DS9。 
 ベシアはコブリアド人にハイポスプレーを打った。 
 コブリアド人:「ここはどこ。」 
 ベシア:「宇宙ステーション、DS9 です。私はドクターのジュリアン・ベシア。」 
 「タイ・カジャダ※6です。コブリアド星から来ました。……ここが DS9。…あいつが行こうとしていた。彼はどこなの? ヴァンティカはどこですか…」 
 「あの囚人なら死にました。」 
 カジャダ:「ほんとに死んだの?」 
 「ほんとです。助かったのはあなただけです。」 
 「遺体はどこにあるの。」 
 「遺体安置室においてあります。」 
 「見せて下さい。」 
 「もっと具合が良くなったらね。」 
 「いいえ、今すぐ。」
  
 ヴァンティカの遺体が出される。 
 ベシア:「予備検死の結果ですが、恐らくあの火事の最中に肺をやられ、呼吸不全に陥り、それが元で死亡したものと思われます。」 
 カジャダ:「この遺体はほんとにヴァンティカですか。」 
 「ええ、もちろんですよ。帰還してからはここで保管していましたし。」 
 そばの道具を手にするカジャダ。「レチナール※7のチェックはしてくれましたか?」 
 ベシア:「なぜそんな。」 
 カジャダはヴァンティカの両目にビームを当てる。「視覚皮質に生命反応がないことを確認するためにです。」 
 ベシア:「ミス・カジャダ、そんな心配はいりませんよ。彼は死んでます。」 
 「この男は特異体質の持ち主なんです。死んだと思って油断すると…こちらの命取りになりかねません。」 
 「殺人犯ですか。」 
 「フン。ただの殺人犯なんていう言葉ではとても言い尽くせないほど凶悪な恐ろしい男です。……大変優秀な科学者ですが、他人の命を奪って今まで生きながらえてきた男です。…私は 20年もこいつを追ってきたのです。」 カジャダはいきなり、ナイフをヴァンティカの胸に突き刺した。「検死解剖をして、DNA 照合スキャン※8で本当にヴァンティカか確認して下さい。」 
 「ああ…わかりました。」 
 「…それから私の船もスキャンして下さい。船に変形生命体が残っていないかどうか確かめないと。」 
 「…ほんとに、そこまでやるんですか?」 
 「ええ、もちろんです。」
  
 カップを差し出すクワーク。「アイス・ラクタジーノです、クリームたっぷりの。」 
 ダックス:「ありがとう、クワーク。」 
 「どういたしまして。いつでもどうぞ。」 
 「ありがとう。」 離れるダックス。 
 「可哀想になあ、彼女俺にメロメロに参ってるみたいだぜ?」 
 オドー:「ヘ、そりゃうぬぼれってもんだ。」 
 「うぬぼれのどこが悪いんだよう。自分に自信をもたなくちゃ人生やってられないぜ。それにさあ、大尉が俺を見る目つきってちょっと違うと思わないか?」 奥にはモーンがいる。 
 「うーん、思わずアレルギー反応が出ちゃうんじゃないか?」 
 「寂しいんだよ?」 
 「ダックスが? たとえ寂しいにしてもお前に頼られなくたって友達はいくらでもいるだろ。彼女にラクタジーノをおごるチャンスを狙ってる男はステーション中にいるよ。」 
 「まあね。でも店じゃ俺の目が光ってるからな。」 笑うクワーク。 
 「ダックスはああやって独りでいる方が好きみたいだな? その気持ち私にはよくわかるよ。」 
 「じゃ彼女お前さんにピッタリじゃないか。」 
 「私は人のプライバシーに立ち入ったりせんよ、誰かさんと違って。」 
 「情けない奴。そりゃお前は独りぼっちで惨めでもそれが好きだからいいよ。だけどな、お前にはわからないかもしれないが…人付き合いが好きな、人間だっているんだ。誰かの、声を聞くとホッとしたり。姿を見ると嬉しくなったりさあ? 温かくて、滑らかな…手を握れたらなあって。」 
 「お前ってどうしたんだ。」 
 「ものを欲しがるのは悪いことじゃない。」 
 「それが手に、入らないものでもか?」 
 「手に入らないからこそだよ。」 
 「じゃあ例えばデューリディウム※9とか。」 
 近くに座っていた宇宙艦隊士官が反応した。 
 クワーク:「デューリディウムだって? デューリディウムを入荷する予定があるのか?」 
 オドー:「私が見張ってるのを忘れるなよ?」 
 「見張られるなら美人がいいな。ジャッジアみたいな。」 
 ダックスが微笑みかけた。近づくクワーク。 
 話を聞いていた士官がオドーに近づいた。「面白いテクニックだ。…重要な任務の時は、そうやってブラックマーケットに情報をリークして事態を操作しているのか?」 
 オドー:「私が自分の仕事をどうこなそうと君とは関係ないだろ?」 
 追ってクワークの店を出る士官。「そういうわけにはいかない。私は宇宙艦隊セキュリティのプリミン大尉※10だ。ガンマ宇宙域から運ばれてくる予定のデューリディウムについて話をしておきたいんだが。」 
 オドー:「話すことなんかない、保安体制はもう整ってる。」 
 プリミン:「いやあその保安体制だが、一度私にチェックさせてもらいたい。…3週間もかけてここに来たのに、何もしないんじゃ何のために来たんだか。」 
 「…どうしてもって言うんなら、私のオフィスに 17時に来てもらいましょ。」
  
