エンタープライズ エピソードガイド
第12話「言葉なき遭遇」
Silent Enemy
イントロダクション
エンタープライズから、一つの装置が発射された。アンテナつきの機械は、その空間に留まる。 リード:「エコー2※1 発射。異常ありません。」 トゥポル:「エコー1 とつながりました。」 アーチャー:「亜空間通信ができるようになるのは?」 サトウ:「試験送信をして微調整したいので、1時間後くらいですね。早くて。」 「みんな家族と話したくてウズウズしてるぞ。」 リードは報告する。「船が 1隻ワープを解除。12キロ前方です。」 アーチャー:「映せ。」 異星人船が映し出された。こちらへ向かってくる。 アーチャー:「知ってるか。」 トゥポル:「あの形態は見たことがありません。」 「…そうか。通信。…こちらは宇宙船エンタープライズ※2だ。何か用かな?」 応答はない。 アーチャー:「…私はジョナサン・アーチャー。地球という星から、宇宙探査任務のためにここに来た。」 動きを見せない船。「ホシ。」 サトウ:「回線は開いてます。」 「…我々に何の用だ。…話したくないなら別に…構わんが? 用があるから来たんだろう?」 船は向きを変え、ワープで去ってしまった。 アーチャー:「気に障ること言ったか? …何かセンサーに反応は?」 リード:「それが…。」 「それが…何だ。」 「生体反応も、エンジンや武器の反応も…全くありません。」 |
※1: Echo Two ※2: 吹き替えでは「エンタープライズ号」 |
本編
司令室。 アーチャー:「近くに有人星系はないのか?」 トゥポル:「ありません。」 「なぜ姿を現しただけで黙って消えたんだ。」 サトウ:「こちらの言語が理解できなかったのかもしれません。翻訳機はまだ完全じゃありませんから。」 トゥポル:「失礼ですが、全ての種族が人間の理解できる行動を取るとは限りません。」 メイウェザー:「別に話すほどのもんじゃないと思われたのかも。」 リード:「だとしたら、心外だなあ。」 アーチャー:「うん、亜空間増幅機※3の調整に戻ろう。何といっても、家族はこちらと話したいはずだ。」 咳をするサトウ。「船長。…やっと見つけました。1週間かけて。」 小声で話す。 2人で話すアーチャー。「どこに。」 サトウ:「コタ・バルです。マレーシアの。」 「今何時だ。」 「ああ…夜の 9時頃です。」 「まだ起きてるなあ。早速増幅機を試そう、作戦室へ。」 コンピューターに映っている女性。『あの子に何か。』 アーチャー:「そうじゃありません。」 隣には男性がいる。『船長に御迷惑を?』 笑うアーチャー。「とんでもない。マルコムはよくやってます。誕生日が近いのは御存じですよねえ?」 リードの母親、メアリー・リード※4は答えた。『ええ、それはもちろん、9月2日です。』 父のスチュアート・リード※5。『もう何年も一緒に誕生日を過ごしたことはないがね?』 メアリー:『今度エンタープライズに乗るってサンフランシスコから連絡をくれたっきり、全く音沙汰がないんですの。』 『マルコムは何の仕事をしているんですか?』 アーチャー:「…兵器士官です。」 『ほう…あの子の祖父も、喜びます。英国海軍兵器部の、将校でした。』 「その血を継いだんでしょう。」 メアリー:『リード家は代々海軍に仕えてるんです。』 スチュアート:『マルコムは艦隊に入れて本当によかった。あの子に地球の海は小さすぎる。』 アーチャー:「息子さんは今ご家族と遠く離れているので、誕生日には、我々でディナーを用意したいと思っているんです。彼は何が好きなんでしょうか。」 メアリー:『船長、あの子は自分の希望を人に押しつけるのが好きじゃないんです。』 「…どういうことでしょうか。」 スチュアート:『息子は出された物は食べる子です。』 「特に、好きな物はないということですか?」 メアリー:『私は聞いたことないわ?』 「…では…万一、何か思い出されたら、艦隊を通して知らせて下さい。」 『息子に元気でと。』 「伝えます。」 スチュアート:『船長も御無事で。』 通信を終えた。 アーチャーは作戦室を出る。 アーチャーは周りを見てから、サトウに近づいた。 サトウ:「どうでした?」 アーチャー:「成果なしだ。地球を発ってからは家族に連絡すら、していないらしい。頼む、好物を探ってくれ。」 「…私が?!」 「マルコムには内緒で。」 「シェフの方が適役かと思いますが。」 「この任務には細心の注意を要するんだ。慎重な君に頼みたい。」 