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エンタープライズ エピソードガイド
第84話「陰謀の嵐」
Awakening

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・イントロダクション
※1立ち並ぶ巨大な建物。シャトル※2が留まっている。
広間に入る者がいる。ソヴァル大使だ。
礼をする。
中央のヴラス長官。「処分を言い渡す前に、何か申し述べることは。」
ソヴァル:「全てヴァルカンと、最高司令部のために行ったことです。」 部屋には山を描いた絵がある。
「長年秘密をもっていたのが、我々のためか。」
「融合者※3であることを明かしていれば、数十年の奉仕は不可能でした。」
並んで座っているヴァルカン人のクヴァック※4大臣。「君の貢献は立派なものだ。」
ヴラス:「嘘の正当化はできん。」
ソヴァル:「この部屋では多くの嘘が語られてきた。」
「警告しておくぞ。」
「この部屋のある人物が地球大使館爆破を仕掛け、シラナイトに責めを負わせようとしたのです。」
「シラナイトで間違いはない。ステルを調べたところ、彼がシラナイトとわかった。」
「とても、信じられませんが。」
「自宅で多くの証拠が発見された。全く議論の余地はない。シラナイトの犯行だ、相応の処分を考えている。…目前の問題だが、君の地位はこの場で剥奪する。」
ヴラスを見るクヴァック。
ヴラス:「ここを去る前に、全ての機密書類を保安理事会※5に提出したまえ。…言っておくが、忠誠の誓いはまだ有効だ。誓いを破った場合…」
ソヴァル:「報いはわかっています。」
「よろしい。…ではそのほかに、何か言いたいことは。」
「閣下、言うべきことは多々ありますが…誰も聞こうとはしないでしょう。」


※1: このエピソードは、VOY トレス役のロクサン・ドースン監督作品です。ENT で担当した 10話 (VOY も含めると 12話) 中、第73話 "E2" 「エンタープライズ2」以来最後となります (参考)

※2: ENT第23話 "Fallen Hero" 「追放された者への祈り」に登場したヴァルカン・シャトル

※3: melder
ENT第40話 "Stigma" 「消せない汚名」より

※4: Kuvak
(ジョン・ルビンスタイン John Rubinstein VOY第17話 "The 37's" 「ミッシング1937」のジョン・エヴァンズヴィル (John Evansville)、ENT第23話 "Fallen Hero" 「追放された者の祈り」のマザール船長 (Mazarite Captain) 役) 名前・役職は、このエピソードでは言及されていません

※5: 前話 "The Forge" 「狙われた地球大使館」では防衛庁と訳されていました

・本編
あちこちにロウソクが並んだ洞窟。
連行されてきたアーチャーの前に、ヴァルカン人の女性が姿を見せた。「名前は。」
アーチャー:「ジョナサン・アーチャーだ。」
「地球船の船長ね。ではあなたはトゥポルね。」 部下に合図する女性。「遥々やってきたのね。」
「地球大使館の爆破犯を探しに来た。名前はトゥパウだ。…君と瓜二つのようだがな。」
「私がトゥパウ※6よ。」
近づこうとするアーチャー。「友人を殺した! …ほかに 40人以上も。」
トゥパウ:「その爆破事件とは何の関係もないわ。」
トゥポル:「確たる証拠があります。」
「この砂漠を 2年間離れていないわ。当てにならない証拠だわね。」
アーチャー:「君は嘘をついている!」
「シラナイトを学ぶべきね。」
「君は地球人を学べ。仲間を殺されてそのまま黙ってはいないぞ!」
「間違った情報で広大な荒れ地を越えてきたのなら…私をどうする気だったの。逮捕でもするつもり。」
「そんなところだな。」
「地球人について聞いたことは本当のようね。」
トゥポルは気づいた。「お母様。」
トゥレス※7:「…無事なようで安心したわ。」
「じっくりと話し合うべきでしょうね。」
「同感よ?」
トゥパウ:「ここを教えたのね。」
「ええ。」
「ほかにも誰か一緒?」
アーチャー:「…いや。」
「2人だけでフォージを越えたと言うの。砂嵐の激しいこの時期に。」
トゥポル:「あるシラナイトが、助けてくれたのです。」
「それは誰なの。」
アーチャー:「…アレヴという名だ。」
トゥポル:「…ですが彼は、放電流に撃たれて…」
「亡くなったんだ。」
トゥパウ:「死んだ。…本当にアレヴという名だったの。」
「彼はそう言ってた。」
「本当の名は、シランよ。…我々のリーダー。」

