タッカーは声をかけた。「おい。…ゾカーン。」
頭を起こすゾカーン。
タッカー:「死んだかと思った。」
ゾカーン:「(どうした? エンタープライズから応答が?)」
「…違う。エンタープライズじゃない。」
「…クソー。」
飲料を飲ませるタッカー。なくなってしまった。「心配ない。エンタープライズに戻ったらフロックスにこれを作ってもらうから。そういうの得意なんだ。」
うめくゾカーン。
タッカー:「しっかりしろ、ゾカーン! (起きろ) 俺の前で死ぬな、いいな。」
アーコニアン式に首を振るタッカー。
同じ仕草を返すゾカーン。「あ、あ…。」
タッカー:「よーし。」
通信機に反応がある。
サトウ:『…エンタープライズ。』
タッカー:「な、だから言ったろ? ホシ! 君か、聞こえるか。」
サトウのそばにいるアーチャー。「ああ、聞こえるぞ?」
タッカー:『ギリギリセーフですよ。かなり、暑くなり始めてる。』
「現在位置は、補足した。」
『シャトルは送らないで下さい。ここの大気の影響でエンジンが止まってしまいます。』
アーチャーの声が聞こえる。『セレンアイソトープだ。だが、転送装置には影響ない。』
タッカー:「独りじゃないんです。」
『わかってる。君を見つけたのはアーコニアンだ。パイロットとは上手くやってるのか?』
「…古い友人のようにね。その友人ですが…脱水症状を起こしてます。」
リードに命じるアーチャー。「待ってろ、トリップ。転送装置用意。」
フロックス:「それはお勧めできません。」
「…問題でも?」
「アーコニアンの生理機能を分析しました。彼らの、内分泌機能は温度の変化に非常に敏感です。パイロットが脱水症状であるなら、急性の細胞崩壊が起こっているはずです。」
「つまり?」
「転送すれば、彼の命はありません。」
再び通信が入る。『アーチャーからタッカー少佐。』
タッカー:「聞こえてます、船長。」
『トリップ、君を船に戻すことはできるが、アーコニアンの転送は無理だ。命に危険が及ぶそうだ。すぐに救出する方法を探すが、その前に…君を転送する。』
タッカーは拒否した。『嫌です。彼を残してはいけない。』
トゥポル:「月面の温度は急速に上昇しています。恐らく、一時間後には 130度に達するはずです。」
アーチャー:「戻ってこい、トリップ。そのあと君の友人も連れ戻す。」
受け入れないタッカー。「すみませんがそれはできません。ほかにも手はあるはずだ。…我々のシャトルは無理ですが、アーコニアンのシャトルの回路構成は我々とは違いました。改造の余地があります。」
アーチャーは尋ねた。「というと?」
『吸気マニフォルドを見てもらって下さい。そこを手直しできれば、アイソトープを排除できます。』
「話してみよう。だがそう長くは待たせないぞ?」
応えるタッカー。「…了解。」
アーチャー:『以上だ。』 通信は終わった。
気を失ったままのゾカーン。
完全に姿を見せた太陽。
タッカー:「タッカーからエンタープライズ。…エンタープライズ、応答せよ。…リレーのヒューズが飛んだのか。…暑さのせいだ。…おい…ガン・タック!」 水をゾカーンの顔にかける。
目を覚ますゾカーン。
飲み干すタッカー。容器を捨てた。「今後は独りでの、船外任務は禁止だろうな。食事係に任務変更だな。…『オレンジジュースでございます。ジャムとマーマレードはどちらにします。』 だが言っとく、俺は必ずエンタープライズに戻るぞ。…どんなことをしても。」
目の前には壮大な景色が広がっている。
タッカー:「今まで地球じゃ味わえない経験を何度もしてきた。アゴソリアの、大フレア※9も見たし…それから、マータラス※10の 3つの月も見た。」 身体を横にする。「エヴェレストの、2倍の高さの…クレーターに立ったこともある。エシニア※11の氷窟でダイビングもしたし、スリバンの…細胞船※12にも乗った。お姫様と、一晩過ごしたこともある。※13フフ…そういや、妊娠したこともあった。※14」
笑うタッカー。「いろいろあったよ。…あんたもいろいろあったろ、そのためにこの人生を選んだんだ。見たこともないものを見るために。楽しかったよな。…楽しかった。」
ふと目を向けると、空に輝く複数の恒星の方に、船の影が見えた。音が近づく。
タッカー:「ゾカーン。…ヴァドーザ。」
言われた方を見るゾカーン。
アーコニアン船が近づいてくる。
衛星軌道上のアーカニアン軍用船と、エンタープライズ。
作戦室でドアチャイムに応えるアーチャー。「入れ。」
シャーとトゥポルがやってきた。
アーチャー:「ドクターから報告があった。パイロットの経過は順調だ。数時間後には母星に帰れる。」
シャー:「…お前の部下は。」
「うん、疲労と多少の火傷だけで、大したことはない。」
「うちのパイロットがお前の部下に、警告なしに攻撃を仕掛けていたとしたら…厳重に罰する。」
「…誤解が原因だ。今後は避けられることを、祈ってる。」
「すぐに我々の星系から立ち去って欲しい、約束通り。」
うなずくアーチャー。
シャーはトゥポルを見た。ドアを開けるトゥポル。
外では保安部員が待っている。出ていくシャー。
アーチャー:「アーコニアンは友人のリストには加えられそうにないな。」
トゥポル:「この遭遇は予想外の成功と言えます。」
笑うアーチャー。
しかしトゥポルは続けた。「ヴァルカン人が一世紀かけて築いた関係より、中身の濃い関係を築けました。」
アーチャー:「…続くことを祈ろう。」
医療室に入るタッカー。「彼の具合は。」
フロックス:「…ご自分で聞いては? 翻訳機は機能しています。」
タッカーには、まだ火傷の跡が残っている。「俺たち、あと 10分日光に晒されてたら、丸焦げだった。」
ゾカーン:「タラット・アーシュ※15。」
フロックスに言うタッカー。「…翻訳機ダメだぞ?」
ゾカーン:「ここに来たらくれるって言ったろう、タラット・アーシュを。」
「ああ、あれか。茶色い飲み物。」
首を振るゾカーン。
タッカー:「すぐ用意する。…ほかにいる物はあるか。今シェフが作ってる。チキンマサラは絶品だ。」
ゾカーン:「タラット・アーシュ。」
言葉を合わせるタッカー。「タラット・アーシュ。…わかった。」
ゾカーンはタッカーを呼び止めた。「トリップ。…お前の船に発砲した時……破壊しなくてよかった。」
タッカー:「…俺も同感だよ。」 うなずき、出ていく。
エンタープライズとアーコニアン船は衛星を去り、それぞれ別の方へ向かった。
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※9: Great Plume of Agosoria ENT第11話 "Cold Front" 「時を見つめる男」より
※10: マーテラス Matalas ENT第13話 "Dear Doctor" 「遥かなる友へ」で言及。原語では「マータラス・プライムの連なる衛星」
※11: Etheenia
※12: ENT第2話 "Broken Bow, Part II" 「夢への旅立ち(後編)」など
※13: ENT第37話 "Precious Cargo" 「眠る女の謎」より
※14: ENT第5話 "Unexpected" 「予期せぬ侵入者」より
※15: taratt-aash
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