ロウソクが灯った部屋で、目をつぶっていた若いトゥポル。 
 ドアチャイムに応える。「…どうぞ。」 
 タッカー:「邪魔して悪いな。」 トゥポルと同じく部屋着だ。「ちょっと、寝つけなくてさ。また不眠症みたいだ。」 
 「神経マッサージに?」 
 「何週間もやってなかったし、最近いろいろあったからお互い息抜きになるだろう。」 
 「もうマッサージはやめた方がいいでしょう。」 
 「何で。」 
 「あなたはもうほとんどの姿勢をマスターしました。」 
 「…習得するには何年もかかるんだろ? 俺はまだまだだ。」 
 「全て教えました。」 
 「…わかった。」 前に座るタッカー。「ほんとはな、不眠症じゃない。そりゃただの口実で、君が心配だから来ただけだ。」 
 「…心配?」 
 「最近、前にも増して閉鎖的になってるだろ。…ずっと部屋にこもりっきりだし。飯まで部屋に運ばせてる※4。」 
 「食堂はあの状態です。ほかにどこで食べろと。」 
 「なあ。正直に言えよ。俺のこと避けてるだろ。あの夜……この部屋で。」 
 「性的関係をもって※5以来?」 
 「ムードのかけらもない言い方だな。」 
 「あれは性的な関係を理解するためのもので、深い関係になるつもりはありません。」 
 「なりたいなんて言ってないだろ。」 
 「私もです。」 
 「……辛いときに助けてもらって、感謝してるんだ。…だから、お返しできればと思っただけだよ。」 
 「気持ちは感謝します。…でも大丈夫です。」 
 ため息をつき、立ち上がるタッカー。
  
 司令センター。 
 リード:「星雲内にいるコヴァーラ※6艇は、1、2隻と言ってました。」 
 トゥポル:「デグラの情報はもう古いようですね。」  星雲の図に点が表示される。「少なくとも、6隻はいます。」 
 アーチャー:「警備艇は、不法侵入者に容赦しないらしい。トンネルからどのくらいの位置だ。」 
 拡大させるトゥポル。「6万キロ以内です。」 
 アーチャー:「船体をイオン化すれば、しばらくは気づかれないだろう。」 
 リード:「ここから入りましょう。メトリオン※7ガスの層がある。エンジンサインが反射されて、相手のセンサーを攪乱できます。運が良ければ、攻撃を逃れられます。」
  
 デグラの船は、別の船※8とドッキングしている。 
 人間ズィンディ※9:「なぜ座標を教えた! もし評議会に攻め込んできたら…」 
 デグラ※10:「アーチャーの船はボロボロだ! 我々の巡洋艦一隻にも太刀打ちはできん!」 
 毛長ズィンディ※11:「ほかにも地球人の船がいるかもしれない。」 
 「ほかの船の存在は確認されていない。」 
 人間ズィンディ:「こんな議論をしても無駄だ! …地球人の出席など評議会が認めん!」 
 「それなら許可など求めない。」 
 「連れてきても一歩踏み込んだ途端に殺されるぞ。」 
 「アーチャーの話を聞くべきだ! 我々の星の運命がかかっているんだぞ?」 
 「奴の話は本当だと思うか。」 
 毛長ズィンディ:「全てを明かしてはいないだろうが、もってきた証拠品に間違いはなかった。」 
 「あんなものどうにでも偽造できる! 地球のためなら何でもするだろう。」 
 デグラ:「だがもし彼の話が本当なら…評議会がやってきたことは全て、全くの無意味だ。」 
 「…爬虫類族がトンネルを警戒している。地球人の船などすぐに破壊されるだろう。」 
 「そんなことはわかっている。我々が、守ればいい。」 
 「爬虫類族が我々を攻撃してきたら?」
  