部屋に入れられたアーチャー。よろめく。
トゥポル:「船長。大丈夫ですか。」
アーチャー:「平気だ。…アレヴが死ぬ前、私の顔に触れた。それ以来頭の中に何かを…感じるんだ。」
「…精神融合でしょうか。」
「わからん。…だが、自分が自分でないようだ。」

話すトゥパウ。「彼らがつけられていたら、全員危険だったわ。」
トゥレス:「無事を知らせたかったのよ。」
「居所まで教える必要はなかったわ。」
「済んだことは仕方ない。それより娘を拘束室から出して。」
「話の裏づけをとってからよ。」
「嘘はついてないわ。」
「あなたの娘でも、艦隊の一員だわ。艦隊は最高司令部と手を組んでる。…確認が取れるまで 2人には、今のままでいてもらうわ。」
音が響き、空に航跡が見える。
トゥパウ:「パトロール機が一日中飛んでるわ。」
トゥレス:「もっと大問題がある。」
「シランが死んだなら…私達がしてきたことは、無に帰した。」

エンタープライズ。
作戦室のタッカー。「有無を言わさずクビですか。俺たちを助けたから?」
ソヴァル:「…覚悟はしていた。」
「何とか闘う方法があるはずだ。」
「たとえ抗議しても、何も変わりません。…ヴラスは決定を変えはしない。」
「そんな奴が長官なんて。」
「能力を重んじる社会です。ヴラスは政治で、並外れた…才能を発揮してきた。」
「…今後どうします。」
「身の処し方なら、あまり考えていません。今は、それよりもっと重要なことがあります。船長と、連絡は取れたのですか。」
「どちらからも、通信不能です。」
「…ヴラスは、シラナイトを一掃する気でいます。特にフォージにある、彼らの野営地を爆撃するつもりだ。」
「船長とトゥポルが向かってる。」
「2人の身が危険です。」

外に出されたトゥポル。トゥレスの前に連れてこられる。
トゥレス:「……聞きたいことがあるんでしょ?」
トゥポル:「……彼らといるのが理解できません。」
「ヴァルカン社会には随分前から幻滅していたの。アカデミーで辞職に追い込まれたときに、真剣に考えるようになったのよ。」
「これがその答えなんですか。」
「…シラナイトの言うとおり、スラクの教えは忘れられている。ここ数年司令部がしたことを考えて? …プジェムのスパイ基地設置や、反対意見の封殺。私達の主張もうなずけるでしょ?」
「帰省した際に話してくれればよかったのに。」
「シラナイト・メンバーの徹底捜索が始まったばかりだったわ? あなたまで巻き込みたくはなかったのよ。…私の復職のために結婚したのは、重々わかっていたけれど。」
「謝って欲しくはありません。一緒に戻ってください。」
「…それはできないわ。」
「…私が連れ戻しに来るのはわかっていたはずです。」
「実際の私達を見てもらえればもしかしたら…」
「理解するとでも? …私も加わると。」
「考えはしたわ、ええ。愚かだったのかもしれない。」
「この上なく。」

拘束室を歩くアーチャー。

ふいに意識が飛んだ。洞窟ではあるが、様子が変わっている。 遠くを見ると、爆発が何度も続いている。
男性※8の声が聞こえた。「戦争で荒れ果てた。」 そばに立っている。「ヴァルカンは引き裂かれてしまう。」
アーチャー:「誰だ。」
「知っているだろ、船長。」
圧倒的な光。先ほどの場所で起こったものだ。
巨大な雲が巻き起こる。
そのヴァルカン人は言った。「死が満ちている。これが『目覚めの時代』と呼ばれることになるとは。」
アーチャー:「それは 1,800年前だ。…夢とは思えない。」
「過去を、見ているんだ。私を通し。」
「シランは死ぬ前私に、何かしたのか。」
「君を選んだ。」
笑うアーチャー。
ヴァルカン人:「ヴァルカン人を信じないか。…君の経験からすれば無理もないな。…君の知るヴァルカンは目指したものと違う。道を見失った。戻してやらなければならない。誰かが。」
アーチャー:「お門違いだな。」
「残念だが、地球で言うところの『縁』というやつだ。…あらがわないことだな。意識と心さえ開けば、道は自ずと見える。」
トゥポルの声。「船長。」

