エンタープライズ エピソードガイド
第29話「許されざる越境」
Minefield
イントロダクション
食堂に入ったリード。奥へ進み、ドアスイッチを押す。 アーチャー:『入れ。』 制服を正し、ドアを開けるリード。 先に船長用食堂で待っていたアーチャー。「おはよう。」 リード:「…どうも。」 「よく寝たか?」 「ああ…一応は。」 「何が好きかわからなかったから勝手にオーダーしたぞ? シェフ得意の、エッグズベネディクトでいいか?」 「ああ…結構です。」 「……立ったまま食べる気か?」 「ああ…」 飲み物を注ぐアーチャー。 リードはゆっくりと座った。「ああ…。」 アーチャー:「…校長室に呼び出されたんじゃないんだ。楽にしろ。」 「…恐縮です。…何か話があって呼ばれたのかと、思いましたので。」 「違うさ、仕事じゃない。兵器士官と朝食をとる約束が、延び延びになってたからな?」 給仕に運ばれる料理。「ああ。…イングランドはワールドカップ※1で決勝まで行ったそうだなあ。」 「は? 何ですか?」 「…ワールドカップだよ。サッカーの。」 「あ、ああ。…フットボールはあまり、観ませんので。」 「何か、好きなスポーツはないのか。」 「特に、ありませんね。」 「ああ…。」 給仕に話すアーチャー。「ありがとう。」 出ていく給仕。「ごゆっくり。」 笑うアーチャー。 リード:「勤務表を見直してたんですが、兵器室に常駐してるクルーは 2名しかいません。3人目を加えれば、タナー少尉※2が…先日お話しした魚雷発射装置のアップグレードにかかれます。」 持っていたパッドを置く。 アーチャー:「お母さんに言われたろ? 食事中に宿題はよせって。」 「は?」 仕方なく読むアーチャー。「いいんじゃないか?」 リード:「ああ…。」 通信の呼び出しに応えるアーチャー。「アーチャーだ。」 トゥポル:『お食事中すみませんが、コース沿いに星図にない星系を検知しています。ミンシャラ・クラスの惑星があります。』 「ワープ解除だ、すぐに行く。」 立ち上がったリード。 アーチャー:「食事は、また仕切直しのようだな?」 リード:「ご都合のよろしい時に。」 「うん。」 手を伸ばしたアーチャーの代わりに、リードがドアを開けた。「あ。…どうぞ。」 外に出るアーチャー。 エンタープライズは惑星へ近づく。 ブリッジへ入るアーチャー。「居住者は。」 トゥポル:「無人の星です。」 「地理的には? 面白いものはあるか?」 スクリーンに映る惑星。 「惑星の半分に渡って、火山が連なっています。」 「そろそろ新鮮な空気が吸いたいが、君らはどうだ? 標準軌道に入れ。」 メイウェザー:「了解。」 「なだらかな火山を探してくれ? できれば噴火してないのがいいな? トラヴィス、シャトルを用意しろ。交代で地表へ降りて…」 突然、大きな揺れが襲った。あちこちで爆発が起こる。 吹き飛ばされるサトウ。 船の左舷船体が、大きく破損した。 |
※1: 現在の年にワールドカップが開かれたような言い方ですが、4年ペースだと 2152年には開かれません (2150→2154)。第三次世界大戦あたりのせいで開催時期がずれたんでしょうか ※2: Ensign Tanner |
本編
起きあがるアーチャー。「報告!」 リード:「熱反応爆発があったようです。左舷前方です。損傷、Cデッキと、Dデッキ。」 気を失っているサトウに近づいたトゥポル。「医療室へ、ブリッジで負傷者です。」 フロックス:『了解。』 アーチャー:「非常用隔壁は。」 リード:「閉まってますが、8区画で減圧してます。」 「誰かいたのか。」 「今のところ、不明です。」 「原因を調べろ!」 サトウの様子を見たアーチャー。「マルコム!」 「わかればお答えしますが、センサーには何も出てません。全システム正常でした。」 「アーチャーより機関室。」 火災が発生している機関室。「火を消すんだ!」 タッカー:「船長、何だったんです!」 アーチャー:『君に聞きたいよ。』 「こっちはプラズマファイヤー発生、EPS グリッドオーバーロード、原因は見当もつきません。