作戦室にいたアーチャー。部屋の何かが気になるようだ。ドアチャイムが鳴る。「入れ。」 
 トゥポル:「前方のスキャン結果が…」 
 「シッ! 聞こえたか?」 
 「何がです。」 
 「キーッて。キーッていっただろ? 床下から聞こえてくるんだ。」 床に近づくアーチャー。「でも近づくと聞こえなくなる。突き止めないと床を全部引っぺがしたくなるんだよ。」 
 「それはまた、お困りで。…前方の星域をスキャンしましたが、生物のいる星はないでしょう。」 
 「ヴァルカンの星図ではどうだ?」 
 「この針路周辺のデータは、あまりありません。」 
 「このコース沿いには、何千って恒星系があるんだぞ? ヴァルカンの興味を引く星が、一つぐらいあったろう。ほかにも、知的生命体とか、三連星団とか。」 
 「我々は興味で科学調査はしませんので。」 
 「…論理的、かつ合理的な理由が必要なんだったよな?」 
 「我々は人間のように単純に宇宙探査に熱中しません。」 また音が聞こえた。床に戻るアーチャー。 
 「宇宙は広大です。知的生命体が生息する惑星は、4万3千に一つだということは御存じだと思います。」 
 「宇宙生物学はやった、数字は知ってるよ。…だがワープ5 で飛んでるんだ、誰かに出会うはずだ。」 チャイムが鳴る。「入れ。」 
 サトウ:「お邪魔でしたか?」 
 トゥポル:「…どうぞ続けて。失礼。」 出て行く。 
 アーチャー:「…あのナメクジ、具合が良くないんだって?」 
 サトウ:「そうです。でもドクターが治療を続けてます。私の部屋のことなんですが、右舷セクション5 の Eデッキ※2です。」 
 「それが?」 
 「星が、逆に流れるんです。」 
 「…逆に?」 
 「…訓練飛行では、2度とも左舷側の部屋でした。だから、眠れないんです。」 
 「部屋が逆側で?」 
 「逆側、そのせいです。ポーター少尉※3に変更を頼んだら、船長許可があればということで。」 
 「いいぞ。ブリッジで、通信士官に…居眠りされちゃ困る。」 
 「ありがとうございます。」 
 「……まだ何かあるのか、ホシ?」 
 「いいえ? それでは。」 サトウはアーチャーを見てから、出て行った。 
 また「キーッ」という音が聞こえる。
  
 巨大な兵器が置かれた部屋。 
 リード:「いいか?」 
 メイウェザー:「船首・船尾、スキャナー OK。」 
 「じゃあ始めるぞ? シミュレーションの、J-6 だ。」 
 コンピューター画面に星図が表示される。 
 リード:「ターゲット捕捉。」 
 メイウェザー:「発射シミュレーション。」 画面に変化が出る。 
 「命中まで 5秒。3、2、1! …またか。」 
 「3メートルしかずれてませんよ。」 
 「3メートルしか? 3メートルずれれば、武器ポートを狙うつもりがワープコアに当たる。攻撃力を奪うつもりが、船を爆破してしまう。こっちも巻き添えで、大破だ。」 
 「次はいけますよ?」 
 「完璧にしてから地球を出発すべきだった。生命体のいる星は、見つかったのか?」 
 「まだです。」 
 「ならいい。」 
 「エイリアンが全部敵対的ってわけじゃないですよ。うちの親が 23年間で遭遇したトラブルは、ほんの 5、6回です。」 
 「でもここまで遠くへは、来てないはずだ。」 
 「関係ないですよ?」 
 「とにかくターゲットスキャナーの精度を上げ、完璧にするまでは、エイリアンに近づかない方がいい。」 
 「ああ…でもクルーはみんな、ファースト・コンタクトを待ち望んでますよ?」 
 アーチャーが兵器室にやってきた。「調子は?」 
 リード:「良くありません。調整は進んでますが、まだ 0.02%の誤差がある。許容範囲外です。」 
 「シミュレーションの方の、ずれじゃないのか。」 
 「確かめる方法は、一つです。」 
 「…魚雷の装填に、どれくらいかかるんだ。」 
 「すぐです。」 
 通信機に触れるアーチャー。「アーチャーよりトゥポル。」 
 トゥポル:『トゥポルです。』 
 「ワープ解除の準備だ。この辺で、ちょっと射撃訓練をやる。」 
 『わかりました。』 
 リード:「助かります。」 
 アーチャー:「トラヴィス、来い。吹き飛ばす的を探さないとな?」
  
 魚雷は、小惑星の横を通過していった。 
 リードはスクリーンで、爆発するのを目にする。 
 首を振るメイウェザー。 
 アーチャー:「更に装填、もう一度だ。」 
 リード:「ターゲット軸を 0.5ミクロン傾けろ。」 
 メイウェザー:「0.5ミクロン、修正。」
  
 次の魚雷が魚雷管に入った。 
 発射される。小惑星をかすめ、その勢いで反対にこちら側へ向かってきた。
  
 スクリーンに映る。 
 アーチャー:「リード大尉?」 
 その場で爆破された。 
 サトウは安心する。 
 リード:「赤外線スキャナーの調整で、補正できると思います。」 
 アーチャー:「どれくらいかかる。」 
 「…まる一日は。」 
 「…少尉、コースを戻せ。」 
 「船長…。」 
 「24時間、何もせずに待ってられない。調整を進めろ。済んだ時点で、改めてテストする。」
  
