一隻で航行するランナバウト。
クローデン:「しかしよく生きていけますねえ。仲間が一人もいないところで。……それでいいんですか?」
オドー:「…私には DS9 が我が家だからね?」
「そりゃあ表面は仲良くしてくれてたって、内心はどうだかね。あなたの能力をもってすりゃ、四角い穴にでも丸い穴にでも収まれるでしょうが、無理をしてるのには違いない。私の石と同じ…」
「君がラカーでどんな罪を犯したのかわかってきたぞ。もちろん盗みと殺しのほかにな?」
「それは何です?」
「しゃべりすぎの罪だ。」
笑うクローデン。「そうかもしれませんね。全てはそこから始まったのかも。私がいろいろと聞いて回ったのがいけなかったんだな。…だからきっと、あんなことになったんでしょうよ。」
オドー:「あんなことってそりゃどういうことだ。」
「…あの夜当局が来たことです。…私はその日まで何も知らされていなかった。当局は、じき夜が明けるという時に家に踏み込んできて、私が止める間もなく、妻を 2人とも殺したんです。…ラカーでは、社会の敵と見なされた人物への罰はねえ、その人物の家族を皆殺しにすることなんですよ。私は大した武器を持っていなかった。夕食に食べた鳥をさばいた時に使った、刃渡りの短い肉切り包丁が手元にあっただけでした。…いやあ、あの時は驚きましたよ。警官の首をちょん切るのも、鳥の首をちょん切るのもそう変わらないだなんて、思ってもいなかったですからねえ。しかも、断末魔の悲鳴だって人も鳥も似たような声を出すなんてことはねえ。」
「…そんな滅茶苦茶な話を信じろとでもいうのか。」
「信じたら何か不都合でもあるんですか。」
「いや?」
「…なら信じて下さい、本当ですから。…私をラカーに連れて帰ったら、大歓迎されますよ。それどころか、一躍国民の英雄になるだろうなあ。これをきっかけに外交が樹立できるかもしれませんよ?」
「いい加減に黙らないとラカーに着くまで隔離室に閉じこめるぞ!」
「…すいませんでした。ついつい気がつかなくて。」
異星人船が停泊している、DS9。
アー・ケル:「さっさと吐け!」
クワークの店に駆け込むロム。「でもクローデンなんか俺たちかくまってませんよ…!」
アー・ケル:「奴をどこへやった、クワーク。」
クワーク:「クローデンか、保安部にいるだろ…?」
クワークをラチナムが置いてあるカウンターに押しつけるアー・ケル。「嘘をつくな! 奴はいない。お前が隠したんだろ。最初からお前はクローデンとグルだったんだ。ということは兄の死はお前にも責任があるってことになる。」
クワーク:「そんな、誤解だよ! …全部オドーの計略だ。…わからねえのか? 俺たちを反目させようとしてやがんだよ…」 隠れて見ているロム。
「誰がお前なんぞ信じるか! クローデンはどこにいるんだ。教えなければお前を奴の代わりに殺す。」
「居場所なんか知らねえったら! でも自由にしてくれるなら探してやってもいいぜ?」
離すアー・ケル。
クワーク:「…保安部のチップをくれ。クリアランスレベル4 だ。」 コンピューターのパネルを外す。
たくさんのアイソリニアロッドの中から、必要な物を探すロム。
指を鳴らし、急かすクワーク。ロッドをコンピューターに差し込む。
画面がアー・ケルに見えないように操作するクワーク。「ああ、何だかよくわからねえ…」
アー・ケル:「ならどけ!」 自分で操作する。「コースはちゃんとログエントリーに表示されているじゃないか。クローデンはシャトルでこっから出てったんだ。」 怯えるロムを見る。「いいか、これだけは覚えておけよ。もし今度ごまかそうとすれば、容赦はしないぞ。戻ってきて殺す。」
クワークの首をつかみ、離すアー・ケル。店を出て行く。
ロム:「兄貴…これからどうするつもりなんだよ。アー・ケルはクローデンもオドーも一緒に殺しちまう気でいるみたいだぜ。」
クワーク:「オドーがクローデンを渡せば別だが。」
「それもヤバいよ。そしたら、クローデンの口から俺たちの計画がアー・ケルにバレちまうだろ。もうダメだ、もうおしまいだよ。どっちへ転んでも殺される。」
「ピーピー言うんじゃねえ。オドーのこった、きっと命を賭けてでも…クローデンは渡さねえだろう。」
「ほんとにそう思う?」
「いいからてめえはすっこんでろ! バカ。」
司令官室から出てくるシスコ。「どうした、オブライエン。」
オブライエン:「ミラドーン船が発進の準備中です。」
「少佐。何とかして時間を稼いでくれ。」
キラ:「司令室よりミラドーン船へ。現在位置のまま、発進手順の指示に従って下さい。」
オブライエン:「応答なし、動きも止めません。」
シスコ:「ダックス、オドーがラカーに着くのはいつだ。」
