エンタープライズ エピソードガイド
第28話「スプートニクの飛んだ夜に」
Carbon Creek
イントロダクション
※1船長用食堂。 ワインを注ぐアーチャー。「いい時言って?」 トゥポル:「いい時。」 グラスには少ししか入っていない。 「ワインは飲まないのかと。」 「…こういう席ですから、少々の不摂生は構わないでしょう。」 タッカー:「俺はたっぷり、不摂生します。」 アーチャー:「フフン。…科学士官に乾杯。今日で、ちょうど一年※2だ。君が正式にクルーに加わってからな?」 「今後もよろしく。」 乾杯する 3人。 トゥポル:「ありがたいのですが、私は任務を果たしているだけです。」 アーチャー:「それだけでもかなり立派なことだぞう? ヴァルカンが人間の船で勤務した最長記録は 2週間だった。」 「10日です。」 「うん。今、一年間の勤務評価を書いている。形式的なものだ。」 「ええ、私も…最高司令部に船長への評価を提出します。……形式的なものです。」 「君の記録を見てて、聞きたいことがあったんだ。ソーサリート※3に住んでいた時、5日休暇を取ってる。」 「ええ。」 「君は、ペンシルヴァニア州カーボン・クリーク※4の炭坑町に行ってるねえ? バカンスにしては妙な場所だと思ってね?」 「ヴァルカン人はバカンスを取りません。」 「差し支えなければ教えてくれ。…何しに行ったんだ?」 「…評価に関係するのですか?」 「…好奇心さ。」 「個人的理由です。」 タッカー:「…そんな、地方の炭坑町に個人的理由って?」 アーチャー:「トリップ? まあ、無理に聞き出すのはなあ?」 「俺たちの方はいっつも、いろんな話してるのに。」 トゥポル:「話をして欲しいのですか?」 「面白いならね。」 「…カーボン・クリークへ行ったのは、人間とヴァルカンのファースト・コンタクトの場所を…訪ねるためです。」 アーチャー:「なら、3,000キロほど外れてたんじゃないか、あれはモンタナ州だぞ?」 「実際には違います。」 タッカー:「…2063年4月5日、モンタナ州ボズマンで、ゼフレム・コクレインがヴァルカン人と遭遇した。※5子供でも知ってる。俺も行きました。」 「実は、そのもっと以前に地球へ降りています。曾祖母がクルーの一人でした。」 「…誰が?」 「…私の母の母の母です。」 タッカーはアーチャーを見た。 トゥポル:「話を聞きたいですか?」 |
※1: このエピソードは、2003年度ヒューゴー賞の短編部門にノミネートされました。「短編部門」というのは以前の映像作品部門を長編=映画と短編=テレビに分けたもので、2003年からの新設です (よって従来よりはノミネートされやすくなっています) ※2: 正確な日付は不明ですが、トゥポルが加わった直後の ENT第2話 "Broken Bow, Part II" 「夢への旅立ち(後編)」は 2151年4月16日でした。公式サイトでは 2152年4月とだけ書かれています ※3: Sausalito ENT第1話 "Broken Bow, Part II" 「夢への旅立ち(前編)」より ※4: Carbon Creek 原題 ※5: 映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」より。ボズマンという地名は ENT第24話 "Desert Crossing" 「幻影の戦士」より |
本編
地球軌道上を、一つの人工衛星が飛行している。 さらにその上空にいる宇宙船。 ヴァルカン人のエンジニア※6は言った。「補正は不可能です。」 もう一人の男性、メストラル※7。「再融合圧が更に落ちています。」 船長※8:「これ以上高度が低下すると発見されるぞ。」 そして船には、トゥポルそっくりの女性が乗っている。 トゥポル:『彼らは、人類初の人工衛星、「スプートニク※9」の発射を調査に行ったのです。』 話すトゥポル。「…人類の情報を収集し始めて 3週間目に、インパルスマニフォルドに異常が出ました。緊急着陸以外、選択肢はありませんでした。」 命じるヴァルカン人船長。「居住地域から遠い場所を探せ。最高司令部に救難信号を。」 操作する女性。 ヴァルカン船は大気圏へ突入する。 スクリーンに映る、夜の街の灯り。 