アーチャーの前にいる。「…船長!」
アーチャーは目を開いた。周りを見渡す。
座るアーチャー。


※6: T'Pau
(Kara Zediker ドラマ「24 -TWENTY FOUR-」のエリザベス・ナッシュ役) TOS第34話 "Amok Time" 「バルカン星人の秘密」以来の登場 (放送順)。そのエピソードでは故セリア・ラヴスキーが演じました。声:松久保いほ

※7: T'Les
(ジョアンナ・キャシディ Joanna Cassidy) ENT第79話 "Home" 「ヒーローたちの帰還」以来の登場。声:久保田民絵

※8: (ブルース・グレイ Bruce Gray DS9第22話 "The Circle" 「帰ってきた英雄 パート2」などのチェコテ (チェコーティ) 提督 (Admiral Chekote) 役)

ヴァルカン最高司令部のヴラス。「連中のキャンプは、フォージの東北部と特定できた。」 地図が表示されている。
クヴァック:「正確な情報ですか。」
「パトロール機が、数日くまなく捜索したデータに基づいている。キャンプへの爆撃を開始するぞ。光子兵器でな。」
「目的は彼らの抹殺ではないはずです。」
「目的は、社会の秩序の維持だ。」
「僻地の砂漠ですよ? どんな害があると言うんです。」
「地球大使館を爆破したのだ。」
「いずれは彼らも、フォージを離れざるを得ない。その時に一斉に逮捕すれば、無用な死者など出さずに済むのでは?」
「キャンプ内に、シラン自身がいる可能性が高いのだ。徹底爆撃で、造反活動を骨抜きにできるのだ。いや、一掃だ。こんな機会を逃すことはできない。」
「ピンポイント爆撃なら、被害を最小限にできますが。」
「磁気異常が激しく、精密な攻撃は不可能なのだ。これが、唯一の方法だ。…即刻準備を始めろ。」 出ていくヴラス。

尋ねるトゥパウ。「その人は、名乗ったの。」
アーチャーも外に出ている。「知っていると思ったようだ。」
トゥレス:「そうなの?」
「スラク※9だ。」
トゥパウ:「…スラクのカトラね。」
トゥレス:「シランが宿していたものだわ。」
トゥポル:「カトラはただの神話です。」
「…私も以前は、そう思っていた。心を開くまではね?」
トゥパウ:「死が近いと知ればシランは、誰かにカトラを預けようとするでしょうね。」
アーチャー:「私がそばにいた。」
「確かめてみるしかないわ。精神融合で。」
「精神融合など御免だね。」
「気が進まないのは同じよ。地球人との経験はないわ? その、抑制の利かない感情はさぞ不快でしょうしね。…それでも、頼みを聞いてもらえるかしら。」
アーチャーはトゥパウに向き直った。
目を閉じ、アーチャーの顔に手を這わせるトゥパウ。「我の精神は、汝の精神へ。互いの精神は解け合い、一つになる。」
同時に話すアーチャー。「一つになる。」
トゥパウ:「ここは砂漠。嵐が起き、洞窟を見つけて避難する。…砂の稲妻。…我々だけじゃない。誰かがいるの、ここに一緒に。…存在を感じる。」 手を離した。
トゥレス:「トゥパウ!」
「スラクのカトラよ…。」

エンタープライズ。
ソヴァル:「この衛星の画像ノードに、誤作動を起こすことができます。」 司令室のモニターに、衛星※10を表示させる。「プロセッサーがエラーを直すまで、6分かかる。」
タッカー:「網をかいくぐるには十分だが、故障を怪しまれませんか。」
「フォージ付近は、エラーが頻発する。大丈夫です。」
「…聞いてもいいですか。…どうしてなんです。地球人は好きじゃないと思ってましたけどね。いつも、粗探ししてたじゃないですか。」
「私は地球に、30年以上住んでたんですよ。地球や地球人への親近感は十分、もっています。」
「隠しぶりが見事ですね。」
「どうも。」
笑うタッカー。
メイウェザーの通信が入る。『出発ベイからタッカー少佐へ。』
タッカー:「何だ、トラヴィス。」

