エンタープライズ エピソードガイド
第3話「死のファースト・コンタクト」
Fight or Flight
イントロダクション
サトウは、ケースの中に入った小さな生命体を見つめている。口で音を出す。 フロックス:「ナメクジ語もわかるんですか?」 サトウ:「わかればねえ…。彼女ちっとも良くならないわね?」 「彼女。性別不明ですよ? 性別があればですが。」 「…連れてくるべきじゃなかった…」 「とんでもない。宇宙探査が任務でしょ。どんな生物にも学ぶ点はある。」 「でもこの環境には適してないのよ。」 「死なせないよう、手を尽くします。」 ケースを軽く叩くサトウ。「治してもらえるわよ?」 フロックス:「それより、ピリシアン・コウモリ※1が心配だ。生きた餌しか食べないんでね、うん。」 コウモリの鳴き声が聞こえる。 部屋に入るタッカー。「医療室のパワーをアップした。これで足りるか?」 フロックスはパッドを受け取った。「大丈夫でしょう。」 タッカー:「ナメクジは?」 サトウ:「ドクターは、このアルゴンランプで良くなるだろうって。でも、ほとんど動かないんです。」 「宇宙探査に乗り出して早 2週間。ファースト・コンタクトが、死にかけのナメクジだったとは。」 |
※1: Pyrithian bat VOY第15話 "Jetrel" 「殺人兵器メトリオン」でピリシアン谷の戦い (Battle of Pyrithian Gorge) が言及されていますが、デルタ宇宙域の場所なので恐らく関係ないでしょう |
本編
作戦室にいたアーチャー。部屋の何かが気になるようだ。ドアチャイムが鳴る。「入れ。」 トゥポル:「前方のスキャン結果が…」 「シッ! 聞こえたか?」 「何がです。」 「キーッて。キーッていっただろ? 床下から聞こえてくるんだ。」 床に近づくアーチャー。「でも近づくと聞こえなくなる。突き止めないと床を全部引っぺがしたくなるんだよ。」 「それはまた、お困りで。…前方の星域をスキャンしましたが、生物のいる星はないでしょう。」 「ヴァルカンの星図ではどうだ?」 「この針路周辺のデータは、あまりありません。」 「このコース沿いには、何千って恒星系があるんだぞ? ヴァルカンの興味を引く星が、一つぐらいあったろう。ほかにも、知的生命体とか、三連星団とか。」 「我々は興味で科学調査はしませんので。」 「…論理的、かつ合理的な理由が必要なんだったよな?」 「我々は人間のように単純に宇宙探査に熱中しません。」 また音が聞こえた。床に戻るアーチャー。 「宇宙は広大です。知的生命体が生息する惑星は、4万3千に一つだということは御存じだと思います。」 「宇宙生物学はやった、数字は知ってるよ。…だがワープ5 で飛んでるんだ、誰かに出会うはずだ。」 チャイムが鳴る。「入れ。」 サトウ:「お邪魔でしたか?」 トゥポル:「…どうぞ続けて。失礼。」 出て行く。 アーチャー:「…あのナメクジ、具合が良くないんだって?」 サトウ:「そうです。でもドクターが治療を続けてます。私の部屋のことなんですが、右舷セクション5 の Eデッキ※2です。」 「それが?」 「星が、逆に流れるんです。」 「…逆に?」 「…訓練飛行では、2度とも左舷側の部屋でした。だから、眠れないんです。」 「部屋が逆側で?」 「逆側、そのせいです。ポーター少尉※3に変更を頼んだら、船長許可があればということで。」 「いいぞ。ブリッジで、通信士官に…居眠りされちゃ困る。」 「ありがとうございます。」 「……まだ何かあるのか、ホシ?」 「いいえ? それでは。」 サトウはアーチャーを見てから、出て行った。 また「キーッ」という音が聞こえる。 巨大な兵器が置かれた部屋。 リード:「いいか?」 メイウェザー:「船首・船尾、スキャナー OK。」 「じゃあ始めるぞ? シミュレーションの、J-6 だ。」 コンピューター画面に星図が表示される。 リード:「ターゲット捕捉。」 メイウェザー:「発射シミュレーション。」 画面に変化が出る。 「命中まで 5秒。3、2、1! …またか。」 「3メートルしかずれてませんよ。」 「3メートルしか? 3メートルずれれば、武器ポートを狙うつもりがワープコアに当たる。攻撃力を奪うつもりが、船を爆破してしまう。こっちも巻き添えで、大破だ。」 「次はいけますよ?」 「完璧にしてから地球を出発すべきだった。生命体のいる星は、見つかったのか?」 「まだです。」 「ならいい。」 「エイリアンが全部敵対的ってわけじゃないですよ。うちの親が 23年間で遭遇したトラブルは、ほんの 5、6回です。」 