「でも私、亜空間通信アレイをチェックしなければならないんです。」 「マルコムの好物探しを優先してくれ。…これは命令だ。」 「はい、船長。」 廊下。 私服姿のアーチャー。「夕食は?」 後ろからポートスも歩いてくる。 タッカー:「部屋で食べました。家族から手紙が来てたんで、返事を書いてまして。」 「トゥポルの箸使いは見物だったぞ?」 「何だ、呼んで下さいよ。」 笑うアーチャー。「…まだ、アップグレードしてないのか。」 タッカー:「とっくにしましたよ? …ついでに色も変えましょうか?」 機関室に入るアーチャー。「手紙には何て?」 タッカー:「特に何も。工学情報とかです。ああ、そういえば、デュヴァル※6が昇進したそうですよ。シェナンドー※7の船長に。」 「あのデュヴァルが船長に? 100光年離れててよかった。」 笑うタッカー。「…ナタリー※8からも手紙が来ました。」 アーチャー:「…ナタリー? ペンサコラの?」 「そう、ペンサコラのナタリーです。このマニフォルド、チャージバランスが乱れてる。直さなきゃ。」 「…トリップ?」 「遠距離恋愛は難しいってよく言うじゃないですか。…片っぽが宇宙に出てちゃ、なおさらですよ。」 「平気か?」 「ええ、もちろん。ただ…できることなら、会って別れを言いたかった。」 ポートスが最初に歩いてくる。 アーチャー:「一つ聞くが、マルコムとはよく話すか?」 タッカー:「昨日は兵器室で、ずっと一緒でしたよ? パワーリレーを変えるんで。」 「何の話をしたんだ。」 「…パワーリレーの。」 「今朝、彼の両親と話した。」 「ほんとに。」 「ああ。お座り。」 アーチャーに従うポートス。「ご両親に君の好物を聞いたら、教えてくれるかなあ。」 「もちろんですよ。すぐに母が、ナマズのフライのレシピを説明しだします、しつこいくらいに丁寧に。」 アーチャーは笑った。「マルコムの両親は息子の好物を知らないんだ。兵器士官だってことも知らなかった。」 タッカー:「珍しいなあ。」 「そう言えば、俺たちもマルコムをよく知らん。そうだろ?」 異音が聞こえてきた。 トゥポルの通信。『ブリッジから船長。』 アーチャー:「どうした。」 『異星人船が戻ってきました。』 スクリーンに同じ船が映っている。 ブリッジに入るアーチャー。「やっぱり話してみたくなったってことかな?」 トゥポル:「500キロ前方で、ワープを解除しました。」 メイウェザー:「こちらは逆噴射するしかありませんでした。」 アーチャー:「呼びかけよう。…よく戻ってくれました。…また君たちに会いたいと思っていました。我々の最重要任務は、異種族と平和的にコンタクトを図ることです。こちらに敵意がないことを証明する必要があれば、言って下さい。」 やはり応答はない。首を振るサトウ。 アーチャー:「うん、そうか。…とにかく『会えて』楽しかったよ。気が向いたらまた寄ってくれ。」 サトウ:「何か感知しました。」 「翻訳できるか。」 「言語ではないようです。」 その瞬間、アーチャーたちはノイズに耳をふさいだ。みな苦しむ。 トゥポルも影響を受ける。「…スキャンされています。」 そして船は攻撃してきた。 アーチャー:「防御プレート!」 リード:「起動不能。」 「もちこたえろ!」 メイウェザー:「ワープで消えました。」 ライトが戻る。 アーチャー:「……みんな無事か。」 リード:「被害報告が出ました。怪我人なし。」 「一体何のつもりだ!」 「船長。敵が攻撃のためシールドを解除した隙に、船体をスキャンしました。」 「結果は?」 「15名の、生体反応を感知しました。」 トゥポル:「データベースに、適合する DNA はありません。」 「消えてよかった。魚雷を撃ち込んでも、恐らく跳ね返されていたでしょう。」 アーチャー:「長距離センサーを続けろ。近くへ来たらすぐに知らせるように。トゥポル。」 2人はターボリフトに乗った。 被害を確認するタッカー。「サポートフレームが、すっかり曲がってる。」 修理が進む。 アーチャーがやってきた。「どうだ。」 タッカー:「被弾位置がもうちょっとずれてたら、星が見えてましたよ。」 「見せてくれ!」 「このセクションには俺を含めて 13人が仕事してました。危ないとこでしたよ。」 トゥポルに尋ねるアーチャー。「君らが初めてディープスペースに出た時も、敵対異星人に遭遇したのか。」 トゥポル:「……時代が違います。」 「というと?」 「…ワープ以前の種族ばかりでした。」 「うん、この船は防御しかできないように設計されているわけではない。