TNG エピソードガイド
第146話「命のメッセージ」
The Chase
イントロダクション
※1『航星日誌、宇宙暦 46731.5。新しい星の観測のため、ヴォルテラ星雲※2に来ている。生まれて間もない数十個の原始星の発達を、3週間に渡って観察する任務だ。』 星雲に入っているエンタープライズ。 データ:「艦長。外殻部分の、スペクトル分析が終わりました。この原始星の調査は、完了です。」 ピカード:「次の星に向かえ。推力 4分の3。」 通信が入る。『ライカーから艦長。』 ピカード:「どうしたライカー。」 『観察ラウンジまで来ていただけませんか。』 「……わかった。」 制服の裾を伸ばすピカード。 ピカードが観察ラウンジに入ると、なぜか暗くなっていた。 テーブルの上にわざと目立つように、何かの置物がある。 ピカード:「これはすごい。」 男性の声。「ほう、それの価値がわかるかね。ピカード君。」 ピカード:「…ガレン教授※3。」 ライカー:「コンピューター、ライト。」 ライカーの隣にいた老人。「今はピカード『艦長』と呼ぶべきかな。」 ライカー:「教授から御連絡をいただきまして、艦長を驚かせようと思ったんです。」 ガレン:「わしが無理矢理押しかけたんだが、副長は快く迎えてくれてな。いきなり来て迷惑でなければいいが。…自慢の教え子の顔をどうしても見たくなったんでねえ。」 ピカードは手を差し出した。「教授ならいつでも大歓迎ですよ。……カール星※4の、ネスコス像※5をこの目で見られるとは。」 像の前に座る。「…第5王朝ですか。」 ガレン:「君はそう見るかね、ピカード。ああすまん呼び捨てにして。艦長。」 「いやピカードで構いませんよ、そう呼んで下さい。ああ…これは…全体の印象は、第5王朝の物とよく似ているが、ああ…あ、そう…この、表面の装飾の特徴は…」 「特徴は?」 「まぶたの上に緑色の化粧が施され…目は閉じている。」 指を鳴らすピカード。「第3王朝のものだ。……それもターキン・ヒルの巨匠※6の作。」 「その通りだ。」 「…ライカー。知っているか、ターキン・ヒルの巨匠というのは、時代を 300年も先取りした作品を作っていた。…彼の作品は残っているが、名前は未だにわかっていない。…この像はおよそ、1万2千年以上前の物だ。」 ライカー:「カール星と聞きましたが、連邦の領域とはかなり離れていますね。」 「あそうだ、カール星の遺跡の研究は随分前に終わったんでしょ?」 ガレン:「去年の夏、たまたま近くまで行ったものでねえ。開けてみろ。」 「…あ…まさか中に。」 深く息をし、微笑むピカード。像を開け、笑い出した。「見てくれ…。これを作ったカール星の人々はな、人間は小さな存在の集合体だとそう信じていた。…一人の身体の中には…」 中にある小さな人形を取り出す。「いくつもの声があって、一つ一つが…それぞれの意見や別々の世界観をもっていると考えられていた。カール星の文明は消滅してから、何千年も経っている。だから像が完全な形で発見されることは稀なんだ。…教授、まさにこれは完璧ですよ。」 「君への贈り物だ。」 「…ああそんな。…受け取れません。…こんな貴重な品を。」 「つまらん遠慮は無用だ。素直にありがたく受け取りたまえ。」 裾を伸ばし、手を胸に当てるピカード。「感謝します。…いつまでいられるんです、積もる話もあるし。」 ライカー:「明後日、ヴァルカンの輸送船に乗り込まれるそうです。」 「じゃあ 2日しかいられないんですか?」 ガレン:「いや、もっと一緒にいられるぞ?」 「どういうことですか。」 「わしは今旅をしていてな。…まだ探検し尽くされていない遺跡を訪ねる旅だ。君も一緒に連れて行くつもりだよ。」 ピカードは息を呑んだ。 |
※1: このエピソードは、ライカー役ジョナサン・フレイクスの監督作品です。TNG で監督した 8話のうち、第135話 "The Quality of Life" 「機械じかけの小さな生命」以来 6話目となります (参考) ※2: Volterra nebula ※3: リチャード・ガレン教授 Professor Richard Galen (ノーマン・ロイド Norman Lloyd ドラマ "St. Elsewhere" のドクター Auschlander 役) ファーストネームは脚本のみ。声:丸山詠二 ※4: Kurl ※5: Kurlan naiskos 後のエピソードで作戦室に飾られます。映画第7作 "Star Trek: Generations" 「ジェネレーションズ」でも登場 ※6: The Master of Tarquin Hill |
本編
