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ディープスペースナイン エピソードガイド
第135話「不滅の悪意」
Waltz

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・イントロダクション
※1ワープ航行中のネビュラ級宇宙艦。
『大佐日誌※2、宇宙暦 51408.6。U.S.S.ホンシュウ※3に乗って 2日だが、彼とはまだ顔を合わせていない。彼が完全に回復したというドクターのお墨付きをもらってはいるが、私はそれを恐れている。あるいは彼が普通ではないと思い込みたかったが…デュカットだ。だがその方が彼と会うにはいいだろう。心のどこかで、彼が死ねばよかったとさえ思っていたのかもしれない。だが宇宙艦隊士官としては、あるまじき考え方だ。デュカットは国を失い、娘も失ったのだ。そして心も失いかけている。犯した罪は大きいが、その報いは…もう十分受けているのではないだろうか。』
シスコは拘留室に入り、担当の保安部員と入れ替わった。
デュカット※4は独房の床に座り、瞑想しているようだ。
顔を上げることなく、口を開いた。「大佐がいるとは聞いていた。」 顔を上げ、目を開けるデュカット。「だが、会いに来るのか確信はなかった。」
シスコ:「具合はどうだ。」
「いいですよう。」 立ちあがり、ため息をついてベッドに座る。「ドクターに言わせると、私はめざましい回復力を…見せたそうです。」
「私もそう聞いた。」
「そうか、敵に庇護されているとはゾッとするねえ。…私は戦争犯罪者か。」
「惑星連邦では罪の確定まで無実だ。」
「らしいな。…大佐は私が有罪だと思うか?」
「……君が犯した罪を、全て見たわけじゃない。」
「そんな風にごまかすとは、大佐らしくない。」
「公正でありたいだけだ。戦いが終わるまでは裁判にかけられない。君が特別陪審に出廷するのは、単なる形式だ。」
「そして君は、私を起訴するために証言するんだろう。」
「私はただ、事実を話す。」
「確認してやろうか?」
「いや、結構。」
「そうか。」 うつむくデュカット。
「……今まで言う機会がなかったが、ジヤルのことは本当に残念だった。」
「おかげで、改めてドクター・コックス※5の腕のよさがわかったようだ。」
「私はお悔やみを言いたいとドクターに伝えた。」
「……すまない。その気になったらいつでもジヤルのことを話すよう、ドクターは私を励ましてくれた。…娘の死で、私が一時的におかしくなってからずっとな。ドクターを疑って悪かった。」
「仕方ないさ。」
無言のデュカット。
「…さて、明日の昼には第621宇宙基地※6に到着する。では、罪状認否で。」
出ていこうとするシスコを、デュカットは呼び止めた。「なあ、大佐。…娘のことだが、君はキラ少佐と共に 1年近くジヤルを可愛がってくれたな。そのことはとても感謝している。ありがたいと思っているよ。」
シスコはデュカットに向き直る。「ジヤルは、若くて特別な才能を備えていた。一緒に過ごせて楽しかったよ。ほんのわずかな時間ではあったがね。」
「それが、娘の運命だったんだろう。」
「…何か望みがあれば言ってくれ。」
「ふーん、カナールを一本と、オリオンの使用人の女を一人…都合してもらうかなあ?」
微笑むシスコ。「わかった、手配しておこう。」
突然船が揺れ、警報が鳴り響いた。通信が入る。『戦闘配置につけ。被害対策チーム、レベル 5 の J に急行せよ。』
大きな揺れが続く。


※1: このエピソードは、オドー役レネ・オーバージョノーの監督作品です。担当した全8話のうち、第118話 "Ferengi Love Songs" 「愛の値段」に続いて 7番目となります。参考

※2: 「艦長日誌」と吹き替え

※3: U.S.S. Honshu
ファンサイトでは登録番号は NCC-60205 とされています

※4: ガル・デュカット Gul Dukat
(マーク・アレイモ Marc Alaimo) DS9第130話 "Sacrifice of Angels" 「ディープスペース・ナイン奪還作戦(後編)」以来の登場。声:幹本雄之