「でもここまで遠くへは、来てないはずだ。」 「関係ないですよ?」 「とにかくターゲットスキャナーの精度を上げ、完璧にするまでは、エイリアンに近づかない方がいい。」 「ああ…でもクルーはみんな、ファースト・コンタクトを待ち望んでますよ?」 アーチャーが兵器室にやってきた。「調子は?」 リード:「良くありません。調整は進んでますが、まだ 0.02%の誤差がある。許容範囲外です。」 「シミュレーションの方の、ずれじゃないのか。」 「確かめる方法は、一つです。」 「…魚雷の装填に、どれくらいかかるんだ。」 「すぐです。」 通信機に触れるアーチャー。「アーチャーよりトゥポル。」 トゥポル:『トゥポルです。』 「ワープ解除の準備だ。この辺で、ちょっと射撃訓練をやる。」 『わかりました。』 リード:「助かります。」 アーチャー:「トラヴィス、来い。吹き飛ばす的を探さないとな?」 魚雷は、小惑星の横を通過していった。 リードはスクリーンで、爆発するのを目にする。 首を振るメイウェザー。 アーチャー:「更に装填、もう一度だ。」 リード:「ターゲット軸を 0.5ミクロン傾けろ。」 メイウェザー:「0.5ミクロン、修正。」 次の魚雷が魚雷管に入った。 発射される。小惑星をかすめ、その勢いで反対にこちら側へ向かってきた。 スクリーンに映る。 アーチャー:「リード大尉?」 その場で爆破された。 サトウは安心する。 リード:「赤外線スキャナーの調整で、補正できると思います。」 アーチャー:「どれくらいかかる。」 「…まる一日は。」 「…少尉、コースを戻せ。」 「船長…。」 「24時間、何もせずに待ってられない。調整を進めろ。済んだ時点で、改めてテストする。」 食事中のフロックス。 タッカー:「そこ空いてるか?」 フロックス:「ええ…どうぞかけて下さい?」 「ナメクジの調子は?」 「悪いです。ポテトは? イケますよ?」 渡されたかじりかけを口にするタッカー。「プロテインの再合成だ。」 フロックス:「ええ…風味が出てて素晴らしい。…私の星の人は食事中には話をしないんです。時間の、無駄だとね? …最初は慣れなかったがいいもんですねえ。」 「このミッションも時間の無駄ばかりだ。モヤモヤしてきた。」 「モヤモヤ?」 「すっきりしない。」 「うん。」 「出発して 2週間だってのに、何も起きやしない。」 「フフン、私には全てが冒険だ。人間は…驚きです。ナモド※4がどれほど大食漢か知っていますか?」 「うーん…さあね。」 「ソコロ少尉※5が運動した後の臭いは?」 「いやあ…」 「ノーシカン人※6の副腎も顔負けの臭いを放っていますよ? それに、あそこのベネット※7とヘイデン※8ですが…」 向こうに会話をしていない男女のクルーが座っている。「間違いなく、交尾しようとしています。…見学できますかね。」 「…充実してるようだな。」 美味しそうに食べるフロックス。「うーん、うん。」 スコープで星図を見ていたトゥポル。「ブリッジよりアーチャー船長。」 星図が表示されている。 アーチャー:「大きさは?」 トゥポル:「全長およそ92メートルです。」 「動きは早くないようだなあ?」 「全く動いていません。」 「妙だなあ…。一番近い恒星系は。」 「ほぼ3光年先です。」 タッカー:「ディープスペースで何か実験してるってことは。見に行ってみないと。」 「好奇心だけで、船の針路を決定するつもりですか?」 アーチャー:「ああ、そうだ。」 エンタープライズはワープを抜けた。 メイウェザー:「距離は、5,000キロです。」 トゥポル:「船体を構成するのはトリタニウム※9と、ダイシリコンポリマー※10です。」 スクリーンに映し出された船。近づいていく。 タッカー:「推進システムは、稼働してる形跡なし。動力を切ってるのかなあ。どうなってるんだ。」 リード:「武器があるとしても、起動していません。」 アーチャー:「通信の形跡は?」 サトウ:「ありません。」 「…今から言うことを、翻訳マトリックスに。私はジョナサン・アーチャー。宇宙船エンタープライズ※11、船長だ。我々の任務は、平和的探索だ。ああ、我々は地球から来た。パルサー星図を一緒に送ろう。これで、地球の位置がわかることと思う。……全周波数で送ったか?」 「もう一度やります。…応答ありません。」 タッカー:「船長、通気口付近を拡大していいですか?」 アーチャー:「ああ。」 メイウェザー:「…通気口かなあ。船体の亀裂か?」 穴が見える。 アーチャー:「トラヴィス、もう少し接近しろ。反対側を見てみよう。」 穴の部分が拡大された。煙が上がっている。