女性:「高度 100キロです。」 船長:「スタビライザーを起動しろ。」 「着陸には角度が急すぎます。」 船は流れ星のように、夜空を落下していく。 爆発が起こる船内。 森の木をかすめながら地上に近づくヴァルカン船。そして大きな音が響いた。 立ち上がる女性。 船内は大変な被害だ。 メストラル:「怪我は。」 女性:「ないと思うわ。…船長。」 倒れた船長は死んでいた。 エンジニアは女性に言った。「あなたが指揮官だ。」 尋ねるアーチャー。「ヴァルカンはなぜ秘密にしたんだ。」 トゥポル:「科学理事会と宇宙評議会※10には、詳細な報告書が出されています。」 タッカー:「ヴァルカンのでしょ?」 「もちろん。」 「待てよ。トゥミア※11は曾おばあさんか? …その話を疑う気は毛頭ないけど、世代が 2、3世代飛んでませんか。スプートニクは 200年前ですよ。」 アーチャー:「ヴァルカン人の寿命は長いんだ。」 「そうかあ。」 トゥポルに聞くタッカー。「今いくつなんです?」 トゥポルは無言でタッカーを見た。 タッカー:「記録に載ってますよね?」 アーチャー:「トリップ、そりゃ機密事項だ。先を…聞かせてくれ。」 またワインを注ぐ。 トゥポル:「…亜空間トランシーバーは不時着で故障していました。救難信号が実際に、発信されたかどうかもわからなかった。」 トゥポル:『…一週間で非常食も底をつきました。食料がないまま 5日過ぎ、状況は逼迫してきました。』 空になった袋が散乱している。火の周りに集まっている、3人のヴァルカン人。 トゥミアのスキャナーに反応が出る。「生命反応が 2つ。」 その方向を見ると、2頭のシカが歩いていった。 トゥミア:「美しいわ。」 メストラル:「…一頭を捕獲すれば、しばらく命をつなげそうだな?」 エンジニア:「まさかあれを食べるというのか?」 「…生存のためにはそうするのは論理的だろ?」 「野蛮極まりない行為でもか。」 「必要ないかもしれないな? スキャン結果によれば、ここからおよそ6キロ先に居住地域があります。」 トゥミア:「もし見つかったら、彼らの文化を汚染することになるわ。」 「我々が餓死して死体が発見されたら、それも文化汚染になるんじゃないですか?」 エンジニア:「生きたエイリアンより、謎の死体の方がまだマシだ。」 「最低限可能性は調査すべきでしょう。」 トゥミア:「危険すぎるわ。」 「私はリスクを取ります。」 歩いていくメストラル。 「メストラル!」 スキャナーをエンジニアに渡すトゥミア。「待機してて。」 自動車が走る町並み※12。看板には「カーボン・クリーク」と書かれてある。 隠れて様子をうかがうトゥミアとメストラル。 トゥミア:「ここから先どうするか提案はある?」 メストラル:「変装する必要がありますね。」 干してある洗濯物を着るメストラル。 シーツの向こうではトゥミアが着替えている。「食料を確保する、それだけよ。人間との接触は、最小限度内に抑えるわ。会話の必要がある場合は…私が話します。」 出てきたトゥミアを見るメストラル。 トゥミア:「何か言うことある?」 メストラル:「…その衣服は前後が…逆じゃないですか。」 戻るトゥミアの背中は、パックリと開いていた。 帽子を被り、耳を隠すメストラル。 町中を歩く 2人。トゥミアも髪で耳が見えないようにしている。 トゥミアは汚れた格好の男たちに気づいた。「囚人かしら。」 メストラル:「拘束されてはいないようです。労働者じゃないですか?」 「この種族が人工衛星を打ち上げたとは、信じられないわね。」 メストラルは何かに気づいた。 ラジオの声が車から聞こえる。『…投げました! ディクソンの打球は低い弾道で右に飛んだ! ファースト必死で飛びつくが届きません。ライトのエリスが前進、すくい上げてバックホーム! ボールは際どい、本塁上で激突! だがウィルコックス、ボールを離さず、トンプソン、本塁タッチアウトー!』 集まっていた人たちは、声を上げる。「ああ!」 流れ続けるラジオ。『これは際どかった。ライト、エリスのファインプレーです…』 離れるトゥミア。「きっとある種の戦闘行為ね。」 メストラル:「私は娯楽じゃないかと思いますね。」 歌が聞こえる建物へ入っていく人々。 トゥミアは窓から中をうかがう。「共同体の集会場だわ。」 メストラル:「食料はあります?」 「そのようね。」 入ろうとするメストラルを止めるトゥミア。「忘れないで。」 「話はしません。」 2人は中へ入る。 ビリヤードが置いてある。 トゥミアたちに、あからさまに注目する人々。 |
