ディープスペースナイン エピソードガイド
第45話「疑惑の法廷」
Tribunal
イントロダクション
※1司令室。 私服姿のオブライエン。「新しいドッキング手続きのチェックリストは、ベイ・プロド D-9 ファイルにダウンロードしてあります。新基準が使えるのは、第6ベイだけです。」 ダックス:「わかったわ?」 「それから、第2フュージョンコアのパワー変動に注意してて下さい。どうも調子が良くなさそうなんですねえ。」 「わかったわ、我が子のように第2フュージョンコアの面倒は見るから。」 「休暇から戻ったらすぐどこが悪いか、調べますので御願いします…」 キラ:「チーフ、一週間ぐらいあなたがいなくたって私達で何とかなるわよ。」 「何かあったら亜空間通信で知らせて下さい。」 「心配しないの。せっかくの休暇でしょ、早く行ったら?」 「…うーん。」 ダックス:「チーフ?」 「はい!」 「楽しんできてね?」 「ああ…ええ、どうもありがとう。もう、身体が軽いですよ。」 ターボリフトで出ていくオブライエン。 司令官室を出るシスコ。「出かけたか。」 キラ:「ええ、やっと。」 「よかった。朝から大騒ぎだったからな。私に向かってもいちいち…」 オブライエン:「司令官!」 戻ってきて、ターボリフトから顔だけ見せている。「忘れてました。居住区の環境制御に新しいサブルーチンをつけたんです。」 「チーフ・オブライエン。」 「何でしょうか?」 「君は休暇中だ。直ちにステーションを出て行きたまえ。」 「了解。」 また動き出すターボリフト。 笑うシスコ。 プロムナードを急ぐオブライエン。何枚も抱えたパッドを落としそうになる。 近くを通りかかった男に言う。「ああ…大丈夫です。」 オブライエンは立ち止まった。「ブーン※2! …マイルズ・オブライエンだ、ラトリッジで一緒だったろ。」 ブーン:「ああ! 思い出した、オブライエンか。ああ随分久しぶりだな。元気かい。」 笑うオブライエン。「ああおかげさんで、このステーションで働いてるよ。テクニカルチーフだ。」 ブーン:「ああ、そりゃすごい。」 「艦隊を辞めて何年だ?」 「ああ、もう 8年だ。今はヴォラン3※3 にいる。」 「ええ? 非武装地帯のカーデシア側の植民地か?」 「ああ、そうなんだ。新しい協定のせいで苦労が多いが、ワープドライブに使うラダリアム※4の鉱山を経営してるんでカーデシアも手を出さないよ。」 「はあ、戦争じゃひどい目に遭ったのによく入植する気になったなあ。…戦時中は、セトリック3 にいたろ。」 「あれで艦隊を辞めたのさ。」 「そうか。僕は残ったけど、ヘ。じゃあ妻が待ってるんで失礼するよ。待ち合わせに遅れると、また怒られちまうから。」 「来月か再来月に、またステーションに来るよ。」 「じゃ、連絡くれよな!」 走っていくオブライエン。 ブーンの笑顔が消えた。 暗い部屋に入る者がいる。持っていた装置を起動させた。 声が再生される。『マイルズ・オブライエンだ。ラトリッジで一緒だったろ。』 操作しているのは、ブーンだった。 |
※1: このエピソードは、シスコ役エイヴリー・ブルックスの初監督作品です。今後これを含め、計9話を演出しています (参考) ※2: レイモンド・ブーン Raymond Boone (ジョン・ベック John Beck) 声:千田光男、TNG スン (壮年) など ※3: ヴォラン3号星 Volon III DS9第41話 "The Maquis, Part II" 「戦争回避(後編)」より ※4: ladarium |
本編
ランナバウト。 ケイコ※5:「マイルズ?」 オブライエン:「あ?」 「ホロ・カメラ持ってきた?」 「…ないとまずいの?」 「持ってくって言ってたじゃない。」 「僕が?」 「夕べベッドでリストをチェックしてた時。」 「言ってないよ、ベッドに入った途端に寝ちゃったし。」 「あら、30分も延々としゃべってたくせに。」 「え? ベッドにもう一人いたんじゃないか。」 「…これは何?」 「ああ、新しく出た技術マニュアルだよ。」 「この 5年間で初めての休暇なのに、技術マニュアルなんか持ってきたの?」 「…ああ…やっぱりモリーも連れてくりゃあよかったな。ピーターソン※6さんちで平気か?」 「ピーターソンさんとはいつも仲良くしてるもの? 心配ないわよ。」 「…一度戻ろうか。モリーを連れてくるついでに、ホロ・カメラも取ってくればいいだろ? …まあいいか、ホロ・カメラなんかどこでも買える※7し。」 ケイコは椅子に座った。「いくつ持ってきたの?」 オブライエン:「何を?」 「その最新技術マニュアルよ?」 「少しだけさ。」 オブライエンはパッドを置いた。「コンピューター、何か音楽を頼む。ミネザキ※8がいい。」 箏の音色が響き出す。 腕組みしているケイコに近づくオブライエン。まぶたにキスを始める。 微笑むケイコ。抱き合い、口づけをして笑う。「この椅子リクライニングしないの…?」 オブライエン:「…気が利かないよな。」 「テクニカルチーフなら何とかしてよ。ちゃんと御褒美をあげるから。」 「おお?」 またキスする二人。 コンピューター:『船が接近してきます。コース 191、マーク 6。』 「どこの船だ。」 『カーデシアのパトロール船です。ヒデキ・クラス※9です。』 起き上がるオブライエン。「シールドアップ。」 ランナバウトを追う、ヒデキ級パトロール船。 オブライエン:「ステーションに亜空間で緊急信号を送ってみてくれ。」 ケイコ:「…送れないわ、亜空間の全周波数が攪乱されてる。」 「…呼びかけてきた。」 モニターに、カーデシア人のガル・イヴェック※10が映った。 