※5: Dr. Cox

※6: Starbase 621

・本編
DS9。
キラはオドーと共に司令官室を出た。「情報を確認したわ。今朝 10時半、U.S.S.ホンシュウはカーデシアの駆逐艦に攻撃され、撃沈されました。宇宙艦隊が脱出ポッド 3隻と、シャトルクラフト 1隻から遭難信号を受信してるから、生存者がいるようね。」
宙図を指差すオドー。「信号はこの付近から発信されたようです。ホンシュウが最後に確認されたのはここ。つまりこの近隣星系のどこかに生存者がいるということです。」
オブライエン:「かなり広範囲だなあ。捜索船は何隻出せる?」
「2隻。コンステレーション※7とディファイアント。」
ダックス:「何日もかかるわ。」
キラ:「境界周辺のドミニオンの動きを考えると、一刻の猶予もならないわね。でも…ディファイアントには任務予定が入ってる。」 パッドをウォーフに渡す。「52時間以内にバッドランドの外側のこの集合地点に行く予定になってるわね。惑星連邦の船団を護衛するという任務よ。」
ウォーフ:「ホンシュウが撃沈された座標地点に行くだけで、半日はかかります。」
「バッドランドまで更に半日。でもこの船団は全くの無防備なの。バッドランドではプラズマフィールドに隠れてたから安全だけど、そこから出たらディファイアントなしじゃ無力だわ。」
ベシア:「予定を遅らせたら。大佐が生きてるなら、全力で捜索しなきゃ。」
「私も異議を申し立てたんだけど、指令の変更はなしよ。さあ、大佐たちを捜索する時間は、約1日よ。早速取りかかって!」
ウォーフ:「至急、出発の準備を。」
ターボリフトに向かうウォーフに、キラは言った。「ウォーフ。3万以上の軍勢が護衛を待っていることを忘れないでね。52時間以内よ。一秒の遅れも許されない。いいわね。」
「わかっています。」 ダックス、ベシア、オブライエンと共にターボリフトに乗り、ウォーフは命じた。「ディファイアントへ。」
キラはため息をついた。

洞窟の中で、火が焚かれている。
横になっていたシスコは、目を開けた。
デュカットがいる。「大佐、気がついたかね。」
シスコ:「…デュカット。」
「ああ、命に別状はないが、急激に身体を動かさない方がいいぞう。左半身をプラズマで火傷してるからな。」
「確か拘留室にいたら…船内に非常警報がなって…」
シスコの頭の血をぬぐうデュカット。「攻撃されたんだ。皮肉なことに、カーデシアの駆逐艦にな。」
「機関室に行くつもりで…」
「そこまではかなりあった。通路を 15メートルほど進んだところで、プラズマコンジットが爆発したんだ。脱出指令が出た時、私とマコーネル中尉※8が君を見つけた。」
「マコーネル中尉は?」
「死んだ。2人で君を…シャトルへ運んでいて、爆弾の破片が頭部を直撃した。」
「ほかに生存者は?」
「爆発直前に、脱出ポッドが何隻か飛び立つのを見たが、自分たちが逃げるのに精一杯で、彼らの行方までわからない。その後シャトルのエンジンもショック波でやられて、ここに…不時着した。いったいどこの星なのか、あのシャトルで再び軌道に戻るのは無理だろう。その上、通信システムまでが…壊れた。だが、何とか修復できたようだなあ。我々にできることは、誰かが SOS を拾ってくれるのを待つだけだ。」 近くに通信機が置いてある。
「君はどっちの信号を送ってるんだ。宇宙艦隊か、それともドミニオンかね。ん?」
「一般的な救難信号だよ、大佐。誰かが助けに来たら、歩けない男一人と、囚人一人を発見する。満足だろ?」
「寛大だな。…君が手当てを?」
「腕の骨の大部分が折れてるようだ。医療キットに骨の再生器が入っていたが、医学の心得があまりないのでギプスだけ当てておいたのさ。」
「助かったよ。ありがとう。」
「…2、3週間は十分生き延びられる食料はあるんだが、食料と水をもう少し確保できる場所に移れればな。ここはとても豊かとは言えない星ではあるがねえ、だが焚き火用のまきでも調達してくるよ。食用植物が生えてる可能性も捨てきれない。ちょっと行ってこよう。」
「私を置き去りにできたのに、なぜそうしなかった。」
「そうしたくなかった。1時間で戻るよ。」 出て行くデュカット。

デュカットの隣にいるウェイユン※9。「彼をどうするつもりです?」
デュカット:「大佐とは話すことがあるんだ。」
「例えば。」
「個人的なことだよ。」
「なるほど。君はずっと敵だった相手と、孤独と悲しみを共有しようとしてるのかね。ドクター・コックスが喜ぶだろうねえ。」
「消えてくれ。」
「今こそ彼を殺しておくべきです。」
「その必要はない。こっちに刃向かうような力は今の大佐にはない!」
「殺すべきです。」
「君の命令は受けない!」 ウェイユンにライトを近づける。
「そういう態度はないでしょう。病院であんな醜態をさらしておいて、私と話せるだけでもありがたいと思うんですね。」
「もういい!」
「ああ、そうか。お気に障ったようだ。シスコ大佐はどう思うでしょうねえ、君が毎晩身を丸めて、泣きながら眠っている姿を目にしたら。」
「やめろ!」
「大佐は変わらず君に敬意を表してくれるかなあ? 狂ったように、叫んで…叫んで…叫び続けてドクターが薬で抑えなければならないほどだったと聞いたら、どう思うでしょう!」 笑い続けるウェイユン。
「やめろーー!」
デュカットはフェイザーを撃った。洞窟の壁に向けて。そこにはデュカットしかいなかった。