※6: 名前は Stron (マイケル・A・クラウィック Michael A. Krawic DS9第40話 "The Maquis, Part I" 「戦争回避(前編)」のウィリアム・パトリック・サミュエルズ (William Patrick Samuels)、VOY第71話 "Day of Honor" 「名誉の日」のラーミン (Rhamin) 役) ですが、言及されていません。声:水野龍司 ※7: Mestral (J・ポール・ボエマー J. Paul Boehmer DS9第172話 "Tacking into the Wind" 「嵐に立つ者たち」の Vornar、VOY第86・87話 "The Killing Game, Part I and II" 「史上最大の殺戮ゲーム(前)(後)」のナチ大尉 (Nazi Kapitan)、第96話 "Drone" 「新生ボーグの悲劇」のワン (One)、ENT第76話 "Zero Hour" 「最終決戦」などの士官 (Officer) 役。ゲーム "Klingon Academy"、"Bridge Commander" でも声の出演) 声:諸角憲一 ※8: ヴァルカン人船長 Vulcan Captain (デヴィッド・セルバーグ David Selburg TNG第12話 "The Big Goodbye" 「宇宙空間の名探偵」のウェイラン (Whalen)、第147話 "Frame of Mind" 「呪われた妄想」のドクター・サイラス (Dr. Syrus)、VOY第2話 "Caretaker, Part II" 「遥かなる地球へ(後編)」のトスキャット (Toscat) 役) 声:秋元羊介 ※9: Sputnik スプートニク1号は旧ソ連によって、1957年10月4日に打ち上げられました。参考:宇宙情報センター ※10: ヴァルカン宇宙評議会 Vulcan Space Council ※11: T'Mir (ジョリーン・ブラロック Jolene Blalock) トゥポル役がそのまま演じています。声も、もちろん本田貴子さん ※12: ロケはカリフォルニア州サンバーナーディノ近くで、2日間行われました |
カウンターへ向かう 2人。 女主人のマギー※13は、カウンターの客に尋ねた。「もう一本?」 客:「やめとこう。」 「そう。」 「ビリヤードだ。」 紙幣を出す客。 それを見ていたトゥミア。「通貨ね。」 メストラル:「ええ。あの紙に価値があるらしい。」 受け取った釣りを瓶に入れる客。 マギー:「ありがと、ビリー※14。」 トゥミアたちに聞く。「何にする?」 トゥミア:「…通貨を必要としない物は、ありますか?」 「タダってこと?」 手元にあった菓子のカゴを出すマギー。 ビリー:「何でカーボン・クリークに。」 トゥミア:「…町の外れで、私達の乗り物が事故に遭って。」 水を出すマギー。「怪我なかった?」 トゥミア:「ええ。」 「夫婦なの?」 「いいえ、その…ビジネスのパートナーです。」 ビリー:「この先にガソリンスタンドがあるぜ? 乗せてってやろうか。」 「…結構です。」 「好きにしな。」 ビリヤード台へ向かうビリー。「一球 25セントで賭ける奴は?」 店に来た少年が応えた。「僕やる。」 ビリー:「ママに聞きな、ジャック※15。」 ジャック:「いいだろ、お金いるし。」 マギー:「上へ行って宿題しなさい。夕食持ってくから。」 メストラルが言った。「…私がやろう。」 小声で話すトゥミア。「どういうつもり? しゃべるなと言ったはずよ?」 メストラル:「あれなら勝てます。」 「ルールすら知らないのに?」 「単純です。」 台に近づくメストラル。 ビリー:「金がないんじゃなかったっけ?」 トゥミア:「その通りよ。」 「そりゃ、悪いが…賭けにならねえな。」 「もう戻りましょう。」 2人は離れた。 「ちょっと待った、まあ手がないこともないな。俺が負ければ金を払う。