オブライエン:「こちらマイルズ・オブライエン。ディープ・スペース・ナインの連邦士官だ。用件を述べろ。」 イヴェック:『こちらガル・イヴェックだ。一度会ったことがあるな。…直ちにエンジンを停止し、全てのパワーを切れ。いま捜査チームを派遣する。』 「カーデシア領内でもないのに、君にそんな権限はないはずだ。」 『権限うんぬんは後で話そう。直ちにエンジンを停止しない場合は実力に訴える。』 コンピューター:『警告。向こうの船から攻撃用のロックオンをされています。』 『10秒だけやろう。』 イヴェックの通信は終わった。 オブライエン:「…心配するな。何もしてないんだから。」 イヴェックたちカーデシア人が、転送されてきた。 イヴェック:「ご協力に感謝する。ミスター・オブライエン、君を逮捕する。」 ケイコ:「逮捕?」 「船を調べろ。」 後部区画へ向かうカーデシア人たち。 オブライエン:「何の容疑でだ。」 「いくら黙秘権があるといえ、そういう反抗的な態度は罪を重くするだけだぞ。」 「だからどういう罪で逮捕されるのか聞いてるんだ!」 「じゃあ罪状は全て否認するんだな。」 「否認も何も一体何のことだか、こっちにはさっぱりわからないよ。」 「じゃあ完全否認ではない…」 ケイコ:「私達には連邦の市民としての権利があります。」 「そりゃあそうだ。君たちの権利はカーデシアの法律※11によって守られることになる。心配するな。」 戻ってきたカーデシア人は、イヴェックに向かってうなずいた。 オブライエン:「司令官と連絡を取らせてくれ。」 イヴェック:「連絡はこちらから取る。奥さんはステーションまで無事送り届ける。だが君にカーデシア・プライムの中央刑務所で裁判を受けてもらう。連行しろ。」 「誰がそんなところに行くもんか。」 抵抗するオブライエン。だがカーデシア人に撃たれた。 ケイコ:「マイルズ…マイルズ!」 倒れるオブライエンに近づくが、引き離される。「やめてー!」 イヴェックと共に、オブライエンは転送されていった。 泣き叫ぶケイコ。「マイルズ! マイルズー!」 |
※5: ケイコ・オブライエン Keiko O'Brien (ロザリンド・チャオ Rosalind Chao) DS9第34話 "Whispers" 「オブライエンの孤立」以来の登場。声:吉田美保 ※6: Peterson ※7: 原語では「手に入る (pick up)」としか言っていません ※8: Minezaki ※9: ヒデキ級カーデシア宇宙船 Hideki-class Cardassian starship クラス名は初言及。初登場は DS9第38話 "Profit and Loss" 「クワークの愛」。エンサイクロペディアでは日本の物理学者、湯川秀樹にちなんだらしいことになっていますが…。参考:日本から来たスタートレック ※10: Gul Evek (リチャード・ポー Richard Poe) TNG第176話 "Preemptive Strike" 「惑星連邦“ゲリラ部隊”」以来の登場。DS9 では第40話 "The Maquis, Part I" 「戦争回避(前編)」以来。声:筈見純 ※11: Cardassian Articles of Jurisprudence |
建物が並ぶ惑星※12。 放送が流されているのを、カーデシア人たちが見ている。『子供こそ、未来の宝。彼らが我が国を導いていく。子供の頭脳に投資し、慎重に教育すべし。』 カーデシア人に部屋に入れられるオブライエン。強いライトに照らされる。 声※13が響く。「服を脱ぎなさい。」 オブライエン:「…私はマイルズ・オブライエン。階級は宇宙艦隊士官テクニカルチーフで連邦の市民だ。」 カーデシア人が座っている。「服を脱ぎなさい。」 オブライエン:「私はマイルズ・オブライエン。階級は宇宙艦隊士官テクニカルチーフで、連邦の市民だ!」 またやってきたカーデシア人たちに、壁に押しつけられるオブライエン。 服を引き裂かれた。※14 カーデシア人:「自白する気になりましたか?」 倒されたオブライエン。「私はマイルズ・オブライエン。階級は宇宙艦隊士官テクニカルチーフで、私は連邦の市民なんだぞ!」 カーデシア人:「尋問開始。」 コンピューターが起動された。オブライエンの目に、ビームが当てられる。 苦しむオブライエン。網膜の情報が画面に表示された。 オブライエンは椅子に座らされる。カーデシア人一人を殴ったものの、無駄だった。 椅子に固定され、注射を受ける。 オブライエン:「……私の、名は…マイルズ・オブライエン。」 髪の一部が切り取られる。「…私の、階級は…テクニカル…チーフ。」 次に、口の中に道具を入れられる。叫ぶオブライエン。 歯を一本抜かれた。 オブライエン:「テクニカル…。」 顔の全面に光が照射される。 一層明るくなって止まると、オブライエンの身体に灰色の粉がついている。 椅子が起き上がり、カーデシア人の女性が部屋に入る。「自白しましたか。」 カーデシア人:「終わりました。」 「……絶対怪我をさせるなって言っておいたでしょ?」 「暴れましたのでね。服を持ってこい。」 衣服を渡され、椅子から降りるオブライエン。 女性:「部下が手荒な扱いをしまして申し訳ありません。私はマカバー※15、ここの執政官※16です。刑務所ではありますが、なるべく快適に過ごせるよう取り計らいますので。裁判は 2日後に始まることになっております。あなたにはコヴァット※17氏が、公選保護人※18としてつく予定です。」 オブライエン:「保護人?」 マカバー:「弁護士のことです。