エンタープライズ エピソードガイド
第13話「遥かなる友へ」
Dear Doctor
イントロダクション
暗い医療室に入るフロックス。鼻歌を唄いながら、明かりをつける。「やあ、みんな。おはよう。フーン…」 戸棚から容器を取りだした。 動物の声が聞こえてくる。 フロックス:「さあ順番だぞう? ああ…おお…おーっと。フフーン。」 黒い入れ物の中に、餌を与える。騒がしくなる。 次は水槽に粉状の物を振り入れた。波打つ液体。 別の箱から、丸い物を手にするフロックス。「夕べはがんばったなあ? ああ…」 卵のようだ。置かれた野菜を摂りに、砂の中から生き物の一部が姿を見せる。 フロックスは筒状の容器から、黒い覆いを取り外した。「お待たせ。うーん、忘れてないよう? うーん。」 ふたを開ける。「ああ…さあ、いい子だ。今日は指を噛まないでくれえ? おっ!」 虫をピリシアン・コウモリ※1に与える。 もう一匹虫を取り出すフロックスだが、自分で食べてしまった。 |
※1: Pyrithian bat ENT第3話 "Fight or Flight" 「死のファースト・コンタクト」より |
本編
チップを持ってきたサトウ。「みんなうらやましがってる。ドクターは誰よりも多く手紙を受け取ってるんだもの。」 笑うフロックス。 サトウ:「それ彼女?」 フロックス:「いやあ…これは、ドクター・ルーカス。種族間医療交換計画※2の仲間さ。」 「デノビラで働く人間がいるの?」 「彼が初めてだ。サンフランシスコで親身に世話してくれた、そのお返しがしたくてねえ。」 「私も文通してた、12の時。オーストラリアのブリスベンの友達。…返事が待ち遠しかったわあ? 不思議な響きの名前の町から届く手紙は、世界を覗く小さな窓だった。」 「探検家の好奇心ってやつだなあ? フフーン。」 「今日も予定通り?」 「ああ、もちろん。楽しみにしてるよ? 君がよければ、今日は動名詞に取りかかろう。」 「待ちきれないわあ?」 医療室を出て行くサトウ。 フロックスはルーカスのメッセージを再生する。『ディアー・ドクター・フロックス。私です、ジェレミー※3です。その後、お元気ですか? めまぐるしい 1週間でした。ひっきりなしの急患に、真夜中のお産が 3度。結婚シーズンの忙しさは御存じでしょう? …人間の生殖は複雑だと思っていましたが、デノビラ人に比べたら、我々は単細胞生物です。』 ターボリフトを降りるフロックス。 『ディアー・ドクター・ルーカス。お忙しいようでお気の毒です。結婚シーズンの大変さは、私もよく承知しています。一服のナイアキシリン※4が、交戦中の二人を引きはがすのに効果的だと、覚えておかれるといいでしょう。新しい生活にはすっかり慣れたようですね? 川沿いに立ち並ぶ賑やかなケイビン・バー※5には行かれましたか?』 機関室に入ると、タッカーが呼びかけた。「上だ、ドクター。」 『一晩中やっているはずです。でも、独りで入るのだけはやめた方がいい。初めての客はあれこれ詮索されます。』 怪我した機関部員のそばにいるタッカー。「窒素弁をリルートしていて、シールが吹っ飛んだ。」 フロックス:「フーン。」 「重傷か?」 「どれ。…フーン。そうひどくはない。火傷の程度は 1度。これなら、ダーマリンジェル※6を塗れば十分でしょう。」 ジェルを塗り始めるフロックス。 『ドクターの仕事は毎日同じ。急患が入る以外は、かすり傷の手当が主です。でも御安心下さい。エンタープライズのクルーたちも、ようやく異星人ドクターに慣れてきたようです。』 『…こんなに長い任務になるとは予想外でしたが、人類初のディープスペース探検で、人間を観察するのはなかなか面白い体験です。』 食堂にいるフロックス。「大尉! 空いてますよ?」 リード:「ああ、ドクター。すみません、また今度。すぐ兵器室に戻らないと。」 『クルーと友情をはぐくむのが難しく感じられることもあります。時々。でも私は医者ですから、いずれみんな私のところにやってきます。』 『…やがて互いに打ち解けられるのです。』 内臓の様子をモニターで見るフロックス。「胃腸が少し、弱ってるようですねえ。」 そう言われたアーチャーは、ポートスに近づいた。「やっぱりそうだったのかあ。」 フロックス:「ところで、まさかチーズをやっていないでしょうねえ? …甘やかしちゃダメですよ?」 「チーズはダメだ、わかったな? ドクターの命令だ。」 『知性の劣る種に対してこんなに親しい関係を築く種がいることが意外でした。