だが俺が勝てば、そちらのビジネスパートナーが一杯付き合う。」 メストラル:「条件を呑もう。」 トゥミア:「いいえ、呑めません。」 離れて話すメストラル。「簡単な幾何学に基づくゲームですよ。ヴァルカンの子供でも勝てます。」 トゥミア:「駄目よ。」 「彼らの通貨が必要です。」 「負けたらどうするの。彼に……付き合うことになるわ。」 誘うビリー。 メストラル:「飢えて死ぬ方がマシですか?」 ビリヤードを始めるメストラル。 ビリー:「厳しいな。」 他の客やマギーも見ている。 ゲームは進む。 次々に球を入れていくメストラル。「8番のボールを…そこのポケットに。」 マーケットから袋を持って出てくるトゥミアたち。 一つを見るメストラル。「冷凍されてる。タンパク質レプリケーター※16の実験はしてるでしょうか。」 トゥミア:「商人に聞いたらどうなの? ゲームの時には喜んで会話していたようじゃないの。」 微笑むタッカー。「ワインが回ってるんじゃないですか?」 トゥポル:「どういう意味です?」 「……ヴァルカン 2人がバーへ行き、賭けビリヤードで一稼ぎ。冷凍食品抱えて帰って来るだなんて。昔のテレビの、ミステリー・ゾーン※17みたいだ。」 一緒に笑うアーチャー。 トゥポルは立ち上がった。「聞きたくないなら、私はこれで。」 アーチャー:「ま、待てまて。聞きたくないなんて言ってないよ。」 タッカーも首を振る。 また座るトゥポル。「…いつまでもギャンブルを当てにはできないので、救助船がくるのを待つ間、彼らはどんな仕事でもやることにしました。」 マギーのバーで掃除するトゥミア。 ヴァルカン人エンジニアは下水管を修理している。袋からヴァルカンの道具を取りだし、使う。 炭坑で掘り出し作業が進んでいる。 トゥポル:『数週間が過ぎ、救難信号が届いていない可能性が高くなった。そしてますます、人間を避けることは難しくなりました。』 メストラルが一緒に働く。 テレビに映し出されるキノコ雲。『原子爆弾の実験が、実戦での使用を前提にして行われます。予定開始時刻は、5時過ぎで…』 スイッチを消すマギー。「核実験って興奮するわ?」 メストラル:「…心配ではないのか。」 「核が? 恐ろしくてしょうがないわ。」 「人類が自滅するところは見たくないな。」 「同感だわね。」 メストラルの隣りに座るジャック。「ああ…エイトボールやらない?」 マギー:「ジャック?」 「来週幾何学のテストだから勉強になるよ。」 「考えたわねえ? でも数学は机で勉強なさい。」 メストラル:「君は、数学に興味があるのか?」 ジャック:「大学で、勉強したいんだ。機械工学。行ければだけどね。」 マギー:「行けるわ? 奨学金もらえるの。」 「全額じゃないけど。」 「それでも奨学金よ? よく頑張ったもの。みんなも少しずつ寄付してくれてるの。この子の学費や部屋代にって。」 瓶に小銭を入れるマギー。「ワンゲームで切り上げるのよ?」 ジャック:「ブレイクして!」 アパートの一室。 本を読むトゥポルの隣で、メストラルはテレビを観ている。ネイティブアメリカンが馬から落ちる映像。 エンジニアが荷物を持って帰ってきた。「……ギャレット夫人のシンクを直したのは今週もう 3度目だ。」 メストラル:「話し相手が欲しいんじゃないか?」 「息子が私を『モー』と呼びさえしなきゃ、我慢できるんだが。しつこいんだ。」 トゥミア:「なぜそんな名前で?」 「『三ばか大将』※18というドラマの登場人物の名で、髪型が同じだと言うんですよ。」 メストラル:「確かによく似ているな。」 「耐え難いね、私は…ワープフィールド・エンジニアだ。」 耳を出すエンジニア。 トゥミア:「それなら、亜空間トランシーバーを作るのを手伝ってくれない?」 「言ったでしょ、不可能です。」 「…救助が来なければ死ぬのよ? この世界は自滅寸前だわ。」 メストラル:「そうは思いませんね。」 「…この種族に妙に肩入れして目が曇っているからだわ。こんな愚かな機械の前に、一日何時間も座ってるしね。」 「これもリサーチです。…人間の行動をもう少しじっくりと観察してみれば、そう悲観的な見方にならないと思いますよ?」 「目を覚ましなさい。暴力的な種族よ。わずかなテクノロジーで互いを殺し合う道具の開発に明け暮れてる。」 「数百年前の我々だ。