溶接作業が進む発着ベイ。
メイウェザー:「一時間で出発できます。」
タッカー:『操舵コントロールは。』
「操縦桿と方向舵をつけて、何とか操縦はできますよ。乗り心地は悪いでしょうけど。」

タッカー:「マルコムには出発するまで、黙ってろ。」

部屋でロウソクを見つめるアーチャー。
トゥポル:「数百年前、プジェムの修道院でカトラの聖櫃※11が見つかりました。」 座禅を組んでいる。
アーチャー:「聖櫃って?」
「多結晶質の器です。…古代祖先が、カトラを入れて保存したと言われていました。…スキャンし、分析し、精神融合まで試みたようですが、カトラの存在は証明されませんでした。」
「ヴァルカン科学アカデミーはタイムトラベルも否定してたぞ?」
「船長の体内に、スラクの魂が生きていると本当に思いますか。1,800年前に死んだ人物です。」
「そう言われるとな。」
「論理的に説明できます。」
「聞こうか。」
「シランに精神融合されたのです。船長が感じているのは、彼の思考の残りです。」
「例えは悪いが、精神融合の二日酔いか?」
「私ならそうは言いませんが、そんなところですね。」
「これはもっと…強いものだ。」
「比較の対象がないはずです。…初めての精神融合ですから。」
「スラクを見た、それだけでなくここに来た覚えがあるんだよ。このサンクチュアリに。まるで自分の、育った家に戻ったようなんだ。」
「シランはここに長く住みました。」
「君の言うとおり融合のせいとしても、何か入り込んだのは確かだ。…何とか取り出したい。」
「…無理かもしれません。」

エンタープライズ。
ブリッジに戻るタッカー。「どういった御用で。」
スクリーンに映ったヴラス。『船長はどこかな?』
タッカー:「今は、取り込み中でして。ご用件は。」
『大使館爆破事件の捜査は直終了だ。』
「…容疑者は、いるんですか。」
『シラナイトの仕業だという証拠が出そろっている。あとは、我々だけで決着をつけられる。』
「よければ最後まで見届けたいんですがねえ。」

ヴラス:「お引き取り願いたい。これは内政問題だ。何か進展があれば、その都度艦隊には報告する。」
モニターに映ったタッカー。『でも、閣下…』
ヴラス:「犠牲者が多く出たことに、追悼の意を禁じ得ない。悲しみの心は同じだ。」

タッカー:「お言葉ですが、帰りません。真相が明らかになるまでは。」
ヴラス:『ガードナー提督※12にも連絡しておいた、帰還命令が下るだろう。…気をつけて帰ってくれ。』
通信は終わった。
タッカー:「勝手に切りやがった。」
サトウ:「呼びかけますか。」
無言のタッカー。

トゥカラス・サンクチュアリを歩くトゥレス。「誰も試したことのない儀式よ?」
トゥパウ:「長いこと研究してきたの。必ず成功させられるわ。」
「スラクのカトラだけでなく、アーチャーの命も危ないのよ?」
小声で話すトゥパウ。「多少の犠牲は仕方ないわ。」
トゥレス:「スラクはそう言うかしら。」
「ほかにどんな方法があると言うの。地球人をリーダーにする?」
「彼に対する偏見が、判断を歪めているわ?」
「私の論理を疑うの?」
周りをうかがうトゥレス。「シランはアーチャーを選び、カトラを預けたのよ。私達にはわからなくても、理由があるに違いない。」
トゥパウ:「理由は明らかだわ。あなたの娘はそばにいなかった。ほかに選択の余地はなかったのよ。」
「かもしれないわ。でも私達にはまだ、犠牲を出さないという選択肢がある。もう一度考え直して。」
「決定は変わらないわ。…一時間後に儀式を始めます。」
トゥパウを止めるトゥレス。「アーチャーが死んでも?」
トゥパウ:「一人の地球人のために未来を犠牲にはできないわ。」 歩いていった。


※9: Surak
TOS第77話 "The Savage Curtain" 「未確認惑星の岩石人間」以来の登場 (放送順)。そのエピソードでは、故バリー・アトウォーターが演じました

※10: 形状はスラク級ヴァルカン船 (ENT第15話 "Shadows of P'Jem" 「恩讐を越えて」など) の一部に似ています

※11: Katric Arks

※12: Admiral Gardner
ENT "Shadows of P'Jem" より (ENT第50話 "First Flight" 「運命の飛行」の CC では Gardener、吹き替えでは「ガーデナー」)。そのエピソードでは大佐でしたが、提督に昇進したんでしょうね (フォレストの跡を継いだ?)