人間がイヌに対してこれほど愛情を注ぐとは驚きです。』 アーチャー:「ああ…世話になったな、ドクター。」 フロックス:「いいえ、ポートスは模範的な患者でした。」 「うん。ああ…ありがとう、ドクター。…反省しろよ、ポートス?」 一緒に医療室を出て行くアーチャー。 『船長は自分のペットを人間として扱っています。しょっちゅう話しかけますが? 相手が船長の言葉を理解しているとは思えません。しかし今じゃ私も、自分のピリシアン・コウモリに話しかけています。』 フロックス:「フーン。」 大画面の映画、「誰が為に鐘は鳴る」※7。 ロバート※8:『一緒にアメリカへは行けないが、君がどこへ行こうと、僕の心はいつも君と一緒だ。いいね。さあ行くんだ、マリア※9。』 マリア:『嫌よ、私も一緒に残る。』 『行くんだ。』 『私…』 『僕には独りでやるべき仕事がある。君がいては足手まといだ。』 『でも…』 『君が行かないと僕も行けない。わかってくれるね。君が行ってくれれば…』 『嫌よ、嫌!』 フロックスがキョロキョロしているのに気づいたカトラー※10。「面白くなきゃ出てもいいのよ?」 フロックス:「いいや、最後まで観て結果を知りたい。」 後ろのクルーが注意する。「シーッ!」 カトラー:「きっと感動するわよ? お決まりのエンディングだけど。」 笑うフロックス。「映画じゃない。みんなの感情の高まりを見極めたいんだ。集団心理がどの程度まで広がるのか、興味がある…。」 カトラー:「デノビラに映画はないの?」 「2、300年前までは似たようなものがあったが、現実の人生の方が面白いと気づいて興味を失った。」 「…でもたまには、現実をお休みして映画に浸るのも楽しいでしょ?」 「ああ、そうかもしれない。」 カトラーから、ポップコーンの器をもらうフロックス。「ああ。」 マリア:『ああ、嫌。ロバート…』 ロバート:『二人の心は一つだ。わかったね? さあ、行くんだ…』 フロックスは、前に座っているタッカーが泣いていることに気づいた。 タッカー:「あっ! …目にゴミが入っちゃって。」 フロックス:「ああ。…うん。」 『素晴らしいでしょ、ドクター? 映画の登場人物に感情移入し、これほど感動できるとは。クルーは数え切れないほどの危険に冷静に対処してきたのに、単純な映画で涙を流せるんです。』 廊下を歩くフロックス。「側頭部血管は?」 カトラー:「側頭部血管…上顎骨。」 「それはどこにつながっている?」 「ああ…確か耳の…後ろ側?」 「よろしい。外側の頚静脈は?」 「ああ、えーと…確か、上大静脈。」 「どこにつながる?」 「簡単よ、全ての喜びと悲しみのもと。」 笑うフロックス。「生理学上心臓にはポンプ以上の働きはない。なぜ、君たち人間は心臓を、全ての感情の源だと考えるのか。」 カトラー:「ドクターは心肺機能には詳しいかもしれないけど、心についてはまだ勉強不足。もう行くわ…?」 「…おやすみ。」 「ああ、ドクター。あの、今夜はいろいろありがとう。とっても楽しかった。」 「僕もだ。」 「あの…また来週映画があるの。サンセット大通り※11。どう、面白いかも?」 「そうだな?」 「ああ…また明日。」 後ろを向いたフロックスの肩に触れるカトラー。「ああ、ごめんなさい。デノビラ人は触れられるのが苦手なのよね。」 「…構わんよ? 今、自国の文化習慣から抜け出そうとしている。」 「ああ、それなら…」 カトラーは、フロックスの頬にキスをした。「おやすみなさい。」 部屋に入る。 頬に触れるフロックス。 『結婚の話に戻りますが、カトラーは私にロマンティックな関係を求めてるようです。はっきりとは言えませんが。人間の女性のフェロモンは、デノビラ人のように強くないですからねえ。』 エンタープライズは、停止した宇宙船に近づく。 アーチャー:「近くに、有人星系はあるか?」 センサーで調べるトゥポル。「1光年以内に、ミンシャラ級の惑星があります。 サトウ:「船は応答しません、船長。」 リード:「ワープ船ではありませんねえ。無人かもしれない。何かの、探査機かな。」 アーチャー:「生体反応は。」 トゥポルはスコープを使った。「2人。…微弱です。」 アーチャー:「……第2出発ベイに運べ。ドクター・フロックスに、急患が 2人と伝えてくれ。」 ベッドの異星人にハイポスプレーが打たれる。 起きあがった宇宙飛行士※12に、アーチャーは話しかけた。「船は、漂流していました。何か我々にできることは?」 隣には翻訳機を持ったサトウがいる。 飛行士:「…トレナカデュラ・タ。