『航星日誌、補足。30年ぶりに恩師であるガレン教授と再会した。かつて考古学の道に進むか、宇宙の探検を選ぶかで悩んだあの頃が思い出される。』 テン・フォワード。 ※7ピカード:「ずばり聞いてよろしいですか。」 ガレン:「いいとも。」 「…この 10年間教授はあまり、新しい論文も…出していませんし、学会にも滅多に出られない。…いつも直前になって、キャンセルなさってたでしょ? 今世紀最高の考古学者と言われるあなたが…謎のベールに包まれた人になってしまった。」 「それがかえって名声を高める結果になったよ。」 笑うピカード。「人は神秘的なものに惹かれますからね。」 ガレン:「ソティス3号星※8のサタラン人※9は、謎を嫌うぞ? …だが一般論としては、君の言うとおりだ。」 「それで…この 10年間何をなさってたんです?」 「…微古生物学という学問を知っているか?」 「化石を顕微鏡レベルで研究するんでしょ? 以前その分野で、教授も論文を書いてらした。…でも何年も前だ。研究は終わったと思ってました。」 「いいや? 密かに続けていた。……大発見の鍵を見つけたのでな。沈黙を守った方が賢明だと思ったのだ。…いま、頭の中にはこの研究のことばかり。夢の中にまで出てくる。今のわしの全てだ。この発見を…発表した暁には、宇宙は大変な騒ぎになるだろう。」 「……何なんです。」 「簡単には教えてやれんな? 一つ条件がある。研究の締めくくりの旅に、わしと一緒に来ることだ。」 「…期間は?」 「3月か、1年か。…もしわしが宇宙船でももっていればほんの数週間で、終わるところなんだが。わしにあるのはシャトルだけだ。後は、わしと君の才覚を生かして…何とか乗り切っていくしかない。」 「なぜ私の力が、いるんです。」 「…わしは年老いた。…危険に対処しきれんかもしれん。…自分の力のなさでこの重大な研究をふいにしたくないのだ。」 「声を掛けて下さったのは光栄に思います。…だが私には責任が…」 「よく考えろ。偉大な考古学者シュリーマン※10や、ヤシーム※11を発見したマテール※12の手伝いができるようなものだぞ? 断る理由があるか。」 「…一晩考えたい。」 「ピカード、眠っても今日の夢は見るな?」 「『今日の夢は見るな』。…アッシェルの夜の祈り※13ですね?」 「最終試験ではこの問題に答えられなかったな?」 「ええ、あの後必死で調べましたよ。…では教授、自分のうちだと思ってくつろいで下さい?」 「ありがとう。」 握手するピカード。「…今日の夢は見ぬよう。」 ピカードの部屋。 ネスコス像が置いてある。ドアチャイムに応えるピカード。「入れ。」 クラッシャー:「おはよう。…早くから起きてたみたいね。」 「そうなんだ。」 飲み物※14を注ぐクラッシャー。「どうしたの?」 ピカード:「…夕べガレン教授と長々と話をしてね。調査旅行に誘われたよ。一年かかるかもしれないが、エンタープライズを放り出してついてこいとね?」 「心が動いた?」 「…行くわけにはいかない。しかし誘いを断るのは…正直なところ、残念だ。」 「…艦長じゃなく、考古学者になればよかった?」 「いやあ、そういうんじゃない。……自分で選んだ道だ、後悔はしてない。…だが…なぜ教授がこの像をくれたかわかるんだ。」 中の人形を手にするピカード。「一人の中にいくつもの声がある。…同じように私の中には、考古学を志した昔の私が生きている。そのことを、教授は言おうとしたんだ。」 「でも考古学より、宇宙の探検を選んだのね。」 「この仕事は何ものにも代え難い。いま選べと言われても同じ選択をするさ。…だが二度までも教授を失望させるのは気が重いんだ。」 「…ずいぶん気にするのね。」 「うん…父のような人だ。…実の父以上に理解してくれた。教授にも息子がいるが、親と同じ道には進まなかったので…私を息子のように思ってくれてね?」 「…なのにあなたは背を向けた。」 うなずくピカード。「……再会しない方がよかったのかもしれない。」 コンピューターを見ているガレン。 部屋にピカードが入った。 ガレン:「やあおはよう、ピカード。」 ピカード:「おはようございます。」 「…いいか? まずヴァルカンの船で、DS4※15 までゆく。」 銀河系の図を指さすガレン。「そこで 3週間待つとアリアンの定期船※16がやってくる。それでカイエア※17までゆき、その後目的地のインドリ8号星※18まではシャトルでゆく。」 「教授。…残念ですが、ご一緒できません。…エンタープライズは、私の勝手で留守にしたり戻ってきたりはできません。辞める覚悟で行かねばならない。私はまだ辞めたくないのです。」 「…これは学生の研究旅行じゃない、一生に一度あるかないかのチャンスだぞ? …同じ過ちを繰り返すな。」 「宇宙艦隊に入ったのが、過ちだとおっしゃるんですか?」 「今やってる仕事が何だ。調査任務だと? やっていることは、古代ローマの辺境警備隊と同じではないか。肥え太っておごれる帝国を守っているだけだ。」 「本気でそう思ってはいないんでしょ。」 「とにかく…お前はもう学者とは言えん。ただの、考古学愛好家だ。…その昔、わしの誘いを受けていればお前は最高の考古学者になれたはずだ。このわしをも上回る偉大な学者にな? なのにお前という奴は、真実を探求する学問を捨ておって。失望したよ。」 「…教授、どうかわかって下さい。」 手を振るガレン。「…来てくれるな?」 ピカード:「…できません。」 「…ではもう行くよ。」 「ああしかし、教授。行くと言っても、ヴァルカンの船は明日まで来ないじゃありませんか。」 振り返らず、コンピューター室を出ていくガレン。「ここに用はない。邪魔したな、艦長?」 ワープ航行中のエンタープライズ。 『航星日誌、補足。星雲の調査も終わり、次なる任務はアタリア7号星※19での外交会議だ。だが正直言って、今ひとつ仕事に集中できない。』 データ:「現在のスピードですと、37時間後にアタリア星系に着きます。」 トロイは、ブリッジの隅にいるピカードに近づいた。「艦長? 植物園に行くんですけど、散歩でもしませんか?」 ついていくピカード。 ウォーフ:「…艦長。ガレン教授のシャトルから救難信号です。映します。」 乱れたガレンの映像が映る。『エンタープライズ。船が襲われた。』 