コヴァット氏はカーデシア一優秀だという評判ですよ?」 「…なぜ弁護士がいるんです。誰が何の罪で私を訴えてるんですか!」 「それはまた後で。ミスター・オブライエン。いずれわかります。」 マカバーによって、独房にフォースフィールドが張られた。 DS9。 シスコ:「宇宙艦隊では、エンタープライズ、プロコフィエフ※19、ヴァルデマール※20を非武装化地帯に派遣しました。いくらかでも、これがカーデシアへの圧力となってくれれば助かるんですが。」 ケイコ:「こうしてる間にも、主人はカーデシア人の暴力を受け、人間としての権利をないがしろにされてるんですよ? わかってるんですか?」 「しかし確証は…」 「ごまかさないで下さい。カーデシア人が主人を拷問しないはずがないわ?」 オドー:「尋問の際囚人に拷問を加えるのはカーデシアでは一般的ですからね? 奥様のおっしゃるとおりでしょ。」 「……主人は何度も何度も私に話してくれました。セトリック3 でカーデシアに捕らえられた捕虜が戻ってきた時、どんなにひどく痛めつけられていたか。…思い出すだけでも、吐き気がしてくるって言ってひどく怯えていました。早く助け出してあげなければ。」 シスコ:「しかしカーデシア・プライムの、どこにいるのかすらまだつかめないんです。」 司令官室を出るケイコ。 シスコは追う。「ケイコ、情報が入り次第私の権限でできる限りのことはしますから。」 ケイコ:「司令官、カーデシア・プライムから亜空間通信が入っています。」 「…スクリーン、オン!」 マカバーが映し出された。 シスコ:「私はベンジャミン・シスコ。DS9 の司令官だ。」 マカバー:『私はマカバーです。階級は執政官。マイルズ・オブライエン裁判においては、カーデシア帝国を代表いたします。』 「彼と話せますか。」 『それはできません。』 「顔は見られますか。」 『司令官。』 「オブライエンは丁重な扱いを受けているんでしょうね。」 『もちろん、ミスター・オブライエンの処遇には十分な敬意を払っております。』 「結構。もしそうでなければ必ずあなたに責任を取ってもらいます。これは脅しじゃない、私は本気ですよ。」 笑うマカバー。『ガル・デュカットから聞いた通りね? さすがだと申し上げておきましょう、司令官。』 シスコ:「わかっていただければ。ところでオブライエンは、一体どんな罪を犯したんですか。」 『カーデシアの司法の習わしとして、罪状は裁判の開始時に明らかにされます。』 ケイコ:「でも、罪状がわからないのにどうやって裁判に備えろって言うんですか。」 『ミスター・オブライエンの奥様ね?』 「そうです。」 『あなたが準備することは何もありません。ご主人の判決は、既に有罪と決まっているのです。…裁判では有罪に至った過程が公開されるだけです。カーデシアの犯罪捜査システムは、宇宙域一ですから。…お望みなら、傍聴することもできますよ? 裁判は 2日後に開かれる予定です。』 シスコ:「私も同行します。」 『いいえ? 申し訳ありませんが、裁判の傍聴は被告※21の配偶者だけにしか許可されないのです。』 オドー:「ネストール※22はどうです?」 『被告の弁護士とネストールは、法廷により任命されます。』 シスコ:「ネストール。」 オドー:「被告へのアドバイザーです。マカバー執政官、私がオブライエンのネストールを務めていいでしょうか。」 マカバー:『それは駄目です、ネストールは裁判所職員でないと。』 「私は裁判所職員ですよ。保安チーフのオドーです。私はテロック・ノールで、ガル・デュカットの下で働いていました。調べて下されば、わかります。一連の裁判で証言するために、4年前カーデシアの裁判所職員に任命されたんです。」 『…よろしいでしょう、それが本当なら被告のネストールとして認めましょう。』 「チーフ・オブライエンに対する刑罰※23を教えていただけますか。」 『被告の死刑執行は、来週の予定です。』 ケイコ:「どうして裁判が始まる前に、判決どころか死刑執行の日まで決まってるの?」 『法の執行は迅速でなければ。』 通信は終わった。 オドー:「奥さん早速出発しましょう。」 ケイコと共に、ターボリフトへ向かう。 シスコ:「ステーションのセキュリティチェックを行い、チーフの最近の行動を調べてくれ。カーデシアに目をつけられるようなことを、何かしでかしていないかどうか知りたい。」 キラ:「司令官、チーフがカーデシアに敵意をもっていたのは公然の秘密です。…もし本当に何かしてたらどうします。」 「…だから調べて欲しいんだ。頼むぞ。」 |
※12: カーデシア・プライムは初登場。このシーンは多くのマットペインティングを手がけた会社、Illusion Arts の Syd Dutton と Robert Stromberg によるもの。一緒に映るミニチュアは DS9 の 6フィートモデルを造った会社、Brazil Fabrication & Design のオーナー、Tom Meininger 作成 ※13: カーデシア人の声 Cardassian Voice (ジュリアン・クリストファー Julian Christopher) イヴェックではないのですが、声はイヴェック役の筈見さんが兼任。一部資料では乃村健次さんになっていますが、それはカーデシア・プライムでの放送の声や、ベシアと接触したマキの声だと思われます ※14: ミーニーがカメラの前で初めて裸になったシーン。