ディープスペースナイン エピソードガイド
第39話「血の誓い」
Blood Oath
イントロダクション
クワークはオドーに話す。「1時間分しか払ってないのに、もう 3時間も出てこねえ。困った客だよ。クラックダックブラックの戦いとかいうのにハマってるんだ。」 2階に上がるオドー。「クラック・デケル・ブラクトの戦い※1は、1世紀前にクリンゴンがロミュランを破った伝説の戦いだ。」 クワーク:「だけどこいつ負け続けてんだぜ? しかも勝つまでは絶対に出てこないって言いやがる。催促してみても、閉じこもって出てこない。パワーを切るぞって脅したが、俺を殺すってよう。」 「ほう?」 声を上げるクワーク。 騒ぐ声が聞こえてきた。剣で戦っているらしい。 オドー:「一体いつから古代クリンゴンの戦いのプログラムを、ホロスイートに入れたんだ。」 クワーク:「この前ワームホールへ向かったクリンゴン船の船長から買ったんだ。」 「ははあ…」 「言いたいことはわかるよ、野蛮だし、暴力的だし…血まみれだし。でもクリンゴン人には評判が良くてさ。」 「パワーを切るんだ。」 「殺されるぞ?」 「いいさ。どうせお前は殺される。パワーを切れ。」 クワークはアイソリニアロッドをパネルに差し込んだ。 音がして、中は静かになった。 ホロスイートの中から声が聞こえる。「チャイペナハバー!」 ドアを叩く。 中から無理矢理ドアを開ける、年取ったクリンゴン人。手には瓶を持っている。「アガッコネルダクラー! マーグラゴール!」 叫ぶクリンゴン人。「よくも邪魔してくれたな。クラック・デケル・ブラクトの戦いを。薄汚いフェレンギ野郎め!」 オドーはクリンゴン人の手を押さえ、瓶を取った。「戦いは終わった。みんな勝利の宴の席で待ってるよ。」 隠れて見ているクワーク。 クリンゴン人:「そうか! …ではいざ行かん!」 笑いながら歩いていく。 独房で寝ているクリンゴン人が、モニターに映っている。 保安室に戻ってきて、首を振るオドー。 パッドを読み始める。ふと気配に気づいた。 別の老クリンゴン人が、立っていた。 オドー:「どうやって入ったんです。」 クリンゴン人:「私はコロス※2という。」 「質問に答えて下さい。」 コロス:「答えているではないか。…奴の罪状は何だ。」 「罪状? 何もないですよ。お客様として預かってるんです。」 「いい度胸といおうか、それとも無謀といおうか。クリンゴンのダハール・マスター※3をネタに冗談を言うとは。」 「……申し訳ない。悪気はなかったんです。」 コロスを連れていくオドー。 いびきをかいて寝ているクリンゴン人。 コロス:「コール※4!」 寝たままのコール。 オドー:「コールさん、起きて下さい。お友達が迎えに来られましたよ?」 コール:「あ? …コ、コロス!」 笑う。「これはこれは、我が旧友よ。やはり来てくれたのか。」 コロス:「貴様、恥を知るがいい。目的を忘れたか! 誰が貴様のような奴と共に戦うか。ブレスタンティ・エール※5の飲み過ぎでへべれけになるとは! 留置だ!」 拘束室を出ていく。 コールはため息をつき、再び寝た。あきれるオドー。 |
※1: Battle of Klach D'kel Brakt ※2: Koloth (ウィリアム・キャンベル William Campbell TOS第18話 "The Squire of Gothos" 「ゴトス星の怪人」のトリレーン (Trelane) 役) TOS第42話 "The Trouble with Tribbles" 「新種クアドトリティケール」以来の登場。声:藤本譲、ST6/STG スコットなど。TOS では安田隆 ※3: Dahar Master ※4: Kor (ジョン・コリコス John Colicos 「宇宙空母ギャラクチカ (ギャラクティカ)」のバトラー卿役) TOS第27話 "Errand of Mercy" 「クリンゴン帝国の侵略」以来の登場。同エピソードはクリンゴン人が初登場した話でした。声:立木文彦、VOY カラなど。TOS では滝口順平 ※5: brestanti ale |
本編