すぐに消えた。 ウォーフ:「通信妨害です。」 データ:「シャトルの位置がわかりました。攻撃されています。」 ピカード:「ワープ中止、スクリーンへ。」 シャトルが異星人艦※20にトラクタービームで補足されている。 ウォーフ:「イリディアン※21の駆逐艦だ。」 ライカー:「戦闘配置!」 「了解。」 データ:「ガレン教授はまだ、シャトルの中にいます。生命反応が弱まっています。」 ピカード:「助け出せ。」 ウォーフ:「…シャトルがトラクタービームに包まれていて、転送ビームが届きません。」 ライカー:「イリディアンを呼び出せ。」 「応答がありません。」 揺れるエンタープライズ。 ピカード:「フェイザー砲発射、相手の兵器を破壊しろ。」 フェイザーを発射するエンタープライズ。 イリディアン艦に命中した。トラクタービームは解除されるが、そのまま相手の船は爆発した。 ライカー:「ウォーフ!」 ウォーフ:「こんなはずはありません。船を破壊するほどのパワーは出していませんでした。」 ピカード:「第1転送室、ただちにガレン教授を医療室に転送してくれ。」 転送部員※22:『了解!』 医療室。 ベッドに寝かされているガレンから、装置を取ったクラッシャー。ピカードが来る。 クラッシャー:「…ディスラプターをまともに受けて、手の打ちようがないわ。」 音を発するモニターを見るピカード。 ガレンは口を開いた。「ジャン・リュック。わしも少し言い過ぎたよ。」 目を閉じるガレン。高い音が響き、モニターには平坦な線を描かれた。 |
※7: 当初の脚本では、この前にガレンのキア4号星 (Kea IV) での発掘、アオリン星団 (Aolian Cluster) の反対側へ行ったことなどのセリフがありました。両方の場所とも、エンサイクロペディアには掲載されています ※8: Sothis III この部分は訳出されていません ※9: サタラン Satarrans TNG第114話 "Conundrum" 「謎めいた記憶喪失」より ※10: Schliemann ハインリヒ・シュリーマン (1822〜1890)、ドイツ人。原語では「トロイアの街を発見した」と言っています ※11: Ya'Seem ※12: M'Tell ※13: night blessing of Yash-El ※14: 当初の脚本では、ここでクラッシャーがレプリケーターでマキアート (macchiato) を注文します。エンサイクロペディアには掲載されています ※15: Deep Space 4 既に DS9 は始まっており、初めて同系列の別基地が言及 ※16: アリアン輸送船 Al-Leyan transport ※17: Caere ※18: Indri VIII ※19: Atalia VII ※20: Rick Sternbach デザイン、ILM の John Goodson 製作 ※21: Yridians TNG第142・143話 "Birthright, Part I and II" 「バースライト(前)(後)」より ※22: 声は辻親八さんのように聞こえます。オブライエンは既に DS9 へ異動しています |
パッドを渡すラフォージ。「教授のシャトルには、3人のイリディアンがいたようですね。」 ピカード:「狙いは何だ。」 「推測ですが、コンピューターファイルを盗もうとしていたようなんです。」 データ:「教授がコンピューターファイルを守ろうと、プロテクトを掛けた形跡があるんです。」 「シャトルのコンピューターを回収して、ファイルを復旧しました。一部だけですが。中身は数字の組み合わせで、19ブロックに分かれています。」 コンピューターに羅列される。 ピカード:「何の数字だ。」 データ:「何とでも取れます。可能性が膨大すぎるので、範囲を限定してかからないとコンピューターで分析するのも難しいでしょう。」 ラフォージ:「教授が暗号を使ったのかと考えて、あらゆる解読法を試したんですが…手がかりすらつかめません。」 ウォーフ:「この情報はイリディアンに盗られたんでしょうか。」 「いくつかはね。全部じゃないと思うが。」 ピカード:「イリディアンは教授が何を研究していたか知っていたのだから、数字の意味も知っているのでは?」 「でも、奴らは船ごと消滅しました。」 「あきらめるな。イリディアンの商売は情報の売り買いだ。連中からこの情報を買った者がどこかにいるかもしれない。外部と通信していた形跡は?」 ウォーフ:「…いえ、通信波は感知しませんでした。」 ラフォージ:「付近に船の姿もありません。」 立ち上がり、制服の裾を伸ばすピカード。窓の外を見る。「…シャトルのフライトレコードで教授の立ち寄った星がわかるか。」 データ:「わかります。エンタープライズに来る前に立ち寄っていたのは、ルーア4号星※23という未知の星です。」 「ここからどれくらいの距離だ。」 「ワープ6 で、4日です。」 「会議は後だ。ルーア星系に向かうぞ?」 ルーア4号星に到着するエンタープライズ。 ライカー:「周回軌道を取れ。」 データ:「ルーア4号星は、Mクラスの星です。表面の 67%が水で覆われ、大陸には多種多様な動物が生息しており、霊長類の存在も確認できます。」 ピカード:「遺跡か何か文明のあったことを示すものは残ってないか。」 「…スキャンの結果、いかなる文明も存在した形跡はありません。」 「…考古学者が遺跡もない星で何をやっていたんだ。