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ディープスペースナイン エピソードガイド
第44話「密告者」
The Collaborator

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・イントロダクション
プロムナードのベイジョー神殿から出てくる、ヴェデク・バライル※1
辺りには誰もいない。
ふいに何かが前に現れた。どうやらベイジョー人僧侶の、首つり死体のようだ。上からぶら下がっている。
モニターの映像が乱れている。
片隅で身軽な服装をしたキラが、ボールを打った。壁に向けて何度も打ち返し、独りでスプリングボール※2を楽しむ。
呼びかけるバライル。「ネリス。」
キラ:「あらバライル。あなたもやる?」
死体を見たバライル。「助けてくれ。…頼む。」
キラ:「…いいわよ。」 2階へ上がった。
手すりにつけられているロープをナイフで切る。床に落ちる死体。
キラ:「誰だった?」
穏やかな顔で死んでいる男。
バライル:「プライラー・ベク※3だ。」
キラ:「いいえ違うわ。」
もう一度見ると、死体の顔がバライルになっていた。
キラ:「それはあなた。」

バライルは現実に戻った。
寺院の中で、発光体の箱を閉じる。


※1: Vedek Bareil
(フィリップ・アングリム Philip Anglim) DS9第36話 "Shadowplay" 「幻影の村」以来の登場。声:安井邦彦

※2: springball
DS9 "Shadowplay" より

※3: Prylar Bek
(トム・ヴィラード Tom Villard) 予告 CM 製作者、Don Beck にちなんで。声:梅津秀行

・本編
DS9 にはベイジョー船が係留している。
上半身裸のバライル。外を見つめている。
キラ:「おはよう。」 後ろから抱きつく。
バライル:「…昼まで寝てるかと思ったよ。」
「うーん。シー。緊張することないわ?」
「ああ、緊張なんかしていないよ。」
「そう…。」
「今朝の御機嫌は、どうだい?」
「ああ、悲しいわ? …このままずっと一緒にいられればいいのに。」
「それじゃあ、2、3日…予定を延ばそうか。」
笑うキラ。「あなたそんな暇ないでしょ…」
バライル:「何でだ?」
「だって後 2日すれば、あなたは…カイに選ばれるんだもの。」
「ん? ああ、そのことか。…私が選ばれるとは限らないよ…」
「いいえ、あなたが勝つわ。カイはあなたよ。」
キスする 2人。
バライル:「君も、私に入れてくれる?」
キラ:「…ハッハー。だからこの 3日間私と一緒にいてくれたわけ? ねえ。私の、票目当てなの?」
「だって君は私の、主張をよくけなすだろ? だから、君に支持してもらえるように、今日会いに来たのさ。」
「…ヴェデク・トリーナ※4に投票する気だったけど。…でもね? あなたの説得次第で気は変わるものよ?」
また口づけするバライル。「よかった。君の一票が、私には重要だからね。」
キラ:「…そりゃあ確かに、預言に対するあなたの解釈には時々賛成できない時もあるけど…カイにはあなたが一番ふさわしいわ。…それに、カイ・オパカが後継者にあなたを選ぼうとしていたことはみんな知ってることよ?」
「……私などとても及ばないよ。占領時代を乗り切れたのはオパカがいたからこそだ。」
「あなたがカイになったら、もうこんな風に会えなくなるわね。」
「そんなことはない。どんなに忙しくなっても…君と会う時間は絶対作るよ。」
「でもそんな簡単には…」
「そりゃあ簡単じゃないさ。でも、君を離したりしないよ。それだけは約束する。」