自らの可能性に、気づいていないだけです。」 「どんな可能性。」 「…共感し思いやる、能力があります。我々も温かく迎えられた。」 また何かの機械を修理しているエンジニア。 テレビを消すトゥミア。「それは人間だと思っているからよ。…ほんとのことを知っても、我々を受け入れると思う?」 立ち上がるメストラル。 トゥミア:「どこへ行くんです。」 メストラル:「船です。」 「なぜ。」 「テレビアンテナの性能が悪い。波形識別装置※19で改良できると思うんです。」 「夜行く方が安全だわ。つけられたら危険よ。」 「今いるんです。今夜アイ・ラブ・ルーシー※20がありますから。」 出ていくメストラル。 挨拶する老人。「やあ。」 メストラル:「どうも。」 すると、一台の自動車が近づいた。 マギー:「来たのね、時間通りだわ。」 助手席に乗るメストラル。 その様子を、トゥミアが見ていた。 走り去るマギーの車。 |
※13: Maggie (アン・キューザック Ann Cusack ジョン・キューザックの姉) 声:土井美加、DS9 ジェニファーなど ※14: Billy (Clay Wilcox) 声:西村知道、DS9 プリミン、旧ST5 チェコフなど ※15: Jack (Hank Harris) 声:川島得愛 ※16: protein replicator ※17: The Twilight Zone 1959〜1965年。スーパーチャンネルでも放送歴あり ※18: "The Three Stooges" 原語では「そういう名前の "Stooge" 役の喜劇俳優がいて…」。参考:公式サイト (明らかにわかる髪型の人物が「モー」) ※19: waveform discriminator ※20: I Love Lucy 1951〜1957年。吹き替えでは「ルーシー・ショー」になっていますが、実際は別の番組です (1962年放送開始なので時代にも合いません。スーパーチャンネルで放送されたことがあるのはこちら)。参考:I LOVE LUCY SITE!。主演のルシル・ボールが夫と共に設立したデジル・スタジオは、後に TOS を制作することになります |
車が戻ってきた。 メストラル:「テレビで見るのとかなり違ったなあ。もっと……爽快だった。」 マギー:「また行きたいなら来週も試合があるわよ? 別のことでも構わないし。…映画はどう?」 「それは楽しそうだな。」 「…一つ、聞いてもいい?」 「ああ。」 「…何で帽子被ってるの? トンガリ頭? 火星人じゃないわよね。いえ…ああ、気を悪くしたらごめんなさい?」 「別にそんなことはない。私も質問していいか。」 「どうぞ。」 「配偶者は…どこに?」 「夫のこと?」 「ああ。」 「大昔に消えたわ! ジャックには時々手紙が来てたけど、フェニックスに引っ越したって知らせが来たのが最後。学費を援助して欲しいと思ってたけどそれはなさそうだわ? 私と関わりたくないっていうならわかるわよ、だけど……。ごめんなさい。感情的になることはあんまりないけど、このことになると抑えきれなくて。」 「よくわかる。」 「……それじゃ…もうお店に戻らなきゃ。…また後で来る?」 うなずくメストラル。マギーを見つめる。 マギーはメストラルに顔を近づけると、口づけした。 離れるメストラル。 マギー:「ああ…て、てっきり、あなたもその…もうバカ。」 自分を責める。 メストラル:「違うんだ。驚いただけでとても、ああ…心地よかった。」 「『心地いい』?」 「適切な反応ではなかったかな。」 「そりゃ、私もキスは久しぶりだけど、『心地いい』っていうよりもうちょっとマシだと思うわ?」 「…とてもと言っただろ。」 「ああ…うーん。」 外を見るマギー。「お友達がいる。」 トゥミアが立っていた。 メストラル:「…もう行かないと。」 ドアを開ける。「今日はありがとう。」 見送るマギー。 メストラルはトゥミアに近づき、先に歩く。 トゥミア:「波形識別装置?」 メストラル:「ドイルズタウンへ野球を見に行ったんですよ。」 「…それも『リサーチ』。」 「マギーに誘われて、問題とは思わなかった。」 「ではなぜ嘘をついたの。」 「あなたは理解しないとわかってた。」 「彼女と親密な行為にまで及んでいたわ。」 