TNG第136・137話 "Chain of Command, Part I and II" 「戦闘種族カーデシア星人」でも、ピカードが同じ目に遭いました ※15: Makbar (キャロライン・ラガーフェルト Caroline Lagerfelt) 声:金野恵子、VOY ダナラ・ペルなど ※16: archon ※17: Kovat ※18: public conservator ※19: U.S.S.プロコフィエフ U.S.S. Prokofiev アンドロメダ級、NCC-68814。「ピーターと狼」を作った 20世紀のロシア人作曲家、セルゲイ・プロコフィエフ (Sergei Prokofiev、1891〜1953年) にちなんで ※20: U.S.S.ヴァルデマール U.S.S. Valdemar アンバサダー級、NCC-26198。恐らく初のテープレコーダー発明者、ヴァルデマール・ポールセン (Valdemar Poulsen、1869〜1942年) にちなんで ※21: offender accused や defendant ではなく、「違反者」「犯罪人」という意味の言葉を使っています ※22: nestor ※23: 吹き替えでは「判決」。少し前にマカバー自身が判決は有罪と言っているので、ちょっと変ですね |
カーデシア・プライム。 独房で寝ていたオブライエンに、年老いたカーデシア人が近づいた。「マイルズ・オブライエン。ああ、そうか君だね。」 フォースフィールドを解除し、中に座った。「…私が保護人のコヴァット※24だ。」 オブライエン:「…自分の知らないうちに容疑者にされて、起訴されてもう判決まで決まってる。何で今さら弁護士なんか。」 コヴァット:「…ミスター・オブライエン。私がこう言うと、うぬぼれて聞こえるかもしれないが実は公選保護人の役割こそが、法廷では最も重要なんだよ。この裁判で、私は国家の正当性を証明すると同時に…君には死を迎える覚悟をさせる。心静かにね。」 「ハ!」 「フン。…カーデシアには、こういう古いことわざがある。『自白は魂のためになる。』 民衆にとっても君みたいな人が自白するのを見るのは、ためになるのさ。優越感に浸れるからね? 現在の生活で満足だって思える。」 「じゃそれが目的なのか。カーデシアの民衆がいい気持ちになるようにってか? うん?」 「いやあそれだけじゃないが、しかし裁判の効用ではあるね。…いま手元にあるのは、君の今までの経歴と、宇宙艦隊での記録だ。これは役に立ってくれそうだ。」 パッドを読むコヴァット。 「僕の容疑は一体何なんだ!」 「ああ、それは今の時点では関係ない。」 「…こんなのまともじゃないぞ!」 「君が何をしたか、何の罪で起訴されたかは、長い目で見れば問題じゃないんだ。」 「何が問題なんだ。」 「…この裁判の最終目的は、秩序を乱す軽率な行動を戒めることにある。君の処刑は民衆には喜ばしいのさ。」 「僕は嬉しくないね。」 「正義は必ず勝利するのだ。国家は民衆に安全な生活を保障しなければならない。カーデシアでは解決されない犯罪事件や、罰を受けない犯罪者は存在しない。必ず正義が勝つ。真夜中に街の通りを歩いても何の危険もない。完全に安全が保障されている。…君はたかが一人の…男に過ぎないが、君への判決は何百万もの人を熱狂させるだろう。ところで…裁判は明日始まる。質問はあるかね、話しておきたいことは。」 「僕は何の罪も犯していないってことだけを言いたい。それと、カーデシアの裁判の手順は軽蔑すべきものだってねえ?」 「結構、素晴らしい。法廷でもそういう傲慢な態度でな。その方が民衆にグッとアピールする。」 出ていくコヴァット。 「最後に一つ聞きたいんだが?」 「ああ、構わんよ。」 「今まで、裁判に…勝った経験は?」 「勝つことだけが、全てではない。」 再びフォースフィールドを張り、コヴァットは去った。 DS9。 作業しているキラたち。 シスコがやってくる。「全部そうだったか。」 キラ:「全部です。光子魚雷の弾頭は一つもありません。」 「…誰かが転送機で、光子魚雷の弾頭を 24個も盗んだのに、なぜセンサーに探知されなかったんだ。」 ダックス:「残されていた金属は弾頭と同じ質量※25です。きっと両者を同時に転送機で入れ替えるようプログラムしたんでしょう。センサーにかからないように。」 キラ:「そんなことができるのは転送機の専門家だけよ。」 ベシア:「チーフならやれたってことですか、冗談じゃない。」 「そう思いたいけど、でも証拠があるのよ。…日誌によればチーフはこのロッカーに来てるの。シャトルで出かける少し前にね?」 ダックス:「コンピューター、保安日誌を立ち上げてちょうだい? 宇宙暦 47944.2。場所は武器ロッカー※26。」 オブライエンの声が再生される。『アクセス請求、第4武器ロッカー。マイルズ・オブライエン、保安レベル1。』 ダックス:「…コンピューターはチーフの声紋を認識してロッカーのドアを開けたんです。」 キラ:「ドアが開いた途端に何らかのフィールド飽和装置が作動、ロッカーのセキュリティスキャナーが全て停止してしまった。」 シスコ:「その声紋を徹底的に分析してみてくれ。本当にチーフのものかどうか、確かめる。」 ベシア:「でも筋が通りませんよ。何でチーフが魚雷の弾頭を盗むんです?」 キラ:「マキに供給するためよ。実は 2週間前に非武装化地帯の近くで、マキの船がボリアンの貨物船※27から光子魚雷発射装置を盗んだって報告がきていたのよ。」 シスコ:「装置を、魚雷なしでか。」 「ええ、装置だけで魚雷はなしです。」 ベシア:「それじゃなんですか、あのチーフが 5年ぶりに、休暇を取って奥さんを連れて旅行に出たのは、マキに魚雷を流すためだって言うんですか。そんなバカな!」 