 食事中のフロックス。 
 タッカー:「そこ空いてるか?」 
 フロックス:「ええ…どうぞかけて下さい?」 
 「ナメクジの調子は?」 
 「悪いです。ポテトは? イケますよ?」 
 渡されたかじりかけを口にするタッカー。「プロテインの再合成だ。」 
 フロックス:「ええ…風味が出てて素晴らしい。…私の星の人は食事中には話をしないんです。時間の、無駄だとね? …最初は慣れなかったがいいもんですねえ。」 
 「このミッションも時間の無駄ばかりだ。モヤモヤしてきた。」 
 「モヤモヤ?」 
 「すっきりしない。」 
 「うん。」 
 「出発して 2週間だってのに、何も起きやしない。」 
 「フフン、私には全てが冒険だ。人間は…驚きです。ナモド※4がどれほど大食漢か知っていますか?」 
 「うーん…さあね。」 
 「ソコロ少尉※5が運動した後の臭いは?」 
 「いやあ…」 
 「ノーシカン人※6の副腎も顔負けの臭いを放っていますよ? それに、あそこのベネット※7とヘイデン※8ですが…」 向こうに会話をしていない男女のクルーが座っている。「間違いなく、交尾しようとしています。…見学できますかね。」 
 「…充実してるようだな。」 
 美味しそうに食べるフロックス。「うーん、うん。」
  
 スコープで星図を見ていたトゥポル。「ブリッジよりアーチャー船長。」
  
 星図が表示されている。 
 アーチャー:「大きさは?」 
 トゥポル:「全長およそ92メートルです。」 
 「動きは早くないようだなあ?」 
 「全く動いていません。」 
 「妙だなあ…。一番近い恒星系は。」 
 「ほぼ3光年先です。」 
 タッカー:「ディープスペースで何か実験してるってことは。見に行ってみないと。」 
 「好奇心だけで、船の針路を決定するつもりですか?」 
 アーチャー:「ああ、そうだ。」
  
 エンタープライズはワープを抜けた。 
 メイウェザー:「距離は、5,000キロです。」 
 トゥポル:「船体を構成するのはトリタニウム※9と、ダイシリコンポリマー※10です。」 
 スクリーンに映し出された船。近づいていく。 
 タッカー:「推進システムは、稼働してる形跡なし。動力を切ってるのかなあ。どうなってるんだ。」 
 リード:「武器があるとしても、起動していません。」 
 アーチャー:「通信の形跡は?」 
 サトウ:「ありません。」 
 「…今から言うことを、翻訳マトリックスに。私はジョナサン・アーチャー。宇宙船エンタープライズ※11、船長だ。我々の任務は、平和的探索だ。ああ、我々は地球から来た。パルサー星図を一緒に送ろう。これで、地球の位置がわかることと思う。……全周波数で送ったか?」 
 「もう一度やります。…応答ありません。」 
 タッカー:「船長、通気口付近を拡大していいですか?」 
 アーチャー:「ああ。」 
 メイウェザー:「…通気口かなあ。船体の亀裂か?」 穴が見える。 
 アーチャー:「トラヴィス、もう少し接近しろ。反対側を見てみよう。」 穴の部分が拡大された。煙が上がっている。「火災のように見えるな。」 
 トゥポル:「残留物から、酸化と熱衝撃反応が見られます。高出力の粒子衝突の結果だと思われます。」 
 「武器ってことか?」 
 「恐らくは。」 
 「ここから、生体反応をスキャンできるか?」 
 「はい。しかし、船内をスキャンすれば、不当な干渉と見なされるおそれが。」 
 「…応答は?」 
 首を振るサトウ。 
 タッカー:「中に誰かいればもうこっちに気づいてるはずだ。」 
 リード:「ならなぜ返事をしてこない。」 
 トゥポル:「ノックされ、誰もがドアを開けるわけではありません。元のコースに戻るのが賢明と思われます。」 
 アーチャー:「…別のハッチがないか探せ。」 船体を見つめる。「直径は?」 
 タッカー:「90センチです。」 
 「生体反応スキャン。」 
 トゥポル:「…生命体が複数存在します。」 
 「ヒューマノイドか?」 
 「細胞活動が弱く、船のセンサーでは判別不能です。」 
 メイウェザー:「病気でも発生して、トラブってるのかな。」 
 「訪問者を好まないのかもしれません。」 
 アーチャー:「…リード大尉、シャトルの準備はできるか?」 
 リード:「30分で。」 
 トゥポル:「その前に手続きがいくつもあります。」 
 アーチャーはリードに命じた。「…始めろ。」 
 サトウ:「副官の言うとおり、シータバンド周波数で呼びかけることもできますが。」 
 「宇宙服※12を。」 
 「私、ですか?」 
 トゥポルに言うアーチャー。「後は任せる。」
 
 
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※2: NX-01 では、後の時代の「第nデッキ (Deck n)」という数え方ではなく、このような表現をするようです。なお「Eデッキ」を最初に訳すべきでしょうね
  
※3: Ensign Porter
  
※4: ナモド乗組員 Crewman Namod 階級は訳出なし
  
※5: Ensign Socorro 女性
  
※6: ノーシカン Nausicaan TNG第141話 "Tapestry" 「運命の分かれ道」などに登場した種族
  
※7: Bennett ベネット乗組員 (Crewman Bennett)
  
※8: Hayden ヘイデン乗組員 (Crewman Hayden)。階級は訳出なし
  
※9: tritanium TOS第47話 "Obsession" 「復讐! ガス怪獣」など
  
※10: disilicon polymers
  
※11: 吹き替えでは「エンタープライズ号」
  
※12: ここでは原語は違いますが、その後も environmental suit=環境服を「宇宙服」と訳しています。以前のシリーズで使われた用語と変わりません
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