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ディープスペースナイン エピソードガイド
第133話「封じられた最終戦略」
Statistical Probabilities

 

イントロダクション
|  人が住めるようにされた、貨物室。  ひげをたくわえた男が、早口で文句を言っている。「こんなの差別じゃないか! 俺たちだけか? そうか? フンフン…そうか? 何で俺たちだけなんだ! フンフン…。それに何だい、このキンキン音は! 頭がいかれちまう。」  連邦士官のロウズ※1がやってきた。「落ち着いて。」  台の上に飛び乗る男。「早口過ぎてついてこられないか? フンフン…。」  「お願いだから落ち着いて、ジャック※2。」  白髪で小太りの老人が、ロウズに近づく。「わしらを見捨てないでおくれ、カレン※3!」  ロウズ:「パトリック※4、ほんの数週間の辛抱よ。」  ジャック:「あんただって知ってんだろ。こんなところまで飛ばされたわけを。」 台から飛び降りる。「俺たちは実験台になる。」  「やめて、ジャック!」  「連中は俺たちの脳みそが、遺伝的にどう変わったのか知りたいのさ。脳天ぶち抜いて調べるに決まってる!」  泣くパトリック。  ロウズ:「ジャックは驚かそうとしてるの、本気にしちゃだめよ。ここに連れてきたわけは、ちゃんと説明したでしょ?」 うなずくパトリック。「ドクター・ベシアに会うためなのよ。」  台の上で横になっていた、派手な女性ローレン※5が口を開いた。「彼って…イケてるわよね。」  ロウズ:「彼も子供の頃、遺伝的に強化されたの。みんなと同じよ。」  ジャック:「いや違う! 同じじゃないね。施設じゃ一度も見たことがない。拘束されてもない。フンフン…ずるがしこい奴だ、フンフン…。奴は一般人になりすましてる、ドクターは宇宙艦隊の一員で…フンフン。立派に社会に貢献してるのさ。その秘訣を教えてもらえるかもな。」 立ち上がり、敬礼する。「制服を着るんだぞ! はい大佐。了解! ありがとうございます。」  パトリック:「とてもついていけない。」  ロウズ:「何の心配もいらないわ。ドクター・ベシアがずっとついててくださるから、安心してね。ちょっとした休暇をもらったつもりで、ゆっくり過ごせばいいの。」  ジャック:「いや、奴の好きにさせるもんか。」  「いいえ、ジャック。この機会を最大限に生かしてもらうしかないわ。」  ローレン:「私はそうするつもりよ。」 持っていたパッドを見せ、そこにはベシアの顔が映っている。「ドクター・ベシアの目つきったら…私にゾッコンみたい。」  パッドを取ろうとするジャック。「おい、貸せよ!」  パトリック:「うちに帰りたい。」  チャイムが鳴った。  ローレン:「ドクターよ。」  ジャックはローレンから取り上げたパッドを床に投げ捨て、思い切り踏みつけた。それをローレンに見せる。「見てみろ。ベシアなんて叩き潰してやる。」  ロウズ:「それを返しなさい。」  手を伸ばすと、ジャックは踏みつけたパッドの表面をロウズの手になすりつけた。ロウズの手が傷つき、血が出る。  ジャック:「ごめんよ。」  ロウズ:「心にもないこと言わなくても結構よ。イライラしてわざとやったんでしょうけど、でも怒ったって自分が損するだけなのよ。」 布を手に巻くロウズ。  「フン、ほっといてくれ。」  「…いいわ、じゃあ…2、3週間後にまた会いましょう。」 パトリックが泣きついてきた。「パトリック、大丈夫よ。心配ないわ、大丈夫。」  無言で立っていた少女に声をかけるロウズ。「またね、セレーナ※6。」  ロウズは出て行く。  外ではベシアが待っていた。「大丈夫ですか。」  ロウズ:「ええ、ジャックとやりあっただけ。報告書にも書きましたが、要注意人物よ。」  「医療室で手当てしましょう。」  「平気よ、行って下さい。これでも 4人は以前よりいい状態です。彼らと心を通わせることができるよう、祈ってます。」  ロウズは歩いていった。 | ※1: ドクター・カレン・ロウズ Dr. Karen Loews (Jeanneta Arnette) 階級は大尉 ※2: Jack (ティム・ランサム Tim Ransom) 声:堀内賢雄、VOY 初代バークレイ ※3: 「ドクター」と訳されています ※4: Patrick (マイケル・キーナン Michael Keenan TNG第166話 "Sub Rosa" 「愛の亡霊」のマツリン (Maturin)、VOY第12話 "Heroes and Demons" 「英雄伝説」のロスガー王 (King Hrothgar) 役) ※5: Lauren (Hilary Shepard-Turner DS9第100話 "The Ship" 「神の船」のホヤ (Hoya) 役) ※6: Sarina (Faith C. Salie) | 
本編
|  ベシアは貨物室に入った。中は暗い。「やあ。」  ジャックが笑っている。「変だ、ミュータントには見えない。」  ベシア:「君はジャックかい?」  「驚いた、名前を知ってる。名乗ってもいないのに。」  「心配するな、ドクター・ロウズの報告書を読んだだけだ。」  「知ってるさ!」  セレーナがいる。  ベシア:「よろしく、セレーナ。」  ジャック:「話しかけても無駄さ、読んだだろ? セレーナは口を利かないって書いてなかったか? フンフン。」  「電気をつけても構わないかね?」  「いちいち聞くなよ! 俺たちゃモグラ人間じゃないぜ。」  「コンピューター、ライト!」  明るくなる。後ろの台に、寝そべっているローレンがいた。「ハロー。」  ベシア:「ローレンか。」  「私に気があるんでしょ、ドクター。でもそんなに気安くないわよ。」  ジャック:「ベシアだったな! そうか、ひらめいたぞ。ベシア、ベシア…。ああ、そうだ! ああ…15世紀の詩人だ、シン・エル・ベシア※7。親戚か? あ?」  ベシア:「ああ、まあね。」  「独創性のない詩さ。