「火災のように見えるな。」 トゥポル:「残留物から、酸化と熱衝撃反応が見られます。高出力の粒子衝突の結果だと思われます。」 「武器ってことか?」 「恐らくは。」 「ここから、生体反応をスキャンできるか?」 「はい。しかし、船内をスキャンすれば、不当な干渉と見なされるおそれが。」 「…応答は?」 首を振るサトウ。 タッカー:「中に誰かいればもうこっちに気づいてるはずだ。」 リード:「ならなぜ返事をしてこない。」 トゥポル:「ノックされ、誰もがドアを開けるわけではありません。元のコースに戻るのが賢明と思われます。」 アーチャー:「…別のハッチがないか探せ。」 船体を見つめる。「直径は?」 タッカー:「90センチです。」 「生体反応スキャン。」 トゥポル:「…生命体が複数存在します。」 「ヒューマノイドか?」 「細胞活動が弱く、船のセンサーでは判別不能です。」 メイウェザー:「病気でも発生して、トラブってるのかな。」 「訪問者を好まないのかもしれません。」 アーチャー:「…リード大尉、シャトルの準備はできるか?」 リード:「30分で。」 トゥポル:「その前に手続きがいくつもあります。」 アーチャーはリードに命じた。「…始めろ。」 サトウ:「副官の言うとおり、シータバンド周波数で呼びかけることもできますが。」 「宇宙服※12を。」 「私、ですか?」 トゥポルに言うアーチャー。「後は任せる。」 |
※2: NX-01 では、後の時代の「第nデッキ (Deck n)」という数え方ではなく、このような表現をするようです。なお「Eデッキ」を最初に訳すべきでしょうね ※3: Ensign Porter ※4: ナモド乗組員 Crewman Namod 階級は訳出なし ※5: Ensign Socorro 女性 ※6: ノーシカン Nausicaan TNG第141話 "Tapestry" 「運命の分かれ道」などに登場した種族 ※7: Bennett ベネット乗組員 (Crewman Bennett) ※8: Hayden ヘイデン乗組員 (Crewman Hayden)。階級は訳出なし ※9: tritanium TOS第47話 "Obsession" 「復讐! ガス怪獣」など ※10: disilicon polymers ※11: 吹き替えでは「エンタープライズ号」 ※12: ここでは原語は違いますが、その後も environmental suit=環境服を「宇宙服」と訳しています。以前のシリーズで使われた用語と変わりません |
アーチャーに追いつくタッカー。ため息をつく。 アーチャー:「どうした、少佐?」 タッカー:「連れてって下さい。」 「通訳と、保安士官で十分だ。エンジニアは必要ないだろ。」 「ハッチが開かないかもしれないし、電気がつかないってことも。」 「ビーコンがあるよ。」 「ターボリフトの使い方がわからず、走り回ることになったら? …しょうがない、エンジニアが行くべき理由はですね、俺は宇宙探査の任務に来たんであり、探査に出る権利がある。船長たちがあの船に押し入るのを指をくわえて見てるなんて、ごめんですよ!」 「人聞きが悪いな、異常がないか確認に行くんだ。」 「船長も中を見たくてウズウズしてるんでしょう、俺もですよ?」 「トリップ、まだこれからだ。探査に出かける機会は、山ほどある。今回は船に残ってくれ、エンジンのそばにな? 機関部長がついてないと、まだ心配だ。」 うなずくタッカー。アーチャーは歩いていった。 タッカーはため息をついた。 自室にいるアーチャー。「この任務を夢見ていたが、常に冷水を浴びせかけてくれるヴァルカンが一緒とは、思いもしなかった。だが…言うとおりだ。彼らは覗かれたくないかもしれない。だがそうとも限らないだろう。助けがいるかもな。コンピューター、ポーズ。」 ポートスを抱く。「こら、お前。チーズはあんまり食っちゃいけないんだぞ? ああ…日誌再開。提督は、一光年進むごとに歴史が作られると言った。そりゃ座っていては無理だ。」 ドアチャイムが鳴った。「…コンピューター、ポーズ。入れ。少尉。」 サトウ:「お邪魔して、すみません。」 「いや、構わんよ? チーズは?」 「いえ、結構です。」 「問題なくいったか?」 「はい?」 「ほら、部屋の変更だよ。」 「ええ、問題なく。どうも。…考えたんですが、今回は…私は船に残った方がお役に立てると思うんです。言語データベースにすぐアクセスできますし。」 「翻訳機を通信ラインで…データベースにつなげないのか?」 「それだと、タイムラグが 3倍にもなります。」 「だが、数秒だろ? 