…教授はヴァルカンの船で、ディープ・スペース・フォー※15に向かうと言ってた。目的地は確か、インドリ8号星だ。データ少佐、インドリ8号星というのは一体どんな場所だ?」 「インドリ星系は、約60年前連邦によって発見された星系で、第8惑星は Lクラスです。地表は落葉樹に覆われており、現在過去を通じて一度として文明が存在した形跡はありません。植物のみで、動物は生息していません。」 「ライカー。インドリ8号星に向かうぞ?」 ライカー:「お言葉ですが、行って何かわかるとは思えません。それより会議はどうなさるんですか? もう既に予定より遅れています。」 「会議に遅れるのは十分承知の上だ。教授はこの星に来て、インドリ8号星に向かう途中で殺された。この 2つの星には何か関係があるはずだ、それを突き止めろ。」 ブリッジを出ていくピカード。 「了解! インドリ8号星にコースを取れ、ワープ7 だ。」 ワープに入るエンタープライズ。 コンソールで数字の羅列を見ているピカードは、ドアチャイムに応えた。「入れ。」 作戦室に入るトロイ。「いかがです?」 ピカード:「…数字の、配列の分析に時間さえ掛ければ…何らかのパターンを見つけられそうだが…今のところ…」 コンピューターを消す。「何もわからん。」 「気分はいかがかと聞いたんです。」 腕を伸ばし、裾を引っ張るピカード。「私が教授と一緒に行ってれば…」 トロイ:「そんな風に御自分を責めないで下さい。…艦長に責任はありません。艦長は決して教授を見放したわけではなく…自分の仕事を放り出さなかっただけです。その選択は間違っていません。」 「それはわかってる。」 「恩師を亡くされた気持ちはわかります。何があったのか突き止めたいという気持ちも。…でも数字を見つめていたところで教授は戻ってきません。アタリア7号星の会議は 6ヶ月も前から準備されていたんです。宇宙艦隊はピカード艦長の手腕に期待して…」 「カウンセラー、誤解のないように言っておくが、私は単に自分の良心がとがめるからエンタープライズやクルーまで巻き込んで、償いをしようとしているのではない。…このままガレン教授の死を無駄にするわけにはいかんのだ。会議が少し遅れるくらい何だ。外交団が揉めるというのなら勝手に揉めさせておくがいい。責任は全て私が取る。」 またコンソールをつけるピカード。 「…わかりました。」 出ていくトロイ。 ピカードはドアの方を見て、ため息をついた。 報告するウォーフ。「間もなくインドリ星系に入ります。」 ライカー:「艦長、間もなくインドリ8号星に着きます。」 ピカード:『いま行く。』 データ:「惑星の大気が非常に不安定で、激しく変動しています。」 ライカー:「距離を保て。」 作戦室から出てくるピカード。「スクリーンに映せ。」 青い惑星が、茶色く変わっていくのが見える。 ウォーフ:「一種のプラズマ反応が起きて、大気が奪われていっています。」 ピカード:「止められないか。」 「無理です。手がつけられません。」 データ:「このままでは、あらゆる有機体が死滅します。」 インドリ8号星は、すっかり茶色になった。 |
※23: Ruah IV |
ブリッジ。 ライカー:「こんな人も住んでいない、戦略的にも何の重要性もない星の有機体を滅ぼして、一体何の得があるんでしょう。」 ピカード:「証拠隠滅か。教授の残した数字は有機体に関係があるのかもしれんな。」 データ:「…検索範囲を生物学的データベースに限定して、コンピューターでマッチするパターンを探してみては?」 「ラボにいる。」 コンピューターに数字が表示されている。 コンピューター※24:『パターン、マッチしました。』 クラッシャーもコンピューター室にいる。「…内容は?」 コンピューター:『数字の配列は、デオキシリボ核酸の螺旋構造の断片を、数学的に表したものです。』 ピカード:「…DNA の断片か。」 クラッシャー:「19個とも別の星の異なる生命体のものよ。」 「宇宙のあちらこちらから集められている。教授はこれに長い時間を費やしていたんだ。だがなぜ。」 「…ちょっと待って? この 19個の DNA は、よく似たタンパク質の構造をもってるわ。互いに適合するのかも。」 「だが違う星の違う種族の DNA だぞ? 適合するわけないだろ。」 「ええ、でも…塩基対の組み合わせが全く同じよ。もしかしたら…コンピューター、タンパク質の配列に応じて、DNA の断片をつなげてみて。」 全ての DNA が、一定の形になってつながった。 ピカード:「これは何だ。」 クラッシャー:「…見当もつかないわ。」 図を見るラフォージ。「この図形は、自然界にある形ではありませんよ。分子レベルで暗号化した、アルゴリズムの一部です。」 ピカード:「アルゴリズム。つまり DNA を使ってコンピュータープログラムが組まれているのか。」 「ちょっと信じられませんが、これはランダムに並べた図形ではありません。間違いなく、プログラムの一部です。」 クラッシャー:「この DNA は地球に生命が誕生した頃から存在するものよ。ほかのも同じくらい古いわ。40億年以上前に作られたプログラムってことね。」 ピカード:「…つまり、40億年前誰かがこの遺伝物質を生命の海の中に投げ込んだということか。それも地球だけでなく宇宙のあちらこちらの星に。」 データ:「それぞれの星の生命体は、投げ込まれた遺伝情報を取り込んで進化し、DNA を受け継いでいるはずです。」 