タッカーは尋ねた。「ジリリアン船はどこだ?」
トゥポル:「再びエンジンの調子がおかしくなって、クリンゴンのプラズマ航跡に隠れていると思われます。」
アーチャー:「ホシ。」
サトウ:「現在、翻訳プログラムの調子は万全です。」
リード:「船長。あえて申し上げますが、呼びかけは賢明とは思えません。」
アーチャー:「ジリリアンと話をするなら、クリンゴンを通さずには難しいだろう。…回線オン! こちら、宇宙船エンタープライズ※7のアーチャー船長。」 向かってくるクリンゴン戦艦。「是非協力していただきたいことがあります。我々は現在、ちょっとしたトラブルを…」
「敵は武器を装填!」
「船体装甲!」 撃ってきた。「衝撃に備えろ!」
続けて攻撃するクリンゴン。
リード:「2発目が!」
メイウェザー:「なぜ攻撃を!」
トゥポル:「違います、向こうが本気ならとっくに破壊されてます。」
アーチャー:「つまりクリンゴンは、威嚇射撃で我々を警告しているってわけか。」
リード:「警告を何度も受けるのはたまりません。」
メイウェザー:「コースを変更しますか?」
アーチャー:「いや…このままでいい。呼びかけろ。」
タッカー:「奴らの右舷ナセルを見て下さい。我々がジリリアンにやられた時と同じように、パワーが変動してます。」
サトウ:「応答がありました。」
クリンゴン艦長、ヴォロック※21が映る。『貴様らどういう理由で我がクリンゴン戦艦に接近する!』
アーチャー:「どうかお許し下さい。ですが、伺いたいことがあります。」
『一体何だ。』
「そちらの船のシステムに、異常が起きていませんか? 重力調整や推進システムは無事ですか? 環境制御装置は。」
『システムを監視していたのか。いつから!』
「違います、誓って。数日前の我々と同じなんです。恐らく、航跡に隠れている小型ステルス船の影響だと思われます。ワープコイル充電のため、プラズマ排気を利用している。」
クリンゴン副長※22に命じるヴォロック。「船を探せ。」
アーチャー:「待って下さい、お待ちを! 相手は無害です。連絡を取りたい、是非とも! どうか説明させて下さい!」
『発射!』
クリンゴン戦艦はすぐにジリリアン船を発見し、トラクタービームで拘束した。
副長:『クルーは 36名です。』
ヴォロック:『艦長を連行し、残りは処刑しろ。』
アーチャー:「我々は彼らと話がしたいんだ!」
『貴様らはその貧弱な船でさっさと立ち去った方が身のためだぞ。異星人は我々のセキュリティを侵害し、システムを混乱させた! どちらも我が帝国に対する明らかな戦争行為だ。』
「しかし彼らは、故意に被害を与えたわけではありません。母星に返りたかっただけです。」
『故郷には帰さん。だがスト・ヴォ・コーへたどり着けるよう、協力してやろう。』
「スト・ヴォ・コー?」
サトウ:「死後の世界です。」
「…本気で彼らを殺すつもりじゃないでしょうねえ。無害な種族ですよ? 運悪くエンジンの調子が悪くなっただけで、彼らはこちらの要求に従ってくれました…」
ヴォロック:『これ以上は時間の無駄だ!』
トゥポルは話し出した。「今から 1月ほど前、船長はクロノスの最高評議会に出ていました。総裁から、名誉を重んじ兄弟だと認められたのです。エンタープライズはクラングを捜し出し、帝国に送り届けました。クラングがいなければ、帝国は大混乱になっていたはず。ジョナサン・アーチャーはその危機を救った人間なのです。クリンゴンは借りがある。船長の要求を聞き届けるため、是非とも寛大なる処置を求めます。」
タッカー:「…私が、ワープリアクターを修理しました。というか、直したつもりでした。向こうの船で 3日過ごしたが、彼らは驚くべき技術をもっている。生かしておけばきっと、それをクリンゴンにも提供してくれるでしょう。」
副長:『一体どんな技術だ。』
「一つは、リアルなホログラムです。そちらの技術がどの程度か知りませんが、あんなリアルなのは初めてです。一瞬でほんとに、クロノスを見渡せる丘の上に立った気分になれますよ。…見るぐらいいいでしょう、減圧処理が怖ければ、仕方ないが。」
ヴォロック:『わしに怖いものなどあるか、プターク!』
アーチャー:「もし異星人船に乗ることに同意していただけるなら、是非機関主任を同行してくれませんか?」
