イントロダクション
※1クワークの店にオドーがやってきた。いつものように座っているモーンに話しかける。 「モーン。もし手が空いてなら、第3貨物室に置いてあるリヴァニアン・ビーツ※2を…何とかしてもらえると本当にありがたいんだがな。2週間以上も置きっぱなしだ。そろそろ腐り始めてる。」 応えないモーン。「…モーン。」 オドーが手を触れようとすると、モーンの体を突き抜けた。映像が揺らめく。 クワーク:「そいつはホログラムだよ。モーンはビジネスで 2週間前から出かけてる。うっかりしてたな、オドー。それぐらい、とっくに気づいてなきゃな。」 オドー:「それでモーンの代わりにホログラムを座らせたのか。なぜだ。」 オブライエンたちがやってきた。「こんばんは。」 ベシア:「やあ、モーン。」 クワーク:「ほらね、愛されてんだ。あいつはうちのマスコットだ。客はみんなモーンがいるもんだと思ってるのさ。いなきゃ何となく落ちつかない。」 オドー:「いないと商売上がったりか。」 「前回あいつがいない時、うちの売上は 5%近くも落ちこんでねえ。」 「ああ…。なら何で話をさせない。」 「おい、対話型のホログラムプロジェクターが、いくらするか考えたことあるのか? それに…これならモーンがしゃべるのを聞かずに済むだろ。モーンはな、しゃべると止まらない。何ならこいつにいてもらおうか。」 「今の話をモーンが聞いたら、さぞ傷つくだろうな。」 やってきたダックスが驚く。「…モーン!」 オドー:「いや、ただのホログラムだ。」 クワーク:「幽霊でも見たようっすね。」 シスコも入る。「消すんだ。」 「何で?」 「今連絡があった。モーンの貨物船がイオンストームに巻き込まれた。」 ベシア:「大丈夫か?」 オブライエン:「救助されたのか?」 ダックス:「…死んだの。」 うろたえるクワーク。 |
※1: このエピソードは、1998年度エミー賞のメーキャップ賞にノミネートされました ※2: Livanian beet |
本編
ボトルを持っているベシア。「何か持ってきた?」 オブライエン:「ん?」 「モーンの葬式にだ。」 「持ってこなきゃまずいか。」 「ルリアン※3の習慣じゃ、食べ物や飲み物を持ってくる。死後の世界で腹を空かせないようにだ。」 「ああ…それじゃクワークのバーで買おう。あの体で腹が減っちゃ辛い。」 ダックスと歩いているウォーフ。「モーンはいいスパーリングの相手だった。これからホロスイートの戦闘が寂しくなる。」 ダックス:「ほんとに死んだなんて信じられない。」 「こんなに大事だった友達とは。」 「昔、あの人好きだったことがある。」 「モーンをか?」 「あなたに会う前よ! それにモーンは気にしてなかった。」 「気にしてなかったってどういうことだ。」 「ねえ、この話やめましょう…」 キラはオドーと一緒にいる。「栓抜き持ってきたの?」 オドー:「ええ…モーンにね。いるんじゃないでしょうか。」 「さすがね。」 カウンターに、たくさんの食べ物などが並べられている。モーンの絵も飾られている。 部下のフェレンギ人たちに話しているクワーク。「こりゃほんとに驚いたな。こんなに大勢やって来た。もし手ぶらの奴を見かけたら、イリディアン・エール※4を売りつけろ。モーンが大好きだったって言うんだ。」 その場を離れるフェレンギたち。 ベシアたちがやってくる。「あんた、ほんとにいい人だな。」 オブライエン:「きっとモーンも喜んでると思うよ。」 クワーク:「ああ…せめて葬式ぐらい。寂しいよ…全く。」 「何かおごらせてくれ。」 「普段だったら…仕事中は飲まないけど、イリディアン・エールでもね。モーンが好きだった。」 「ああ。それはいい。」 クワークが差し出すパッドに触れるオブライエン。「うん。」 2人は歩いて行く。 会話を聞いていたオドーに言うクワーク。「何見てるんだよ。」 オドー:「大したもんだ、心温まる死者への手向けだな。」 「何言ってんだ。モーンは今月の支払いを残して死んじまったんだぞ。」 「ああ…全くモーンも仕方のない奴だな。」 「それがまたかなりの額ときてるんだ。あいつはよく食ったからな。胃袋が 2つあったろ※5。食ってるとこ見たか? 痛快だったな。」 「まあ、失って初めて…そのありがたさを知るってこともよくあるからな。」 「いろいろ余計な心配してくれてすまないねえ。」 「自分でも心配しろ。マスコットがいなくなったんだ。ビジネスの痛手だろ?」 「どうかな。何とかしてみせるさ。」 ウォーフたちも入る。「ジャッジア。」 ダックス:「やめてって言ってるでしょ?」 クワークは話し始めた。「皆さん! よく集まって下さいました。……モーンはこんなにも大勢の方から愛されていたのです。私も好きでした。…モーンが初めて来た日のことは忘れない。座ったのはそう…その椅子だ。……あれは確か…10年近く前だ。まだ髪もあったよ。…私は単に、客がやって来た。