盗作したんだ、知ってんだろ? ごまかすなよ! なのにここに来て自慢するつもりか? フン? なぜだ。フン?」  パトリックが笑う。  ベシア:「君が言い出したことだ。」  ジャック:「あんたが隠すからさ。見過ごせないね。フンフン…うるさいぞ!」 耳を押さえる。  ローレン:「ねえ、教えて。ドクターはご両親にどんな遺伝子操作をされたの?」  ベシア:「精神的能力だ。ほとんどがね。ほかにも、手と目の連携や反射神経、視力も強化された。」  突然、ジャックは飛び上がって後ろ向きに一回転した。「やってみろよ! フンフン。」  ベシア:「いや、無理だろう。」  「へえ、何でだ。パパとママが完璧な身体にしてくれたんだろ? ウンウン?」  ローレン:「彼は申し分ない。」  ジャック:「お前に能力が見分けられるもんか。フン?」  「私に負けたでしょ。」  「悔やんでるんだろ! じゃあ 329 の立方根は?」  ベシア:「6.903 だ。」  ローレン:「さすがだわ。指一本動かさずに答えた。やっぱりドクターは私たちと同じミュータント。」  ジャック:「いやいや、同じじゃない。彼は…一般人として生きてきた。」  パトリックが近づく。「ほんとかい? どうして一般人で生きるんだ?」  ベシア:「僕の遺伝子操作がばれたのは、1年前だ。」  「そんなに長く、なぜ隠し通せたの?」  「特殊な能力はできるだけ、使わないできた。」  ジャック:「フンフン、それでばれなかったのか、実に賢い。さすが……感心してる場合か! フンフン、DNA の再配列が禁止されてるのは理由がある。俺たちのような人間が宇宙艦隊から締め出されるのにもわけがある。俺たちに負けるのが怖いんだ。フンフン…。」  「私も何か主張すべきだったかもしれない。」  「そりゃあ反則だぜ! フンフン…今更そんなこといわれてもな。被害者を前にそういうこと言うか。それにあんた自身の話は嘘だろ、あーいやいや、そうさ、嘘をつくな。でたらめだ。自分が捕まったら、宇宙艦隊と取引をするんだろ、フンフン…。自分だけ責任逃れするのさ。」  パトリック:「ドクターの話が本当なら、わしら同様施設にいたはず。」  「ヘヘーン、そうそう。あんただけ自由なんておかしい。」※8  ベシア:「遺伝子操作されたというだけで隔離はしない。」  「いやいや、連中は俺たちに意義ある仕事をさせるもんか。俺たちに乗っ取られるのが怖いのさ!」  「実際過去にそういう例があったから警戒してるだけだ。」  「いやいや、企んでるのはあんただ。優勢戦争のことをもち出そうとしただろう※9!」  「そんな気は毛頭ない。我々がある職業から締め出されてきたのには、それなりのわけがある。だが社会の一員になれないわけじゃない。」  「そーら、きたぞ。俺たちが社会に貢献できるだって? だまされないぞ。俺は今までに受けた仕打ちを忘れない。賢さゆえに隔離された俺たちは、社会の一員になんてなれないのさ!」  「よくわかった。最初から答えが出てるようだね。これ以上話しても無駄だな。」 ドアに向かうベシア。「ディナーの約束があるんで失礼する。」  「俺たちだって食うさ。食事にしようぜ。むしゃむしゃ…。」  パトリック:「すぐ準備しよう。」  出て行くベシア。  ジャック:「もうほっといてくれ、大丈夫さ。ああ…。」  ローレン:「これでもうおしまいね。」  シスコの部屋。  集まったクルーの前で話すベシア。「僕自身、非常に運が良かったんだと…つくづく考えずにはいられません。」  ダックス:「どういうこと?」  「両親は僕に、遺伝子操作を施すためにしかるべき医者を選んでくれましたが、あの 4人は違いました。全員予測不能の副作用に悩まされることになった。5、6歳に成長し、両親が違法行為を認めたので、ようやく子供たちは治療を受けられるようになったんです。」  シスコ:「うむ、治療が遅すぎたのか。」  「結局、施設で受けられる治療などありませんでした。稀な症例なんで、規範となる治療法がなかったんです。」  キラ:「彼らにはとても退屈な環境だったでしょうね。」  「ドクター・ロウズが施設に行った時もそれを感じたとか。ドクターは彼らとほかの居住者を切り離すことから始めた。」  オドー:「なぜ連れてきたんです。」  「普通の人生を送っている、同じような人間に会えば、彼らのいい刺激になると考えたからですよ。それにドクターは、それぞれがそれなりの生き方を見つけて、生産的になることを望んでいた。」  オブライエン:「生産的になり過ぎるのも困る。俺たちがアホに見えちまう。」 笑う。  ウォーフ:「笑い事じゃないぞ。彼らのような生命体が自由競争を許されたら、親は我が子を強化しなければと圧力を感じる。」  オドー:「そうです。そもそも DNA 再配列が禁止されたきっかけは、まさにそういう理由からです。」  ベシア:「…4人にチャンスを与えても、彼らが受けた遺伝子操作を認めることにはなりませんよ。彼ら自身が望んでそうなったわけじゃないんです。子供たちに罪はない。親が法を犯したというだけで、子供が追放されるなんて。」  シスコ:「そうだなあ、確かに不公平だ。しかしたとえそうでも、もろ手を挙げて彼らの能力を歓迎するというのはどうかな。」  オブライエン:「それに何も 4人を排除しようとしてるわけじゃない、ただ…話し合ってるんだ。どこまで、彼らが許されるかを。」  ベシア:「艦隊の一員になるとか。」  ウォーフ:「その通りだ。」  「僕がこの制服を着るのは許されないと?」  「君は例外だよ。」  ため息をつくベシア。「例外ね。僕の人生はまさに例外続きだったな。遺伝子操作されたのも例外だったし、宇宙艦隊の一員になるのを許されたのも、例外だったってことですよ。」  ウォーフ:「つまらんことを言ってしまった。」  「いいえ、別にいいんです。」  みな無言になる。  シスコ:「ところで…誰か予想してくれないか、ガル・ダマールが演説で何を話すつもりか。」  オブライエン:「誰にも予想できませんよ。」  