攻撃か、小惑星か。」 サトウに近づくクルー。 アーチャー:「センサーには何も出てない。機関部員は無事か。」 タッカーは答えた。「かすり傷はありますが、無事です。」 アーチャー:『また報告しろ、以上だ。』 コンピューターの船体図には、破損した部分に反応が出ている。 尋ねるアーチャー。「負傷者の報告は。」 リード:「今入ってきてます。現在 17名、ホシも含めです。死者はありません。」 サトウを運ぶクルー。「担架に移そう。頭に気をつけて。そーっとな。」 慌ただしい医療室。「じっとしてて下さい。」 フロックス:「イメージチェンバーに入れて?」 クルーの声が飛ぶ。「血が止まらないんだ。」「ハイポスプレーを。」「バイタルチェックだ。」 寝ている女性士官※3。「何だったの。攻撃されてるの?」 フロックス:「わかりません。」 次々と怪我人が入ってくる。「ドクター!」※4「誰か御願い。脚が折れてるみたいなの。」「大丈夫よ? すぐ良くなるわ?」 メイウェザーは報告した。「船長、今何かが船に当たりました。右舷側の…後部上方です。」 アーチャー:「映像は出るか?」 船体が映し出された。特に何も見あたらない。 アーチャー:「そこだ。プラズマ排出口の後ろ。見えるか。」 拡大される。揺らめく何かの機体が見える。 メイウェザー:「遮蔽した、船ですか?」 アーチャー:「小さすぎるなあ。」 トゥポル:「生体反応は検知していません。」 機体は完全に姿を見せた。 リード:「爆弾を検知。トリコバルト爆弾※5です。恐らく機雷でしょう。先ほどの爆発からすると、これと同じものかと。」 アーチャー:「今も生きているのか。」 「死んでる根拠はない。」 トゥポル:「船長、第2インパルスリアクターの近くです。もしあの位置で爆発すれば、船は航行不能です。」 アーチャー:「あの辺の外壁を、装甲モードにしたらどうだ。」 リード:「何で起爆するか。行って信管を外すしかありません。私が行きます。訓練を受けてますから。」 考えたアーチャーは、うなずいた。向かうリード。 アーチャー:「機雷原なら、2機だけということはないだろう。…量子ビーコンは今もグラップラーについているか。※6」 メイウェザー:「そう思いますが。」 「降ろして準備しろ。ビュースクリーンを調整して。」 グラップラーが出される。 アーチャー:「量子ビーコン起動。」 惑星上空が映される。特に変化はない。 トゥポル:「現在はスリバンの遮蔽装置に合わせてあります。位相変動をシフトさせてみます。」 用意される環境服。 リードは最後にヘルメットを被った。 ヘルメットを閉め、ライトが灯る。 リードはスイッチを押し、上部のハッチが開いた。 リード:「リード大尉よりブリッジ。外部ハッチを開けました。祈ってて下さい。」 操作すると、リードの身体は浮き上がっていく。 トゥポルは言った。「ガンマスペクトルに、何か反応があります。位相変位は…0.0075 です。」 スクリーンに、たくさんの物体が見えてきた。 完全に見えるようになった機雷は、何十個とある。 ため息をつくアーチャー。 エンタープライズの外を歩くリード。人の背丈ほどもある機雷に近づく。「表面に細かいへこみが多数。微少隕石の衝突によるものでしょう。長い間軌道上にあったようですねえ。スパイクには磁力があり、2本で外壁に吸着しています。待機を。内部のスキャンをしてみます。…接近センサーはありますが、稼働してないようですねえ。船に当たったのを検知してないんです。アクセスパネルらしきものがありました。今から外して中を…調べてみます。」 リードの話を聞いていたブリッジに、タッカーがやってきた。 アーチャー:「ひどいのか。」 タッカー:「減圧したセクションに実際行ってみないことははっきり言えませんが、相当やられてるでしょうね。一つ、いい知らせがあります。数えましたが全員揃ってます。」 「うん。…マルコムが機雷を解除できるかどうかはわからない。船体外壁をその部分だけ外して、飛ばせるか。」 「…EPS コンジットをつなぎ直さないと。ほんの、300個所ぐらいですが。やれますけど。」 「時間は。」 「3、4時間ですか。でも勧めませんね。インパルスマニフォルドがかなりむき出しになる。」 「一チームかからせろ。やるにしても最後の手段だ。」 リード:『パネルを外します。』 機雷から円筒状の構造が突き出してくる。 リード:「起爆装置が出てきました。」 リードは外したパネルから手を離す。漂っていくパネル。 その時、上方に一隻の宇宙船が姿を現した。 リード:「船長。」 アーチャーは応えた。「ああ、見えてる。」 スクリーンにも、その船が映っている。 |
