ディープスペースナイン エピソードガイド
第8話「共生結合体生物“トリル族”」
Dax
イントロダクション
『ステーション日誌、宇宙暦 46910.1。オブライエンは妻の母親の 100歳の誕生祝いに、夫婦で地球へ帰省中。残された我々は、ステーションの維持管理に苦労している。』 レプリマット。 ベシア:「早速再濾過プロセッサーが故障だなんて、チーフがいなくなるのを待ってたみたいですね。」 ダックス:「この技術は恐らくカーデシア人がロミュラン人から習得したもののようだけど。RCLタイプ1 のマトリックスフィールドかしら。」 パッドを見ている。 「じゃあ、ロミュランの修理サービスを呼べばいいじゃないですか。」 「RCLタイプ2 かしら。」 「もう一杯、ラクタジーノはどうです?」 「いいえ、眠れなくなるから。」 「こんなクリンゴンのコーヒーを飲むより、夜を過ごすにはもっとずっと楽しい方法がありますよ。」 「きっとこれはタイプ1 だわ?」 「ああ…。」 暗がりに隠れて、ダックスを見ている男がいる。 フードを被った者を引き連れ、異星人が近づいた。 見ていた男は言う。「ダックスです。」 ダックス:「もう遅いから失礼するわ?」 ベシア:「ああ、それじゃ。部屋まで送っていきますよ。」 「いいえ、大丈夫よジュリアン。」 「そう。じゃ、おやすみなさい。」 微笑み、歩いていくダックス。 それを追う、異星人とフードの者たち。監視していた男は残った。 ベシア:「上手くはぐらかされたな? ……でも嫌がられたわけじゃない。」 笑う。 廊下を独りで歩いているダックスの後ろに、異星人たちが迫る。 異星人:「ダックス!」 振り返るダックス。「何ですか?」 異星人:「君がダックスだな?」 「何の御用ですか?」 指示する異星人。2人の部下はダックスにつかみかかり、口をふさぐ。 通りかかるベシア。事態に気づく。「やめろ!」 異星人に殴りかかるベシア。 フードの者がベシアをつかむ。それが女性だとわかり、殴るのを一瞬ためらうベシア。 女性は逆にベシアを殴った。 一人になった相手に、ひじ鉄を食らわせるダックス。 倒れるベシア。 ダックスはコミュニケーターに触れようとするが、取られてしまう。床に倒された。 近づく異星人。ダックスを立たせ、顔をつかむ。 3人はダックスを連れて行った。意識を失ったままのベシア。 |
本編
オドーと共に司令官室を出るシスコ。「どうした、少佐。」 キラ:「何とも言えないんですけど。これをどう思われます?」 「重力子ジェネレーターに負荷の残余があるらしいな。まあすぐ正常に戻るだろう。…念のため、レベル3 のチェックを行ってみてくれ。」 起きあがるベシア。「ベシアより司令室。」 応えるキラ。「どうしたの?」 ベシア:『3人のエイリアンが…大尉を誘拐しました。助けようとしたんですが、逆にやられてしまって。』 シスコ:「全ステーション、警戒態勢。全ターボリフト停止。レベル4 からエアロックを封鎖しろ。コンピューター、ダックスの現在位置は。」 コンピューター:『現在位置はレベル6 の第1通路です。』 ベシア:『違う、それは僕のいるところだ。通信バッジを落としていったんだ。』 オドー:「それはどれくらい前ですか!」 ベシアは言う。「失神してたんでわからないよ。」 連行されるダックス。「一体どういうつもり?」 装置を見る異星人。「次の角のところを右へ曲がるんだ。」 誰も追ってきてないことを確認する。 廊下の映像を次々と切り替えるオドー。「奴ら追跡グリッドを避けて移動してます。ステーションの内部をよく知ってますよ。」 キラ:「それだけ下調べをしてきてるなら、逃走用の船も速いやつを準備してるかもしれないわね。」 シスコ:「少佐、ドックにワープ性能の高い船がいるか調べてくれ。」 DS9 の状態を見る。「クソ!」 オドー:「何です。」 「奴らが重力子ジェネレーターに細工をしたらしい。トラクタービームが使えなくなった。」 キラ:「ワープ5※1 以上の性能をもつ船は全部で 8隻です。…ドッキングパイロンに 3隻、ドッキングポートに 5隻。」 「ドッキングリングの全エアロックを封鎖。」 オドー:「保安クルーは全員ドッキングリングへ急行し、レベル21 までの捜索を開始するんだ。」 エアロックのドアが自動的に閉まった。 やってくる異星人たち。コンソールに装置をつけて操作すると、再び開いた。 異星人:「フン。」 映像を見るキラ。「発見しました。第5エアロックです。」 オドー:「私が行きます。保安クルーは第5エアロックに急行せよ。ダックス大尉が人質だ!」 「フォースフィールドを作動させ、閉じこめます。」 エアロックに入れられたダックス。「何が目的なのか教えて!」 フォースフィールドが行く手を遮った。 すぐに横のパネルを開け、機械に装置を取り付ける異星人。 操作すると、フォースフィールドが全て解除された。 異星人:「急げ。」 異星人たちは船にダックスを入れた。 報告するキラ。「フォースフィールドが消えたわ。フィールドの解除コードを知ってるってわけね。船に乗り込みました。」 