キラ:「そろそろ始まる頃ね。」  ダックス:「また軍事攻勢をかけるという発表だったら、せっかくのデザートが…腐っちゃうわね。」  通信が入った。『聞こえますか、ドクター・ベシアはいるかい?』  ベシア:「…ジャック。」  ジャック:『もしもし? 誰かいないのか? フンフン…』  キラ:「通信の仕方を教えたの?」  『もしもし? もしもし? …』  ベシア:「いや。勝手に割り込んだんだろ。」  『ドクター・ベシア! フンフン…。』  立ちあがるベシア。「おしゃべりをしていたいが、そうもしていられないようです。失礼。」 部屋を後にした。  ベシアが貨物室に入るなり、ジャックが怒る。「もう限界だ! 誰かこのしつこいノイズをどうにかしてくれ!」 セレーナも耳を押さえている。  ベシア:「ノイズって?」  「あんたら、どんなゲームしてんだよ。フン!」  「一体何の話だ。」  「聞こえないのか!」 パトリックやローレンも困っている。  ローレン:「文句を言ったらエンジニアが 2人来て、何の問題もないと言い放って帰ったわ。」  ベシア:「待ってくれ、ハイピッチの甲高い音か?」  ジャック:「そうさ! 助かった、なあ。やっぱり俺たちはイカレてない。フンフン…。」 ベシアに抱きつく。「あんた仲間だ、そうさ。」  だがジャックはいきなりセレーナの背後に回り、彼女の口を押さえた。「いいか、さっさとノイズを直さないと、セレーナの首をへし折るぞ。」 | ※7: Singh el Bashir ※8: このシーンの右端に注目。眼鏡をかけ、服の様子も違っているパトリックが一瞬映ります。撮影シーンではないのに映りこんでしまったのでしょうか? ※9: 「自分の能力をひけらかそうとしただろう」と訳されています | 
|  ジャックに話すベシア。「チーフ・オブライエンを呼んだから、セレーナを離すんだ。」  「そいつが来るまでだめだ。」  「私の言うことを聞かないなら、君はいつまでもノイズに悩まされることになるぞ。」  「俺だって好きでやってるわけじゃない。だが直してもらうためだ。」  見つめるベシア。ジャックは手を離した。「信じられん。何でこういうことになるんだ?」  ベシア:「大丈夫かい?」  無言で離れるセレーナ。チャイムが鳴り、ベシアはため息をつく。「どうぞ。」 オブライエンが入る。「オブライエン! ノイズの原因を突き止めて欲しいんだ。君には聞こえないだろうが、ノイズは存在する。パワーカップリングか何かの、共鳴音かもしれない。」  トリコーダーで調べるオブライエン。「ああ、そのようだな。」  ジャック:「わかるなら、さっさと直してくれよ! 俺がイカレちまう前に今すぐ直せ!」  オブライエンはベシアを見た。「ふん…。」  ローレンがオブライエンを見つめた。  ベシアは小声でささやく。「奥さんがいるよ。」  ローレン:「まあ残念。」  コンソールに近づくオブライエンに、パトリックが話しかける。「プラズマが乱れたような音だよ。」  オブライエン:「…ほんとだ。」  「再編成しなきゃね。」  微笑むオブライエン。「そう思ってたところさ。」  パトリックも笑う。  ベシア:「始めるぞ。」 モニターをつける。  オブライエン:「もうちょっとだ。…よーし。」  ジャック:「やっとか!」 安心する 4人。  ベシア:「どうもご苦労さん、チーフ。」  ダマール※10の演説が始まった。『同胞の皆さん、我がカーデシアはよく戦ってきました。我々はドミニオン同盟と共に、勇敢に敵と立ち向かい、その力を見せつけてきました…』  オブライエン:「今更何だ?」  ローレン:「何者?」  ベシア:「ダマール、カーデシアの新リーダーだ。」  ジャック:「王位につくことに不安をもってるな。」 笑う。  パトリック:「けしからん奴だ。」  ローレン:「恥知らずがピッタリよ。」  ベシア:「なぜそんな…」  オブライエン:「シッ!」  ダマール:『…するために、今すぐ大胆な一歩を踏み出す用意があります。平和です…』  ローレン:「疲れを知らない男ね。」  ジャック:「奴の叫び声が聞こえる。眠るなってな、フフ。こいつは眠らせない。」  パトリック:「誰かを殺してる。」  ローレン:「それも親しい人ね。」  オブライエン:「なぜわかるんだ?」  ダマール:『…戦士たちの死を、これ以上無駄にしてはなりません。平和を求めることは彼らの記憶に名誉を与え、彼らの命と引き換えに得た利益を守ることにもなるのです。私は平和のために、惑星連邦に要求するつもりです。戦いを終わらせるために、私は平和的解決の場に出向き、いつでも惑星連邦の代表と話し合う用意があります。カーデシアの…』  ジャック:「ペテン師め! 自分が王じゃないことはわかってんだろ。」  『…カーデシアを守るためなら私は全力を尽くす…』  パトリック:「彼の本心じゃなくて誰かに言わされてるなあ。」  『…私は命を賭けてカーデシアを守る所存です。息子たちのために、全ての子供たちのためにです。』 演説が終わった。  ベシア:「誰か、前からダマールのことを知ってたのか。」  ジャック:「知らんが、奴の本性ははっきりしてる。ペテン師だ! フンフン、国王を殺して、王座を奪ったのさ。」  ローレン:「国王じゃないけど、生きてるわ。」  パトリック:「女王様かも…お、お姫様か…。」  ジャック:「うーん。」  ベシア:「ああ、ジヤル。ガル・デュカットの娘。」  「そうさ、きっとペテン師は、闇の騎士と同盟関係を結んだんだよ。そして操られてる、フンフン。」  オブライエン:「ウェイユンだ。」  「なかなか面白い叙事詩だな。…もっと聞かせてくれよ、フンフン。」  ベシアはオブライエンを見た。  司令室で話すベシア。「驚いたなあ、話をつなぎ合わせてダマールのことを把握してしまった。ウェイユンは邪悪なプリンスで、ガル・デュカットは王位を追われ、ダマールは王座を装ってる。ジヤルは奴が殺した罪なきプリンセス。そしてペテン師は犯した罪に苦しんでる。」  キラ:「ダマールの演説を聞いただけで把握したの?」  