※3: 怪我したクルー Injured Crewmember (Elizabeth Magness) 後にも登場 ※4: 医療技師 Med Tech (Tim Glenn) ※5: tricobalt explosive TOS第23話 "A Taste of Armageddon" 「コンピューター戦争」など。U.S.S.ヴォイジャーもトリコバルト装置を搭載していました (VOY第2話 "Caretaker, Part II" 「遥かなる地球へ(後編)」) ※6: ENT第26話 "Shockwave, Part I" 「暗黒からの衝撃波(前編)」より |
船は近づいてくる。 アーチャー:「見たことはあるか。」 トゥポル:「いいえ。こちらのスキャンを逸らしてます。」 「なぜ遮蔽を見破れなかったんだ。」 「機雷の遮蔽システムより、複雑なようです。」 メイウェザー:「…船長、通信が入ってます。」 トゥポルが通信席についた。 相手の声が流れるが、理解できない。 トゥポル:「…翻訳機でロックできません。」 アーチャー:「……アーチャーより医療室。」 フロックスは応えた。「はい、船長。」 医療室はクルーであふれている。 アーチャー:『ホシはブリッジに戻れる状態か、緊急なんだ。』 「残念ですが、ひどい脳震盪を起こしてます。」 『わかった。』 起きあがるサトウ。「すぐに向かうと言って。」 フロックス:「今の状態で行っても、役には立ちませんよう?」 サトウはまた横になった。 異星人の言葉は翻訳できない。 アーチャー:「どうだ。」 トゥポル:「まだです。」 メイウェザー:「…兵器を起動してます!」 船は撃ってきたが、上方に逸れていった。 メイウェザー:「右舷をかすりそうでした。20メートル以内です。」 アーチャー:「ただの警告とは言いがたいな。」 また武器を発射する船。 作業をしているリードの上をかすめていく。 アーチャーは尋ねた。「脱出できるか。」 メイウェザー:「機雷の軌道がものすごく不規則なんです。際どいですね。」 「最善を尽くしてくれ? ブリッジよりリード大尉。」 リード:『はい。』 「その船の連中は我々を追い出したいらしい。軌道を離脱する。ゆっくり行くからな。」 応えるリード。「了解。ワープ速度に入る時は、言ってくれますよね?」 アーチャー:『覚えておくよ。』 命じるアーチャー。「方向制御スラスターだけ使え。」 メイウェザー:「了解。」 操縦桿を手前に出す。 「量子ビーコン起動。」 機雷が見えるようになり、相手の船を避けて移動し始める。 エンタープライズの後方にいた船は、遮蔽した。 リード:「船は姿を消しました。」 アーチャー:『帰っていったとは思えないな。』 慎重に操縦するメイウェザー。 機雷原を抜けていく。 メイウェザーの額には汗が浮かんでいる。 リード:『リード大尉よりブリッジ。』 アーチャー:「何だ。」 提案するリード。「作業中のものとは別に、4つの起爆装置を確認しました。…手順を間違えずに分離すれば、手間はかかりますが起爆装置を…解除できるはずです。ただ正直言って、理論上はです。」 アーチャーは立ち上がった。「頼れる理論か?」 リード:『私が知ってるものでこれに一番近いのは、トリトン・クラスの空間魚雷※7です。何度か、起爆装置を解除しました。できると思います。』 「トリップに代わりのプランを準備させてるが、それは使いたくない。今は君が頼りだ。…気をつけてくれ?」 まだ機雷原は続いている。 メイウェザー:「行けるぞ。」 作業を続けるリード。 