ビジョンの中で、バライルは新たな服を着ている。 
 他のヴェデクと共に並んでいるウィン。「お告げがありました。新しいカイに皆の祝福を。」 
 一同:「カイを祝福いたします。預言者のお導きあれ。」 
 突然、そばで光り輝くものがある。 
 歩いてきたのは、カイ・オパカ※9だった。 
 バライル:「カイ・オパカ。」 
 オパカ:「心安らかにおいでなさい。あなたは今よりなお一層強くならなければなりません。」 
 「なぜ私達をおいて。」 
 「全ては預言者たちの御心のままに。いずれわかります。…おいでなさい?」 
 ウィン:「バライル、気をつけて? カイ・オパカの歩く道はとても狭いわ? 転んだりしないように。」 
 「そう、気をつけて。」 
 バライル:「しかし私ごときに、そんな資格はありません。」 
 「おいでなさい? あなたの定めです。」 
 歩き出すバライル。 
 前から箱を持ったベイジョー人がやってきた。 
 バライル:「プライラー・ベク。」 
 ベク:「預言者たちから、あなたに贈り物です。」 
 箱を開けるバライル。 
 中には、今にも噛みつこうとするヘビが入っていた。驚くバライル。 
 オパカ:「贈り物を断ってはなりません。」 
 手を伸ばすバライル。 
 オパカ:「お受け取りなさい。毒があなたを強くします。」 
 バライルが取り出すと、それは首つり用のロープだった。
  
 現実に戻り、発光体の箱を閉じるバライル。
  
 DS9。 
 クバスは独房のベッドに座っている。 
 やってくるオドー。「あなたのおかげで大騒ぎでしたよ。…集まった群衆を散らすのに一苦労しました。」 
 クバス:「君ならたとえどんな事態になっても収拾できるだろうよ。昔から仕事ぶりは完璧だった。」 
 「そりゃあなたもでしょ。ところでクバス長官、あなたはカーデシア占領軍とベイジョー政府の間を、そりゃあ上手く泳いでいましたっけねえ?」 
 「それは違う、私はベイジョー政府の一員として働いていただけだ。」 
 「カーデシアから認知された政府のね?」 
 「しかし我々がいなければベイジョーの状態は、十倍は悲惨なものになっていただろう。」 
 「さてね? 何でそんなことがわかるんです? あなたはいつもステーションにいてベイジョーには降りなかった。ガル・デュカットが言ってましたよ? クバスは大のお気に入りのベイジョー人だってね?」 
 「そうかね? 私はあんな傲慢な奴は大っ嫌いだった!」 
 「とてもそうは見えませんでしたけど。」 
 「それは生きていくためだ。…ベイジョーは私の祖国だ。…帰ってきて何が悪い。」 
 キラ:「何よ今更。一度捨てたのに舞い戻ってくるなんて。」 拘束室に来た。 
 オドー:「こちらキラ少佐です、ステーションのベイジョー側責任者です。」 
 クバス:「そうか、じゃ君に話をすればいいんだな?」 
 キラ:「手短にね? 裏切り者と話をするのは不愉快なのよ。」 
 「君に好かれようとは思っていない。ただ祖国へ戻る許可を出して欲しいだけだ。」 
 「そんな許可は出せないわ?」 
 「君に今ここでそれを決める権限があるのかね?」 
 「権限も何もとっくに決まったことよ? イルヴィアン宣言※10が出た時。カーデシア占領政府※11に参加していたベイジョー人は、一人残らず追放処分になった。あなたの名前はリストの 4番目に載ってるわ。本来なら、追放じゃ甘すぎるけどね。」 外へ向かうキラ。 
 「少佐! …私はもう年だ、先もそう長くない。死ぬ時は祖国で死にたいと思って戻ってきたんだ。」 
 「カーデシアがベイジョー人を徴用して鉱山で働かせようとした時…それに同意したのは、誰だったかしら。」 
 「当時のベイジョー政府だ。」 
 「命令を出す時、書類にサインしたのは一体誰だった?」 
 「…私だ。」 
 「わかってたはずよ? 鉱山送りは死刑の宣告と同じ。あなた一度でも、サインを拒否した?」 
 「…いや。」 
 「ならわかるでしょ。自分がなぜベイジョーに二度と足を踏み入れられないかが。もし許せば…あなたの手で死に追いやられた人々の魂は、決して浮かばれないわ。」 
 うめくクバス。キラは出ていく。
  
