ベッドに拘束されているクリンゴン女性、ブカー※4。「これを外せ、臆病者! 殺すならせめて立たせろ!」 無理矢理動こうとする。
フロックス:「確かに、血液中に神経毒があります。治療しなければ 2日で死ぬでしょう。」
アーチャー:「治せるのか。」
「今やっています。」
タッカー:「ほかのはみんな意識不明らしいのに、何でこうイキがいいんだ。」
「低体温法の、効果でしょう。船内の気温の低い場所へ逃げたものと思われます。毒の効き目が遅くなりますからねえ。」
ブカー:「ここの船長と話をさせろ。」
タッカー:「リーダーが弱さを見せると連中、殺そうとするそうですから。」 アーチャーに拳を見せる。
アーチャー:「私だが?」
ブカー:「…お前たちがどの種族か知らないが、これでクリンゴン帝国を敵に回したな。」
「選択の余地がなかったのでねえ。君は私の部下を残し、ポッドを奪った。」
「我々の船を襲い、毒をまいたからだ。」
「毒などまいていない。君らの船を助けに行ったんだ。」
「嘘だ!」
「いいか? 何があったのか知らないが、我々は関知していない。それより君の船はまだ大気圏内を下降している。何とかしないと、気圧で潰される。」
「お前の手に落ちるより遥かにましだ。」
「…あの船には、私の優秀な部下が乗っている。彼らが手を貸す。エンジンの始動法さえ教えてくれれば、脱出できるんだ。」
「そしてその後は? お前の星へ運んで先進技術を盗むか?」
「いいや?」
「味方のバード・オブ・プレイ※5が来ればこんな船は終わりだ。」
アーチャーは医療室を出ていく。「人助けなんてするもんじゃない。」
クリンゴン船の図が表示されている。
メイウェザー:「ヴァルカンの、データベースで見つけました。ラプター級の偵察船※6ですね。」
アーチャー:「どのくらい、もちこたえられる。」
「外壁の厚さはエンタープライズの倍で、何らかの密着分子合金で強化されています。」
タッカー:「小型でもタフらしいな。とはいえあの気圧じゃあ、いつまでももたない。……シャトルポッドをデュラテニウム※7で補強するってのはどうです? 不格好ですが、3人を救出する間はもつと思います。」
「でなければ副官とリード大尉がクリンゴン船を修理して、自力で脱出するのを待つしかありません。」
アーチャー:「…医療室の客人からは助言を得られそうにない。補強の準備を始めろ。仲間のクリンゴン船が来ないか、見張れ。」
「了解。」
船の部品を見ているリード。「ああ…こういう時に限って、機関主任がいないんだ。」 環境服は脱いでいる。
コンソールについているサトウ。「見て下さい。」
集まるリードとトゥポル。クリンゴン人の映像が再生される。
サトウが翻訳機を調整すると、理解できるようになった。『…の惑星だ。敵を撃墜した。だが、こちらも左舷フュージョンインジェクターに損傷を受けた。現在、本艦はクタール・クラス※8の惑星の大気圏に向け下降中。上層で修理をし、ザランティン※9船に備えるためだったが…』 咳をし、酒を飲むクリンゴン船長※10。『全クルーが病気にかかり、未だ原因不明だ。これが…戦死であれば、名誉の死となったはずだ。しかし、原因不明の病に倒れ…この名もない星で、気圧に押しつぶされるなど…。』 記録は終わった。
リード:「左舷フュージョンインジェクターを探さないと。」
サトウ:「…見た覚えがあります。」 船体図を出す。「ここです、1階下で、場所は…リアクターピット。」
「リアクターピット? じゃあ機関室か。」
「多分。」
フェイズ銃を持ち、進むリードたち。
倒れたクリンゴン人を調べるトゥポル。
リード:「これか?」
サトウ:「いえ。それは、プラズマ誘導関係です。」
別のコンソールの上に突っ伏しているクリンゴン人。
サトウ:「これだわ? 『左舷フュージョンインジェクター』。」
リードたちはクリンゴンをどける。
溶接作業を行うアーチャー。「クリンゴンの扱い方を根本的に間違えていたらしい。威圧的でないと、対等だと見なされないらしい。」
タッカーもマスクを上げた。「クリンゴンの心理を調べたんですかあ?」
アーチャー:「3度目の遭遇だ。※11毎回いきなり牙を剥いてくるのは、どうしてか知りたくてねえ。」
「関わらないのが、一番かもしれませんよ?」
「今はそう言ってられない。協力を取り付けないと。後は何とか、難破船との通信チャンネルを確立して、あのクリンゴン女性から修理の指示を送ればいいんだ。だが、数千世代に渡る伝統で、彼女はよそ者を信じない。」
「クリンゴンになったつもりで考えないと。」
クリンゴン・ラプター。
汗をぬぐうリード。道具を取り落とす。思わず近くの熱い場所に触れてしまった。「あーっ!」
サトウ:「大丈夫ですか?」
「ああ…どうも頭がボーっとしてきた。ああ…暑さだろう。ああ…」
トゥポル:「脱水症状です。水分補給を。」
サトウ:「船内図に調理室があったわ? 第4デッキ、ブルー・セクター。何か探してきます。」
「独りではよくない。」
リード:「気をつけて。ああ…。」
ぶら下がった動物を見て、口を押さえるサトウ。「ああ…。」