その時、機雷から新たに設置用スパイクが伸びてきた。 叫ぶリード。 スパイクはリードの脚を貫通し、船体に固定された。血が噴き出す。 穴は氷でふさがれた。 リード:「ブリッジ!」 アーチャーは応えた。「何だ。」 リード:『最初に報告したスパイクですが。』 「それが?」 リードは続ける。「もう一本外壁に取り付きました。」 アーチャー:『問題があるのか。』 「私の脚を…貫通していってます。」 動けないリード。 すぐに行動するアーチャー。「大尉、すぐ行く。ブリッジを頼む。」 タッカー:「船長! 行くなら俺でしょ。エンジニアです。」 「だからここにいて欲しいんだ。」 ターボリフトのドアは閉まった。 怪我をしたクルーに話すフロックス。「ペットの浸透性ウナギ※8が傷を焼くから待っててくれえ? フーン、奴も今日は忙しい…」 サトウ:「ドクター。」 「…少尉。」 「通訳が必要よ? 持ち場に戻らなきゃ…」 「気持ちはよくわかるが、ターボリフトまでももたないよ。通信記録をもってきてもらうよう頼もう。」 「ありがとう、ドクター。」 環境服を着たアーチャーが近づく。「手がいると思ってな?」 リード:「手よりも…脚ですね。ああ…。」 「…そいつをどうすればいいか診てみよう。」 医療用スキャナーを使うアーチャー。「よかったな、骨は無事だ。スパイクからの圧力で、出血も抑えられてるようだ。すぐ医療室へ連れてってやる。無理なく切れるはずだ。」 「私ならやめておきます。…スキャンによると、スパイク内を起爆装置が通っています。よさそうなのは脚の切断ですが、シェフがモモ肉で、ロースト・リードを作って出したら嫌でしょ?」 笑うアーチャー。 リード:「何か、痛み止めだけ下さい。アクセスパネルには何とか届きますから。」 アーチャー:「動くと脚の傷がもっとひどくなるぞ。」 「どっちが大事なんです。私の脚と、あなたの船と。」 「どっちも救うつもりだよ。」 「どうやってです。」 「代わりのプランがあると言ったろ? 船体外壁のこの部分を外せるよう、準備させてるんだ。その時はいい案に思えたがなあ?」 「今も思えますけどね。」 「君がくっついてちゃ別だ。」 「それは麻酔なんですよね。」 「フロックスの特製だ。」 ハイポスプレーを打つアーチャー。 「ああ…。」 笑うリード。「もうちょっと…打ってもらえますか?」 アーチャー:「あんまり朦朧とされちゃ困るんだ。君の助けがいる。…こいつの信管を外さないとな。一つずつ、指示してくれ。」 「お言葉ですが船長…起爆装置の解除は非常にデリケートな作業なんです。船長は訓練を、受けてません。」 「覚えは早いぞ。」 「…危険すぎますよ!」 「…君も知ってるはずだぞ。ここはインパルスリアクターから 5メートルと離れてない。…こいつを解除するまで戻らないからな。」 「船長!」 「見たところ君に、選択の余地はないだろ? 串刺しじゃな。早く指示してくれ。」 リードは道具をアーチャーに渡した。「手を震わせないで下さいよ?」 2人がいるエンタープライズの外壁。周りには宇宙空間だけが広がっている。 イヤーレシーバーを使うサトウ。「彼らの星系から即刻離れないと、破壊すると言ってます。」 タッカー:「楽しそうだな。できるだけ早く出ていくって伝えたいが、何とか訳せると思うか。」 「やってみます。」 トゥポル:「2度目のメッセージは?」 「この惑星を、彼らの名の下に併合したと言ってます。『ロマリン帝国』とか。」 聞き覚えがないと、首を振るタッカー。 トゥポル:「ロミュランです。ロミュランと、発音するんです。※9」 タッカーはトゥポルを見た。 |
※7: Triton-Class spatial torpedo ※8: osmotic eel ENT第2話 "Broken Bow, Part II" 「夢への旅立ち(後編)」より ※9: このセリフからすると、ロミュランは自分たちのことを実際に「ロミュラン」と発音していることになります。地球人がローマ神話のロミュラスとレムスのになぞらえて命名…のはずだったのでは。また、音しか聞いていないはずのサトウが「言い間違える」なんてことがありえるのでしょうか? 文字を見て訳しているなら別ですが…。翻訳機には謎の部分が多いですね |