 ウィンは司令官室に入った。 
 振り向くシスコ。「ヴェデク・ウィン。何か御用ですか。」 
 ウィン:「司令官※12。…最近気づいたのですけれどベイジョーの民衆の間には、私達の関係は良くないという噂が流れているらしいのです。」 
 「…そうですか。」 
 「もちろんそのような噂は事実とは全くかけ離れていますが、放ってはおけません。」 
 「でも火のないところに煙は立たないと言います。噂にも真実が含まれている時がありますからねえ。」 
 「何ということをおっしゃるの? まさか司令官、あなたまで私達の関係は…あ、何て言えばいいのかしら。」 
 「敵ですか?」 
 「…言い過ぎですよ。」 
 「どうですかね。…ところで、なぜ敵と申し上げたかおわかりになりますか。この前あなたはステーションにいらした時私に向かってこうおっしゃった。私はベイジョーを破壊しに来た者。ベイジョーにとっては危険な存在だってね。」 
 「それは本意ではありません。私が本当に言いたかったのは、あなたは私達の信仰を試すために預言者たちによって送られたということなんです。」 
 「ということはつまり、もう連邦をベイジョーの敵とはみなしていないということですね。」 
 「確かにベイジョーが連邦に参加することに対して、私は諸手を挙げて…賛成したわけではありません。でも今は、長い目で見るならば連邦の存在が、私達の安全と発展には必要だとそう思っています。」 
 「ではベイジョーが連邦に参加することには賛成なんですね?」 
 「それが預言者たちの意思なら、私に逆らう理由はありません。」 
 「それは嬉しいですねえ。今の発言を是非、国民の前でもしていただけるとありがたいが。」 
 「司令官、あなたが喜んで下さると私も嬉しく思います。…どうでしょう、一緒にヴェデク議会においでいただけませんか。私達の和解を知れば、みんなも喜びますから。」 
 「素晴らしい考えですね。それでは、来週うかがいましょう。」 
 「なぜ来週まで待つんです。今すぐにでも議会が集会を開いてくれますわ?」 
 「ええ、そうでしょうね。ただ選挙前に、私があなたと公的に姿を見せることは、私があなたを次のカイとして認めているという印象を与えかねませんからね。」 
 「まあ。そんな御心配はいりません。あなたがバライルを支持しているのは周知の事実。でも嬉しいことに、あなたは今まで公には何一つそういう発言をしていらっしゃらないけれど。」 
 「ええ、カイの選挙は百パーセントベイジョーの内政問題ですから。連邦士官としては干渉することは許されません。」 
 「そういうところはさすが司令官ねえ。」 
 「では、よろしく御願いします、来週ヴェデク議会にうかがいますのでね。」 
 「楽しみにしております。」 出ていくウィン。
  
 自室のキラに、通信が入る。『オドーよりキラ少佐。』 
 キラ:「…こちらキラ。」 
 『こんな時間にすみません。でも、クバスがベイジョーへ向かうようなのでお知らせしておこうと。』 
 「…誰が許可したの。」
  
 保安室のオドー。「ヴェデク・ウィンが身元を引き受けたんです。」 
 キラ:『すぐ行くわ。』
  
 連絡するキラ。「キラより司令室。」 
 ダックス:『司令室。』 
 「ダックス、ウィンの船はもう出ちゃった?」
  
 ダックス:「いいえ、いま発進許可を出すところ。」 
 キラ:『まだクランプを開けないで。私がいいって言うまでは船を出さないでちょうだい。わかったわね。』 
 「了解。」
  