シスコ:「もしチーフのシャトルに魚雷が積んであったんなら、裁判で決定的な証拠になる。」 「司令官!」 「すぐにそれを確認してみてくれ。」 ダックス:「魚雷が積んであったとして、なぜカーデシアが知ってたの?」 「それだよ、私が今一番知りたいのは。そうだ、それから相手の男が誰かも知りたいね。」 キラ:「相手の男?」 「魚雷を受け取ろうと待っていた男さ。宇宙艦隊の諜報部に、最近のマキの活動ぶりを聞いてみよう。私達は、マキのメンバーらしい人間が最近ステーションに来ていないかどうかを調べるんだ。…よし、解散!」 フォースフィールドが解除された。立っていたのはオドーだ。 オブライエン:「僕を迎えに来てくれたのか。」 オドー:「ならいいんですが。」 オドーが中に入り、再びカーデシア人はフォースフィールドを張った。 オドー:「扱いはどうですか。」 オブライエン:「…そんなにひどくない。でもここに着いた時、歯を抜かれてね。あれには参ったよ。」 「カーデシア人はみんな、身分証明のために当局※28に臼歯を一本提出するんですよ。普通は、10歳ぐらいで抜くんですけどね?」 「…ケイコは、大丈夫か。」 「ええ、私と一緒です。」 「じゃあここへ来てるのか?」 「いいえ? 拘束中の容疑者に対して、家族が面会するのは許可されないんです。でも法廷には行きますよ。カーデシアでは被告の家族を呼んで裁判にも処刑にも立ち会わせるんです。家族が悲しむのを民衆に見せるために。」 「…駄目だ、来るなって言ってくれ。こんな姿を見られたくない。」 「私はそれは違うと思いますよ。」 「弁護士が言うにはもう有罪は決まってて、後は死刑になるだけだとさ。ハ、全く何の容疑かも知らないってのに! 君は何か聞いてる?」 「いいえ? でも見当はついてます。」 「何?」 「今までマキと何か、取引をしたことがありますか。」 「取引? いいや? どういう意味なんだ?」 「マキのメンバーに知り合いはいます?」 「いない。」 「以前マキに武器を供給したことはありませんか?」 「ないよ。おい、カーデシアまで僕を尋問に来たのか。…僕が何でこんな目に遭うのか、いい加減教えろよ!」 「司令官からの連絡では、ステーションから光子魚雷の弾頭が 24個盗まれていたそうです。それがチーフのシャトルの貨物室に載っていたようなんです。恐らくマキの仕業でしょう。」 「…そう言えばカーデシア人は何かを探しに来てたな。」 「でも何も知らないんですね?」 「知らない。」 「ステーションを出る直前に武器ロッカーから転送機を使って盗みませんでしたか?」 「いいや?」 「ステーションを出る少し前に、第4武器ロッカーに入りませんでした?」 「いいや?」 「しかし保安日誌にはそうなってるんですよ。しかもあなたの声でセキュリティロックが開けられてるんです。」 「僕の声で?」 「ええ、そうです。」 「…ヘ。わからない。」 笑うオブライエン。「君は、僕をあまり知らないだろうけど。…僕は……僕はずっと艦隊で務めてきて、ほかの職には就いたことがないんだ。今まで、誠心誠意働いてきた。今まで犯罪を犯したこともなければ、『犯罪者だ』って疑いをかけられるようなことも一度だってなかった。…艦隊に入る時、惑星連邦を守るって誓ったとおり、一度も何か盗んだり嘘をついてはいない。僕は天使じゃないが、毎日努力して少しでも理想の人間に近づこうとしてるんだ。…小さな娘から見て、信頼し尊敬できる人間でいたいから。必死にがんばってる! …なのにこんなことになって。」 「…罪を問われたからって即…恥にはなりませんよ。…歴史上の大人物にも同じ目に遭った人たちはいます。」 「…俺は殉教者にはなりたくないよ…。」 「全員が殉教したわけでも、死んだわけでもない。中には無実だった人もいた。あなたもだ。……実は私も、あなたの弁護団に加えてもらったんですよ。だから明日法廷でまた。奥さんも行きます、でも泣く結果にはなりませんよ。無論あなたもです。執政官には無実の男の澄んだ、曇りのない目を見てもらいましょう。わかりましたか?」 「わかった。」 「護衛。」 フォースフィールドが解除された。「では明日法廷で。」 「オドー! 来てくれてありがとう。」 |
※24: Kovat (フリッツ・ウィーヴァー Fritz Weaver) 声:峰恵研 ※25: 吹き替えでは、なぜか「体積」 ※26: weapons locker ※27: Bolian freighter ボリアンは TNG第25話 "Conspiracy" 「恐るべき陰謀」など ※28: 正確には身分証明局 (カーデシア身分証明局、Cardassian Bureau of Identification) |
声紋が調べられている。 ダックス:「声の抑揚のパターンが一致しないわ? ここと、ここの山がずれてるでしょ?」 ベシア:「じゃあ武器ロッカーを開けたのは、チーフじゃないってことですよね。」 「確かにチーフの声だけど、これは後から細工して作ったものよ。」 キラが司令室へ戻ってきた。「マキにいましたよ。非武装化地帯の植民地在住でその日ステーションにいた中で一番怪しい人物。レイモンド・ブーン、地球人、ヴォラン3 在住。」 パッドに写真が表示されている。「チーフがプロムナードでブーンと話してたのを見た人も 3人います。」 ベシア:「きっとその時、声をテープに録音したんだ。」 「録音?」 ダックス:「武器ロッカーに入るためにチーフの声を捏造したらしいの。」 シスコ:「…こいつを逮捕だ。」 マカバーが街角のモニターに映っている。『被告、マイルズ・オブライエン。地球人、連邦宇宙艦隊の士官は、カーデシア帝国に敵対する扇動的な行為を幇助した罪で有罪。』 