※7: U.S.S.コンステレーション U.S.S. Constellation
NCC-1974、コンステレーション級の最初の船。DS9第52話 "The Abandoned" 「捨て子の秘密」で言及

※8: Lieutenant McConnell

※9: Weyoun
(ジェフリー・コムズ Jeffrey Combs) DS9第133話 "Statistical Probabilities" 「封じられた最終戦略」以来の登場。声:内田直哉

熱源の上で鍋を温めているデュカット。味を確認し、吐き捨てた。
目を覚ましたシスコ。「それは、朝食かい?」
笑うデュカット。「の、つもりだがね。おはよう。」
「おはよう。外はどんな様子だ。」
「ああ、風はやんだよ。気温も 20度ぐらいまで上がった。私には快適だが、ここの方が涼しいから、君は動かない方がいい。」
「ああ…参ったな。」
「この私は料理をしてるんだぞう?」
「すまない。」
「まあ、私だって料理ぐらいはできるけどな。気分はどうだ?」
「いいよ。」
「そうか、どうなることか、夕べから心配していたんだぞ。」
「夕べから?」
「…覚えてないのか。」
「…今君に言われて、夕べ目を覚ました時、ちょっとふらついたのを思い出したよ。」
「一度吐いたからだ。かなりひどかったんだぞう。」
「迷惑かけたな。」
「大したことないさ。昔もっとひどい現場を掃除した経験がある。あれは副官になり立てのころ、コルネア※10に乗っていた時だったかな。3人の男が爆破された現場の…清掃を命じられたことがあった。それは悲惨なもんだった。ハハ…それから一週間は、眠れなかったよ。」
「話題を変えよう。」
「…選ばれし者は語るか。…ああ、何だよ、シスコ大佐。どんな状況でもユーモアをもたなきゃ。」
「冗談を言うような気分じゃない。」
「そりゃ残念だ。笑いのネタがたくさんあるのに。考えてみろよ。大佐、ほんの数時間前、私は裁判を待つ罪人の身だったんだぞ。そして旧友である君が、私の独房に訪ねてきたところだった。ハ、だが今はどうだ。私は自由で、君の方は怪我を負って動けない身だ。そして我々はドミニオンに助けられる機会に恵まれるかもしれないんだ。」 笑うデュカット。「これが笑わずにいられるか。君も笑い飛ばしたまえ。こんな劇的変化をもたらした宇宙というものを。」
「連邦の船が救助に来て、君を独房に戻したら、大いに笑うよ。」
「ハ、勝手にするがいいさ。」 デュカットは突然、何かに気づいたように外の方を見つめる。
「どうした。」
「…別に。ただの風だろう。」 容器を渡すデュカット。シスコは口にした。「うまいか?」
「味が薄い! 確か、食料パックに塩が入ってた。」
パックから取り出すデュカット。「ところで…船の独房で会った時は、ゆっくりと近況を聞く暇もなかったが、仲間は元気かね? あのステーションをまたディープ・スペース・ナインと呼んでいるんだろう。オドーや、キラ…どうしてる?」
「みんな元気さ。誰も君には会いたがってない。」
「…だろうね。連中とは交流を深める機会もなかった。私を失脚させるのに忙し過ぎててね。」
「胡椒を。…デュカット、私に何か言いたいことがあるんなら、遠慮せずに言え。」
「せめて連中は君にベイジョーに対する私の方針は、寛大なものだったと話すべきだったねえ。」
「チャンスを与えなかったのはウェイユンだったと聞いたが。」
「キラ少佐が私の努力をよくご存知のはずだ。カーデシアとベイジョーの傷を癒すための、努力のことさ。最初から私は過去の過ちを修復し、カーデシアと…ベイジョーの間に新しい関係を築くつもりだったんだ。」
「…胡椒入れてくれないか。」
「ああ。」 ふりかけるデュカット。「どうだ?」
「ましだな。」
「…私を証拠不充分ってことにしてくれるつもりはないのか?」
「私の気持ちが気になるか。」
「誰だって友人にどう思われているか気になるさ。」
「デュカット、君は友人じゃない。命を救ってくれたことは感謝しているが、それとこれとは話が別だ。」
うなずいていたデュカットは、また何か外の方に気をとられる。
「さっきから何を気にしてる、外はほんとに大丈夫なのか。」
「ただの風だよ、何でもない。だが、念のためにもう一度、様子を見てくる。」 ライトを持ち、デュカットは歩いていく。