シスコ:「重力子ジェネレーターが直れば、トラクタービームで捕捉する。」 「…発進しました。」 DS9 を離れていく異星人船※2。 シスコ:「よーし、直ったぞ。EPSウェーブガイドへのフロー増大中。」 キラ:「負荷の過剰分は中和されています。」 「トラクタービーム発射!」 発射されるトラクタービーム。 逃げていく異星人船に向かって伸びていく。何とか引き留めた。 キラ:「ロックオン。」 シスコ:「…第6ドッキングポートへ着陸させてくれ。」 保安部員が銃を向ける中、エアロックのドアが開いた。 オドー:「無駄な抵抗はよせ。もうどこへも逃げられないぞ?」 異星人:「君が警備の責任者か?」 ダックスも出てくる。 オドー:「大丈夫ですか?」 ダックス:「ええ。」 異星人:「私の名はアイロン・タンドロ※3。」 チップをシスコに渡す。 タンドロを見るダックス。 タンドロ:「クレストロン4※4 の特命全権公使だ。犯罪者の引き渡しを要求に来た。」 シスコ:「君こそ婦女暴行および誘拐の罪を犯している。」 「これは法に則って出された逮捕状だ。クレストロン4 と惑星連邦との協定では、犯罪人の引き渡しが規定されている。」 「容疑は何だ。」 「…ダックスの容疑はまず国家への反逆罪と…私の父を殺した罪だ。」 ダックスを見るシスコとオドー。無表情のダックス。 |
※1: 原語では前に「ランナバウトより速いやつを準備してるかも」と言っており、そのためランナバウトの最高速度はワープ5 未満であるという見方もできます。DS9 の脚本家用バイブルでは、4.7 とされているそうです ※2: このクレストロン船は、TNG第102話 "Darmok" 「謎のタマリアン星人」に登場したタマリアン船の使い回し ※3: Ilon Tandro (グレゴリー・イッツェン Gregory Itzin DS9第136話 "Who Mourns for Morn?" 「モーンの遺産」のヘイン (Hain)、VOY第151話 "Critical Care" 「正義のドクター・スピリット」のドクター・ダイセク (Dr. Dysek)、ENT第15話 "Shadows of P'Jem" 「恩讐を越えて」のソペク船長 (Captain Sopek)、第95話 "In a Mirror, Darkly, Part II" 「暗黒の地球帝国(後編)」のブラック提督 (Admiral Black) 役) 声:菅生隆之、7代目スポック (現在の補完部分、新録を担当) ※4: クレストロン4号星 Klaestron IV |
保安室。 オドー:「この逮捕状によれば、ダックスは 30年前にアーデロン・タンドロ将軍※5を殺したことになってますね?」 シスコ:「30年前? じゃクルゾン・ダックスのことか。」 「うーん。その当時、クレストロン4 は内戦状態にありクルゾンは、調停者として派遣されてます。」 「クレストロン4 に行ったことがあるなんて、私は聞いてないぞ。」 「そりゃ言えないでしょう。これだけ罪を犯していれば。」 「オドー、これだけは知っといて欲しい。クルゾン・ダックスは剛胆だが潔い男だった。仕事に対しても私生活でもその姿勢は変わらなかった。…私はクルゾンのそういうところが好きでたまらなかったものさ。 「じゃ反逆罪の方は? クレストロン政府を裏切って反乱軍に内通したとありますよ?」 「嘘だ! 私の知っていたクルゾンはそんな男じゃあなかった。」 「…でもクルゾンの体内の共生生物の方は?」 ドアチャイムが鳴り、寝ていたダックスは応えた。「…どうぞ?」 シスコ:「逮捕状の内容確認のため、クレストロン4 に亜空間通信を送ってきたよ。少しは時間稼ぎになるだろう。しかし、一体これはどういうことなんだ? …ダックス。君を助けたいんだ、だから説明してくれ。」 「いいの、私のことは放っておいてちょうだい。気持ちはありがたいけど。」 「それはどういう意味だ! 反逆罪に殺人罪。クレストロン4 じゃ、どっちか一つでも死刑になるんだぞ? ……何で何も言ってくれない。このままじゃ君をあいつらに引き渡さざるをえない。」 「いいの。悪いけど何も話すことはできないのよ。」 「……知り合って随分経つ。もう 20年の付き合いじゃないか、ダックス。」 「今の私はジャッジア・ダックスよ? あなたが付き合ってきたのはクルゾン・ダックスだわ。」 「そうか、共生生物が本体を変わればそれで友情も断ち切れてしまうってわけか。」 「ベンジャミン、あなたは今でも私の一番大切な友達よ? …ごめんなさい。」 司令官室にいるタンドロ。「逮捕状の確認が済んだのなら、さっさと犯罪人を引き渡していただきたい。」 シスコ:「しかしミスター・タンドロ。なぜダックス大尉を誘拐しようとなさったんですか? 逮捕状があるんなら最初からそれを見せればよかったのに。それが私には不思議でね。」 「クレストロン4 と惑星連邦との協定により、この逮捕状は有効です。即刻引き渡して下さい。」 「このステーションはベイジョーに属してるんです。」 「だから何だとおっしゃるのですか。」 