プロムナード。
ヴェデク・ウィン※5がベイジョー人の子供たちに話している。「みんないいわね? 預言者を敬えば、必ず守って下さいます。さあ。」 歩いていく子供。
キラと歩いてくるバライル。「教典※6によれば、預言者の愛にはそのような条件はなかったはずです。預言者の愛は無償のものだ。」
ウィン:「どうもありがとう、バライル。教典がいかに間違った解釈をされがちなものか、身をもって教えて下さって。」
「あなたの解釈とは違う解釈もあることを知っていただきたかったのですよ、ウィン。」
「私達の解釈はいつも違いますね? ステーションにいらしてたなんて知らなかったわ? でも別に驚くようなことでもないわね?」
「何も驚くことはないでしょう。あなたはこの数週間、私の行動に逐一目を光らせているじゃありませんか。」
「ベイジョーの全国民の視線があなたに注がれているんですよ? 私とてその一人です。みんな次のカイに選ばれるのは、あなただって思っているようですからねバライル。」
キラ:「それは敗北宣言ですか?」
「まさか。選挙まで後 2日あります。まだ大逆転があるかもしれませんよ? それを忘れないようにね? 自分が必ず勝つなんて決めてかからないで。」
「ところでステーションに何の御用ですか?」
「キラ少佐。預言者たちから訪問をあなたに知らせておけと言われたなら、ちゃんと前もってお知らせしていますよ。」
「あなたがステーションに来ているなら…保安チーフのオドーに命じてステーションの警備を厳しくしてもらわないと。」
「そんな必要はありません。私の安全ならいいのよ?」
「心配なのは、あなたの身の安全じゃないわ。」
「それは一体どういう意味なんですか、キラ少佐?」
バライル:「いや別に悪い意味ではないと思いますよ?」
キラ:「…ええ、とんでもない。…ただあなたがこの前いらした時のような騒動はもう御免ですから。」
ウィン:「キラ少佐。バライルが殺されかけたあの事件のことを、あなたは今でも私のせいだと思っているんですね? 悲しいけれど私には祈るしかできない。いつの日か、あなたのその誤解が解けてくれますように。」
「その祈りが叶えられることは永遠にないわ。」
「残念ですねえ、お互いにとって。」

プロムナードで杖をついて歩いているベイジョー人の老人。
通りがかりに別のベイジョー人※7がぶつかった。「ああ、どうもすいません。」
立ち止まり、老人を振り返る男。追いかける。
ベイジョー人:「ああ、失礼ですが前にどこかで。」
老人:「人違いでしょう。」
「いや。あんたの顔には見覚えがある。クバスだ、そうだろう。クバス・オーク※8。カーデシアに協力してた。」 ベイジョー人が集まってくる。
クバス:「離してくれ!」
「おいちょっと待てよ。逃げようたってそうはいかない。カーデシアの手先として、散々ひどいことをしたくせに。裏切り者め。こいつはクバス・オークだ! 裏切り者だ! カーデシアに協力してたんだ。」
やってくるオドー。「何の騒ぎだ。」
ベイジョー人:「自分で見て下さいよ。」
「…こりゃクバス長官。カーデシアにお住まいだとばかり思ってましたが。」
クバス:「そろそろ故郷 (くに) に戻りたくなってな。」
「お帰りなさい。あなたを逮捕します。」
連行されるクバスを、ウィンが見ていた。


※4: Vedek Tolena

※5: Winn
(ルイーズ・フレッチャー Louise Fletcher) DS9第23話 "The Siege" 「帰ってきた英雄 パート3」以来の登場。声:沢田敏子、前回は棚田恵美子さん、その前 (初登場時) は沢田さん。この後第3〜5シーズンは片岡富枝さんが担当しますが、残りの第6・7シーズンは再び沢田さんに戻ります

※6: Sacred Texts

※7: 名前は Eblan (チャールズ・パークス Charles Parks) ですが、言及されていません。「エブラン」としている日本語資料もあります。声:仲野裕、DS9 Gelnon、ヴェラルなど

※8: Kubus Oak
(バート・レムセン Bert Remsen 1999年4月に死去) 長官=Secretary。声:石森達幸

ビジョンの中で、バライルは新たな服を着ている。
他のヴェデクと共に並んでいるウィン。「お告げがありました。新しいカイに皆の祝福を。」
一同:「カイを祝福いたします。預言者のお導きあれ。」
突然、そばで光り輝くものがある。
歩いてきたのは、カイ・オパカ※9だった。
バライル:「カイ・オパカ。」
オパカ:「心安らかにおいでなさい。あなたは今よりなお一層強くならなければなりません。」
「なぜ私達をおいて。」
「全ては預言者たちの御心のままに。いずれわかります。…おいでなさい?」
ウィン:「バライル、気をつけて? カイ・オパカの歩く道はとても狭いわ? 転んだりしないように。」
「そう、気をつけて。」
バライル:「しかし私ごときに、そんな資格はありません。」
「おいでなさい? あなたの定めです。」
歩き出すバライル。
前から箱を持ったベイジョー人がやってきた。
バライル:「プライラー・ベク。」
ベク:「預言者たちから、あなたに贈り物です。」
箱を開けるバライル。
中には、今にも噛みつこうとするヘビが入っていた。驚くバライル。
オパカ:「贈り物を断ってはなりません。」
手を伸ばすバライル。
オパカ:「お受け取りなさい。毒があなたを強くします。」
バライルが取り出すと、それは首つり用のロープだった。