「……私から始めたんじゃない。」 メストラルの腕をつかむトゥミア。「今後、彼女と関わることを禁じます。」 メストラル:「…あなたにそんな権利はない。」 「指揮権はまだ私にあるの。」 「指揮って何の。任務はもう終わったんだ。ここから帰れないってことを、考える時です。」 ロウソクを吹き消すトゥミア。 次のテーブルのも消そうとしたが、やめて席についた。 目を閉じるトゥミア。だがすぐに開けた。 ジャック:「あ、ビリヤードしに来たんだ。邪魔してごめん。それ…何やってるの。」 トゥミア:「…瞑想しようとしていたの。」 「ほんと? …心を、落ち着けるため? 高い次元に行くため? …図書館で読んだんだ、ヘヘ。」 「瞑想の方法を学んでいるの?」 「いろいろだよ、大抵は行きたい外国の本。チベットでは、仏教の僧侶は毎日瞑想するんだ。インドでは、『苦行僧』って呼ばれる人たちがいてね。意思の力だけで心臓も止められるって、いわれてるんだって。」 「精神を鍛錬すれば、驚くようなことも可能になるわ? …図書館でほかに何を学んでいるの?」 「天文学や、ああ…文学や、棚から適当に取って読み始める時もあるしね。あなたはどんな本が好き?」 「私も天文学にとても興味があるわ。」 「ほんとに? あ、そうだ、知ってる? 太陽の位置によって、日暮れのすぐ後、スプートニクが見える。望遠鏡なしでね。…よければ明日教えるよ。」 「私はもう見たわ?」 「ああ…すごいよね。そう思わない? …ああ、これ以上瞑想の邪魔しちゃ悪いな。…話せてよかったよ。」 「私も。」 うなずき、歩いていくジャック。 炭坑のビリー。「メストラル。」 メストラル:「やあ。」 「ああ、週末の野球のチケットが手に入った。ダブルヘッダーだ。ティムも行くんだ、ギャヴィンに、ジャックに、マギーもだ。」 「残念だが行けない。」 「最近付き合い悪いぞ? マギーが店にも…」 突然、爆音と共に砂煙が舞った。 メストラル:「大丈夫か、ビリー。」 ビリー:「ああ。」 逃げ出す労働者たち。「危ない、崩れるぞ!」「早く外に出ろ!」「まだ中に大勢いるんだ!」 警報が鳴る。 ヴァルカン船に入るメストラル。 トゥミア:「何をさせたいの?」 メストラル:「素粒子銃※21がいるんです。武器ケースに入ってる、探して下さい。」 エンジニア:「どうして。」 「炭坑で爆発事故があったんだ、20人以上埋まってる。人間じゃ助けるのに何日もかかる。」 トゥミア:「干渉すべきじゃないわ。」 「ほっとけば死ぬんだ。……助けられるのに、窒息死させるんですか?」 エンジニア:「銃を見られたらどうする。」 「見られないようにすればいい。」 トゥミア:「…人間は、長くてせいぜい 6、70年の寿命しかないわ? …危険を冒して 2、3年延ばしてやることに、意味があるのかしら。」 エンジニア:「文化の汚染は許されないんだぞ。」 「これは文化汚染とは何の関係もない。…痛みを共感できるかどうかだ。」 トゥミア:「共感は…感情の一つよ。」 「私の友人たちだ、見殺しにはしない。止めようとしても無駄だ。」 出ていくエンジニア。トゥミアはメストラルを見続ける。 |
※21: particle weapon |
声が響く炭坑。「気をつけろー!」「そこの岩を砕くんだー!」「岩を運び出せ!」 様子をうかがうメストラル。独りで別の道へ行く。 コミュニケーターで呼び出しに応える。「どうぞ。」 外にいるトゥミアは、スキャナーも使っている。「22メートル進んで。分岐点で右に曲がって。」 メストラル:『了解。』 トゥミアの声。『8メートル行くと、使われていない通路につながる、小さな入り口があるわ。』 通りかかる労働者たち。「もっと、人を呼んでくるんだ。」「まだみんな生きてるよな。」「ああ。」 這って進むメストラル。咳き込む。 トゥミア:『正面は、水晶の層になっているはずよ?』 メストラル:「見えます。」 トゥミアは伝える。「ビームの分散半径を、7度にセットして。」 素粒子銃で破壊するメストラル。 トゥミアは言う。「あと 2メートル。」 メストラルは照射し続ける。 穴が空き、反対側に抜ける。「奥ですか。」 トゥミアはスキャナーを見る。「およそ、30メートル先。」 メストラルが進むと、声が聞こえてきた。