現場にいてくれた方が助かる。それに、翻訳機は多分役に立たない。君頼みだ、それに楽しみだろ? クルーの大半は行けずに、地団駄踏んでる。うん、どうした?」 「…私、宇宙服を着ると、少しその…閉所恐怖症気味に。」 「閉所恐怖症? …なのに宇宙船勤務を受けたのか?」 「船長が無理に受けさせたんですよ?」 「無重力訓練の結果に、問題点はなかったはずだぞ。」 「あの時は、唇を噛んで我慢したんです。」 「なら、今度も噛んでもらうぞ? 君がいないと困る。」 「わかりました。」 「……どうした、ホシ。何かあるのか。」 「いえ、じゃあ出発ベイに行ってます。」 「おい、一緒に行くよ。」 ポートスが鳴いた。「これが最後だぞ、ポートス?」 投げられたチーズを食べるポートス。 武器を用意するリード。 環境服を着るアーチャー。「戦争にでも行く気か。」 リード:「用心に越したことは。」 「SF映画の見過ぎだぞう? フェイズ銃だけでいい、ライフルは戻せ。君の資格は?」 サトウ:「取ってあります。EM銃※13に、クラス3 のパルスライフル※14です。」 アーチャーが手にしたフェイズ銃を見る。「そんなの見たことないわ?」 「後で手が空いたら、マルコムに教わるといい。大丈夫、EM-33 とほとんど同じだ。」 サトウの腰にも装着するアーチャー。 「必要なんですか?」 「一応用心だ。」 シャトルポッドはスラスターを調整し、上下逆さまになった。ドッキングする。 環境服のライトをつけた 3人が、中に入った。 リード:「運が悪いな。取っ手がない。でも大丈夫でしょう、マイクロ爆弾を取り付けます。ここと、ここに。」 アーチャー:「ちょっと待て、マルコム。」 操作すると、ハッチが開いた。「お先。」 連絡するサトウ。「エンタープライズへ。ハッチオープン。これから乗り込みます。」 上っていく。 暗い廊下を歩きながら、スキャナーを使う。 サトウ:「少なくとも二足歩行ね?」 リード:「なぜそう思うんだ?」 「はしご。」 アーチャー:「行こう。」 調査するアーチャー。「気体の組成は窒素とメタン。それに寒いなあ。マイナス20度だ。」 サトウ:「ここに動力が通ってます。わずかですけど。」 リード:「船長!」 床に液体が付着している。 アーチャー:「アミノ酸のような分子だな。」 サトウ:「血ですか?」 壁面にも緑色の液体。 何かの定期的な機械音が響く部屋。はしごを降りていく。 音の発生源に近づいてきた。それは、壁に取り付けられた機械だった。中に液体が入っており、そこへ何本も長いチューブがつながれている。 リード:「水圧ポンプだ。」 アーチャー:「何にしろ、新しそうだな。」 周りを見ていたサトウは、突然絶叫した。 天井から何人もの異星人がつり下げられている。身体から出たチューブ。 うろたえるサトウ。 アーチャー:「ホシ、どこへ行く。」 サトウ:「通訳は必要ありません!」 「ここにいろ!」 サトウは怯え続ける。 リード:「身体から何か、液体を吸い出されているようですねえ。」 アーチャー:「彼らはみんな…」 「死んでます。…残念ながら。」 窓の向こうから伝えるフロックス。『滅菌完了。』 トゥポルが入る。「何人です。」 アーチャー:「わからん。十何人だ。」 リード:「15 です。」 サトウを先頭に、隣の部屋で環境服を脱ぎ始める。 アーチャー:「体液を吸い出されてた。誰の仕業にしろ大がかりだ。私の勘では、戻ってくるなあ。」 トゥポル:「ここを離れましょう。」 「あそこに死人が 15人もいるんだ。放っておけるか。」 「乗船した目的は、クルーに助けが必要なら手を差し伸べることでした。明らかに、もう必要ありません。」 「君は彼らを、置き去りにしていけというのか?」 「ほかにどうすると言うんです? ……趣旨は立派で結構ですが、できることはもうありません。ここに残れば、今度はあなたのクルーが危険にさらされます。」 アーチャーは無言で立ち上がり、通信する。「アーチャーよりブリッジ。」 メイウェザー:『メイウェザーです。』 「…ワープ3 だ。…コースを戻せ。」 『了解。』 エンタープライズはワープに入り、船から去った。 |
※13: EM side arm EM=電磁 (electromagnetic) ※14: class-3 pulse rifle |