本来の姿にすべきだ。」 「何をする気です。」 「この船にはフェイズ砲※9が搭載されるはずだったが、予定より数週間早く出発したせいで、間に合わなかったんだ。今こそ装備すべきだ。地球へ戻ろう。」 訴えるリード。「2週間だけ下さい、船長。」 タッカー:「俺たちでやります。必要な部品はここにほとんど揃ってる。」 アーチャー:「木星ステーションの兵器チームは、専門の訓練を受けているんだ。彼らに任せた方が、安心だろう。」 「うちの機関部員は彼らに劣りません…」 「わかってるさ。だが彼らにはオーバーホールの仕事がある。いい方に考えろ。ナタリーと会って別れを言える。」 リード:「…船長。とりあえず作業にかからせて下さい。ステーションでの、負担を減らせます。」 タッカー:「スペースドックにこもる時間を短縮できる。」 アーチャー:「…すぐにかかれ。アーチャーからメイウェザー。」 メイウェザー:『どうぞ、船長。』 「……地球へ向かう。」 出て行くアーチャー。 作業を始めるタッカーたち。 エンタープライズは向きを変え、ワープに入った。 |
※3: subspace amplifier ※4: Mary Reed (Jane Carr) 名前は言及されていません。声:竹口安芸子、DS9 オパカなど ※5: Stuart Reed (Guy Siner) 名前は言及されていません。声:塚田正昭 ※6: Duval ※7: Shenandoah DS9第140話 "Change of Heart" 「至高の絆」などに同名のランナバウト、U.S.S.シェナンドーが登場 ※8: Natalie ※9: phase cannon |
兵器室。 コンピューターの図面の前で説明するリード。「諸君、これを見たまえ。フェイズ変調エネルギー兵器、フェイズ砲だ。この兵器のパワーは、最大出力で 500ギガジュール。この船には 3門搭載できるが、今は 1門。プロトタイプしかない。」 部下たちの前で話す。 タッカー:「今からそれを完成させ、更に後 2門造る。船長はスペースドックの仕事だと考え、ステーションへ引き返すことを決断した。」 「船長の決断に逆らうことはできないが、我々は自力でできると信じている。」 「仕事は倍に増えるが、木星ステーションへ到着してから、向こうのエンジニアが働く横で、ワックスがけしてるよりはましだ。」 笑うクルー。 タッカー:「質問は?」 部下の機関部員、エディ※10。「攻撃は、あるんでしょうか。」 タッカー:「…俺たちは未知の体験がしたくてこのエンタープライズに乗り込んだはずだ。このたびは安全でもなければ、楽でもない。だが危険を冒しに来たわけでもない。船長やほかのクルーたちの安全は、ここにいる我々にかかってるんだ。」 リード:「フェイズ砲を完成できれば…危険を回避する確率はずっと増える。」 「…突っ立ってる暇はないぞ?」 みな作業に入る。 通信相手の女性。『タコが好きだと言ってたことがあったわ? 特に足の小さな吸盤が。でも冗談だったと思う。弟の冗談っていつもわかりにくいの。あの子と話せる?』 サトウ:「内緒で用意して、驚かせたいんです。」 姉のマデリン・リード※11。『ああ、ディナーをね? そうだ、思い出した。確か…10年以上前だけど、1週間断食したことがあったわ?』 サトウ:「断食?!」 『水とリンゴジュースを少し飲んでただけ。』 「どうして?」 ブリッジに入ってきた者に注意するサトウ。 『サバイバルトレーニングか…コンテストだったと思う。』 「食事を再開した時、何を最初に食べたか覚えてません?」 『動けないぐらい衰弱してたから、最初の 2日間はプロテインを摂っただけ。』 「大尉は子供の頃から、一度も…『ピザを食べに行こうよ』とか、そういうことを言ったことってないんですか?」 微笑むマデリン。『私の知る限りは。マルコムってよくわからない子なのよ。』 「私もそう思います。」 次は宇宙艦隊の男性が話している。『サンフランシスコでの訓練時代、あいつがよく通ってたレストランがあったなあ。…何かの専門店だった。魚だ。』 サトウ:「食べたのは? ああ…カレイとか、メカジキとか。」 マーク・ラトレーユ※12は答えた。『いや。』 サトウ:「マヒマヒ? ホタテ貝?」 『俺は、スズキを食べた。』 「それで、大尉は。」 『全く覚えてない。』 「お願い、思い出して?」 『モーリーン※13だ。』 「それ魚?」 『いやあ、ウェイトレスだ。奴は彼女目当てにあの店に通ってたんだよ。魚じゃない。』 