「ここだ、こっちだ。」 生きていることを確認するメストラル。 トゥポル:『作業員を 12名救出し、メストラルはその日ヒーローでした。』 尋ねるアーチャー。「どうやって助けたか聞かれただろ。」 トゥポル:「ええ、そうでしょうね。でも何とか隠し仰せたようです。…それから 3ヶ月が過ぎ、地球を離れることはないかもしれないと、彼らもついにあきらめかけた時でした。」 またテレビを観ているメストラル。 音が聞こえる。すぐに立ち上がり、コミュニケーターを取り出すトゥミア。「トゥミアです。」 乱れた音声が聞こえる。『ヴァルカン調査船ドゥヴァール※22の船長、テラス※23だ。救難信号を受けてきた。』 トゥミア:「…送信できなかったとばかり。」 テラス:『テラライト※24の貨物船が信号をキャッチしたが、最高司令部に報告されるまで、時間がかかったようだ。今、その星系に向かっている。3日後に、着陸現場で合流しよう。』 「了解。」 うなずくエンジニア。メストラルの表情は硬い。 店の前を掃除しているトゥミア。 ジャックが車で近づき、降りてきた。「町を出るって?」 トゥミア:「…ええ、そうよ?」 「…どこへ?」 「…故郷へ。…北の方よ。」 「……寂しくなるな。…こんないろいろ話せた人、初めてだった。」 「大学へ行けば、もっと大勢の人たちと出会えるわ?」 「…行かないんだ。」 「…え? どうして。」 「学費を工面できなかったんだ。納入期限が金曜だから。」 「どうするんです?」 「貯金続ける、多分。仕事探すよ。」 マギーがドアを開ける。2人に気づき、何も言わない。 ジャック:「炭坑はママが反対だけど、仕事はあそこしかないし。」 トゥミア:「また来年も奨学金に応募できるの?」 「応募はするけど保証はないよ。」 「今度も必ず受かると思うわ?」 「…ダメなら、図書館があるよ。まだ読んでない本が一杯だ。…帰ったら元気で。ああ、カーボン・クリークはまああんまり…旅行向きじゃないけど。また訪ねてきてよ。」 「ええ、そうね。」 歩いていくジャック。トゥミアはマギーに気づいた。 マギー:「…入学資格試験は…あの子この郡で誰より一番いい成績を取ったのに、不公平だわ?」 バーへ戻る。 トゥミアはヴァルカン船にいた。残骸の中から、何かを探している。 小さな物を手にした。 列車に独りで乗っているトゥミア。 大きな街を、メモを見ながら歩いている。 トゥミアは一つの建物に入っていく。 部屋に入るトゥミア。 恰幅のいい男※25が切り出した。「それで? 世界を変える発明を見せるってのはあんたかな?」 トゥミアは自分の袋から、船にあった物を取り出した。 布状の物を互いに離し、またくっつける。またはがす。 男はそのマジックテープ※26を手に取り、同じことを何度も繰り返した。微笑む。 建物を出たトゥミアは、大量の札束を袋へ収めた。 カウンターに入るマギー。「おはよう。」 瓶に気づく。札束が入っていた。「ジャックー!」 その様子を見ているトゥミア。 喜ぶマギー。「ジャックー!」 部屋を掃除するメストラル。 トゥミア:「仕事は辞めてきたのでは?」 エンジニア:「ええ…でもギャレットさんにこれを直すと約束してあったんです。」 メストラル:「残念だな、あなたたちが彼らの生活の、いい部分を体験せずに帰るというのは。」 「例えばどんな。アルコールか? 冷凍魚フライか。核による最終戦争の脅威もあったな。」 「決してそれだけじゃない。見ようとしなかっただけのことだ。」 「十分見たね。」 「まだ足りないな。私はここに残ります。」 「…それはユーモアのつもりなのか。」 「彼らは今社会的にも、技術的にも大きな変革の時期にある。種の急速な発展を研究する滅多にない機会です。」 「十分にやっただろ、我々の期待以上に詳しくね。君の任務はヴァルカンへ帰ってその詳細を報告することだ。」 「彼らから学ぶことはまだまだたくさんあるんです。」 トゥミア:「知りたいのは一人だけでは?」 「…マギーとは全く関係ありません。文化の理解を助けてくれ、感謝してますが…私はカーボン・クリークに留まるつもりはない。」 「どこへ行くの?」 「まず最初は大都市へ行ってみます。その後はわかりません。…見るものが山ほどあります。」 エンジニア:「最高司令部が許すはずがない。