…モラナ・ダナ?」 操作するサトウ。「もう少し聞かないと。」 アーチャー:「私はジョナサン・アーチャー。ここは、宇宙船エンタープライズ※13です。」 飛行士:「カンダーラ・ヴァ・ゴーンシュ。ユレタ・ヴァラ?」 うなずくサトウ。 アーチャー:「わかるかね?」 飛行士:「…あなたは。どこの人です。」 「地球。我々は地球人です。」 「では、これはワープ船?」 「ええ。」 「…1年前に 4隻※14の船に乗り、ヴァラキス※15を出ました。」 「なぜ。」 「我々の状況はもう御存じなんでしょう。」 フロックス:「病気だとはわかりましたが。」 「2年前 1,200万の同胞が死に、その後どれだけ亡くなったか。治療法が見つからないんです。しかし進んだ人々なら、ワープ技術をもつ種なら、高度な科学があればきっと治療法を見つけてくれるでしょう。」 トゥポル:「ワープ技術をもつ種に出会ったことは?」 「ムクレクサ人※16と、フェレンギ人※17が一度来たことがあります。ご存じで?」 アーチャーはトゥポルを見た。 トゥポル:「いいえ。」 飛行士:「あなたはドクターですか。」 フロックス:「ええ。」 「同胞が死にかけています。是非お力をお借りしたい。」 その場を離れるアーチャー。「どう思う。」 トゥポル:「…求めに応じるべきでしょう。ワープ技術をもった 2つの種に既に出会っていることを考えると……文化汚染は心配ありません。恐らく。」 アーチャーはフロックスに命じた。「…協力してやってくれ。」 飛行士:「感謝します。」 『ドクター、お返事が遅れることになったらどうかお許し下さい。私は、2人の異星人宇宙飛行士が関わる特殊任務を与えられました。彼らは、人間の思いやりから出た行為を通じて、私の医療室にやってきたのです。』 |
※2: Interspecies Medical Exchange ENT第1話 "Broken Bow, Part I" 「夢への旅立ち(前編)」より ※3: ドクター・ジェレミー・ルーカス Dr. Jeremy Lucas 声はラー役の仲野裕さんが兼任 ※4: niaxilin ※5: Kaybin bar ※6: dermoline gel ※7: "For Whom the Bell Tolls" 1943年。エンディングロールにも出展が記載されています ※8: ロバート・ジョーダン Robert Jordan 演じるのはゲイリー・クーパー (Gary Cooper)。声は Esaak 役の有本欽隆さんが兼任 ※9: Maria 演じるのはイングリッド・バーグマン (Ingrid Bergman)。声:日野由利加 ※10: エリザベス・カトラー Elizabeth Cutler (Kellie Waymire) ENT第4話 "Strange New World" 「風が呼んだエイリアン」以来の登場。声:落合るみ ※11: Sunset Boulevard 1950年 ※12: 異星人宇宙飛行士 Alien Astronaut (クリストファー・ライデル Christopher Rydell) 声:水内清光 ※13: 吹き替えでは「エンタープライズ号」 ※14: 「3隻」と誤訳。原語では「他の 3隻の船とヴァラキスを…」となっています ※15: Valakis ※16: M'klexa ※17: Ferengi TNG第5話 "The Last Outpost" 「謎の宇宙生命体」で初登場。DS9 レギュラー、クワークの種族 |
『私の仕事は時に、緊急を要するとお話ししましたが、緊急と言ってもその形と規模はさまざまです。マーテラス※18の難民キャンプで、50人以上の患者が押し寄せた時は大わらわでした。そして今アーチャー船長はこの私に、5千万人の命を託そうとしています。』 医療室。 カプセルで宇宙飛行士を調べるフロックス。 異星人語で話すサトウ。「(患者の容体は?)」 フロックス:「(重傷だ。よく眠ってるよ)」 「(ドクターなら助けられる)」 「(なかなか上達したね)」 言葉を考えるサトウ。「(それは好き?)」 フロックス:「(この果物は好きじゃない)」 「(ナスは『鼻の穴』よ)」 「鼻の穴?」 「(…野菜!)」 笑うフロックス。 サトウ:「最近ドクターはカトラーとよく一緒にいるでしょう? 私知ってるわよ? 二人の間に何があるのかしら?」 フロックス:「デノビラ語でどうぞ?」 「あーマイフール…(結婚!)」 