現実に戻り、発光体の箱を閉じるバライル。

DS9。
クバスは独房のベッドに座っている。
やってくるオドー。「あなたのおかげで大騒ぎでしたよ。…集まった群衆を散らすのに一苦労しました。」
クバス:「君ならたとえどんな事態になっても収拾できるだろうよ。昔から仕事ぶりは完璧だった。」
「そりゃあなたもでしょ。ところでクバス長官、あなたはカーデシア占領軍とベイジョー政府の間を、そりゃあ上手く泳いでいましたっけねえ?」
「それは違う、私はベイジョー政府の一員として働いていただけだ。」
「カーデシアから認知された政府のね?」
「しかし我々がいなければベイジョーの状態は、十倍は悲惨なものになっていただろう。」
「さてね? 何でそんなことがわかるんです? あなたはいつもステーションにいてベイジョーには降りなかった。ガル・デュカットが言ってましたよ? クバスは大のお気に入りのベイジョー人だってね?」
「そうかね? 私はあんな傲慢な奴は大っ嫌いだった!」
「とてもそうは見えませんでしたけど。」
「それは生きていくためだ。…ベイジョーは私の祖国だ。…帰ってきて何が悪い。」
キラ:「何よ今更。一度捨てたのに舞い戻ってくるなんて。」 拘束室に来た。
オドー:「こちらキラ少佐です、ステーションのベイジョー側責任者です。」
クバス:「そうか、じゃ君に話をすればいいんだな?」
キラ:「手短にね? 裏切り者と話をするのは不愉快なのよ。」
「君に好かれようとは思っていない。ただ祖国へ戻る許可を出して欲しいだけだ。」
「そんな許可は出せないわ?」
「君に今ここでそれを決める権限があるのかね?」
「権限も何もとっくに決まったことよ? イルヴィアン宣言※10が出た時。カーデシア占領政府※11に参加していたベイジョー人は、一人残らず追放処分になった。あなたの名前はリストの 4番目に載ってるわ。本来なら、追放じゃ甘すぎるけどね。」 外へ向かうキラ。
「少佐! …私はもう年だ、先もそう長くない。死ぬ時は祖国で死にたいと思って戻ってきたんだ。」
「カーデシアがベイジョー人を徴用して鉱山で働かせようとした時…それに同意したのは、誰だったかしら。」
「当時のベイジョー政府だ。」
「命令を出す時、書類にサインしたのは一体誰だった?」
「…私だ。」
「わかってたはずよ? 鉱山送りは死刑の宣告と同じ。あなた一度でも、サインを拒否した?」
「…いや。」
「ならわかるでしょ。自分がなぜベイジョーに二度と足を踏み入れられないかが。もし許せば…あなたの手で死に追いやられた人々の魂は、決して浮かばれないわ。」
うめくクバス。キラは出ていく。

ウィンは司令官室に入った。
振り向くシスコ。「ヴェデク・ウィン。何か御用ですか。」
ウィン:「司令官※12。…最近気づいたのですけれどベイジョーの民衆の間には、私達の関係は良くないという噂が流れているらしいのです。」
「…そうですか。」
「もちろんそのような噂は事実とは全くかけ離れていますが、放ってはおけません。」
「でも火のないところに煙は立たないと言います。噂にも真実が含まれている時がありますからねえ。」
「何ということをおっしゃるの? まさか司令官、あなたまで私達の関係は…あ、何て言えばいいのかしら。」
「敵ですか?」
「…言い過ぎですよ。」
「どうですかね。…ところで、なぜ敵と申し上げたかおわかりになりますか。この前あなたはステーションにいらした時私に向かってこうおっしゃった。私はベイジョーを破壊しに来た者。ベイジョーにとっては危険な存在だってね。」
「それは本意ではありません。私が本当に言いたかったのは、あなたは私達の信仰を試すために預言者たちによって送られたということなんです。」
「ということはつまり、もう連邦をベイジョーの敵とはみなしていないということですね。」
「確かにベイジョーが連邦に参加することに対して、私は諸手を挙げて…賛成したわけではありません。でも今は、長い目で見るならば連邦の存在が、私達の安全と発展には必要だとそう思っています。」
「ではベイジョーが連邦に参加することには賛成なんですね?」
「それが預言者たちの意思なら、私に逆らう理由はありません。」
「それは嬉しいですねえ。今の発言を是非、国民の前でもしていただけるとありがたいが。」
「司令官、あなたが喜んで下さると私も嬉しく思います。…どうでしょう、一緒にヴェデク議会においでいただけませんか。私達の和解を知れば、みんなも喜びますから。」
「素晴らしい考えですね。それでは、来週うかがいましょう。」
「なぜ来週まで待つんです。今すぐにでも議会が集会を開いてくれますわ?」
「ええ、そうでしょうね。ただ選挙前に、私があなたと公的に姿を見せることは、私があなたを次のカイとして認めているという印象を与えかねませんからね。」
「まあ。そんな御心配はいりません。あなたがバライルを支持しているのは周知の事実。でも嬉しいことに、あなたは今まで公には何一つそういう発言をしていらっしゃらないけれど。」
「ええ、カイの選挙は百パーセントベイジョーの内政問題ですから。連邦士官としては干渉することは許されません。」
「そういうところはさすが司令官ねえ。」
「では、よろしく御願いします、来週ヴェデク議会にうかがいますのでね。」
「楽しみにしております。」 出ていくウィン。