笑うラトレーユ。 「どうも。」 回線を切り、目を押さえるサトウ。 ブリッジに戻るメイウェザー。「極秘任務は順調?」 サトウ:「大尉のお姉さんも、親友も、アーチーおじさん※14も 2人のおばさんも、大尉の食習慣について覚えてることと言ったら、時々…食べる。」 笑うメイウェザー。 トゥポル:「少尉。大尉について知りたいことがあるなら、本人に聞くことです。」 話をやめるメイウェザー。サトウはブリッジを出て行く。 食堂。 サトウ:「ここいいですか?」 独りで食べていたリード。「もちろん、どうぞ?」 パッドを読みながらだ。 サトウ:「ああ…これが今日初めての食事なんです。」 「ああ…私もだ。…朝からずっと兵器室にこもってた。」 「ラヴィオリ、いけます?」 「ああ、美味い。」 「パスタほど、美味しい物はないわ?」 「うーん。」 「……料理が好きなんですけど、今は機会がなくて。調理室は入れないし…。でも今度、何か…作りましょうか。」 咳をするサトウ。 気づいたリード。「ああ、すまない。」 サトウ:「エンチラーダはどうです?」 「エンチラーダ?」 「お嫌いでしたら違う物を…。何が好きですか?」 「あ、ああ…気持ちは嬉しいが、その必要はないよ。」 「…だけど時々シェフが作る料理に、飽きたりしません?」 「いや? 満足してる。」 「それは私もそうです。ただ…食堂での食事は、なーんとなく味気ないし、部屋の方が落ち着くわ?」 「……そりゃあ、非常に光栄なんだが、そういう行動はやはり…不適当かと。」 「なぜです?」 「つまり、その…我々は仕事仲間で、私的な付き合いは…ふさわしくない。…任務が先決だ。」 「食事くらい。あ…あ!」 吹き出すのを抑えるサトウ。「違うんです、そういう意味じゃなくて。私は純粋に、食事を…ごちそうしたかっただけなんです。」 立ち上がる。 「ああ、すまない。変な誤解をしてしまった…」 「いえ、私の言い方が悪かったんです。」 「いや…」 「あ…あ、もう行きます。」 「いいよ…食事してってくれ…」 「いいんです、大尉こそお仕事を続けて下さい。どうぞ。」 出て行くサトウ。 ワープ航行を続けるエンタープライズの後方から、異星人船が接近する。 トゥポル:「船長。後方に船体を感知しました。距離 8,000キロです。」 アーチャー:「例の無口なお友達か。」 「距離 7,000キロ。…6,000キロ。」 「防御プレート、用意。」 衝撃が走る。 食事をやめ、外を見るリード。ワープが解除された。 リードは通信機に触れる。「ブリッジ。兵器室、報告。」 応答がない。食堂のクルーに指示する。「急いで持ち場に戻れ。」 戦略コンソールにつくトゥポル。「ワープエンジン停止。メインパワーダウン。」 真っ暗になった。 相手の船から、小型船がエンタープライズに向かってきた。 アーチャー:「魚雷は。」 全ての明かりが消えた。 トゥポル:「戦略システムダウン。」 アーチャー:「時間を節約しよう。使えるものは言ってくれ。」 ライトを手にする。 「第2出発ベイのドアが開いています。」 「閉めろ!」 「できません。」 向かうアーチャー。 シャトル出発ベイに、異星人シャトルが侵入してきた。 作業をしていたクルーが、物音に気づく。 何者かが廊下を歩いていた。そちらへ向かう 2人。 上から音がした。倒れるクルー。ライトが転がる。 フェイズ銃を持ち、廊下を進むアーチャーたち。 床にライトが落ちていた。 更に進むと、先ほどの異星人がいた。クルー一人ずつに、光を発する手を当てている。 アーチャー:「2人から離れろ!」 言葉は聞こえているようだが、全く動こうとしない異星人。 アーチャーはフェイズ銃を撃つ。しかし効果がない。異星人の頭部には、ヘルメット状のフォースフィールドが見える。 アーチャーは銃の設定を変えて再び発砲する。やはり同じだ。 異星人たちは急ぐこともなく、そのまま歩いていった。 保安部員に命じるアーチャー。「追え! アーチャーから医療室。」 フロックス:『フロックスです。』 「Eデッキのセクション7 に来てくれ。緊急事態だ。」 『了解。』 倒れた 2人は気を失っている。 通信が入った。『保安部から船長。』 アーチャー:「どうした。」 『逃げられました、シャトルを発進させてます。』 船へ帰るシャトル。 更に異星人船は攻撃を加える。 アーチャー:「ブリッジ、報告!」 トゥポル:『異星人船はワープで消えました。先の被弾で、左舷ナセル損傷。プラズマが漏れています。』 |