拘束室から外をうかがうアーチャー。トゥポルが座り込んでいる。
アーチャー:「トゥポル。幽霊に住み着かれているのは私だぞ。スラクでもシランでも。なのに、君の方がずっとひどい顔色だな。」
トゥポル:「善後策を考えています。」
「お母さんは無事だった。」
「過激派に加わったのです。無事ではありません。」
「爆破事件に彼らは関係ないと思う。」
「断定的ですね。」
「勘とはいえ、これは確信に近い。」
ドアが開けられ、トゥパウが入った。「結論は出たわ。カトラを取り出さねばならない。」
アーチャー:「それは同感だな。」
「そのための儀式が、存在するの。カトラを別の者に移すのよ。」
トゥレス:「ただリスクがあるわ?」
トゥレスを見るトゥポル。
トゥパウ:「ヴァルカン人の神経は強靱だけれど、地球人は。」
トゥレス:「神経にかなりの負担がかかるでしょう。死もあり得る。」
トゥポル:「拒否するべきです。」
トゥパウ:「すでに決定したことよ。」
「…強制する気ですか。」
「できれば自主的に受け入れて欲しいわ。…成功の確率も上がる。ただ必要なら力の行使も、やむをえないでしょうね。」
アーチャー:「…じゃ始めよう。」
トゥポル:「船長!」
「構わん。」
トゥレスはトゥポルに近づいた。

廊下を歩くタッカー。「ガードナー提督は、ヴァルカンの言いなりだ。さっさと発てと言われたよ。」
リード:「船長たちのことは言ったんですか。」
「それは省いた。」
ソヴァル:「一時間前が、離脱の期限でした。ヴラスは辛抱強くない。」
タッカー:「だが手出しはできないでしょ。」 発着ベイに入った。「トラヴィス、よくやった。」
メイウェザー:「どうも。」
「2人を見つけ連れ戻せ。…寄り道はなしだぞ。」
「わかってます。」 メイウェザーの後ろには MACO もいる。
「衛星を妨害しないと。」

最高司令部に流れるヴァルカン人の通信。『エンタープライズはまだ、フォージ上空の軌道に位置しています。』
ヴラス:「監視していろ。」
『はい、閣下。』
「エンタープライズがいては、作戦を遂行できんな。」
クヴァック:「目撃されては困ると。」
「ガードナーからは帰還命令が、すでに出ている。」
「彼らの通信を傍受しているんですか?」
「理由なく命令に逆らいはしないだろう。どんな理由があるか突き止めろ。」

雷が鳴り響くトゥカラス・サンクチュアリ。2階の部分にも、ヴァルカン人がロウソクを持って集まっている。
ふたが外された巨大な石の間で、アーチャーは正座した。
トゥパウ:「時を越えて受け継がれた、スラクのカトラ。我らの信仰の祖。この男に、宿りし魂。」 アーチャーの後ろに立つ。「いま我に、宿したまえ。」
アーチャーの額に手を置いた。ヴァルカン語を唱えるトゥパウ。
声が大きくなる。
スラクのビジョン。
近づこうとするトゥポルを押さえるトゥレス。
アーチャーはスラクと話している。現実と交錯する。

再び意識が飛んだ。立ち上がるアーチャー。
どこからともなく、辺りには粉が舞い落ちている。
アーチャー:「スラク。」
後ろを向いていたスラク。「ああ、ああ。また会えてよかったな。きっと見苦しい顔だろうな、すまない。」
アーチャー:「放射能のせいか。」
スラクの顔には傷が見える。「これもツケだ、我らの愚かさの。今日論理は敗北した。だが今日は、永遠ではない。…論理はヴァルカン皆の、心にある。舞い落ちる灰の中でも新たな道を、探しているのだ。…シランの遺志を、君が継いでくれ。」
アーチャー:「だが、シランは…」
「彼はヴァルカンで、君は地球人だ。…ヴァルカンの同胞らは、迫り来る滅亡の日が見えずにいる。だが君は違う。私の時代に起きたことをまた、繰り返してはならん。…探せ、ヴァルカン人が失ったものを。…ああ、探せ。キルシャラ※13を。」 スラクは地面に倒れ込んだ。