「ベイジョーとは協定を結んでいらっしゃらないんでしょ? だからダックス大尉を力ずくで誘拐しようとした。ベイジョーが引き渡しを拒否したら、そこまでですからね?」 「何をバカな。ベイジョーとは何の関係もないことじゃありませんか。」 キラ:「…なぜこのステーションのことをあんなによく御存知だったんですか?」 「…私はあなたと話してるのではない。」 シスコ:「いや、キラ少佐はベイジョー側の最高責任者ですよ。」 キラ:「クレストロンはカーデシアの同盟国ですからこのステーションのことはカーデシアから情報を得ていらっしゃったのでしょうが、情報の筒抜けは、ベイジョーにとって保安上非常に不安でもあり…不快でもあります。」 「その通りだ、ベイジョーと関係がないとは言えませんね。それに私の知るところでは…ベイジョー人は愛国心が強い。」 「ええ、もちろんそうです。」 「ということは、ダックス大尉を引き渡すにはベイジョーの法に沿った公聴会を開かないと。」 オドーに近づくクワーク。「何だって?」 オドー:「公聴会をここで開く。」 「何日もかかるじゃないか。」 「しかしほかに適当な場所がないんでね。」 「そりゃあお気の毒なこった。でも店を閉めるわけにはいかねえよ?」 「美人のダックス大尉を助けるためでもか?」 「……商売は、商売だからな?」 「ああ…。…そういえば、あそこの壁をもう 5メートル手前に出してもらおうか。」 「何を言い出すんだよ。」 「あの壁を移動させた後は、お前の第2レベルのホロスイートを下に降ろしてもらおう。」 「下に降ろす? 何でだ。」 「新しい規則なんだよ。」 「新しい規則?」 「知らなかったのか。臨時政府が発足しカーデシア時代の建設法は全て変わったんだ。ハ、もちろんこのステーションでは私が統括して指導しているんだがな?」 「…ハ!」 「そういえば、このバーの位置は出口に少し近すぎるような気がしないでもないな?」 「…脅迫する気か?」 「いやあ、脅迫だなんて。…商売は、商売だからね?※6」 うなるクワーク。 オドーに近づくシスコ。「ちょうど君を探しに来たところだ。公聴会を開く場所が決まらないんだ。ダックスをステーションから出したくないんでね、ベイジョー星では開きたくないんだ。」 オドー:「それなら御心配なく、クワークがプロムナードを公聴会に使ってくれって申し出てくれたんです。」 「それは助かるな。」 プロムナードでは荷物を抱えたモーンが歩いている。 「いや全くです。」 「なあオドー、この件についてはダックスはだんまりを決め込んでるんだ。だから事件の背景調査のため、誰かにクレストロン4 へ行って欲しいんだが、君はどう思う。」 「何てったって 30年前の事件ですからね? 公聴会までに調査が終わるかどうか。」 「何とか理屈をつけて時間稼ぎをするよ。」 「ま頑張って。」 保安室に入る 2人。 クワークの店。 クワークやモーン、フェレンギ人たちが見ている中、一人のベイジョー人女性がやってきた。 中央に立つ。「非公式の公聴会ですので個人的に注文をつけさせて下さい。私は今年で 100歳です。下らない弁論を聞いて無駄遣いする時間なんかありませんの。わかるでしょ? 夕食の時間までに、終わらせて下さいよ? …よろしいですね?」 タンドロ:「わかりました、マダム・レノラ※7。」 レノラは球を叩きつけた。「あなたは犯罪人の引き渡しを要求してますね?」 タンドロ:「被告のトリル人※8は、現在の外見がどのようなものであれ、30年前連邦の士官であった時代に、私の星で大罪を犯したのです。もちろんこのような重罪については時効はありません。容疑は…」 「結構です。容疑は逮捕状を読みましたから知っています。」 チップを手にするレノラ。「でもなぜ罪が犯された 30年前に、追及しなかったのですか?」 「犯罪の証拠が軍事に関係するものでしたので最近になるまで未公開だったのです。」 「わかりました。着席。」 「司令官、この逮捕状は正規のものです。どのような理由で引き渡しを拒否するのですか?」 シスコ:「いくら正規のものでも、書かれている名前はダックスです。これは女性であるジャッジア・ダックスを指すものではありません。死亡した男性のクルゾン・ダックスを指すのです。ジャッジアは 30年前にはまだ生まれてもいません。」 タンドロ:「下らない屁理屈はやめてもらいたい! そこの人物はトリル人なんだぞ。クルゾンだろうがジャッジアだろうが、中の共生生物はダックスなんだ。」 「しかし共生生物は本体の寿命がくると違う肉体へと移るのです。…ミスター・タンドロが引き渡しを要求しているのはクルゾンであり、もうこの世には存在していないのです。」 「バカバカしいことを!」 レノラ:「司令官、大きな問題を提議してくれましたね? おかげで審議が長引きそうだわ? でも反逆罪、および殺人罪は確定すれば死刑ですから慎重を要します。犯罪人の引き渡しを許可する前に、立証して下さい。逮捕状に記載されている人物が確かに、彼女と同一人物だということね?」 微笑むシスコ。ダックスを見るが、無表情のままのダックス。 |
