揺れ続けるエンタープライズ。
アーチャー:「一体何を考えてる! 呼びかけろ!」
サトウ:「応答ありません。」
リード:「左舷防御プレート停止。」
メイウェザー:「接近中。全速です。」
アーチャー:「船尾魚雷用意! 反撃しろ!」
リード:「…効果なし。何らかのシールドを張ってるようです。」
トゥポル:「機関室、サブジャンクション12 に直撃。ダメージを受けました。」
アーチャー:「……フェイズ砲の威力を上げられないのか。」
リード:「可能ですが、ワープ中は使えません。」
「使えないってどういうことだ。」
「粒子が漏れるからです※13。こちらのワープフィールドが不安定になり、ナセルが吹き飛びます。対処法を考慮中ですが…」
「…ワープを解除! 船尾砲用意!」
船体から出てきたフェイズ砲。
リード:「敵を捕捉。」
メイウェザー:「発射!」
フェイズ砲の攻撃を受けるマザール船。
リード:「敵シールドダウン!」
アーチャー:「向こうのエンジン状況をスキャン。」
「…死んだも同然です。」
ため息をつくアーチャー。だが、また攻撃を受けた。
サトウ:「まだ生きてたようです。」
アーチャー:「コースを戻せ、ワープ4 だ。」
メイウェザー:「了解。」
「これは一体どういうことなんだ。知ってる者は独りだけか。」 トゥポルに近づくアーチャー。
ヴラーに話すアーチャー。「あなたをヴァルカン船までお送りしろとは言われたが、攻撃を受けろとは一言も聞いていない!」
ヴラー:「彼らは何者なんでしょうか。」
「マザールの評議会から送られた者でないことは間違いないわ※14。」
「では送ったのは。」
「…それには答えられません。」
トゥポル:「……ヴラー大使。我々はヴァルカン最高司令部の命を負っています。我々に情報を制限するのは非論理的では?」
「これは外交上の問題であって、あなた方には関係ありません。これ以上何か言えばあなた方に多大な危険が及ぶだけです。」
アーチャー:「もう十分及んでますよ。さっきの攻撃で船は穴が空く寸前です。」
「残念ですわ?」
「私もです。…こうなったら選択の余地はない。アーチャーからメイウェザー。」
メイウェザー:『どうぞ?』
「予定変更だ、トラヴィス。直ちにマザールへ向かえ。」
『船長。』
「聞こえたろ?」
『了解。』
ヴラー:「私をシュラーンまで送れと言明されているはずですよ?」
アーチャー:「合流ポイントまで 2日あります。いつまた攻撃されるかわかりません。…全クルーの命を犠牲にする価値があると言うなら、そのわけを聞かせて下さい。」
何も言わないヴラー。アーチャーは出ていった。
トゥポルも続く。
フォレストの通信。『ヴァルカン側はカンカンだぞ、ジョン?』
アーチャー:「だったら合流ポイントへ向かえと、ご命令下さい。」
『現場にいるのは私じゃない、君たちだ。…ああ、だが反発は覚悟しておいた方がいい。』
「なぜ我々が反発されなくてはいけないんですが。…大使が追われてるのを知ってて、奴らは我々の船を危険にさらしたんだ!」
『ジョン!』
「また出ましたよ、提督? 得意の秘密主義が。」
『大使とは話したのか?』
「…一応ね!」
『原因は、彼女にあるのかもしれん。』
ため息をつくアーチャー。
フォレスト:『ヴラー大使は自分の罪を認めているそうじゃないか。』
アーチャー:「その罪が何なのかさえ知りませんが?」
『ああ…ソヴァルに話して、何か策を講じよう。』
機関室のタッカー。「ずいぶん楽しそうだな?」
リード:「パワー連結機の交換が? まさか!」
「いや、誰かにドンパチやられるのがさ?」
「厳密に言うとやり返す部分が好きなんです。」
「俺たちの任務は平和的宇宙探査だろ?」
「船の役に立てるのは嬉しいんです。」
「なるほど、だが忙しくなりすぎないことを祈るよ? …ヌヴィアンのマッサージ師は指が 12本あるらしい。」
「フン。」
「片手でね?」
「では是非とも、艦隊の存在をライサに広めなくては。」
「うーん。」
食堂に入るトゥポル。
ヴラーが窓の外を見ている。「あそこのお部屋もそう。あの奥の。」 隣に立っているサトウ。
トゥポル:「すいません、お邪魔でしょうか。」
ヴラー:「とんでもない。」
サトウ:「士官室について話してたんです。」
「どうしてみんなあんな素っ気ない部屋に住んでるのかしら。」
トゥポル:「必要な物があればすぐに届けさせます。」
「そんな気遣いは無用です。それに当分地球へは行けそうもないから、部屋にいるより、できるだけ皆さんと一緒に過ごしていたいの。お部屋を貸して下さってありがとう。もう間もなくお返しできるわ?」