自室のキラに、通信が入る。『オドーよりキラ少佐。』
キラ:「…こちらキラ。」
『こんな時間にすみません。でも、クバスがベイジョーへ向かうようなのでお知らせしておこうと。』
「…誰が許可したの。」

保安室のオドー。「ヴェデク・ウィンが身元を引き受けたんです。」
キラ:『すぐ行くわ。』

連絡するキラ。「キラより司令室。」
ダックス:『司令室。』
「ダックス、ウィンの船はもう出ちゃった?」

ダックス:「いいえ、いま発進許可を出すところ。」
キラ:『まだクランプを開けないで。私がいいって言うまでは船を出さないでちょうだい。わかったわね。』
「了解。」

ターボリフトを降り、保安室に入るキラ。「一体どういうことなの?」
オドー:「クバスがヴェデク・ウィンと面会したいと言い出したんです。ウィンは 10分ほど話し込んだ後コンピューターを貸してくれと言ってきて、何か昔の記録にアクセスしてたようですけどね。」
「それで?」
「その後ベイジョー政府を呼び出して、自分が身元引受人になるからクバスの帰国を許可しろと。」
「……何を企んでるかわかる。」
「それを今調べてるんじゃないですか。」
モニターにベクの写真が出た。
オドー:「ああ。」
キラ:「これはプライラー・ベクだわ。クバスといいベクといい、なぜカーデシアへの密通者ばかり。」
「わかりませんが…でもベクとクバスは、知り合いのはずです。ベクはカーデシア占領軍とヴェデク議会とのパイプ役だったんです。クバスが政府の長官だった頃と時期は同じです。ステーションでもよく一緒のところを見ましたよ。」
「ちょっと待ってよ。ウィンがケンドラ大虐殺※13についてアクセスしたかどうか調べてみて。」
「…ええ、大当たりですよ。クバスが大虐殺の新真実を知ってたんでしょうか。」
「十分ありえるわ。あの事件はベクがカーデシアに、レジスタンスの基地のありかを密告したため、カイ・オパカの息子と 42人※14が殺されたのよ? …そしてベクは全てを遺書に書いて自殺した。あなただってその遺書は読んだはずでしょ?」
ウィンがやってきた。「キラ少佐。お話があるんですが。」
キラ:「もちろんです。」 出ていく。

歩きながら話すウィン。「私の船を足止めさせているのはあなただそうですね。」
キラ:「ええそうです。ヴェデクたるあなたがクバスみたいな裏切り者を助けるなんてなぜですか? それとも助けると、何かメリットがあるとか。」
「そんなことあなたには関係のないことでしょ。とにかく私の船が、すぐに発進できるよう許可して下さい。」 歩いていこうとするウィン。
「ええ、あなたはいつ出発なさってもかまいません。でも残念ながら、クバスに対する国民の感情を思えば、クバスの乗った船をそのまま出すわけにはいきません。徹底的に検査をしてからでないと危険です。破壊工作の恐れがありますから、分子レベルまでスキャンしてからでなければ許可できません。」
「…スキャンにはどれぐらい時間がかかるの?」
「はっきりとは言えませんが何日かはかかりますね。何週間かも。」
今度はウィンが呼び止めた。「わかりました。預言者たちはあなたがこの一件に関わることをお望みのようです。…クバスは帰国が認められれば、ケンドラ大虐殺の責任を負うべき人間の名前を我々に明らかにすると言うのです。」
キラ:「大虐殺を引き起こしたのはプライラー・ベクでしょ、何を今更。」
「いいえベクはただの、使い走りに過ぎません。彼は真の密告者の代わりとなって自殺したのですよ。」
「真の密告者。」
「ベクの上司です。その者こそカーデシアに、レジスタンスの基地のありかを密告しろと言いつけた張本人。ケンドラ大虐殺の責任を負うべき人間は、ヴェデク・バライルです。」


※9: Kai Opaka
(カミール・サヴィオラ Camille Saviola) DS9第13話 "Battle Lines" 「戦慄のガンマ宇宙域」以来の登場。声:竹口安芸子

