エンタープライズ エピソードガイド
第47話「理由なき憎しみ」
The Breach
イントロダクション
※1医療室の動物たちが鳴いている。餌を与えているフロックス。 サトウが入る。「餌の時間?」 フロックス:「いつでもです、フフン。ああ…。」 ケースから、毛だらけの小さな動物を一匹取りだした。 「それ何?」 「噛みつきません。トリブル※2ですよ、フーン。今は取引が禁止され、入手困難です。」 「そんなに危険なの?」 「とんでもない、フーン。餌を食べて増えるだけで、実におとなしい生き物です。問題なのは、驚異的な繁殖力、フン。」 フロックスはトリブルをカゴに入れた。大きな音と声が響いた。驚くサトウ。 フロックス:「トリブルの繁殖を止められるのは、彼らの故郷の爬虫類だけです。…大丈夫ですか、少尉?」 サトウ:「……通信を届けに来たんでした。デノビュラ科学アカデミー※3からです。緊急よ?」 「ありがとう。」 出ていくサトウ。フロックスはパッドを読み、表情を硬くした。 |
※1: このエピソードは、VOY パリス役ロバート・ダンカン・マクニール監督です。ENT では第11話 "Cold Front" 「時を見つめる男」に続き、2話目となります ※2: tribble TOS第42話 "The Trouble with Tribbles" 「新種クアドトリティケール」など。原語では「とても入手が難しかった。ほとんどの星で不法」と説明されています ※3: Denobulan Science Academy |
本編
司令室。 構造図が表示されている。 メイウェザー:「洞窟は、50キロありますね。」 フロックス:「地図上は 50キロですが、実際はどこまで続いているか。」 タッカー:「デノビュラの科学者はそこで何を。」 「ここは鉱物の地層のある有名な洞窟網で、特に珍しい鍾乳石があるんです。」 アーチャー:「彼らは半年潜ったきり、3週間前からデノビュラ科学アカデミーと音信不通だ。」 惑星の図に切り替える。「ザントラス※4という惑星だ。この何年間も※5、政情不安が続いていて、ここ数週間は好戦的な派閥が政権を握ってる。」 「惑星に滞在する異星人は全員退去するよう求めていて、応じなければ投獄か更に悪いことに。」 リード:「デノビュラはなぜ、自分たちで助けに行かないんです?」 「時間的に無理だ。エンタープライズなら、一日もかからない。そこで救出を頼まれた。」 洞窟の図に戻すアーチャー。「まず、3人の捜索だ。洞窟探検の経験は?」 メイウェザー:「険しい崖が数ヶ所ありますが、問題ありません。」 「君たちは。」 タッカー:「トラヴィスにしっかり、指導してもらいます。」 「装備の用意を。」 メイウェザー:「了解。」 フロックス:「非常に無理な御願いを…聞いていただいて、感謝しています。」 アーチャー:「お安い御用だ。」 ワープを抜け、ザントラスに近づくエンタープライズ。 身軽な服装をしたメイウェザー。「ハーケン。」 タッカー:「入れた。」 「携帯食は?」 「一週間分。」 「ザイル。」 リード:「うーん。500メートル。」 「汚物処理袋。」 タッカー:「……何でこんな物を。」 「廃棄物は持ち帰りが原則です。」 リードと顔を見合わせるタッカー。 アーチャーがシャトル発着ベイに入った。「今、ザントラスの地方長官と話をした。一般命令が出された。救出にかけられるのは、3日間だ。」 タッカー:「短いなあ。」 「その期限が過ぎると、不法滞在者を取り締まるパトロール隊が、動き出すということだ。36時間で彼らを見つけられなければ、すぐ引き返し、船に戻れ。」 「わかりました。」 地表へ向かうシャトルポッド。 入れ替わりに、たくさんの異星人船※6がザントラスを離れていく。 ブリッジに戻るアーチャー。「どうしたんだ。」 