サトウに話すフロックス。「医者になった直後、母星の軌道上で事故があった。貨物船が爆発してねえ。私は救急医療チームにいて、ブリッジだけで…17 の死体が転がっていました。フン、あんな大勢の死人を見たのは初めてで…吐き気がした。恥じることはないですよ。」 サトウ:「私子供みたいに悲鳴を上げたのよ?」 「フン、慣れないものは恐ろしい。まだ良かった方だ。今回その…死体が、一部屋で。それ以上は、なかったんですからね。」 「叫んだのは、私だけ。…彼女食べてる?」 「いやあ、全然。環境の変化がストレスになってる。だが、この濃縮プロテインで、食欲が出る。」 ナメクジの近くに液体を垂らすフロックス。 「私は通訳よ? 逆さ吊りの死体を見るためにここまで来たんじゃない。」 「予期せぬものとの遭遇は避けられませんよ?」 「逆さ吊りの死体は別よ。」 「教育者の方が合っているんじゃないですか? どうです? 私も教えていたことが、ありますよ?」 「……私は宇宙言語学者よ? 2番の成績で卒業して、艦隊で 3年間訓練を受けたわ? この任務に加わるよう、船長からどうしてもと指名されたの。エイリアンが住む星には、必ず様々な宇宙語があふれてるわ? 星によっては、何百も言語がある。私が必要なのよ。」 「食べてくれないと回復の望みはないな。」 「それが主食なの?」 「近いはずです。」 「連れてくるべきじゃなかった。船長に頼んでみようかしら、アルゴンが豊富な星を探してくれって。」 「コウモリの餌にした方が早い。」 「……彼女に合った環境に帰してあげなきゃ可哀想よ。」 「ふーん、教師になれる、場所へかな?」 3人で食事するタッカー。「何てパスタです? 美味いなあ。」 アーチャー:「…シェフから聞いたが忘れたよ。」 「辛すぎます?」 トゥポル:「いや。」 「マルコムがまた、武器テストしたがってますよ。あんなことがありましたし。……紅茶は?」 「いいえ、結構よ?」 「船長。」 アーチャー:「ああ、もらおう。」 「例の…ヒューマノイドだったって、ほんとですか?」 「ヒューマノイドだ。」 「それで、俺たちに似てました?」 「制服を着てた。」 「…でも知ってる種族じゃないんですね。」 「クルーだよ。私たちと同じだ、15人。船で殺された。」 うなずくタッカー。 トゥポル:「…この付近で星の誕生を感知しています。」 タッカー:「昔アンカレッジ※15郊外の大望遠鏡で、見たことがあったなあ…。」 「…近くで見せればクルーのショックが和らぐかと。」 アーチャー:「気になるか? クルーの動揺が。」 「…私は一向に。」 「楽だろうな。何が起きようと、動じない。後悔も、何もない。彼らがヴァルカンなら、そんなに冷淡でいられたか?」 「ヴァルカンでは、ありません。」 「だから『もしも』だ、それでも同じか。さばかれたウシのように。あのまま放っておけるのか? せめて降ろしてやろうとは、少しも考えないのか? 彼らの身元を突き止め、家族に知らせようとは思わないのか?」 「種族すらわからないのに家族を突き止めるのは、困難を極めます。」 「だからやってないだろ? ……少佐は? 人間だったら…それでも尻尾を巻いて逃げ出したか? 腐るに任せて。…釈然としないのはこの私だけなのか?」 タッカー:「船長が言ったんですよ、きっと彼らを殺した連中が戻ってくるって。」 「私たちはどんな危険も冒さず、避けていくのか、そうなのか? それがヴァルカン流か、穴に隠れて安全になってから、顔を出すのか。」 トゥポル:「『我々ヴァルカン』なら、あの船に乗り込むようなことはなかったでしょう。」 笑うアーチャー。「ああ…何事も論理的ってわけだ。」 トゥポル:「守るべき行動規範が、確立している。それだけです。」 立ち上がるアーチャー。「…信じられないだろうが、人間にも行動の規範はある。数千年かけて築き上げた。その規範に従うよ。すっかり忘れていた。」 残されるタッカーたち 報告するメイウェザー。「コースを反転しました。5時間で、あの船の座標に戻ります。」 アーチャー:「ドクター、宇宙服に問題は?」 フロックス:「全くなし。」 「よーし。遺体の検死をしてもらいたいんだ。どの種族か特定したい。ついでにどうやって殺されたのかがわかれば、なお助かる。」 「やるだけやりましょう。」 「少佐は行きたくてウズウズしていたなあ。彼らの通信システムから、何かを得られるかもしれない。再起動して操作してもらおう。」 タッカー:「任せて下さい!」 「ホシは彼らの言葉を分析し、メッセージを作れ。通じればいいがな。」 サトウ:「船長…」 「やってもらうぞ。」 リード:「保安チームを連れていきます。」 「あの船には誰もいない。残ってターゲットスキャナーの調整をしろ。14時までには、完璧にしといてくれ。解散だ。」 再びドッキングしたシャトルポッド。 アーチャー:「死因は何だ。」 フロックス:「様々ですねえ。