話しているデュカット。「いや、まだ殺さない。まだだ。」
相手はダマール※11だ。「時間の無駄ですよ。」
「ダマール、それは私の勝手だ。立場をわきまえろ。」
「あなたを軽視しているわけではありません。でもあなたがいなければ戦いに負けて、カーデシアは滅びてしまいます。最期の戦いに勝利するためには、あの男は邪魔になるだけですよ。」
「知りたいのだ、奴が私を尊敬しているか。私はそれに値する。」
「もちろんですとも! シスコはただ言葉で表現するのを拒否しているだけですよ。心の中では密かにあなたを賞賛しているんだ。それで十分でしょう。奴を殺して、決着をつけましょう。」

シスコは何とか体を動かし、食料パックから水を飲んだ。
通信機の裏側の表示。オフラインになっている。シスコは気づかない。

デュカットと向き合うダマール。「ご想像下さい。カーデシアのリーダーが、選ばれし者であるシスコの遺体をもち帰ってベイジョー人に引き渡す姿をねえ。彼らは預言者に見捨てられたと受け取るはずです。シャカール政府は崩壊し、テロック・ノールにおける惑星連邦の立場は、危うくなるでしょう。」
デュカット:「魅惑的な考え方だ。」

食料パックを閉じるシスコ。
何気なく、通信機の「オフライン」表示に気づいた。だが手前にある外側の表示では、オンラインになっている。
シスコは考え、オフラインと書かれている方のカバーを閉じた。

話し続けるデュカット。「いいところを突いているぞ、ダマール。だが時間はたっぷりあるから、焦る必要はない。心配するな、私に対する君の忠誠心はよくわかっているとも。」
デュカットの前には、誰もいない。

シスコは横になり、必死に食料パックを開けようとしていた。戻ってきたデュカットに言う。「水を少しもらいたいんだが。」
「ああ。」 取り出すデュカット。「どうぞ。」
「どうも。ああ、異常はなかったか。」
「ん? ああ…うん、崖から岩が砕け落ちた音だったらしい。」
「通信システムが、どこかおかしいようだ。」
「…ほう。」
「警告音が出てた。再調整した方がいい。」
「チェックしよう。」 表の表示を見るデュカット。「いや、何でもないようだ。ちゃんとオンラインになっている。」
「カバーを開けてみれば、異常がないか診断できるぞ。用心に越したことはない。」
「そうだな。」
デュカットは裏のカバーを開け、通信機を操作した。「ああ。」 カバーを閉じる。「心配ないよ。正常に動いてる。」
「そうか、安心したよ。」


※10: Kornaire
副官=グリン (glinn)

※11: Damar
(ケイシー・ビッグス Casey Biggs) DS9 "Statistical Probabilities" 以来の登場。声:古田信幸

ディファイアント。
「少佐日誌、補足。U.S.S.ホンシュウの生存者を 12名救出。だが、シスコ大佐からは何の連絡もない。捜索打ち切りまで、すでに 12時間を切っている。」

シスコは小さな道具を使い、通信機の修理を試みている。デュカットが戻ってこないか確認しながら、回路をいじる。
だが表示が消えてしまった。
シスコは軽く機械を叩く。すると通信システムはオンラインになり、「救難信号送信中」という表示になった。