※10: Eddie (Robert Mammana) クレジットでは「機関部員 (Engineer)」。声:隈本吉成 ※11: Madeline Reed (Paula Malcomson) 名前は言及されていません。声:小金沢篤子 ※12: Mark Latrelle (John Rosenfeld VOY第167話 "Friendship One" 「終焉の星」の技術者その1 役) エンタープライズのクルーとは違うワッペンをつけています。名前は言及されていません。声:中博史、VOY ドクターなど ※13: Maureen ※14: Uncle Archie |
ベッドに横たわったクルー。血の気がない。 アーチャー:「どうだ。」 フロックス:「……容態は安定していますが、身体中くまなくスキャンされています。」 「良くなるのか。」 アーチャーが手をかざしても、患者は目を見開いたままだ。 「障害が残る可能性があります。手は尽くしますが。」 「過去に似たような事件は。」 トゥポル:「いいえ。」 「ヴァルカンのデータに、同じような事件の記録は載ってないのか。たとえ機密事項でも言ってもらおう。」 「私は知りません。」 「……探し出せ。」 連絡が入る。『タッカーから船長。』 アーチャー:「どうした。」 『プラズマ漏れは直しましたが、左舷ナセルのダメージは深刻です。』 エンジン近くのタッカー。 アーチャー:『ワープが復旧するのは。』 タッカー:「後 2、3日後ですねえ。」 尋ねるアーチャー。「…インパルスエンジンは。」 タッカー:『そっちは大丈夫。2、3分で使えるようになります。』 「唯一のいいニュースだ。逐次報告を。」 患者を診るフロックス。 トゥポルは言った。「スキャン領域に、ヴァルカン船はいません。」 メイウェザー:「…ヴァルカン最高司令部に、連絡しては。ワープ6 で、2日の距離です。きっと、来てくれます。」 アーチャー:「だろうな。……うん。」 サトウに向かってうなずいた。 操作するサトウ。「連絡が取れません。攻撃後にチェックした時は、異常なかったんですが。エコー2 が反応しないんです。」 スコープを覗くトゥポル。「存在しないからです。」 アーチャー:「何?」 「増幅機を落とした座標には、残骸しか残っていません。」 「エコー1 はどうした。」 「…破壊されてます。」 報告するエディ。「第2砲門の、スタビライザー OK です。」 リード:「第1砲門だろ!」 「そうでした、すみません。」 「しっかりしてくれ! 次はビームエミッターだ。」 「了解。」 タッカー:「ターゲットスキャナーはもう完成する。」 リード:「本当なら最終調整が終わってる頃です。」 階段を下りていく 2人。 タッカー:「エディに厳しすぎる。みんな精一杯任務をこなしてるんだ。」 リードは感電してしまった。「ああ!」 タッカー:「大丈夫か。」 「クソー! ああ…何とか。リレーを減極させようとしたんです。」 「何のために。」 「…EPS グリッドをバイパスさせる。」 「どうして。」 「インパルスエンジンから直接パワーを引くんです。」 「…フェイズ砲を爆発させる気か?」 「そのくらいのパワーなら耐えられます。」 「サージが起きたら。」 「ああ、心配ありません。オーバーロードを感知した瞬間、自動的に切れますから。」 「…マニュアル通りにすべきだ。でなきゃエンタープライズに穴を空けることになる。」 「…何度もシミュレーションを行いました。危険を冒す価値はあります。」 「船のシステムを改造しようっていうんなら、危険を冒す価値があるかどうかは機関主任に決めさせてくれ。」 「少佐。マニュアル通りにやっていたら、完成前にまた異星人に襲われますよ。」 「できるだけ急いで仕上げてくれ、大尉。だがクルーの命を危険にさらしてまで、急ぐ必要はないぞ?」 「…はい、少佐。」 離れるリード。 機関室に入るアーチャー。「…少し休めよ。」 タッカー:「ワープエンジンを直すまでは、休んでなんかいられません。揺れがあるってことは、まだどっかがおかしいってことだ。」 「お前が参る前に、直ることを祈ってるよ。」 「だったら話しかけないで頂けませんかね?」 「フン。順調か。」 「明後日中には直ります、保証しますよ。…ダイリチウムをチェックしてもらえませんか?」 「いいとも?」 ワープエンジンに近づくアーチャー。「0.06ミクロン。…地球までは自力で戻れそうだな。」 うなずくタッカー。「03 になったら言って下さい。」 