トゥポル:「惑星を離れた輸送船から、緊急信号が出ています。」 サトウ:「…リアクターケースが破裂して…ザントラス政府に戻る許可を求めています。」 アーチャー:「聞かせてくれ。」 女性の声。『客室に放射能があふれ出して、客とクルーに怪我人が出ているんです。』 ザントラス人:『要求は認められません。すぐ軌道を離れなさい。』 『危機的状況なんです!』 『船を追跡中、着陸を試みればただちに攻撃…』 音声を止めさせるアーチャー。「輸送船は?」 トゥポル:「…低い軌道に。ここより、600キロ下です。」 「コースをセット。回線、オン。船長につないでくれ。」 異星人輸送船※7とドッキングしているエンタープライズ。 慌ただしい医療室。 フロックス:「内出血だな。止血スキャンを頼む。皮膚ジェルを塗って? 痛み止めにアナプロヴァリン※8 2ccを与えてくれ。もう大丈夫。」 患者の異星人は、どちらも別種族の者だ。 新たに患者を運び込むクルー※9。「彼はリアクターのそばで作業をしてました。」 その異星人※10を見て、動きを止めるフロックス。 クルー:「ドクター…。」 フロックス:「ああ。イメージチェンバーへ。」 異星人を呆然と見ているフロックス。 シャトルポッドを離れ、洞窟へ向かうタッカーたち。 入り口だ。 タッカー:「何か見えるか。」 スキャナーを使うリード。「何も。3人も揃ってて、正しい方角に進んでるか誰も確信がもてないなんて。」 「全くだな。」 メイウェザー:「いえ、ここが彼らに一番近い入り口です。ここから入ったと賭けてもいい。」 ライトを使い、奥へ進むメイウェザー。「気をつけて。崩れた岩が落ちてます。」 タッカー:「…最後に潜ったのは遊園地の洞窟で、手すりがついてて、土産を売ってた。」 リード:「…開けてる。こっちです。」 下に崖がある。暗闇だ。 リード:「まだここを通ったって賭けるかい?」 メイウェザー:「もちろん。」 タッカー:「初心者用の崖はないのか?」 「大丈夫、先に行きます。」 道具を降ろし、ロープを用意する 3人。 メイウェザーから降りていった。 医療室に入るアーチャー。「どうだ。」 フロックス:「2人は順調ですが、彼の怪我は広範囲で、大量の放射能を浴びています。今は安定していますが、いずれ細胞内再生手術が必要です。」 モニターに映像を出す。 その患者は、先ほど最後に運ばれた異星人だった。 アーチャー:「助かるのか。」 フロックス:「複雑な手術ですが、治る見込みは高いでしょう。」 異星人が目を覚ました。「ここは。」 アーチャー:「私の船だ。エンタープライズ※11の船長、アーチャーです。」 「何があった。」 「輸送船で、事故がありました。」 「…奴は何をしてる!」 無言のフロックス。 アーチャー:「ドクターですよ。」 異星人:「近寄らせるな!」 「…治療が必要だ。」 「だったら死んだ方がマシだね!」 |
※4: Xantoras ※5: 原語では "for several years" と言っていますが、「この 7年間」と訳されています ※6: ここで使われているモデルには、カレマ船 (左上、DS9第80話 "Starship Down" 「ディファイアントの危機」)、クワタイの船 (左下、VOY第108話 "Bliss" 「夢を食う謎のワームホール」)、ヌバリ船デザイン (右下、VOY第157話 "Flesh and Blood, Part II" 「裏切られたホログラム革命(後編)」など) があるようです ※7: ENT第39話 "Dawn" 「熱き夜明け」で登場した、アーコニアン軍用船の改造のようです ※8: anaprovaline ※9: Crewman (Jamison Yang) 声:石住昭彦 ※10: 名前は Hudak (Henry Stram) ですが、言及されていません。声:寺杣昌紀 ※11: 吹き替えでは「エンタープライズ号」 |
