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ディープスペースナイン エピソードガイド
第38話「クワークの愛」
Profit and Loss

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・イントロダクション
スクリーンに船が映っている。
キラ:「カーデシアの船だわ。」
ダックス:「故障してるわ、エンジンが全く動いていない。」
シスコ:「私が呼びかけてみよう。…ディープ・スペース・ナインの司令官のシスコだ。どうかしたのか。」
ふらつくヒデキ級※1カーデシア船。
ダックス:「応答ありません。生命維持装置も予備のパワーで動いています。」
シスコ:「トラクタービームで、第7貨物ドックに牽引しよう。オブライエンを呼んでおいてくれ。」
牽引される船。そのままドッキングされる。

保安部員がエアロックを見張る中、貨物室にカーデシア人たちが降りてきた。
シスコ:「歓迎します。私はシスコ、DS9 の司令官です。こちらは、テクニカルチーフのオブライエン※2。治療が必要な方はいますか。」
カーデシア人の女性。「いいえ、私達は大丈夫です。私はナティマ・ラング※3教授。こちらは教え子のルケラン※4とホーグ※5です。」 若い男女がいる。
オブライエン:「何があったんです?」
ラング:「隕石の嵐に遭って。私の操縦で乗り切るには無理がありました。…故障個所は修理できますか?」
「それは、見てみないと。失礼します。」 部下のエンジニアも入る。
「できるだけ早く出発するつもりです。ベイジョーのステーションに、カーデシア人がいてはトラブルになりましょう。それだけは避けたいのです。」
シスコ:「オブライエンに任せておけば、船の方は心配ない。修理が終わるまで、遠慮なくご滞在を。…プロムナードの中だったら、トラブルも起きないと思います。」

クワークの店の 2階で話すベシア。「おいおい、ちょっと待てよ。じゃなにか? 君はイエーリ将軍※6が兄弟を処刑したのに賛成するってのか?」
ガラック※7:「もちろん賛成ですとも。彼はトレロニアン※8政府を裏切った重罪人なんですよ?」
「だが状況証拠しかないんだぞ?」
「これは証拠うんぬんの問題じゃない。忠義の問題です、先生。イエーリは板挟みになったんです、兄弟を取るか、国家を取るか。で、国家を取った。もちろん、私でもそうしますねえ?」
「それも、一つの考え方だな。だけどねえ、人に誠実であるためには自分に正直でないと。」
「おやおや、誰ですか? そんな下らない格言を残したのは。ヴァルカンのサレク※9ですか?」
「いや、今のはベシアのさ。地球のね。」
「そんなおセンチを言ってたら、カーデシアじゃ 5秒も生きていられませんよ。」
「君は?」
「…また探りを入れてるんですか。」
「君がスパイじゃないとしたら…」
「ないとしたら。」
「きっと、追放処分だろうな。」
「スパイかも、追放処分になった。」
「ヘ、そんなのありえないよ。」
「私はどっちでもないですよ。」
ため息をつくベシア。

クワークの店に入るオドー。「面白い噂を一つ聞いた。」 カウンターの奥には、モーンがいる。
クワーク:「一つだけか、10 は流したのにな。」
「その噂によるとお前は小型の遮蔽装置を手に入れたそうだな?」
「そんな噂信じるのか。」
「お前の悪事なら信じる。」 クワークの襟に指をかけるオドー。「ベイジョーの法律ではそういう装置は厳しく禁止されているはずだぞ?」
「もしもってりゃあな? でももってねえよ。」
「フン、そうくるだろうと思ったよ。ただこれだけは言っておくぞ? もしお前がその装置を売ろうとでもしようもんなら、50年は強制労働所にぶち込んでやる。」
「しつこいなあ。…そんなもんもってねえよ。」
ふと外を見るクワーク。ラングたちに気づいた。
クワークは慌ててカウンターを出る。「失礼!」
ぶつかられた客。「おい、何だい。」
クワーク:「通してくれ、失礼。」 叫ぶ女性。
前に立つクワーク。「ナティマ。」
ラング:「クワーク。」
「きっとまた…」
ラングはいきなり、平手打ちした。「二度と話しかけないでって言っておいたはずよ。」 歩いていく。
オドー:「おい大丈夫か?」
クワーク:「大丈夫? …我が人生最高の日だぜ…。」 瓶をオドーに渡し、ラングを追いかけていく。


※1: Hideki-class
恐らく初登場ですが、まだクラス名は言及されていません。参照

※2: 吹き替えでは「オブライエン少尉」。原語では「チーフ・オブ・オペレーションズのオブライエン」としか言っていません。無理に階級をつけるとすれば、この時期は「准尉」かも (参照)

※3: Natima Lang
(メアリー・クロスビー Mary Crosby TNG ヤー役デニス・クロスビーの祖父であるビング・クロスビーの娘、つまりデニスから見ると叔母 (といっても年齢は 2歳差)。ドラマ「ダラス」で「J.R.を撃った」、クリスティン・シェパード役) 姓のラングは一貫して訳出されておらず、そのため「ラング教授」と言うべきところも全て「ナティマ教授」になっています。声:一城みゆ希、TNG クラッシャーなど

※4: Rekelen
(ハイディ・スウィバーグ Heidi Swedberg ドラマ「となりのサインフェルド」で、ジョージの婚約者スーザンを演じました) 声:榎本智恵子、DS9 リータなど

※5: Hogue
(マイケル・ライリー・バーク Michael Reilly Burke TNG第153話 "Descent, Part II" 「ボーグ変質の謎(後編)」のゴーヴァル (Goval)、ENT第79話 "Home" 「ヒーローたちの帰還」などのヴァルカン人コス (Koss) 役) 声:佐久田修