アーチャーは伝える。「ロミュラン? 未来へ行った時、本で見たな。」 タッカー:『何とありました。』 「名前しかわからない。ダニエルスが読ませなかったんだ。※10トゥポル。」 トゥポル:『好戦的で、領土意識が強いという噂ですが、ヴァルカン最高司令部は接触したことはありません。…サトウ少尉によれば、彼らはこの星系からの即時撤退を要求しているそうです。』 「今はちょっと難しいだろうな。何とか、こっちの現状を説明できないか。」 医療室のトゥポル。「少尉が、一時間でメッセージを用意できると言ってます。」 タッカー:「そっちの様子はどうです。」 アーチャー:『起爆装置を、もう 2つ解除した。あと 3つだ。また報告しろ。』 通信を終えるタッカー。 構造表示を見るリード。「次のは曲者ですよ? 回路を囲んでる、Y字型の配線が見えますか。」 覗き込むアーチャー。「6つある。」 リード:「そう、時間調整リレーです。それぞれを反時計回りに、70度回転させて下さい。ただ、順番が大事です。私が指示します。まず右手上部から始めて下さい。一センチ引き出し、反時計回りに、70度を…回転させて下さい。」 指示された通りにするアーチャー。 リード:「そうです。では引き出して、ゆっくりと。周りには、触れないように。」 状況が刻々と、リードがもっているスキャナーに映し出される。「上出来です。次は、対角線上のを。同じ手順で。」 アーチャー:「何話したっけ。」 「は?」 「今朝だよ、朝食の邪魔が入る前だ。君は…好きなスポーツはないんだっけか。」 「…ええ、朝食の後も特に興味は湧いてません。」 「…ああ。」 「次は、上部中央のリレーです。これは気をつけて。損傷があるようです。動かすにはちょっと力がいると思います。」 「…趣味はどうだ。何かあるか。」 「いえ? 特に何も。」 「食堂で本を読んでるのを見たぞ。」 「船長。今世間話をしている時ではないと思います。」 「集中しやすいんだ。リラックスできる。」 「私は落ち着けませんね?」 「悪いなあ。今朝も世間話に、落ち着かないようだった。どうしてだ。」 「招かれたのは、光栄に思いますが正直言えば…良いこととは思えません。船長と気軽に食事するなんて、上官と気安い関係になるなと教わりましたので。」 「新しい教えさ。」 「もし言わせて頂けるなら、人付き合いの余地は宇宙船にはありません。」 「そういう指揮官に、ついたことがあった。『クルーは友達ではない』と言ってた。それもよく考えたよ、この船に来た時な。だがこれは普通の任務とは全く違う。何年も帰れないんだ。頼れるのは仲間だけ、お互いだけだ。」 次のリレーを出したアーチャー。「ああ。」 「あと 2つですね、左の、上のを。」 「だが助言はありがたいよ。マルコム、ほかにないか。」 「では、言いますが…ブリッジの規律が緩んでいると思います。みな勝手な意見を言いすぎる。命令に従うのが我々の役目です。船長はあなただ。」 「上級士官が黙って座ってたら、何の意味がある。意見をもつのは大事だよ。頼りにしてるんだ。……ほかには。」 「保安上の問題なんですが、船長は時々慎重さに…欠ける時が。」 「君が心配してるのはよーくわかってるよ。」 「船長の下で働けてもちろん光栄でした。」 「駄目だ!」 「…何が?」 「今過去形で話してたぞ、大尉。」 6つのリレーを全て出し終えた。 「では、出したリレーを、差し込んで戻します。今度は逆の順にです。」 押し込んでいくアーチャー。 リード:「いい調子ですよ?」 アーチャー:「ありがとう。」 全てのリレーを戻すと、起爆装置が引っ込んでいく。 ついにスクリーンから機雷が見えなくなった。 ため息をつくタッカー。「しばらく休んでいいぞ、トラヴィス。その間ハッチソン少尉※11に任せろ。」 メイウェザー:「…ありがたいですが、持ち場にいさせて下さい。」 トゥポル:「ブリッジよりアーチャー船長。」 アーチャー:『何だ。』 「…機雷原を抜けました。」 