司令室にターボリフトで来たオドー。「保安報告書です。遅くなってすいません。今日はクリンゴンの午後でねえ。」 パッドを手渡す。 キラ:「クリンゴンの午後?」 「クリンゴン人がこのステーションに来るたんびに、午後は忙しくなるんですがね。でも今日の午後はまた格別ですよ。年は 100ぐらいのクリンゴン人が酔っぱらって拘置所で軍歌を歌ってましてねえ。」 笑うキラ。 オドー:「その親友らしいのは 150歳くらいなんですが、身柄を引き受けてくれず…おかげで私はもう耳にタコができましたよ。コール、クリンゴンのダハール・マスターなりー!」 話を聞いていたダックス。「コールって名前なの?」 オドー:「ホロスイートでクラック・デケル・ブラクトの戦いに勝った時、そう言ってましたが。」 「何しに来たのかしら。その友達の名前は、カーンじゃない?」 「いいえ、確か…コロスと…」 「コロスね? 一緒に来て。」 クリンゴン語で歌っているコール。「バーシュキート・コール、バーシュリープ・コール、コーマナーティー、バーシュキー・コール。」 ダックスがやってきた。「こんにちは、コール?」 コール:「…喉が渇いた。」 「出してあげて?」 オドー:「大尉。」 「私が責任を取るわ?」 フォースフィールドが解除される。 コール:「喉がカラカラだ!」 ダックス:「コール? クルゾン・ダックスを覚えてる?」 「…クルゾン? うん…ああ、懐かしの友、クルゾンか。わしのガプトゥー※6を捧げよう。クルゾン・ダックスに、うん。」 「私もかつてクルゾンであった者として、あなたにガプトゥーを捧げるわ?」 「ん?」 「スコーチャー※7で14本目の肋骨の上には大やけど。それに船がワープ8 に入ると必ず、左のキーヴォン※8が痛み出すのよね?」 「ダックス! …君が…クルゾンか? 81年も経って、こんなキャモ※9の…君にまた出会えるとはなあ! さあ、キスだ!」 抱き合うダックス。「抱き合うだけじゃダメかしら。」 笑うコール。「クルゾン、懐かしの愛しき友よ!」 ダックス:「今はジャッジアっていうの。」 「そうか? ジャッジアか。懐かしの愛しき友よ…。」 「さあ、コロスを探しに行きましょう?」 「あ、コロスがここに?」 2人は出ていった。 オドーはまた首を振った。 コロスはレプリマットで、ナイフを使って食べ物を切っている。「ん…」 笑いながら近づくコール。「見てごらん、食べる時も刃物の使い方の練習をしているんだ。子供のやることだよ…。」 コロス:「鋭い刃物があっても鋭い目がなくては何にもならん。」 「ほう…今じゃもうすっかり老眼だろう。さっきナイフが食べ物に当たったのは偶然だろうが…。」 「連邦は我々をバカにしてるらしいな。大尉なんぞを挨拶によこすとは。」 ダックス:「あなた、昔から連邦を毛嫌いしていたわね? …私は昔あなたをこう呼んだわ? ダクトゥラク※10、『氷の男※11』。どんなに道理にかなった申し出をしても、どんなにクリンゴン帝国に有利でもあなたはうんと言わなかった。…交渉の席で敵に回すとあなたほど手強い相手もいなかったわ?」 コール:「…どうした、古い友達を忘れたのか? ダックスだぞ、うん?」 コロス:「……ダックス?」 大きく笑うコール。 ダックス:「クルゾンは死んだわ。でもダックスは私の中で生きている。」 コロス:「…フン。何かの間違いだ! カーンも知らないはずだ!」 コール:「ああ、でも美人ならいいじゃないか、うん…?」 ダックス:「カーンも来るの?」 「…もちろん来るとも。4人が集まるのは、かれこれ 81年ぶりだな。」 「集合をかけたってことは…」 別の声が聞こえた。「そうだ。」 エアロックから出てきた、クリンゴン人のカーン※12。「誓いを果たす時がきたのだ。あのアルバイノ※13を見つけたぞ。」 コール:「うん?」 レプリケーターから飲み物を取り出すダックス。「カーン、初めて一緒に座ってバーゴル※14を飲んだ時を覚えてる? あれはコルヴァット植民地※15で、まだ連邦とクリンゴン帝国とが…敵だった頃よ?」 カーン:「お前に会うのは今日が初めてだ。」 「私はダックス。あなたの息子※16の名付け親。」 コロス:「お前なんぞ、誰の名付け親でもないわい!」 「ダックスよ。あなたの息子の名付け親。」 カーン:「では、お前は我々と血の誓い※17を立てたあの…ダックスなのか?」 「顔は変わっても魂までは変わっていないわ? 私は今でもあなた方の仲間よ? 80年前とおんなじに。あなたにまた兄弟だと認めてもらいたいわ?」 コロス:「兄弟だと、ハ!」 コール:「兄弟だろうが姉妹だろうが、こうしてまた 4人揃ったんだ。さあ話してくれ。あのアルバイノはどこにいるんだ。」 カーン:「7年前のことだ。ディヨス4※18 で、奴に捨てられたという妻に出会った。私はその女を引き取り、我々の息子の話をした。しかし女は奴を恐れ、何も言わなかった。そして 3ヶ月前※19に死んだ。1週間後に、彼女が首に巻いていたお守りが私に送られてきた。