そう思ってた。まさかみんなにとって、これほど大事な存在になるとは…思ってもみなかったがね。モーンの明るい笑顔や楽しい会話を、みんないつも…楽しみにしていたよな。ここがもう同じ店に思えないかもしれない。だろ? …その通りだ! でもここはモーンの家なんだ。あいつはどこにいようと、自分の大好きだったバーの中に今も…みんなの笑い声が響くことを望んでいるよ、きっと。これはモーンの椅子だ。私たちが彼のためにできるのは、この椅子を決して空けておかないことなんだ。」 クワークは近くに立っていたベイジョー人※6を、椅子に座らせた。「頼むよ、あっためてくれ。」 手を叩くクワーク。観衆も拍手する。 キラ:「彼には時々…本当に驚かされる。」 オドー:「私もです。」 ダボガールに抱かれて涙をふいているクワークのところに、シスコがやってきた。「悪いんだが、クワーク。」 クワーク:「今はちょっと。」 「邪魔をしてすまない。モーンの遺言を開いてね。そのことなんだ。…全てを君に残した。」 「俺に? モーンが全ての遺産を…俺に?」 「その通りだ。」 「モーン…。何て奴だ、モーン! おお…。」 出ていくシスコ。 保安室。 パッドをもつオドー。「モーンの奴、お前がほんとに気遣ってると信じてた。」 クワーク:「してたよ。夕べ何時間もあいつのこと考えた。」 「遺産の額でも勘定してたんだろ?」 「俺はあいつとはずーっと一緒にいた。だから知らないうちに心が通ってたのさ。」 「…これがモーンの資産の記録だ。」 パッドを渡す。 確認するクワーク。「…おい、冗談だろ!」 「どうしてだ。」 「こりゃ破産してるよ。」 「そうか。」 「何かの間違いだ! 毎月きっちり支払いはしてた。どっかに財産を隠してるんだよ。」 「奴は物を仕入れるのが仕事だったんじゃないか? ひょっとしたら全財産は買い付けに使って…商品になってる。」 「そりゃ言えてるな。商品だな。」 クワークはオドーと共に貨物室に入った。「荷は全部引き取るぞ。そいつを売っ払って…プー、何の臭いだ?」 オドーは貨物のふたを開けた。「モーンの遺産だ。リヴァニアン・ビーツ。熟成してる。」 中から臭気が立ち上る。 クワーク:「ほかの荷はどうなってる。」 「ほかの荷もビーツだ。」 全部見て回るクワーク。「これだけか? これで全部か?」 「そのようだな。」 「アーッ!」 笑うオドー。 「あー。」 「ただしモーンの部屋にある物は別だ。もしかしたらありったけのカネを注ぎ込んで…家具とか美術品を買ってるかもしれない。」 「美術品か。」 指を鳴らす。「そうだよ!」 出ていくクワーク。 「美術品か。そうだな。」 あきれるオドー。後を追う。 廊下を歩くクワーク。「オークションを開く。モーンの遺品だったらプレミアがつくぞ。」 オドーは部屋のボタンを押した。中に入るクワーク。部屋の中央に、あぶくを出す液体が入った大きな器がある。 クワーク:「ほんとにこの部屋かよ。」 オドー:「間違いない。」 「美術品ねえ。」 「何だ、ありゃ。」 「あれはマタドールの絵じゃないかな。」 壁に絵が飾られている。 「違う、これだ。」 「モーンのベッドだよ。」 「モーンのベッド? 泥?」 「うん。肌がスベスベになるそうだ。」 オドーは部屋を後にした。 「ありがとよ、モーン。嬉しくて涙が出るよ。」 突然、泥のベッドの中から女性が出てきた。「ああ…。」 「俺の泥の中で何してるんだ?」 「あ、あの…我慢できなくて。モーニーとここで楽しく過ごしたもんだから、忍びこんじゃった。ごめんね、びっくりさせたでしょ。急に人が入ってきたから、慌てて隠れたの。」 「あんた誰だ?」 「ああ、ラレル※7…モーンの妻。元妻ね。」 「モーンが結婚してた? あんたと?」 「とても素敵な 2年だった。きっと…あなたはクワークね。モーニーとは別れてからも時々会ってたの。あの人、しょっちゅうあなたのこと話してた。」 「嬉しいね。」 「こうも言ってた。もしあの人に何かあったら、自分のものは何もかもあなたに譲りたいって。」 「何もかも?」 ベッドから上半身を出すラレル。「何もかも。」 「あんたが来てくれて良かった。何しろモーニーは、ほかに何も残してくれなかった。」 「そんな話信じられない。」 「ああ…俺だって同じだよ、がっかりさ。」 「確かあの人、老後に備えてかなりのものを蓄えてるはずだけど。2人なら…十分楽しくやっていける。」 「あんた込みでこの泥をもらえるなら、そりゃ楽しいだろうねえ。」 「あの人がリセピアン※8の宝くじで当てた、ラチナム入りの金の塊 1,000個のことなんだけど。」 「ラチナムが? 1,000個だって?」 ベッドから足を出すラレル。「ええ、あの人が死んだから、全て私たちのものよ。」 足を触り、笑うクワーク。ラレルも笑う。 |