クラッシャー:「でも一体誰がこんなことをしたの。」 ピカード:「このプログラムの中身は何だ。」 ラフォージ:「わかりません。まだ、欠けている DNA があるんです。連邦のコンピューターに入っている DNA は全部当てはめてみたんですが、マッチするものは見つかりませんでした。」 「では連邦以外の星の DNA だな? データ、クルーの中に連邦以外の出身の者は何人いる。」 データ:「17人です。」 「よし。見込みは少ないかも知れんが、17人全員の DNA を取ってマッチするものがないかどうか調べてくれ。」 クラッシャー:「すぐサンプルの採取を始めます。」 機関室を出ていく。 ラフォージ:「我々以外にも、このプログラムのことを知ってる者がいるはずです。インドリ8号星を襲ったのもそいつらです。DNA を消すためですよ。」 ピカード:「我々にパズルのピースを、与えないためにか。」 うなずくラフォージ。 ピカード:「…40億年も昔に、これほどの技術をもつ高度な文明があったとは。…プログラムの中身が何であるかはわからないが…今世紀最大の発見となるだろう。同時に全人類の脅威にもなりうる。…そのことを教授は…恐れていたんだ。」 ※25作戦室。 パッドを扱っていたクラッシャー。「…どれもマッチしないわ?」 ピカード:「…私も教授の発表した論文を端から当たってみてるんだが…手がかりになりそうなことすら載っていない。どうしたものか。」 「…今日はこのくらいにしましょう? 少し眠って? この続きはまた明日の朝。」 ふとネスコス像の人形を手にしたピカード。「…そうだ、カール星だ。」 クラッシャー:「ん?」 「…なぜわざわざカール星に行ったのか聞いたら教授はこう答えた。…『近くまで行ったんでね?』 何をしに。」 「DNA を集めによ。」 2人ともパッドを操作する。 「…カール星付近に、生物の棲める星は一つしかない。ロレン3号星※26だ。」 「…駄目だわ、教授がもっていた DNA サンプルの中にはロレン3号星のものはないわ。イリディアンに襲われたときに、持ち去られてしまったのかも。」 「データ少佐、ロレン3号星にコースを取れ。ワープ最大だ。」 データ:『了解。』 ため息をつくピカード。 ブリッジ。 データ:「ロレン星系に入ります。」 ライカー:「推力 2分の1、第3惑星の軌道に乗れ。」 ピカード:「ライバルに先回りされている可能性が大だな。ウォーフ、戦闘配置だ。」 ウォーフ:「了解。」 データ:「軌道に入りました。」 ピカード:「スクリーンオン。」 ガロア級戦艦が、2隻映った。 ライカー:「やはり先客がいましたね。カーデシアです。」 ウォーフ:「通信してきました。」 ピカード:「スクリーンへ。」 制服の裾を伸ばす。 女性が映る。『カーデシアのガル・オセット※27だ。名を名乗り、ここにいる理由を明らかにせよ。』 ピカード:「私は惑星連邦のエンタープライズ艦長、ジャン・リュック・ピカードだ。我々がここで何をしていようと答える義務はない。カーデシアの領域ではないのだからな?」 『それはそうだが、この状況でそんなことを言っていいのか? 連邦は宇宙船が 1隻、カーデシアは戦艦が 2隻だ。…私の数え間違いかな。』 微笑むピカード。「いや、当たっている。我々は調査の任務で来ただけだ。目くじらを立てることもあるまい。」 オセット:『調査だけが目的ならば 2、3日先延ばしにしたところで不都合もないだろう。おとなしく引き上げろ。』 ウォーフ:「…艦長、右舷にクリンゴンの船が姿を現しました。…通信が入っています。」 クリンゴン人の通信。『こちらはクリンゴン艦、マター※28だ。ここで何をしている。』 |
※24: 声:磯辺万沙子 ※25: 当初の脚本では、この前にボリアンのモット (Mot) からサンプルを採るシーンがありました。エンサイクロペディアのエピソード項目にも関連としてモットが掲載されていますが、実際には言及もされていません ※26: Loren III ※27: Gul Ocett (リンダ・ソーソン Linda Thorson ドラマ「おしゃれ(秘)探偵」のタラ・キング役) 初の女性カーデシア人。声:吉田理保子 ※28: Maht-H'a I.K.S.マター。吹き替えでは「マター号」 |
ロレン3号星軌道上には、クリンゴンのヴォルチャ級攻撃巡洋艦も到着していた。 『航星日誌、補足。カーデシアのみならず、クリンゴンまでがガレン教授の残したパズルの答えを狙っていた。両者を説得し、艦長同士で話し合いをもつことになった。』 観察ラウンジのピカード。「お互いの目的はもうわかっている。ここは一つ腹を割って、話し合おうではないか。」 オセット:「コロニーを造れそうな惑星を探していただけだ。」 クリンゴン人のニューダック※29。「フン、白々しいことを言うな。」 オセット:「お前こそ何をしていた。」 「科学的調査の任務でね。」 「ハ!」 ピカード:「いつまでもだまし合いを続けていても、前には進めんぞ。ここにいる 3人とも、ガレン教授の研究のことを知っている。…DNA の断片で作られたプログラムのこともな、そうじゃないか?」 何も言わないオセットとニューダック。 ピカード:「否定しないのは、イエスということだな。さて、この中で DNA を全て集め終わってプログラムを完成できた者は誰もいないだろう。ここに、一番乗りしたのは君だ。ロレン3号星のサンプルは手に入れたか。」 