中には、アルバイノの…居場所が記されていた。」 コロス:「しかし奴は、まだそこにいるのか。」 「ああ、奴と取引のある貿易商にも確かめた。セカルス星系の 4番目の惑星※20でな? 奴はそこに 4分の1世紀も隠れていたんだ。」 「ほう…」 コール:「我々を警戒してか、フン!」 カーン:「話では奴の屋敷には、護衛は 40人しかいないそうだ。長い年月を経て警戒心も緩んできたらしい。」 笑うコール。「バカが。」 ダックス:「貿易商の情報は当てにならないわ? 奴がわざと流させている情報かもしれないもの。」 コロス:「その通りだ。我々が行くことももう伝わったかもしれんぞ?」 カーン:「貿易商どもに我々の復讐の邪魔はさせん。今度こそ、奴の隠れ家に乗り込み、奴を捕らえ、生きたまま心臓をつかみだし、まだ奴が…生きて見ている間にその心臓を食ってやる!」 バーゴルを掲げるコール。うなずくコロス。 ダックスはため息をついた。 |
※6: ghoptu 「手」の意味 ※7: scorcher 訳出されていません ※8: QiVon 「ひざ」の意味 ※9: kyamo 「魅力的」という意味。吹き替えでは「美人」 ※10: d'akturak 訳出されていません ※11: Iceman TNG第46話 "The Emissary" 「愛の使者」ではウォーフがこう呼ばれました ※12: カング、カン Kang (マイケル・エンサラ Michael Ansara DS9第93話 "The Muse" 「二人の女神」のジェヤール (Jeyal) 役) TOS第66話 "Day of the Dove" 「宇宙の怪! 怒りを喰う!?」以来の登場。後に VOY第44話 "Flashback" 「伝説のミスター・カトー」にも。声:宝亀克寿。TOS では寺島幹夫、VOY では坂東尚樹 ※13: The Albino 吹き替えでは「アルバイノ人」。albino は動物の突然変異で白いものを示す、アルビノの意味 ※14: bahgol 吹き替えでは「お茶」 ※15: Korvat colony ※16: 母親は TOS "Day of the Dove" に登場したマーラ (Mara) だと思われます ※17: blood oath 原題・邦題 ※18: ディヨス4号星 Dayos IV ※19: 「3ヶ月後」と誤訳。今から 3ヶ月前という意味です。7年前から 3ヶ月後 (=6年9ヶ月前) なら、それからカーンは一体何をしていたのかということに… ※20: セカルス4号星 Secarus IV |
プロムナードを歩くカーン。「全く知らなかったな。」 ダックス:「クルゾンのこと?」 「亜空間通信で連絡を取ると敵に…気づかれる。」 「私達がガルドンテラ※21に向かった時も、それでバレたのよね?」 「奴は銀河中に情報網を張り巡らせているからな。ところでクルゾンのことが聞きたい。名誉ある死を迎えたのか。」 「クルゾンは病院で死んだわ? 自分を生かそうとする医師や看護婦を怒鳴りつけてね? 惨めに生かすなって。」 「それは、気の毒な。いい男だった。戦いで死ぬべきだった。もうこの世で、クルゾンに会えないのかと思うと辛い。」 「クルゾンは外交上の業績※22から何度も叙勲されたけれど、一番感動したのはあなたからのものよ? クリンゴンの武将から、息子の名付け親になってくれって頼まれたことだった。」 「…クルゾン・ダックスは和平への扉を開いた。クルゾンは私が会った連邦の外交官ではただ一人、クリンゴン人の性質を理解していた。」 「彼にはクリンゴン人的なところがあったから。あなたたちとの血の誓いは、彼にはとても重要だったの。」 「お前も奴の心臓を食うというのか? ジャッジア・ダックス。…クルゾンとの長い付き合いから、トリル族のことはよく知っている。合体前の過去の約束に囚われる義務はないんだ。」 「でもクリンゴンの血の誓いは破ることができないものよ?」 「…クリンゴンの古き良き時代は去った。私がまだ若かった頃は…クリンゴン帝国の名を出しただけで皆が震え上がったものだ。今や…我らが戦士はレストランを開き、私が戦いで殺した敵の子孫に料理を振る舞っている。…もう昔とは違うのだよ。血の誓いもだ。」 「心にもないこと言わないで、カーン。」 「だが私が時代遅れなのは事実だ。お前は誓いに縛られる必要はない。お前は我々に、何の義理もない。」 無言のダックス。 司令室のキラは尋ねた。「第1目標塔のプラズマ漏れを調べてるの? でも今はもう止まったでしょ?」 ダックス:「いいえ、出たり止まったりするのよ? だから高解像スキャンを……。