※3: Lurian モーンの種族は設定上はルリアン (ルリア人) とされていましたが、実際に言及されるのは初めて ※4: Yridian ale イリディアン (イリディア人) は TNG第142・143話 "Birthright, Part I and II" 「バースライト(前後編)」などに登場 ※5: ちなみに心臓も、少なくとも 2つあります (DS9第65話 "Through the Looking Glass" 「鏡の裏のシスコ」より) ※6: この男性は、モーンを演じているマーク・シェパード (Mark Shepherd) 本人です ※7: Larell (Bridget Ann White) 種族名不明 ※8: リセピアン (リセピア人) は DS9第15話 "Progress" 「第五の月“ジェラドー”」に登場 |
クワークは泥ベッドの中にホースを入れ、つながれた機械を作動させた。泥が吸い取られていく。 ラレル:「何してんの?」 クワーク:「決まってんだろ、ラチナムさ。」 「…どこにあるか知ってるんじゃないの?」 「あんたから話を聞くまで、あることも知らなかったよ。」 「……それじゃきっとこのステーションのどこかよ。」 「もう使い切ったかもな。」 「老後の蓄えって言ったでしょ。かわいそうに。きっと使わずじまいよ。だけど私たちは違う。」 クワークの耳を触るラレル。 「魂胆はわかってるぞ。」 「何? 魂胆って。」 「わかってるじゃないか。ラチナムは俺のもんだ。」 「ああ…あの人は全てあなたに残したけど、私は妻だった。もし遺書に意義を申し立てたら、何年も裁判することになるのよ。」 ウー・マックスを続けるラレル。 「かもなあ…。」 「だけど…そんな必要全然ないのよ。ラチナム入りの塊 1,000個、2人にとって十分な量よ。」 「莫大な金額だな。」 「見つけたら 2人で、素敵なバケーションを思う存分楽しみましょ?」 笑うラレル 「モーンもそうしたかったろうな。」 ラレルに顔をうずめるクワーク。 「もちろんそうに決まってる。」 クワークの店。 クワークはダックスとトンゴを楽しんでいる。「ステーション中探したけどラチナムはない。逃げる。弟に内部センサーでスキャンまでさせた。」 ダックス:「だけど絵があったんでしょ?」 「欲しいのは絵じゃない。ラチナムだ。」 「それで幸せになれる? 勝負。」 「もちろんなれるさ。チャンスなんだよ。運が巡ってきた。俺はずーっと待ってたんだ。モーンのカネが欲しいね。モーンのカネがいるんだ。俺にはもらう権利があるからね。」 「あなたの番よ。」 ラチナム 2本を叩き合わせるクワーク。「美しい音だ。それにこの輝き、たまらんねえ。液体のラチナムを価値のない金に染み込ませるなんて※9、一体誰が思いついたのかねえ。」 「きっとお釣りは液体で返すの面倒になった人じゃない? ゲームする気あるの?」 続けるクワーク。「モーンどこに置いたと思う?」 「見つけたらその女と本当に分けるの?」 「裁判にしなければ、10%やることにした。」 「塊 100個よ?」 「ほかにどうすんだよ! 撤退。」 「何となくこの話、何か怪しいと思わない? その女、信じられない。」 「…俺もだ。だけど、俺の耳たぶは気にしないのさ。」 「とにかく気をつけることね。可愛い顔にだまされないで。」 「俺は平気さ。」 「あらそう。私の勝ち。」 ため息をつくクワーク。ダックスは笑い、ラチナムを集める。 モーンの絵を持って部屋に入るクワーク。暗い中に誰かがいる。 クワーク:「ああ…こりゃ嬉しい驚きって奴だ。」 そこにいたのは、異星人の男だった。 クワーク:「コンピューター、明かりだ。」 その男、クリット※10は尋ねた。「なるほど。驚くのは好きか? クワーク。」 「嬉しい時だけな。」 クワークの後ろには、もう一人同じ種族の男がいる。 「俺もそうだが、俺の登場は嬉しいかなあ。」 もう一人のナースク※11が答えた。「ああ、もちろんだとも。」 驚くクワーク。 「よかったよ、これはまさしく…正真正銘の嬉しい驚きだ。」 クワーク:「俺の部屋で何してる。」 ナースク:「お前を待ってた。」 クリット:「俺たちは兄弟でな。昔モーンの仕事仲間だったんだ。」 クワーク:「モーンの葬式に来たんだったら、昨日だったよ。」 ナースク:「いい式だったか?」 「そりゃもう最高さ!」 クリット:「聞くとこじゃ、あんたがモーンの遺産を相続したそうだな。」 「そうだ。」 ナースク:「俺たちはモーンの仕事仲間だったんだ。」 「あちらから聞いたよ。」 クリット:「あいつは…俺たちからカネを借りたまま死んじまったもんで、残った財産から借金を…返してもらいたい。」 「ああ。その借金っていくらなんだ?」 「ああ…金に染み込ませたラチナムの塊で、1,000個ってとこだ。」 「そういうんじゃないかって気がしたよ。」 笑うクリットたち。 クワーク:「借用書を見せろ。じゃなきゃ信用できん。」 クリット:「握手一つで貸した。」 