「彼らはその後、カーデシアとの戦いについて、私を質問攻めにしたんだよ。こんなに熱中するのは初めてだ。」  ダックス:「それを持続させたいの?」  「やってみたいね。でも素材を使い果たした。」  キラ:「どういうこと?」  「カーデシアとドミニオンのデータを、全て把握してしまったんだ。」  シスコが司令官室から出てきた。「赤い絨毯を用意してくれ。」  ダックス:「お客様?」  「宇宙艦隊はダマールとの和平交渉を受け入れた。明日の朝には…ウェイユン共々到着する。そして運良くこの私が、彼らとの話し合いの場に出ることになった。」  ベシア:「素晴らしい!」  キラ:「ドミニオンが本気で平和を求めているのか、怪しいわ。連中は再編成のために時間稼ぎをしてるだけかも。」  「大佐、交渉の記録をぜひ手に入れたいんですが。」  シスコ:「それよりもっといい知らせだ。ドミニオンは交渉内容を記録するよう主張しているから、平和に対する彼らの思いが真実かどうかチェックできる。」  「完璧だ!」 出て行くベシア。  ダックス:「安易に同意しちゃったのねえ。記録に残るんじゃ羽目をはずせないわよ。」  シスコ:「ふーん…。」  ベシアに話すジャック。「ダマールと闇の騎士がステーションにおでましか。」  パトリック:「話は続くんだね!」  ローレン:「何だか、面白くなりそう。」  ベシア:「多分ね。我々はリングサイドで高見の見物ができる。」  喜ぶ 3人。 | ※10: Damar (ケイシー・ビッグス Casey Biggs) DS9第130話 "Sacrifice of Angels" 「ディープスペース・ナイン奪還作戦(後編)」以来の登場。声:古田信幸 | 
|  エアロックからジェムハダーやカーデシア人と共に、ウェイユン※11たちが降りてくる。  ウェイユン:「ああ…キラ少佐。」  キラ:「ディープ・スペース・ナインにようこそ。」  「ずっとお会いしたかった。」  「私のアドバイスを聞いて下さる? ウェイユン。」  「ぜひとも。」  「私とあなたたちでゲームを一緒にするのは大歓迎だけど、シスコ司令官はねえ、大佐はそんな気分じゃないの。」  ダマール:「我々は和平交渉に来た。大佐もその気になって頂こうか?」  歩いていく 2人を見るキラ。  ダマールは星図の前で説明している。「これが戦いが始まる以前の境界線である。現在我々が主張するのがこっちだ。」 連邦側の領域が広くなった。  パトリックはダマールに近づき、まじまじと見つめる。  ウェイユン:「この提案は、紛争星系に対し既に有効的な支配力をもつ方にとって、かなり有利です。いろいろ考慮し、我々は譲歩したのですよ。」  ダマール:「これを見てくれ…」  ジャック:「コンピューター、プログラム凍結。」  2人のホログラムの映像が止まった。  引き続き指示を出すジャック。「コンピューター、ああいいか…ネイティブ言語モード、タイムコード、リプレイ。7-6-1 から…7-6-9。フンフン…。」  ウェイユンの映像が巻き戻された。「イジャ マオナ ホーヴァ・バリ ジェンコラーダ セント。」  ジャック:「やった! 聞いたか? フンフン…受動態他動詞※12を使ったんだよ、フンフン。」  ベシア:「いつからドミニオン語を話す。」  「今朝からさ。あの言い回しは、何かを要求する時にしか使えないんだ。奴ら、何か企んでる。」  笑い出すパトリック。  ベシア:「どうした、パトリック。何かわかったのか。」  パトリックは手を振る。「いや。」  ベシア:「教えてくれ。」  「連中の狙いはカブレル星系だ。」  「どうしてわかる。」  「わざとそこだけ見ないようにしてる。」  「ほんとか?」  「視線を避けているんだ。」  ジャック:「何か企んでるといったろ? フンフン。」  ベシア:「プログラム終了。」 ウェイユンたち、そして周りのホログラムも消えた。「よし、狙いはわかったが、なぜだ。」  ローレン:「さあね。でも手に入れるためなら、何でもやる。ホルナ4※13 にあるミジナイト※14だけで、何年も造船所を維持することができるもの。」  ジャック:「その通り! 典型的なドミニオン戦略だ。真の狙いを隠して、別の価値あるものを差し出し、さらに価値あるものを手にする、フンフン。それが奴らの考えだ。先を見てる。明日のことより長いスパンで物事を考える。一年後、十年後、百年後のことを考えて行動する、フンフン…。」  ベシア:「カブレル星系には特別なものがあるのか?」  ローレン:「第1惑星※15には原生動物とトリ・ヌクレークの菌類しか存在しない。第2惑星※16にはコーマリンが埋まってるけど、平凡な物質ね。」  ジャック:「OKOK、何か理由があるのさ。戦略的価値はどうだ? フンフン。」  ベシアは、セレーナがパッドに何かを入力しているのに気づいた。  ローレン:「私だったら基地を作ろうとも思わないわね、フン。」  ジャック:「なぜなんだ。フンフン、完璧な場所だとは思うがねえ、フン。」  「とても完璧な場所だとは言えないわ。連星系だし、イオンを含む干渉が多く見られる。」  「わかった、忘れてくれ。」  ベシアはセレーナが置いたパッドを見た。「セレーナ、これは今の話と何か関係あるのかい?」  無言のままのセレーナ。  ベシア:「ちょっと貸してくれ。」  ジャックと話していたローレン。「…そういう証拠は何もないわ。」  ベシアはパッドをジャックたちに見せた。「どういう意味かわかるか?」  パッドの図を見るシスコ。「私は昔から、化学が苦手でねえ。何なんだ。」  ベシア:「ユリディウム・バイキアンタジン※17を作るための、三個核菌※18の分解法を示しています。ケトラセル・ホワイトの成分の一つです。ドミニオンがカブレルを欲しがるのはそのためで、アルファ宇宙域で薬を製造する気です。」 別のパッドを渡す。「計算によれば、ジェムハダーに無限に供給できる量の製造が可能です。」  「境界線を受け入れるよう連邦に進言するつもりだった。