エンタープライズ エピソードガイド
第73話「エンタープライズ2」
E2
イントロダクション
※1※2ロウソクが焚かれている。 ドアチャイムに応える女性。「どうぞ。」 入ってきたのは耳が尖った男性だ。 部屋にいた女性は、年老いたトゥポルだった。「偵察機は。」 男性※3:「止められなかった。渦に入って既に、地球に向かってる。」 「700万人が。」 「歴史を変えることは、できなかったよ。」 「…残された道は一つ。…ジョナサン・アーチャーを探し出すのよ。」 |
※1: このエピソードは、VOY トレス役ロクサン・ドースンの監督作品です。ENT で監督した 10話中、第68話 "Doctor's Orders" 「フロックス船長の孤独」以来 9話目となります ※2: 今回も第3シーズンのあらすじとして、エピソード放送順に第53話 "The Xindi" 「トレリウムD」、第67話 "Harbinger" 「新たなる脅威の兆し」、第71話 "Damage" 「球体創造者」、前話 "The Forgotten" 「デグラの決断」の内容が使われています ※3: ロリアン Lorian (デヴィッド・アンドリュース David Andrews) 声:牛山茂、TNG ローア、STG ソラン、旧ST5 スールーなど |
本編
ロウソクが灯った部屋で、目をつぶっていた若いトゥポル。 ドアチャイムに応える。「…どうぞ。」 タッカー:「邪魔して悪いな。」 トゥポルと同じく部屋着だ。「ちょっと、寝つけなくてさ。また不眠症みたいだ。」 「神経マッサージに?」 「何週間もやってなかったし、最近いろいろあったからお互い息抜きになるだろう。」 「もうマッサージはやめた方がいいでしょう。」 「何で。」 「あなたはもうほとんどの姿勢をマスターしました。」 「…習得するには何年もかかるんだろ? 俺はまだまだだ。」 「全て教えました。」 「…わかった。」 前に座るタッカー。「ほんとはな、不眠症じゃない。そりゃただの口実で、君が心配だから来ただけだ。」 「…心配?」 「最近、前にも増して閉鎖的になってるだろ。…ずっと部屋にこもりっきりだし。飯まで部屋に運ばせてる※4。」 「食堂はあの状態です。ほかにどこで食べろと。」 「なあ。正直に言えよ。俺のこと避けてるだろ。あの夜……この部屋で。」 「性的関係をもって※5以来?」 「ムードのかけらもない言い方だな。」 「あれは性的な関係を理解するためのもので、深い関係になるつもりはありません。」 「なりたいなんて言ってないだろ。」 「私もです。」 「……辛いときに助けてもらって、感謝してるんだ。…だから、お返しできればと思っただけだよ。」 「気持ちは感謝します。…でも大丈夫です。」 ため息をつき、立ち上がるタッカー。 司令センター。 リード:「星雲内にいるコヴァーラ※6艇は、1、2隻と言ってました。」 トゥポル:「デグラの情報はもう古いようですね。」 星雲の図に点が表示される。「少なくとも、6隻はいます。」 アーチャー:「警備艇は、不法侵入者に容赦しないらしい。トンネルからどのくらいの位置だ。」 拡大させるトゥポル。「6万キロ以内です。」 アーチャー:「船体をイオン化すれば、しばらくは気づかれないだろう。」 リード:「ここから入りましょう。メトリオン※7ガスの層がある。エンジンサインが反射されて、相手のセンサーを攪乱できます。運が良ければ、攻撃を逃れられます。」 デグラの船は、別の船※8とドッキングしている。 人間ズィンディ※9:「なぜ座標を教えた! もし評議会に攻め込んできたら…」 デグラ※10:「アーチャーの船はボロボロだ! 我々の巡洋艦一隻にも太刀打ちはできん!」 毛長ズィンディ※11:「ほかにも地球人の船がいるかもしれない。」 「ほかの船の存在は確認されていない。」 人間ズィンディ:「こんな議論をしても無駄だ! …地球人の出席など評議会が認めん!」 「それなら許可など求めない。」 「連れてきても一歩踏み込んだ途端に殺されるぞ。」 「アーチャーの話を聞くべきだ! 我々の星の運命がかかっているんだぞ?」 「奴の話は本当だと思うか。」 毛長ズィンディ:「全てを明かしてはいないだろうが、もってきた証拠品に間違いはなかった。」 「あんなものどうにでも偽造できる! 地球のためなら何でもするだろう。」 デグラ:「だがもし彼の話が本当なら…評議会がやってきたことは全て、全くの無意味だ。」 「…爬虫類族がトンネルを警戒している。地球人の船などすぐに破壊されるだろう。」 「そんなことはわかっている。我々が、守ればいい。」 