※5: General Ardelon Tandro ※6: 原語ではクワークのセリフも "Business is business." と言っており、商売というか「仕事は仕事」という意味 ※7: Renora (アン・ヘイニー Anne Haney TNG第51話 "The Survivors" 「愛しき人の為に」のリション・オックスブリッジ (Rishon Uxbridge) 役) 声:沼波輝枝 ※8: 吹き替えでは邦題同様、全て「トリル族」 |
司令官室のキラ。「ダックスは自分がどうなっても構わないって感じだったわ?」 シスコ:「確かにな。ドクター、コンピューターおよびステーションライブラリーには、アクセスを完了した。徹底的に情報収集といこう。君は医学的な見地から、ジャッジア・ダックスとクルゾン・ダックスが全くの他者だということを裏付ける証拠を探してくれ。少佐。」 ベシア:「失礼ですが、そのような医学的な証拠が見つけられるかどうか、わかりませんよ…」 「弱気を出すな、とにかく探すんだ。少佐、君に協力してもらいたいことは、惑星連邦のコンピューターを調べて、トリル人に関する判例があるかどうかを探して欲しいんだ。」 キラ:「トリル人が自分より一代前の…肉体のしたことに、責任があるのかってことですね?」 「そうだ、ぜひ調べてくれ。」 「あ、もし責任『あり』って出たら。」 「その判決は間違っているんだ。我々としては、責任の『ない』ことを主張する。……しかし責任ありという判例があることを、考えておかなくては。…とにかく、できる限りの準備はしておこう。」 通信が入る。『シスコ司令官、クレストロン4 のオドーから、亜空間通信が入っております。』 シスコ:「時間がない、がんばってくれ。」 出ていくキラとベシア。 コンソールを起動させるシスコ。「オドー、何かわかったか。」 オドー:『今までに 2つのことがわかりました。一つはアーデロン・タンドロ将軍が暗殺されたことによって、政府軍の志気が高まり勝利に結びついたということ。タンドロ将軍は国の英雄となり、至る所に将軍の銅像があります。二つ目は、将軍とクルゾンとは強い信頼で結ばれた生死を共にする同志とも言える仲で、2人は無二の親友だったそうです。』 「そうだ、クルゾン・ダックスはそういう男だった。」 『そういう人が、国を裏切り親友を殺しますかね。腑に落ちないんですよ。でももし本当にそんな罪を犯していたんだとしたら、八つ裂きにしてやりたいですけどね?』 「おい、どっちの味方なんだ。」 『ご心配なく、仕事はちゃんとやります。夫人はまだ存命で、2人が親友だったんなら夫人もクルゾン・ダックスとは懇意だったと思いますので、当たってみます。ではまた後ほど。』 通信を終えるオドー。 シスコはため息をついた。 夜の街※9。 家の中にいる、クレストロン人の女性。「クルゾン・ダックスは主人の死に何の責任もありませんわ?」 オドー:「それは確かですか?」 そのエニーナ・タンドロ※10は言う。「間違いありません。」 オドー:「ならなぜ息子さんは。」 「息子にも困ったものですわ? 父親の死の謎に取り付かれているのです。私も、今さら蒸し返さないようにと言ったのですが、耳を貸そうともしません。特に母親の言うことには。…これだけは申しあげておきますが、クルゾン・ダックスは亡くなった主人にとっては無二の親友だった方です。家族ぐるみで親しくお付き合いしていたのです。クルゾンは親友を死なせるぐらいなら、自らの命を絶つような人でした。」 「それは奥様の個人的な御意見で? それとも、証拠がありますか?」 「証拠は全て息子が握っておりますが、息子は…ダックスを陥れるために使う気なのです。」 「その証拠とはどういうものなんでしょうか。」 「…それは、政府軍の本部から反乱軍の野営地へ向けて…極秘通信が発信されていたという記録です。通信の内容は、主人が都から再び戦場に戻る際に、どのルートをたどるかを正確に知らせたもので…主人は戦場へ戻る途中待ち伏せを受け、拉致されて殺されたのです。」 「息子さんはその極秘通信を発信したのは、ダックスだって思っておっしゃる。」 「確かにそのルートを知っていたのは、主人を含めてたったの 5人だけだったのです。息子は、その極秘通信が発せられた時刻に、主人以外の 4人がどこにいたかを調べましたが、クルゾンだけわからず。」 「つまりダックスには、アリバイがないわけだ。」 「でも…アリバイがないというだけで…有罪とは限りません。違いますか?」 「どうですかねえ? …感謝します、参考になりました。」 「……お元気ですか?」 「と言いますと?」 「クルゾン・ダックスのことです。」 「…亡くなりました。…息子さんが引き渡しを要求しているのは、ジャッジア・ダックスという 28歳の女性です。クルゾン・ダックスは 2年前に死にました。ジャッジアは、新しい名前です。」 ショックを受けた様子のエニーナ。「…まあ…亡くなったなんて。…知りませんでした。」 礼をし、部屋を出るオドー。 唇を震わせるエニーナ。 