ディファイアントのオブライエン。「少佐、救難信号をキャッチしました。」

デュカットの気配を感じ、通信機を元の場所に戻すシスコ。道具を隠し、横になる。
帰ってきたデュカット。「戻ったぞ。いい夢が見られたかな?」
シスコ:「覚えてない。外はまだ夜か。」
「闇夜ばかり続く、こんな暗い星に大佐を連れてきてしまって悪かったな。ここは夜が 18時間以上、昼は 5時間もないんだ。さあ。」 シスコの後ろに布を置いてやるデュカット。
「長居するつもりのようだな。」
「いやあ、そんなつもりはない。今に誰かが救難信号に気づいてくれるはずだ。だが、ここにいる間は、なるべく居心地よくすごす方がいいに決まってるだろ。どうだ?」
「楽だよ、どうも。」
「よし。」
シスコはデュカットが見ていない隙に、まだ手に持っていた道具を隠した。
デュカット:「ああ、悪くないな。うん?」 笑い、焚き火にあたる。「なあ、大佐。こうして君とシャトルの外で過ごすうちにふと思ったんだがねえ、ベイジョー人が我々 2人を見たら混乱するんじゃないかってね。2人で食べ物を分け合い、同じ辛さに耐えてる。連中は何と言うと思うかね? 預言者に選ばれし者と、悪の代表ガル・デュカットが…向かい合って、語り合い、まるで本物の友人のように仲良く過ごしているのを見たら?」
シスコは応えない。
「ああ、そうか。忘れていたよ。私は君に友人とは思われていないんだったな。そうだろ? 大佐。楽にしろよ、ここには誰もいない。我々 2人だけだ。無理強いされることもないし、大佐の言葉を裁く者もいないんだ。だからお互い正直になれる。教えてくれ、本当は…君は私をどう思ってるんだね?」
まだ応えないシスコ。
「私が教えてあげる。」 デュカットのすぐ後ろに、キラがいた。「あんたは悪人で残虐な男よ。もっと早く戦争犯罪者として裁かれて、銃殺刑にされるべきだったのよ!」
無理やり笑みを浮かべるデュカット。「きっと君も、キラ少佐と同じ意見なんだろうな、シスコ大佐。私はベイジョーの前司令官、自己の残虐的欲望を満たすために、何千というベイジョー人を死に至らしめた、最低で邪悪な男だって言いたいんだろう? うん?」
キラ:「もちろん大佐はそう思ってる。それと犠牲者の桁が違うわよ。」
シスコ:「こんな話をしても何の意味もないと思うが。」
デュカットの後ろには誰もいない。「こっちはある。ガル・デュカットの名声と評判は、、ベイジョーの占領が終わってから、中傷され歪められて伝えられたのだ。過去 6年間もなあ。そしられ続けてきたんだよう、宇宙域中の無知で…卑劣な連中にな。私は君が彼らと同じかどうか知りたいんだ。」
シスコ:「占領時に私はいなかった。君が日々闘い続けなければならなかったとこを、私は見てない。私は判断できる立場にない。」
またキラがいる。「大佐の本心じゃない。心ではあんたのことを邪悪で冷酷な殺人鬼だと思ってるのよ。」
デュカット:「お前の意見など聞いていない。」 シスコはデュカットの様子に気づいた。「これ以上私に余計なことを言うんじゃない!」 落ち着きのないデュカット。「……大佐は私に対して心から正直になっていないな。素早い判断を求めたら、君は決断をためらうような男じゃないだろう? 優れた司令官なら、当然のことだよ。さあ、私をどう思うか、正直に答えてもらおうか。本当は確固とした自分の意見をもっているんだろう。」
シスコ:「わかったよ、君の言う通りだ。君への評価は不当だと思う。」 ため息をつくデュカット。「私も君を公平に判断してこなかった。それなりの理由があって、君はベイジョー対してあのような行為に及んだんだろう。」
「ああ、そうさ。全くその通りだ。私にはちゃんとした理由があるんだ。ベイジョーへのあのような残虐行為の一部は、中央司令部からの命令さ。私はベイジョー人に対し、全然違う戦術で攻めるべきだと思っていた。もっと優しい手法でいきたかったが、上官連中に反対されてしまったんだよ!」
「兵士だったら上官の指令を無視できない。」
「その通りだ!」
キラが立っており、馬鹿にした大きな声で笑う。「あんたって、お馬鹿さんねえ!」
デュカット:「俺たちに構うなあ! お前には関係ないだろう!」
「あなたは見下されてるのよ。兵士だったら上官の指令を無視できないなんて、大佐がそんなまずい弁解信じるわけないじゃないの。」
「お前にはもううんざりだよ。」
シスコ:「デュカット。デュカット! 私と話をしたかったんだろ。」
「そうさ! だがキラが、余計な口出しをして私を邪魔する!」 シスコの隣にキラがいる。「いつも邪魔して、私の気持ちを逆なでするんだ!」
「それなら、キラのことは無視しろ。キラ少佐は、ここにはいないんだ。」 キラは微笑み、デュカットを見ながら指を口のところへもってくる。黙るようにと。「そう思えばいい。」