マカバー:「…死刑を宣告されています。では裁判を始めます。」 法廷※29には見守るカーデシア人の子供たちもいる。石を叩くマカバー。「コヴァット保護人。被告の準備は整っていますか?」 コヴァット:「はい、執政官殿。」 「では通しなさい。」 合図すると、オブライエンが連れてこられる。手で音を出すカーデシア人の子供。 オブライエンは中央の椅子の前に立った。 マカバー:「ミスター・オブライエン。ご家族と連邦に対してこれ以上の辱めを避けるためにも、審議は全て不要と宣言し、自白なさってはいかが?」 オブライエン:「お断りします。」 「よろしい。…ネストールとオブライエン夫人を法廷へ。」 オドーとケイコがやってきた。 マカバー:「オブライエン夫人。ご主人のせいで、奥様のあなたにまで恥が及んでしまいましたね。こういう場合カーデシアの法律に定められた規定によって、あなたは被告に対して不利な証言を行うことで被告との関係を絶つことができるのですよ?」 ケイコ:「私は、主人に不利な証言などするつもりは、絶対ありません。」 オブライエンの方を見た。 「最初の証人を法廷へ。」 オドー:「執政官殿。その前に保護人と内密に話をしたいんですが。」 呆れるコヴァット。「ああ…。」 マカバー:「あなたはネストールを務めるのは今回が初めてでしたね。ですから説明してあげますが、ネストールには法廷での発言権はありません。ネストールは被告に助言するだけです。」 オドー:「申し訳ありません、知らなかったもんですから。」 「この裁判は全国民が見ているんですよ? 内密な話など見ても退屈でしょう。するなら事前にしておくべきでしたね。…まあよろしい、手短に。」 コヴァット:「頼むから無茶はしないでくれ、私は後一年で定年なんだ。」 オドー:「被告の無実を立証する新しい証拠があるんだ。」 「新しい証拠?」 「もしオブライエンの罪状が DS9 から魚雷を盗んだことならば、彼ではないという証拠があります。」 「何を言ってる、被告は現行犯だぞ。」 「誰かがチーフの声を捏造して武器ロッカーに入ったんです。その証拠テープをここで聞かせてもいい。」 「判決が出た後は証拠を提出しちゃいけないことぐらい知っとるだろ。」 「知ってます。でもカーデシアで最高の名声を誇る保護人のコヴァットさんなら、聡明な御判断をいただけるかと思います…」 「それは誉めすぎだ。その手には乗らん。必要なのは正義で、法廷を混乱させることではない! 君に協力することはできん。」 マカバー:「時間です。審議を進めていいですか、保護人?」 「ええ、どうぞ。」 オドー:「執政官殿、発言していいでしょうか。」 マカバー:「発言権はないと説明したでしょ。」 「しかし保護人が新しい証拠を採用してくれないんです。」 「静粛に。」 「武器ロッカーに入るために、被告の声を捏造したテープがあるんです。」 「法廷の秩序を乱すのですか。」 「じゃあほかにどうしろと言うんです!」 「ここはカーデシアです。私達の審議の手順に従いなさい。立場が逆だったら連邦の流儀が通るのですからね。」 「その点が私が次に言いたかったことです。これはそもそも私が裁くべき事件です。カーデシアは別に何もされてはいないでしょう! これはベイジョーのステーションで起こった魚雷盗難事件です。」 コヴァット:「執政官殿、これでは私の立場がありません、今回の裁判からは降ろさせていただきます。」 マカバー:「駄目です、座りなさい。」 「ああ…。」 「言っておきますが、カーデシア人の忍耐力にも限界があります。もし当法廷を侮辱すれば、あなたへの処罰は重いものになります。」 オドー:「残念ですな? 私はどんなに差し出したくても、差し出せる歯がないんでね。」 「新しい証拠については、連邦のことですからオブライエン被告を釈放させるために御立派な証拠をこしらえてきたことでしょう。専門家の手を借りれば、法廷の目をごまかせるだけの証拠を作るのも簡単でしょう。でもそんなだまくらかしは、通用しませんよ。…新しい証拠が何であれ採用はしません。」 石を叩きつけるマカバー。「最初の証人を法廷へ。」 DS9。 シスコ:「いいか、マキをどうこうするつもりはない。ただ無実の人間を救いたいだけだ。」 ブーン:「そう言われても何の話だか見当もつきませんよ。」 キラ:「チーフが出発前にあなたと話していたのを見た人がいるのよ。」 「それが罪なんですか? ラトリッジ時代からの友達だ。」 シスコ:「その古い友達が、カーデシアで処刑されそうなのに何とも思わないのか。」 「それは気の毒です。でも僕にはどうしようもない。」 キラ:「チーフには奥さんと、5歳になるお嬢さんがいるのよ。」 シスコ:「もしカーデシアに引き渡されるのを心配してるんなら、引き渡しはしない。約束するよ。」 ブーン:「私は何もしてません、だから心配もしてませんよ。」 キラに命じるシスコ。「……徹底的に調べろ。」 ベシアが診療室に戻ると、暗いままだった。「コンピューター、ライト。」 だが明るくならない。 コンピューターを操作してみるベシア。やはり駄目で、いらつく。 突然、男の声が聞こえた。「振り向かないで聞いて下さい。」 黒い影が見える。 ベシア:「ここには何もないぞ。」 「光子魚雷の弾頭を盗んだ疑いで男が一人、拘留されてますね。ブーンって男。」 「その通りだ。」 「ブーンは我々の一員ではありません。」 「『一員』じゃない? 君はマキだな。」 「その通りです。」 「でもほんとなのか。」 「我々は盗みとは無関係です。ブーンも我々の一員ではない。それを伝えに来たんです。」 去る男。 「そう言ってブーンを守ろうとしてるんじゃないのか? 光子魚雷なんて…」 ベシアが振り向くと、ライトが復旧した。「誰が欲しがる。」 |