ナースク:「モーンを信用してな。」 「残した借金を綺麗にして欲しい。モーンもきっとそう思ってるはずだ。」 「うん。」 クワーク:「そうかもしれんがな、だけど…どうしようもないこともある。モーンの財産は全部ビジネスに投資されちまってるんだよ。」 クリット:「ちょっと待てよ、それはひょっとして…カネは手元にないってことか?」 ナースク:「そうだとしたらまずいぞう。」 クワーク:「つまり、俺が言いたいのはしばらく時間がかかるってことさ。」 クリット:「ならカネはあるんだな?」 「もちろん。でも権利を主張してるのはあんたたちだけじゃない。」 「何だって?」 「モーンは死んだ時、ビジネスを大きく広げようとしてたんだ。資金的にもちょっと無理してやりくりしてた。その結果残した遺産より、借金が多くてなあ。債務超過ってわけさ。…全部返ってくると思ったら、甘いねえ。」 「どのくらい期待できる。」 「何%か。」 「数字で示してみろ。」 「20パー。」 「80パーは譲れねえ。」 「なら 30パー、それにモーンが仕入れたリヴァニアン・ビーツをつけよう。」 ナースク:「ビーツは嫌いだ。」 クリット:「70%。」 クワーク:「40、それにあんたたち 2人は、とても趣味がいいようだからなあ。こいつを代わりにやろう。モーン秘蔵の最も価値ある一品だ。」 絵を見せる。「見事だろ?」 受け取るナースク。「こいつは大したもんだ!」 クリット:「60以下じゃ話にならねえ。」 クワーク:「40 がギリギリ。」 「50!」 「悪いな。」 ナースクは絵をクワークの頭に叩きつけた。絵は破れ、クワークに額が引っかかる。 クワーク:「…50 にしよう。」 クリット:「いやあ、本当によかった。お互い理解しあえて嬉しいよ。」 「俺もだ。」 笑うクリット。「俺たちはしっかり見てるからな、クワーク。妙な真似するなよ。」 「俺が? するわけないだろ。」 2人は笑う。クリット兄弟は出ていった。 額を取るクワーク。すると絵の中に、小さなチップが入っているのに気づいた。「何だ、こりゃ。」 チップをコンピューターに差す。「コンピューター、こいつは何だ?」 『保管ロッカー 137 の預り証です。ステーションの貨幣検査室にあります。』 「保管ロッカーの預り証だって? ありがとよ、コンピューター。いつも世話になるねえ。」 チップにキスし、飛び上がって喜ぶクワーク。「モーン! 死んじまってもお前を愛してるぜえ!」 |
※9: この "gold-pressed latinum" (直訳すれば「金封入ラチナム) という言葉は過去のエピソードでも使われていましたが、具体的にどのような構造になっているかは初めて言及されました。gold-pressed latinum は、このエピソードでは「ラチナム入りの金」「金に染み込ませたラチナム」などと訳されています ※10: Krit (ブラッド・グリーンクイスト Brad Greenquist VOY第52話 "Warlord" 「暴君の星」のデマス (Demmas)、ENT第39話 "Dawn" 「熱き夜明け」のカターン・シャー (Khata'n Zshaar)、第91話 "Affliction" 「クリンゴンの苦境」の異星人その1 (Alien #1) 役) 名前は後に言及されますが、訳出されていません ※11: Nahsk (Cyril O'Reilly) クリットと同様、種族名不明 |
オドーと話しているクワーク。「ここで開けなきゃならないって、どういうことだよ。」 オドー:「規則だよ。死亡した者の保管ロッカーを開ける時はステーションの保安部の立ち会いが必要だ。」 「そんな規則あるもんか! お前が中を見たいだけだろ、見えみえだ。なら教えてやるよ。台車にてんこもりのラチナムの塊、1,000個さ。どうだ、驚いたか?」 笑うオドー。保安部員が、小さな箱を持ってきた。 オドー:「ほら、来たぞ。ありがとう。」 クワーク:「間違いだろ?」 「これが保管ロッカー 137 だ。」 「…まあ…小さいほど喜びはでかいのかもな。」 中を開けると、金色のラチナムの塊が一つだけ入っていた。 オドー:「ふーん。モーンが残したお前んとこのツケには足りるか?」 クワーク:「……足りるよ…こりゃ見本だ、ほかにもある。」 「なぜそんなことわかる。」 「見てみろ。」 塊をオドーに渡すクワーク。「裏っ側だ! モーンの筆跡だろ?」 「『残りはボリアス銀行※12にある。』」 「口座番号、CJ 5-7-4-3-6。」 「フン、そんなものモーンの資産記録になかったぞ。」 「知らんね。」 ラチナムを受け取るクワーク。「じゃ、失礼するよ。早速銀行に連絡して、受け取ろう。モーンの遺産のラチナムを、相続人に渡してくれってな。」 保安室を出ていく。 廊下を歩くクワーク。懐に入れているラチナムを確認する。 「ラレル。」 通路を曲がったところに、ラレルがいた。