ディファイアントのダックス。「ヒューマノイド型生命体を 2人感知しました。」
ウォーフ:「ブリッジより転送室。」

シスコは言う。「何イライラしてるんだ。話をしているだけだろう。キャンプファイヤーを囲んで、老兵が二人語り合っている。」
キラ:「じっくり拝見させて頂くわ。気を許しちゃだめよ、デュカット。大佐は脱出して、ディープ・スペース・ナインに戻るわ。そして私たちはみんな揃って高笑いすることになってるのよ。あんたをだしにしてね。」 大きな声で笑う。
デュカット:「もう…やめてくれー!」
笑うのをやめないキラ。デュカットは立ち上がり、フェイザーを取り出した。シスコのすぐ横に向けて撃つ。続けて何発も発射するデュカット。キラの笑い声は消えない。

コンソールを操作するオブライエン。「2名ロックしました。」
転送台に、2名の宇宙艦隊士官が転送された。
オブライエン:「…転送室よりブリッジ。生存者が転送されました。女性です。少尉と中尉で、現在ドクターがチェック中。」

ブリッジのダックスはため息をついた。

デュカットはフェイザーを撃つのをやめた。
すると、シスコが隠していた道具に気づいた。シスコも目にしたが、もはや何もしない。
デュカットはそれを手に取った。「おやあ? こんなフォークじゃ、今までさぞ食べにくかっただろうなあ、シスコ大佐。見てくれ、刃が一本欠けてる。なぜだろう。君がやったのか? だが何だってこんな小さな金属片が必要なんだ? ……道具として使ったのかな?」 フォークを投げ捨て、通信機の表示を確認する。「こりゃあご苦労だったな。私が留守の間に、修理したとは。」 フェイザーをまた手にする。「賢い男だ。」
デュカットは銃を通信機に向け、発砲した。破壊される通信機。

モニターの宙図から、表示が消えた。
ダックス:「ウォーフ?」
ウォーフ:「どうした。」
「今別の救難信号を感知したと思ったのに、消えちゃったわ。」

デュカットは棒を手にした。「いいか、シスコ大佐。お互いある程度の信頼関係を築けたと思っていたのに、私が間違ってた!」 通信機の残骸を叩く。「私がこの世で一番我慢ならないものは、裏切り行為だ!」
シスコに棒を振り下ろすデュカット。



惑星軌道上のディファイアント。
ウォーフ:「救出作業は遅れています。あと数時間あれば何とか。」
スクリーンにはキラが映っているが、映像がかなり乱れている。「船団の方は完全に無防備よ。通信を…状態では…向こうに我々の信号を知らせる…はないのよ…たとえ…残念…あきらめて…船の護衛指令…」 通信が切れた。
オブライエン:「これ以上無理ですね。ステーションとの間に、亜空間干渉があるようです。作業を続けます。」
ベシア:「少佐が何を言ってたのか、わからなかったな。混線し過ぎてて。救出を続けるべきだ。」
ダックス:「少佐が言わんとしてたことは伝わったわ。」
「君はどうだ、チーフ。わかった?」
オブライエン:「…いや、全然わからなかった。」
ダックス:「この際、私たちの意見はどうでもいいの。司令官はウォーフ少佐なのよ。」
ウォーフ:「キラ少佐の指令内容は全員理解した。それを無視するのは恥ずべきことだ。」
ベシア:「許してくれるでしょうね。僕がウォーフ少佐の名誉より、大佐の命を重んじたとしても。」
「君は下がってていい。」
ベシアは無言でブリッジを出ていく。
ウォーフ:「よし、コースを 3番目の惑星に。」
ダックス:「了解しました。」