大きな犠牲を払うところだったな。」  「ですが大佐、カブレルは与えるべきです。」  「どうしてだ。」  「拒否すれば、ドミニオンは薬の備蓄がなくなる前に攻撃してくる。犠牲者の見積もりを出してみました。」 次のパッドを渡すベシア。「戦いに発展すれば、両軍に多大な犠牲者が出ます。」  「時間稼ぎを勧めてるのか?」  「防衛体制を整え直す時間が稼げれば、ロミュランを同盟に引き入れられます。」  「ロミュランを?」  「彼らの分析によれば…これです。」 またパッド。「ロミュランはドミニオンとの不可侵条約放棄を可決。来年の本会議ですが、その頃までにカーデシアとドミニオンの内圧が噴出すでしょうね。そして 3年半と…」 5枚目のパッド。「27日で、二国間の関係は悪化すると予測…」  「ちょっと待ってくれ、ドクター。なぜそういう結論になる。2日前、君は彼らが手におえないと話していた。なのに今日は情報部が一ヶ月かかる予測を、彼らがあっさりやってのけたと?」  「…そういうことです。もちろんこういう仕事をする資格がないことは承知していますし、我々が許される限界を…超えているといえるかもしれません。でももしも分析結果を詳しく説明させて頂けるなら、お役に立てます。」  シスコはパッドを台の上に置いた。「よし、聞こうじゃないか。」  「ありがとうございます。我々の戦略分析法を使えば、先へいけばいくほど正確な予測が可能です。一種の非線型力学※19に基づいていますので、小さな波動は要因として除外するとします。その結果…」  「待ってくれ、ドクター。もう一度最初に戻って、順を追って説明してくれないかなあ。もっと…わかりやすく。」  「…喜んで。」  ベシアはシャンパンを開けた。「シスコ大佐は、我々の分析を司令部に伝えると約束してくれた。直ちにね。」  ジャック:「すごいなあ。宇宙艦隊司令部だぞお、ウンウン。」  ローレン:「信じられないわあ。」  パトリック:「さあ、お祝いだぞお!」 レプリケーターから取り出した、三角形の帽子を配る。  ベシア:「やったなあ!」  ローレン:「音楽がいるわね。」  「コンピューター、音楽を。オーケストラがいいな。」  ローレン:「ワルツよ。」  「美しく青きドナウ」が流れ始めた。  パトリック:「ああ…。」 踊り始める。  ローレンは手を差し出した。「踊らない?」  ベシアはボトルをジャックに渡し、ローレンと踊り始める。  ジャックはセレーナにゆっくりと近づく。「ああ…。」 セレーナは離れた。ため息をつくジャック。  踊りながら話すローレン。「弱虫。」  ベシア:「誘おうとした?」  「弱虫はセレーナ。」  ジャックはグラスをベシアに渡し、ローレンとダンスを始める。パトリックは独りで踊っている。  チャイムが鳴った。  ベシア:「どうぞ!」 工具をもったオブライエンが入る。「オブライエン。いいところに来たな。」  オブライエンは中の様子に驚いている。「あの……。パワーカップリングを交換しに来た。」  ベシア:「どうぞ、やってくれ。」  「ああ。」  踊っていたパトリックがオブライエンに近づく。  オブライエン:「やあ。」 パトリックは帽子をオブライエンに被せようとする。「ああ、僕はいい。」  パトリック:「パーティだよ!」  「僕は仕事をしに来たんだ。」  パトリックは泣き始めた。  オブライエン:「泣くなよ、パトリック。…僕はパワーカップリングを交換しなきゃならないんだよ。」 パトリックは泣き止まない。  ダンス曲が終了した。  ベシアが近づく。「パトリックに何をした。」  オブライエン:「何も。」  「どうした、パトリック。」  パトリック:「嫌われちゃった。」  オブライエン:「嫌ってないさ。…ほらね。」 帽子を被る。  ローレン:「チーフはみんなが嫌いなのよ。でしょ?」  「ドクター、俺は…」  ジャック:「ドクターと俺たちの関係に嫉妬してるのさ。」  ローレン:「奥さんと離ればなれで人恋しいのね。」  オブライエン:「そんなことないさ。」  「いいのよ、ドクター。お友達と遊んできたら、チーフ。」  ベシア:「僕でもいいかい? オブライエン。」  オブライエン:「……いや!」  ローレン:「いえ、そうよ。」  笑うベシア。「さあ、クワークの店に行こう。」  オブライエンはパトリックが触ろうとした工具を手にとる。「ああ、これは必要なんだ。」  パトリック:「いらないよ。パワーカップリングはどこも異常なしだ。」  「まあ…いずれ…交換が必要になる。いつかな。」  笑うパトリック。  ベシア:「行くぞ。」  オブライエン:「ああ、わかった。」  ダーツをやっている。  オブライエン:「すまなかった。彼らを動揺させたくはなかった。」  ベシア:「ああ、心配ないさ。パトリックがあれほど感情的になったのは、君が好きだからさ。」  「彼が?」  「みんなそうさ。」  「僕がノイズを取り除いたからか?」  「いや、それだけじゃない。君と一緒にいると居心地がいいのさ。ジャックがよく使うだろ、わかりやすいって。」  「…わかりやすいか、フーン。」  「ああ、連中の洞察力はすごいよ。僕らが気がつかないことに気づくんだ。」  「そしてみんなが言わないことを言うか?」  「ああ。彼らは率直だ。」  「ああ、確かになあ。」  「不思議なんだが、連中と一緒にいることが楽しい。」  オブライエンはベシアの立ち位置に気づいた。「おい、何をしてる。下がれ!」  後ろに下がるベシア。「なあ、どう思う。宇宙艦隊司令部はあの 4人を、アドバイザーチームとして認めるかな。」  「どうかな。連中が提督たちと一緒にいるところなど、想像できないよ。ダンスを教えるならわかるけど。」  笑うベシア。「お祝いしてたのさ。」  「ああ、そうだろうな。」  「でも、とにかく彼らは優秀だ。一緒に仕事をして実感した。見事だったよ。互いの波長が同じだから、言い終えないうちに相手の気持ちがわかるんだ。あんな経験初めてさ。」  「彼らと一緒に過ごしてみると、僕たち普通の人間の単純さがよくわかるんだろ?」  