ねえ、キラ?」 「何?」 「…今までに何人殺したの?」 「…え?」 「…地下活動していた頃よ。」 「……数え切れない。」 「…殺す時は、相手を知らずに殺すの? それとも知っていて殺したの?」 「何で急にそんな話を。」 「あなたが嫌ならやめるけど。」 「じゃあやめましょ。」 「ごめんなさい。」 「なぜ? あなた誰かを殺すつもりなの?」 「まさか。」 キラはダックスに近づき、隅へ連れて行く。「言って。」 ダックス:「言ってって何を言うのよ。」 「…話して。」 「……80年前のことよ? あるアルバイノに…率いられた、凶悪な略奪団がクリンゴンの領地を襲った。討伐には 3人の武将が差し向けられた。そのうちの一人がクルゾンの親友だったの。任務は大成功に終わって、ほとんどが捕らえられたけど、首領のアルバイノは逃げた。そいつはクリンゴン帝国を恨んで…復讐として、3人の武将に…生まれた最初の子を殺してやるって言ったの。そしてそいつの言った通りになった。そいつは…罪もない子供を 3人、どうやってか遺伝子ウィルス※23に感染させて…殺したのよ。一人は私が名付け親だった。」 「可哀想に。でもジャッジア。名付け親はクルゾンでしょ?」 「私はその子のかたきを取るって血の誓いを立てた。」 「クルゾンが誓いを立てたんでしょ?」 「その子の御葬式を今でも覚えてるわ? ダックスって名付けられた子よ?」 「……そのアルバイノは?」 「居場所がわかったのよ。それでクリンゴンの 3人がやってきて…」 「ねえ? あなた言ってたじゃない。それぞれのトリル族の人生は個々のものだから、過去の約束には縛られる必要はないんだって。クリンゴンの 3人も誓いを守れとは言えないわよ。」 「ええ。言ってないわ? でもそこなのよ。3人は私にはもう何の義理もないって言うの。でもあるのよ。心の底でそう感じるの。…少なくともクルゾンには義理があるわ?」 「ジャッジア。さっき私に聞いたわね。人を殺すのは、どんな気持ちかってこと。…誰かの命を奪うたびに、自分の命も減っていくのよ。」 女性と笑っているコール。「腕が、もう一本欲しい! …両手にこんな美女を抱えていては、酒が飲めんわ。…いや困った。」 ダックス:「私の腕を貸してあげるわ。」 酒を飲ませる。 「うん…ああ…」 咳き込むコール。「いや、どうも。」 ダックスはうなずいた。 コール:「助かったよ。ダックス、そうだ紹介しよう。わしの生徒だよ。クリンゴンの歴史の。」 「しばらく、外して下さる?」 「あ? ああ、そうか。ほんの 1、2分で済む。いやすまないな。」 離れる女性たち。 コール:「うん。女を追い払うところは、クルゾンとは全然似てないな。」 ダックス:「アルバイノを憎む心はおんなじよ?」 「うん。」 「カーンとコロスは、私をおいてく気よ?」 「カーンは考えなしだし、コロスは情がわからんからな。」 「あなたはどう思うの?」 「う、うん? そりゃあんたも来るべきだ。復讐を遂げるための栄光ある戦いに、参加したくない者なぞ、どこにもおらんからな。」 「じゃあ 2人を説得してくれない? 私、どうしても一緒に行きたいのよ。」 「うーん、コロスは朝から晩までホロスイートで鍛錬で、人の言うことなぞ聞かん。…それに、カーンがこうと決めたら…わしには何もできん。」 「さっき歴史を教えてるって言ったわね。自分の歴史を忘れたの? あなたはコールよ、ダハール・マスターの。クラック・デケル・ブラクトの英雄じゃないの。あなたの発言は、重大に受け取られたものよ?」 「…バカにするのか。」 「違うわ? そんな風に思わないで。」 「フン、フン! 今のわしが、あんたに見せられる重みといえば、この老いぼれた身体だけだ。それにわしは元々、覚えとるだろう…大した男じゃない。…英雄などただの虚像だ。……すまないな。」 「…いいえ、あなたは…偉大な戦士よ? 私はそう思ってるわ。」 歩いていくダックス。 落ち着かないコール。「ク、クワーク! おい何をグズグズしとるんだ。…ワインをくれ…。」 洞窟の中で上がる声。バトラフを振るコロスだ。 やってきたダックスが近づく。 コロスはバトラフを振り下ろし、ダックスに当たる寸前で止めた。 瞬きもしないダックス。「さすがね、コロス。私も一緒に行くわ。」 コロス:「クルゾン・ダックスは政治家だった。一緒に血の誓いを立てたのも、我々に取り入るための…手段だったのさ!」 「それは違うわ?」 「この女め。…私は剣の稽古中だ。出ていってもらおう。」 「一緒に連れて行くって約束してくれればね?」 