デュカットは棒についた血をぬぐっている。
何とか起き上がるシスコ。
デュカット:「こうなったのも自業自得だぞ。」
シスコ:「…ほかの犠牲者と同じか…。」
「私が殺した連中か。結局いつもそこに落ち着くんだ。私が犯した罪にな。私は恐ろしい化け物で、邪悪な男だと言いたいんだろう。いいか。ベンジャミン・シスコよ。君は世界で善悪を判断する最高の調停人だ。シスコ大佐、君のような優れた人徳家こそが、私たちに判決を下す権限をもっているのだからなあ。」
「君は一体、何が欲しいんだ! 私の承認か、だからこうして私を苦しめるのか! 世界に更なる苦しみと、死をもたらしてもよいという許可が欲しいのか。そうか、君がそれを求めてるなら今すぐフェイザーを取り出して私を殺せ。私は決して許可しないからな!」
「よし、よーし、わかったよ! 自分を偽るのは終わりだ。ゲームも終わり。お前には、真実を教えてやる。」
「君に真実の何がわかる。君は真実を自分の好きな形にねじ曲げている。」
笑うデュカット。「シスコ裁判官が別の裁定を言い渡したな。だが証拠はどこにある。」
「わかった。私に裁判をして欲しいのか。」
「うん。」
「ここで、今。」
「ああ。」
「OK! わかった、やろうじゃないか。占領中、君はベイジョーの司令官だった。嘘か真か。」
「真だ。」
「君の指揮下で起きたこと全てに君は責任がある。嘘か真か。」
「真だ。」
「つまり君は、君の監督下で 500万人のベイジョー人が殺されたことに責任がある。嘘か真か!」
首を振るデュカット。「嘘だ! 任期中、私はベイジョー人の命を救おうとしたんだ。」
「証拠は!」
「証拠だと? 証拠を求めるのか! 私が司令官になった頃、カーデシアの植民地支配は既に 40年にも及んでいた。だがベイジョーの全面的植民地化には、未だ成功していなかった。カーデシア中央司令部は、その状況を打破できるなら、方法は問わないという姿勢だったんだ。…ベイジョー人に対して、厳しいやり方で臨んでも、きっと受け入れられないだろうと確信していた。」
ダマールがいる。「そんな甘い考えで、成功するものですか!」
「だから私は司令官として、ベイジョーでの初仕事で、強制収容所の全所長に向けて労働分担を 50%下げるよう通達を出したんだ。私は収容所を全面的に改革したのさ。子供の労働を廃止し、医療施設も改善した。食料の配給も増やした。私が司令官になって、一ヶ月過ぎた頃には、労働者の死亡率は 2割も減ったんだぞう。さて、こうした行為に対し、ベイジョー人は何をしたか。私の一ヶ月統治の記念に、連中は軌道のドライドックを爆破し、何と 200名以上のカーデシア人と労働者を殺すという暴挙に出たんだ。」
横になっているキラ。「こっちは最初から和解など求めてないわ。」
「だからそれ相当の報復が必要だった。だがカーデシアはただ闇雲に報復したわけではなかったんだぞ。私は丁度 200名のベイジョー人レジスタンス容疑者を一斉検挙し、処刑を命じた。200名の犠牲者を 200名の命で償う。これは当然の行為で、悪行じゃない。正義だ。」
ウェイユンもいる。「ドミニオンは実に寛大だった。」
「だが私は、ベイジョーと接触する努力をあきらめたわけじゃなかった。そうさ、私は再び試みた。そんな私に奴らは何をしたと思う。何と、私は自分の基地で暗殺されそうになったんだ。再びベイジョー人の処刑が執り行われた。再び、ベイジョーのレジスタンスが殺されることになった。」
キラ:「平和なんて求めてない。私たちはカーデシア人が大嫌いなのよ。」
「その後、そうしたことが繰り返され、血生臭い日々が永遠と続いたのだ。私は再三再四友情の手を差し伸べようとしたが、その度にその手を払いのけられたのさ!」
ダマール:「ベイジョー人に寛大さを理解させるのは、所詮無理です。」
キラ:「分別があるから大胆になれたのよ。」
ウェイユン:「その気になればドミニオンはとっくの昔にベイジョー人を皆殺しにできた。」
デュカット:「こうした意見に耳を傾けて欲しいものだ。」
シスコ:「ああ、わかった。これでよく理解できたよ。さて、ここで確認しておこう。占領中の出来事に、責任があるのは君ではなく、ベイジョー人だ。ん?」
「そうだ、そうとも! その通り。」
「では、なぜかな。君が差し伸べた手を、ベイジョーが拒否したのはなぜだろうか。」
「ああ…それはだ。連中が無学で、愚か者だからさ。奴らが私たちに協力していたら、今頃世界を楽園に変えられたはずなんだ。ベイジョーに降り立った瞬間から、カーデシアが優れた種だというのは明らかな事実だった。だが連中はそれを認めなかった。彼らは同等の権利を主張したのだ。確実に劣ってるのがわかってて…軍事的にも、技術的な面でも、文化的にもな。カーデシアは奴らに比べ、あらゆる点で一世紀進んでいた。だが我々がそうなることを選んだのではない。それは運命だったのだ。ベイジョー人も自分の役割を受け入れていたら、事態は全て丸く収まっていたのだ。だが、彼らはくる日もくる日も寺院に集まっては、ベイジョーの解放を祈り続けた。そして毎晩のように我々カーデシアの家に爆弾を仕掛けて歩いたのだ。傲慢で、頑固で、凝り固まっていた。私の部屋を掃除していた使用人から、強制収容所に捕らえられていた死刑囚にいたるまで、そしてダカール州の丘をコソコソと忍び歩くテロリストたちでさえ、みんな揃って名誉のバッジをつけたように、全身に傲慢さを身にまとっていたんだよ。」
「だから君はベイジョーを憎んだのか。」
「もちろん憎んださ! 何もかもヘドが出るね。その迷信深さ、同情に対する叫び、裏切り行為、嘘! 独り善がりの優越感と、あのしつこいほどの頑固な態度。イヤリング。しわの寄った鼻も大嫌いだった。」
「全員殺せばよかったのにな。」 皮肉を込めて言うシスコ。
「ああ、そうさ! その通りだ。そうなんだ、ずっとそう思っていた。ベイジョー人は一人残らず抹殺すべきだったのだ。私が奴らの星を銀河系が見たこともないような、墓場に変えてやればよかったのだ! ……皆殺しにすべきだったんだ。」 デュカットの言葉にうなずくキラたち。デュカットは腕を挙げた。
殴る音が響き、デュカットは倒れた。
シスコ:「だから今のところ、悪人ではないと言っておこう。」
シスコは洞窟を出る。倒れたままのデュカット。