説明するフロックス。「私達の間には、複雑な歴史があります。デノビュラはアンタラン※12と幾度も戦争をしています。」 アーチャー:「最近?」 2人は医療室の外にいる。 「いえ、それが最後の戦いは 300年前です。」 「そんな昔のことを恨んでいるのか。」 「彼らの方が激しい敵意を抱いています。」 「うーん。…君の助けがなきゃ生きられないと説明すれば、しばらく歴史を忘れてくれるかもしれない。」 「無理です、彼は私が部屋にいるのも嫌がった。デノビュラに対する恨みの深さを御存知ないようだ。」 「鎮静剤を飲ませて治療をすればいい。」 「彼の意思を無視できません。」 「死を望んでもか?」 「患者の意思を、尊重するのはデノビュラ医学倫理の基礎です。」 「救える患者がいたら、何としても救うのが倫理じゃないのか。」 「ヒポクラテスはデノビュラ人じゃない。」 「ここは、地球船だ! この船で助けられる患者を見殺しにすることは許さない。」 「同意が得られなければ、何もできません。」 「…船長命令だ。」 「…申し訳ありませんが、命令には従えません。」 崖を降りていくメイウェザー。他の 2人も続く。 メイウェザー:「足下に気をつけて。」 タッカー:「ああ。」 バランスを崩した。 リード:「トラヴィス!」 メイウェザー:「落ち着いて!」 タッカー:「ああ…。」 「…少佐、大丈夫ですか?」 「強度のテストさ。」 また降り始める。 途中の立てる所まで着いた。 メイウェザー:「休んでて下さい、様子を見てきます。」 下をライトで照らすメイウェザー。まだ底は全く見えない。 水を飲んだリード。「あれ? 何でしょう。」 タッカーはケースを拾った。「デノビュラ人のだろう。フロックスの医学書でこういう文字を見たことがある。」 リード:「彼ら、荷物を全部持ち帰らないみたいですねえ。」 開けてみるタッカー。「石の標本か?」 リード:「…道は間違ってなかった。」 医療室のアーチャー。「気分はどうだ。」 アンタラン:「…船に戻りたい。」 「輸送船はリアクターの漏れで損傷した。修理が終わるまで、あと 2、3日かかるだろう。…君は、高レベルの放射能を浴びている。治療が必要だ。」 「…だったら医者を代えて下さい。」 「フロックスの治療を受けないと、2日ももたないぞ。…君たちの間に、歴史的トラブルがあったことは聞いたが、彼が優秀なドクターであることは保証する。」 「トラブル程度じゃない。奴らの戦術で、2,000万人のアンタラン人が殺されたことは聞いてますか。」 「…詳しくは何も。」 「でしょうね。デノビュラ人は都合の悪いことは忘れる。」 「……それじゃあ、君も 300年前に終わった戦争の犠牲者になりたいと言うのか? …フロックスは、ここで医療主任を 2年近く務めているが、彼の技術と人格は保証する。」 「優秀な医者だったらどうなんだ! そんなこと知りたくもない。」 「死んだ方がいいと?」 「…6世代でデノビュラ人に出会ったのは、私が最初なんです。」 「しばらく彼と過ごせば、デノビュラ人に対する考えも変わる。」 「しばらく我々の歴史文書館で過ごせば、あなたの考えも変わるでしょ。」 「私は、何事も自分が体験したことを信じる方でね。……君たちの歴史も、戦争の犠牲者たちも尊重するが、これは確かだ。私の知るデノビュラ人は君が言うような連中じゃない。…先入観に縛られて命を無駄にしないで欲しいんだ。」 アーチャーは尋ねた。「なぜ話してくれなかった。」 フロックス:「自慢できる話じゃありませんから、忘れるよう努力したんです。」 「君は、彼が初めて会ったデノビュラ人とか。」 「彼は私が初めて会ったアンタラン人です。」 