「あちこち探し回ったのよ。」 「ちょっと忙しくてな。」 「忙しくても探し物をする時間はあるでしょ?」 「実はな、今のとこあんまり芳しくない。」 「じゃ、もっと意欲を高めてあげる。」 クワークに近づくラレル。 「うう、俺は意欲満々さ、ただ場所を探すのに…ちょっとばかし時間がかかってる、それだけだよ。ああ…いい考えがある。とりあえずうちに帰って、待ってたらどうかな。例の物を見つけたら、真っ先に連絡するよ。」 「待つんならここで待つわ。あなたと。」 ラレルはクワークの耳を触り始める。 「ああ…今、ウー・マックスしてる時じゃない。」 「なぜ? 嫌いなの?」 「ああ、そうじゃないんだが…つまりその…もし、例の物を早く見つければ、それだけ早く……二人でバケーションに出かけられる。」 「うーん、あなたって働き者。男は楽しみを後回しにしないものよ。」 「特にあんたが相手じゃな。」 ラレルの手にキスするクワーク。2人は別れた。 微笑むラレル。 上機嫌のクワークは、廊下ですれ違う者に挨拶する。「やあ、おはよう!」 ターボリフトに乗る。「レベル17 だ。」 ため息をつく。ふと懐を触ると、ラチナムがないことに気づいた。「やられた! まあいい。銀行からカネを受け取れるのは俺だけだ。ああ。CJ 5-7-4-3-6。CJ 5-7-4…」 ターボリフトから降りようとすると、クリットとナースクが中に連れ戻した。 クワーク:「ああ…降ろしてくれよ!」 クリット:「何急いでる?」 「ああ…」 「俺の兄弟がお前に話があるそうだ。」 ナースク:「…悪かったな。……絵のことだ。」 「ひどく落ちこんでる。」 クワーク:「気にするなって!」 逃げようとするクワークを押さえるクリット。「快く許してくれたのはありがたいがね。」 「いいんだよ。」 「あいつは自分を抑えることが下手でね。」 ナースク:「ついカッとしちまって。」 「思い通りにならないとやっちまうんだ。」 クワーク:「そうみたいだな。」 「でもまだ、ことが俺たちの思い通りになってないってことは、わかってるな…クワーク。」 「ああ、わかってるとも。」 ナースク:「抑えられない自分が怖い。」 「大丈夫だ。すぐあんたたちの思い通りになるって。」 クリット:「そうなると思ってたよ。」 解放されるクワーク。「連絡するよ。」 出ていくクワークの腕をつかむナースク。「絵のことは本当に悪かったな。」 クワークは自室に戻った。リズムをつけて口ずさむ。「CJ 5-7-4-3-6。CJ 5-7-4-3-6。」 コンピューターにアクセスする。「ボリアス銀行を。」 クワークの背中に銃が突きつけられた。「引き出しか? クワーク。当ててみよう。ラチナム入りの塊、1,000個。」 後ろに立っていた男、ヘイン※13は言った。 |
※12: Bank of Bolias ※13: Hain (グレゴリー・イッツェン Gregory Itzin DS9第8話 "Dax" 「共生結合体生物“トリル族”」のアイロン・タンドロ (Ilon Tandro)、VOY第151話 "Critical Care" 「正義のドクター・スピリット」のドクター・ダイセク (Dr. Dysek)、ENT第15話 "Shadows of P'Jem" 「恩讐を越えて」のソペク船長 (Captain Sopek)、第95話 "In a Mirror, Darkly, Part II" 「暗黒の地球帝国(後編)」のブラック提督 (Admiral Black) 役) |
へインは命じた。「手を頭につけろ。」 言われた通りにするクワーク。 「こっちを向け。」 クワーク:「わかった、いくら欲しいんだ? 1,000個全部よこせなんて言うな、もう半分以上もってかれるんだ。」 「贈賄未遂だぞ、2年余計にぶち込まれる。」 「何言ってんだ?」 「行くぞ!」 「行く? どこ。あんた誰だ。」 「ルリアンの保安部だ。命令によりお前を逮捕して連行する。」 「ああ。」 「このステーションの保安部の許可が下り次第、すぐに出発だ。」 「容疑は? 俺が何したってんだ?」 「政府の財産を奪おうとした。」 「政府の財産?」 「ラチナム入りの塊 1,000個だ。」 「ちょっと待て! あの塊はモーンが、宝くじで当てたんだ。」 首を振るヘイン。 「だろ?」 「あれはルリアン王室から贈られた遺産だよ。」 「ああ…何でルリアン王室がモーンにあんなカネ贈ったんだよ。」 「あの方は王子だった。」 「モーンが? 王子だって?」 「知らなかったのか?」 「モーンが王子?」 「そうだ、その通り。」 「モーンが王子だって…」 「ああ。だが即位を前に王位を放棄した。」 「やっぱりあいつは馬鹿だな。」 「あのラチナムは王室を去るときに贈られた物だ。あの方が亡くなられたからには、王室に戻される。」 「いや待て。あいつは俺に残したんだ。」 「その遺書は既に無効になってる。