「お前を連れて行けば我々の身に危険が及ぶ。帰れ!」 ダックスは宙に手を伸ばした。「コンピューター、クリンゴンの剣のバトレスを出してちょうだい? 長さは 1メートルと 16※24センチ。重さは 5.3キロで、直径 5センチほどの握りがついてるものがいいわね。刃はバーコナイト※25合金。」 ホログラム映像のバトラフが、手の中に現れた。 コロス:「ほう? 生意気に戦士を気取るつもりか? そのバトレスでどうする気だ。」 ダックス:「勝負するわ?」 「私の手が滑れば、お前は死ぬかもしれないんだぞ?」 「あなたの手が滑る? 老いぼれてでもない限りありえないわ?」 戦いを始めるコロス。 全く引けを取らずに組み合うダックス。「どうしたの? 私ごときに手こずるの?」 新たにホロスイートにやってきた者がいる。コールとカーン、2人の影が見える。 コール:「どうした、顔が緊張してるぞ、コロス。」 笑う。「もっと酒を飲め!」 ダックスは倒されてしまった。 コロス:「立つがいい。」 立ち上がるダックスに言う。「我々の、息子の敵討ち。喜んで君を、連れて行こう!」 互いに礼をした。 コール:「…やあコロスのような石頭にそう言わせるとは大したもんだ。」 カーン:「…クルゾンの立てた誓いとは関係ないと言ったのにわからなかったようだな。」 「いいじゃないか。」 「駄目だ! お前を敵討ちの仲間に加えることはできない。」 ホロスイートを出ていくカーン。 |
※21: Galdonterre ※22: 「業者」と訳されているような… ※23: genetic virus ※24: 「60センチ」と誤訳 ※25: baakonite |
咳き込むコール。「何で門前払いを食わせたんだ。可哀想に。」 カーン:「それよりそんな胸の病ではとても敵の隠れ家には切り込めないぞ?」 「こんな咳…別に何でもないさ。」 コロス:「目的を遂げる前に殺されてしまってもいいのか。来い!」 「…まだ看護婦の世話にはならんよ!」 歩いていく 2人。 カーンはダックスを見た。追うダックス。 座ったカーンと同席するダックス。「私にも敵討ちの権利があるわ?」 カーン:「いくら…クリンゴンのような口を利いても、お前には似合っていないぞ。」 「前にもそう言ったわね。覚えてる?」 「昔のことはこれ以上話したくない。」 「コルヴァット植民地で、あれは交渉の初日だったわ? あの時私は…あなたが演説をしている途中で席を立った。あなたは呆気にとられていたわね。偉大なるカーンに逆らうなんて、そのカジャンパクト※26があったのはクルゾンが初めてだった。」 「もう少しで殺すところだったよ。」 「あなたを腹の底から怒らせるのがこっちの作戦だったのよ? でなければこちらの負け。あなたを怒らせることこそが、私達の間に絆を作るってわかっていたから。」 「クルゾンは、クリンゴンをよく知っていた。」 「だから、血の誓いを立てた時もクルゾンは本気だったのよ。私が名付け親をした子のかたきを取りに行くのに、黙って見てるはないでしょう? そんな不名誉を背負って生きてけって言うの?」 「だがお前をクルゾンの代わりに、死なせたら私の不名誉になってしまう。」 「誰が死ぬって言ったの? 私は死ぬつもりなんかないわよ? …それより自分の名誉を私の名誉より優先させるなんて恥だと思わないの? クリンゴンの戦士が仲間を置き去りにして、戦場へ出て行くなんて最低だわ! …あなたの言う通りね。クリンゴンの名誉も昔と違うのね。」 「また私を怒らせる気か。同じ手が二度通じると思うのか。」 「あなたに誇りがあるなら。」 「いいだろう。承知した。一緒に来るがいい。そんなに死にたいならな!」 クワークの店を出て行くカーン。 ダックスはドアチャイムに応えた。「どうぞ?」 シスコが入る。 ダックス:「今会いに行こうと思ってたの。」 シスコ:「駄目だ。」 「駄目って何が?」 「休暇願いは却下する。」 「キラがしゃべったのね?」 制服は着ていないダックス。 「キラは私の副官だぞ。」 「クルゾンの血の誓いの重みをわかってるでしょ?」 「だが君もジャッジアとして、艦隊の誓いを立てた。命令には従ってもらうぞ。」 「お願いよ、ベンジャミン。あなたならわかってくれるはずだわ?」 荷物を持ち、出ていこうとするダックス。 腕をつかむシスコ。「いや、これだけはわからなかった。クルゾンは、どんなに羽目を外しても人の道だけは外さない男だった。人を殺すのを忌み嫌っていたのに、アルバイノを殺す誓いを立てて、今君はその誓いを果たそうとしている。連邦の法はどうなるんだ!」 ダックス:「クリンゴンにだってちゃんと法はあるわ! 彼らにはこれが正義なのよ!」 「君にもか。」 「この問題について私も彼らとおんなじ気持ちよ?」 「敵討ちなんて君にできるのか。」 「……わからないわ? それを確かめる方法は一つだけよ。」 「これは仮定だが、かたきを討って無事ここに戻ってきたとしよう。まるで何もなかったかのように、今まで通り勤務していけるのか。」 「…それはあなた次第よ?」 自室を出るダックス。 |