「爬虫類族が我々を攻撃してきたら?」 ワープ航行を止めるエンタープライズ。 アーチャーはスクリーンに映った星雲を見た。「戦術警報。…入るぞ。」 メイウェザー:「…了解。」 警告音が鳴る。 トゥポル:「船がワープを解除。」 アーチャー:「どこの船だ。」 「そんなはずは。」 「トゥポル!」 「…艦隊の船です。NX級。」 リード:「エンジンサインの反射では。」 「まだ星雲には入っていません。」 メイウェザー:「…インターセプトコースを取っています。」 サトウ:「映像が入りました。」 アーチャーがうなずくと、エンタープライズの後方から近づく宇宙船が映し出された。 リード:「NX-02 コロンビア※12でしょう。」 アーチャー:「まだ建造中のはずだ。」 サトウ:「コロンビアではなさそうです。」 拡大された宇宙艦隊船には多少改造が施されているようだが、エンタープライズと書かれていた。 サトウ:「……呼びかけです。」 スクリーンに映ったのは、あの耳が尖った男性だった。『アーチャー船長。ただちに船を反転させてください。』 相手方のブリッジが見える。 アーチャー:「何者だ!」 『説明する暇はない。ただちに、針路変更を。』 「…反転させろ。…どういうことか説明してもらおう。」 MACO が警備につく中、エアロックのドアが開けられた。 男性:「武器は必要ありません。」 アーチャー:「説明を聞いてからだ。」 「私はロリアン。エンタープライズの船長です。」 一緒に降りてきた、異星人の特徴をもった隣の女性を見るアーチャー。 ロリアン:「副長のカリン・アーチャー※13。」 アーチャーはリードを見た。 ロリアン:「どこかで話をしましょう。会議室ででも。…トゥポルも呼んで構いません。」 ドッキングしたままの 2隻のエンタープライズ。「エンタープライズ2※14」の船体には、さまざまな改造が施されている。 会議室の窓から、改造されたエンタープライズ2 の船体が見えている。 中に案内されたロリアン。「このまま亜空間トンネルに入ってはいけない。もし入れば、117年前の過去に飛ばされてしまう。」 アーチャー:「なぜわかる。」 「既に起きたことだからです。我々はその歴史を変えるために来た。」 星雲で攻撃を受けるエンタープライズ。 ロリアン:『星雲に入った途端、船は警備艇の攻撃を受けました。』 ※15リード:「フェイズ砲、オフライン。」 アーチャー:「魚雷発射、撃ち続けろ。トンネルまでの時間は。」 トゥポル:「18秒です。」 リード:「…船尾プレート消失。」 メイウェザー:「失速してます!」 アーチャー:「コース維持!」 エンタープライズは渦のような現象の中心へ向かっていく。後を追うコヴァーラ船※16。 エンタープライズは消え、コヴァーラ船は全て反転した。 宇宙空間に突如渦が発生し、エンタープライズが出てきた。 ロリアン:『トンネルを通ったのはわずか数秒でしたが、クルーたちはすぐに何かがおかしいと気づきました。』 リード:「追ってきません。」 アーチャー:「…現在位置は。」 トゥポル:「11.6光年先の地点です。」 「……デグラは。」 「スキャンしても、反応はありません。」 メイウェザー:「船長、妙です。…星の位置がずれてます。」 アーチャー:「座標は確かに合ってるのか?」 トゥポル:「…はい。」 ロリアン:『位置は正しかったがそこは、100年以上前の宇宙でした。』 会議室で話すロリアン。「…未だに原因は定かではないが、推測では船のエンジンの影響でトンネルが不安定になり、時間移動したと思われます。」 アーチャー:「…なぜ君たち……いや我々は、トンネルを戻らなかった。」 カリン:「トゥポルが気づいたんです。亜空間トンネルは、一定の方向にしか進むことができないと。」 作戦室のアーチャー。「クルーに知らせよう。トラヴィスに発進の指示を頼む。」 トゥポル:「どこへ向かうんですか。」 「領域を出られたとしても地球へ戻るわけにはいかない。…もし戻れば、地球の文化や歴史をも変えることになってしまう。」 「ワープ航法の発明は、この時代から 26年先です。」 「こうなったらこの状況を逆に、利用するしかない。」 「…どうやって。」 「ズィンディが地球に、最初の偵察機を送り込む日はわかっている。何とかそれを警告するんだ。上手くすれば、攻撃も防げるかもしれん。」 「攻撃されるのは、100年以上も先のことです。」 ロリアン:『そこであなた方は、その使命を子孫たちに託した。』 ロリアン:「…間もなく最初の子孫が誕生しました。…あなた方は自分たちの子供に、船のシステムを教え更にそれは、その子供へと引き継がれていった。」 