 ワープ航行を止めるエンタープライズ。 
 アーチャーはスクリーンに映った星雲を見た。「戦術警報。…入るぞ。」 
 メイウェザー:「…了解。」 
 警告音が鳴る。 
 トゥポル:「船がワープを解除。」 
 アーチャー:「どこの船だ。」 
 「そんなはずは。」 
 「トゥポル!」 
 「…艦隊の船です。NX級。」 
 リード:「エンジンサインの反射では。」 
 「まだ星雲には入っていません。」 
 メイウェザー:「…インターセプトコースを取っています。」 
 サトウ:「映像が入りました。」 
 アーチャーがうなずくと、エンタープライズの後方から近づく宇宙船が映し出された。 
 リード:「NX-02 コロンビア※12でしょう。」 
 アーチャー:「まだ建造中のはずだ。」 
 サトウ:「コロンビアではなさそうです。」 
 拡大された宇宙艦隊船には多少改造が施されているようだが、エンタープライズと書かれていた。 
 サトウ:「……呼びかけです。」 
 スクリーンに映ったのは、あの耳が尖った男性だった。『アーチャー船長。ただちに船を反転させてください。』 相手方のブリッジが見える。 
 アーチャー:「何者だ!」 
 『説明する暇はない。ただちに、針路変更を。』 
 「…反転させろ。…どういうことか説明してもらおう。」
  
 MACO が警備につく中、エアロックのドアが開けられた。 
 男性:「武器は必要ありません。」 
 アーチャー:「説明を聞いてからだ。」 
 「私はロリアン。エンタープライズの船長です。」 
 一緒に降りてきた、異星人の特徴をもった隣の女性を見るアーチャー。 
 ロリアン:「副長のカリン・アーチャー※13。」 
 アーチャーはリードを見た。 
 ロリアン:「どこかで話をしましょう。会議室ででも。…トゥポルも呼んで構いません。」
  
 ドッキングしたままの 2隻のエンタープライズ。「エンタープライズ2※14」の船体には、さまざまな改造が施されている。 
 会議室の窓から、改造されたエンタープライズ2 の船体が見えている。 
 中に案内されたロリアン。「このまま亜空間トンネルに入ってはいけない。もし入れば、117年前の過去に飛ばされてしまう。」 
 アーチャー:「なぜわかる。」 
 「既に起きたことだからです。我々はその歴史を変えるために来た。」
  
 星雲で攻撃を受けるエンタープライズ。 
 ロリアン:『星雲に入った途端、船は警備艇の攻撃を受けました。』 
 ※15リード:「フェイズ砲、オフライン。」 
 アーチャー:「魚雷発射、撃ち続けろ。トンネルまでの時間は。」 
 トゥポル:「18秒です。」 
 リード:「…船尾プレート消失。」 
 メイウェザー:「失速してます!」 
 アーチャー:「コース維持!」 
 エンタープライズは渦のような現象の中心へ向かっていく。後を追うコヴァーラ船※16。 
 エンタープライズは消え、コヴァーラ船は全て反転した。
  
 宇宙空間に突如渦が発生し、エンタープライズが出てきた。 
 ロリアン:『トンネルを通ったのはわずか数秒でしたが、クルーたちはすぐに何かがおかしいと気づきました。』 
 リード:「追ってきません。」 
 アーチャー:「…現在位置は。」 
 トゥポル:「11.6光年先の地点です。」 
 「……デグラは。」 
 「スキャンしても、反応はありません。」 
 メイウェザー:「船長、妙です。…星の位置がずれてます。」 
 アーチャー:「座標は確かに合ってるのか?」 
 トゥポル:「…はい。」 
 ロリアン:『位置は正しかったがそこは、100年以上前の宇宙でした。』
  
 会議室で話すロリアン。「…未だに原因は定かではないが、推測では船のエンジンの影響でトンネルが不安定になり、時間移動したと思われます。」 
 アーチャー:「…なぜ君たち……いや我々は、トンネルを戻らなかった。」 
 カリン:「トゥポルが気づいたんです。亜空間トンネルは、一定の方向にしか進むことができないと。」
  
 作戦室のアーチャー。「クルーに知らせよう。トラヴィスに発進の指示を頼む。」 
 トゥポル:「どこへ向かうんですか。」 
 「領域を出られたとしても地球へ戻るわけにはいかない。…もし戻れば、地球の文化や歴史をも変えることになってしまう。」 
 「ワープ航法の発明は、この時代から 26年先です。」 
 「こうなったらこの状況を逆に、利用するしかない。」 
 「…どうやって。」 
 「ズィンディが地球に、最初の偵察機を送り込む日はわかっている。何とかそれを警告するんだ。上手くすれば、攻撃も防げるかもしれん。」 
 「攻撃されるのは、100年以上も先のことです。」 
 ロリアン:『そこであなた方は、その使命を子孫たちに託した。』
  