命じるアーチャー。「コースとスピードを維持だ。」 トゥポル:『了解。』 リード:「…この最後の起爆装置は、お楽しみつきです。…バックアップの起動メカニズムのようなものが、見えてるんです。…この装置に回路がまだ生きてると思わせないといけません。」 アーチャー:「どうやるんだ。」 「工具ケースの中に、ハイパースパナ※12があります。パワーセルを取りだして、ケースを剥がして下さい。」 「この船の任務は、普通とは違うと君もすぐに気づいたろう。私が、軍規優先の完璧主義とは、違うのもな。」 ハイパースパナを取り出すアーチャー。 「明らかでした。はっきり言えばですが。」 笑うアーチャー。「妙だな。」 リード:「何が妙です。」 「君の家は、長く続いたイギリス海軍一家だろ? お父上も、おじいさんも。※13なぜ宇宙艦隊へ。なぜ伝統を守らなかったんだ。」 「守ろうとしましたよ?」 「どうなった。」 「サーキットプローブを下さい。」 リードに手渡すアーチャー。「で、どうなった?」 リード:「私は水辺で、育ちました。自転車に乗るより先に、ボートを操縦してた。有名な海戦も学んだ。馬鹿ですねえ、大人になればなくなると、思ってたんです。」 「なくなるって?」 「…水恐怖症です。」 「…水が怖いのか。」 「正確に言えば…溺れることがです。」 「それで…海じゃなく、真空の宇宙での暮らしを、選んだというわけか。」 調整したリード。「大おじがいて、同じ悩みがありました。…でも恐怖に立ち向かい、海軍に入って、功績を挙げました。それをただ…上部右手のシリンダーに、取り付けて下さい。」 確認する。「上手くいった。一番上の部分から始めて下さい。カリパスで、2、3ミリ持ち上げて、それから時計回りに 360度回して下さい。そして、そっと挿入し直す。…彼は私の英雄でした、大おじです。」 「水恐怖症の。」 「大おじは、潜水艦勤務を志願したんです。」 「最大の恐怖に立ち向かったのか。」 「勇敢な人でした。…昇級するのに長くはかからず、クレメント号※14の機関主任になりました。クレメントの話は御存知で。」 「記憶には…ないな。」 一つのリレーの作業を終えるアーチャー。 「OK です。そして、ほかの 5つに移ります。それぞれに同じことを、繰り返して下さい。反時計回りです。」 「クレメントの話だったぞ?」 「通常パトロールの際に、事故が起きました。…これが皮肉にも、機雷でした。何度目かの、世界大戦の残りです。潜水艦は、動けなくなった。氷の下でした。いくつかの区画が浸水、機関室も含めです。想像できますか。大おじが…何より恐れてたことです。船は沈み初め、動力を失った。彼の部下によれば、大おじは機関室にたった一人こもり、クルーが脱出用の船に乗り込むまで、エンジンを稼働させ続けたそうです。そして船と沈みました。仲間を助けるために、務めを果たしたんです。」 「君がほのめかしてることはわかったつもりだ。…ありがたいが…自己犠牲は別の機会にとっておいてくれ。」 「その覚悟はあると、知っておいて下さい。」 「聞いたよ。」 「もしも信管を外せなかったら、クルーのために私は…」 「大尉、聞いたと言っただろ!」 「……ああ…もう一つ問題発生です。」 「何だ、どうしたんだ。」 「…トイレに行きたいんですが。」 「…誰にも言わないよ。」 「…宇宙服にですか?」 笑う合う 2人。 リード:「…船長。」 見上げるアーチャー。 後方で今度は 2隻のロミュラン船、先ほどのバード・オブ・プレイ※15が遮蔽を解除した。 報告するメイウェザー。「通信が入ってます。」 ロミュラン:『我々の警告を無視したな。』 トゥポル:「あなた方の言語を翻訳できたのがつい先ほどです。今、機雷の信管を外しているところです。」 『状況はスキャンでよくわかっている。機雷が設置した部分の外壁を外す準備をしているのもな。早く作業を終わらせて、この星系から即刻立ち去るんだ。』 タッカー:「クルーが一人身動き取れない。それもスキャンでわからないのか?」 『たかが一名だ。ほかの 82名の安全が懸かっている。外壁を投棄してすぐに去れ。