治療するフロックス。「アナプロヴァリン※8を 50ミリグラム増やせ。」 複数の患者がいる。
アーチャー:「容態は。」
「安定してます。しかし、熱傷はかなり深刻です。再生治療をしたいのですが、イメージングチャンバーが使えない。急いで、修理チームをよこしてください。」
「わかった。」 アーチャーは仕切られているカーテンを開けた。
中のベッドに寝かせられているクルーは、顔までシーツが掛けられていた。
フロックス:「…フラー※9です。手は尽くしました。」
アーチャー:「こっちは。」 異星人を見る。
「内蔵に傷が。このまま、経過を見ます。」
「拘束室に放り込め。目を離すな。」
保安部員※10:「了解。」
フロックス:「何の種族がお知りになりたくありませんか。オサーリア※11です。」
アーチャー:「領域の種族じゃないのか※12。」
「違います。」
タッカーが来た。
医療室を出たアーチャーは、一緒に廊下を歩く。「被害は。」
タッカー:「光子魚雷 3発※13を盗られた上、プラズマライフル 1ケース、スタン爆弾 2ダース。食料の備蓄も半分盗まれました。第2貨物室はスッカラカン。でも最悪なのは、反物質を根こそぎやられたことです。メインリアクターにある分しか、残ってません。」
「どのくらいもつ。一ヶ月か。」
「最大で。それ以後は、ガス欠です。」
まだナセルが暗いままのエンタープライズ。
アーチャー:「ほかに情報は?」
トゥポル:「オサーリアとは、ほとんど接触がありませんので。…商業艦隊を保有していますが、強奪記録は皆無です。」
「…追跡に進展は?」
「ありません。敵は、イオンの痕跡を消しています。」
「強奪経験のない連中にそんな技術が必要か? …調査を続けろ。」
「…オサーリアは武器もエンジンもこの空間異常に適応させています。追跡するのは危険です。ほかの選択肢を考えては。」
「選択肢とは。反物質が底をつくのを待つか。」
「…奪い返すよりどこかで補充する方法を考えるべきです。」
「追跡しろ。」
作戦室を出るトゥポル。
保安部員に命じるアーチャー。「開けろ。」
一部が透けて見えるドア※14の奥に、オサーリア人が座っていた。
ボタンに触れるアーチャー。「ドクターから軽傷だと聞いている。…立ちたまえ。」 声が独房に流れる。
オサーリア人※15:「なぜだ。」
「部下が一人死んだ。」
「俺は殺してねえ。」
「君の、仲間に殺された。…だがここにいるのは君だけだ。立って私を見ろ。」
立ち上がるオサーリア人。
アーチャー:「よーし。…仲間を捜す手引きを。」
オサーリア人は笑った。
アーチャー:「私の船から盗んだ物を取り返したら、君も君の仲間も…解放しよう。」
オサーリア人:「俺たちの船に近づけば、死人は部下一人では済まん。…申し出は断る。あんたに手を貸して解放されたとしても、船には戻れねえ。そうだろう。戻っても放り出されるだけだ。」
「そのくらい我慢しろ。もう一つの選択肢は、それよりずっと耐え難い。」
「…あんたに俺を拷問できるわけがねえ。あんたらは文明人だ、道徳心が邪魔をする。無理すんな。」
「盗まれた物を取り返したい。…そのためなら手段は選ばん。道徳心など、知ったことか。」
「この領域には来たばかりらしい。じゃなきゃ、トレリウムD※16 で防護しているはずだ。防護していない船にこの空間のゆがみがどんな影響を及ぼすか、あんたに想像がつくか? 船だけじゃない、乗員の身体にもだ。」 変形した顔の皮膚をさするオサーリア人。
「…どうやってイオンの痕跡を消した。」
「フ、フン。船長は、とても賢い男でな。だってそうだろ。絶望的な状況の中で生きてくには、頭を使うしかねえんだよ。だから身を隠し始めた。」
「強奪もやむなく始めたと?」
「…俺たちも最初は、あんたらと変わらなかった。2隻で貿易ルートを探しに来て、最初のゆがみに襲われた。すぐ母星へ戻ろうとしたが、あの境界線。熱バリウムの雲が領域を覆い、外に出られやしねえ。…一隻は破壊されたよ。何度か空間異常に遭遇した後、仕方なく強奪を始めた。この辺は狩りをするには、理想的な場所でな。空間のゆがみで座礁させられた船は…実に無防備で襲いやすい。…誰にも迷惑はかけてなかった。本当だ。…最初のうちはな。今は良心の呵責もなく人を殺せる。だがあんたらには無理だ。拷問も、フン。今んとこはな。」
「君の船を見つけるためなら何でもする。後で良心が痛んでも。」 拘束室のドアを開けるアーチャー。「何もしないよりずっとマシだ。よく考えろ。」
司令室。
トゥポル:「廃棄船にあったデータを分析しました。やはり、オサーリア船の追跡を試みたようです。」
操作するサトウ。データが表示される。
トゥポル:「イオンの痕跡を探知できるようセンサーを改造していましたが、試す前に生命維持装置が停止したようです。」
アーチャー:「改造法に関する記録は?」
「少尉に渡してあります。」
メイウェザーも歩いていった。
アーチャー:「こっちの、状況は?」
トゥポル:「防御プレートは復旧。一時間以内に、フェイズ砲も使えます。」
「魚雷は?」
「誘導システムを、空間のゆがみに対応させるのにかなり手間取っているようです。」
「兵器室にいる。」