「多分、君が探している単語は『デート』じゃないかなあ? マイフィルジュードゥラー。」 「ジュードゥ…それで? そうなの?」 パッドを使うサトウ。「(デートなの?)」 「(…よくわからない)」 「いい判断法があるわ? (いつも会いたがる? 態度はどうなの?) ……身体に触れられた?」 「ああ、この前の晩、頬にキスされた。」 「デノビラ語でね、ドクター?」 「あ…(助言を頼むよ)」 「(二人ともお似合いの…洗濯板よ)」 「何だって?」 「カップル。…似合いのカップルよ!」 惑星ヴァラキスに近づくエンタープライズ。 リード:「ひどい渋滞ですね。宇宙船と人工衛星だらけだ。」 メイウェザー:「上手くよけますよ?」 アーチャー:「低い軌道に乗せてくれ、トラヴィス。みんな待っている。」 『船長は 2日前まで、その存在さえ知らなかった人々に全面的な協力を申し出ています。ほかの種を助けようとする、あなたたち人間には感心します。』 地上の都市。 異星人の院長※19。「治療すればするほど、病気の耐性が強くなるんです。」 フロックス:「感染率はどのくらいです?」 「3人に 1人。」 アーチャー:「厳しい状況ですねえ。」 「末期の患者たちです。」 フロックス:「フーン。合成した抗体で治療してるようですねえ。」 「最初は効果的ですが病気は変化します。呼吸器系に転移すると、手の施しようがありません。その後数日で、肺が機能不全を起こします。」 「船長、プライアキセート※20は一時的に重傷患者の痛みを和らげる効果があるでしょう。すぐにも、必要な量の合成法を教えられますが?」 アーチャー:「頼む。」 「今までの研究結果と、病気の全段階における患者の症例が必要です。」 院長:「すぐに。」 サトウは医療スタッフの一人に近づいた。「すみません、私たちが彼を連れてきたんですが、容体はどうですか?」 スタッフ:「ダク ムラーナ。」 コミュニケーターを開くサトウ。「ごめんなさい、もう一度お願い。」 病室を出たトゥポル。「ドクター・フロックスと所持品を見張るクルーが必要になります。」 アーチャー:「人の物を盗むようには見えない。」 「船長は遅れた文明との接触体験がないからそんなことを。…彼らにとって我々の技術は喉から手が出るほど欲しいはずです。」 スタッフの声が響く。「ダク ムラーナ。カル ク ダ。ダク ムラーナ。カル ク ダ。」 戻るアーチャー。「どうした。」 サトウ:「船長、彼の言葉を翻訳できません。」 院長:「デュケツ アー プラ キュ、ラー※21。」 礼をし、去るラー。 サトウ:「同じ言葉ではないんですか?」 院長:「ええ。メンク人※22だ。メンクはヴァラキア人※23より遅れてるが、勤勉な種族です。」 アーチャー:「この惑星の固有種だと?※24」 「…そんなに不思議ですか。」 「我々が出会った多くの惑星では、一つのヒューマノイド型の種族だけが進化を経て生き残っていました。」 「お二人も同じ惑星の出身ですか?」 トゥポル:「いいえ。…似ているのは表面的なものだけです。」 フロックス:「メンク人の患者が見あたらないようですが?」 院長:「メンク人は感染していません。」 「彼らの免疫を調べましたか?」 「ええ、真っ先に研究しましたが、メンクとヴァラキアは生理学的に適合しない。」 「それでも重大な事実だ。メンク人に関するデータも是非拝見したい。」 「もちろん。」 『すぐにこの手紙を送信するつもりでしたが、今はヴァラキア人の伝染病調査に多くの時間を取られています。』 『…でもここの医師たちとの仕事は充実しています。我々が種族間医療交換計画に参加したのもそのためでしょう。しかし、無闇に彼らの期待を膨らましていいものか。アーチャー船長は私に期待していますが、不幸の度合いは、我々の善意を遥かに超えているように思えてなりません。現場でカトラーの力を借りることにしました。』 ヴァラキア人と協力するフロックス。 カトラーは尋ねた。「メンク人ってどんな感じ?」 フロックス:「自分の目で確かめたら?」 「ああ…!」 喜ぶカトラー。 「君は優れた、宇宙生物学者だ。現場で君の力が役に立つだろう。」 「ありがとう、ドクター。」 『ところで先ほど、私はカトラーの愛情に戸惑い気味だと言いましたが、今度そうした状況の複雑さを、よく理解してくれそうな人物に、相談してみるつもりです。』 ベッドの上のトゥポル。「そんなはずはない。」 フロックス:「恥じることはない。」 「23年前に、全部の歯にトリフッ素化合物※25を塗りました。」 