「おかしな話だなあ? この 300年間というもの、どちらも和解しようと思わなかったのか。…君らは過去を早く、忘れすぎたのかもしれん。」 「前にも言いましたがそんな単純ではない。…アンタラン人は子供の頃からデノビュラ人が敵だと教わります。恐ろしい…悪者であるとね。」 「それが間違ってると証明するいい機会だ。」 「無理です。」 「先入観を捨てるんだよ! 私が話しても駄目だ。実際にメスを握るのは君だからな。彼の信用を得ろ!」 「36時間以内に可能だと思いますか。」 「やってみなきゃわからん! …彼の意思に反して治療するのは倫理に反するだろうが、話をするならいいだろう! …君は医者で、彼は患者だ。何とかして命を救え!」 フロックスの部屋を出て行くアーチャー。 崖を降りてきたタッカー。リードはスキャナーを使っている。 タッカー:「コインで決めるか?」 リード:「…こっちです。」 「なぜわかる。」 「ほら、見て下さい。」 天井に鉱石が見える。「私が地質学者なら、こっちを選びます。」 狭い道を進むメイウェザー。「壁際に寄って?」 リード:「でなきゃ落ちる。」 道は斜めになっている。 先頭を歩くリード。「かなり急です。」 メイウェザー:「私がハーケンを。安全性を確かめて下さい。」 岩の間にロープを固定する。 しかし、先頭を歩いていたリードが足を滑らせてしまった。 ロープでつながれているタッカー、そしてメイウェザーも坂を滑り落ちていく。固定していたハーケンはすぐ取れてしまった。 勢いは止まらず、叫び続ける 3人。 端に達し、リードは崖から落ちてしまった。次いでタッカー。 滑っていくメイウェザーは、何とか足を踏ん張った。 宙づり状態のリードとタッカー。 |
※12: Antarans |
壁に手を伸ばすタッカー。「手が、届かない!」 苦しむメイウェザー。歯を食いしばる。 タッカー:「もうちょっと!」 メイウェザー:「…これ以上無理です!」 「がんばれ! もう一度、同時にだ。いいか! 1、2、3 で。1…2…3!」 リードとタイミングを合わせ、身体を振るタッカー。 メイウェザー:「ザイルが滑る!」 ロープを離してしまった。 と同時に、タッカーは隙間にロープを固定した。 リードも落ちることは免れた。 タッカー:「大丈夫だ!」 安心するメイウェザー。 メイウェザーは痛みの声を上げる。「折れてますか。」 タッカー:「ああ。靱帯も切れてるな。」 「……休んでられない。痛み止めを打って下さい。」 ハイポスプレーを使うタッカー。「残念だがトラヴィス、君はここで待っててくれ。」 メイウェザー:「…大丈夫、歩けます。」 リード:「…既に予定オーバーだ。これ以上ペースを落とせない。…君はよくやったよ。」 タッカー:「…すぐ治るさ。」 メイウェザー:「…私が心配なのは、自分の身体じゃありません。」 笑うタッカー。「ライトを当ててくれ。」 メイウェザーの脚を持ち上げる。 医療室に戻ったフロックス。アンタランは眠っているが、息を荒げている。 フロックスはスキャナーを使う。 アンタランが目を覚ました。「…何をしてる!」 フロックス:「生体反応のチェックを。…それだけだ。」 「仕事熱心だな。お前はさぞ献身的な医者なんだろうな。」 「……故郷から遠く離れて、何をしに?」 「患者への接し方の練習か?」 「挑戦が好きでね。…質問に答えてくれ。」 「私は異種神話の教師で…様々な異星人伝説を研究しているんだ。」 「この惑星に住む、多種多様な異星人は君の調査には理想的な環境だ。…クルーが助けに行ったデノビュラ人科学者たちにとっても、ここは野外研究に最適な星だと聞いている。」 「お互い共通点があるとは嬉しいね。…なぜ私の命を救いたい。」 「医者だから。」 「アンタラン一人を救えば大量殺戮の罪が軽くなるとでも。」 「私は殺してない。」 