※6: General Yiri

※7: Garak
(アンドリュー・ロビンソン Andrew Robinson) DS9第25話 "Cardassians" 「戦慄のカーデシア星人」以来の登場。声:大川透

※8: Trelonian

※9: Sarek
TOS第44話 "Journey to Babel" 「惑星オリオンの侵略」などに登場した、スポックの父親

・本編
階段を登っていくカーデシア人たち。
追いつくクワーク。「ナティマ、待って。なあ、せめて酒を一杯おごらせてくれよ。サマリアン・サンセット※10を作ってやるからさあ。」
ラング:「私、最近サマリアン・サンセットは飲まないの。」
「…何でだよ。」
「あなたを思い出すからよ。」
カーデシア人男性のホーグ。「このフェレンギ人、追い払いましょうか。」
クワーク:「俺様はなあ、ナティマの古いお友達だぞ。お前こそ誰だ。」
ラング:「私の教え子よ。」
「教え子ってことは先生? …俺もあんたの授業受けたいもんだ、何を教えてんだ?」
ホーグ:「政治倫理※11だよ。」
もう一人の教え子、女性のルケラン。「先生の教えがカーデシアの未来を変えるわ?」
ラング:「よしなさい、ルケラン。」 階段を降りる。

つきまとうクワーク。「つれないなあ、もっと教えてくれよ! 昔からきっとナティマは偉くなるって思ってたんだ。」
ラング:「クワーク!」
「一杯だけだよ。」 クワークは店に入れた。「昔みたいだな。」
「昔みたいになんかならないわ。」
「ああ、昔よりずっといい。すぐに飲み物を作ってくるから。」 カウンターに戻るクワーク。「えーと。」
オドー:「手が震えてるぞ?」 瓶をカウンターに置く。「それで? あの女とはどの程度の知り合いだ。嫌われてる程度か、それとも心底恨まれてる程度か?」
「彼女もここで働いてたのさ。カーデシアの情報サービスの特派員だったんだ。…お前が来る前だよ。」
「で、どの程度だ。嫌われか、恨まれか。」
「お前には関係ないだろ。ま、言っておくがな。彼女は俺にホの字でね。」 グラスを持って出るクワーク。
「フン! あの大ボラ吹きめが。」
戻ってきたクワークに言うホーグ。「おい、俺たちには。」
クワーク:「飲みたいならバーに行って飲んでくれ。」
ラング:「行ってらっしゃい?」 ホーグとルケランは離れた。
「サマリアン・サンセットだよ。」
クワークがグラスを叩くと、透明だった液体が鮮やかな色を発した。
ラング:「……これを飲むのはやめたって言ったでしょ?」
クワーク:「俺を思い出すからだろ? でも本人が目の前にいるんだから別にいいじゃないか。…それに、店のおごりだ。」
オレンジ色になった液体を見つめるラング。
クワーク:「君は相変わらず綺麗だ。」
ラング:「あなたも相変わらず嘘つきね!」
「こういう喧嘩も昔と同じだ。会いたかったよ、ナティマ。嘘じゃない。」
「……忙しくしてるみたいね?」
「ああ、まあ商売は上手くいってるよ? でも、金儲けの秘訣第223条※12…」
「やめて! この 7年間、金儲けの秘訣は聞いていない、もう聞きたくないの!」
「…で、どれぐらいここにいるんだい?」
ガラック:「どうも、今日も楽しいランチでしたよ、先生。」 2階から降りてくる。
ベシアもラングに気づいた。
無言でそばを通り、出ていくガラック。
ホーグとルケランが戻る。
ラング:「このステーションに、まだカーデシア人が残ってるなんて。」
クワーク:「今はあいつだけ…」
ホーグ:「どうしますか。」
「どうかしたのか?」
ラング:「なるべく早くここを出ましょう。失礼するわ、ごちそうさま。」 店を去る。
「でも…飲んでないのに。」

司令室に入るオブライエン。
シスコ:「修理の進み具合は。」
オブライエン:「思ったより、損傷が激しいですねえ。よく攻撃に耐えましたよ。」
「攻撃?」
「隕石の嵐じゃない。あれはカーデシアの戦艦にやられたんです。」
キラ:「…そんなのおかしいわよ。カーデシアがカーデシアの船を攻撃するの?」
ダックス:「本人に聞いてみたら?」
ラングがターボリフトを降りた。「申し訳ありませんが、船を返していただけます?」
シスコ:「それはできません。まだ修理が終わってないんです。船の損傷は、我々が予想していたよりもひどい。それに…」
「カーデシアの武器で攻撃されたとおっしゃりたいのね。その通りです。」
ホーグ:「先生。」
「いいのよ、ホーグ。初めからちゃんと言うべきだったわ?」
キラ:「なぜ言わなかったんです?」
「カーデシア人以外を、カーデシアの内政に巻き込みたくないからです。特にベイジョーの方々に。」
シスコ:「同胞に攻撃されるなんて、政治の域を超えてますね。」
「私達の政治は深刻ですわ。教え子を安全なところに逃がさなければ、殺されてしまいます。2人が死ねば、カーデシアの未来も消えるかもしれないのです。」