容器にたくさんの小動物が入っている。
トゥポル:「ガフ※12です。クリンゴンの食物で、生きたまま食する。」
サトウ:「ミミズみたい。」
「ミミズです。」
調理室を歩くサトウは、鍋の中身をすくい上げた。
動物の頭骨が入っていた。滅入るサトウ。
トゥポルはフェイズ銃を持つよう指示する。
音がするドアに近づき、開けた。
中には鎖につながれた動物がたくさんいた。吠えかかってくる。
目を背けるサトウ。ドアは閉じられた。
トゥポル:「ターグ※13です。…クリンゴンはさばきたての肉を好むので。」
座り、ため息をつくサトウ。
トゥポル:「大丈夫ですか?」
サトウ:「しっかりするって決めたのに。」
「異星人の船の中で、危険な状況にいる。不安感に襲われて当然です。」
「…『人間なら』でしょ?」
「生まれもった特性です。」
「変かもしれませんけど……時々副官がうらやましい。それも人間の…邪魔な感情ですよね? 感情を全部無視できたら、どんなにいいかって思います。ヴァルカンみたいに、冷静になれる。」
トゥポルはライトを置いた。「手を取りなさい。」
サトウ:「何ですか?」
しゃがむトゥポル。「手を取って。」 サトウの手をつかむ。「目を閉じて。」
言われたとおりにするサトウ。
トゥポルはサトウの手に指を置いた。「荒れた海で揺られているのを想像して。でも自分で波をコントロールできる。」
サトウ:「…何だか知りませんけど、効いてません。」
「集中しなさい。波が収まってきた。水面が静かになる。……心も静かに。」
サトウは目を開けた。「……今の…驚きです。」
トゥポル:「…エンタープライズに戻ったら、独りでやる方法を教えます。」
「ありがとう。」
大きく船が揺れだした。
トゥポル:「リード大尉、報告を。」
火花が散る。
リード:「船体強度が限界です! 船はもうすぐ潰れる!」
ラプターの船体が、へこみ始めた。
|
※4: Bu'Kah (Bu'kaH) (Michelle C. Bonilla) 声:唐沢潤
※5: Bird of Prey 映画 ST3 "The Search for Spock" 「ミスター・スポックを探せ!」で初登場したクリンゴン船のタイプ。もちろん同一の形状とは限りません
※6: Raptor Class scout vessel ラプター=猛禽、略奪者といった意味があり、バード・オブ・プレイと似た命名ですね。クラス名でありながら「ラプター」とだけ呼んでいる箇所もあります。Star Trek: The Magazine 2003年1月号で特集
※7: duratanium
※8: Q'tahL Class
※9: Xarantine(s)
※10: Klingon Captain (ヴォーン・アームストロング Vaughn Armstrong TNG第20話 "Heart of Glory" 「さまよえるクリンゴン戦士」のコリス司令官 (Commander Korris)、DS9第3話 "Past Prologue" 「スペース・テロリスト ターナ・ロス」のガル・ダナー (Gul Danar)、第171話 "When It Rains..." 「嵐の予兆」などのカーデシア人セスカル (Seskal)、VOY第7話 "Eye of the Needle" 「ワームホールの崩壊」のテレク・ルモール (Telek R'Mor)、第122話 "Survival Instinct" 「ボーグの絆を求めて」のトゥー・オブ・ナイン (Two of Nine)=ランサー (Lansor)、第143話 "Fury" 「帰ってきたケス」のヴィディア人船長 (Vidiian Captain)、第155話 "Flesh and Blood, Part I" 「裏切られたホログラム革命(前編)」のアルファ・ヒロージェン (Alpha Hirogen)、第171話 "Endgame, Part I" 「道は星雲の彼方へ(前編)」のコラス (Korath)、ENT第1話 "Broken Bow, Part I" 「夢への旅立ち(前編)」などのアーチャーの上司フォレスト提督 (Admiral Forrest)、第22話 "Vox Sola" 「漂流生命体の叫び」などのクリタサン船長 (Kreetassan Captain) 役。ゲーム "Armada II"、"Bridge Commander"、"Starfleet Command III"、"Elite Force II" でも声の出演) 声:中田和宏
※11: 前の 2回は ENT第1・2話 "Broken Bow, Part I and II"、第5話 "Unexpected" 「予期せぬ侵入者」のこと
※12: gagh TNG第34話 "A Matter of Honor" 「錯綜した美学」など
※13: targ 何度となく言及されていますが、姿が登場するのは TNG第6話 "Where No One Has Gone Before" 「宇宙の果てから来た男」以来初めて。今回は CG です
|