「やっと、チャンスがきたな。」 「…再生手術は安全性が高い治療だ。私に任せてくれれば…」 「アンタランの身体には詳しいんだろ。…かつての蛮行を思えば当然だ。」 乱暴にカーテンを開け、離れるフロックス。 アンタラン:「教えてくれ、お前は俺たちの話を聞かされて育ったのか。アンタランは悪魔だと、悪夢に悩まされたか?」 フロックス:「こっちも同じことを聞きたいね。」 「君には子供がいるかな。」 「…なぜだ。」 「同じ話を子供にも聞かせたか。自分が教わったようにアンタラン人を憎むようしつけたのか?」 「子供たちは無関係だ。」 「そうかな。お前の子供たちがここにいたら、父親がアンタラン人と話しているのを見て、一体どう思うかな。」 「やめろ!」 「子供は私と同室させるのも嫌だろうね。」 フロックスは振り返った。「敬意を払ってるのに、侮辱されるのはたまらない! 過去が過去にならないのは君たちのせいだ! …いつまでも憎しみを引きずってる。私達だって、同じ部屋になどいたくないさ!」 出ていく。 アンタランは微笑んだ。 食堂。 パッドを持ち、飲み物を取り出すトゥポル。 フロックスが独りでいた。 トゥポル:「…よろしいですか?」 フロックス:「…今、誰とも一緒にいたくない気分でね。…待って。すまん。かけてくれ。」 「お一人がいいなら…」 「いや、頼む。どうぞ。……輸送船の、修理は進んでる?」 「徐々に。相当な損傷ですから。…患者の容態は?」 「死にかけてる、でもそれが彼の願いだ。」 「…残念です。」 「…これまでも治療を拒否した患者はいましたが、末期の患者ばかりでした。…でも彼は自己の正しさを示すために死ぬ気だ。認めたくはないが理由はわかってる。……ずいぶん若い頃の話ですが、我々の星系のそばにある惑星に行こうとした。様々な珍しい動物が生息する、自然公園みたいな星でした。…私は友達と、長い旅行計画を立てたが、それが出発の一週間前になって、祖母に旅行を止められてしまったんです。」 「なぜ。」 「汚染されているから。かつてアンタランが住んでいて彼らが去って何年も経っているのに、祖母は星がアンタランに汚されていると信じていた。」 「行ったの?」 「…いいえ? …でもその後子供たちを連れて行きました。そういう風に育てたくなかった。」 「他の文化を認める父親をもって、あなたの子供たちは幸せね。」 「…私は無力だ。」 「…大丈夫ですか。」 「聞いてくれてありがとう、おやすみ。」 出ていくフロックス。 狭い通路を通るタッカー。「何が、見える。」 リード:「…変化なしです…。」 「ほんとにこの道でいいのか?」 「ほかに道はなかった。」 「30分探して駄目なら船に戻ろう。」 スキャナーに反応があり、確認するリード。「生体反応が 3つ。デノビュラ人です。」 タッカー:「距離は。」 「…50メートル先。」 急ぐ 2人。 開けた場所に出てきた。 その先に、デノビュラ人※13がいた。「誰だね。」 他の 2人もいる。 タッカー:「宇宙船エンタープライズのタッカー少佐と、リード大尉です。」 「こんなことを言っては失礼だが、探検する洞窟はほかにもたくさんあるでしょう。」 「学者じゃない。」 リード:「あなた方の捜索を頼まれました。」 デノビュラ人:「なぜ。」 タッカー:「2日前、異星人は 3日以内に惑星から出るよう通達が出た。」 デノビュラ人の若者※14。「では急ぎなさい。」 タッカー:「…わかってないなあ。俺たちは命令で来たんだ。険しい断崖を登って戻らなきゃならん。なるべく、荷物は減らしてくれ。」 デノビュラ人:「わざわざ来てくれて悪いが、帰るわけにはいかない。」 作業に戻る。 |
※13: 名前は Yolen (Mark Chaet) ですが、言及されていません。声:諸角憲一 ※14: 名前は Zepht (D.C. Douglas) ですが、言及されていません。声:古澤徹 |