※10: Ilvian Proclamation
都市イルヴィア (Ilvia) は DS9第5話 "Babel" 「恐怖のウイルス」、第108話 "Rapture" 「預言者シスコ」など。DS9 美術監督、Randy McIlvain にちなんでかも

※11: Cardassian occupational government

※12: 原語では全て「選ばれし者」と呼びかけています

※13: 正確には「ケンドラ谷の大虐殺 (Kendra Valley massacre)」

※14: 吹き替えでは「息子を含む 42人」

キラは言った。「まさかそんなでっちあげまでもち出すとはね。…それに、クバスみたいな裏切り者の言うことなんか誰も信じませんよ。」
ウィン:「私だって信じたわけではないわ? ただベイジョーの信仰のよりどころを守ろうとしているだけです。」
「殊勝な振りはよして。あなたはただ権力が欲しいだけじゃないの。」
「何を言うの。次のカイにカーデシアへの密告者を選んだりしたら一体どうなると思います。」
「彼は密告者なんかじゃありません。」
「それはまだわかりませんよ。バライルが選ばれて、実は密告者だとわかったら…ベイジョーの人々の動揺はそれこそ計りしれません。カイに寄せる信頼も揺らいでしまうことでしょう。でもカイなくしては、ベイジョーは生き延びていけないのですよ。」
「でも、証拠もないのにバライルを糾弾できません。」
「そんな気はありません。ベイジョーに戻ったら、極秘に調査を進めようと思っていたのだけれど…こういう微妙な問題を誰に頼もうかと悩んでいたのよ。今までずっとね?」
「私にその調査をやれって言うんですね。」
「私は真実が知りたいだけ。あなたはそのために、預言者たちに遣わされたのでしょ?」
「真実は探り出します、ご心配なく。だからクバスの証言はまだ公にしないで伏せておいてくれませんか? バライルの無実は私が証明してみてます。」
「ええ、わかりました。預言者にかけて約束しましょう。…でもバライルの罪が明らかになったら…」
「真実がどちらであっても、必ず知らせます。」
「ああ…それでは決まりですね? ああキラ少佐、最後に一つだけ。あなたが混乱しているのはわかるけど、もっと賢くなって。私に向かってそういう生意気な口は聞かないようにすることです。」 歩いていくウィン。

貨物室。
キラ:「プライラー・ベクが密告者だって当時も知っていたの?」
クバス:「ベクは密告者じゃない、ただのパイプ役だ。カーデシアと、ヴェデク議会とのな? 今から思えば、ケンドラ大虐殺の何週間か前から様子がおかしかった。すごく神経質になってて、ヴェデク議会と頻繁に連絡を取っていた。」 ウィンも話を聞いている。
「相手はわかる?」
「いや、その時は。しかし虐殺の起きた翌日バライルがステーションに、ベクを訪ねてきたんだ。」
「2人が一緒のところを見たの?」
「バライルがベクの部屋に入っていくのを見たのさ。私の部屋の近くだったんでね? バライルは 2時間ほどいたが、その間時々怒鳴り合う声が聞こえてきたな。」
ウィン:「何て言ったか覚えてる?」
「いや。でもステーションから帰る時のバライルは…すごく慌てていた。次の日の朝、ベクは首を吊ったんだ。」
笑うキラ。「ねえ、証言ってたったそれだけなの?」
クバス:「これだけで十分じゃないか、ベクはバライルの命令で動いていたんだ。だが自分のしたことの恐ろしさに気がついて、罪を告白しようとしたんだ。だがバライルにそれを止められて、苦悩のあまり自殺を選んだのさ。」
「もっともな御説ですけどただの推測にしか過ぎないわ? なぜバライルがベクを訪ねてきたか、理由は何通りも考えられるじゃない。」
ウィン:「本当の理由は何だったのか突き止めるのがあなたの仕事でしょ?」

コンソールに映っているバライルは笑った。『一体それはどういう意味なんだ、ネリス。』
上着を脱いでいるキラ。「…ああ…私が、聞きたいのは…その日あなたがベクに会いに来たかどうかってことなの。」
バライル:『…確かに会いに行ったよ? だが私は密告者じゃない。』
「ええ、わかってるわ? でもウィンがあなたを疑ってるのよ。」
『ああ、しょうがないな。カイになりたいがあまり目がくらんでしまっているんだろうね。』
「そんなのんきなこと言って、ウィンはあなたを破滅させようとしてるのよ?」
『大丈夫だよ、何も君がそんなに心配することはない。…私は虐殺とは無関係だ。ウィンがどうがんばっても証明できるはずはない。』
「わかったわ。でも…なぜあなたがベクに会いに来たのか教えて欲しいの。」
『…ベクは自分のしたことが招いた結果に耐えられなかったんだよ。ケンドラのレジスタンス基地のありかを密告したことを悔いて、必死で私に助けを求めてきたんだ。だが私の力が足りずに。』
「ベクからどんなことを聞いたの?」
『いやそれは話せない。懺悔で聞いたことを他言すれば、ヴェデクへの信頼を裏切ることになる。』
「ええ、それはそうね? …でも何かほかに、ベクや虐殺について証言できることはない?」
『何を言っても、ウィンには無駄だろう。』
「…わかったわ。私が調べてみる。…でもあなたの無実は、私が必ずウィンに納得させてみせるわ?」
『ありがとう、ネリス。』 通信は終わった。