現実の意識に戻ったアーチャー。手を離すトゥパウ。
アーチャーは倒れた。
支えるトゥポル。「船長。」
トゥパウは近づいたトゥレスに言った。「…失敗だわ。」
意識を失っているアーチャー。
トゥパウ:「スラクは残ることを選んだの。」
トゥパウを見るトゥポル。

エンタープライズから、シャトルポッドが飛び立った。飛行翼が以前より長く飛び出す。
ソヴァル:「衛星は停止させた。6分で抜けてください。」
タッカー:「トラヴィス。あとは任せた。」

操縦桿を握るメイウェザー。揺れるシャトルポッド。
リード:「朝食を摂るべきじゃ、なかったな。」

ソヴァル:「通り抜けた。」
サトウ:「交信は不能です。」

メイウェザー:「熱気流が激しくなりますよ。」
音が響き、大きく振動する。
リード:「今のは違うぞ。」
上部にも羽根の出たシャトルポッドに向けて、ビーム兵器が注がれる。
後ろを追うヴァルカン・パトロール機※14
リード:「プラズマ砲は使用可能。だがターゲットセンサーは不能だ。」
メイウェザー:「多分、磁場が近くなってるせいでしょう。」
「…向こうは平気らしいな。」
「シールドがいいんでしょ?」
「手動で狙うしかない。背後に回れるか。」
メイウェザーは操縦桿を引いた。
シャトルは上昇し、ヴァルカン機が前に進んでいく。
また降ろすメイウェザー。
ヴァルカン・パトロール機の背後から、プラズマ砲を発射するシャトルポッド。
片方のヴァルカン機のエンジンから煙が出る。
リード:「まだいるのか。」
メイウェザー:「…右翼が一部脱落しました。」
「計画中止だ!」
「緊急着陸できます。」
「だが離陸はどうする!」
「スラスター、オフライン。ケミカルロケットを点火します。つかまって。」
強い加速が起こる。

サトウ:「攻撃を受け、被害が出てこちらへ戻ってきます。」
タッカー:「6分じゃ足りなかったな。」
ソヴァル:「監視していたんでしょう。」
サトウ:「船が 3隻接近中です。…呼びかけが。ヴラス長官です。」
スクリーンに映るヴラス。『なぜシャトルを発進させたのだ。』
タッカー:「そっちは何だって撃ってきたんだ。」
『無許可だからだ、質問に答えろ。』
「船長を探すためだ。」
『アーチャーは地上なのか。』
「いまフォージにいる。シラナイトを捜しに行った。」
『軌道を離れろと命じたはずだが。』
ソヴァル:「残るよう言いました。」
『…では、警備衛星を機能停止させたのはお前らしいな。』
「コードを教えました。」
『…タッカー少佐。今すぐ軌道を、離脱するのだ。』
タッカー:「船長を見つけるまでは離れない!」
『今すぐここを立ち去るのだ。でなければ、攻撃命令を出すことになるだろう。』
サトウはタッカーを見た。


※13: Kir'Shara

※14: ENT第28話 "Carbon Creek" 「スプートニクの飛んだ夜に」に登場した、ヴァルカン船ドゥヴァールの改造

アーチャーを看病するトゥポル。近づく者がいるが、トゥポルは何も言わない。
トゥレス:「様子は?」
トゥポル:「…呼吸は、安定しましたが。でも熱はまだ高い。」
「…彼も同意の上よ。」
「どのみち強要したのでしょ。…最高司令部がスラクの教えを堕落させたと言っていますが、シラナイトも同じです。」
「絶対的な違いがあるわ。」
「自己欺瞞です。」
「トゥポル。」
「ここへ来るべきではなかった。…あなたとはもう関わりたくありません。」
「仕方ないわね?」
アーチャーは意識を取り戻した。「私はどれくらい。」
トゥポル:「3時間以上。」
「まるで頭をプラズマリレーに、突っ込んだようだ。」
「今は安静に。」
「ああ…ああ。」 ふと、洞窟の奥を見るアーチャー。立ち上がる。
トゥパウが近づく。
アーチャー:「キルシャラが。」
トゥレス:「何か知っているの?」
「重要なものだった。この奥だ。」
トゥポル:「キルシャラとは。」
トゥパウ:「それを探しに、シランはここへ来たのよ。」
トゥレス:「もし本当なら…」
「見張りが軌道上にヴァルカン巡洋艦を 3隻発見したわ。」
「ついに見つかったのね。」
「すぐに避難しなければ。準備して。」
歩いていくトゥレス。
アーチャー:「見つけられる。」