 報告するベシア。「解剖の結果、やはり本人でした。指紋も大脳皮質スキャンも、レチナールパターンも全てカジャダのもっていたデータと一致しました。今回は振りではなく、本当に死亡したものと思われます。」 
 シスコ:「しかしなぜここへ。」 
 「コブリアド人なんです。」 
 ダックス:「デューリディウムだわ。」 
 キラ:「それどういうこと?」 
 シスコ:「コブリアド人は絶滅に瀕していて、細胞崩壊防止にデューリディウムがいる。寿命を延ばすためにね。」 
 ダックス:「連邦もデューリディウム確保には努力してるけど、ガンマ宇宙域から産出した分を配っても、全人口に行き渡るには足りないんです。希少物質なので不法に入手しようとする者も多いんです。」 
 キラ:「じゃあヴァンティカって奴は、それを狙って DS9 へ。」 
 「ええ、その通りです。」 
 シスコ:「カジャダは解剖の結果に納得したのか。」 
 ベシア:「…いえ、どうしても生きてるって不安をぬぐい切れないようです。」 
 ダックス:「カジャダは今までの人生のほとんどを、ヴァンティカ追跡に費やしてきたんです。…ある意味では、二人の結びつきは非常に強いものだったとも言えます。」 
 シスコ:「カジャダの心情を尊重して、なるべく要望には応えるようにしてやってくれ。船のスキャンぐらいならそう面倒でもないだろうし。…それよりヴァンティカの仲間が入り込んでいないかどうかの方が心配だ。ああ、プリミン大尉。丁度よかった、セキュリティの件で君に話があってね。」 
 キラ:「ああそれならオドーを呼びましょうか。」 
 司令室に来たプリミン。「ああいや結構です、少佐。必要なら私から伝えておきますので。」 
 ため息をつくキラ。
  
 司令官室に入るシスコ。「オドーとは、上手く協力してやっていけそうかな。」 
 プリミン:「確かにプロムナードを仕切るのは非常に上手にやっていますが。」 
 「しかし?」 
 「正直言って、デューリディウムの警備を任せるには不安がぬぐい切れません。さっきもフェレンギ人のクワークに、デューリディウムのことを話していました。私に聞こえたなら、ほかの者にも聞こえたでしょう。」 
 「ステーションでは宇宙艦※11とは違って機密を保つのは至難の業だ。」 
 「そりゃあわかりますが。」 
 「どうせデューリディウムのことはもう知れ渡っている。オドーはクワークに、わざとそう言うことで警告しているのかもしれん。」 
 笑うプリミン。「アカデミーではそうは教わりませんでしたが。私の意見では…」 
 シスコ:「君の意見など聞いていない。ここはベイジョーのステーションだということを忘れるな。アカデミーでもいき過ぎた干渉は絶対するなと叩き込まれたはずだ。自分のやり方に固執するより、オドーと協力して上手くやっていく方が利口だぞ。わかったか。」 
 「…はい、わかりました。」 
 「よし、では本題に入ろう。コブリアド人の一味が、デューリディウムを狙って入り込んでいる可能性がある。君はオドーと、カジャダの話を聞きに行ってこい。昨日到着したコブリアドのセキュリティ士官だ。」 
 うなずき、出ていくプリミン。
  
 プロムナード。 
 プリミンは保安室に入った。「ああ…さっきは失礼した。無礼な物言いをしてしまったようで、すまなかったと思ってる。」 
 オドー:「気にしてませんよ。」 
 「ステーションのセキュリティの責任者が君だってことは肝に銘じたよ。許してくれないか。」 手を差し出すプリミン。 
 オドーは握手する。「…いいんですよ。」 
 プリミン:「宇宙艦隊の士官だからって、君に頭ごなしに指図はしないよ。…じゃあ、セキュリティプランを見せてくれ、一緒に検討していこう。」 
 「…もちろんプランは喜んでお見せしますけれどね。どんな事態が起きても対応できる完璧なものを作ったつもりですよ? とは言え…何か御提案があれば、お聞きいたしますがね。」 
 オドーが操作するが、画面には「データベース使用不能」と表示された。「何? …オドーより司令室。」 
 キラ:『どうしたの?』 
 「少佐、いまコンピューターにトラブルは起こっていませんか。」
  
 チェックするキラ。「…アクティブメモリーの情報が全て削除されてるわ。」
  
 オドー:「…そんなこと不可能だ。」 
 カジャダが来ていた。「不可能じゃありません。ヴァンティカはライジェル7※12 で全く同じことをしてのけたわ。」
 
 
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※6: Ty Kajada (ケイトリン・ブラウン Caitlin Brown TNG第156・157話 "Gambit, Part I and II" 「謎のエイリアン部隊(前)(後)」のヴェコール (Vekor) 役) 声:横尾まり、旧ST3 ウフーラなど
  
※7: レチナール画像スキャン retinal imaging scan レチナール=網膜
  
※8: DNA reference scan
  
※9: deuridium
  
※10: ジョージ・プリミン大尉 Lieutenant George Primmin (ジェイムズ・ラシュリー James Lashly TNG第77話 "Brothers" 「永遠の絆」のコッフ少尉 (Ensign Kopf) 役) 初登場。名のジョージは訳出されていません。声:西村知道、旧ST5 チェコフなど
  
※11: 吹き替えでは「戦艦」
  
※12: ライジェル7号星 Rigel VII TOS第1話 "The Cage" 「歪んだ楽園」より
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