彼は致死量のクロラキシン※16を投与されてる。向こうの 3人は撃たれています。素粒子兵器のようです。この遺体はいいぞ、細胞の腐敗があまりない。検死解剖の第一候補です。手を貸して下さい。」 血液のついた機械を調べるタッカー。「いいぞ。」 異星人の言葉が部屋に再生され始める。 パッドを使うサトウ。「これ、航行日誌じゃないかしら。」 タッカー:「さっぱりだ。洗濯物のリストか、世界征服の方法かもな?」 「文法は、大体見当つきます。※17」 「通信システムは無傷だ。あ…」 機械を運び、接続するタッカー。「次のファースト・コンタクトは是非とも、生きてる奴らにしたいね。」 「ほんとに。船。船。」 機械から反応音が返る。 フロックスは言った。「思った通りだ。」 アーチャー:「何が。」 「ザイマス腺※18です。トリグロブリン※19を分泌します。このチューブやポンプはそのためですよ。誰がやったにしろ、トリグロプリンを集めているんです。」 「何のために。」 「いろいろ考えられます。薬やワクチンにするのか…これを媚薬にする種族もあちこちにいますからね。」 「媚薬にするだって?」 「よく知られた用法です。ご存じなかったんですか?」 「クマの胆汁やら、サイの角の粉なら…私も聞いたことがある。だがまさか、人とはねえ。」 「トリグロプリンは人間のリンパ液に非常に近い物質でもあるんです。」 ハイポスプレーで吸い取るフロックス。 サトウは尋ねた。「通信システム、どれぐらいで使えます?」 タッカー:「1、2分だ。…どうなるかわからんが、エイリアンの船から、宇宙の彼方にメッセージを送ってみる。」 「とにかく早く片づければ、エンタープライズに帰れます。」 「ホシは 2日で 2度の船外任務だ。」 「ええ、まあ…」 「俺も語学をやっときゃよかった。エンジニアより通訳が必要なケースの方が多そうだ。」 「難破。…教員仲間と、休暇旅行でアマゾンの支流へ、出かけたことがあるんです※20。動物を見に。ナマケモノや、ピンクのイルカや、ヘビも山ほど。」 「いいね。」 「最悪の旅でした。アナコンダでもゾッとするのに、スリバン人やここのクルーを殺したような連中に、耐えられるわけないですよね? …地球へ帰してもらうつもりです。」 「…本気か?」 「大学にいるべきでした、私には向いてません。」 「十分上手くやってるよ。」 「少佐は、昨日いなかったから。遺体を見て、私悲鳴を上げたんです。この任務にはもっとたくましい通訳じゃなきゃ。ストレスに潰されないような。私は無理です。」 「まだわからないだろ?」 「わかりますよ。難破。」 機械に別の反応があり、異星人の言語に翻訳された。『Kunatsila.』※21 サトウ:「難破。」 『Kunatsila.』 「いけそうです。船が、難破、救助を。」 『Dukta-mutoor kunatsila datii.』 繰り返される。『Dukta-mutoor kunatsila datii.』 エンタープライズのトゥポルは、通信した。 アーチャーに伝わる。 トゥポル:『トゥポルよりアーチャー。』 アーチャー:「何だ。」 『船が 1隻接近中。パワー特性が、その船のバイオ・ポンプのものと一致します。』 続けるトゥポル。「彼らを殺した犯人が、どうやら戻ったようです。」 呼ぶアーチャー。「行くぞ、ドクター。」 フェイズ銃でポンプを破壊した。「トリップ、ホシ、ドッキングハッチへ。」 ワープを抜ける、異星人の船。 |
※15: Anchorage この部分は訳出されていません ※16: chloraxine ※17: 原語では「文法は bimodal (二項式?) に聞こえます」と言っています ※18: zymuth gland ※19: triglobulin ※20: 原語では「水上スキマー (hydro-skimmer) で」とも言っています ※21: 翻訳機の声 Tranlator Voice (Efrain Figueroa) |