※10: Samarian Sunset
TNG第114話 "Conundrum" 「謎めいた記憶喪失」より

※11: Political Ethics

※12: 現在まで、正史ではこの条文は明らかになっていません。ですが放送後の 1995年に出版された、Ira Steven Behr 著 "The Ferengi Rules of Acquisition" には掲載されており、次のような内容になっています。"Beware the man who doesn't make time for oo-mox." 「ウー・マックスの時間を取らない男には気をつけろ」(隣の写真もクワークとラング)。週刊スタートレック第32号 (FILE 14 CARD 3) にも載っていますね

司令官室。
ラング:「カーデシアの将来を、軍に渡すべきでないと考える人々もいるのです。」
シスコ:「あなた方も?」
ホーグ:「ええ、そうです。」
ラング:「ルケランとホーグは、その運動の大事な指導者なのです。」
シスコ:「…ではあなた方は、亡命者か。」
「軍部は我々の活動を恐れています。」
ルケラン:「一度殺されたかけたこともあります。また狙われるわ。」
「だから 2人を、ステーションから出したいのです。できるだけ早く。」
シスコ:「クルーを増員して、早く修理が終わるようにしましょう。」
ホーグ:「さっきカーデシア人を見かけたのです、バーでね。」
「ガラックか、であっちは。」
ラング:「ええ、見ていました。」
「…そうか、面倒になるかな。あのガラックは我々にも謎の男でね。皆さんの泊まる部屋は、安全なゲスト区域にしましたから。」
「ありがとうございます、司令官。」
ため息をつくシスコ。

ガラックの店に、クワークが入った。
ガラック:「ああ、ミスター・クワーク。驚きましたねえ。私の店にいらしたのはこれが初めてでしょ。」
クワーク:「あんたも俺の店には滅多に来ないね。珍しく今日は見かけたけどな?」
「レプリマットが少々混んでいたのでね。ところで、どういう御用件でしょうか。」
「ああ、ちょっと洋服を見に寄ってみたんだよ。…おお、あれはいくらだ。」
「あれは…ラチナムの板※13 17枚です。」
「うーん、じゃどうだ。20枚出そう。」
「20枚! これはまたフェレンギ人にしては信じられない気前のよさだ。」
「同じ商売人同士助け合わなくっちゃ、どうだこれから仲良くしようぜ。」
「これが私の星では流行の最先端なんです、お気に召しました?」
「カーデシアのファッションには疎いんだ、あんたどう思う?」
「私にもわかりませんよ。長いことカーデシア人の御客様は来ませんし。」
「じゃあんたツイてるぜ! 今ステーションにカーデシア人が来てるんだ。」
「ええ、お見かけしました。あなたのあの…女友達なら、こういうスタイルがお好きかもしれませんねえ? …長いお付き合いなんでしょ?」
「目がよく利くね、カーデシア人にしちゃ。」
「あなたの様子を見れば一目瞭然ですよ。」
「あんたこそ彼女じっと見てたんじゃねえの。」
「個人的には、こういうスタイルは少々過激だと思いますが。でもお友達は、過激なことがお好きなようですからねえ。」
「人が違えば意見も違う、何も悪いことじゃないさ。」
「しかし流行を追いかけることは時には実に愚かな結果を招くこともあります。例えばこれ。今でこそとても過激に見えますが、もう少しすれば飽きられて捨てられてしまうかもしれません。ある種の人々の目には、物議を醸し出すとんでもない服に見えるかもしれない。結局…」 ドレスを引っ張り、切れ目を入れてしまうガラック。「ただのボロ切れです。」
「…よくわかった。」
「ミスター・クワーク。無料でアドバイスを差し上げても、構いませんか?」
「聞いてもその通りするとは約束できねえよ。」
「私はこの商売を始めてもう随分になりますが、間違った流行についていくほど悪いことはありません。…あなたは賢い御方だ。他人には、真似のできない何かをおもちだ。あなたから、あのお友達に伝えていただけませんか。流行の犠牲になるのは、おやめなさいってね。」
「そりゃ一体どういう意味だ?」
「お友達の連れの 2人は、言うなれば爆発物のようなものです。一緒にいるとお友達もとばっちりを受けますよ。…あの 2人が流行遅れになった時にねえ?」
詰め寄るクワーク。「ナティマに何かしたらこの俺が相手になるぜ?」
ガラック:「何をするつもりです。ダボのテーブルで相手でもするんですか。」
「……やっぱりそのドレスはもらうよ。」
「どうも!」
「直しといてくれ。」