保安室。
オドー:「ああ、思った通りだ。カーデシアが撤退する時ステーションとベイジョーとの通信の記録は全て消し去ってますよ。」
キラ:「じゃあベイジョー側の記録を調べるしかないわね。」
「ベイジョーの公文書記録センター※15のコンピューターに接続して、ヴェデク議会のファイルにアクセスしてみましょう。……大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。」
「顔色が悪いですよ。」
「何でもないわ?」
「…本人が、そうおっしゃるなら。」
「…彼はやってないと言ってる。もちろん私も信じてるわ?」
「でももしもが怖いんでしょ?」
「…彼を愛してるのよ。」
オドーはキラを見た。「そうですか。…そりゃ…いやあ…。」
キラ:「…何よ。」
「いやあ、以前からいつ自覚するのかなって思ってたんで。人間ってのは、こと恋愛になると途端に鈍感になるもんです。ああ、ヴェデク議会のファイルが出ました。」
「ステーションとヴェデク議会との通信ファイルを復活できそう?」
「いつ頃のものです?」
「ああ、ケンドラ大虐殺が起きる前の一週間。」
「…おかしいな。」
「何が?」
「その週に交わされたベクと議会のメンバーとの通信は全てアクセス禁止になってます。」
「誰が禁止したの?」
「わかりませんね、機密事項扱いになってますけど。」
「議会の機密が? そんな権限があるのは誰?」
「…ヴェデクだけです。」


※15: ベイジョー中央公文書館 Bajoran Central Archives

クワークは何かを数えている。「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10! わかったわかった。11。…あー12、13、14。」 ダボ・ガールにラチナムを渡していた。
笑い、クワークの頭にキスするダボ・ガール。店を出て行く。
クワーク:「上乗せなんかしないぞ。給料日は嫌いだ!」
キラと一緒に来た、オドーの咳払いに驚くクワーク。
ラチナムの箱を抱える。「何のことか知らんが俺はやってねえ。」
オドー:「落ち着けよ、クワーク。何も尋問しに来たわけじゃない。」
「ああ。今日はツイてねえな。」
キラ:「そんなに身構えなくたって。」
「しょうがないだろ、あんたらの顔を見るとつい不安になるんだよう。」
「それは可哀想に。」
「…わかったよ、何の用なんだ。……何かやらせようってんだな?」
「よくわかったわね。」
オドー:「わかりますよ、私達が来てから一分以上経つのに脅されもしなけりゃ捕まりもしないからですよ。」
クワーク:「その通り。で、何の用なんだ。言っとくけどトラブルは御免だぜ。」
キラ:「大丈夫、アクセス禁止になってる機密ファイルを呼び出して欲しいだけだから。」
「ああ…それ違法じゃねえの?」
オドー:「お前の言うことかよ。」
キラ:「これは大事なことなの。ヴェデク議会の記録に含まれている通信ファイルが見たいのよ。」
クワーク:「いやはや違法な上に相手は聖職者かい?」
「今回だけは預言者たちも大目に見て下さるわよ。」
「わかった、でもキラ少佐の命令だってことを一筆書いてもらいたいねえ、それから…」
オドー:「いいから早くやれ。」
「何かあったらヤバいのは俺だぜ。」
キラ:「何も起こりっこないわよ!」
「そりゃあんたはいいさ、でも金儲けの秘訣第285条を知ってるか? 『人助けは所詮報われぬもの。』※16
クワークを押しやるオドー。「議会の記録にはベイジョーの公文書記録センターからアクセスできる。」
アイソリニアロッドを取り出すクワーク。「そりゃあできるけどよ、そんな正攻法でいくのは素人のやるこった。」 コンピューターに刺す。
オドーが覗き込むが、クワークは操作をやめた。「少し時間がかかるんだよな。アクセスできたら教えるから。」 追い払う。