オセット:「…手に入れた。それを奪おうというならば容赦なく攻撃するぞ?」 ニューダック:「カーデシアの脅しなど、誰が恐れるものか。」 ピカード:「インドリ8号星のサンプルも君たちのどちらかがもっているな?」 「俺だ。今からあの星に行って、サンプルを採ろうと思ってももう遅いぞ?」 オセット:「それはどういう意味だ?」 ピカード:「サンプルを採った後、あの星の生物を全滅させたのだ。」 「ハー、クリンゴンのやりそうなことだ。盗るものだけ盗って後は破壊する。」 「…このパズルを完成させたくても、皆それぞれがピースが足りない。手の内を見せ合って協力しない限り、プログラムの中身はわからないぞ。」 ニューダック:「中身はわかっている。古代の高度な文明が造った、無敵の最終兵器だ。何があろうと、クリンゴン帝国の敵に渡すわけにはいかん! 同盟国にもな。」 オセット:「兵器だと? イリディアンから聞いた話と違うぞ? あのプログラムは、無限のエネルギーを生む鍵だと言っていた。」 ピカード:「真実は誰にもわからん。完成させてみない限りな。」 「フン、その通りだ。ビスケットの作り方を書いたプログラムかもな。」 ニューダック:「ビスケット? そんなものが欲しいんだったら、この俺様がくれてやる。ビスケットを持っておとなしく帰るんだな…」 「何だと…」 ピカード:「いい加減にしろ※30。黙れ! 永久に謎のままでもいいというのか?」 「…ああ…お前の提案を聞こう。」 「もっているサンプルをエンタープライズに運んでくれ。我々のものと組み合わせる。そして、実験は一同が見ている前で行い全員が同時に結果を見られるようにする。」 ニューダック:「断ると言ったらどうする?」 立ち上がるピカード。「この世紀の発見が、無に帰すのだ。」 プログラムの図が表示されている。 データ:「どうぞ。」 ニューダックはコンピューターに、チップを刺した。図に新たな DNA 構造が加わる。 ニューダック:「なるほどな。」 オセットも同様だ。更に増える。 クラッシャー:「まだ一つ足りないわ?」 ニューダック:「…手の内を明かして無駄に終わったか。」 オセット:「全く目先のことしか見えん奴だな。答えに近づいたではないか。」 ピカード:「その通り、答えまで後一歩だ。」 ニューダック:「どうやって探す。最後の一個がどの星にあるか見当もつかんのに。」 「これはジグソーパズルだ、誰が作って宇宙にピースをばらまいたのかはわからんが、なぜそのピースを隠す場所に我々の DNA を選んだんだと思う。我々にパズルを解いて欲しかったからさ。その論理でいけば彼らは何かヒントを残してくれているはずだ。それを突き止めるんだ、ピースの隠し方に規則性があるのかもしれない。」 クラッシャー:「コンピューターでパターンを見つけ出せるかも。」 「DNA サンプルを採った星の分布の仕方を分析して規則を見つけてくれ。そうすれば最後の一つが割り出せる。ただし星の位置は、40億年前のものを使え。」 「数時間かかりますが早速始めます。失礼。」 「結果が出るまでエンタープライズで待つか?」 ニューダック:「そうさせてもらおう。」 クラッシャーを残し、出ていく一同。 ニューダックはテン・フォワードに入った。ニューダックを見るクルー。 ニューダック:「どうだね、データ少佐。」 データ:「艦長。」 「最後の DNA のありかはわかったか?」 「いま、コンピューターが解析中です。何かわかり次第、私に知らせがきます。」 「ふぬう。少佐、君はずいぶん腕っ節が強いそうだな。クリンゴン帝国でも、かなりの評判だ。ところで、バハット・クルの決闘※31を知っているか?」 「ええ。クリンゴンの儀式や風習は、数多く知っています。」 笑い、両腕をテーブルに立てるニューダック。 データはパッドを置き、その内側に腕を添えた。 クリンゴン語で数えるニューダック。「(1、2、3!)」 データはあっという間に、ニューダックの手を外側に押し倒した。またパッドを読む。 ニューダック:「(さすがだ!)」 ニューダックはデータをつかみ、思いっきり頭突きをした。 鈍い金属音が響き、ニューダックは反動で倒れた。 データ:「…私の首は合金で補強されていますので、強い力がかかっても平気ですし…頭蓋骨は、コルテナイド※32とデュラニウム製です。」 首をかしげる。 ニューダック:「うーん…。」 うなり、立ち上がった。今度は笑って両手を掲げる。「…気に入ったぞ、少佐。腕力も素晴らしいが、頭脳の方もずば抜けてるそうだな? …いいか? もしコンピューターの分析結果をほかの者より早く知ることができれば、クリンゴン帝国は…どこよりも優位に立てるのだ。お前ほどの能力がある者なら、帝国で出世させてやるぞう?」 「…買収のつもりですか?」 周りを見るニューダック。「…とんでもない。」 データ:「でもあなたは、自分に有利にことが運ぶように私にそれとなくもちかけて、報酬の話もしました。これは明らかに…」 「少佐! 忘れてくれ。」 パッドを読み続けるデータ。ニューダックは出ていく。 機関室のラフォージ。音に気づいた。「何だ?」 コンソールを操作する。「コンピューター、メイン防御システムを検査しろ。レベル3 だ。……ラフォージからピカード艦長。」 ピカード:『何だジョーディ。』 「こちらに来ていただけますか。艦長にお見せしたいものがあります。」 コンピューター室。 データ:「パターンの分析が終わりました。」 クラッシャー:「…DNA サンプルを採った星の分布状況から、一定パターンを割り出しました。」 螺旋状に線が描かれる。「コンピューター、欠けている部分をつなげて表示して?」 指さす。「最後の一つは、この星系のどこかにあるはずです。」 データ:「場所は、セクター21459※33。ラミザド星系※34です。」 音が響いた。オセットが転送※35されていく。 うなるニューダック。 いきなりカーデシア艦が攻撃を始め、マターを狙う。 エンタープライズにもディスラプターが注がれる。 |