DS9。 タンドロ:「ではマダム・レノラ、トリル星から来た証人を喚問します。セリン・ピアーズ※11です。」 最初にダックスを見ていた男が、証言台に立った。 タンドロ:「ピアーズ導師※12。同行していただいてよかった。」 レノラ:「私達にとっても手間が省けて都合が良かったわ? なぜ同行なさったの?」 ピアーズ:「容疑者がトリル人なので、トリル政府から立ち会うようにと、依頼があったのです。」 「被告を個人的に御存知なのですか?」 ダックスを見るピアーズ。「知りません。」 レノラ:「証人をトリル人の専門家と認めます、質問をどうぞ。」 タンドロ:「ピアーズ導師、あなたは何回肉体を変えてきましたか。」 ピアーズ:「私の体内の共生生物は成人の肉体を、7人経ております。」 「今でも最初の自分を覚えていますか?」 「もちろんです。…最初の本体は、女性でした。」 「最初の本体に合体した時、何を考えどのように感じたか今でも覚えていますか。」 ダックスに近づくタンドロ。 「共生生物は人生を分け合った肉体との思い出は決して忘れません。」 「ではトリル人が犯罪を犯した場合は、その共生生物の次の本体の記憶を共有し、それを思い出すこともできるのですね?」 「ええ。おっしゃるとおりです。」 「細部まで思い出せるのですか?」 「ええ、思い出せます。」 「では罪悪感も同じように感じられるわけですね。」 「そうです。」 シスコ:「裁判でもないのにこのような尋問まがいの質問には同意しかねます。」 レノラ:「タンドロさんの御意見はよくわかりました。」 タンドロ:「いえもう一つだけ是非付け加えさせて下さい。シスコ司令官が言われてるようなお考えでは、トリル人の完全犯罪が成立してしまうことになるのです。…どんな凶悪犯罪を犯しても、違う肉体に乗り変えさえすれば、法の追及を受けないでも済んでしまうのです。」 シスコ:「ピアーズ導師、先ほど成人の肉体を 7人経てきたとおっしゃいましたね。」 ピアーズ:「はい。」 「つまり、共生生物と合体する本体になるには、幼い子供では駄目なんですね? どれぐらいの年齢に達していれば、認められるのでしょうか。」 「20代前半から中頃です。」 「その理由は。」 「本体になる者は心身共に成熟した、大人で…あるべきだからです。合体を本当に希望するのかどうか自分の意思で、判断できる年齢になっていなければなりません。」 「一度合体すれば、本体の人格は共生生物によって乗っ取られてしまうのでしょうか。」 「いえ、まさか。あ…合体という行為は、本体と共生生物とがお互いを、完全に分かち合うことなのです。お互いを抑圧することではありません。」 「では新しい肉体と合体すれば新しい人格が生まれるわけですね? 全く新しい人物が、誕生するわけだ。」 「そういう言い方もできますね。」 「しかし私に言わせてもらえればほかの言い方などありえないと思いますが。ありがとうございました。」 タンドロ:「マダム・レノラ、シスコ司令官の詭弁に惑わされてはなりません。…被告がクルゾン・ダックス時代に犯した罪を忘れることはないのです。シスコ司令官が何と主張しようと、その事実を変えることはできません。」 「たとえ記憶は受け継がれても、それは単に記憶が別人に受け継がれたに過ぎない。」 「屁理屈をこねるのはよせ! 人殺しをかばうおつもりですか!」 球を叩くレノラ。「お二人ともここはつかみ合いのケンカをするところではありません、場所柄をわきまえなさい! ではここで 2時間の休憩を取ります。」 |
※9: このクレストロン4号星の風景は、TNG第14話 "Angel One" 「奪われた女神達の惑星」のマット・ペインティングの使いまわし ※10: Enina Tandro (フィオヌラ・フラナガン Fionnula Flanagan TNG第162話 "Inheritance" 「アンドロイドの母親」のジュリアナ・テイナー博士 (Dr. Julianna Tainer)、ENT第23話 "Fallen Hero" 「追放された者への祈り」のヴラー (V'Lar) 役) 声:沢田敏子、DS9 初代ウィンなど ※11: Selin Peers (リチャード・ラインバック Richard Lineback TNG第22話 "Symbiosis" 「禁断の秘薬」のロマス (Romas)、ENT第53話 "The Xindi" 「トレリウムD」の Kessick 役) 声:大川透、DS9 ガラックなど ※12: 吹き替えでは Minister をこう訳しています。確かに「大臣」という雰囲気ではありませんね |