…不可能だと言って下さい。…トゥミア。」 トゥミア:「…この次の、調査船に乗れるよう手配はできます。」 メストラル:「今から 20年後に? しかも高軌道から統計的なスキャンを繰り返すだけだ。…それじゃ意味はないんです。」 降下するドゥヴァール。 ヴァルカン人士官たちが近づく。 テラス:「…船長はどこだ。」 トゥミア:「不時着で死亡しました。」 「クルーは 4名だったはずだが?」 「メストラルも、同じく死亡しています。両名の遺体は火葬しました。」 トゥミアを見るエンジニア。テラスたちについていく。 振り返るトゥミア。ドゥヴァールへ向かう。 ドゥヴァールは上昇していく。 タッカーは言った。「今人類の歴史を書き換えたってこと気づいてます?」 トゥポル:「注意書きをつけた程度です。」 「注意書き? あ、う…人類で最初に月に降りたのはアームストロングじゃなかったってことですよ?」 「彼ではなかったのかも。」 「ああ…。」 うなだれるタッカー。 アーチャー:「そのメストラルは…いつまで、地球にいたんだ?」 トゥポル:「恐らく死ぬまででしょうね?」 「すると、どれくらいだ。大体、100年から 150年ぐらいか?」 「もっと長かったでしょう。」 タッカー:「ハハ…エイリアンが地球で 1950年代から、大統領を…30人以上見て旅をして、誰にも気づかれなかった? で死んだ時はどうなった。葬儀社の連中は、尖った耳を見て見ぬふり?」 「私は話をしただけです。」 「ヘヘ、面白かったですよ。でも、ほんとなのか。」 「ですから、私はお話をしただけです。」 「……やられた。船長、かつがれたんですよ。」 アーチャー:「カーボン・クリークへは本当に行ってる。」 トゥポル:「あの時はほかの場所にも行っています。イエローストーン国立公園や、カールスバッド・キャヴァーン公園も。私は科学者です。地質学も研究します。」 立ち上がる。「ごちそうさまでした。」 「ああ、こっちこそ。今日は、楽しませてもらったからね?」 「…おやすみなさい。」 出ていくトゥポル。 アーチャーとタッカーは、互いにため息をついた。 寝間着に着替えたトゥポルは、棚から包みを取りだした。 灯されるロウソクの前で開ける。入っていたのは、トゥミアが使っていた布の袋だった。 それを手にするトゥポル。 |
※22: D'Vahl 原語では「調査船」という種別は言っていません ※23: テラス船長 Captain Tellus (Ron Marasco) 声:沢木郁也、TNG 旅人など ※24: Tellarite TOS第44話 "Journey to Babel" 「惑星オリオンの侵略」など。ENT第9話 "Civilization" 「狙われた星アカーリ」でも言及 ※25: 実業家 Businessman (Paul Hayes) 声はビリー役の西村さんが兼任 ※26: 「マジックテープ」というのは和製英語 (商標) で、英語ではヴェルクロ (Velcro) と言います。これも同様に商標で、会社名でもあります。参考 |
感想
公式なファースト・コンタクトの前に、実はヴァルカン人が地球を訪れていたことがわかります。アーチャーやタッカーは信じないという描かれ方ですが、最後のシーンからすると事実ということでしょうね。メストラルがその後どうなったかは謎ではありますが。ジャックの将来も知りたいところ。 VOY "11:59" 「甦るジェインウェイ家の秘密」と同じく、先祖を同じ俳優が演じています。今回はヒューゴー賞ノミネートだけあって、SFらしい作風を楽しめます。いろいろな衣装が見られるので、トゥポル (ブラロック) のファンは必見でしょう。文字通り歴史を塗り替える話ではありますが、「非公式な」ファースト・コンタクトは既に何回も登場しているので (クワークたちフェレンギ人やオドー、「天の精霊」、そもそも映画でのカウンセラー・トロイもベタゾイドとのハーフ、などなど…) 許容範囲でしょうか。 ロケ撮影や多めの地球人役に予算を取られたかは不明ですが、レギュラーが 3人しか出ないのが何とも。 |
第27話 "Shockwave, Part II" 「暗黒からの衝撃波(後編)」 | 第29話 "Minefield" 「許されざる越境」 |