我々はスパイ行為を許容しない。』 バード・オブ・プレイは再び遮蔽に入った。 アーチャー:『トゥポル、報告を。』 トゥポル:「船体外壁を投棄して、すぐにここから去れと言っています。」 タッカー:「こっちをスキャンして、準備してるのを知ってます。」 アーチャー:『最後の起爆装置を解除してるとこだ。待機してろ。』 アーチャーはリレーを戻した。だが反応があり、機雷上部が持ち上がった。 状況を見るリード。「…起動してます! 最後のを急いで戻して、早く!」 リレーを元に戻すと、音は止まった。 アーチャー:「……なぜだ。」 リード:「予備の起爆装置が起動したんです。…メイン装置を解除したことで。」 「じゃ予備の解除法は!」 「ありません、深すぎて届かない。機雷全体を分解しないと。…船長…例の自己犠牲の話ですが。…そろそろ、その時です。」 |
※10: ENT第27話 "Shockwave, Part II" 「暗黒からの衝撃波(後編)」より ※11: Ensign Hutchison ※12: hyperspanner DS9第100話 "The Ship" 「神の船」など ※13: ENT第12話 "Silent Enemy" 「言葉なき遭遇」より ※14: 原語では「H.M.S.クレメント (H.M.S. Clement)」。TNG第167話 "Lower Decks" 「若き勇者達」で、U.S.S.クレメントが言及 (アポロ級、NCC-12537) ※15: ロミュラン・バードオブプレイ Romulan bird-of-prey この名称は言及されませんが、明らかに TOS第9話 "Balance of Terror" 「宇宙基地SOS」に登場したロミュラン船と似た形状です。船体に鳥の絵はありませんが… |
リードは言った。「船長は手を尽くしました。…一つ言うなら、いい兵器士官になれます。」 アーチャー:「予備の起爆装置はどこだ。」 「葬式は水葬がいいですねえ。身体のかけらが、残ればですが。」 「水が怖いんじゃないのか? スキャナーをこっちに貸せ。」 「船長、言ったでしょう。もう何もできることはありません!」 「一つずつ部品を外してでも解体するぞ。」 「何日もかかりますよ。」 「スケジュールは空いてる。」 「ロミュランはどうします。気の長いタイプには見えませんよ? この星系に長く留まれば、攻撃の可能性も高まる。…船長のお気持ちには感謝しますが、船体外壁を投棄するしか…もう手はありません。」 「私は部下を見捨てるつもりはない。」 「エンタープライズを危険にさらしてるんですよ?」 「時間の無駄だ! 助かる方法を一緒に考えろ、これは命令だ!」 するとリードは、手を頭部後方に伸ばした。ヘルメットにつながる管を外す。 空気が漏れる音がする。目を閉じるリード。 アーチャーはスキャナーを放り捨て、近づく。「何をしてるんだ!」 苦しむリード。アーチャーは管を戻した。 リード:「ああ…。」 「空気供給量」と表示された目盛りは、ゼロになった。 アーチャー:「クソー!」 自分の環境服から、予備の管を伸ばしてリードにつける。「俺が君の望むような船長なら、下士官に格下げしてるぞ!」 「お言葉ですが…私が思う船長なら、この会話すらしてません。とっくに外壁を外してる。」 「そんなことはしないぞ、マルコム。」 管を戻すアーチャー。「予備の起爆装置が動いたなら、なぜ爆発しなかった。…起爆装置を戻すまで何秒あった。」 「は?」 「何秒あった!」 「覚えていません。10秒か、12秒。」 「20秒なかったか?」 「10秒も 20秒も同じことでしょう。」 「もし爆発したら…威力はどのくらいになると思う。」 「一つ目の機雷の被害から見て、4分の1キロトンぐらいでしょう。何を考えてるんです。」 廊下を歩いてきたトゥポルとタッカー。 アーチャーが出てくる。「投棄の準備はどこまでいってる。」 タッカー:「2個所つなぎ直すだけです。外の方はどうです。」 「外壁を外すことになる。」 トゥポル:「……手は尽くされたと思います。」 「大尉と一緒に行く。