「いやあ…何も単純だとは言ってないさ。少し、遅いだけ。」  「はあ、イライラするだろうね。」  「…気にならない。優越感に浸れる。」  「そりゃよかったよ。」  「感謝してるさ。普通の人々と付き合うのが難しいときも。」  「ああ、僕らには期待しないのが一番かもしれない。」 ダーツの盤が点滅する。「ほーら、そうすればこれからも君たちを驚かすことができる。」  ベシアはダーツを投げようとしている。  オブライエン:「まだやるか?」  「ああ、この位置から投げてもいいだろ?」  「いや、今のはまぐれだったんだよ。こっちのレベルに合わせて下がってくれなきゃ。」  「僕だって勝ちたい。君らと同じさ。」  仕方なく後ろに下がって、ため息をつくベシア。ダーツを投げつける。  話すベシア。「いい知らせだ。司令部は僕らの分析に感心して、宇宙艦隊の戦闘準備に関する機密情報に、アクセスする許可をくれた。」  ジャックたちは無言だ。  ベシア:「どうかしたのか?」  ジャックはパッドを渡す。「新しい長期予測が出た。ちょっと…見てくれ。」  ローレン:「気に入らないかもね。」  パッドを読み、ベシアは驚く。  貨物室。  ベシアはたくさんのパッドを見ていた。  ジャック:「さて、それで?」  ベシア:「…全てチェックした。」  ローレン:「欠陥は見つからなかったのね。」  「ああ。」  ジャック:「あんたも同意見ってことか、ウンウン。」  「致し方ない。惑星連邦がドミニオンに勝つ方法はない。残念だが……降伏するしかない。」 | ※11: Weyoun (ジェフリー・コムズ Jeffrey Combs) DS9第130話 "Sacrifice of Angels" 「ディープスペース・ナイン奪還作戦(後編)」以来の登場。声:内田直哉 ※12: passive voice transitive 「受動音声移行」と吹き替え ※13: Holna IV ※14: mizainite 鉱山物質。DS9第11話 "The Nagus" 「宇宙商人フェレンギ星人」より ※15: カブレル1号星 Kabrel I ※16: カブレル2号星 Kabrel II ※17: yridium bicantizine ※18: 先ほどは「トリ・ヌクレークの菌類」と訳されていたのに…? ※19: nonlinear dynamics | 
|  シスコはテーブルにパッドを叩きつけた。「ドミニオンに降伏するだと! 冗談じゃない。」  ベシア:「お気持ちはよくわかります。僕だってとても辛いんです。ですが、それが最善の方法だ。我々は可能性がゼロに近いことまでいろいろと考慮して様々なシナリオを想定したんです。反ドミニオンがカーデシアに奇襲攻撃をかけたとしても、勝つ見込みはありません。」  「だからと言って、あっさりあきらめて、降伏するというのか。」  「しかし戦えば、9千億人もの犠牲者が出るのは明白なんです。降伏すれば、犠牲者はゼロだ。どの道我々は 5世代に渡ってドミニオンに支配され続けるんです※20。いずれは反乱が起き、地球に集結し、さらに広がる。次の世代には、きっとドミニオン制圧に成功します。そうすれば、アルファ宇宙域は統一され、新生惑星連邦が永く君臨するでしょう。今回勝つ見込みがないなら、犠牲者を出さないようにするのが懸命です。……受け入れがたいのはわかりますが。」  「受け入れられん。君の予測は単なる統計学的確率※21と、仮定に基づいた予測に過ぎないではないか。」  「仮定じゃありません、ここで実証しろというなら今すぐできますよ。」  「たとえ 100%の確かさで、この戦いに負けることがわかったとしてもだ。ステーションのみんなに自発的に自由を捨てろなんて、私が言えるわけはないだろ!」  「9千億人の命を犠牲にしてもですか!」  「我々は降伏すべきではない! 戦いに勝つためのアドバイスなら喜んで耳を傾けるが、負け方のアドバイスはいらん!」  「勝つ見込みはありません!」  「勝率が不利だろうと構いはしない! 負けるなら、潔く負けるのみだ。その時は我々の子孫が、いつかドミニオンに反抗して、立ちあがってくれるだろう。」  「お言葉を返すようですが、プライドが邪魔しているのでは?」  「もういい、ドクター! 話は聞いた。後は司令部に伝えるだけだ。」  「大佐の口添えがなければ、即座に却下されます!」  「それに期待しよう!」  「…みすみす負けに行くとは、本当の勇者とは言えません。」 司令官室を出て行くベシア。  プロムナード。  ベシアは行き交う人々を見つめている。  ゆっくりとため息をついた。  オブライエンにパッドを見せているベシア。「君はどう思う。」  オブライエン:「ゾッとするね。」  「それだけじゃない。絶望的だ。そうだろ、オブライエン。」  「さあ、そうは思えないが。」 パッドを返す。  「…ダラダラ続く戦争は、避けなければならない。」  「じゃあ降伏しろと?」  「そうさ。嫌な言葉だ。だが事実は事実だ。」  「さあ、どうかな。」  「君も大佐の意見に賛成なのか。」  「そうだな。」  「そんな。分析で理解できない部分があるのか。もしもわからないのなら、もう一度説明してやるぞ。」  「完全に理解したよ。信じてないようだな。」  「そういう意味じゃないよ。僕が言ってるのは、長期的な展望をもつべきだってことさ。」  「努力しよう。正しく理解するには僕は単純過ぎるのかもな。」  「そうは言ってない。」  「言わなくてもわかる。君を見ていれば、自分より馬鹿な奴は自分を理解できないと思ってるのがありありだ。」  「なぜわかってもらえないのかな。」  「そりゃあ 2つの可能性があると思うな。実は僕は君が思ってるよりずっと頭が悪いか、君が自分が思ってるほど賢くないか。」  立ち去るオブライエン。ベシアはため息をついた。  ダボをやっているベシア。ダボガールが歓声を上げる。  クワークがやってきた。「今日はついてますねえ。」  