※29: Nu'Daq (ジョン・コスラン・ジュニア John Cothran Jr. DS9第43話 "Crossover" 「二人のキラ」のテロック (Telok)、ENT第59話 "The Shipment" 「兵器工場潜入」のグレイリック・ダール (Gralik Durr)、ゲーム「スタートレック・ボーグ」のドクター・ベニントン・ビラカ役。"Klingon" でも声の出演) 名前は訳出されていません。声:立木文彦、DS9 コール、VOY カラ、叛乱 ガラティンなど ※30: 原語ではクリンゴン語の「メヴ・ヤップ」(mev yap=やめろ) ※31: B'ahat Qul challenge ※32: cortenide ※33: Sector 21459 ※34: Rahm-Izad system ※35: カーデシアの転送効果が使われるのは、TNG では初めて |
攻撃を続けるガロア級戦艦。 ウォーフ:「左舷を直撃されました。…敵は次の攻撃準備をしています。」 ライカー:「慣性制動装置を切って、やられた振りをしろ。」 操舵士官:「了解。」 ウォーフ:「…撃ってきました。」 揺れるブリッジ。 カーデシア艦は攻撃しながら去っていった。漂うエンタープライズとマター。 ブリッジに戻るピカード。「報告してくれ。」 ライカー:「被害はありません。慣性制動装置をオフにして、防御スクリーンが故障しているように見せかけています。」 ニューダック:「カーデシアに防御システムを細工されていたそうだが、ラフォージが早めに見つけて助かったな。…マター※28、被害は。」 クリンゴン人:『現在、エンジンの損傷を修復中。一時間以内に発進できると思います。』 「何だと! 何をグズグズしておる! 遅れを取るわけにはいかんのだ!」 ウォーフ:「カーデシアはラミザド星系を目指しています。」 ピカード:「放っておけ、まんまとこちらの思う壺にはまってくれたな。艦長。よければ御一緒に。」 ニューダック:「…そうするか。」 「少尉、ヴィルモラン星系※36にコースをセットしろ。ワープ9 だ。」 操舵士官:「了解。」 「発進。」 ワープに入るエンタープライズ。 報告するデータ。「ここには 7つの惑星がありますが、生物が棲める環境ではありません。」 ライカー:「そりゃおかしい、何かいるはずだ。」 「訂正します。第2惑星に海があったようです。干上がっていますが。」 ラフォージ:「じゃあ、生命体は?」 「今も、いるかもしれない。だが、長距離センサーで探知するのは不可能と思われます。」 ライカー:「推力全開で接近しろ。ライカーから転送室。第2惑星に生物がいる可能性があります。確認します。」 転送室に来たピカード。「カーデシアの気配は。」 ライカー:『今のところありませんが、安心はできません。』 「わかった。」 ニューダックも転送台に立つ。 データ:「海底だった場所に、植物を発見しました。わずかですが原始的なコケ類が生育しています。」 ライカー:「転送室へ。これより転送座標をセットする。スタンバイ。」 エンタープライズは惑星軌道上にいる。 地表に転送されるピカードたち。辺りは岩場だ。 トリコーダーを使うクラッシャー。「あったわ、向こうよ。」 登っていく一行。 ライカー:『カーデシアがやってきました、急いで下さい。』 ピカード:「転送をスタンバイして待て。」 その先に、オセットたちカーデシア人が転送されてきた。 ディスラプターを向けるニューダック。「汚い手を使ったな?」 オセット:「それはこちらのセリフだが今はののしり合ってる暇はない。」 声が聞こえた。「そこまでだ。」 銃を持ったロミュラン※37が、何人も出てきた。「面白いものを、見させてもらったよ。」 ニューダック:「どうして!」 ロミュラン:「カーデシアとイリディアンの通信を傍受させてもらった。教授のシャトルを襲ったイリディアンを消したのも私達だ。」 ウォーフ:「ずっとつけていたのか。姿を消して。」 「…その甲斐があったよ。どいてもらおうか。」 ディスラプターを岩場に向けるオセット。「あの岩ごと破壊して DNA のかけらも残らないように吹き飛ばしてやる。…手ぶらでロミュラン星に帰るがいい。お前の上官もさぞ喜ぶだろう。」 ロミュラン:「この際取引をしようではないか。DNA をよこせば…」 クラッシャーに小声で話すピカード。「この場所は、元は海底だったところだ。岩が有機体を含んでいるかもしれん。」 クラッシャー:「なら DNA が採れるわね。」 話し続けるニューダック。「…最初に我々クリンゴンが目をつけたのだ。横取りされてたまるか。」 ロミュラン:「邪魔するなら今ここで殺してやる。さあどうする。」 オセット:「取引に応じれば、殺さないという保証があるのか。」 「誓ってやってもいい。」 ニューダック:「お前の誓いなど信じられるか、だまされんぞ! 