死亡したら返還するという書類にサインしてある。」 「ああ。」 ため息をつくクワーク。「モーンの元妻に、黙っててくれないか。せめてウー・マックスを楽しみたい。」 「元妻って?」 「ラレル。」 「来てるのか。」 「うん、さっき会った。」 後ろを向くヘイン。 「どうかしたのか?」 「黙ってろ、考えてる。……いいか、よーく聞けよ。ラレルは何年も王子のラチナムを狙ってきた。あの女は脅迫したり、揺すったりした。王子の死に関わってるかもしれん。」 「俺には優しかったよ。」 「あの女を投獄することを、王室は望んでいらっしゃる。お前があの女の逮捕に協力するなら、褒美も考えられる。」 「何をすりゃいいんだ?」 「今度会うのはいつだ。」 「どうせ直に現れる。ラレルじゃなきゃ、怪しい兄弟。」 「兄弟?」 「モーンの仕事仲間だって。モーンに借したカネを返せって言ってたが、どうも怪しいもんだ。」 「…誰かは知らないが心配するな。決して王室にもラチナムにも手出しはさせない。」 「俺にも、俺がもらう褒美にも手出しはさせん。」 「話は決まりだな。」 「ああ。」 「そいつらを捕まえるには、ラチナムに手を出した現行犯じゃなきゃ。…銀行に言え、ラチナムをここへ届けさせろ。」 「それから?」 「離れてろ、後は私がやる。」 部屋を出ていくヘイン。クワークは再びコンピューターでアクセスする。 モーンの絵が飾られたままのカウンターにつき、オブライエンが作業をしている。 ベシアがやってきた。「何してる。」 「光電子リレーを修理してんだ。」 「ラボでやればいいだろ。」 「モーンの椅子を温めてるんだ。」 「ああ、いい奴だ。…クワークは? あいつのテラミン・ビール※14でも飲みたいのにな。」 「ああ、ほかのもので我慢しろ。奥にいる。ブロイク※15が言ってたけど、店へ出て来ないそうだ。」 「ああ、モーンが死んでほんとにショックだったんだろう。」 「ああ、好きだったんだな。さて…こいつのテストしなきゃ。」 立ちあがるオブライエン。 「僕が座ろう。」 「ああ、よろしく。」 椅子に座り、ため息をつくベシア。 クワークの部屋。 戻ってきたクワークは、とりあえず尋ねてみた。「誰かいるか?」 ラレルが奥から出てくる。「ハイ。」 「やっぱりあんたか。」 「助けて欲しいの、クワーク。誰かにつけられてる。」 「誰だ。」 「あの…2人の男。」 「兄弟か?」 「…そんなのわからない。」 ドアチャイムが鳴った。 クワーク:「そいつらかな?」 ラレル:「だめ、出ないで!」 「心配するな、出る気はない。」 機械の音が響く。 クワーク:「ロックを解除しようとしてるな、ありゃ。こっちだ。」 ラレルを隠す。「コンピューター、部屋を暗くしろ。」 解除される音。「やっぱもっといいロック買わなきゃな。」 クリットたちが入る。クワークはラレルにその場へいるように指示し、姿を見せた。「お二人さん。」 クリット:「クワーク、あちこちお前のことを探したんだぞう。」 クワーク:「ラチナムなら明日到着する。」 出ていこうとするクワークを止めるクリット。「そいつはいい知らせだな。心配してたんだ。」 またチャイムが鳴った。「誰か来るのか?」 クワーク:「ふいの客じゃないか?」 「出るんじゃない。」 また機械音。 クワーク:「どっちみち入ってくると思うけど?」 ナースク:「もっといいロックを買うんだな。」 クリット:「誰だろうと、追い返すんだ。俺たちはそこにいる。」 ラレルがいる所を指す。 クワーク:「ああ…そっちの方がいいかな。落ちつくよ。」 うなずくナースクたち。「なら奥にいるぞ。」 ヘインがドアを開けた。「どうして出ない。」 背伸びするクワーク。「うーん。ああ…疲れてちょっと眠っちまってねえ。」 「話がある。」 「話って何だよ。どんなことだ?」 「大丈夫か?」 「ああ…なぜそんなことを聞く?」 「さっきから首を動かしてるから。」 クリットたちが出てきた。「見てみろ、とんだ客が来たもんだ。」 クワーク:「あんたのおかげで王室も枕を高くして眠れるなあ。」 「王室だとお?」 笑うクリットたち。「こいつにどんなでたらめを吹き込んだんだ? ヘイン。」 ヘイン:「いつものな。」 クワーク:「知り合いなのか?」 「かなりのな。」 クリット:「もう 9年になるかなあ。」 ナースク:「ハハ、そうだ。きっと 9年になるなあ。」 ヘイン:「相変わらずトロいところは変わらんな。」 ヘインに向かってくるナースク。ヘインも武器を取り出す。 ラレルが出てきた。「やめなさい、ヘイン。」 ナースク:「おい! ラレルだよ。」 クリット:「確かにそのようだ。」 クワーク:「どうなってんだ、これ?」 ラレル:「つまり…ちょっとした同窓会ね。昔の仕事仲間の。モーンもね。」 「なるほど、そうか。モーンは王子じゃないんだな?」 笑うヘイン。 ラレル:「そ。」 クワーク:「そしてあんたも保安部じゃない。」 