部屋にいるラング。「私に何の用なの?」
クワーク:「困ってるんだろ、助けてやりたいんだ。」
「あなたの世話にはならないわ。」
「そう言うなよ。あの時君が俺を当局に突き出してたら、俺は死刑になってた。」
「あなたが勇敢だったからよ。あの頃ベイジョー人に、食料を売るなんてすごいことだった。名誉を知る人だって思ったの。」
「フェレンギ人に名誉なんてねえよ。」
「そうね、私がバカだった。その上…。」
「言えないのか?」
「…考えたくもないわ。」
「それなら、俺が言ってやるよ。二人は恋に落ちた。一緒に過ごしたあの一月は人生最高の日々だった。違うかい。」
「欲望と愛情とを取り違えてるわ?」
「そりゃそういう時もあるけど今回は違う。君を愛してるんだ。」
「なら何で私を裏切ったの!」
「裏切ってねえよ。」
「もう嘘はつかないで! だまされないわ。私のアクセスコードを使って、売ってもいない品物の代金をせしめたくせに。」
「カーデシアの情報サービスからちょこっと金を頂いただけだよ。大したことはねえ。」
「あれは盗みよ。」
「金儲けのチャンスだったからやっただけだ。悪いことだったかもしれん。だが俺が後悔してるのは、君の信頼を裏切ったことだ。生涯最大の過ちだったよ。」
「そう言いながらまたやるくせに。あなたを信じてたわ。でもあなたは私を、利用しただけだった。金のために。」
「償いをさせてくれ、力になりたいんだ。見返りなんかいらないから。」
「ほんとに?」
「いつまでも君といられれば。」
笑うラング。「私はここにはいられない。教え子を見捨てるわけには…」
クワーク:「いいかい、ナティマ。出てっちゃダメだ。本気だぜ。いま君が出ていったら俺はどこまでも追い回す。どこへ逃げたって、絶対に君を取り戻すさ。」
「私はもう昔の私じゃないわ。カーデシアの地下活動をしているの。一緒に来れば、あなたも殺される。」
「別に構わないさ。」
「じゃバーは?」
「バーなんかどうでもいい、ロムにやるさ。あいつの経営じゃすぐに潰れるだろうが、俺は君といたいんだ。」
「それはダメよ。私のためなら何でもする。あなたは今はそう言ってくれるけど…私にはわかるわ。最後には自分が一番可愛くなるのよ。」
「…愛してるんだ。」
「私は愛してないわ。」
「ああ、嘘つきはどっちかな。」
「もう帰って。」
「…わかった。でも助けがいる時は、言ってくれよ。待ってるから。」
「一生待つつもり?」
振り返りながら、ラングの部屋を出て行くクワーク。

報告するオブライエン。「ナティマの船は後一時間で準備ができます。」
シスコ:「よし、知らせてこよう。」
キラ:「…カーデシアの戦艦が急速で接近中です。」
「スクリーンへ。」
ガロア級の戦艦が映る。
シスコ:「呼びかけてみろ。」
ダックス:「応答ありません。」
キラ:「攻撃する態勢を取っています。」
ダックス:「依然応答なし。」
オブライエン:「武器にパワーを充填しています。」
シスコ:「シールドを。」
キラ:「シールドアップ!」
「フェイザーと光子魚雷をロックオン、必要なら攻撃せよ!」
ガラック:「司令官。」 司令室に入る。スクリーンには迫るカーデシア戦艦が映る。「話し合った方がよさそうですね?」


※13: 吹き替えでは「延べ棒」(数え方は「本」)。bar ではなく strip です

司令官室に入るシスコ。「よーしガラック。カーデシアの戦闘機が、なぜこのステーションを威嚇してくるんだ。」
ガラック:「誰も威嚇などしていません。あれは中央司令部※14が、あなたの関心を引きたくてやっていることです。」
「十分引かれたよ。これはナティマと教え子 2人に関係あることか?」
「『教え子』だなんてそんな可愛いものじゃありません。『テロリスト』と、呼ぶべきでしょうか。カーデシア政府は、ホーグとルケランが直ちにカーデシアに戻ることを希望しています。」
「2人は罪を犯したわけではない。ステーションにいる間は何をしようが 2人の自由だ。」
「司令官。これは非常に恥ずべき事態です。中央司令部はこのような下らない事件に、連邦が引っ張り込まれるのを望んではいません。…内政問題ですし。」
「下らないとはとても思えないね。戦艦を派遣してくることから見て、中央司令部はホーグとルケランを危険人物だと思っているらしいな。」
「いいえ、まさか。不愉快だし迷惑な存在かもしれませんが、危険とは言えませんよ? 危険人物なら、私のような一介の仕立て屋に、事態の収拾を任せません。」
「フン、このことで私の疑いは確信に変わったよ。やっぱり君は一介の仕立て屋じゃなかったんだな。」
「よして下さい、司令官。それはまた別の問題じゃありませんか。今あなたに知っていただきたいのは、2人をカーデシアに返すことが、カーデシア帝国の利益に沿う道だということです。」
「少なくともカーデシアの軍部の利益には沿う道だな。」
「同じことでしょ?」
「しかしだねえ、連邦が管理してるベイジョーのステーションから、はいそうですかと政治亡命者をカーデシアに引き渡すと思うか。」
「最終的な決定を下すのはあなたです。私は伝言を、伝えただけで。」
「…ではこう伝えろ。もし中央司令部が、ホーグとルケランを力ずくで取り戻すというなら、私も力で対抗すると。わかったかな、ミスター・ガラック。」
「よくわかりました。ありがとうございました。ああ、もしよろしければ、今度ぜひ店にどうぞ。司令官によく似合いそうなスーツを、取りそろえてございますので。」