ダックス:「…あと 5時間強かかります。」
キラ:「ミラドーン船へ。あなた方はベイジョー政府の定めた航行法に違反しています。直ちにドッキングリングへ戻って下さい。」
オブライエン:「反動推進エンジンのパワーを上げました。」
シスコ:「スクリーン、オン。」
DS9 を離れたミラドーン武装海賊船※17は、そのままワームホールに入っていくのが見えた。
星雲に近づくランナバウト。
クローデン:「渦の中を通った方が時間が短くて済む。回っていくと大変ですよ。…ああ。…自分の種族のことを知りたいとは思わないんですか?」
オドー:「…もちろん知りたいさ。ただし今は任務の途中だからな? 個人的なことのために寄り道はできないだけの話だ。」
「今では彼らは、人間の形は保っていません。ラカー人に同化することを拒んだんでね。プライドの高い種族なだけに、迫害もひどかったんです。…でも、彼らの名誉のために言っておきますが、私がコロニーに不時着した時助かったのは、彼らのおかげです。重傷だったからあのまま放っておかれれば死んでいた。…あなたが彼らと同じ種族なのは間違いない。真面目で正義感にあふれるところが、そっくりだ。」
「君もしつこい男だな。」
警報が鳴り、ランナバウトが揺れた。
オドー:「コンピューター、何だ今のは。」
コンピューター:『集中プラズマチャージを受けた衝撃により、一時的にですが船が安定を失いました。』
「攻撃されたってことか。」
『その通りです。追跡船の接近コースは、181、マーク 12。』
「その船をモニターで認識できるか。」
『ミラドーン船、セータ・クラスです。』
「アー・ケルからの通信だ。」
映るアー・ケル。『さっきの一撃は警告だ。降伏してクローデンをこちらに引き渡してもらおうか。』
オドー:「私は任務を放棄したりはしないぞ、アー・ケル!」
『よし、わかった。それなら貴様も奴と共に死ぬがいい。』 通信を終えるアー・ケル。
攻撃してくるミラドーン船。
爆発するコンソール。
コンピューター:『ワーニング。シールドに損傷発生。』
オドー:「コンピューター、回避行動を取れ!」
逃げるランナバウト。
コンピューター:『ワーニング。シールドが 41%※18にダウン…』
クローデン:「このコンピューターじゃあいつには勝てませんよ!」
オドー:「私は保安チーフだ、戦闘員じゃない。※19」
「じゃあ私が操縦します!」
「お前が?」
「渦へ逃げ込むんです、そうすればイオンガスがあっちのセンサーから隠してくれる。…人を疑うのもいいけど、時と場合ってもんがあるでしょうが! このままじゃ 2人ともあの世行きだ。」
「クソー!」 オドーはクローデンの手錠を外した。操縦するクローデンを見る。
チャムラの渦に入っていくランナバウト。
オドー:「…何でスピードを落としたんだ。」
クローデン:「渦の中には、至る所にトー・メイアー※20っていう揮発性のガスポケットがあるんです。下手に突っ込んでいけば、大爆発を起こして船ごと木っ端微塵だ。」
「……お前本当にここに来たことがあったんだな。」
「私だって時には本当のことを言いますよ。」
「いつも本当のことを言った方が楽だと思うがね?」
また攻撃を受けた。
オドー:「ガスがセンサーを遮ってくれるんじゃないのか!」
クローデン:「きっと通常エンジンの音を拾われてるんです。コンピューター! 通常エンジンを切って、反動推進エンジンに切り替えてくれ。」
コンピューター:『了解、反動推進エンジンに切り替えます。』
オドー:「…次はどうする。」
クローデン:「通常エンジンの音が拾えなくなれば、反動推進エネルギーを探知しようとするでしょう。ここは一度、着陸しましょう。…さあいよいよですよ。あなたのふるさとまで、後もう少しだ。」
向かうランナバウト。
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※17: 少し前に映っていた船。Robert Delgado デザイン。後に TNG第156・157話 "Gambit, Part I and II" 「謎のエイリアン部隊」のバランの傭兵船、VOY第62話 "Favorite Son" 「女たちの星」のタレージア船として再利用
※18: 吹き替えでは「45%」
※19: "I'm a security chief, not a combat pilot." ドクター・マッコイの有名なセリフ、"I'm a doctor, not a ***." より
※20: toh-maire 初登場
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