首を振るヘイン。笑うナースクたち。 クワーク:「で、あんたも元妻じゃない。」 首を振るラレル。 クワーク:「頼む、ラチナムもなかったなんて言うなよ。」 ヘイン:「いや、モーンはラチナムをもってた。」 「それだけはほんとか。」 「リセピアンの母の日強盗※16って聞いたことは?」 「知ってるとも。世間のみんなが祝ってる隙に、誰かが中央銀行※17に押し入って……ラチナム入り金の塊 1,000個を強奪した。フン。」 笑うナースク。 クワーク:「ちょっと待てよ。あんたたち 4人がその強盗働いたって言うのかよう。」 ナースク:「俺たち 5人だ。」 ヘイン:「モーンも手伝った。」 クリット:「だがあいつはラチナムを持ち逃げしやがった。」 クワーク:「何で今までほっといたんだ?」 ヘイン:「あいつが隠してるのはわかってたから、ゆっくり時効がくるのを待つことにした。」 ラレル:「それが 2週間前に過ぎた。」 ナースク:「俺たちはもう逮捕されないわけさ。」 「で、ここに来たの。ラチナムが届いたら、多分…私たちみんなでそれを分けることにして、後はさよならね。」 クワーク:「みんなで山分けか。」 銃を向けるクリット。「お前は違う。俺たちだ。」 ヘイン:「確かにこいつはもういらない。」 クワークをつかむ。 |
※14: Til'amin froth TNG第170話 "Eye of the Beholder" 「謎の幻覚テレパシー」でも言及 ※15: Broik ※16: Lissepian Mother's Day Heist ※17: リセピア中央銀行 Cantral Bank of Lissepia |
ラレルは尋ねた。「ならこの人どうする?」 クリット:「事故に見せかけて始末しよう。あれこれ人に聞かれると面倒だ。」 ナースク:「うん。」 クワーク:「ちょっと待ってくれよ! 俺を殺しちゃまずいだろ。ラチナムを受け取れるのは俺だけだ。親指の指紋がいる。」 「じっとしてろよ、大して痛かねえ。」 ナイフを取り出すナースク。 おびえるクワーク。「アー! アー!」 ヘイン:「おいおい、ちょっと待て!」 「アー! アー!」 「どうするつもりだ、ナースク。血だらけの親指ぶら下げて、ラチナム受け取りに来たって言うのか? 連れて行こう。」 ナースクはクリットになだめられ、ナイフを収めた。 ヘイン:「…残る問題は一つ。ラチナムを受け取ったらどうする?」 クワーク:「…ラチナムを、仲良く分けて、5等分はどう? 元々モーンが生きてりゃ、その予定だったろ?」 ラレル:「言えてる。」 「俺をモーンと思ってくれ、自分でもゾッとするがな。」 ナースク:「そんなのあるか、俺たちが奪った。こいつは関係ない。」 「そりゃそうだが、今は俺が必要だろ?」 ヘイン:「ラチナム入りの塊 1,000個を 5等分か…。…どう思う。」 クリット:「それでもまだ大した額だ。」 ナースク:「一人あたま…250個ずつってことだ。」 いちいち訂正しないヘインやラレル。 クワーク:「なら、決まりだな。」 ヘイン:「……いいだろう。」 「よし。ボリアンの船は、明日の 16時に到着する。貨物室で会おう。」 「到着まで一緒にいるんだ。」 「俺も?」 「信用はしてない。ほかの連中もみんなだ。」 「気持ちはわかる。でも、俺には店があるんだ。」 「……わかった。」 乾杯するヘインたち。「あんたのもてなしに。」 クワーク:「いや、いいってことよ。」 ラレル:「モーンは、このバーが好きだったの?」 「あそこが指定席だ。」 ナースク:「あまり利口とは言えないな。ドアに背中を向けてるぞ。」 「人を信用するタイプさ。」 ヘイン:「ところで誰が殺した。」 クリット:「俺たちじゃねえ。」 ラレル:「私も違う。」 クワーク:「俺を見るなよ。」 ヘイン:「ならほんとの事故か。」 笑う。 ラレル:「可哀想なモーニー。昔からついてない。」 オドーが入る。 ヘインはクワークにささやいた。「追い返せ。」 オドーに近づくクワーク。「閉店した。」 オドー:「こんなに早くか。」 「…モーンの友達だ。みんなで、あいつを偲んでる。」 「なるほどね。…で、いつまで店を閉めとくつもりだ。」 「店を開けるのは明日の 16時頃になるかなあ。…いろいろ偲ぶことがあってね。」 「なるほどね。」 クワークの店を出ていくオドー。 「何だったっけ?」 貨物室。 クワークたちが中央の貨物に気づいた。「ついてるぞ、時間通りだ。ああ…俺宛てだと思うけど。」 ベイジョー人のパッドに指紋を押すクワーク。彼らは出ていった。 ヘイン:「早く開けろ。」 クワークは貨物のボタンを押す。中を見て驚くクワークとラレル。他の者も覗き込む。 そこにはラチナムの塊が、山のように積まれていた。 クワーク:「ああ…俺が数えよう。」 中に入るようにして覗く。 その時クワークの後ろでは、4人が互いに銃を向け合っていた。 