タッカーは言った。「君たちも帰るんだ。」 デノビュラ人:「警告はちゃんと受け取った。君らの任務はもう終わった。」 リード:「とは言えません。あなた方を連れ帰れなければ、科学アカデミーから責任を問われます。」 デノビュラ人の女性※15。「調査の成果を知れば、デノビュラは捜索など頼まなかったわ?」 タッカー:「わかってないな。ザントラス人※16に捕まれば投獄されるんだぞ? 処刑されるかもしれない。」 デノビュラ人:「それじゃあますます、ここにいた方が安全のようだ。」 リード:「永遠に留まるつもりですか。」 若者:「その必要はない。ここの政府はやり方をよく変える。調査が終わる頃には、問題は片づいている。」 タッカー:「仕事が大事なのはわかるが…石ころのために死ぬなんて。」 デノビュラ人:「石ころ。これほど素晴らしい鍾乳石が見られる場所はほかにはない。方解石、あられ、ボタイロイダル流れ石※17。14年もかかってやっと完璧な場所を見つけたんだ。こうした標本は、デノビュラを地震災害から防ぐ糸口になるかもしれないんだぞ?」 「…あと何日だ。」 女性:「2週間か、3週間。」 「ふざけるな! …俺たちはこの 2日間、崖から滑り落ち、トンネルを這いつくばって君たちを見つけたんだ。怪我で仲間も置き去りにした。今ならザントラスの攻撃にさらされる前に脱出できるんだぞ? …俺たちは指令を受けているんだ。必ず、君たちを連れ戻すぞ。」 デノビュラ人:「無理強いはできない。」 「どうかな。俺たちは追い返されるために、命を懸けたわけじゃないんだ。さっさと荷物をまとめるんだな。でないと身体を縛って引きずってでも連れ帰るぞ。」 「…標本をまとめるから手伝ってくれないか?」 「よーし。」 エンタープライズ。 アンタランは手を挙げた。「最期は独りで過ごさせてくれ。」 フロックス:「決意はわかるが、私の知識から判断して君の最期の時がくるまでは後、60年はある。」 「何を言ってるんだ。」 「細胞内再生が完了すれば君の寿命は…」 「治療は拒否した!」 「…手術を進めるにあたって、痛みを取り除く投薬をし…」 「近寄るな! …患者の意思に反して治療を行うのは主義に反するんだろ。…アンタラン人には適用されないのか!」 「……悪夢を見たよ。」 「何?!」 「子供の頃にアンタラン人の怖い話をされたかって聞いただろ。私の祖母は最後の戦争を生き抜いた。毎晩、ベッドで寝ながら、祖母の話を想像した。怖かったね、悪いアンタラン人が窓から忍び込んできそうで。」 「告白でお前の気は軽くなっただろうが、私の気持ちは変わらない。」 「子供のことも、聞いてたな? 子供は、5人だ。でも子供たちには祖母の話は一切していない。…子供たちにアンタラン人のことを聞かれて知る限り真実を伝えた。アンタラン人に対して行った軍事行動について。君たちをどう悪魔に仕立て、顔のない敵に変えたか、子供には真実を知って判断して欲しかった。…政府の宣伝からではなくてね?」 「真実の我々を知らないくせに!」 「…知らないさ、だが子供たちが祖母の態度を古くさいと思ってくれていて、満足してる。…末息子以外はね。…戦後我々は偏見のない心を育ててきたが、デノビュラにもまだ君たちを恐れ憎む者がいる。末息子のメタス※18は、そういう連中にそそのかされた。私は賢明に、息子の間違いを正そうとした。お前の価値観は黙認できないとね。それで親子が断絶した。私の努力不足だったかもしれない。…最後に息子と話をしたのは 10年前だ。…子供がこの場にいたらどう反応するか君は知りたいんだろ。メタスがどう思うか教えてやる。私が君の要求を聞き届けて君を死なせたら、彼は喜ぶよ! …だがそれは私が子供たちに示そうとした手本じゃない。