「うーん、それが自然にはげて、虫歯になってしまったんだろうなあ。観てごらん? ん? ほーら、前歯に虫歯があるだろう?」 歯の様子が映し出されている。 「…ドクターにはもっと差し迫った用事があるでしょうから、出直します。」 ベッドを降りるトゥポル。 「ああ、組織サンプルの分析待ちで暇なんだ。治療はすぐ終わるけどね?」 仕方なくトゥポルは戻った。 フロックス:「うん。口を開けてえ? 大きく!」 言われたとおりにするトゥポル。 フロックスは治療を始めた。「ああ。…副司令官も、人間の世界に暮らして随分経ちましたよねえ? それで、人間がほかの種と結びついた例を御存じかな?」 しゃべれないトゥポル。「あ、あ…」 フロックス:「ああ、ここだ。よし。」 道具を取り替える。 「今の質問は個人的興味からですか? 科学的好奇心からですか。」 「…両方かな。最近親しくなったクルーがいてね、どうも彼女は…私に気があるらしい。」 「私の経験から言って、人間は…異種族との関係に感情的未熟さがあります。…彼らはすぐに新しいものに夢中になる傾向がある。…彼女は、単にドクターを自分の好奇心の対象にして満足感を得てるのかもしれません。」 「ああ…開けて?」 『副司令官トゥポルは、いつも現実的なものの見方をします。彼女には感情的な反応を生み出す本能が欠けていますが、その論理は認めざるをえません。でも私の悩みは、まだ続きそうです。』 フロックス:「よし。全部治ったよ? …アドバイスありがとう。」 トゥポル。「…お気をつけて。」 医療室を出て行った。 作戦室のアーチャー。「入れ。」 フロックス:「ご用でしょうか、船長。」 「病院から連絡があってねえ。その後進展があったか、知りたがっている。」 無言のフロックス。 アーチャー:「どうなんだ?」 フロックス:「伝染病の、症状を更に緩和する薬を開発したのですが…。ですが…」 「…ですが?」 「…この伝染病は、ウィルスや細菌が原因のものではありませんでした。彼らの染色体をつないでいるタンパク質が劣化しています。病気は遺伝的なものです。何千年もの間に徐々に進行して、突然変異の速度はこの 2、3代で加速しています。私の予測では、ヴァラキア人は 2世紀以内に絶滅するでしょう。…悪い知らせですみません。」 「ああ…治療法はどうなんだ。」 「このレベルの遺伝子異常を覆すのは大変難しい。」 「が不可能ではない。」 「ええ、メンク人の免疫が治療の鍵になると思います。更に研究を進めています。」 「全力投球で頼む。」 うなずき、出て行くフロックス。 |
※18: Matalas ※19: 名前は Esaak (David A. Kimball) ですが、言及されていません。声:有本欽隆 ※20: priaxate ※21: Larr (Karl Wiedergott VOY第52話 "Warlord" 「暴君の星」のアメロン (Ameron) 役) 声:仲野裕 ※22: Menk ※23: Valakians ※24: 「この惑星の固有種ではないと?」と逆の意味に誤訳されています。ヴァラキア人とメンク人の両方が固有種でないと、話がつながりません。後の院長の質問「お二人も同じ惑星の出身ですか?」も、原語では「お二人も同じ惑星の出身ではないのですか?」 ※25: tri-fluorinate compound |
『医者を開業した時、よもや宇宙を旅することになるとは思ってもいませんでした。異星人は新しい生理学の世界を探検させてくれました。そして今私は、ある惑星のヒューマノイド 2種を研究できる立場にいます。こんなチャンスは滅多にないでしょう。』 都市から離れた集落。電化もされていない。 フロックス:「彼に伝えて欲しい、血液サンプルを採取して検査を行いたいと。痛みは全くない。」 翻訳するサトウ。「クル ト・バ。」 ラーが伝える。「クル プラ ト・バ アレン ソ リティー。」 応える別のメンク人※26。他の者も話している。 サトウ:「彼は、喜んで協力すると。」 『2つの種は、生物学上の観点から見ても魅力的ですが、その共存能力に最も興味をそそられます。ヴァラキア人が技術的に高い進化を遂げている一方、メンク人は非常に原始的な暮らしをしています。そして驚いたことに、2つの種は協力し合って、平和的に暮らしているようです。』 機材の準備を行った。 サトウ:「プラ デュ マタ。」 ラー:「プラ デュカットゥ マッタ ク マン・パ。」 手を差し出すメンク人。周りの者が注目する。 メンク人は機械について話した。 