ベシア:「よせよ! いつまでもツキが続くわけないと、みんなわかってる。店が儲かるようにできてるんだ。」  「よして下さい、みんな楽しんでるのに。」  「遅かれ早かれ、結局負けるのさ。僕が完璧に遊ぼうと、どんなにうまく賭け続けてもね。」  「それじゃ楽しい時間が台無しだ。見て下さい、みんな楽しんでるじゃないですか。負けると思ってても、そんなこと気にしない。勝てると信じて遊びに来る。そうでしょう?」  「大馬鹿だ。」  「今夜はこれぐらいで切り上げたらどうです?」  「都合の悪いことを言われると困るんだろ? 勝つ方法なんてありゃしない。」  「もうやめて下さい。」  「負けた! 見ただろ? みんな死んだも同然だ。」  「ドクター。落ち着いて。ただのゲームです。」  「そうだな、9千億人の命が危ないのも、ただのゲームだ。」  ベシアは店を出ていった。あきれるクワーク。手を頭のところで回す。  貨物室。  ベシア:「連絡があった。宇宙艦隊は勧告を拒否した。」  ジャック:「やっぱりだ!」  ローレン:「でもちょっとホッとしたわ。だって白旗を振るなんて嫌。」  「奴らは弱虫だ。真実を見る勇気がないんだ。」  ベシア:「そうだな。だが手の打ちようがない。」  「いやいや…ほっとくわけにはいかない。犠牲が多過ぎる。俺たちでことを運ぼう。」  パトリック:「でも何ができるんだ?」  言葉に詰まるジャック。  ベシア:「宇宙艦隊に降伏を強いることはできない。」  ジャック:「戦いを阻止するてだてがないなら、犠牲者を減らすのさ。」  ローレン:「どうやって?」  「見てくれ。」 パッドをベシアに渡す。「宇宙艦隊の戦闘計画、艦隊配備だ。この情報でドミニオンは何ができる?」  「数週間でアルファ宇宙域を制覇する。」  「戦いが早く終われば、それだけ犠牲者が減る。」  「20億は超えないでしょうね。」  「9千億よりずっとましだ。」  ベシア:「何馬鹿なこと言ってるんだ! 戦い自体を防ごうというならわかるが、大勢の犠牲者が伴う戦争をわざわざ誘発することなど、僕らには許されない。犠牲者の数を調整するなんてだめだ。神でもないのに。」  「だとしても、神の次に偉い。」  「本気で言ってるのか! そんな風に考えてるから、一般人に恐れられるんだ。」  「構うもんか。これが最善の決定だ。」  「僕らが決めることじゃない。我々は宇宙艦隊に提案を示し、提案は却下された。これで終わりだ。」  「終わりじゃない。最後までやり通す。」  「僕は反逆罪の片棒は担げない。」  「何とでも言え。だが何千億もの犠牲者を救えるなら仕方ない。……俺たちにつくか? フンフン?」  「いや。僕の話を聞いてただろ。」  「わかった!」  ジャックは突然、ベシアを殴った。ローレンのところに倒れこむ。  気を失ったベシアの顔をなでるローレン。ジャックに尋ねる。「どうやってドミニオンと連絡を取るの?」 | ※20: 「どの道我々はずっとドミニオンに支配されてきたんです」と誤訳 ※21: statistical probabilities 原題 | 
|  ダマールはパッドを読んでいる。「ああ…。」  ウェイユンがやってきた。「やってますね。」  「シスコの最新反対提案を見ていました。やはり奴と合意するのは無理でしょう。」  「見こみはなさそうですか。」  「そもそもなぜ私に、和平交渉なんてさせたんです。」  「おやおや。すっかりリーダーの風格ですね。この前まで君は、ガル・デュカットの副官に過ぎなかったのにね。」  「…私を信頼して頂き、感謝しています。」  「では君も誠意を見せなさい。前任者のようにならないように。私を批判するのは簡単だ。今更後戻りができないことは君もわかっているでしょ。」  無言のダマール。  ウェイユン:「さて、今しがた…身元不祥のあるグループから、非常に面白いメッセージを受信しました。彼らは我々にとって有利な情報を握っていると主張している。」  「どんな情報です。」  「わかりません。だがすぐにはっきりする。」  椅子に拘束されたベシアは、目を覚ました。「コンピューター。コンピューター、応答しろ!」 反応がない。セレーナが残っていることに気づいた。  「セレーナ、みんなどこに行った。」 応えないセレーナ。「ドミニオンとの密会は、決まったのか。いいか、手遅れにならないうちに 3人を止めなければ。ほどいてくれ。頼むよ、セレーナ!」 セレーナはベシアの言葉を聞いている。  「君らの手で、大勢の人々を死なせたくないだろ。ジャックだな、そうだろ。」 うつむくセレーナ。「彼にどう思われるか心配か。君がジャックを見つめる視線には気づいていた。彼のことが好きなんだね。だが君が手を貸してくれなければ、大変な事態になるんだぞ。ジャックたちは逮捕され、反逆罪で告訴される。そしたらもう二度とみんなに会うことはできない。ジャックにも二度と会うことはできなくなる。」  セレーナはベシアを見た。  パッドを持っているジャックに続き、ローレン、パトリックが廊下を歩いている。  通りがかった人に話しかけるパトリック。「わしゃパトリックだ。」  ジャック:「パトリック! 行くぞ。」  保安部員たちとベシアが待っている。そこへジャックたちがやってきた。  ベシア:「やあ諸君。」  パトリック:「何でドクターがいるんだ?」  ジャック:「何でここに。おかしいじゃないか。」  ベシア:「おとなしく自分たちの部屋に戻ったら、詳しく説明してあげよう。」  「やだ! 俺たちには使命がある。危険が迫ってる。」  ローレン:「行かせて、ドクター。」  「邪魔する権利はない。」  ベシア:「トラブルはもう十分だろ、ジャック。それぐらいにしておけ。おとなしく従わないと言うなら、容赦しないぞ。君たち次第だ。」  ウェイユンと 2人でいるダマール。「遅いじゃないか!」  ウェイユン:「じき現れます。」  「どうかしてます。密会のために、保管倉庫にコソコソ隠れるとは。私はオブシディアン・オーダーのスパイじゃない。カーデシアのリーダーだ。」  