グラスを運ぶクワーク。「はーいお待たせ、カナール※15 2つ、店のおごりだ。」
ホーグ:「注文してないぞ。」
「この前 2人におごり損ねたからな。あの時は悪かった、でもいろいろとあったもんでねえ。いいかな?」
ルケラン:「悪いけど断るわ。」
ホーグ:「先生が君は信用できないって言ってた。」
クワーク:「おお、カーデシア人ってのはこれだから参っちまうなあ。実は 7年前、俺とナティマはちょっとしたことから痴話喧嘩をしちまってねえ。でも、過ぎたことは過ぎたことさ。俺は全て水に流すつもりでいるんだ。」
「先生は流す気はないぞ。」
「よっぽど先生を大事に思ってるんだなあ、感動的。」
ルケラン:「先生のためなら何でもするわ? あなたと話すなって言われればそうするし。」
「当然だよなあ、ナティマは君たちの先生なんだ。言うことは聞かなきゃ。そうか、せっかくこのステーションから無事に五体満足で逃がしてやろうって言ってるのにな。いいけどね、おりゃ別に。」
ホーグ:「待て。」
ルケラン:「ほんとに逃がしてくれるの?」
クワーク:「…できないことじゃない。」
ホーグ:「どうやって。」
「……ちょっと待ってろ。」 いきなりテーブルを叩くクワーク。
椅子も叩き、辺りを見る。カナールに指をつけ、飲んでみる。
その様子を見ているホーグとルケラン。
クワーク:「セキュリティチーフは流動体生物でね。気をつけないと。…聞いたことがあるだろう。遮蔽装置ってえのを。実はそいつがあるのさ。あまり状態は良くないが、15分間はちゃーんと動く。ここから逃げ出すには十分だ。」
ルケラン:「ずいぶん高そうね。」
ホーグ:「ラチナムはあまりないが、もっているだけ全部支払おう。」
クワーク:「全部って、一体いくらもってるんだ? あ、いやつい癖でね。忘れてくれ。別に金はいらないよ。プレゼントだ。」
ルケラン:「驚いたわね、フェレンギ人がタダで物をくれるなんて。」
「おお…誤解されやすい民族なんだよ。」
ホーグ:「君は命の恩人だ、同志も感謝するだろう。」
「金はいらないが一つ条件がある。ここに留まるようナティマを説得してほしい。」
ルケラン:「先生はそんなこと絶対承知しないわ?」
「承知しないなら、遮蔽装置はなしだ。つまりステーションからは出られない。」
「でも無理だわ。」
「そこを説得するんだ。どっちにしろ、カーデシアが追ってるのは君たちだろ?」
ホーグ:「その通りだ。先生まで巻き添えにするわけにはいかない。」
ルケラン:「じゃあ頼んでみましょうか。」
クワーク:「頼むんじゃない! 言い渡せ。」
ホーグ:「わかった。説得してみる。」
「当てにしてるぜ? …もし、君たちがカーデシアに捕まったら何をされるか、わからねえ。」
「一時間後に部屋に来てくれ。」
「よしわかった。」

DS9 のそばまで来ているガロア級戦艦。
ラングはドアチャイムに応えた。「どうぞ。」
クワークが入り、その手には布に包まれた物を持っている。「ルケランとホーグはどこだ。」
ラング:「船で待っているわ。」
「そうか。俺が今使ってる部屋はそんなに広くないけどさ、明日の朝一番に大きい部屋に替えてもらうよ。」
「そんな必要ないわ。」
「わかったよ。最初は自分の部屋が欲しいって言うんなら、そう手配するから。」 取りだした装置を置くクワーク。
「私は残らない。」
「おいちょっと待てよ。あの 2人も同意したことだぜ? ……2人は逃げる、君は残る。そうすればみんな幸せだ。」
「私を愛してるんなら、遮蔽装置をちょうだい。黙って私を行かせて。」
「また君を失えって言うのか?」
「私はあなたのものじゃない。」
「いいや、そうだ。君は俺のものなんだ。君に捨てられてから後悔しない日はなかった。なのにまた君を失うなんてもう耐えられないよ。」
「私達はとっくに終わってるのよ。」
「わかったよ。じゃあ言ってみろよ。俺に対してはもう愛情のかけらも残ってないって…」
「あなたには愛情のかけらも残ってない!」
手を叩くクワーク。「ほーらやっぱりな!」
ラング:「何よ。」
「ためらったぞ? まだ想ってくれてるんだ。」
「こんなことしてる暇はないのよ! 遮蔽装置を渡して!」
「渡さない。君を行かせてたまるか。」 クワークは遮蔽装置を手にした。
棚から何かを取り出すラング。「クワーク。こんな真似はしたくなかったけど。遮蔽装置が必要なの。」 銃を向けた。「それを渡して、早く。」
クワーク:「断ったら……俺を撃つのか?」
「必要とあればね。」
「なら撃ってみろよ。」 ラングの銃に手を伸ばすクワーク。
だがラングは発砲した。
クワークは叫び、倒れる。遮蔽装置を床に落とした。