報告するメイウェザー。「未確認船、距離 6万キロ。」 トゥポル:「ブリッジより兵器室。」 リード:『兵器室。』 「敵対的と思われる船が接近中です。防衛体制はできていますか?」 スクリーンに映った船。 兵器室のリード。「微妙ですねえ。到着まで時間は?」 メイウェザー:『10分か、それ以下です。』 「となると、とても間に合いません。スキャナーにはまだ誤差があります。動かない牛小屋を撃てと言うなら、いくらでも御希望に添えますが。船は無理です。」 トゥポルは伝える。「やるしかない。5分以内にブリッジへ来るように。」 シャトルポッドはエンタープライズへ帰還する。 アーチャー:「アーチャーよりトゥポル。ドッキングアームを準備。」 操作するトゥポル。「アーム、スタンバイ。」 アーチャー:『連中の距離は。』 「現在 8,000キロ。」 『武器の種類は。』 「シールドを張っており、検知不能です。」 シャトル内のアーチャー。「呼びかけてみたか。」 トゥポル:『はい。全く応答はありません。』 「もう一度やれ。」 シャトルはアームにつながれた。 メイウェザーが報告する。「ポッド、ドッキング。」 トゥポル:「トゥポルよりアーチャー。依然応答ありません。」 近づく船。 リード:「敵は武器を装填。」 すぐに撃ってきた。 リード:「エンジンが狙われています。」 指示するアーチャー。「じき格納が終わる。ワープスタンバイ。」 揺れはシャトルにも伝わる。攻撃を受けるエンタープライズ。 シャトルはアームから離れてしまった。 外が揺れる様子を見るサトウは、窓を閉めた。 もう一度アームに接続される。 アーチャー:「ドアを。」 外に出るアーチャーたち。降ろされた階段を上る。 アーチャー:「アーチャーよりブリッジ。まだワープに入ってないのか。」 トゥポル:『左舷エンジンに被弾しました。』 「マルコムに魚雷を装填させろ。」 更に近づく敵船。 ブリッジに戻るアーチャー。「報告を。」 メイウェザー:「身動き取れません。」 トゥポル:「攻撃は停止したようです。更に接近してきます。」 アーチャー:「マルコム。」 リード:「魚雷管 2門とも装填済み。」 「右舷魚雷スタンバイしろ。」 「了解。」 「撃て。」 操作するリード。 発射される魚雷。 アーチャーは見つめる。 魚雷は敵船…のシールドに当たり、簡単に弾き飛ばされてしまった。 目を閉じるサトウ。 アーチャー:「左舷魚雷スタンバイ。」 リード:「OK。」 「撃て!」 今度は相手の武器によって、一瞬で爆破された。 リードを見るアーチャー。どうしようもないという仕草のリード。 アーチャー:「トリップ、ワープできるか。」 機関室のタッカー。「エンジンは完全に減極してます。しばらくは動けません。」 突然、ブリッジ内に光が満ちた。端から端まで移動していく。 メイウェザー:「何だ?」 調べるフロックス。「亜分子バイオスキャンです。今スキャンされたんです。全員がね? 君たちのリンパ液に有益な物質があると、気づいただろうね。」 スクリーンを見つめるクルー。 アーチャーはリードに指示する。「…兵器室へ行け。クルーに銃を配るんだ。保安チームを配置しろ。各デッキ…」 何かの反応があり、リードもブリッジを出て行くのを止めた。 メイウェザー:「別の船がワープ解除して接近中。インターセプトコースです。」 「見てみよう。」 小型の船も、こちらへ近づいてくる。 サトウ:「通信が入ってます。」 アーチャー:「つなげ。」 スクリーンに映し出される異星人※22。『Atad dvii oora.』 笑うアーチャー。 トゥポル:「船長?」 アーチャー:「殺されたクルーたちと同じ種族だ。ホシのメッセージを聞いたんだろう。」 異星人:『Aureetuan!』 「我々の上にいる船が、彼の仲間を殺したんだと言え。こっちも襲われてるとな。」 操作するサトウ。異星人は通信を確認する。 サトウ:「伝えましたけど、通じるかどうかわかりません。」 アーチャー:「どうして。」 「スペイン語に訳すのとは、全くわけが違うんです。使った語彙の半分でも意味が伝わっていればラッキーです。」 上の敵船は、エンタープライズ全体にビームを発射してきた。 リード:「捕捉ビームのようなもので、拿捕されました。」 アーチャー:「インパルスエンジン起動。何とか振り払え。」 メイウェザー:「できません。ビームのせいで推進システムが動きません。」 異星人:『Tomii alo owaba! Minas! Ooran tuo calla!』 サトウ:「仲間を殺したって部分は伝わったみたいですが、我々がやったと思っているようで。多分そのようです。」 トゥポル:「我々がメッセージを送ったと言って。殺したならそんなことするはずがない。」 異星人:『Loor rah tee. Ahtara noss rohnay.』 サトウ:「わかった、あのメッセージは彼らの船から出てて、私たちからじゃないと。」 アーチャー:「周波数を合わせるためだ。彼らの船から送るしかなかったと言え。」 異星人:『Mii toras amayar tee!』 サトウ:「DNA スキャンがどうとか、なぜ 2年前にもいたか聞いています。」 アーチャー:「2年前だと?」 「2日前のことかもしれません。