サトウ:「パシ・タ。」
「パシ・タ。」
「失礼します。」 出ていくサトウ。
「アイスティーを飲んだことは?」
トゥポル:「好きではないので。」
「船長はお好きなようよねえ? 特に…ああ…パッションフルーツ。彼にふさわしい成分だわ、そうじゃない?」
「…その船長のことでお話があるんです。」
「興味をそそる男性よね?」
「真実を告げられる人です。」
「…座らない? お願い、あと数時間でマザールに着いてしまう。残りの時間を独りで無駄にしたくないわ。」
座るトゥポル。
ヴラー:「ずいぶん気詰まりな立場でしょうねえ。ヴァルカンの誇りを守りながら…船長には忠誠を尽くさねばならない。」
トゥポル:「あなたなら船長を救えます。…最高司令部は彼に助力を求めた。彼が真相を聞くのは当然だと思いますが。」
「ほんとに船長は信用できると思っているの?」
「はい。」
「…私たちを信用していなくても?」
「船長は、恨んでるんです。」
「なぜ。」
「…ワープ技術の発展を、我々が阻んだと思っているからです。」
「彼らに多くを禁じたのには、全て理由があります。」
「しかし今回のようなやり方は、彼らの恨みを増幅させるだけです。…今後も人類社会との共存を維持してゆきたいのなら、彼らの信頼を得なければ。」
「…私はこの 94年の外交生活で、交渉相手から信頼を得られなかったことはないわ?」
「侮辱する気はありません。」
「わかっています。あなたは思ったことを言っただけ? いつもそうしているように。…あれはヴァルカナ・レガー※15だったわねえ? 2度目のカターン会談の時だった。休憩時間に突然来たのよね?」
「覚えてたんですか。」
「忘れようにも忘れられないわ? 私の交渉戦略に関するあなたの質問は、年端のいかない少女のものじゃなかった。」
「不適当な行為だったのであれば、この場を借りて謝ります。」
「とんでもない。それどころか、あなたの率直な意見は私の目を覚まさせてくれました。…今も同じだわ? …トゥポル。聞いて欲しいことがあるの。」
アーチャーの部屋。
ポートスと遊んでいたアーチャー。ドアチャイムが鳴る。「入れ!」
トゥポルが入る。
アーチャー:「どうした。」
トゥポル:「…大使と二人で話をする機会を得ました。」
ポートスを離すアーチャー。「行け。それで?」
トゥポル:「2時間じっくりと話をしてきましたが…大使はその評判以上に素晴らしい御方でした。」
「…それは信じよう。だが決定は変えられん。」
「変えるべきです。大使は告発されている罪を犯してはいません。」
「彼女が言ったのか。」
「全てはヴラー大使をマザールから追い出し、本来の任務を封じる罠なのです。」
「任務とは。」
「それは言えないそうです。」
ため息をつくアーチャー。
トゥポル:「しかし危機的状況なのは確かです。彼女を救うべきかと。」
アーチャー:「大使は気の毒だ。だが…決定は覆せん。」
「…もし我々が、大使をマザールへ返したら…殺されるそうです。」
「誰に。」
「言えないそうです。」
「信じるのか。」
「はい。」
「なぜ。」
「…私には大使が…数々の業績に輝く人生を、職権乱用で汚すとは思えません。」
「誰もが犯しがちな過ちだ。」
「大使は別です。シュラーンへ送り届けるべきです。」
「君は、2時間ばかり大使と話し合っただけで、この船のクルー全員の命を危険にさらせと言うのか。」
「……船長。私はエンタープライズに赴任してから、頼み事をしたことはありません。でも今回初めてします。大使をマザールへ渡さないで下さい。…お願いです。」
アーチャーは、小さくうなずいた。
トゥポル:「感謝します。」 部屋を後にする。
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※13: "Particle discharge, sir." をこのように訳していますが、「(フェイズ砲は) 粒子の放出だからです」の方が適切だと思われます
※14: 「マザールの評議会から送られた者に違いないわ」と誤訳。逆の意味になっており、アーチャーのセリフとつながりません
※15: Vulcana Regar 惑星ヴァルカンの都市。TNG第19話 "Coming of Age" 「宇宙戦士への道」で言及
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