『そいつは無駄口が多い。保安チームを同行する。』
「彼はジリリアンに、信用があります。ことがスムーズに進みますよ?」
『異星人の技術が面白かったら、命だけは助けてやろう。その判断をするのに貴様の機関士は必要ない!』
「理由があります。…実はタッカー少佐はですねえ、うん…ジリリアンとの仕事が終わっていないもので…」
『こっちは貴様の機関士の「仕事」には興味ない。』
「妊娠に関係することです。」
リードは不思議に思う。
ヴォロック:『そいつはワープリアクターを直しに行ったんだろう? 異星人を妊娠させるとは呆れた奴だ。今回の件はいい教訓にして忘れるんだな。』
タッカー:「…そうもいかないんですよ。」
アーチャー:「…見せろ。」
タッカーは仕方なく、服をめくった。膨らんだ腹を、クルーも目にする。
笑うクリンゴン人たち。
ジリリアン船に乗ったクリンゴン人。
タッカー:「ヴォロック艦長は、この船を解放してもいいと考えています。ホログラム・シミュレーターを何台か頂くという、交換条件でね。…こうなったら、協力するしかないと思います。」
チップを渡すヴォロック。「これが我々の首都の地形測量図だ。」
トレナル:「ホログラムを実演して見せましょう。」
ついて行くヴォロックたち。
アーレン:「リアクターは 6日間稼働して、故障してしまったの。よく見つけましたね?」
タッカー:「苦労したが、是非会いたかった。…どうしても。」
「どういうことでしょう?」
腹を見せるタッカー。
アーレン:「あ…あ…。ほかの種族とこんなことが起こるなんて思いもよらなかった。わかっていたら…」
タッカー:「謝ることはないよ。でも胎児を…取り出してくれたらすごくありがたい。ここでなら安全にできるだろう?」
機械で調べるアーレン。「胎児をほかのホストに移すのには十分間に合います。…彼女とっても元気そうだわ?」
タッカー:「女の子なのか?」
「ええ。」
クロノスの映像を指さすヴォロック。「我が家まで見えるぞ。これを我々のパワーマトリックスに適合させることは?」
トレナル:「適切な修正を加えれば、問題ないでしょう。」
エンタープライズ。
スクリーンのヴォロック。『取り付けが終了次第、ジリリアンは解放してやるつもりだ。』
アーチャー:「ご協力感謝します。今度出会った時は、お力になれることを願っています。」
『わしの言うことをよく聞け。借りは返したぞ? こっちは再びお前たちに「会いたい」とは思っておらん。そんなことになれば、貴様らは…後悔するだろう。』 通信を切るヴォロック。
船長用食堂のタッカー。「クリンゴン人と減圧室で 3時間過ごすのも辛いのに、それを日に二度とはね。」
アーチャー:「フフン。」
「鼻が曲がりそうな、異様な臭いだった。」
「ジリリアンは、インパルスエンジンで 1ヶ月で帰郷できるらしい。」
「これで安心です。」
「うん。……あ、ところで、クリンゴンの総裁が私を兄弟と呼んだって話…ほんとなのか?」
トゥポル:「クリンゴンは全てに大げさです。だからこっちも合わせました。」
「…フン。…食欲も落ち着いてきたようだな?」
タッカー:「一人分ですからね。」
トゥポル:「…宇宙艦隊のデータベースをチェックしました。喜んで下さい、人間の男性が妊娠したというのは、少佐が初めてでした。」
タッカー:「…歴史の本に載るなんて夢みたいだな。」
ワープ航行を続けるエンタープライズ。
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※21: Vorok クレジットでは クリンゴン艦長 Klingon Captain (Christopher Darga DS9第73話 "The Way of the Warrior, Part I" 「クリンゴンの暴挙(前編)」のケイボク (Kaybok)、VOY第114話 "Think Tank" 「頭脳集団クロスの陰謀」の Y'Sek 役) 声:宝亀克寿
※22: Klingon 1st Officer (Regi Davis) 声:水野龍司
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