サトウ:「何をしてるのか知りたいと。」 フロックス:「メンク語で、分子バイオスキャンを説明できるかな。」 「ドクター…あー…イサタ プラ ク…ク ヴァラキー。」 メンク人は納得した様子だ。 カトラー:「何て言ったの?」 サトウ:「体の中を診察してるって。」 「ありがとう?」 「ティク・ティク。」 応えるメンク人。 サトウは通訳した。「どういたしまして。」 ラー:「ニク。ラザタ、食べ物。」 カトラー:「食べ物って言ったの?」 「ラザタ、食べ物。」 フロックス:「言葉を教えたのか。」 サトウ:「いいえ? 私たちの会話を聞いて覚えたのよ。」 「うーん、いい通訳助手が見つかったようだな?」 ラー:「食べ物、だめ?」 フロックス:「ティク・ティク。」 「ティク・ティク。」 「うーん、作物や家畜は見なかったが、どうやって手に入れたんだろう。」 サトウ:「…ラー、ラサッタ ゴル ダック。」 ラー:「パー ク マノ ンダ トゥマー。」 「この土地は、植物には向いてないそうです。」 「ゴル ダック プ カニ ヴァラキー。ハラタ ティバ シ オノー。」 「肥沃な土地に住むのはヴァラキア人が禁止している。」 「ヴァラキー フラ タレ ラザタ ケ、アクー、ピンジャーラナー。」 「でもヴァラキア人が食料でも薬でも何でもくれるって。」 「メンク アカタ イェ ヴァラキー。」 「彼は、ヴァラキア人はよくしてくれると言ってます。守ってくれると。」 食べ物に満足するフロックス。「うーん。」 メンク人のスキャンを続けるフロックス。 『ヴァラキア人がよくしてくれるというメンク人の話を、クルーたちは疑ってるようです。』 カトラー:「ティクティク。…これで最後ね?」 『メンク人がヴァラキア人にいいように利用されているので、クルーたちはメンク人を守ることを考えてるようです。私には、メンク人が守りを求めているようには、見えないのですが。』 フロックスはラーがサンプルにしていたことに気づいた。「ああ、ちょっと待って。」 ケースを手にする。「素晴らしい。」 カトラー:「何をしたの?」 「家系別にサンプルを分けてある。参照できるようになってる。血統と、うーん…結婚を。色コードを正しく見ればね。ティク・ティク。」 喜ぶラー。 『メンク人は見かけは非常に原始的です。人間の基準に照らしても、単純と言えるでしょう、客観的に。でも彼らの能力を過小評価していたようです、私自身も。』 カトラーは言った。「休暇に来てるみたい。ここに来た目的を思い出さなければ。」 サトウ:「…ラーの片づけを手伝ってくるわ? 1時間で病院の仕事に戻るって。」 フロックスと二人きりになったカトラー。「…おかしいと思わない?」 フロックス:「何が?」 「メンク人の扱われ方。」 「どうして? ヒューマノイドが 2種いる世界じゃ、一方が一方を絶滅に追いやる。ここでは彼らは、いい共存関係を築いて非常に上手くいってる。」 「でもメンク人はペットみたいに居住区内に閉じこめられてる。」 「人間とは文化が違う。やり方もね?」 「何か間違ってる。」 「…君は結婚してるの。」 「…まさか! 話したでしょ?」 「私はしてる。」 「…そう。」 「3度。」 「それじゃあ、別れた妻が 2人?」 「私には妻が 3人、それぞれに 2人の夫がいる。私以外にね?」 「へえ、それって…普通なの、デノビラでは?」 「そうだ。」 「……なぜそんなこと私に?」 「君が私と、ロマンティックな関係を求めているという合図を受け取ったからだよ。」 「…あの…」 「私の、思い過ごしだったらいいんだがね。」 「違うわ? でもなぜ、それが結婚してるって話につながるの?」 「文化の違いを自覚してもらいたかったからだ。」 「そんなの気にしない。」 「そうかな? 人間とは随分違う。君にとっちゃ大きな問題だろ?」 「フロックス? …あなたに…奥さんが何人いようと、私は気にしない。なる気ないわ? 4番目の妻には。…友達になりたかっただけ。」 「…『友達』って、どういう友達?」 「成り行きに任せましょ?」 離れるカトラー。 病院に来たアーチャーは、救助した宇宙飛行士に近づいた。 マスクを外す飛行士。「船長。感謝しています。」 アーチャー:「いや、よかった。気分は?」 「…薬のおかげで、痛みは和らぎました。ですが…病状は回復していません。」 「うん、急いで治療法を探っています。ドクター・フロックスに任せておけばいい。」 「…手遅れにならないうちに故郷まで送って頂いて感謝しています。