 ターボリフトを降り、保安室に入るキラ。「一体どういうことなの?」 
 オドー:「クバスがヴェデク・ウィンと面会したいと言い出したんです。ウィンは 10分ほど話し込んだ後コンピューターを貸してくれと言ってきて、何か昔の記録にアクセスしてたようですけどね。」 
 「それで?」 
 「その後ベイジョー政府を呼び出して、自分が身元引受人になるからクバスの帰国を許可しろと。」 
 「……何を企んでるかわかる。」 
 「それを今調べてるんじゃないですか。」 
 モニターにベクの写真が出た。 
 オドー:「ああ。」 
 キラ:「これはプライラー・ベクだわ。クバスといいベクといい、なぜカーデシアへの密通者ばかり。」 
 「わかりませんが…でもベクとクバスは、知り合いのはずです。ベクはカーデシア占領軍とヴェデク議会とのパイプ役だったんです。クバスが政府の長官だった頃と時期は同じです。ステーションでもよく一緒のところを見ましたよ。」 
 「ちょっと待ってよ。ウィンがケンドラ大虐殺※13についてアクセスしたかどうか調べてみて。」 
 「…ええ、大当たりですよ。クバスが大虐殺の新真実を知ってたんでしょうか。」 
 「十分ありえるわ。あの事件はベクがカーデシアに、レジスタンスの基地のありかを密告したため、カイ・オパカの息子と 42人※14が殺されたのよ? …そしてベクは全てを遺書に書いて自殺した。あなただってその遺書は読んだはずでしょ?」 
 ウィンがやってきた。「キラ少佐。お話があるんですが。」 
 キラ:「もちろんです。」 出ていく。
  
 歩きながら話すウィン。「私の船を足止めさせているのはあなただそうですね。」 
 キラ:「ええそうです。ヴェデクたるあなたがクバスみたいな裏切り者を助けるなんてなぜですか? それとも助けると、何かメリットがあるとか。」 
 「そんなことあなたには関係のないことでしょ。とにかく私の船が、すぐに発進できるよう許可して下さい。」 歩いていこうとするウィン。 
 「ええ、あなたはいつ出発なさってもかまいません。でも残念ながら、クバスに対する国民の感情を思えば、クバスの乗った船をそのまま出すわけにはいきません。徹底的に検査をしてからでないと危険です。破壊工作の恐れがありますから、分子レベルまでスキャンしてからでなければ許可できません。」 
 「…スキャンにはどれぐらい時間がかかるの?」 
 「はっきりとは言えませんが何日かはかかりますね。何週間かも。」 
 今度はウィンが呼び止めた。「わかりました。預言者たちはあなたがこの一件に関わることをお望みのようです。…クバスは帰国が認められれば、ケンドラ大虐殺の責任を負うべき人間の名前を我々に明らかにすると言うのです。」 
 キラ:「大虐殺を引き起こしたのはプライラー・ベクでしょ、何を今更。」 
 「いいえベクはただの、使い走りに過ぎません。彼は真の密告者の代わりとなって自殺したのですよ。」 
 「真の密告者。」 
 「ベクの上司です。その者こそカーデシアに、レジスタンスの基地のありかを密告しろと言いつけた張本人。ケンドラ大虐殺の責任を負うべき人間は、ヴェデク・バライルです。」
 
 
  | 
※9: Kai Opaka (カミール・サヴィオラ Camille Saviola) DS9第13話 "Battle Lines" 「戦慄のガンマ宇宙域」以来の登場。声:竹口安芸子
  
※10: Ilvian Proclamation 都市イルヴィア (Ilvia) は DS9第5話 "Babel" 「恐怖のウイルス」、第108話 "Rapture" 「預言者シスコ」など。DS9 美術監督、Randy McIlvain にちなんでかも
  
※11: Cardassian occupational government
  
※12: 原語では全て「選ばれし者」と呼びかけています
  
※13: 正確には「ケンドラ谷の大虐殺 (Kendra Valley massacre)」
  
※14: 吹き替えでは「息子を含む 42人」
 |