アーチャー:「ヴァルカン最高司令部と、連絡を取ろうとしているんだがつながらない。連絡がつけば、明日にでもスラク級※15の船が到着する。丁重に助けを申し出てくれるだろう。」 「そりゃあ張り切って来るでしょう。地球人のプライドを台無しにできるんだ。」 「フン。増幅機を吹き飛ばしてくれた異星人に感謝すべきかもな?」 「フン。」 「0.05 を維持。」 「そのままで。」 「お前は地球へ戻りたいか。」 「もちろん。ただ…こんなに早くなくても、よかった。」 「今度は、準備が整うまで出発しない。」 「…また随分変わったもんだ。」 「私は……ここにいたくないと言っているわけではない。ただ、できることなら…準備を万全にして出発したかった。特に兵器はな。」 「出発を急がなければ、クラングをクロノスへ送れませんでした。」 「私も自分にそう言い聞かせてる。だが、あの時出発を急いだのは、自分のためでもあったんだ。私は私情を優先し、83名のクルーの命を危険にさらした。」 「ポートスを忘れてる。」 笑うアーチャー。「そうだな?」 タッカー:「昔の宇宙飛行士はシートの下で、何百万リットルっていう水素を燃やしてた。だからって、『危ないから月へは行かない』。そう言ったと思いますか。もしもここのクルー全員にこの任務は危険を冒す価値があるかと聞いたら、全員から同じ答えが…帰ってくると思います。」 「……ワープの準備ができたら、知らせてくれ。」 「了解。」 稼働する砲台。 タッカー:「まだインパルスエンジンにつなげようとしてるのか。」 リード:「いえ、外すところです。」 「ちょっと待ってくれ? …成功するな。」 「はい、少佐。必ず。」 「そこまで兵器士官が自信をもってるなら、機関主任も危険を冒す価値を認めよう。」 「…でしたら、もし手が汚れても構わなければ、手伝ってもらえますか?」 『航星日誌、2151年9月1日。異星人船が消えてから、2日が経った。』 惑星に近づくエンタープライズ。 作戦室で記録するアーチャー。「…クルーは、木星ステーションの兵器チームが、1週間かける作業を 48時間で仕上げてしまった。彼らを心から誇りに思う。試運転を間近に控え、みな成功を祈っている。私もだ。」 スクリーンに映ったクレーター。中央部に山ができている。 アーチャー:「本当に下には何もないか?」 トゥポル:「はい、船長。」 「微生物もか? 知覚生物に進化する可能性のある生物を、吹き飛ばすわけにはいかん。」 「何もありません。」 「アーチャーからリード大尉。ロックしたか。」 リード:『はい、船長。』 「小手調べといこう。中央の山を、数十メートル吹き飛ばせ。」 操作するリード。「ターゲット捕捉。主要コイルへ、フルパワー。」 エンタープライズの下部から、フェイズ砲 2門が姿を現した。 リード:「フェイズ砲、1 および 2、スタンバイ。」 ブリッジのアーチャー。「リード大尉。この栄誉は君のものだ。」 リードは、スイッチを押した。 フェイズ砲からエネルギー兵器が放出される。 2本の筋は、一直線に向かっていく。山は吹き飛んだ。 クレーター全体が消滅する様子が見える。 ブリッジ内で火花が飛んだ。 アーチャー:「頂上を吹き飛ばせと言っただけだ!」 部下に指示するリード。「砲門を見てくれ!」 「了解、大尉!」 「下、気をつけろ! 爆発の規模は予想の 10倍でした。」 アーチャー:『原因は。』 「フェイズモジュレーターがオーバーロードを。」 戦略コンソールのタッカー。「『C』デッキと『D』デッキの間のリレーが、吹き飛びました。」 トゥポル:「第2出発ベイで異常な信号を感知しました。」 アーチャー:「トリップ。トゥポル。」 ターボリフトに載る 3人。 ドアが開き、フェイズ銃を構えたアーチャーたちが入る。 調べるトゥポル。反応した。 タッカーは指さした。「あれだ。何だろう。」 壁に円形の機械が取り付けられている。 アーチャー:「あれがパワーサージの原因か。」 トゥポル:「そのようです。…膨大なエネルギーを放射している。600メガジュール以上です。」 リード:「奴らの仕業だ。いつでも我々を破壊できると言いたいんでしょう。自爆させることも。」 「…あれが何であれ、ほとんどのシステムに影響を与えています。各デッキの内部センサーや、通信システムにまで。」 アーチャーはコンソールを操作する。「知覚センサー、J-15 を起動。」 アーチャーを映した映像。『君たちがあの装置を取り付けたのは、我々をもっと調べたいからなんだろう? …だったら手っ取り早く教えてやろう。我々は敵ではない。従って戦いは望んでいないが、常に逃げているわけでもない。我々を無力だと思っているなら、人間について一つ教えてやろう。我々は簡単にはあきらめん。エンタープライズを守り抜く。』 後ろを向き、フェイズ銃を調整する。『どんなことをしてもな。』 発射するアーチャー。映像は消滅した。 |