※29: 科学ラボやラケットボールのコートにも使用される、ホロスイート用のセットに建設。このデザインはヘアスタイル部長 Josee Normand に刺激を与え、マカバーの髪型が生まれました |
法廷の様子が流される。 イヴェック:『マキは連邦の残酷な殺人集団です。奴らは罪もないカーデシア人を殺そうと企んでいます。』 法廷に持ち込まれた、光子魚雷の弾頭。 イヴェック:「…オブライエンのシャトルから没収された武器がその証拠です。」 コヴァット:「その、マキの本拠地は非武装化地帯にあるのですね。」 「ええ、マキのメンバーはカーデシア占領地域内にある連邦の植民地の入植者たちです。近頃の状況は耐え難いもんです。あと何人無実の市民が殺されれば、事態は改善されるんでしょうか。」 「被告が運んでいた光子魚雷の弾頭の受け渡し先が、マキだということはどうしてわかったんですか。」 「…信頼できる筋からマキが絡んでいると情報が入ったんです。」 オドー:「異議があります!」 コヴァット:「やれやれ、またこれですよ。」 マカバー:「あなたに発言権はないって昨日も申し上げたでしょう? 今度は何なのです。」 オドー:「ガル・イヴェックは今、信頼できる筋から情報が入ったとおっしゃいましたが、具体的にどんな筋なのか明らかにしていただきたいと思います。」 「ガル・イヴェック? 詳しく述べられますか。」 イヴェック:「申し訳ないが情報の出所を明らかにすれば国家の安全に危険が及びます。」 「そうですか、わかりました。」 オドー:「ではなぜ魚雷が被告のシャトルにあることを知ったのか、お聞かせ願いますか?」 イヴェック:「ええ、もちろんです。信頼できる筋から情報を得たんです。」 マカバー:「これで納得しましたか、ネストール?」 オドー:「執政官殿。」 「十分です。こんなに長引いた裁判はカーデシアの歴史上初めてですよ。審議は迅速に進めましょう。いいですね。…ではコヴァット保護人、どうぞ。」 コヴァット:「かしこまりました、執政官殿。…なるべく手短に、済ませます。」 診療室で待っているシスコ。 ブーンが保安部員に連れてこられた。「何をするんだ。」 シスコ:「ドクター・ベシアに君の身体検査をしてもらう。」 「なぜです?」 「君の身元について知りたいことがあってね。」 「そりゃどういうことです。」 ベシア:「例えば君はもう 8年も御両親とは口を聞いていないそうだね。」 「それが何だって言うんですか。親子仲が悪いだけだ。」 「ご両親はそうは言ってなかったけど。」 シスコ:「奥さんとも 8年前に別れてるね。それまでは上手くいってたんだろ? 確か 15年連れ添ったはずだ、違うかな。」 ブーン:「あなたとは関係ないでしょ。」 「離婚したのと同じ頃、君は悪い勤務評価を何度も受けて※30宇宙艦隊士官の階級を剥奪されている。」 ベシア:「これが全て、セトリック3 から戻った直後の出来事だよね。」 逃げ出そうとするブーンだが、すぐに捕まった。 ベシア:「ここへ連れてきて。」 ベッドに寝かされたブーンに、器具を当てる。 ケイコと話すオブライエン。「せっかくの休暇がとんだことになったな。」 ケイコ:「いいのよ、またゆっくり行きましょ?」 「ケイコ、来週は法廷には来なくていい。」 「裁判はまだ終わってないわ?」 「君を奴らの見せ物にしたくないんだ。」 「マイルズ、あきらめちゃ駄目よ。」 「いいから来るな。」 静かな音が響き渡った。立ち上がるカーデシア人の子供たち。 マカバーがやってくる。「審議を、再開します。…被告は前に進み出て証言しなさい。」 オブライエン:「証言することなんか何もない。」 「カーデシアの法では証言拒否は許されません。前へ出なさい。」 降りてくるオブライエン。 コヴァット:「おいどうした、ここでネストールが被告に助言するんだ。」 オドー:「助言って何を助言するんです。」 「何をって自白だよ。身を投げ出して、慈悲を乞わせるんだ。」 「そんなことしたからって判決が変わるんですか? 変わらないでしょ。」 「違う! そういう問題じゃないんだ。…子供たちも、審議を見てるんだぞ? 被告は、遂に最期が近くに迫ったことを知り…ここで罪を悔い改めて、涙ながらに自白するんだよ。どうせ処刑され死んでいくなら、悔いてから死なねば。」 マカバー:「ネストール、あなたから被告に助言することはありませんか?」 オドー:「いいえ、何もありません。」 「…よろしい、保護人進めなさい。」 コヴァット:「……ミスター・オブライエン。子供の時、親から虐待を受けたことは。」 オブライエン:「何?」 「…だから児童虐待ですよ。暴力を振るう両親を、憎んでいませんでしたか。」 「いや、優しい両親だった。」 「そうですか。…あ……では、妻からの虐待はどうです。奥さんが原因で、心理的なストレスを感じることは。」 「妻はいつも私を支えてくれる素晴らしい女性ですよ。」 「そう怒らずに。私はただあなたのようないい人が、犯罪者になった背景を説明しようとしてるだけでしてね。少しは協力して下さいよ。」 「それはできないね、僕は犯罪者じゃない。」 「ああ…それじゃあ、仕方がない。」 マカバー:「…ミスター・オブライエンは今までに、何人のカーデシア人を殺しましたか。」 オブライエン:「殺す? いえ…戦争が終わってからは一人も。」 「戦争中も含めてです。あなたは何人のカーデシア人を殺しましたか?」 オドー:「執政官殿、ミスター・オブライエンの戦争中の経験が裁判と関係あるんですか?」 