ヴァルカン最高司令部のヴラス。「連中のキャンプは、フォージの東北部と特定できた。」 地図が表示されている。 
 クヴァック:「正確な情報ですか。」 
 「パトロール機が、数日くまなく捜索したデータに基づいている。キャンプへの爆撃を開始するぞ。光子兵器でな。」 
 「目的は彼らの抹殺ではないはずです。」 
 「目的は、社会の秩序の維持だ。」 
 「僻地の砂漠ですよ? どんな害があると言うんです。」 
 「地球大使館を爆破したのだ。」 
 「いずれは彼らも、フォージを離れざるを得ない。その時に一斉に逮捕すれば、無用な死者など出さずに済むのでは?」 
 「キャンプ内に、シラン自身がいる可能性が高いのだ。徹底爆撃で、造反活動を骨抜きにできるのだ。いや、一掃だ。こんな機会を逃すことはできない。」 
 「ピンポイント爆撃なら、被害を最小限にできますが。」 
 「磁気異常が激しく、精密な攻撃は不可能なのだ。これが、唯一の方法だ。…即刻準備を始めろ。」 出ていくヴラス。
  
 尋ねるトゥパウ。「その人は、名乗ったの。」 
 アーチャーも外に出ている。「知っていると思ったようだ。」 
 トゥレス:「そうなの?」 
 「スラク※9だ。」 
 トゥパウ:「…スラクのカトラね。」 
 トゥレス:「シランが宿していたものだわ。」 
 トゥポル:「カトラはただの神話です。」 
 「…私も以前は、そう思っていた。心を開くまではね?」 
 トゥパウ:「死が近いと知ればシランは、誰かにカトラを預けようとするでしょうね。」 
 アーチャー:「私がそばにいた。」 
 「確かめてみるしかないわ。精神融合で。」 
 「精神融合など御免だね。」 
 「気が進まないのは同じよ。地球人との経験はないわ? その、抑制の利かない感情はさぞ不快でしょうしね。…それでも、頼みを聞いてもらえるかしら。」 
 アーチャーはトゥパウに向き直った。 
 目を閉じ、アーチャーの顔に手を這わせるトゥパウ。「我の精神は、汝の精神へ。互いの精神は解け合い、一つになる。」 
 同時に話すアーチャー。「一つになる。」 
 トゥパウ:「ここは砂漠。嵐が起き、洞窟を見つけて避難する。…砂の稲妻。…我々だけじゃない。誰かがいるの、ここに一緒に。…存在を感じる。」 手を離した。 
 トゥレス:「トゥパウ!」 
 「スラクのカトラよ…。」
  
 エンタープライズ。 
 ソヴァル:「この衛星の画像ノードに、誤作動を起こすことができます。」 司令室のモニターに、衛星※10を表示させる。「プロセッサーがエラーを直すまで、6分かかる。」 
 タッカー:「網をかいくぐるには十分だが、故障を怪しまれませんか。」 
 「フォージ付近は、エラーが頻発する。大丈夫です。」 
 「…聞いてもいいですか。…どうしてなんです。地球人は好きじゃないと思ってましたけどね。いつも、粗探ししてたじゃないですか。」 
 「私は地球に、30年以上住んでたんですよ。地球や地球人への親近感は十分、もっています。」 
 「隠しぶりが見事ですね。」 
 「どうも。」 
 笑うタッカー。 
 メイウェザーの通信が入る。『出発ベイからタッカー少佐へ。』 
 タッカー:「何だ、トラヴィス。」
  
 溶接作業が進む発着ベイ。 
 メイウェザー:「一時間で出発できます。」 
 タッカー:『操舵コントロールは。』 
 「操縦桿と方向舵をつけて、何とか操縦はできますよ。乗り心地は悪いでしょうけど。」
  