※15: Surak-class スラクはヴァルカン哲学の創始者。ENT第7話 "The Andorian Incident" 「汚された聖地」など。Star Trek: The Magazine によると、ENT第8話 "Breaking the Ice" 「彗星は去り行くとも」のティムールもスラク級となっています |
医療室に入るサトウ。「ドクター。」 フロックス:「ああ、ちょっと待っててくれ?」 「2人とも戻ったようねえ?」 「うーん、だいぶ良くなったから、自室で休んだ方がいいと思ってねえ。」 「そう、よかった。」 「…何の用かね?」 「…あなたよく、食堂にいるでしょ? リード大尉と食事したことある?」 「何度も。」 「大尉の好物って、何か知らないかしら。」 「…なーるほど、誕生日のディナーか、うーん。ああ、朝食が好きみたいだなあ。」 「例えば?」 「卵。卵はよく食べてる。」 「料理の仕方は?」 「スクランブルエッグやら、ゆで卵やら。」 「じゃあ、お誕生日のディナーは…オムレツがいいかなあ?」 「ああ、あとパンケーキもよく食べてる。なぜかいつも、ピーナツバターを塗ってるなあ? ソーセージも好きなようだし? ベーコンもよく食べてる。」 「特に好きな、一品って言ったら何だと思う?」 「…うーん、思い浮かばんな?」 「……ヴァルカンの暗号化されたコードを解読する方が簡単だわ?」 「何か思い出したら、連絡しよう。」 「彼の味覚をスキャンしても無駄かしら。」 「…何が好物かは、調べられんよ。」 「どうもありがとう。」 出て行こうとするサトウ。 「うーん。…ああ! ブロメリン※16だ。」 「何それ?」 「力になれそうだぞ?」 笑うフロックス。「だがそれには、リード大尉の医療記録を、漏らすことになる。あれは機密情報だ。」 「この任務は船長命令なの。…お願い? 特例として教えて?」 「うーん、まあ…これを教えても、害はないだろう。」 喜ぶサトウ。 コンピューターで情報を見るフロックス。「ああ…私は、常に各クルーの病歴を頭に入れている。それでリード大尉にいくつかのアレルギーがあることを思い出したんだ。チリにダニに? 多くの花粉。熱帯植物に? ああ…これこれ。植物酵素にも弱いんだ。この一つが、ブロメリン。」 サトウ:「それと、大尉の好物と、どう関係があるの?」 「大尉はこの数年間、ブロメリンに耐えられるよう、定期的に注射を打ち続けている。」 「植物酵素ね?」 「そうだ…」 「含まれるのは…?」 「いろいろあるが、パイナップル。」※17 「パイナップル!」 出て行くサトウ。 笑うフロックス。「好物かどうかはわからんよ?」 サトウ:「十分よ、ありがとう、ドクター。」 ブリッジ。 トゥポル:「奴らです。」 アーチャー:「どこだ。」 「後方から接近中。距離 2万メートル。1万5千。」 メイウェザー:「回避行動を取りますか。」 アーチャー:「いや、向き直り、現在位置を維持。ブリッジから兵器室。お友達だ。」 コンピューターを操作するリード。「見えてます。前方のフェイズ砲、準備完了しました。」 アーチャー:『捕捉し、スタンバイ。』 報告するトゥポル。「敵船停止。1万1千メートル。」 サトウ:「呼びかけてます。」 アーチャー:「つないでくれ。」 だが、アーチャー自身の声が響いた。『抵抗はやめろ。』 先ほどの映像を使って、言葉を組み合わせているらしい。『船を明け渡せ。無駄な抵抗はやめろ。船を明け渡せ…』 アーチャー:「回線を切れ!」 『…無駄な抵抗…』 スクリーンの船は、更に移動する。 メイウェザー:「距離 1万メートル。9,000。」 アーチャー:「リード大尉。フェイズ砲 2門、発射!」 スイッチを押すリード。 フェイズ砲が発射され、異星人船を直撃する。 伝えるトゥポル。「敵シールドに揺らぎを感知。修復可能です。」 メイウェザー:「距離 5,000メートル。」 アーチャー:「大尉、それで精一杯なのか。」 操作を続けるリード。「たとえ木星ステーションで装備していたとしても、これ以上の出力は望めません。」 アーチャー:『昨日はマッキンレー山ほどもある山を吹き飛ばしたろ。』 