 ロリアン:「…間もなく最初の子孫が誕生しました。…あなた方は自分たちの子供に、船のシステムを教え更にそれは、その子供へと引き継がれていった。」 
 アーチャー:「君はこの領域に、100年以上も?」 
 トゥポル:「それはないでしょう。…エンタープライズには、それほどの燃料は蓄えられていません。」 
 ロリアン:「母さんは変わってない。」 
 「何ですって?」 
 「ほかの種族と同盟を組んで、技術と引き換えに必需品を手に入れたんです。…今では異種族のクルーもいます。」 カレンを見るロリアン。「任務を全うするために必死でやってきた。」 
 アーチャー:「攻撃を防ぐ任務か。…だが失敗した。」 
 「備えは固めました。だがたった一隻の船では、ズィンディには敵わなかった。…しかしまだ、二度目を防ぐための助言はできます。この船を必ずデグラと合流させる。」 
 トゥポル:「しかし亜空間トンネルは通るなと。」 
 カリン:「必要ありません。…多くの種族との出会いで、新しい推進技術も手にしてきました。」 パッドを渡す。 
 ロリアン:「ハラディン人※17からもらった設計図です。インジェクターアセンブリーを改良すれば、一定時間ワープ6 ポイント 9 で航行できます。」 
 トゥポル:「…しかし船体がもちません。」 
 「船体強度を高める方法もある。2日以内に、デグラと合流できます。」 
 アーチャー:「自分たちの船には試したのか?」 
 「プラズマインジェクターが古くて試せないんです。…だがこの船なら問題ない。……信じられませんか?」 
 「そう簡単に信じろと言う方が無理だろう。」 
 「しかし時間がないんです。早く作業にかからなければ。」 
 「悪いが、まだその気にはなれない。」 
 カリン:「医療室に行きましょう。フロックスが証明してくれます。」
  
 医療室のモニターに図が表示されている。 
 フロックス:「確かに、間違いありません。3種類ほど未知の遺伝子が含まれていますが、カリンの祖先は大半が地球人です。この遺伝子標識はあなたのものです。」 点滅している個所がある。「…彼女はあなたの曾孫に当たります。…そして? ロリアンの遺伝子も調べましたが、この配列は確かにあなたの子孫です。」 
 2つ目の図を指さすトゥポル。「この染色体は地球人のものでは?」 
 フロックス:「ええ、彼の父親は…地球人です。」 
 「それはありえません。…地球人とヴァルカン人の交配は不可能です※18。」 
 「ロリアンによればどうやら…」 笑うフロックス。「私の研究で、異種族の交配の方法が発見されるらしい。」 
 アーチャー:「父親は?」 
 「…タッカー少佐です。」 
 トゥポルはフロックスを見た。
 
 
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※4: 原語では「シェフに頼んで運ばせてる」
  
※5: ENT "Harbinger" より
  
※6: コヴァーラ人 Kovaalans 吹き替えでは全て訳出されておらず、ここでは「警備艇」
  
※7: metreon VOY第15話 "Jetrel" 「殺人兵器メトリオン」など
  
※8: 人間ズィンディ船が登場するのは初めて
  
※9: Xindi-Humanoid (タッカー・スモールウッド Tucker Smallwood) ENT "Damage" 以来の登場。声:竹田雅則
  
※10: Degra (ランディ・オグルスビー Randy Oglesby) 前話 "The Forgotten" に引き続き登場。声:木村雅史
  
※11: Xindi-Arboreal (リック・ワーシー Rick Worthy) 前話 "The Forgotten" に引き続き登場。声:遠藤純一
  
※12: Columbia ENT第52話 "The Expanse" 「帰還なき旅」で NX-02 が建造されていましたが、その時は名前が書かれていませんでした。2003年2月に起きた、スペースシャトル・コロンビアの事故を追悼して名づけられたものと思われます。また、実際にスペースシャトルでも実験機エンタープライズの次がコロンビアでした
  
※13: Karyn Archer (Tess Lina) 声:斉藤梨絵
  
※14: こう呼ばれる個所はありませんが、便宜上区別するため邦題からこのように表記します
  
※15: 斜体の個所は、過去であることがわかるように映像処理が施されています
  
※16: ENT第12話 "Silent Enemy" 「言葉なき遭遇」に登場した異星人船の使い回し
  
※17: Haradin
  
※18: ENT第42話 "Future Tense" 「沈黙の漂流船」より
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