…私たちが 1年かかるところを、1日で連れ帰ってくれました。」 「我々も最初はそうだった。徐々に進歩した。いつかあなた方も、速く航行することができるようになる。」 「いつかでは間に合いません。今回治療法を見つけなければ…見つけてくれる種を探し続けなければ。…ワープドライブが必要です。次の船が出発する前に、また大勢の同胞が亡くなるでしょう。ワープがあれば、向こうが我々を見つけてくれる前に、こちらから助けを求められる。」 「出会った種が、みんな助けてくれるとは限りませんよ?」 「それでも…やるしかない。」 呼び出しに応えるアーチャー。「アーチャーだ。」 フロックス:『フロックスです、船長。サンプルの収集が終了しました。』 「…シャトルポッドで会おう。以上。」 飛行士の肩に手を置き、出て行くアーチャー。 エンタープライズ。 ブリッジに戻ったアーチャー。「報告はあるか。」 トゥポル:「2時間で 29 の呼びかけを受信しました。」 「相手は。」 「我々の到着が惑星中に広まっているようで…援助の要請が後を絶ちません。それに軌道宇宙船が 2隻接近してきました。我々が治療法を見つけたと勘違いしているようです。追い返しましょう。」 「……ちょっといいか。」 作戦室に入るアーチャーたち。 アーチャーは話した。「……ヴァラキア人がワープ技術を欲しがっている。」 トゥポル:「…何と返事を?」 「考えさせてくれと。」 「それで?」 「ヴァラキア人は、それほど切羽詰まっている。」 「彼らにリアクター設計図を渡したとしても、ワープエンジンを造り上げる技術的知識がありません。」 「反物質を扱った経験がないからな。その危険性を認識しているかどうか。…準備不足だ。」 「では自ずと答えは出ています。」 「…我々が、手伝うという手もある。」 「90年前我々は地球人の力となり、今も留まっています。」 「自分でも意外なんだが…今になってヴァルカン人の気持ちがわかりかけてきたよ。」 DNA 構造を顕微鏡で見ていたフロックス。 |
※26: メンク人男性 Menk Man (Alex Nevil) 声優なし |
独りで食堂にいたアーチャー。外にはヴァラキスが見えている。 フロックスが入った。「眠れないんですか、船長?」 アーチャー:「仲間がいて嬉しいよ。」 「フフン。…実のところ、デノビラ人に睡眠はあまり必要ない。まあ年に一度の冬眠は別ですがね。」 棚から皿を取るフロックス。 「この冬はドクターなしで過ごすのか?」 「6日間だけです。」 笑うアーチャー。「私もつき合おうか。…ああ…その後進展は?」 フロックス:「…ええ、調査はなかなか、やりがいのあるものでした。」 「治療法だよ。治療法は見つかったのか。」 料理を置くフロックス。「たとえ見つかったとしても、それが倫理的かどうか。」 アーチャー:「倫理的?」 「ええ、連綿と続いてきた進化の過程を邪魔することになるかもしれないんです。」 「…今までだって治療の度に、邪魔してる。それが医者の仕事だ。」 「メンク人を忘れてます。」 「メンクがどうした。」 「彼らのゲノムを調べてみたところ、知的能力が高まっている証拠が見られました。運動能力、言語能力、ヴァラキア人と違ってメンク人は今現在、進化的目覚めの段階にいます。もしかしたら、数千年後※27にメンク人はこの惑星で支配的な種になる可能性を秘めています。」 「そしてヴァラキア人がいる限りそれは起こらないと言うのか?」 「メンクの人口が増えれば、彼らは自力で生き延びる機会が必要です。」 「何が言いたい。…この我々が、どちらかの種を選ぶってことか?」 「いえ、その選択は自然に任せるべきだ。そういうことです。」 「地獄を見過ごせと? 君は医者だ。医者には苦しむ人々を救う道徳的義務がある。」 「同時に科学者です。もっとマクロな視点で物事を捉える義務がある。人間だって 3万5千年前、ほかのヒューマノイドと共存していたんですよ。」 「ああ…それで?」 「異星人が邪魔をして、ネアンデルタール人に進化的優位を与えていたらどうなっていたと思いますか? 運良くそうはならなかったが。」 「なかなか鋭い指摘だな。だがそれはあくまで仮定の話だ。何千年という未来に起きるかもしれないという。※28…助けを求められているのに、理論的に考えて断るなんて、私にはできない。」 「進化は理論を超えている! 根本的原理です。こんなこと言いたくありませんが、ヴァラキア人への同情が船長の判断を狂わせています。」 「同情で判断して何が悪い。」 