※26: kajanpak't 吹き替えでは「度胸」 |
ワープ航行中のバード・オブ・プレイ。 地図を示すカーン。「隠れ家はリディナイト※27でできている。母屋と庭の間にはいくつかの壁が建てられている。メインパワーの元はここだ。武器庫もある。ここだ。」 コロス:「歩哨がどこにいるかについての情報はないのか。」 「敷地の境界に沿って、75メートルおきに一人ずつ、歩哨が立っている。」 ダックス:「歩哨だけ? パトロールはなし?」 クリンゴン人の服装だ。 「そういう話だ。」 コール:「我々があきらめたと思ってるのかもしれんな。」 ダックス:「それともわざと隙を見せて油断を誘ってるのかもしれない。」 コロス:「うーん、それも一理あるぞ?」 「パトロールはしているものと考えた方がいいわ? 75メートルなんて肉眼で確認できない距離よ?」 コール:「奴もバカじゃない。…歩哨同士の距離は長くとも、50メートルだろうな。」 カーン:「だとしても大して違いはなかろう。」 ダックス:「そうかしら。屋敷の周辺はかなり警戒が厳しくて、護衛が 50人はいるとしたらやはりンヤンゴレン戦略※28以外にはないと思うけど。」 「駄目だ! 寝ているところにこっそり忍び寄るなんて卑怯な真似は絶対にしない! 我々の姿を見せてやるのだ。我々は真っ正面から攻撃する。正々堂々と行くのだ。歩哨はバラバラだから楽に突破できよう。そして突き進むのだ、栄光ある勝利へ!」 コロス:「もしくは栄光ある、死へと!」 コール:「今日は死ぬにはいい日だ。」 ダックスもつぶやいた。「ええ、今日は死ぬにはいい日ね。」 コロス:「さあ、行こう同士よ。最期の戦いに備えて刃を研いでおこう。」 コールと出ていく。 「みんな、死ぬつもりでいるわけね?」 艦長席に座っているカーン。「クリンゴンの戦士は、死を恐れないものだ。」 ダックス:「ええ、でも優勢な敵に対して玉砕覚悟で突っ込むなんてどういうつもりなの? …カーン、何を考えてるの? ほんとのことを教えてちょうだい。…コールとコロスと違って私はだまされないわよ。これは戦いの作戦じゃないわ、自殺の作戦よ。…もしあなたじゃなかったら…罠にはめられたと思うところだわ。」 「何てことを言うんだ。血の誓いを信じないのか。」 「私を嫌がったのは、初めから死ぬ気だったからね?」 「…かたきのアルバイノの、居所がわかった時…確かめようとセカルス星系へ行ってみた。…なぜか、奴は私が来たことにすぐ感づいて、連絡を取ってきた。挑発してきたのだ。最期に、一回戦って終わりにしようとな? 命を狙われ続ける、生活に疲れたと。奴はこの名誉ある戦いに選りすぐった精鋭を 40人揃えて我々を待っていると言ってよこした。私は承知した。」 「でもなぜ!」 「これが、最期のチャンスだからだ。奴を殺せないまでも、奴を殺そうとして名誉ある戦死を遂げることはできる。それなら、クリンゴンのダハール・マスターに、ふさわしい。」 「…だけどカーン。クリンゴン人はちょっと死に急ぎすぎるわ? 死ぬのが愛しいみたい。私は生きる方がずっと楽しいって思う。名誉ある勝利の方が名誉ある敗北よりずっといいわ?」 「だが奴は鉄壁の守りを引いている。勝つ見込みなど万に一つもないぞ。」 「…フェイザーを使えなくしたら? 私達にも希望が出てくるでしょ?」 「どうやって武装を解除するんだ。」 「船の軌道を低空に設定し、ディスラプターを改造してテトリオン粒子を奴の屋敷の周辺に蒔くの。そうすればエネルギー武器は何も使えなくなるわ?」 「…そんなことが本当にできるのか?」 「クルゾンだったら無理でしょうけど、運良くジャッジアは科学士官なのよ?」 「…こちらもディスラプターは使えなくなるな。しかし敵の中に、我らのバトレスを避けられる者がいるか?」 「まずいないわ? セカルス星系までは後 40分ほどよ? 船を見えないように隠蔽して、私達もバトレスの刃を研ぎましょう?」 「…今日は、生きるのにいい日かもしれん。」 ダックスはうなずいた。 飛び続けるバード・オブ・プレイ。 |