クワークの店。 レノラがやってくる。「名案を一つ思いつきましたよ? 彼女と共生生物を分離して、共生生物はクレストロンへ送還し、彼女は留まる。」 ベシア:「いや、ことはそう単純には運ばないと思いますが。」 「あら残念だわね。なぜか説明して下さる?」 「共生生物と本体とは、相互依存関係にありますので…合体して 93時間経つと、独りでは生存できないんです。」 「なるほど。司令官、質問をどうぞ?」 シスコ:「ドクター、論点はわかってますね。医学的見地から見て、クルゾン・ダックスとジャッジア・ダックスは、同一人物ですか。」 ベシア:「いえ、別人です。性別も男と女、そのほかにも血液型、代謝機能、神経系統、身長や体重も異なっています。」 タンドロ:「論点がずれていますよ。」 「ずれてるのは、そちらでしょう。失礼。…私はクルゾンとジャッジアの脳波を、比較分析してみました。」 シスコ:「マダム・レノラ。」 パッドを渡す。 「ご覧の通り、両者は完全に違います。このことからわかるのはクルゾンと、ジャッジアとは…全く別の人間だということです。」 「ありがとう、ドクター。」 タンドロ:「ドクター。…分析を見せていただきましたが大したものですねえ。まだお若いのに。」 ベシア:「光栄です。」 「しかし医学の素人の悲しさか、理解できない点が一つあるのです。」 「どんな疑問点でも喜んでお答えしますよ。」 「そうですか、では。トリル人の、脳はどのような構造なんでしょうか。」 「一言では説明できませんが、トリル人には脳の核が 2つあります…」 「2つ。」 「共生生物の脳と、本体の脳です。」 「脳が 2つ。そして 2つの脳は、語り合えますか?」 「ええ、コンピューターを 2台つなぐようなものです。」 「なるほど、それでよくわかりました。では、脳波の分析を行ってみてその 2つの脳のそれぞれの…ああ、脳波は別々に…捉えられましたか?」 「2つの脳は、別々に機能するのではなく…」 「脳の機能の仕方をお聞きしているのではありません。2種類の脳波を確認できたかと、それをお聞きしているいるのですよ。」 「それは論点とは関係が…」 「確認できましたか。」 「できました。」 「本体が変われば共生生物の脳波も、新しいものに変わるのですか?」 「それについては資料がないので、どちらともわかりません。」 「推測で結構です。」 「推測でものは、言いたくありません。」 「それでは新しい肉体と合体した時、共生生物の脳波は変化するという証拠があるのですか。」 ダックスを見たベシア。「…ありません。」 タンドロ:「ありがとうございました。参考になりました。」 うなだれ、席に戻るベシア。 レノラ:「ほかに証人はいますか、司令官?」 シスコ:「はい、マダム・レノラ。クルゾン・ダックスをよく知っていた人間を喚問したいと思います。私です。」 「…よろしいでしょう、発言を許可します。」 礼をするシスコ。「もしよろしければ、私への質問はキラ少佐に御願いしたい。」 合図するレノラ。 キラ:「司令官、クルゾン・ダックスはどういう人物でしたか?」 シスコ:「模範的なトリル人とは言いがたい男でした。かなりの大酒飲みで、女性に対しても興味をもちすぎるきらいがありました。」 「友人なのに随分ですね?」 「私の言いたいのは、クルゾンとジャッジアは似ても似つかぬ存在だったということです。」 「…ではクルゾン・ダックスとあなたとの関係について、話してみて下さい。」 「彼は当時、まだ若かった私に…全く新しい人生の生き方、楽しみ方を教えてくれました。…芸術や科学を初めとして…交渉のやり方、そして名誉とはどういうものであるかを、示してくれた。反逆、殺人。クルゾンはそんなことはできない男でした。」 タンドロ:「それはあなたの印象に過ぎません。証拠にはなりませんよ?」 「私は私が親しくしていたクルゾンの人となりを説明してるだけです。でもその反対に、ジャッジアのことは私はまだほとんど知らないのです。…最近になって知り合ったばかりですから。」 「司令官。宇宙艦隊士官のプライドの高さは、全宇宙※13で知らぬ者はない。見たところあなたも名誉を重んずる方のようだ。…あなたは罪を犯しても罰せられなくてもよいというお考えなのですか?」 「全ての罪は罰せられるべきです。」 「では、たとえあなたでもダックスの体内にいる共生生物を罰することには賛成でしょ?」 「ダックスの中の共生生物が犯罪の主犯だったと、なぜ断言できるんです。本体であったクルゾンが主犯だったならどうします。もしそうなら共生生物には責任はないことになる。」 「いいえ、両者ともに責任があるのです。一度合体したら本体と共生生物とは一体になって機能するものなんですからね。ドクター・ベシアもそう証言なさった。水に塩を入れれば両者は混ざり、塩水となり一つのものとなって分離することはできなくなる。」 「その例えには私も全く賛成です。塩水を沸騰させれば、塩はまた元の状態に戻ります。その塩を水でない液体に入れると、全く違うものができてくるはずです。ジャッジア・ダックスはクルゾンとは、全く違う存在なのです。」 球を打つレノラ。「ここで 1時間の休憩後、ジャッジア・ダックス大尉ご自身に証言をしていただきましょう。では、1時間後に。」 出ていくレノラ。 シスコはダックスに言う。「君は自分を守る気がないんだな、証言しないつもりだろ。」 キラ:「裁判なら拒否もできるけど、これは公聴会よ。」 無言で出ていくダックス。 士官がパッドをキラに渡す。「少佐。」 