な口を利くテランだ。」
オブライエンの話を聞いていたのは、オドー※15だった。「そうか。口の利き方はたっぷり教えてやる。お前のランクは何だ。」
ベシア:「ベシアだ、ジュリアン。」
「何かの冗談か?」
「わからないけど、そうなの?」
殴るオドー。「ふざけるな! それが服従の掟第14条だ。いいか、お前のランクは何だ。」
ベシア:「今のところ僕にはランクはないよ。」
「今のところ僕にはランクはありません、閣下だ。」
「それも服従の掟なの?」 また叩かれたベシア。
「今のところ僕にはランクはありません…閣下。」 オブライエンが様子を見ている。
「今のところ僕にはランクはありません、閣下。」
「何でランクがないんだ。」
「知りませんね、正直言ってここに来たわけも知らないんだから。」
「ここは鉱石の加工場※16だ。以前にやったことはあるか。」
「いや、全くない。」
「鉱山で働いたことは。」
「ない。」
「じゃ何をやってたんだ。」
「医師として働いていたんだ。」
オドーは殴った。「さっき言った服従の掟第14条を忘れたか。」
ベシア:「ふざけてなんかいない。僕はドクターだ。」
「そうかい、ドクター。仕事の前に手を洗うのを忘れなさんな?」 ベシアを押しやるオドー。
ベシアはオブライエンを見た。
DS9 とは全く様子の違う司令室を通り、司令官室へ向かうキラ閣下。
席に座り、指を噛んだ。「座って?」
キラについていたクリンゴン人は去った。座るキラ。
閣下:「あなたは私、そうでしょ?」
キラ:「私はキラ・ネリス。」
「やっぱりそうなの。…あなたの世界も、こことよく似た世界なんでしょうねえ? ステーションがあって、ベイジョーにカーデシアにテランにクリンゴンに…」
「役者は同じだけど、でも…演じる役柄が全然違うわ?」
「あなたの世界に同盟はないの?」
「ないわ?」
「…でもカークって名前は知ってるでしょ?」
「聞いたこともないわ?」
「意外ねえ、こちらの世界ではカークは歴史上の有名人物よ? …今から 1世紀ほど前、テランの宇宙船の船長だったジェイムズ・カークは、転送の際に事故を起こし、もう一つの世界の自分と入れ替わってしまった。こちらの世界では、当時テランは野蛮で強大な帝国だったの。こちらの世界に来たカークはスポックというヴァルカン人と出会い…スポックに非常に大きな影響を与えたの。※17スポックは後に非武装化と平和を唱えて改革を主張し、帝国の最高司令官の地位に上り詰めた。そして、それまでの政策を 180度転換した。…でもそれが裏目に出て、スポックが全ての改革を成し遂げた時、彼らの帝国には我々に対抗するだけの力はもう残っていなかった。」
「我々?」
「同盟よ。クリンゴンとカーデシアがついに、対立を捨てて手を結んだの。」
「ベイジョーもその同盟に参加してるわけ?」
「私達は何十年もテランの支配下にあった。解放された時、同盟への参加を申し出て認められてね? 今では、同盟の中でもかなり影響力のある存在よ? あなたの世界のベイジョーもそうかしら。」
「いいえ? そんな恵まれた立場じゃないわ?」
「あなたの世界のこともっと知りたいわ。」
「でも私、帰らなきゃ。ここにはいられない。」
「実は、それも問題ではあるのよねえ? どうやってあなたを戻せばいいのか。だけど、一番の問題は…私には、絶対従わなければならない掟があるってことなの。」 像を見るキラ閣下。
「それはどういう意味なのかしら。」
「カークのクロスオーバー以降、そちらの世界から現れた人間によって再び…こちらの世界が干渉されることのないように、クロスオーバーで現れた人間は処理する決まりなの。」
「…なるほど?」
「でも副官のガラックと違って…私は暴力は嫌いなの。暴力を使うたび、たとえ必要でも後悔してしまう。」
「その気持ちよくわかるわ?」
「あなたにわかる?」
「あなたは私を殺したくない。なら殺さずに済む理由があればいいのよ。」
「いい考えはない?」
「私の世界に来るのよ。…そして私達に、どうやって強いベイジョーを造り上げたかを教えてもらいたいの。…今度はあなたが私の世界を変える番よ。」
「私が?」
「昔カークがここの歴史を変えたように、あなたが私達の世界の歴史を変えるのよ。私も教えて欲しいわ? ベイジョーのリーダーになるにはどうすればいいか。あなたみたいに。」
「それも面白そうだわ?」
「戻る方法を見つけなくちゃ。」
「でも、あのお友達は殺さないと。」
「いいえ、ダメよ…あの男はね、生意気なテラン人で、元の世界では威張り散らしてたから、生かしたまま懲らしめた方がいいのよ。」
「…いいえ、それは危険すぎるわ? それにカーデシアもクリンゴンも許さないだろうし。」
「だけどこのセクターのリーダーはあなたでしょ?」
大きく笑うキラ閣下。「…私の使い方をよく知ってるわね。」
キラ:「私があなただったらって考えただけ。私ならカーデシアやクリンゴンの言うことなんか耳を貸さない。」
「その通りよ。私もそう。」
カーデシア人を呼ぶキラ閣下。「こちらの…魅力的な若いレディに、部屋の用意を。」 キラを呼び止める。「キラ・ネリス。あとでまたゆっくりね?」
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※7: Alliance
※8: Terran 地球人は普通 human と呼ばれますが、鏡像世界でなくともあえて強調する場合は、テランが使われる時が稀にあります
※9: Intendant 後には「監督官」などと訳される肩書き。今回の吹き替えでは "ma'am" などの敬称と区別なく「閣下」と訳されています
※10: Telok (ジョン・コスラン・ジュニア John Cothran Jr. TNG第146話 "The Chase" 「命のメッセージ」のニューダック艦長 (Captain Nu'Daq)、ENT第59話 "The Shipment" 「兵器工場潜入」のグレイリック・ダール (Gralik Durr)、ゲーム「スタートレック・ボーグ」のドクター・ベニントン・ビラカ役。"Klingon" でも声の出演) 声:渡部猛、TNG クンペック、VOY シーマスなど
※11: Human (ジャック・R・オーレンド Jack R. Orend)
※12: シータ・ランク theta designation
※13: ラムダ・ランク lambda designation 吹き替えでは「ランブダ」
※14: thorium 原子番号 90、元素記号 Th
※15: この制服のベルトや高いネックは、オーバージョノーが気に入ったため第3シーズンより通常の服にも導入されました
※16: このセットには通常は貨物室として利用される第4ステージが利用されました
※17: ここまでの出来事は TOS第39話 "Mirror, Mirror" 「イオン嵐の恐怖」より。今回の鏡像世界 (mirror universe、鏡像宇宙、ミラーユニバース) やテラン帝国 (Terran Empire、この呼称はなし) の設定が導入されたエピソード
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