ブリッジに低い音が響いた。
サトウ:「あと 20メートルで命中でした。」
タッカー:「戦術警報、防御プレート。ヴァルカンの警告は何発です。」
ソヴァル:「…ゼロだ。」
サトウ:「…ヴラスです。」
スクリーンのヴラス。『我慢もこれが限度だ、少佐。』
タッカー:「事情は話したはずだ。我々の船長と副長がまだ地表にいる。」
『捜索は我々に任せてくれ。立ち去るのだ、今すぐ。』 通信は終わる。
「本気でしょうかね。」
ソヴァル:「目的のためには、手段を選ばない男です。」

ヴラスに話すクヴァック。「ヴァルカンと地球は 100年来の同盟相手ですよ。」
ヴラス:「もうシラナイトに気づかれているだろう。フォージへ逃げ込まれたら、追跡は困難になる。これ以上は待てない。」 コンピューターに触れた。「エンタープライズを追い払え! 武力行使もいとうな。」
ヴァルカン人:『はい、閣下。』

ヴァルカン艦※15がエンタープライズへの攻撃を始めた。
タッカー:「フェイズ砲で反撃だ!」

戻るトゥレス。「エンタープライズが攻撃されているわ?」
トゥパウ:「次は我々よ、避難を指揮して。あとからフォージで合流するわ。」
「残るのは危険よ。」
「2年もキルシャラを探してきたわ、見つけてみせる。」
アーチャーは木の棒に火を灯した。
トゥレス:「トゥポル。」
トゥポル:「…残ります。」
トゥパウ:「…行って!」
見つめ続けるトゥレス。トゥポルは洞窟へ向かった。

エンタープライズはフェイズ砲でヴァルカン船と交戦している。
火花が飛ぶブリッジ。
タッカー:「フェイズ砲に非常パワーを回すんだ。」
サトウ:「Cデッキに亀裂、負傷者がでています。ヴラスから通信、音声のみ。」
「つなげ。」
ヴラス:『君たちに勝ち目はない。武器はオフライン、エンジンは故障。私も、撃墜だけはしたくない。』
ソヴァル:「ここは、撤退すべきです。…我々が死んでも、船長たちは助からない。」
タッカー:「…すぐに離脱する。」

立ち上がるヴラス。「エンタープライズがスキャン可能域から出次第、キャンプの空爆を開始するのだ。」
ヴァルカン人:『了解、閣下。』

狭い洞窟を進むアーチャー。クモの巣を払う。
ミイラが並んでいる。
そのうちの一つに目を留めるアーチャー。「トゥクラス※16だ。スラクの学徒だった。初期のコリナール・マスターだ。」
トゥポル:「…碑文はありません。身元を示すものもない。なぜわかるのです。」
「…この近くだ。」
大きな音が響いた。
トゥパウ:「爆撃が始まったわ。」

人工的な装飾のついた壁がある。
アーチャー:「ここだ。」
アーチャーは表面の決まった個所に、順番に手を触れていく。最後に指を回すように触ると、ドアが回転しながら開いた。
その奥に、三角錐の形をした物体が置いてあった。
たいまつをトゥポルに渡すアーチャー。遺物を手に取り、トゥパウに渡す。
トゥパウ:「存在を疑ったこともあったわ。」
その時爆撃の音が響き、みな体勢を崩した。
物体を抱えるアーチャー。「行こう! …こっちだ!」
夜の地表に向けて、空から攻撃が降り注ぐ。すると、一部のホログラム映像が消えてトゥカラス・サンクチュアリが露わになった。

ヴラスは尋ねる。「報告。」
ヴァルカン人:『磁気の干渉が激しく、ロックできません!』
「絨毯爆撃だ。」

キルシャラを抱えたまま、洞窟を進むアーチャー。広い場所に出てきた。
トゥパウが先導する。だが爆撃が襲い、アーチャーとトゥポルは倒れた。
トゥポルを起こすアーチャー。先へ進む。