…生きてくれ。……生きて手本を示してくれ。」 デノビュラ人の若者を先頭に、トンネルを戻る。 止まる若者。脇の石を掘り出す。 タッカー:「…どうしたんだ。」 若者:「別に。」 「じゃあ止まるな。」 リード:「どうしたんですか!」 「わからん。さあ行こうぜ。」 若者:「ちょっと待ってくれ。」 「待ってる余裕はないんだ。」 若者はケースを開けた。また石が入っている。 タッカー:「何してんだ! また標本か?! これ以上持てないぞ。」 若者:「岩礁からこれを取り出すのに、1ヶ月半もかかったんだ。」 「5秒以内に前に進まないと、ケツにフェイズ銃をぶっ放すぞ?」 「すごい価値なんだ!」 荷物を探り始めるタッカー。「1、2…」 突然、洞窟が揺れだした。 タッカー:「行けー!」 メイウェザーは上から落ちてくる石から、身を守る。 崖の下に来たタッカー。「地殻変動の揺れかなあ。」 リード:「攻撃じゃないですか?」 「かなり激しい攻撃だ。」 「…期限までまだ 2時間ある。君たちも岩登りの準備を。」 若者:「装備の類は、一切ない。」 リード:「ザイルを使わずに、この険しい壁を登るって言うんですか? 命綱もなしで。」 「そうです。」 タッカー:「…お先にどうぞ。」 登り始めた時、更なる揺れで大きな岩が落ちてきた。 タッカー:「壁に寄れ!」 砂煙が舞い、咳き込む一同。 タッカー:「大丈夫か。」 リード:「大丈夫です。」 女性:「ええ。」 タッカー:「潰される前に急ごう。」 通信中のサトウ。「船長。」 アーチャー:「長官からか。」 「時間は貴重だと。」 「こっちもだ。」 ザントラス人の声が流される。『アーチャー船長、おわかり頂いてないようだ。』 アーチャー:「わかってます。なのに、なぜ仲間を攻撃するんですか。」 『どういう意味です。』 「パトロール隊の一つが、洞窟付近に発砲を始めた。期限まで、あと 1時間半はあるはずだ。」 『彼らの標的は、おたくのクルーやデノビュラ人ではありません。』 「では攻撃相手は。」 『前政権の、残党どもです。権力を渡すことを拒否している。』 「そっちの事情は知らんが、クルーを危険にさらしている。攻撃は待ってもらいたい。」 『それは…不可能でしょう。』 「約束が違う!」 『期限を 3日与えると、約束しただけだ。』 「……洞窟を攻撃しているパトロール隊を攻撃する!」 『…我々を攻撃すれば報復する。』 トゥポル:「座標にロックしました。」 アーチャー:「武器装填。」 ザントラス人:『本気で我々と戦争を始めたいのか?』 「こっちからも同じ質問を送ろう。我々を相手にしている場合じゃないだろう? 最初の約束を守ってくれれば、戦いを 2つも抱えなくて済むだろう。」 崖を必死に登るタッカーとリード。 その脇を、デノビュラ人の若者がさっさと登っていく。 タッカーと顔を見合わせるリード。 上から覗き込む若者。「少佐。爆撃は収まったようです。」 リード:「攻撃が再開される前に脱出しましょう。」 タッカー:「ああ。」 フロックスは医療室に戻った。「私に御用かな。」 アンタラン:「この前の、息子の話だが…お前は心から子供たちに手本を示したかったようだな。ほかのデノビュラ人もそうだといいが。」 「…多くはそうだ。ほかの人々に会えば。」 「そんな機会はない。」 「…ほかに話したいことは?」 「私も家族のことを考えた。私にも子供がいる。…治療を受け入れることにしたよ。」 フロックスはうなずいた。 ザントラス。 ロープでメイウェザーを引き上げるタッカー。 メイウェザーが持っていたケースが、落ちていった。 デノビュラ人:「大事な標本が。」 タッカー:「忘れろ。」 「予備の標本を取っといてよかった。」 命じるアーチャー。「もう一度!」 サトウ:「…エンタープライズよりタッカー少佐。応答願います。」 