キラ:「オドーから亜空間通信が、緊急です。」 保安室のコンソールに映っているオドー。『新事実がわかりました。』 シスコ:「何だ。」 『悪い知らせです。反乱軍への極秘通信が証拠だと聞いたんで、その当時軍の本部から発せられた通信を全て、通信日誌でチェックしてみたんです。…クルゾン・ダックスの記録もちゃんと残ってました。』 「バカな、反乱軍への通信まで日誌につけていたなんて。」 『いやそんなんじゃありません。しかし日誌にはクルゾンのオフィスからタンドロ将軍の自宅への通信の記録が何回もつけてあるんです。』 「そりゃあ親友同士なら。」 『いやあそれが将軍が戦場へ出ていた時に集中してるんですよ。』 「…夫人とか。」 『そうです。』 「…クルゾン・ダックスとエニーナ夫人が不倫を?」 『まあわかりませんがね? 夫の留守で寂しい夫人を力づけるためだったのかもしれません。…でも将軍がいない隙に 2人は関係を結んだのかもしれない。…もし不倫の関係にあったとしたらクルゾンが将軍を殺す強い動機になりますね?』 |
※13: 原語では「高潔なことで有名」としか言っておらず、大袈裟な吹き替えかも |
クレストロン4号星。 オドー:「通信記録だけじゃなく贈り物の記録もありましたし、郊外のホテルにお二人で泊まった記録もありました。」 エニーナ:「過去のことは言わないで。」 「真実を知りたいんです!」 「真実ね?」 「ご説明していただきましょうか。この記録が明らかになれば、ダックスの弁護が難しくなりますからね?」 「……生きていた時の主人は、国の英雄と呼ばれる資格などこれっぽっちもない人だったのです。…ところが殺されてからは伝説となり、私はその未亡人になった。主人とは全く面識がなかったのに弔問に訪れる方もいます。30年も前のことをまだ悲しんで下さるのです。」 「冷たいんですね。」 「ええ! …生きている時の主人を私は知っておりますから。でも国民が私に期待するのは、未亡人としての貞操を守り再婚などせず生きること。行事があれば主人の代わりとして招かれたりもします。…だから本当の主人の姿を、口にしたりはできない。誰も聞きたがらないことですからね…?」 「今なら聞きたがるかも。」 「フン、私が何を言おうと主人の伝説は変わらず生き続けます。…勇敢で、国のために戦い、国民のために死んだ英雄として。……でも、私のイメージは変わってもいい頃なのかも?」 DS9。 シスコ:「君はエニーナ夫人の評判を、守ろうとしたんだ。…だからあえて沈黙を守ったんだな。……不倫はいいことではないが、不倫よりもっと悪いこともある。クルゾンは人殺しなどしていないし、国を裏切ってもいない。…前の肉体が犯した過ちを背負ったまま、君は黙って死ぬつもりだったのか。まるで自殺行為だぞ! ……聞きにくいことだが、あのタンドロは君の子じゃないんだろうな。」 ダックス:「あなたの想像力のたくましさには参るわ?」 「じゃ何で君は黙ってるんだ、教えてくれ! ええい! 昔の君ならケンカになってる!」 柱を叩くシスコ。 「…相変わらず短気なところは治っていないわ?」 「君にそう言われる筋合いはない。」 「クルゾンはいつも心配してたわよ?」 「おい、そうやって話題をすり替えるんじゃない!」 「そうだ、覚えてる?」 笑い出すダックス。「アーゴシアン※14の大尉が、あなたにお酒を引っかけた時。」 釣られて笑うシスコ。「あの時君はカッとなった私を殴って止めてくれたな。君の指輪でついた傷がまだ残ってる。」 シスコの顔に触れるダックス。「あの指輪をはめてみたのよ。クルゾンが亡くなった後。でも私の指には緩すぎて抜けてしまった。」 シスコはダックスの手をつかむ。「君が真実を言ってくれなきゃ、助けてやれないんだよ。…私にできることはもう、ありそうにないしね。」 ダックス:「…いいのよ、なるようになれば。」 「司令官として最後まで部下の命を守るのが私の務めだ。…そういう風に君が教えてくれたんだぞ。」 「…それはクルゾンでしょ?」 「…クルゾンがほんとに罪を犯していたっていうんなら、私は今すぐ君の弁護をやめるよ…」 「あなたと議論するつもりはないわ? エニーナ夫人のことは、そうね…やはりクルゾンは分別がなかったと思うわ。トリル人が過ちを犯した場合はねえ、その過ちは永遠に引き継がれるのよ。私にはなぜクルゾン・ダックスが夫のある女性と…不倫の関係になってしまったのか全くわからないわ? …ただわかるのは、彼が彼女を愛してたってこと。心の底から深くね?」 「だから夫を殺したのか。」 「…それを聞かずにいられないのね。」 「私にはわからないよ。」 「いいの、ベンジャミン。わからなくても。」 ダックスの部屋を出るシスコ。 レノラが来て、ダックスが証言台に立つ。 レノラ:「ダックス大尉、あなたは私より 200歳以上も年上なのかしら? それとも私の曾孫ぐらいの年なのかしら。…最初はどっちなのか不思議だったけれど、どうやらお年寄りでもあり若いお嬢さんでもあるようですね? …そろそろ蹴りをつけましょうか?」 シスコ:「本体のジャッジアはいくつぐらいの頃から、合体を望んでいたのですか。」 