洞窟を抜け、外に出てくる。爆音はすぐ近くで響く。
下を見下ろすと、トゥカラス・サンクチュアリのあちこちで火が起こっていた。さらに容赦なく続く攻撃。

ヴァルカン人の報告。『サンクチュアリは破壊しました。』
ヴラス:「砂漠を捜索しろ。一人も生きて逃すな。」
『了解。』
クヴァック:「これは虐殺ではないですか。」
ヴラス:「社会の脅威を、排除しているのだ。」

足に布を巻くトゥパウ。「これでどう?」
トゥポル:「…大丈夫。」
「移動すべきだわ。」 3人は再び洞窟に入っている。
うめき声のような音が聞こえた。
トゥポル:「船長。」
また聞こえる。
その先には、物が散らばっていた。死んだ者も見える。
声の主に近づくトゥポル。座り込んだトゥレスだった。
手を這わせるトゥポル。
トゥレス:「…まだ中かと心配したわ。」
トゥポル:「キルシャラは…見つかりました。」
「…あなたはいつも感情を持て余していたわ。…ここへ来たのは、あなたのためでもあるの。」
悲痛な表情を浮かべるトゥポル。「どういうことです。」
トゥレス:「今にわかる。」
「…お母様。」
トゥレスはトゥポルの顔に手を置いた。「いつも誇りに思っていたわ? トゥポル。」
見つめるアーチャー。
トゥポル:「…お母様。」
トゥレスは目を閉じ、姿勢を崩した。
抱きしめるトゥポル。目から涙があふれる。

通常航行中のエンタープライズ。
ソヴァル:「クルーに、被害が出たそうですね。」
タッカー:「怪我だけです。2人は重体ですが。」
「船長たちのことは、私も懸念しています。」
「2人はタフですから。…司令部はシラナイトに恨みでも。…爆破犯にするためにしても、ずいぶん大がかりだ。」
「シラナイトは、暴力をシラクの教えの対極だと信じています。」
「じゃあ平和主義者だ。」
「ヴラスは、危険思想と見なしているのです。特に、今は。」
「どういうことです。」
「…アンドリア攻撃を計画しているからです。」
「ちょっと待った。アンドリアとは 2年前に和平条約を結んだばかりでしょ。船長が交渉に協力した※17。」
「ヴァルカン諜報部はアンドリアが、ズィンディ・テクノロジーに基づく兵器を開発中と主張している。」
「信じてないんですか。」
「ヴラスは目的を遂げるためその情報を利用している。先制攻撃に出るべきだと、皆を説得したのです。」
「恒星間戦争を始める気で。」
「始まればアンドリアもヴァルカンも、破壊される。いずれほかの星々も巻き込むでしょう。地球も含めて。」

作戦室からブリッジに戻るタッカー。「アンドリアにコースセット。」
リード:「アンドリア?」
船長席に座るタッカー。「…最大ワープだ。」
エンタープライズは、ワープに入った。※18


※15: 一隻の大型巡洋艦は、ディキーア (ENT第27話 "Shockwave, Part II" 「暗黒からの衝撃波(後編)」) 型。小型巡洋艦は、ヴァルカン船ヴァークラス (ENT第17話 "Fusion" 「果てなき心の旅」) の改造

※16: T'Klass
原語では「彼」と呼んでいるので男性

※17: ENT第41話 "Cease Fire" 「戦場の絆」の事後だと思われます

※18: その他の声優は植倉大、白熊寛嗣、武虎、高階俊嗣

・To Be Continued...
・感想など
ドースン監督により、引き続きヴァルカンのストーリーが展開されます。前回触れられたトゥパウとトゥレスも今回はしっかり登場し、印象深いキャラクターとなっていますね。さらに TOS のみならず、その後何度も触れられたスラクまで。前の優生人類 3部作では中編が蛇足気味だったことに比べると、今回はきちんと機能していると思います。次へのネタ振りも完璧でしょう。
トゥパウとスラクは、TOS のそれぞれの俳優と似ている人が意図的にキャスティングされたそうですが、あんまりそうは見えない気もします。アメリカ人ならわかるのでしょうか。トゥパウは日本人受けしそうな顔立ちですね。原題は前回を含めてセリフにあった、「目覚めの時代」から。


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