プロムナードの一画に立つオドー。「確かここでしたねえ。ベクは大勢の目の前で首を吊ったんです。大騒ぎでしたよ。」
キラ:「少なくとも罪悪感は感じてたってことね。」
「それにしても、ベクとは何度か言葉を交わした程度の仲で…そう親しくはなかったが善人にしか見えなかった。」
「善人なら同胞を裏切ったりしないでしょ?」
「…いや人間というのはわからないもんです。極限の状況におかれれば…あの善人がと思う人が残忍なことを平気でやる。」
クワークが呼びかけた。「おい! おいオドー。…議会のファイルな、アクセスはできたんだけど…中に入ってみたら空っぽなんだ。記録は全部消されてんだよう。」

司令室。
オブライエン:「全部、消されてますね。」
キラ:「何とか復元できないかしら。」
「空っぽでも、ファイルをスキャンすればデータの名残は拾えます。必ず、オリジナルのデータが残ってるもんなんです、よく探せばね。でもデータのいわばかけらを集めて復元するには、時間がかかります。」
「つまり元の情報を完全に戻すには無理なのね。」
「というより間に合いません。…ああでもちょっと待って? まだ手はあります。データ自体の復元は無理でも、消した奴ならわかるかもしれません。消去命令を出した時のサブルーチンにレチナールスキャン※17が残ってるかも。」
「スキャンも消去されてるんでしょ?」
「ええ…でも、レチナールスキャンが少しでも残ってればユーザーはわかります。ほら。サブルーチンを検索して何か残ってないか、見てみましょう。」 画面上でデータが取り出されていく。「いいですか? これはレチナールスキャンの記録を数字で表したものなんですが、この数字を再構築すればオリジナル映像が出ます。」
復元される網膜の一部。
オブライエン:「よーし、いいぞ。これで得られたデータを議会のメインシステムと照合すれば、ユーザーが特定できます。」 一つずつ、網膜が比較されていく。合致するものがあった。「特定できたようです。」
瞳から顔が明らかになる。それはバライルだった。


※16: No.285 "No good deed ever goes unpunished."
現時点で最後の条文

※17: 網膜スキャン retinal scan

ビジョンの中でベイジョー人たちに礼を受けるバライル。「カイ・バライルに祝福あり。」

バライルはベクの死体を見上げる。

ベク:「バライル。」
振り向くバライル。
歩いてきたベク。「あなたを信じて…助けを求めたのに、私を見殺しにするなんて。」

部屋で裸のバライルは、身体に手を這わせられる。
抱き合い、キスする。
相手はウィンだった。驚いて口を離すバライル。
ウィン:「報いがあるでしょう。」

神殿内でカイ姿のバライルの前に、薄着のキラが現れた。「預言者たちの贈り物を受け取って?」
微笑むバライル。
キラは近づく。次の瞬間、バライルは苦しむ。
キラが手にしたナイフに血がついていた。
崩れ落ち、倒れるバライル。
オパカが抱き止めた。「預言者の慰めがありますように。私達みなにとって。」
ナイフを持ったまま、見ているキラ。
バライルは目を閉じた。

現実に戻り、発光体の箱を閉めるバライル。ドアを叩く音に応える。「どうぞ。…ネリス。」
キラ:「私に真実はわからないと思った?」
「…真実を認識することはたやすいとは限らない。」
「でも全てわかったわ。今でも信じたくないけど…何であんなことしたの。何で通信記録を全て消去したりしたの。」
「それ以上、聞かないでくれ。」
「だって仕方がないのよ。ウィンは私からの報告を待ってるわ? …あなたがベクに命令して、ケンドラにあったレジスタンス基地の場所をカーデシア軍に密告させたの? カイ・オパカの息子と…42人のレジスタンス戦士が殺された。…その責任はあなたにあるって言うの?」
「……カーデシア軍はケンドラ地方を一掃してまでもレジスタンスを潰そうとしていたんだ。誰かが基地のある場所を密告しなければ、ケンドラにある全ての村が襲われていただろう。そうなれば 1,200人の罪もない一般市民が犠牲になる。それを許すわけにはいかなかったんだ。」
「ほかに方法があったはずよ?」
首を振るバライル。
キラ:「あなたを信じてた。だからあなたをかばった。…なのにウィンの方が正しかったのね。…これでウィンはあなたを破滅させるわ。」
バライル:「違う。破滅を選んだのは私だ。」
寺院を出て行くキラ。