※27: riddinite ※28: N'yengoren strategy 吹き替えでは「奇襲」 |
惑星。 屋敷※29の周りを歩哨たちが歩いている。 竹やぶに隠れるコール。 トリコーダーを使うダックス。「向こうは名誉ある戦いを約束したのね? 一対一の戦いを誓ったんでしょう?」 カーン:「ああ、そうだ。」 「でもこれを見て? 敷地の中にはあちこちに重力地雷※30が仕掛けてあるわ?」 コロス:「我々が攻め行ったら一気に爆発させるつもりだったんだろう。」 コール:「あんな悪魔の言うことを信用するからだぞ。」 ダックス:「でもそのおかげで、私達は一つ有利な立場に立てたわ? 敵は正面を警戒してる。」 コール:「だが奴は本当に中にいるのか!」 「いい質問だわ?」 コロス:「待っていろ。」 カーン:「どこに行く。」 「奴がいるか確かめてくる!」 コール:「確かめるって、どうする気だ。」 「もちろん、誰かに聞くのさ。」 向かうコロス。 カーン:「攻撃をかける前に奴のセンサーアレイを切っておかねばなあ。このパワーステーションから操作しているはずだ。」 コール:「パワーが切れれば、こっちの存在が知れる。パワーを切るのと、同時にわしがおとりになって、武器庫へ攻撃を仕掛け…護衛どもを引きつけよう。」 ダックス:「いい考えだわ? でも逃げる時にこの広い敷地を走って横切らなければならない。…あなた方 3人は、昔ほど足は速くないでしょう? 私がやるわ?」 カーン:「よし、頼むぞ。」 歩哨の一人の肩に、バトラフが当てられた。 気のせいだと考える歩哨。 もう一度当たるバトラフ。振り返った歩哨の前に、コロスがいた。 移動したカーン。「どうやら、ここから侵入するのがよさそうだな。」 コロスが戻ってきた。「護衛に聞いたらすぐに教えてくれたよ。奴は屋敷にいるそうだ。」 コール:「フフン、自信過剰が奴の命取りだ。」 「ああ、今は屋敷にいるが、攻撃を受けたら地下の司令室へ移るそうだ。ほら、ここだ。」 カーン:「1時間で丁度正午だ。その頃武器庫に陽動攻撃をできるか。」 ダックス:「任せて。」 「我々はパワーステーションを襲う。願わくば、カーレス※31が導いてくれんことを。」 4人は手を合わせた。 護衛に忍び寄り、バトラフで殺すコール。 3人のクリンゴン人たちが進んでいく。 ダックスは独り行動する。 護衛に近づいた。「すみません。テニスコートはどこなのかしら、迷子になっちゃって。」 殴り倒した。 建物に入るダックス。 武器庫※32が爆発した。 驚く異星人、アルバイノ※33。 護衛たちの声が響く。「何だ今の音は! 爆発したぞ!」「行くぞ、急げ! ついてこーい!」 ダックスは走って逃げていく。 銃を構える護衛。「あそこだー、あそこにいるぞー!」「よーし、撃てー!」「どうしたんだ。」「クソー、フェイザーが効かない!」「リセットしろー!」 アルバイノは異星人の護衛長※34に尋ねる。「被害は。」 護衛長:「武器庫が襲われました! 直ちにパトロールを差し向けましたが。」 「命令を撤回しろ。護衛には全員ここを守らせろ。それと、パワーステーションを警戒させるんだ。」 「行け!」 護衛:「了解。」 「フェイザーが作動しません!」 アルバイノ:「作動しないだと。」 「今原因を調べています。」 「長距離センサーで、低空軌道上の船からの干渉がないか調べてみろ。それともう一つ。護衛たちにはカター※35を持たせ、白兵戦に備えろと指示を出せ。」 突然、暗くなった。非常用の明かりだけが灯る。 護衛たちはクリンゴン人を見つけた。「こっちだー!」 応戦する 3人。 ダックスと合流する。 報告する護衛長。「パワーステーションと連絡が取れません!」 アルバイノ:「奴らはこっちの防御戦を突破したぞ。護衛を全員すぐに呼び戻せ!」 「しかし、パワーがなければ連絡できません!」 「ならお前が外に出て呼んでくればいいだろ! この中にはクリンゴンのクズどもなど、一歩も入れんぞ!」 ドアが爆発した。 騒ぐ護衛。「クリンゴン人だ!」「クリンゴンの奴らが来たぞ!」「クリンゴン人だー!」 カーン:「首をもらいに来たぞ。いたいけな子供たちのかたきだ!」 アルバイノ:「殺せ!」 戦いが始まる。 護衛を次々と倒していくクリンゴンたち。 ダックスも同じだ。 だがコロスが複数の敵にやられた。 応戦中のコール。「コロース!」 崩れ落ちるコロス。コールが近づく。 コロス:「来るのが見えなかったんだ。」 コール:「いくらお前でも、背中に目玉はついてないさ。静かにして、休んでろ。すぐに片づけてくる。」 