音声プロセッサーが、ロックオンし切れてないんです。」 異星人:『Atah hoss moor at!』 「…わかりません。でも協力的じゃなさそうです。」 リード:「上の船まで 50メートル。49。」 アーチャー:「ポンプだ。仲間の遺体につながれいるバイオ・ポンプを、スキャンしてみるように伝えるんだ。我々の技術じゃないとわかる。この真上にいる船のパワー特性と、比較してみるように言うんだ。上の船と距離は。」 リード:「10メートルで止まりました。」 敵船の下部から、何本もの接続クランプが降りてくる。エンタープライズに達した。 揺れるブリッジ。 サトウ:「『ポンプ』って単語が、なかなか見つかりません。プロセッサーで同意語を検索しています。」 異星人:『Loorah! Atah hoss!』 「翻訳機のメッセージは意味をなしてないようで、イラついてきています。このままでは危険だと思います。」 アーチャー:「なら翻訳機はあきらめろ! 君がやるんだ。」 「何をですか?」 「話すんだ。」 「無理です、だって…基本的な動詞の活用もわからないんですから。」 トゥポル:「いいから話しかけて、完璧でなくても。」 「『ポンプ』もわからないのに。誤解を…与えて、事態を悪くするだけです。」 アーチャー:「これ以上悪くなりようがない。」 「船長。」 敵船から伸びた先端の一つは、回転しながら船体に摩擦を起こす。 リード:「船長? 船体に穴を開けています。」 アーチャーはサトウの肩をつかんだ。「…ホシ、ホシ! お前しかいないんだ。話しかけろ。それが使命だろ?」 涙を浮かべたサトウは、スクリーンの前に立った。「ウタ ドゥヴィ ウラ。」 異星人:『Ataa iis? Minas alo...』 アーチャー:「もう一度。」 サトウ:「…ウタ ルラ イス ダ ウリム ミスター ヴー。」 異星人:『Eetova vohmala?』 「イス ダ トゥ・トゥ アモ トゥーラス ダ ヴェンティール、ヴェンティール ノソミ。ウラ、ウタ、ウタ ドゥイ ウラ。」 『Sciitaara.』 アーチャー:「何だって?」 サトウ:「ラトゥラ デイ。」 異星人:『Emos owaba.』 「トニーカ。」 『Aiista...』 喜ぶサトウ。「デイユ!」 アーチャー:「少尉!」 すると、小型船は武器を発射した。エンタープライズにではない。 リード:「上の船を攻撃してます。」 トラクタービームの発射口が攻撃され、ビームは消えた。接続クランプも引き込まれていく。 メイウェザー:「インパルスエンジン回復。」 アーチャー:「離脱しろ。」 リード:「船長、ターゲットスキャナーの調整が完了しました。魚雷の発射許可を。」 「許可する。」 離れ際に、魚雷を発射するエンタープライズ。 見事命中した。 更に小型船の攻撃を受けた船は、爆発した。 アーチャー:「我々の離脱を待ってくれた。全艦、停止。」 サトウに近づく。「……友好関係を築けたようだな。…よくやった。」 『航星日誌※23、2151年5月6日。遺体の回収に協力した後、アクサナール人※24と交流する時間があった。両性具有で、寿命は 400歳以上と判明。もっと落ち着いた状況下で、再会したいものだ。元のコースへ戻る前に、寄り道を許可した。』 エンタープライズは惑星へ近づく。 荒涼とした地表上に、フロックスとサトウがいる。 持ってきたケースを開けるサトウ。ナメクジをのせた石を手にする。「元々いた所とは違うけど、似てるでしょ? きっと、すぐ慣れるわよ。ここでちゃんとやってけるわ?」 ナメクジを地面に置くサトウ。微笑むフロックス。 |
※22: 異星人船長 Alien Captain (Jeff Rickets) ※23: 前話 "Broken Bow, Part II" 「夢への旅立ち(後編)」での "Enterprise Starlog" とは違い、"Captain's Starlog" になっています ※24: Axanar |
感想
レギュラー本編のスタートは、パイロット版が嘘のように穏やかな出だしとなりました。このような展開なら、ENT から見始めた方にもそう厳しくはないと思います。逆に言えば物足りないかもしれませんが、最初はこんなもんで十分でしょうね。 その他の設定も、まだ弱々しい魚雷だったり、汎用翻訳機がほとんど役に立たなかったり、後の時代を知っていればいるほど微笑ましいです。 |
第2話 "Broken Bow, Part II" 「夢への旅立ち(後編)」 | 第4話 "Strange New World" 「風が呼んだエイリアン」 |