「……シャトル1 の準備を。出発ベイで、保安チームと集合だ。」 トゥポル:「ザントラスのパトロール隊が出ているので、シャトルの発進に気づかれます。」 「わかってる。」 通信が入った。『タッカーよりエンタープライズ。』 アーチャー:「…今出るところだった。期限は2時間前に切れてるぞ。」 シャトルポッドを操縦するタッカー。「遅れました。」 アーチャー:『デノビュラ人は。』 「全員無事です。珍しい標本も一緒ですよ。」 報告するトゥポル。「船長。シャトルポッドに小型船が接近中。パトロール隊です。」 アーチャー:「見送りがいる。」 伝えるリード。「確認。方位 184、マーク 27。」 シャトルポッドが揺れた。 攻撃してくるザントラス小型船。 リード:「損傷はわずか。低出力の粒子ビームです。」 尋ねるアーチャー。「援軍は?」 『待機を。脅してるだけのようです。』 上空へ上がるシャトルポッド。 ザントラス船は追わず、惑星へ戻っていった。 医療室に入るアーチャー。「彼の容態は。」 フロックス:「麻酔から覚めたら少しフラフラするでしょう。でも、手術は成功しました。」 「……命令を聞いてくれてよかった。…ドクターを拘束したくなかったからね?」 「…私もですよ。」 「どうやって説得を?」 「…患者に対する、医者の守秘義務の原則はよく御存知でしょう。…命令とあらば、お話ししますが?」 廊下。 アーチャー:「ドクターも見送りたがっていたが、帰還したクルーの治療にかかりきりでねえ。」 アンタラン:「いいんです。ドクターとは十分な時間を過ごしました。」 「…ザントラスでの調査が短縮されて残念だ。」 「代わりにこの船で多くを学びました。感謝しています。」 「…我々が、デノビュラ人地質学者を助けに来たのは御存知かな?」 「聞いてます。」 「3人は君らの船で、母星に戻る。構わないね?」 「私が船に乗ると彼らに伝えたのですか。」 「伝えてある。」 「3人の反応は。」 「君がよければ、是非にと。」 うなずくアンタラン。エアロックのドアを開けるアーチャー。 アンタランは入っていった。 異星人輸送船とエンタープライズは、それぞれ別の方へ向かってワープに入った。 暗い医療室で、フロックスの声が聞こえる。「コンピューター、記録スタート。…息子メタスへ。最後の手紙から随分経ってしまった。今回もお前からの返事は期待できないかもしれない。でも…ある出来事があってもう一度、出さずにはいられなかった。古傷をえぐられるような、とても辛い経験だった。でも痛みが増すに連れ、父さんの中で何かが変わった。どうか、話を聞いてくれ。お前にも何かを感じて欲しいんだ。」 |
※15: 名前は Trevix (Laura Putney) ですが、言及されていません。声:きのしたゆうこ ※16: 吹き替えでは、ここだけなぜか「ザントラン人」 ※17: botyroidal flowstone ※18: Mettus |
感想
過去の戦争の影響に苦しむ 2種族。フロックスという、地球人でもヴァルカン人でもないキャラクターが上手く生かされています。日本人なら、というか全世界のどこの国でも、こういうことは思い当たる節があるでしょうね。スタートレックらしい話です。 ですがサブストーリーがあまりにもお粗末。洞窟をずっと進んで、やたら時間ばかり食って……「はいお疲れさん」としか言えません。第1シーズンの「幻影の戦士」にも似た、視聴者おいてけぼりの印象を受けました。もっともサブですから、今回は救われていますが。「招かれざる訪問者」といい、あの制服が出てくると要注意ですね。 デノビュラ人とアンタラン人。アンタラ人という訳で構わないと思いますが…。 |
第46話 "Horizon" 「兄弟の地平」 | 第48話 "Cogenitor" 「第3の性」 |