「それはオーバーロードが起こったからです。」 アーチャーは思いついた。「…また起こせるか。」 リード:『船長? 爆発が起こったせいで、2デッキが使えなくなったのをお忘れですか。』 「また起こせるかと聞いている。」 答えるリード。「そう思います。」 アーチャーは言った。「船を明け渡すくらいなら、デッキを潰そう。」 ためらうリード。「しかし…」 隣にいるタッカー。「待ってくれ、衝撃を処理する方法がある。」 2人の会話がブリッジに聞こえる。 リード:『どうやって。』 タッカー:『余分なエネルギーの行き場だよ。利用すればいい。』 距離を伝えるメイウェザーの声。『3,000メートル。』 タッカー:「重力プレートに反動エネルギーを吸収させれば、構造を維持することができます。」 納得するアーチャー。「一理あるな。」 リードは反論する。「重力プレートはそんな力には耐えられません!」 アーチャーは命じた。「みな危険は承知の上だ。かかれ。」 リード:『了解。』 距離が縮まる、双方の船。 メイウェザー:「距離 1,000メートル。」 アーチャー:「マルコム。」 調整するリード。「スタンバイ。…少佐?」 タッカーはうなずく。 リード:「準備完了。」 指令するアーチャー。「発射。」 再びフェイズ砲が撃たれた。 今度は異星人船に爆発を起こし、シールドも消滅する。 エンタープライズにも影響が出る。 トゥポル:「敵シールドダウン。」 アーチャー:「魚雷発射。」 魚雷管にセットされる魚雷。 リードの操作で、2発の魚雷が発射される。 異星人船に命中した。 スクリーンを見つめるアーチャー。 船はプラズマを漏らしながら、去っていった。 ため息をつくアーチャー。「ブリッジから兵器室。こちらの被害は。」 調べるタッカー。「Bデッキのプラズマリレーが吹き飛びましたが、すぐに直せます。お友達の方は?」 アーチャー:『そう簡単には直せんだろうな? かなりのダメージだ。フェイズ砲は。』 リード:「大丈夫です。1時間もあれば直ります。船尾フェイズ砲も明後日には復旧を。」 安心するアーチャー。「ご苦労。…ということは…うん、もう木星ステーションに戻る必要は、なくなったわけだな? そうだろ?」 トゥポル:「…そうです。」 サトウ:「でもここまで来たことは無駄ではありません。亜空間増幅機を落とし直しては。」 アーチャー:「うん、そうだな。」 操作するサトウ。 アーチャーは船長席に座った。「うん…トラヴィス。コースを元に戻せ。」 メイウェザー:「…はい、喜んで。」 兵器室。 乾杯されるグラス。 タッカー:「我らの謎の友に。一度ぐらい顔が見たかったけどな。」 リード:「乾杯。」 笑うタッカー。 口にするアーチャー。「今日のこれは特別だぞ。…しかし、昨日は実によくやってくれた。こうしてねぎらうのは当然だよ。」 リード:「乾杯。」 タッカー:「…ねぎらいついでに、明日は寝かせてもらえませんか。」 アーチャー:「…許可しよう。」 ドアが開いた。「ホシ、何か用かい?」 ケースを運ぶサトウ。「お邪魔してすみません。…ご注文の品を持ってきました。」 アーチャー:「よーし、ここに置いてくれ。うん。ほんの気持ちだ、マルコム。」 取りだしたケーキには、「マルコム」と書かれていた。「ハッピーバースデイ。」 立ち上がるリード。「面倒をおかけしてしまって。」 アーチャー:「いいや? それほどでも。リード大尉。切ってみたまえ。」 「ああ…。」 端を切り、持ち上げるリード。「パイナップル。好物です。…どうしてわかったんですか。」 「ああ…」 サトウ:「情報通ですから。」 喜ぶリード。 |
※16: bromelin ※17: この部分は、サトウのセリフから次のように訳されています。「別の植物酵素ね?」 「そうだ…」 「選ぶのは…?」 「多くの場合、パイナップル。」 パイナップルにブロメリンが含まれており、そのためリードがパイナップルを食べるために注射を打っている…ということが把握されてないようです |
感想
強力な敵に対してフェイズ砲が初登場、そしてリードの設定が明らかになります。大百科でも書く項目がほとんどなかったリードが、実質上初めてクローズアップされましたね。緊迫したメインストーリーとはギャップが激しいというか…多少チグハグな印象も受けますが、リードの家族が登場することもあり、とりあえず観るべきエピソードだと感じました。 |
第11話 "Cold Front" 「時を見つめる男」 | 第13話 "Dear Doctor" 「遥かなる友へ」 |