アーチャー:「君はこの領域に、100年以上も?」 トゥポル:「それはないでしょう。…エンタープライズには、それほどの燃料は蓄えられていません。」 ロリアン:「母さんは変わってない。」 「何ですって?」 「ほかの種族と同盟を組んで、技術と引き換えに必需品を手に入れたんです。…今では異種族のクルーもいます。」 カレンを見るロリアン。「任務を全うするために必死でやってきた。」 アーチャー:「攻撃を防ぐ任務か。…だが失敗した。」 「備えは固めました。だがたった一隻の船では、ズィンディには敵わなかった。…しかしまだ、二度目を防ぐための助言はできます。この船を必ずデグラと合流させる。」 トゥポル:「しかし亜空間トンネルは通るなと。」 カリン:「必要ありません。…多くの種族との出会いで、新しい推進技術も手にしてきました。」 パッドを渡す。 ロリアン:「ハラディン人※17からもらった設計図です。インジェクターアセンブリーを改良すれば、一定時間ワープ6 ポイント 9 で航行できます。」 トゥポル:「…しかし船体がもちません。」 「船体強度を高める方法もある。2日以内に、デグラと合流できます。」 アーチャー:「自分たちの船には試したのか?」 「プラズマインジェクターが古くて試せないんです。…だがこの船なら問題ない。……信じられませんか?」 「そう簡単に信じろと言う方が無理だろう。」 「しかし時間がないんです。早く作業にかからなければ。」 「悪いが、まだその気にはなれない。」 カリン:「医療室に行きましょう。フロックスが証明してくれます。」 医療室のモニターに図が表示されている。 フロックス:「確かに、間違いありません。3種類ほど未知の遺伝子が含まれていますが、カリンの祖先は大半が地球人です。この遺伝子標識はあなたのものです。」 点滅している個所がある。「…彼女はあなたの曾孫に当たります。…そして? ロリアンの遺伝子も調べましたが、この配列は確かにあなたの子孫です。」 2つ目の図を指さすトゥポル。「この染色体は地球人のものでは?」 フロックス:「ええ、彼の父親は…地球人です。」 「それはありえません。…地球人とヴァルカン人の交配は不可能です※18。」 「ロリアンによればどうやら…」 笑うフロックス。「私の研究で、異種族の交配の方法が発見されるらしい。」 アーチャー:「父親は?」 「…タッカー少佐です。」 トゥポルはフロックスを見た。 |
※4: 原語では「シェフに頼んで運ばせてる」 ※5: ENT "Harbinger" より ※6: コヴァーラ人 Kovaalans 吹き替えでは全て訳出されておらず、ここでは「警備艇」 ※7: metreon VOY第15話 "Jetrel" 「殺人兵器メトリオン」など ※8: 人間ズィンディ船が登場するのは初めて ※9: Xindi-Humanoid (タッカー・スモールウッド Tucker Smallwood) ENT "Damage" 以来の登場。声:竹田雅則 ※10: Degra (ランディ・オグルスビー Randy Oglesby) 前話 "The Forgotten" に引き続き登場。声:木村雅史 ※11: Xindi-Arboreal (リック・ワーシー Rick Worthy) 前話 "The Forgotten" に引き続き登場。声:遠藤純一 ※12: Columbia ENT第52話 "The Expanse" 「帰還なき旅」で NX-02 が建造されていましたが、その時は名前が書かれていませんでした。2003年2月に起きた、スペースシャトル・コロンビアの事故を追悼して名づけられたものと思われます。また、実際にスペースシャトルでも実験機エンタープライズの次がコロンビアでした ※13: Karyn Archer (Tess Lina) 声:斉藤梨絵 ※14: こう呼ばれる個所はありませんが、便宜上区別するため邦題からこのように表記します ※15: 斜体の個所は、過去であることがわかるように映像処理が施されています ※16: ENT第12話 "Silent Enemy" 「言葉なき遭遇」に登場した異星人船の使い回し ※17: Haradin ※18: ENT第42話 "Future Tense" 「沈黙の漂流船」より |