「カッカしなさんな、君はドミニオンのために尽くしてくれればいいんです。何だかワクワクしてきました。」 ドアの音がした。「来たぞ。……オドー!」  オドー:「ええ、わかってます。私が来たからにはもう心配ありませんよ。」  「実は…迷い込んでしまってね。」  「うーん、彼らなら来ません。」  ダマール:「…誰のことだね!」  「フン、しらばっくれると思ってましたよ。ではお二人ともお部屋にご案内しましょうか。」  歩き始める。  ベシアはジャックたちに話す。「君たちは、罪を問われないことになった。監獄に行かなくていいんだ。」  パトリック:「どうなるんだ?」  「今のままだ。全員施設に戻ることになる。」  ジャック:「俺たちゃどうなろうと構わん。自分が何をしたかわかってるか? フン?」  「反逆罪を犯すのを阻止した。」  ローレン:「感謝しろと言うの? 9千億の人名が失われるのよ。」  「そりゃわからない。」  ジャック:「あんただって一緒に予測を立てただろ、フンフン…? だろ?」  パトリック:「間違いない。覚えてる。」  ベシア:「予測が間違っていたのかもしれない。」  ジャック:「なぜそう言える。俺たちはあらゆる不測の事態を考慮した。そうだろ? 予測は間違ってない。セレーナ! お前が何もかも台無しにした!」 セレーナが持っていたパッドを取り上げる。離れるセレーナ。  「なぜそう思うんだ、ジャック。なぜそれを予見しなかった。なぜ彼女のことを予測できなかった。それは、君自身思い上がっていたからだ。君はこの部屋で起こることさえわからなかった。一人の人間が、君の計画を狂わせた。…このセレーナが、歴史の歩みを変えたんだ。ジャック、君はどうだか知らんが、このことで僕はこう考えた。もしかしたら、もしかしたらだ…物事は予測どおりには進まないとね。」  ベシアは出ていった。  クワークの店。  独りで座っているだけのベシアを見つけたオブライエン。「話は聞いたよ。間一髪だったな。」  ベシア:「ああ、何とか彼らを阻止できてよかった。」  「そのことじゃない。彼らの意見に同調するか決断を迫られた時のことさ。厳しい選択だったな。君はできるだけ多くの人名を救おうとしたんだろ。だから君は優れたドクターなのさ。」  「僕はドクターだが、宇宙艦隊の士官でもある。……自分たちは特別だと思っていた。未来を予測できると思い込んでいたんだ。僕の責任だ、彼らじゃない。ここまでことを進めるべきじゃなかった。彼らが世の中に貢献できることを証明しようと、僕が躍起になってことを進めなければ…」  「十分貢献した。ドミニオンに対して現状に満足していてはだめなんだ。ドミニオンをカーデシア領に追い返したかもしれないが、まだ負かしたわけじゃない。」  「希望をもとう。」  「…確率は我々に不利だがね。最善を尽くすしかないな。」  うなずくベシア。オブライエンは席を立ち、ベシアの肩を叩いて出ていった。ベシアも立ちあがる。  またダボをやっているベシア。  クワークが来る。「騒ぎはもうごめんですよ。」  「心配するな。2倍にしよう。」 ラチナムを置く。  「危険です。」  「そうかもしれないが、でも…自分に不利に思える時にこそ、思い切って賭けてみなきゃな。」  「なかなか勇気がありますね。」  ダボガールたちの声が上がる。「ダボ!」 「ダボー!」  クワーク:「へえ、何てこった。ドクターの勝ちだ。」 歩いていく。  通信が入った。『オブライエンよりドクター。』  ベシア:「どうぞ。」  『ジャックたちの転送がいつになるか、知りたがってただろ?』  「うーん、ありがとう。」  『一つ問題が起きた。君が会いに来なければ、転送を拒否するという客がいるんだよ。』  微笑むベシアは、店を出る。  貨物室に来たベシア。「僕の顔など、見たくないだろ。」  ローレン:「予測は間違ってたけど、私はもう全然気にしてないわ。」 奥から見ているジャック。「ジャックはまだ怒ってるけど。」 ベシアが見ると、ジャックは隠れてしまった。「ドクターにお別れのキスをしたかったの。」 キスする二人。  パトリック:「遊びに来てくれる?」  キスを終えたベシア。「え? ああ…君は正しいことをしたんだ。」 セレーナに近づく。「いつかそのうち、彼も…わかってくれる。」  微笑むセレーナ。  ベシア:「じゃあ、準備はいいか?」  ジャックが出てきた。「急かすなよ。一つ聞いておきたいことがあるんだ、ドクター。もしもドミニオンを倒す方法が見つかったら、聞いてくれるか?」  「もちろんそのつもりだよ。」 微笑み、肩に触れるベシア。  「よし、よしよし…。帰るぞ! 行くぞ。」 手を叩く。集まる 4人。  ベシアはコミュニケーターに触れた。「ドクターよりオブライエン。4名転送。」  4人は転送されていく。  独りになったベシアは、大きくため息をついた。 | 
感想
|  遺伝子操作を受けたベシアについて、初めて第5シーズンで描かれて以来では、(これまで少し触れられたことはありましたが) 実質的には初めてクローズアップされたエピソードです。ベシアと同じように DNA を再配列されつつも、彼と違って「普通の」生活を送っていないジャック、ローレン、パトリック、セレーナ。この 4人と、士官としての立場との板ばさみになるベシアがよく描かれています。  このエピソードガイド、第6シーズン・プレミアエピソードを除くと、DS9 では最大のサイズになりました。解説も少ないので、それだけ会話が中心ということを意味していますが、特にジャックの早口がすごいですね (俳優も声優も)。4人が本当に個性的でした。またこのフレーズを使ってしまいますが、「DS9ならでは」の濃い作品です。 | 

|  第132話 "Resurrection" 「聖者の復活」 | 第134話 "The Magnificent Ferengi" 「闘う交渉人フェレンギ」  | 
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