 タッカー:「マルコムには出発するまで、黙ってろ。」
  
 部屋でロウソクを見つめるアーチャー。 
 トゥポル:「数百年前、プジェムの修道院でカトラの聖櫃※11が見つかりました。」 座禅を組んでいる。 
 アーチャー:「聖櫃って?」 
 「多結晶質の器です。…古代祖先が、カトラを入れて保存したと言われていました。…スキャンし、分析し、精神融合まで試みたようですが、カトラの存在は証明されませんでした。」 
 「ヴァルカン科学アカデミーはタイムトラベルも否定してたぞ?」 
 「船長の体内に、スラクの魂が生きていると本当に思いますか。1,800年前に死んだ人物です。」 
 「そう言われるとな。」 
 「論理的に説明できます。」 
 「聞こうか。」 
 「シランに精神融合されたのです。船長が感じているのは、彼の思考の残りです。」 
 「例えは悪いが、精神融合の二日酔いか?」 
 「私ならそうは言いませんが、そんなところですね。」 
 「これはもっと…強いものだ。」 
 「比較の対象がないはずです。…初めての精神融合ですから。」 
 「スラクを見た、それだけでなくここに来た覚えがあるんだよ。このサンクチュアリに。まるで自分の、育った家に戻ったようなんだ。」 
 「シランはここに長く住みました。」 
 「君の言うとおり融合のせいとしても、何か入り込んだのは確かだ。…何とか取り出したい。」 
 「…無理かもしれません。」
  
 エンタープライズ。 
 ブリッジに戻るタッカー。「どういった御用で。」 
 スクリーンに映ったヴラス。『船長はどこかな?』 
 タッカー:「今は、取り込み中でして。ご用件は。」 
 『大使館爆破事件の捜査は直終了だ。』 
 「…容疑者は、いるんですか。」 
 『シラナイトの仕業だという証拠が出そろっている。あとは、我々だけで決着をつけられる。』 
 「よければ最後まで見届けたいんですがねえ。」
  
 ヴラス:「お引き取り願いたい。これは内政問題だ。何か進展があれば、その都度艦隊には報告する。」 
 モニターに映ったタッカー。『でも、閣下…』 
 ヴラス:「犠牲者が多く出たことに、追悼の意を禁じ得ない。悲しみの心は同じだ。」
  
 タッカー:「お言葉ですが、帰りません。真相が明らかになるまでは。」 
 ヴラス:『ガードナー提督※12にも連絡しておいた、帰還命令が下るだろう。…気をつけて帰ってくれ。』 
 通信は終わった。 
 タッカー:「勝手に切りやがった。」 
 サトウ:「呼びかけますか。」 
 無言のタッカー。
  
 トゥカラス・サンクチュアリを歩くトゥレス。「誰も試したことのない儀式よ?」 
 トゥパウ:「長いこと研究してきたの。必ず成功させられるわ。」 
 「スラクのカトラだけでなく、アーチャーの命も危ないのよ?」 
 小声で話すトゥパウ。「多少の犠牲は仕方ないわ。」 
 トゥレス:「スラクはそう言うかしら。」 
 「ほかにどんな方法があると言うの。地球人をリーダーにする?」 
 「彼に対する偏見が、判断を歪めているわ?」 
 「私の論理を疑うの?」 
 周りをうかがうトゥレス。「シランはアーチャーを選び、カトラを預けたのよ。私達にはわからなくても、理由があるに違いない。」 
 トゥパウ:「理由は明らかだわ。あなたの娘はそばにいなかった。ほかに選択の余地はなかったのよ。」 
 「かもしれないわ。でも私達にはまだ、犠牲を出さないという選択肢がある。もう一度考え直して。」 
 「決定は変わらないわ。…一時間後に儀式を始めます。」 
 トゥパウを止めるトゥレス。「アーチャーが死んでも?」 
 トゥパウ:「一人の地球人のために未来を犠牲にはできないわ。」 歩いていった。
 
 
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※9: Surak TOS第77話 "The Savage Curtain" 「未確認惑星の岩石人間」以来の登場 (放送順)。そのエピソードでは、故バリー・アトウォーターが演じました
  
※10: 形状はスラク級ヴァルカン船 (ENT第15話 "Shadows of P'Jem" 「恩讐を越えて」など) の一部に似ています
  
※11: Katric Arks
  
※12: Admiral Gardner ENT "Shadows of P'Jem" より (ENT第50話 "First Flight" 「運命の飛行」の CC では Gardener、吹き替えでは「ガーデナー」)。そのエピソードでは大佐でしたが、提督に昇進したんでしょうね (フォレストの跡を継いだ?)
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