※14: 初言及

※15: kanar
TNG第86話 "The Wounded" 「不実なる平和」など

近寄るラング。「クワーク、クワーク大丈夫?」
クワーク:「撃ちやがったな。」
「本当に撃つつもりはなかったのよ。フェイザーを撃つのは初めてなの、引き金に触っただけなのに…」
銃を取り上げるクワーク。「気をつけろよ。おお、おお…。」
ラング:「痛む?」
「おお、痛むときたぜ…痛むに決まってるだろ。フェイザーなんだぞ?」
「でも一番低い目盛りにしたのに。」
「そりゃありがたいこった。」
「お医者様を呼ぶ?」
「うん、うーん、うん。大丈夫だ、なでてくれれば。」
「…ああ、クワーク。ごめんなさいね?」
「ほんとか?」
「ええ、ほんとにごめんなさい。あなたにひどいことばっかり言って。」
「じゃあれは嘘だったの?」
「愛してるわ、クワーク。昔からずっと。憎くても好きだった。」
キスするクワーク。「ナティマ。」
ラング:「寂しかったわ。会いたくてたまらなかった。あなたと過ごした日々は幸せだった。」
「また一緒になれたんだから、今度こそずっと幸せに暮らそう。」
「…そんな簡単だったらいいけど。」
「君がそう望めば。」
「私はもう 7年前の私じゃないわ。私には責任があるの。」
「俺も分け合うよ。」
「活動は私の全てなの。ほかのことをしてる暇はないのよ。」
「時間は作るもんだ。」 ラングの首筋に触れるクワーク。「君は女だ、俺にはよくわかる。女が独りでいるなんてよくないよ。」
「私は独りじゃないわ。教え子もいるし。よりよいカーデシアを、造る夢もあるの。」
「夢だけでいいの? …夢が笑わせてくれるかよ。夢が夜抱きしめてくれる?」
「いいえ。でも夢のためなら、少々の犠牲は我慢できるわ。」
「でも夢のために幸せになれないって法はない。」
「…あの頃はほんとに楽しかった。」
「ホロスイートを造った日のこと覚えてる?」
「…私入ったのは初めてで。」
「あのプログラムはまだ取ってあるよ。ライマス・メイジャーでピクニック※16。空には太陽が 2つ。」
「滝の音が聞こえてきて…」
「小鳥※17たちが二人の頭の上を飛び交って。」
「あなたは蜂蜜で顔に絵を描いた。」
「モルディアン・チョウ※18が君の鼻の頭にちょーんと止まったっけ。」
「そうそう。あのチョウチョ、蜂蜜に引っ付いて飛び立てなくってね。」 笑うラング。
「…そんな君を見て胸が高鳴ったもんだ。」
「…楽しかったわ。」
「最高だった。…もう一度あの頃に戻れるんだ。ホーグたちに遮蔽装置を渡すよ。あの 2人さえ行ってしまえば、君はもう安全だ。」
「2人を見捨てることはできないわ? 教え子だもの。」
「俺は見捨てるのか?」 抱き合うクワーク。「よく聞いてくれよ、ナティマ。君はもう十分やった。もう火はついたさ。たいまつはちゃんと受け継がれる。それとも君がいなければ活動は終わりなのか。」
「そんなことはないわ。」
「ならいいだろ。これからは、二人で幸せになるんだ。」
「…本当に私のことを愛してくれてるの。」
「ああ、全身全霊をかけて愛してるさ。永遠にだ。……そばにいてくれ。」
「…ええ、クワーク。そばにいるわ。」
「君がそう言ってくれるのをどんなに待ったか。」
ドアチャイムが鳴った。慌てて立ち上がる二人。クワークは遮蔽装置を隠す。
ラング:「どうぞ?」
オドー:「ラング教授。」
クワーク:「後にしてくれよ、オドー! 気が利かないなあ。」
「邪魔したんならすまないな。申し訳ありませんが、あなたを逮捕します。」
ラング:「何ですって。」
クワーク:「何の罪でだ。」
オドー:「司令官から聞け。本当に、申し訳ない。」
「ちょっと待てよ…」
ラング:「クワーク。いいのよ。」
残されるクワークは、ため息をついた。

拘束室。
オドーに合図するシスコ。フォースフィールドが解除された。
ホーグたちと独房にいたラング。「司令官、どういうことか説明して下さい。」
中に入るシスコ。「…あなた方は 3人とも、カーデシア政府に引き渡されることになりました。」
ルケラン:「そんなバカなこと!」
「私もしたくなかった。しかしカーデシアはあなた方とベイジョーの捕虜 6人の交換を申し出てきたのです。」
ラング:「同意したんですか。」
オドー:「司令官じゃない、ベイジョー政府が同意したんです。カーデシアの貨物船が 5時間以内に、捕虜をベイジョーに連れてくることになっています。」
「捕まったらどんなことをされるか、ご存知ないのね。」
ルケラン:「狙いは私達でしょ、せめて先生は解放して。」
シスコ:「そうしたいのは山々だが、ベイジョー政府は 3人とも引き渡すように命令してきたんです。もちろん反対はしましたし、何とか手は尽くしてみますがここは…ベイジョーのステーションなのでね。政府の決定には従わないと。どんなに不本意でも、仕方がないんです。」

ガラックの店に、カーデシア人士官が入った。「落ちぶれたものだな。」
振り向かずに尋ねるガラック。「トランか。」
トラン:「今はガル・トラン※19だ。」
「…お前がガルになるとは、カーデシアの人材不足がそれほどとは思ってもみなかった。」
「毒舌も負け犬の遠吠えに聞こえるぜ? 追放されたとはいえ、これほど惨めにしているとはなあ。」
「実を言うと、ここでの生活はとても気に入ってるんだがな?」
「また故郷へ返り咲こうとは思わないのか?」
「…それはホーグとルケランがステーションにいることを、中央司令部に通報した御褒美というわけかな?」
「ああ、まあな。」 近づくトラン。「ただし、奴らが生きてステーションを出ないようにしてもらいたい。」
「私は人質の交換を提案したはずだがな。中央司令部も承知した。」
「私が反対したんだ。」
「決定を変えたのか。」
「お前よりは私の発言力の方が強い。」
「3人を殺せば殉教者を作ってしまうだけだ!」
「あんな奴ら、そんな影響力はない。」
「殺すといっても一体どうやって不運な事故を装えばいいんだ。」
「それはお前が考えることだ。そういうのは得意だろ。わからないか? …ナティマを殺せばお互いに得だ。もちろん一生ここで仕立て屋をやる気なら、構わんがね?」
「よくわかったよ。」
「それじゃ頼むぞ?」 出ていくトラン。


※16: Picnic on Rhymus Major

※17: 原語では「フリッターバード (flitterbird)」

※18: Mordian butterfly

※19: Gul Toran
(エドワード・ワイリー Edward Wiley TNG第98話 "The Mind's Eye" 「裏切りの序曲」のヴァーグ (Vagh) 役) DS9第55話 "Defiant" 「奪われたディファイアント」でも同名のガル・トランが言及されますが、別人。声:中田和宏