シャトルのハッチは、機雷の爆発に耐えられるか。」 タッカー:「距離によりますけど。」 「20 から 25メートルだ。」 「デュラテニウム合金で補強されてますから、耐えられますが。どうする気です。」 「ハッチを 2枚用意してくれ。すぐここへ持ってこい。」 「船長。」 「今すぐだ!」 向かうタッカー。 トゥポル:「恐らく、疑問を差し挟んでも無駄なようですね。」 無言のアーチャー。 エンタープライズの左舷は、大きな被害を受けたままだ。 タッカーと合図するトゥポル。「ブリッジよりアーチャー船長。」 応えるアーチャー。「何だ。」 トゥポル:『準備完了です。』 「後で会おう。」 タッカーは伝えた。「しっかりつかまって。」 2人がいる区画が画面上でズームアップされる。 外壁が外れていく。アーチャーとリード、そして機雷を載せたまま、エンタープライズからゆっくりと離れる。大きな板状をした、シャトルのハッチも一緒だ。 下のエンタープライズを見るアーチャー。 報告するメイウェザー。「600メートルです。」 タッカー:「あと 100メートルでいいだろう。」 「…副司令官。」 スクリーンには、遮蔽解除するロミュラン・バードオブプレイが映る。 トゥポル:「呼びかけて。」 「…応答なしです。」 タッカー:「…武器を起動してる!」 トゥポル:「船体装甲をオンに。」 「やってみますが、外壁が虫食いですから。」 スパイクを切り始めるアーチャー。 リード:「再起動してます!」 今度はリードの脚の上側を切るアーチャー。「よし、行くぞ!」 ハッチを持ち、浮き上がるリード。アーチャーも環境服のスラスターを使い、機雷から離れていく。 アーチャー:「マルコム、今だ!」 態勢を変え、機雷にハッチを向ける 2人。 機雷は爆発した。吹き飛ばされる 2人。 呼びかけるトゥポル。「エンタープライズよりアーチャー船長。」 返答はない。「船長、応答を。」 タッカー:「…通信機が爆風でやられたのかも。トラヴィス。」 メイウェザー:「…見えました、方位 213、マーク4 です。接近中。」 トゥポル:「第2出発ベイのドアを開けて。」 タッカー:「ロミュランにロックされました。」 「ブリッジよりドクター。」 フロックス:『はい。』 「…第2出発ベイで待機を。」 タッカー:「エンジンを狙われてる!」 メイウェザー:「あと 100メートルです。50。収容しました! 出発ベイ、ドア封鎖。」 トゥポル:「ワープで発進よ。」 エンタープライズはワープに入った。ロミュラン船は追おうともしない。 収容されたアーチャーは、リードのヘルメットも外した。「……大丈夫か。」 リード:「ええ、あの状況にしては…」 笑う。 「ああ。」 「一ついいですか? 船長のやり方も、悪くありませんね。」 「…で? 何秒だった。」 「ああ…。数えましたが 10秒です。」 「10秒? 20秒じゃないのか。」 「お言葉ですが…10秒です。」 「…言い争う気はないよ。…20秒だ、これは命令だ。」 タッカーたちが発着ベイに入る。 アーチャー:「ほら、よーし。」 フロックスがリードを診察する。 |
感想
ロミュランとの初遭遇という大きな意味があるようで、実はリードに主眼が置かれただけのエピソードです。アーチャーとの会話は第1シーズンで多く見られたようにのんびりしていて、リードの「お堅いキャラ」という描き方も変わっていませんね。今シーズンから共同製作総指揮となった、ジョン・シャイバン (「Xファイル」で多くのエピソードを担当) による初脚本だったのですが…。 ロミュランの姿は登場しなかったり、トゥポルも「ほんの少ししか」知らなかったりと、何とか後の時代との整合性を保とうとする努力は見られます。そもそもロミュランである意味がなかったような気もしますが、放送当時 2ヶ月後に公開が迫った映画「ネメシス」との関連だったのかも。これまで地雷と誤訳されがちだった「機雷」が正しく訳されてましたね。 |
第28話 "Carbon Creek" 「スプートニクの飛んだ夜に」 | 第30話 "Dead Stop" 「謎の自律浮遊基地」 |