シスコは風の吹きすさぶ外に出た。シャトルが見える。
後ろを確認し、中に乗る。ハッチが閉じられていく。
だがデュカットが飛び込んできた。もみ合いになり、殴り合う。怪我を負っているシスコは、それ以上対抗できない。
フェイザーを取り出し、ハッチを再び開けるデュカット。
倒れたままのシスコは言った。「殺せよ!」
デュカットはシスコを引きずり出し、砂地に投げ飛ばす。痛みに叫ぶシスコ。
デュカットはシスコに近づいた。「こうして君と一緒に過ごせてよかったよ、シスコ大佐! しばらく会えなくなりそうだからなあ。私にはやり残した仕事があるのだ。ベイジョーが私の敵だと? だがいずれそのことの、本当の意味で思い知らせてやる。今日から連中は、ベイジョーは死ぬのだあ! 一人残らずな! そして今度は、選ばれし者のお前でも、連中を救うことはできないのだ!」
デュカットを蹴るシスコ。デュカットはもう一度シスコを殴り、シャトルに入った。ハッチを閉める。中にはキラ、ウェイユン、ダマールも乗っている。
取り残されるシスコ。

ダックスは報告する。「時間です。」
ウォーフ:「コースを星系の外側にセット。全速推進。一旦外惑星を離れたら、集合地点に直行する。…ワープ最大。」
「…コース設定、推進エンジン作動。」
オブライエン:「少佐、シグナルをキャッチしました。…ガル・デュカットだ!」

ワープ航行中のディファイアント。
『少佐日誌、宇宙暦 51413.6。間一髪でシスコ大佐を救出。だがガル・デュカットのシャトルの位置を割り出す余裕はなかった。現代船団の待つバッドランド付近の座標に急行中。大佐は医療室で治療を受けている。』
額に医療器具をつけ、点滴を受けているシスコ。
ダックスが呼びかけた。「ベンジャミン。」
目を開くシスコ。
「デュカットが最後に確認された位置を艦隊に知らせたから、今に見つかるわ。」
シスコ:「いや、無理だろう。なあ、おやじさん。生き物っていうのは複雑なものだなあ。この世に 100%の善人や悪人なんていない。何もかも曖昧な灰色に思えてくる。だから時々デュカットのような男と一緒にいると、気づくのさ。本物の悪人ってものが、本当に存在すると。」
「気づいたのはいいけど、行動を起こすのはまた別の話よ。一体何をするつもりなの。」
「あることを阻止するつもりさ。奴にベイジョーを滅ぼさせはしない。悪など、怖くない。これからは、やるか…やられるかだ。」
再び目を閉じるシスコ。



・感想
DS9 らしい、映像的にも内容的にも暗いエピソードです。単純な善悪ものに見えるようで、実はそうではないんですね。狂って幻覚を見て、だんだんと本性を見せるデュカット。彼を理解しながらも最後には悪だと言いきるシスコ。デュカットは悪いのはもちろんですが、それでも本当にシスコが正しいのかという複雑な感情が生まれます。シスコという主人公に対してでさえ、観ている人に疑問を抱かせる…これが狙いなんでしょうか。
やはりデュカットは絶対にストーリーに欠かせない人物ですね。ありえないほどの長ゼリフ…ある意味レギュラーを超えたサブレギュラーといえるかもしれません。次は何を仕掛けてくるのか…カーデシアやドミニオンという国家を離れたところがポイントです。
日本語版に関して惜しいのが、吹き替えではデュカットはシスコを「大佐」と呼んでいますが、原語ではほとんど「ベンジャミン」なんですよね。これは印象が変わってくるところなので、呼び方はなるべく忠実にしてもらいたいものです。
いろんな意味で必見でした。


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