起き上がったクワークは、その真ん中に立ってしまう。「わかった。お前らが数えろ。」 クリット:「銃を下ろせ、ヘイン。俺の兄弟はトロくても、その引き金を引いたら、お前を殺すぞ。」 ナースク:「俺はトロくなんかねえ。」 クリットに武器を向ける。 「ナースク。…何をやってるんだ。」 慌ててヘインとラレルが銃を向け合う。「俺たちは家族だ、よせ。銃を下ろすんだ。」 ついに撃ち合いが始まった。クワークはラチナムの貨物の中に逃げ込む。ふたが閉まった。発射音が響く。 クワーク:「やれやれ、みんなで殺し合ってくれ。」 ラチナムに手を触れようとした時、クワークの目の前を武器が突き抜けた。「ああ!」 オドーの声が聞こえる。「保安部だ、銃を捨てろ! これが最後の警告だ、銃を捨てるんだ。」 ラレル:「わかったわよ!」 銃を拾うオドー。部下に指示する。「女は拘留室へ連れてけ。ほかの者は医療室へ運べ。」 オドーは貨物を開け、クワークが縮こまっているのを見た。「ああ、ここにいたか。」 クワーク:「みんな消えた?」 「これから先は、独りでモーンを偲ぶんだな。お友達は全員刑務所行きだ。」 「どれぐらい入る?」 「暴行と、殺人未遂だ。長いだろうな。」 「なら、こりゃ俺のもんだ。全部俺のだ! 今からいいものを聴かせてやろう。この銀河中で何より美しい、妙なる響きだ。」 2つのラチナムを叩き合わせるクワーク。だが鈍った音が響いた。そして塊は、もろくも崩れた。「何だ、どうなってんだ? こいつにはラチナムが入ってないぞ!」 「何?」 「もう誰かがラチナムを抽出したカスじゃねーか! こいつは価値のない、ただの金だ!」 「よかったな、全部お前のだ。」 笑い、去るオドー。 クワークは単なる金の塊を壊していく。「ああ…そんな! 嘘だー! クソー!」 クワークの店。 店の掃除をしているクワークは、モーンの椅子におもむろに近づいた。それを無理やり取ろうと奮闘する。 オドーが入る。「クワーク。クワーク!」 クワーク:「何だい! …何の用だい。」 「お前に会いたいって奴がいる。」 「…全員刑務所にぶち込んだんじゃないのか?」 「まあいいから座れ。」 オドーに続いてやってきたのは、モーンだった。 クワーク:「モーン。」 オドー:「元気でピンピンしてる。死んだというのは狂言だったようだが、事情は本人の口から聞いてくれ。」 店を出ていく。 クワークはモーンに言う。「それで?」 口を開こうとしたモーンを制した。「待て! 俺は何も聞きたかない。いいか、一言もだ! 俺をハメやがって。…俺にラチナムを残したのは、どんなことをしても手に入れると思ったからだな。俺なら 4人が仲間割れを起こすまで、適当にごまかせると考えたんだろう。何もかもお前が仕組んだことで、俺にあいつらを追っ払わせようとした。」 うなずくモーン。 「俺は殺されかけた。」 目をそらすモーン。 「…俺たちはずっと友達だと思ってた。そうだとも、片時も疑わなかった。それなのに、こんなことをやってのけるとはビックリだよう。ただ一つだけ教えてくれ。ラチナムはどうした。」 モーンは周りの様子をうかがい、グラスを手に取った。それを口のところにもっていく。モーンの体から変な音がしたかと思うと、口から液体が出てきた。 指を鳴らすクワーク。「そうだったか! 第2 の胃があったな。…2つ目の胃袋にこの何年もずーっと隠してきたのか。」 モーンはうなずいた。 「大量のラチナムだ、髪が抜け落ちるわけだ。」 グラスを差し出すモーン。 「俺にか? これならきっとあの塊で 100個分はあるぞ。何て言ったらいいか、ありがとよ、遠慮なくもらうぞ、あんな目に遭ったんだ。ハ、また俺をハメたくなったら好きにしてくれ。」 笑うクワーク。「そうだ、2人で新しいビジネスを始めないか? 俺たちみたいな実業家が組めば、大成功は間違いなしだ。」 モーンに酒を注ぐクワーク。「まずあの金のクズはどうかな? ただ無駄にしちゃもったいない。金をありがたがってる原始的な文化もあるって聞いたぞ……」 |
感想
掛詞でもあり、TOS の "Who Mourns for Adonais?" 「神との対決」にも似た原題をもつエピソードです。邦題も意図に沿っていて、とても興味をそそられる上手いタイトルですね。 エキストラであるモーンを中心に、しかも彼自身は登場せずに進むというコメディタッチの作品で、意外に多いかもしれない「モーニー」のファンにはたまりません。愚鈍そうなモーンが、実は銀行強盗の一味で、しかも今回の作戦を思いついて見事に成功させたとは…。まさに痛快です。 うまいなあと思うのが、やはりセリフ回しですね (ナースクが特に)。複数の胃袋や液体ラチナムといった前振りが、しっかり後で効果的に使われてるのも良いです。 |
第135話 "Waltz" 「不滅の悪意」 | 第137話 "Far Beyond the Stars" 「夢、遥かなる地にて」 |