「もちろん、過去の犯罪歴が裁判に深く関わってくるのは当然です。質問に答えて下さい。」 オブライエン:「わかりません。」 「そんなに大勢?」 「戦争でしたから双方とも仕方のないことでしょ。」 「正直に言って下さい。戦争が終わった今、あなたの心にはカーデシア人に対する温かい気持ちがありますか。それともカーデシア人への偏見がまだ消えていないのでは。率直に言ってカーデシア人を憎んでいませんか。あなたは公の場で何回か発言した際に現在の、和平協定を批判してこう言ったそうですね。『カーデシア人の奴らは信用できない』と。」 「質問に答えるのを拒否します。」 「カーデシアの法律では拒否は許されていません。さあ答えて下さい。そういう発言をしたことはないですか、ありますか。」 うなだれるケイコ。 「…ええ、あります。」 立ち上がるコヴァット。「執政官殿。この時点で既に被告の罪は十分に立証されたことと思われますので、有罪の判決を認める以外にはないと考えますが。」 オブライエン:「バカな、僕は認めないぞ!」 マカバー:「席について下さい、ミスター・オブライエン。」 「僕は無実だ、何の罪も犯しちゃいないんだ。こんな裁判にもカーデシアにも、僕は絶対に屈服したりしないからな。」 コヴァット:「執政官殿、申し訳ありませんがこの依頼人は私の手には負えません。」 マカバー:「構いません。あなたの弁護ぶりはいつものことながら見事でしたよ? コヴァット保護人?」 「どうも、ありがとうございます。難しい審議でしたが、執政官殿と仕事をさせていただくのは光栄です。」 その時、法廷に入る者がいる。ブーンだ。 シスコが続く。ブーンはマカバーを見た。 コヴァット:「異議あり、異議を申し立てます! 執政官殿、法廷へのこのような不法侵入は許されないことですぞ!」 マカバー:「いいから、席へ戻りなさい。」 座るコヴァット。 マカバー:「この事件でも、カーデシアの司法制度は国民を守るために機能し罪を犯した者は、裁きの場に連れてこられました。しかし、我が国の司法制度には情状酌量の余地がないというわけではありません。ミスター・オブライエンを見るに、家族との強い絆があるため、更正の可能性は非常に高いと言えます。また今回の審議を通じて被告はカーデシアの司法に対する、感謝の念を深めたことでしょう。以上のことから、これからのカーデシアと連邦の関係を重視するという見地から、ここに判決は無効と宣言し、ミスター・オブライエンを釈放し上司であるベンジャミン・シスコ司令官に引き渡します。」 喜ぶケイコ。シスコは硬い表情のままだ。 マカバーは石を叩いた。微笑むオブライエン。 コヴァット:「これは、一体。どうなったんだ…。」 オドー:「勝ったんです。」 ケイコに続いて出ていく。 「そんな! ……殺されてしまう。」 ランナバウト。 ケイコ:「マキがブーンのことを知らせてくれたんですか?」 シスコ:「ドクターが身体検査をしたら、ブーンの臼歯が一本ないことがわかってね。DNA 鑑定の結果、カーデシア人だってわかったんだ。」 「整形手術を受けてたんですか?」 「8年前に本物のブーンと入れ替わったらしい。本物のブーンはセトリック3 で捕虜になり、殺されてしまったそうだ。」 オブライエン:「でもよく気づきましたね。」 「別れた奥さんが捕虜生活から戻ってきた夫は別人だった。カーデシアによほどひどい目に遭わされたらしいって言うんだ。それでもしかしたらと思ってね。」 「じゃああいつカーデシアのスパイだったんですか。ラトリッジで一緒だった頃からもう。」 ケイコ:「何でマイルズをはめようとしたのかしら。」 オドー:「チーフでなくとも誰でもよかったんですよ。カーデシアはこの裁判で連邦の信用を落とそうとしたんです。連邦はマキに対して、援助してるって見せかけてね? ガル・イヴェックが法廷で言ってたとおり、今の事態に耐えかねてるんでしょう。」 オブライエン:「この事件を理由に、連邦植民地の撤退を要求する気だったんだ。」 シスコ:「その通りだ。ところが執政官はブーンを見て、全国民の見ている前で高等司令部が連邦に黒星を喫することになるって気づいたのさ。」 ケイコ:「ああ…あなたが無事でよかったわ。」 オブライエン:「フン。戻ったら仕事にかかります。」 シスコ:「おいおい、何を言ってる。司令官としての権限をフルに使って君の休暇を延長してやったんだぞ。帰る途中で落としていってやる。」 「だけど荷物もないし、ホロ・カメラもないし。マニュアルもありません。」 ケイコ:「完璧ね?」 笑う二人。額を合わせる。 ランナバウトは、ワープに入った。 |
※30: 「昇進試験に失敗して」と訳されていますが、それぐらいでいきなり除隊されるのは変ですね |
感想
"The Maquis, Part II" 「戦争回避(後編)」で、デュカットが触れたカーデシアの法制度。そのセリフを元に作られた、旧題を "Dark Tribunal" 「暗黒の法廷」というオブライエンの受難ものです。TNG のラトリッジやセトリック3号星はもちろん、マキまで絡めた複雑な設定に痺れさせられます。シーズン・フィナーレの一話前は、こういう名作・意欲作が目立ちますね。 初登場となるカーデシア・プライムの建物内装や散らばるモニターといった描写は、ジョージ・オーウェル作「1984年」からヒントを得たそうです。ある意味巻き込まれてしまった (と思われる) コヴァット保護人は、哀れですね。 |
第44話 "The Collaborator" 「密告者」 | 第46話 "The Jem'Hadar" 「新たなる脅威」 |