DS9。
キラは司令室に戻る。「現在の状態は?」
オブライエン:「全て、異常なしです。」
ダックス:「いま、ヴェデク・ウィンから亜空間通信が入ったわ? 緊急に話したいみたいよ?」
キラ:「ヴェデク議会へのチャンネルを開いて。第7モニターへね、嫌なことは早く済ませたいわ。」
ボタンを押すと、コンピューターにウィンが映った。『あなたの報告がいつくるかと待っていたのですよ。』
キラ:「調査が全て終わってからと思いまして。」
『あなたの仕事ぶりは本当に素晴らしいものだわ? やはり預言者があなたを私に遣わして下さったのよ。』
「結果を知ってるような口振りですね。」
『ええ知ってます。ついさっきバライルが、ヴェデク議会に声明を発表したんです。カイの選挙への立候補は辞退する。次のカイになる気はなくなったからって。あなたにとってはとても辛いニュースでしょうが。でもあなたのおかげで、ベイジョーが救われたのです。明日新しくカイに選ばれる者が誰であれ、あなたに感謝しなければね。…預言者のお導きを。』 通信は終わった。
ため息をつくキラ。
ダックスが近づく。「キラ大丈夫?」
キラ:「納得できないのよ。バライルはそんな人じゃない、自分のしたことの責任は正々堂々と取ろうとする人よ? …何か間違ってる。…何か見落としたのよ。チーフ、もう一度ヴェデク議会のファイルに接続して。」
オブライエン:「了解。」

惑星ベイジョー。
建物の中を歩くキラ。
ドアが開く音がし、次々とベイジョー人が出てくる。
そして、カイの服を着たウィンが来た。
近づき、礼をするキラ。「カイ・ウィン。」
キラの耳をつかむウィン。「あなたのパー※18は力にあふれているわね? 安心なさい、私が敵ではないことがいずれわかるでしょう。」
キラ:「そうだといいんですが。」
「ええ、大丈夫よ? ああ…シスコ司令官と一緒に、ヴェデク議会に出る約束をしていたのだけれど、延期させてもらうわ?」 僧侶たちと共に歩いていくウィン。
しばらくして、バライルも出てきた。「ネリス。ここで会えるとは思わなかったな。」
キラ:「トランジットファイル※19を消し忘れてるわよ。」
「…トランジットファイルってどういうことだ。」
「確かに通信記録の方は綺麗さっぱり消してあったけどね? トランジットファイルを消し忘れたでしょ、おかげであなたの無実はちゃんと証明できたわ。」
「…もういいんだよ。終わったことだ。国民はウィンを選んだ。」
「あなたが辞退したからでしょ? そんな必要なかったのに、トランジットファイルに残ってたわ? 虐殺前の一週間、あなたはずっとダキーンの僧院※20にこもって修行中だったのよね? もちろんダキーンの通信記録も調べた。あなたは誰とも連絡を取っていない。でも虐殺の直後、一つ通信が入ってた。ヴェデク議会へ戻れっていう命令がね。」
「もうよせ!」
「いいえ最後まで言わせてもらうわ。だからベクに命じて、ケンドラのレジスタンス基地の場所を密告させたのはあなただったはずがない。あなたは誰かをかばっているのよ。誰か…私よりずっと大事な人。カイになることよりも大事な人を。」
「よしなさい、ネリス。もういい。」
「何でよ。だってこれこそが、真実でしょ? それほどまでに大事な人は誰? カイ・オパカ以外にいないわ。…オパカはケンドラのレジスタンス基地の場所を知っていた。…息子がメンバーだったからよ。…オパカが、密告を命じたのね?」
「オパカは大勢の命を救うために息子を犠牲になさった。…かばって差し上げねば。」
「……おかげで、あなたでなくウィンがカイになっちゃったじゃない。」
「それが預言者たちのご意思だ。」
「ウィンはベイジョーを…どこへ導いていくのかしら。」
「ゆく手には様々なことが待ち受けているだろう。ウィンが私達を必要とする、そんな時もきっとくるだろう。」
「私達はどうなるの。」
「君はどうなりたいの?」
バライルとキスするキラ。「…新しいカイに、ご挨拶をしに行きましょう。」


※18: 吹き替えでは「あなたは力に…」

※19: transit=通行、交通

※20: Dakeen Monastery

・感想
ベイジョーと、DS9 というシリーズ自体の今後にとって極めて重要な話。Episode Promenade での人気順に作ってきた初期エピソードガイドの中でも最後になった通り (ただし現在の順位ではなく、開始当時のデータを基準。また、最後の 5話ほどは同順位です)、非常に地味でもあります。発光体のビジョン、宗教、権力、虐殺、密告者…でもそれが DS9 らしいところですね。
原案はパラマウントの DS9 広報担当でもある Gary Holland。プロデューサー陣との話し合いの中で、ストーリーが変わっていきました。それまではずっと、バライルがカイになる予定だったそうです。結局「カイ・バライル」は、ビジョンの中だけということに…。


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