食堂。
独りテーブルにつき、いくつものパッドを見ているタッカー。
リードが来た。「紅茶をホットで。」 機械から取り出す。「物理の新発見は?」
タッカー:「ノーベル賞※17は、まだまだ獲れそうにないな。」
「少し寝た方が、能率が上がりますよ?」
「ご冗談を。」
「眠れないんですか。」
「…トゥポルが頑張って、神経を…ほぐしてくれてるんだけどな。…そういうんじゃないって。」
「私は別に何も。」
「…魚雷は直ったのか。」
「…何とか誘導システムは使えるようになりましたが、船尾の発射管がまだ。フラーは、誰より魚雷システムに詳しかった。誰も代われませんよ。…今までも大勢の異星人と遭遇してきたけど、よく犠牲者が出なかったもんだ。」
「これからはわからん。」
「…そんな悲観しなくても。」
「どいつもこいつも船を攻撃してきやがる。まるで、標的が飛んでるみたいだ。」
「ではどうしろと。地球へ帰れと言うんですか?」
「俺たちは何が起きようと、この任務から逃げることはできないと言ってるだけだ。」
『航星日誌、補足。オサーリアのイオン痕跡を追跡して 4時間経過。未だ進展なし。』
ブリッジ。
メイウェザー:「イオン痕跡は、2万キロ前方で途切れています。」
アーチャー:「船影は。」
「…ありません。」
「トゥポル。」
トゥポル:「…妙です。途切れてから、7万キロ先で復活しています。」
「スクリーン。」
操作するサトウ。
手前の線があり、離れた場所から全く違う方向に線が見える。
メイウェザー:「コースの変更を?」
アーチャー:「まだだ。…なぜそんなに途切れたか、わかるか。」
トゥポル:「イオンが恒星風に吹き飛ばされたのかもしれません。」
サトウ:「わずかですが、粒子が残っています。」
リード:「船長。粒子の崩壊率が合致しません。手前の部分は 9時間以上経過してますが、奥※18の部分は一時間も経ってません。」
アーチャー:「武器をオンラインにしろ。イオンが途切れたポイントへ向かえ。」
進むエンタープライズ。
船が揺れだした。
アーチャー:「トラヴィス。」
メイウェザー:「計器に異常はありません。」
明滅するコンピューター。
向かっていたエンタープライズは、突然空間に飲み込まれるように消えてしまった。
リード:「パワーが不安定です。」 火花が飛ぶ。「前方プレート、ダウン。」
トゥポル:「船体外部に、微細な亀裂が入っています。針路を変えては。」
アーチャー:「そのまま進め!」
ブリッジの壁が、空間異常で波打った。
再び姿を現すエンタープライズ。
アーチャーはスクリーンを見た。巨大な金属状の球体が映っている。
アーチャー:「トゥポル。」
トゥポル:「直径は、約19キロメートルあります。」
「…今まで見たことは。」
「いいえ。…一種類の合金で、全体が成り立っています。」
リード:「誰がこんな巨大なものを。」
アーチャー:「もっと接近しろ。」
球体へ向かうエンタープライズ。
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※8: anaprovaline ENT第47話 "The Breach" 「理由なき憎しみ」より
※9: フラー乗組員 Crewman Fuller ENT第27話 "Shockwave, Part II" 「暗黒からの衝撃波(後編)」などで言及。ただし同エピソードでは女性とされていたのに対し、今回原語では後で男性とわかります。フラーは 2人いたのでしょうか?
※10: Security Guard (Ken Lally) 後にも登場
※11: Osaarian 初期情報では Ventaxian になっていた時期もありました
※12: 吹き替えでは「ズィンディじゃないのか」。前回でも既に登場している通り、デルフィック領域にいる異星人はズィンディだけではありません
※13: 吹き替えでは「3門」。まさか光子性魚雷のシステム自体を盗むわけには…。また食料のくだりでは、原語では「シェフによれば」と言っています
※14: 拘束室は ENT 初登場。ENT第1話 "Broken Bow, Part I" 「夢への旅立ち(前編)」などで言及はされていました。フォースフィールドが一般に使われている後の時代と違って、単なる透けたドアであり会話も機械を通していますね
※15: 名前は Orgoth (ロバート・ラスラー Robert Rusler ドラマ「バビロン5」に出演) ですが、言及されていません。声:牛山茂?、TNG ローア、STG ソラン、旧ST5 スールーなど
※16: trellium D 前話 "The Xindi" より
※17: Nobel Prize TOS第53話 "The Ultimate Computer" 「恐怖のコンピューターM-5」など
※18: 吹き替えでは「黄色の部分は/青の部分は…」となっています。原語では「こちらの部分」というリードのセリフに合わせて線が黄色に変わっているため、チグハグな訳になっています
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