「…船長…」 「治療法は見つかるのか。ドクター。」 後ろを向くアーチャー。 「……見つけました。」 『2日前、異星人シャトルを発見した時、自分がこのような大きなジレンマに苦しむことになろうとは思ってもいませんでした。私は初めて、アーチャー船長と対立してしまったのです。』 『…しかし彼は船長で、私に多大な信頼をおいてくれています。私自身も彼を信じています。船長がメンク人の未来にも、思いを馳せてくれることを願うのみです。』 アーチャーが医療室に入った。「…ドクター。」 フロックス:「何でしょう。」 「…今から…ヴァラキアの病院に行って来よう。」 「あの……やはり自分の気持ちに反することはできません、考え直して下さい…」 「考え直したよ。夕べ一晩中、考えた。私は自分の気持ちに反することをやろうと決めた。…いつか、人類もこうした原則に行き着くことだろう。この宇宙で何ができて何をしてはならないかを、見極めるための原則に。…だが、そのような原則※29が形作られ、確立されるまでは、常に自らを戒めなければならない。決して神を演じてはならないと。」 フロックスはうなずいた。 『ドクター・ルーカス。きっとあなたがそばにいて下さったら、発見した治療法を船長に隠そうなどとは考えもしなかったでしょう。』 『しかし恥ずかしながら、私はそれをやるところだったのです。』 ヴァラキアへ降下するシャトルポッド。 アーチャー:「この薬を使えば、病状が緩和されるでしょう。効き目があるはずです。10年間、いやそれ以上。…それまでに何とかなれば、あなたたち自身で根本的治療を開発して欲しいのです。」 院長:「できなかったら。…ワープエンジンがあれば、治療法を手に入れるチャンスが広がります。」 「……申し訳ない。…この中に、この薬のデータが全て入っています。大量生産できるように。」 「ご厚意には、感謝しています。」 『私が、船長は正しい選択をすると信じなかったら、人間は正しい判断ができないからといってディープスペース探検を阻止し続けた、ヴァルカン人たちと…私も同類になっていたでしょう。』 医療室で音声を記録するフロックス。「…私はジョナサン・アーチャーを見誤るところでした。…でも今回は船長の新しい…側面を見ました。ドクターの幸せと健康を祈ります。あなたの…熱烈なる友、フロックスより。」 チップを取り出した。 サトウが入る。「ご用ですか?」 フロックス:「…手紙だ。ドクター・ルーカスへ。」 「朝一番で送っておきます。…大丈夫ですか?」 「ああ、まあねえ。…ここ数日は、きつかった。」 「私からの助言。医療室を出ること。」 「…ああ、そうだな。」 「おやすみなさい。」 出ていくサトウ。 「…おやすみ。」 通信機に触れるフロックス。「フロックスよりカトラーへ。」 カトラー:『どうぞ?』 「あの、突然で悪いんだが…これから食堂で会わないか。軽くスナックでもどうかな? つまりだからその…友達として。」 『10分後に。』 「ありがとう。」 ため息をつき、ドアに近づくフロックス。振り返った。「いい夢をな?」 医療室のライトを消し、出ていくフロックス。 |
※27: millennia を「1世紀後」と誤訳 ※28: 吹き替えでは「何千年という大昔に起きたかもしれないという」となっており、なぜか地球でのネアンデルタール人の話が仮定になっています。前に「3万5千年前」と言っているように、年数も合いません ※29: 使われている単語は "directive"。その前は "doctrine" とも |
感想
第1シーズン半分が終わったところで、やっとフロックスがメインのエピソードとなりました。TNG「ヒューマン・アンドロイド・データ」や DS9「消された偽造作戦」のように、キャラクターの声が被ってくるタイプになっています。その名作 2つには及ばないものの、ST らしい深い内容です。 最後のアーチャーのセリフにも使われている通り、後の「Prime Directive=艦隊の誓い」を扱っています。以前ヴァルカンには同じようなルールが既に存在することがわかっており、その際さらりと流されていたのとは対照的です。フロックス&デノビラ人、そして再登場のカトラーについてもバックグラウンドが描かれますので、逃せない話ですね。 先週も見受けられましたが、単純な解釈ミスによる誤訳が多いのが残念です。 |
第12話 "Silent Enemy" 「言葉なき遭遇」 | 第14話 "Sleeping Dogs" 「名誉に生きる者」 |