戦い続けるカーンとダックス。 コールも脇腹を刺された。再びコロスに近づく。 コロス:「私は絶対お前より先には死なんぞ。この唐変木めが!」 コール:「勇敢なお前の物語は永遠に死なない。…わしが歌い継いでやる。クリンゴンの子供はみんな…この日を歌うだろう。」 そのまま、コロスは息を引き取った。 カーンは護衛長と戦っていた。すぐ後ろにアルバイノがいる。 護衛長を倒したカーン。 アルバイノ:「息子と違ってお前をすぐに死なせてやるぜ。」 組み合う 2人。 ダックスは護衛を倒し終えた。 カーンのバトラフが折れてしまった。アルバイノに腹を刺される。倒れるカーン。 アルバイノ:「かたきが討てずに残念だったな。」 そこへダックスが近づき、アルバイノの武器を弾き飛ばした。 アルバイノ:「お前は誰だ、女。」 ダックス:「クルゾン・ダックスと言えばわかる?」 「あのトリル族か、覚えてるさ。」 まだカーンは死んではいない。 気づかずに話すアルバイノ。「だがこんな荒っぽい武器を振り回すのは美人の君にはふさわしくない。まあいいだろう。」 自ら首をダックスのバトラフに近づける。「殺せよ。私を殺しに来たんだろ。どうした、さあ殺すがいい。腹を引き裂き、心臓を取り出すがいい。それが血の誓いのはずだ、違うのか。それとも食欲がなくなったのかね、べっぴんさん。」 笑うアルバイノ。 だが笑いは止まった。後ろからカーンが攻撃したのだ。 階段を転がり落ちるアルバイノ。 カーン:「…礼を言うぞ。とどめの一撃を譲ってくれて。…これで二度世話になったな。……名付け親を頼んだ時と。」 コールがうめきながら近づく。 カーン:「どうした、コロスは。」 コール:「もう死んだよ。」 「ああ…私の言ったとおり…今日は死ぬにはいい日だ。ああ…」 カーンは絶命した。 ダックス:「友を失って何がいい日よ。」 コールは歌い始めた。「キー・ナー・ナー、ロー・メートゥー、キー・ナー・ナー…」 燃えるアルバイノの屋敷。「ロー・メーター…」 DS9。 ターボリフトで司令室に入るダックス。 シスコがいた。ダックスを見た後、無言で司令官室に入る。 席に着いたダックスはキラを見た。キラも何も言わない。 ダックスは、任務を続けた。 |
※29: ロサンゼルス、パサディナにある、有名な建築家フランク・ロイド・ライトによる大きな家を使用。内装は第18ステージ。マットペインティングは Gary Hutzel、ミニチュアは Karl Martin 作 ※30: gravitic mine 映画 ST2 "The Wrath of Khan" 「カーンの逆襲」など ※31: 吹き替えでは「天」 ※32: Dun Curry のチームによるミニチュア。パラマウントのファン・ネス立体駐車場の最上階で撮影 ※33: The Albino (ビル・ボレンダー Bill Bolender) 声:中博史、VOY ドクターなど ※34: Head guard (クリストファー・コリンズ Christopher Collins TNG第34話 "A Matter of Honor" 「錯綜した美学」のカーガン艦長 (Captain Kargan)、第43話 "Samaritan Snare" 「愚かなる欲望」の Grebnedlog、DS9第9話 "The Passenger" 「宇宙囚人バンティカ」のドラグ (Durg) 役) 声優は資料では大川透さんとなっていますが、違うような…? ※35: kuttars 吹き替えでは「刀」 |
感想
TOS でそれぞれ別の話に登場した 3人のクリンゴン人が、俳優も同じで集結しました。ファンの間では何かにつけて議論となる「容姿の変化」を考える上で、外せないエピソードです。エンサイクロペディア初版は DS9第1シーズンまで扱っていますが、既にコールの項にはこの話のことも脚注で触れており、容姿の変化をどう扱うかは保留されています (もちろん新版では TOS と同一人物という記述)。意外に長寿なんですね。 ダックスとクリンゴンとのつながりは、ずっと後のウォーフとの関係を考えると、今回がルーツとも言えますね。クリンゴン人がレギュラーにいなくても、殺陣を含むしっかりとしたストーリーを作っちゃうのはさすがです。キャラクター設定も「七人の侍」(「荒野の七人」) をイメージしており、旧題は "The Beast" 「獣」だったそうです。 |
第38話 "Profit and Loss" 「クワークの愛」 | 第40話 "The Maquis, Part I" 「戦争回避(前編)」 |