『航星日誌、補足。ロリアンの指示に従い、ワープエンジンを改良することにした。警備艇との衝突を避けるため、星雲からは距離をおいている。』 機関室。 タッカー:「妙なもんだな、どうも…君を見てると、親父を思い出す。目の辺りが、そっくりだ。…その尖った耳は、母親譲りだな。」 ロリアン:「フン。」 「いま笑ったよな。」 「一般的なヴァルカン人とは、育った環境が違う。僕の中の地球人の部分が、感情と論理のバランスを取ってるんだ。時々冗談も言ったりする。…コイルスパナを。」 部品を見るロリアン。「父さんの技術日誌を読んで勉強したんだ。」 「日誌だけか? …実際に、教えてやったのかな?」 「…それは何とも。…先にスタートアップ・ルーチンを初期化し直した方がいい。」 「…何かありそうだな。」 「……死んだんだ、僕が 14 の時。」 「…何があった。」 「未来は知りすぎない方がいい。」 「…年頃にそばにいてやれなかったのか。…すまないな。」 「いい父親だった。…まさか、直接言えるとは。」 異星人のクルーが多数働く、エンタープライズ2 の廊下を歩くアーチャー。 カリン:「空気プロセッサーの効率を倍にしました。スペックを差し上げます。」 クルーに見られるアーチャー。「ありがとう。船がこれだけ長持ちするとは、艦隊も喜ぶ。」 子供が遊んでいる。「いいよー。あー!」 転がったボールをアーチャーから受け取り、歩いていった。「ありがとう。」 顔の特徴はフロックスに似ている。 アーチャー:「デノビュラ人か?」 カリン:「船には、フロックスの子孫も多いんです。アマンダ※19との子供が 9人。」 笑うアーチャー。「…君も完全に地球人じゃないね。」 カリン:「曾祖母がイカーラ人※20なんです。」 「…つまり…」 「奥さんですよ。…名前はエシュリア※21。…あなたがひずみから助け出したんです。」 「実は、この船を見つけてわかったことがある。私は、ズィンディに捕らわれたとき執拗に聞かれたんだ。領域にいる艦隊の船は何隻かと※22。」 「私達の船を、何度か探知しているんでしょう。」 「…ブリッジに行くんじゃないのか。」 「あなたに、会いたがっている人がいるんです。」 カリンはドアを開けた。 部屋に独り入るアーチャー。 窓際に立っている女性。「ジョナサン。」 アーチャー:「トゥポル。」 振り向く年老いたトゥポル。手が震えている。 アーチャーの腕に触れた。「会いたかった。」 アーチャー:「長く地球人と暮らして変わったな。」 笑うトゥポル。 アーチャー:「まだ君がここにいるとは。」 老トゥポル:「まあ、『まだ生きているとは』って? 元気そうね。…トリップは。」 「元気だよ。…会いたければ、後でここに寄らせよう。」 「やめておくわ。」 「聞きたいことが山ほどある。何から話そうか。」 トゥポルはパッドを手にした。「話せる時間が、あればいいんだけど。…これをトゥポルに渡してちょうだい。渡せばわかるわ。」 エンタープライズの食堂に入るサトウ。「男の子と女の子。トオル※23とヨシコ※24だって。」 メイウェザー:「父親は?」 「見てない。データにはあったのかもしれないけど。」 「何で、気になるだろ?」 「…わからない方が面白いでしょ? トラヴィスの御相手は?」 「…マッケンジー伍長※25。」 「軍事部隊? 仲良かったっけ。」 「まだ、一回話しただけだけど。」 「デートに誘わなきゃね。」 リード:「ここ、いいかな。」 メイウェザー:「どうぞ?」 サトウ:「大尉は結婚相手見ました? …向こうのデータベースで。子供が何人いるとか。」 リード:「ああ、いや。結婚はしてない。…残念だがリード家は私の代で、終わりを迎えるらしい。」 笑う。「大きな船だし、相手ぐらい見つかりそうなもんだけどな。」 サトウはメイウェザーと顔を見合わせた。「…女性はクルーの 3分の1 ですから、独身の男性がいるのは当然です。」 リード:「ああ、私はその一人らしい。」 メイウェザー:「…では、仕事があるので。」 サトウ:「私も。失礼します。」 2人とも歩いていった。 リード:「ああ。」 ため息をつく。 一人の女性クルーが席を探しているのに気づいた。 立ち上がるリード。「空いてるよ?」 作戦室のトゥポル。「彼女は、計画の成功を疑っています。ロリアンの計算に、ミスがあったようなんです。ワープ5 ポイント 6 まで出したところで、インジェクターがオーバーロードして船は爆発します。」 アーチャー:「…トリップに見せたか。」 「全く同じ意見でした。」 「……デグラに連絡を。約束に間に合わないと伝えねば。」 「…選択肢はあります。…亜空間トンネルです。」 「時間移動してしまう。」 「そうとは限りません。私は長年、船のセンサー記録を分析していたようなんです。ここに記されているとおりインパルスマニホールドを改良すれば、トンネルを不安定にさせることなく通過できます。」 