保安室に入るクワーク。「オドー、話があるんだ。」
オドー:「忙しいんだ、出直してこい。」
「後じゃ間に合わないんだよう!」 クワークは、オドーが読んでいたパッドを見る。「ミッキー・スピレーン※20の裁くのは俺だ※21かよう。」
パッドを取るオドー。「チーフが貸してくれたんだよ。重要な話なんだろうな?」
クワーク:「そうだ。オドー、ナティマと教え子 2人を釈放してやってくれ。」
「何でだ。」
「カーデシアの新しい未来を握っているからだよう。彼らは軍部の支配からカーデシアを解き放つんだ。」
「お前いつからカーデシアの政治に関心をもつようになったんだ。」
「カーデシアが自由でオープンな社会になれば、この地域の安定にも役立つ。そうなれば商売もやりやすい。」
「それじゃあ、ラング教授と教え子を釈放しろっていうのは、純粋に経済的な動機からってわけだな?」
「おいオドー、俺に儲けさせたくないからって意固地にならないでくれよ。」
「ああ、私はお前って奴をよく知ってる。カーデシアのためでもなけりゃあ珍しく金儲けのためでもない。ラング教授のためなんだろ?」
「…そうだ、その通りさ。…ここにホーグとルケランがいる限りナティマの命は危ない。」
「何で最初からそう言わないんだ。」
「……何て言えばよかったんだよ。愛してるってか。…彼女のためならどんなことでもやる。彼女がいなければ生きる意味がないってか? そりゃ、言おうと思えば言えたけど言って何になるんだ? だってお前には人を愛するって感情が全くないんだもんな。…誰かを心から大切に思うって気持ちがわからないんだ。恋をしたこともない、心を動かすってことがないんだ! …言い過ぎた。」
「…続けろ。」
「…あ…頼むよオドー。……釈放してくれれば、二度とあんたに隠しごとはしないって約束するよ。闇取引が行われる時は必ず報告する。どんなひどい悪だくみでも、どんな汚い商売でも…弟がやろうとしたら教えるよ。」
「そうか、お前がそういうつもりなら…何もしてやらんよ。」 後ろを向くオドー。
「わかった。…わかったよ。俺がやる時も教える。…ならいいだろ?」
「バーカ言うな。」
「聞いてくれ、俺たちはもう長い付き合いだ。今まで本当にいろんなことがあって、あんたも俺もお互いがお互いのことを一番よく知ってる! 時々は、敵味方に分かれても…親友ってことには変わりはない。この際打ち明けるけど…俺はお前のことを、兄弟同然に思ってる。」
「ハハ、兄弟には優しいもんな?」 オドーはパッドを読み続ける。
「…オドー。こっちを向けよ。」
「ああ…。」 オドーは振り向くが、クワークの姿が見えない。
クワーク:「頼むよ、この俺様が…土下座してんだぜ? 理由なんか何でもいいんだ、何でも好きなのでいいから御願いだよ。ナティマたちを釈放してくれ。」
「…いいだろう、釈放してやろう。」
「ほんとか?」
「お前のためじゃあないぞ? ホーグとルケランをカーデシアに渡せば死刑は確実だ。資料を読んだ限りじゃあの 2人には助かる希望はない。3人を逃がしてやろう。だがそれは、正義という名の下にだぞ?」
「正義か。俺もそう言おうと思ってたんだ! …ほんとに、俺が頼んだからじゃなくてか?」
「ああ、そうだ。」
「じゃあ何の借りもないわけだ、ありがたい!」 抱きつくクワーク。「何て御礼を言ったらいいのか。」
「腕を、離せ。」
「ああ、悪い。…ああ…それじゃあ、善は急げだ。気が変わらないうちに。」 クワークは拘束室へのドアを開ける。
「一つ聞くが、カーデシアの戦艦が待ちかまえているのにどうやって逃がす。」
「ああ…ああ…」
「ははあ、やっぱり遮蔽装置をもってたんだな?」
「天地がひっくり返ってもあんたにはかなわねえな?」
押しやるオドー。

拘束室へ入るクワークたち。
ラング:「クワーク! 何しに来たの。」
クワーク:「君たちを出しにさ。」
フォースフィールドを解除するオドー。
ラング:「ありがとう。」
礼をするオドー。カーデシア人たちは去った。
オドー:「…幸運を。」