ダックス:「子供の頃からです。だから必死に勉強しました。」 「それは本体に選ばれるのは非常な難関で、競争が激しいからですか。」 「そうです、合体は大変な名誉です。」 「ジャッジアはどうやって本体候補に選ばれたのですか?」 「成績が優秀だったので、奨学金※15を勝ち得たからです。ほかにもいろいろテストがあります。」 「本体には精神的強さが要求されるそうですが、心理的テストもあるのですか。」 「…そうです。」 「ではジャッジアは勉学に優秀だっただけでなく、精神面でも…安定していると認められた。」 「…そうです。」 「ではあなたはエリートであり、非常に優れた人材なわけだ。…学位はどのようなものを取得したのですか。」 「次の分野での博士号※16をもっています。まず宇宙生物学、動物学、天体物理学、それから宇宙考古学です。」 「そのうち共生生物と合体する前に取得したものはどれですか。」 「全部そうです。」 「全部を、合体前に。つまり自力で、取得した。…この、聡明な若い女性は罪を犯すどころか勉学に励み、社会に貢献してきたのです。マダム・レノラ、自分が生まれる前に、別の人格によって犯されたとされる犯罪の責任を問えるものでしょうか。」 タンドロ:「その答えは明らかです。…大尉、本体の候補者として、ジャッジアはトリル人になることによって生じる責任を理解していましたか? どのような結果になろうとも、その責任を進んで引き受けることを誓いましたか。」 ダックス:「はい。」 「それではクルゾン・ダックスが犯した罪をあなたが償うことも、当然ではありませんか!」 クワークの店のドアが開き、オドーと一緒に入ったエニーナが進み出た。礼をする。「発言の許可を。」 レノラ:「どなたでしょうか。」 「…エニーナ・タンドロと申します。亡くなったアーデロン・タンドロ将軍の未亡人です。…これ以上審議は必要ありません、なぜならダックスは無罪だからです。」 タンドロ:「母さん、それはどういうことです!」 制するエニーナ。「私の息子は、夫が殺されたのはクルゾン・ダックスが反乱軍に夫の通るルートを漏らしたからだと主張しております。…でも軍本部から極秘通信が出された時、クルゾンは軍の本部にはおりませんでした。……彼は私と、ベッドにいたのです。」 シスコはダックスを見る。うなだれるダックス。 エニーナはタンドロの肩に手を伸ばそうとしたが、拒否された。 レノラ:「ミスター・タンドロ? お父様の暗殺を演出した犯人は、ほかにいるようですね? …それではこれで、公聴会を終了いたします。」 球を叩き、出ていった。 プロムナード。 エニーナ:「なぜ命を懸けてまでかばって下さったの? …会ったこともない女のために。」 ダックス:「私の中にはクルゾンの記憶も残っているのです。あなたとの幸せな思い出も。」 「…でも夫の名誉を守るために、沈黙を守り通すと誓ったのは、クルゾン・ダックスだったのでしょ? ジャッジアではない。」 「でも私はしゃべるつもりはありませんでした。タンドロ将軍はクレストロン国民の英雄ですし。」 「虚像の英雄なんですけど。政府を裏切ろうと極秘通信を発したのは夫だったのです。そして自業自得で反乱軍に殺された。…ねえジャッジア、あなたに御願いがあるのです。聞いてくれますか?」 「ええ、もちろんです。」 「ご自分の、人生を生きるのですよ。」 ダックスの顔をなでるエニーナ。「素晴らしい、輝きに満ちた人生を。」 エニーナは歩いていく。 ダックスはエニーナになでられた頬に触れた。 |
※14: Argosian DS9第5話 "Babel" 「恐怖のウイルス」でアーゴシアン・セクター (Argosian Sector) が言及 ※15: トリルも惑星連邦の一員ですから、本来は scholarship も「学問、学識」という意味の方でしょうね。ダックスのセリフを原語通りに取ると「学問を修め、他の若い人たちと競争しました。無数の方法でテストされます」 ※16: 原語では Premier Distinctions。「最優秀評価を受けました」ぐらいの意味でしょうか |
感想
裁判ではなく公聴会という形ではありますが、アメリカのドラマ御得意の形式です。共生生物が本体 (ホスト) を乗っ取ってしまうわけでなく、文字通り「共生」して第三の人格が生まれるという設定が明確に定義づけされます。トリル人が導入された TNG「愛の化身オダン」とは、多少違う点ですね。誰がクレストロン政府を裏切った犯人なのか、最後の最後でさらりと明かされるのが何とも憎いです。 「600万ドルの男」に共に関わったピーター・アラン・フィールズと、TOS 原案編集 D・C・フォンタナによる脚本です (同ドラマにはハーヴ・ベネットも関係)。TOS で「セイサス星から来た少年」「死の楽園」「惑星オリオンの侵略」などの名作を手がけた彼女は、TNG 第1シーズンの後にはこの話しか担当していません。 |
第7話 "Q-Less" 「超生命体“Q”」 | 第9話 "The Passenger" 「宇宙囚人バンティカ」 |