「改良の時間は?」 「12時間ほどで。」 エンタープライズ2 の作戦室は、飾られている物が異なる。 アーチャーが入った。「なぜ言わなかった。船が爆発するところだ。」 パッドを差し出す。外にはエンタープライズが見える。 受け取らないロリアン。「危険性は、たった 22%です。」 アーチャーは腕をつかんだ。「それでも十分なリスクだ!」 ロリアン:「選択肢はない。トンネルを使えば過去に放り出されます。」 「トゥポルは、2人とも君に反対している。」 「星雲に入れば、警備艇に攻撃されるんです。マニホールドをやられたら、トンネルを不安定にさせてしまう。」 「最善の策だ!」 「私の案に従って下さい。」 「これは私の任務だ。私が決める!」 「地球を守るのは、私の任務でもある。」 「議論しに来たわけじゃない。…もう命令は下した。」 ドアを開けるアーチャー。「機関部の人手が足りないんだ。協力してくれれば、早く作業を済ませられる。」 「わかりました。」 老トゥポルの部屋のロリアン。「なぜ彼に話したんだ。」 老トゥポル:「危険性を知る権利は、あるはずでしょ。どうして隠してたの。」 「亜空間トンネルを使えば任務は失敗し、地球は滅亡する。」 「地球人としての感情が 「母さんには、わからないだろう。」 「…そのくらい、わかるわ。罪の意識は、心を揺るがすものよ。…しかし、冷静に決断しなければ。」 「…危険にさらされているのがヴァルカン星だったら母さんも、真剣になる。」 ロリアンは出ていった。 司令室のロリアン。「デグラに会って、私が評議会に話す。」 カリン:「しかし、我々が行っても。」 「アーチャー船長は、また同じ道を選んだ。デグラには会えないはずだ。」 新たな装置が音を発している。 「ですが望みはあります。」 「ただ成功を祈ってるわけにはいかない。数十億の命が懸かってるんだ。」 エンタープライズ2 のクルーであるグリア※26。「でも、どうやって会いに行くんです。この船のインジェクターでは改良はできません。」 ロリアン:「…向こうの船の新しいインジェクターを使う。」 カリン:「そう簡単に渡すとは思えません。」 「…ああ。」 「…まさか盗む気ですか。彼らはワープできなくなります。」 「私の父は優秀なエンジニアだ。新しいインジェクターを造り出せる。」 「私に、曾祖父を裏切れとおっしゃるんですか?」 「辛い気持ちはわかる。だがこれまでも必死でやってきたんだ。両親や祖父母たちは、ズィンディの攻撃から地球を守ることだけに全てを懸けて死んでいった。今度は、我々の番だ。…地球を救うためには、今やるしかない。」 |
※19: Amanda ENT "Harbinger" に登場した、アマンダ・コール伍長のことでしょうか ※20: Ikaaran ※21: Esilia ※22: ENT第70話 "Azati Prime" 「爬虫類族の攻撃」より ※23: Toru ※24: Yoshiko ※25: Corporal McKenzie ENT第54話 "Anomaly" 「オサーリア人の襲撃」に登場。名前が言及されるのは初めて ※26: Greer (Tom Schanley) 声:大久保利洋 |
エンタープライズのコンピューター室でパッドを使うタッカー。「ロリアンとゆっくり話したか?」 トゥポル:「いいえ。」 「話せよ。いい子みたいじゃないか。」 「彼は 100歳を越えているんですよ?」 「ヘ、すごいことだよな。自分の 3倍も年取った息子に会うなんて。…それにしても、結婚とはな。…式は、伝統的なヴァルカン形式でやるらしい。誓いの言葉は大変だろうなあ? ハネムーンはすごいぞ。何と第3貨物室。俺がさあ…砂浜を造るらしいんだ。途中の小惑星で砂を集めてきて。」 タッカーは笑った。「しかもそこに、ヤシの木まで植えるって言ってたよ。」 「そんなことが起こると決めつけるのは、馬鹿げています。…フラックスカプラーを。」 「でも興味あるだろ? 俺たちがどうやって結ばれるのか。」 「……全てが現実に起こるとは限りません。」 「…そんなこと言って、俺のこと好きになるってのを認めたくないんだろ。…もう、好きかもしれないけど。」 「やはり間違っていました。」 「何が。」 「…性的関係をもったことです。…どうやら、感情抜きに肉体的な関係をもつことはできないようですね。」 「…女は君一人になるのかもな。…じゃなきゃ、好きこのんで結婚なんかするはずない。こんなひねくれた奴と! …左舷マニホールドを手伝ってくる※27。君は独りで、大丈夫そうだからな。」 意識を失ったクルーが運ばれている。 