ラングの銃を持って、貨物室に入るクワーク。「遮蔽装置は中央エンジンコアに仕掛けた。係留クランプが解除されたらすぐに作動させろよ? それからワープを 8 にして、ただひたすら逃げ出すんだ。おい頼むよ、別れの挨拶は手短にな。」 エアロックのドアを開ける。
その中に、ガラックがいた。「何を急ぐんです。」 武器を手にしている。
ルケラン:「…やっぱり裏切ったのね?」
クワーク:「…違う。」 ガラックに銃を向ける。
ガラック:「やめなさい、そんなにいいスーツなのに。もったいないですよ。」 クワークの武器を取り上げた。
「あんた何でこんなことを。」
「追放された身というのはわびしいものです。新しい暮らしがどんなに快適でもね?」
「わかった、2人はやる。だがナティマはダメだ。」
ラング:「クワーク。」
ホーグ:「彼の言うとおりだ。亡命したのは僕らだけです。」
クワーク:「な? 俺の言うとおりだ。」
ガラック:「残念だが、彼らにはもう決定権はない。私にも。ラング教授の役割がどんなに小さいものでも、中央司令部は見逃す気はないらしい。」
ラング:「私達を殺せば、終わると思うの? カーデシアはいずれ必ず、軍の支配を抜け出すわ? もう止められないのよ!」
「私は議論をしに来たのではありません。」
クワーク:「ガラック、3人に何かしたら、シスコ司令官に訴えてあんたを裁いてやるからな。法の許す限りの厳罰で。」
「それはまた別の問題です。クワーク、あなたがもし私の忠告を入れて、この 3人とは関わらないでくれていたらもっと簡単だったのに。」
「…関わっちゃってたんだよ。」
「ええ、実に残念ですね。私は…あなたが好きでしたから。」
「俺も撃ち殺す気か。」
「仕立て屋になる前の、私のモットーはこういうんです。決して、仕事に私情を挟んではならない。…ありきたりですが、真実ですよ。」
「覚えておきましょう。」
「それでは、私としてはこういう愚かな行為には反対なのですが…中央司令部の決定ですから従わせていただきます。」
「ほんとにそれでいいのか? 反対なら、なぜ自分の信念を貫かない。」
トラン:「俺も聞きたいねえ。お前の信念とやらをな。」 いつの間にか来ていた。やはり銃を持っている。
ガラック:「何しに来たんだ、トラン。」
「お前が任務を果たすか監視に来たんだ。ベイジョー人に囲まれて 2年も暮らせば、ヤワにもなるだろうからなあ? 思った通りだよ。」
「最低の勘違い野郎だな。さあ後ろに下がってろ。気は進まないが仕事は早く済ませないと。」
「この先は俺がやる。」 トランはガラックの武器を取った。
「なぜだ。手柄を独り占めして、私をこのまま追放の身にしておきたいからか?」
「愚かな男に成り下がったものだな。こんな任務を一つ上手くやり遂げたからって、お前への評価が戻るとでも思ったのか?」
「…いいや? 思わなかったがね?」
「さっさと店に戻るんだ、仕立て屋。」
ルケランに銃を向けるトラン。
銃声が響く。
だがそれは、ガラックがトランを撃ったものだった。クワークから取り上げた銃だ。
蒸発するトラン。
ガラック:「全く。あんな奴が昇進するとはねえ? 何を突っ立ってるんです。船が待ってますよ?」
クワーク:「これからフェレンギ人は全員、あんたの店に行かせるよ。」
「ああ、それだけでも頑張った甲斐がありましたよ。」
「…さあ、急いで船に乗れい!」
ホーグ:「ありがとう。」
ルケランに武器を渡すガラック。
ホーグはガラックの肩を叩いた。「感謝します。」
クワーク:「わかったから早く行くんだ、急げ! しっかりやれよ?」 ラングを抱き上げ、口づけする。
ラング:「クワーク。私さよならを言わなきゃ。」
「ああ、黙って行かせてやれ。その方が辛くないぞ?」
「違うの。そうじゃないのよ。私がさよならを言うのは、あなたなの。…ホーグたちと行くわ。」
「でも約束だぞ。」
「でもここにはいられない。またあなたのもとに戻ってこられたらって思うけど、でも私には仕事があるの。」
「じゃあ君とまた暮らせるようになるのは、カーデシアが自由な民主主義社会になってからってことか?」
クワークの耳たぶをなでるラング。「戻ってくるわ。だから信じて待っていて。」 またキスをする。
クワーク:「俺も一緒に連れてってくれないか。」
「ダメよ。これは私の闘い。それにあなたに何かあったら、私きっと自分を許せないもの。…でもここにいてくれれば、安全だわ。そう思うことが、私の心の支えになる。」 顔を近づけるラング。「愛してるわ、クワーク。いつまでもずっと。」
エアロックに入るラング。ドアが閉まった。
クワーク:「俺も愛してるよ。」
ガラック:「じゃあ怪しまれないうちにプロムナードへ戻りましょうか。」
「それよりあんた、何でトランを…撃ったりしたんだ?」
「なぜ彼女を行かせたんです。」
「彼女を愛してるからだよ。」
「私も祖国を愛している。カーデシアのためにやったことです。」
「…よくわかんねえな。」
貨物室を出るガラック。「愛情ってやつはね、他人にはわからないものなんですよ。」
クワーク:「あー。」


※20: Mickey Spillane
フランク・モリスン (Frank Morrison、1918年〜) のペンネーム。ロバート・ジャストマンはスピレーン作「燃える接吻 (くちづけ) を」の映画版、「キッスで殺せ!」(1955) の助監督を務めました

※21: I, the Jury
1947年、「マイク・ハマー」シリーズのデビュー作。吹き替えでは「ミステリー」。オドーはずっと後の DS9第152話 "Shadows and Symbols" 「預言者の呪縛」でも、マイク・ハマーについて触れています


・感想
これも一話限りの恋愛もの。でも少し違うのは、クワークと以前に愛し合っていたという点ですね。旧題 "Here's Lookin' at You..." 「君の瞳に乾杯」でもわかるとおり、元々は更に「カサブランカ」(1942) をなぞった内容になるはずでした。相手がカーデシア人 (しかもビヴァリー・クラッシャー声) というのが何とも…。フェレンギ人は異星人を好きになることが多いですね。
今回もいい味を出しているガラックですが、他のエピソードに比べると「カーデシア本国の代理人」として動いているのが特徴的です。もちろん最後には彼らしい活躍(?)を見せるのですが。カーデシア反体制活動は "Second Skin" 「恐るべき過去」に引き継がれることになります。
このエピソードの撮影中、1994年1月17日にロサンゼルスは M6.7 のノースリッジ地震に襲われましたが、2日で復帰したそうです。


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