俺の命に代えてもそんな取引はさせん!」 密かに岩の一部を削るクラッシャー。 ロミュラン:「黙れ! お前の命などいつでも奪ってやれるのだぞ?」 ウォーフ:「一人が撃てば一斉に撃ち合いになり死人が増えるだけだ。」 「数では我々が勝っている…」 トリコーダーにサンプル容器を近づけたピカード。「プログラムが完成したぞ。トリコーダーの中で作動している。」 ニューダック:「…死ぬときは道連れにしてやる。一人残らずな。」 「何かのホログラム映像を出すプログラムのようだな。」 トリコーダーから光が発せられ、前方に映像を形作っていく。 白い服を着た異星人※38だ。 目を見張る一同。 話し出す異星人。『私が何者か、不思議に思っていることでしょう。今あなた方が目にしているのは…遥か昔の、映像なのです。この銀河でどこよりも早く、進化を遂げたのが私達の種族です。宇宙を旅し、星々を探検しましたが似た種族には巡り会いませんでした。…我々の文明は長く栄えました。でも一種族の命など、宇宙の悠久の時に比べればはかないもの。いつかは滅びるときがきて、我々の存在は忘れ去られる。だから、あなた方を残したのです。まだ幼い生命体しか存在しないいくつかの星に、命の種を蒔きました。その種が、進化の道しるべとなり私達に似た種族を生むでしょう。この身体を、かたどって…あなた方の身体は、作られているのです。私の子孫たちよ。私達は命の種にメッセージを込めて、宇宙のあちらこちらに散りばめておきました。このメッセージを、いつか子孫たちが力を合わせて探し当ててくれることを心から祈りながら。そして今あなた方は、探し当てた。願いは叶えられました。あなたたちの存在こそが、かつて私達が存在したという…その証なのです。この宇宙に誕生した、新しい命よ。いつまでも…私達を忘れないでいて下さい。…私はあなた方の中に、いるのです。ここにいる、あなた方は…兄弟なのです。どうか忘れないで。』 映像は消えた。 ニューダック:「これだけか! 人を騒がせておいて、ふざけるな!」 オセット:「とんでもない話だ。カーデシアとクリンゴンが兄弟などと、考えただけでゾッとする。」 ピカード:「エンタープライズへ。」 ライカー:『転送します。』 『航星日誌、宇宙暦 46735.2。ここ数日でワープエンジンを酷使したために、推進システムに負担がかかりすぎた。連邦の領域に戻る前に修理を済ませなければならない。』 エンタープライズ。 クラッシャー:「ガレン教授にあの映像を見せてあげたかったわね。」 ピカード:「長年の研究が、実を結んだのにな。」 「でもあの発見は、あなたがいなかったらきっと謎のまま終わったわ? …教授も喜んでくれてるわよ。」 「…だがあのメッセージの重みがほかの連中には伝わらなかったのが残念でならんよ。」 「…それはどうかしら。」 「ふーん。」 「さてと…そろそろ仕事に取りかからないと?」 「私もだ。」 「じゃ、また後で。」 ピカードの部屋を出ていくクラッシャー。 通信が入る。『ライカーから艦長。ロミュランの艦長から通信が入ってます。どうします。』 ブリッジに流れるピカードの声。『つないでくれ。』 ライカー:「了解。」 ロミュランの通信。『艦長、我々はこれよりロミュランの領域へ戻る。』 コンピューターに映っている。『…挨拶しておこうと思ってな。』 ピカード:「…どうも?」 『我々にも少しは、共通するところがあったようだな。目指すところや、恐れるものも似ている。』 「…そうだな。」 『ではいつかは、わかり合う日が…くるのだろうか。』 ピカードは微笑んだ。「いつかな?」 ロミュランはうなずき、通信が終わった。 ピカードは、ネスコス像の人形を握り締めた。 |
※36: Vilmoran System エンサイクロペディアでは、該当の惑星はヴィルモル2号星 (Vilmor II) として掲載されています ※37: ロミュラン艦長 Romulan Captain (モーリス・ローヴェス Maurice Roeves) 声:秋元羊介 ※38: ヒューマノイド Humanoid (サロメ・ジェンス Salome Jens DS9第47・48話 "The Search, Part I and II" 「ドミニオンの野望(前)(後)」などの創設者のリーダー=女性流動体生物 (Female Shapeshifter) 役。ゲーム "Hidden Evil" でも声の出演) 声はコンピューター役の磯辺さんが兼任 |
感想など
なぜスタートレックに出てくる異星人は、地球人に似通ったヒューマノイドばかりなのか。ある意味タブーな疑問をあまりにも壮大な設定で正史として理由づけた、第6シーズン 2度目のフレイクス監督話です。初めて一堂に会する 4種族は、それぞれ特徴的に描かれていますね。間延びせずに謎に引き込まれるという点も含め、こういう話は初心者の方にも勧めやすいかもしれません。当初はヴァルカン人やフェレンギ人も関係する予定でした。 種まき種族としては保存者という設定が TOS "The Paradise Syndrome" 「小惑星衝突コース接近中」で導入されていますが、共同脚本のロナルド・ムーアはあえて関連づけていません。穏やかな元祖ヒューマノイドを演じた女優は、後にドミニオンの創設者として DS9 でサブレギュラーになります。それにクリンゴン人の艦長役は、日本語版も出たゲーム「ST ボーグ」で男性のカウンセラーを演じてますね。 |