銃を納めたロリアンは、エンタープライズの機関室にいた。「インジェクターはオンラインだ。」 コミュニケーターを使う。「グリア、そっちはどうだ。」 グリア:「プラズマのバイパスに、思ったより時間がかかりそうです。」 機関室にタッカーが部下と話しながらやってきた。「それは後でいい。右舷のモジュールを計り直さないとな。」 機関部員がフェイズ銃で撃たれて倒れた。 部下を止めるロリアン。「撃つな。」 タッカー:「何してるんだ!」 通信が入る。『こちらグリア。完了しました。』 ロリアン:「船に戻れ。行け。」 プラズマインジェクターが抜き取られていく。 タッカー:「おい、それがないとワープできないんだぞ?」 ロリアン:「もうこうする以外方法はないんだ。」 「親父の言うことは聞くもんだ。そんなことはやめろ。」 ロリアンの部下※28。「騒がれてはまずい。」 ロリアン:「…許してくれ。」 発射した。 倒れるタッカー。 警告音が鳴るブリッジに戻るアーチャー。「どうした。」 メイウェザー:「ワープエンジンがオフラインです。…プラズマインジェクターが外れてます。」 「アーチャーより機関室。…応答しろ。保安部員を送れ。」 サトウ:「船が発進。」 「呼びかけろ。」 「…応答ありません。」 リード:「ワープに入ろうとしています。」 アーチャー:「エンジンを止めろ。」 エンタープライズ2 をフェイズ砲で撃つエンタープライズ。 揺れるエンタープライズ2。 操舵席のカリン。「ナセルを狙ってます。」 ロリアン:「ワープしろ。」 火花が飛んだ。 「駄目です、パワーカップリングをやられました。」 「全速で逃げるんだ。撃ち返せ。」 操作するグリア。 エンタープライズのブリッジでも火花が起こる。 リード:「防御プレート損傷。」 メイウェザー:「逃げる気です。」 アーチャー:「離されるな?」 リード:「相手の武器はこちらと同じです。」 トゥポル:「条件は対等のようですね。」 アーチャー:「…転送室へ行ってくれ、指示を出す。」 向かうトゥポル。 エンタープライズ2 が発射するビームは、エンタープライズのフェイズ砲とは色が異なっている。 ロリアン:「相手の下に、入り込め。防御プレートリレーを狙うんだ。」 撃ち合う 2隻。 リード:「防御プレート消失。」 アーチャー:「トゥポル!」 コンソールを操作するトゥポル。「…ロックできません、近づいて下さい。」 アーチャー:「頼む。」 サトウ:「…Cデッキのパワーがダウン。」 リード:「武器も停止!」 メイウェザー:「距離 2,000メートル。」 アーチャー:「トゥポル!」 転送台に、装置が転送されてきた。 クルーが近づく。 グリア:「船長、武器がパワーダウンしてます。転送機で EPS マニホールドを一つ奪われました。」 アーチャー:「次はプライマリーリレーにロックしろ。Cデッキ、第12ジャンクションだ。」 トゥポル:「…了解。」 さらに転送されてくる。 エンタープライズ2 のブリッジで、ライトが落ちていく。 カリン:「メインパワーがダウン。」 通信が届いた。『アーチャーだ。こちらも大事なものを奪わせてもらった。ここは休戦して、お互いのものを返してはどうかな?』 リード:「船長。まだ魚雷を装填してるようです。右舷エンジンを狙ってます。」 アーチャー:「…どうやら魚雷を撃とうとしているようだな。もしそれを発射すれば、多くのクルーを傷つけることになるんだぞ。」 ロリアンを見るカリン。 アーチャー:「ロリアン。答えろ。」 カリン:「もうやめましょう。」 ロリアン:「地球を守るためだ。」 「彼らは家族なんです。家族を殺すわけにはいきません。…船長。ここまでです。」 「……武器を納めろ。アーチャー船長と話す。」 ロリアンは船長席に座った。 |
※27: 原語では「左舷マニホールドのロストフ (Rostov) を手伝ってくる」。前話 "The Forgotten" など ※28: クルーその1 Crewman #1 (Steve Truitt) 声はグリア役の大久保さんが兼任? |
ロリアンは拘束室に入れられている。 やってきたアーチャーは、会話ボタンを押した。「運が良かった。双方とも大した怪我人は出ていない。…船を破壊されたら、任務もここまでだった。」 ロリアン:「認めたくないでしょうが、もう任務は終わりだ。私は論理的な行動を取ったまでです。」 「両親の乗った船を攻撃するのが、『論理的』かな?」 「あなたにはわからない。この気持ちは。…責任を背負って生きるのが、どんなに苦しいことか。700万人が私のせいで死んだ。」 「だが偵察機を止めるために全力を尽くしたんだろう?」 「破壊はできたはずなんだ! 私はある人の死の床で、誓いを立てた。必ず地球を救ってみせると。そう誓った相手は、あなたです。…私は任務に懸けてきた。偵察機が発射される場所も時間も正確に把握していたのに、攻撃を防げなかった。残された方法は、エンタープライズを偵察機にぶつけることだけだった。…だが私は躊躇した。感情に負けたんです。クルーを犠牲にする命令は下せなかった。…誤りに気づいたときには既に、手遅れでした。もう二度と、感情に負けるわけにはいかない。絶対に地球は破壊させない。」 アーチャーは独房のドアを開けた。「拘束しておいてもいいが、こんなことをしても無意味だろう。大事なのは、この先どうするかだ。…たとえ君が反対しても、私は亜空間トンネルを通る。協力し合えばまだ望みはあるはずだ。成功させよう。我々の任務を。」 2つのカップに飲み物を注ぐ老トゥポルは、ドアチャイムに応えた。「どうぞ。」 入ったのはエンタープライズのトゥポルだ。「…お邪魔でしたか。」 老トゥポル:「とんでもない。…こっちへ。…お茶は?」 「カモミール※29ですか。」 「もちろん。」 「…改良に問題が発生しました。」 トゥポルはパッドを手渡した。「粒子波を、86%までしか削減することができません。…これでは、トンネルに影響します。」 「それなら、ここにアイソマグネチック・コレクター※30を使えば…残った粒子を完全に吸収できるはずよ?」 コンピューターを操作する老トゥポル。 「そのような装置は聞いたことがありません。」 「イカーラ人から入手した技術なの。…ここに構造図があるはず。」 リストが表示されている。「気分は良くなった?」 「何のことです。」 「トレリウム中毒でしょ? …症状は和らいだ?」 「多少は。…しかし完治はしていません。」 「完治することはないわ。…一度経験した感情は、この先一生ついて回るのよ。ああ、あったわ。」 装置の図が出た。「お茶を飲んでね。…上手く付き合っていくすべを学ぶの。私がそうしてきたようにね。力になってくれる人はいるはず。」 「…ドクターは神経抑制剤をくれました。」 「ドクターのことではないわ? トリップよ。…その感情を受け止めてくれる。彼を信頼しなさい。…トリップの私への情熱はすさまじかった。それが怖くて。…突き放そうともしたわ。もしあの時船が過去に迷い込んでいなければ…彼と結婚しない道もあったかもしれない。だけど彼のいない人生なんて、とても考えられないわ。」 「私はどうすれば。」 「これは地球の言葉よ。」 パッドを返す老トゥポル。「『心に従いなさい。』」 「自分の『心』がわからないときは。」 「わかるわ。…いつか。…必ず。」 星雲へ向かうエンタープライズ。 リード:「武器スタンバイ OK。」 アーチャー:「入るぞ。」 スクリーンに広がる星雲。映像が乱れる。 アーチャー:「…エンジンサインは反射してるか。」 スコープを覗くトゥポル。「…船影は、複数あります。」 アーチャー:「トンネルまでの時間は?」 メイウェザー:「6分です。」 リード:「探知されました。…3隻が向かってきます。」 後方からコヴァーラ船が現れた。攻撃してくる。 アーチャー:「反撃しろ!」 リード:「星雲が干渉してロックできません。もっと近づかないと。」 「相手は問題なさそうだぞ?」 「船尾プレート 42%。」 「まだか!」 「あと少しです! …ロックオン!」 「ロリアン! …今だ!」 エンタープライズの真下にいたエンタープライズ2 が、向きを変えた。 2隻とも反撃にかかる。 リード:「先頭の船を撃墜。…残りは引き返します。」 アーチャー:「やったぞ、船長。」 船長席に座るロリアン。「『船影』に攻撃されるとは、思ってもみなかったでしょうね。」 アーチャーは警告音を聞き、操舵席を見た。 メイウェザー:「スピードが落ちてます。」 通信が入る。『タッカーよりブリッジ!』 アーチャー:「どうした!」 タッカー:「最後の一撃で、ドライブコイルをやられました! 左舷エンジンを切ります!」 炎が上がっている。 アーチャー:「わかった。…ロリアン。そちらのスピードにはついて行けそうにない。」 カリン:「…敵船が来ました。4隻です。」 ロリアン:「エンタープライズの前方につけろ。トラクターエミッターを。…船長、幸運を祈って下さい。」 エンタープライズ2 はトラクタービームを発射し、エンタープライズを牽引し始めた。 メイウェザー:「速度がアップしてます。…トラクタービームです。」 アーチャー:「恩に着るよ。…出口まで頼む。」 リード:「船長、敵船です。20秒以内に射程に入ります。」 カリン:「敵船が接近中。1万2千メートル。1万メートル。」 揺れるエンタープライズ。 アーチャー:「武器をロック!」 グリア:「防御プレートは無事です。」 ロリアン:「向こうはどうだ。」 「船尾プレートがダウン寸前。」 「攻撃を引きつけるんだ、魚雷を撃ち続けろ。」 リード:「船尾プレート消失。」 メイウェザー:「トンネルまで、45秒です。」 「武器がダウン。」 グリア:「向こうのリアクターが狙われてます。」 ロリアン:「ビームを解除しろ。コース変更、180 マーク 0。」 トラクタービームを解除し、エンタープライズ2 は向きを反転させた。エンタープライズの先には亜空間トンネルの入口が見える。 攻撃されるコヴァーラ船。 ロリアン:『敵は引きつけます。後は惰性で、トンネルにたどり着ける。我々も後を追います。…父と母に、すぐ会いに行くと。』 アーチャーはトゥポルを見た。 メイウェザー:「トンネルまで 12秒。」 カリン:「直撃です。パイロンがゆがんでいます。」 ロリアン:「防御プレートにパワーを回せ。」 エンタープライズは亜空間トンネルに入った。 揺れるブリッジ。 トゥポル:「船体強度低下。」 気体が噴き出すエンタープライズ2 のブリッジ。 グリア:「船首の発射装置がダウン!」 ロリアン:「フェイズ砲だけで戦うぞ。とにかく撃ち続けろ!」 エンタープライズは進み続ける。 出口が開き、通常空間に出てきた。 立ち上がるアーチャー。 リード:「追ってきません。」 アーチャー:「現在位置は。」 トゥポル:「11.6光年先の地点です。」 「…時間移動はしていないか。」 メイウェザー:「星は、正しい位置にあります。」 「…ロリアンは。」 リード:「まだ来ていません。」 『航星日誌、補足。5時間が経過したが、ロリアンの船は現れていない。こちらは現在、エンジンを修理中だ。』 停止しているエンタープライズ。 アーチャー:「敵は 4隻だ。」 トゥポル:「生存の望みは薄いですね。」 「だが、経験豊富な指揮官がいる。どうしても死んだとは思えないんだ。…ほかにも可能性はあるんじゃないか? 我々が過去に戻らなかった以上、きっと歴史もどこかしら変わっているはずだ。」 「あのエンタープライズは元々存在しないと。…それなら…記憶も消えるはずです。」 作戦室にサトウの通信が流れる。『アーチャー船長。』 アーチャー:「どうした。」 『来ていただけますか。』 報告するメイウェザー。「船が、ワープを解除します。」 サトウ:「デグラです。…呼びかけです。」 アーチャー:「スクリーンを。」 スクリーンにデグラが映し出された。『…船長。早かったな。』 アーチャーはため息をつく。 デグラの船が、エンタープライズに近づいた。 |
※29: chamomile カモミールティー。ENT第17話 "Fusion" 「果てなき心の旅」より ※30: isomagnetic collector |
感想
前回のドースン監督「フロックス船長の孤独」ほど酷似してはいないものの、誰が見ても DS9 "Children of Time" 「末裔の星」と似通ったストーリーの本作。脚本は "Twilight" 「留められない記憶」も担当した、Michael Sussman によります。もう一隻のエンタープライズが一世紀以上もデルフィック領域をうろついていた、というのは以前の展開と大きく矛盾しており、取って付けた感はぬぐえません。それでも第3シーズンの中では出色のできでしょうね。同じ船同士、そして協力しての戦闘シーンは素直に見応えがありました。ただ「末裔の星」にもあったようなタイムトラベル・タイムパラドックスの不条理さというか危うさというか、その辺は完全に削り取られていましたが… (自分の先祖を攻撃するなんて、本来もってのほかのはず。最後はうやむやですし)。 そういえばラストの展開は TNG "Yesterday's Enterprise" 「亡霊戦艦エンタープライズ'C'」にも似てましたね。2人のトゥポルのシーンも ST ではお決まりですが、現在の映像技術を見せつけるかのようなやり取りはさすがです。原題の「2」は二乗ということで、ある意味 VOY "Q2" 「断絶するQ」を抜いて史上最短のタイトルということになります。余談ですが、今回初めて会議室の存在がはっきりしたため、過去のエピソードガイドで食堂と混同していた文章も全て修正しました。 |
第72話 "The Forgotten" 「デグラの決断」 | 第74話 "The Council" 「評議会の分裂」 |