ホライゾンの廊下を歩くメイウェザー。「『危険だ』なんて大袈裟だよ。ちょっとした小競り合いはすることはあるけど、大したことはない。」
腕をつかんでいる、母親のリアナ・メイウェザー※10。「あなたの妹が手紙をよこしたのよ? 何かの嵐に『遭いそうになった』って。」
メイウェザー:「何ヶ月か前、小さな嵐に遭遇して、クルーが何日間かナセルの中に閉じこめられたんだよ。※11どうせ、もっと大袈裟に書いてきたんだろ?」
「異星人の兵士がエンタープライズに乗り込んできたこともあるって書いてあったわよ?」
「彼らはエンタープライズを…廃棄船だと思い込んでたんだ。船長が説得して、返した。」
「これじゃロミュランの機雷原※12について聞いても無駄なようね?」
「何で知ってるの?」
「…貨物船に乗って何年経つと思ってるの? 行く先々で情報仕入れてるの。」
警報が鳴り、通信が響いた。『ワープスタンバイ。』
脇につかまる二人。揺れが起こり、しばらくして静かになる。
メイウェザー:「チャーリーの操縦だろ。」
リアナ:「どうしてそう思うの?」
「ワープの入り方が乱暴だから。」
笑うリアナ。
メイウェザー:「どこ行くの。」
「デネヴァ・ステーション※13よ? 補給品をピックアップしに行くだけ。帰りの時間には間に合うわ?」
脇で溶接をしていた男性、ジュアン※14。「気をつけて? …トラヴィス?」
メイウェザー:「…やあ。」
笑い、抱き合うジュアン。「久しぶりじゃないか! またコンテナに閉じこめられてたか?」
メイウェザー:「ああ…またそんな昔のことを。」
「…会えて嬉しいよ。よかったら今夜、食堂に来ないか。」
「行くよ。」
メイウェザーが先へ進むと、リアナは言った。「自分の部屋忘れたの?」
メイウェザー:「客室はこっちだろ。」
「客室は用意してないわよ?」
部屋に入るリアナ。
メイウェザー:「別の人がいたんじゃないの。」
リアナ:「そうよ? でもあなたのために開けてくれたの。VIP なんてそうそう来ないもの。……昔あなたが使ってた物を引っ張り出して置いてみたの。」
「これ取っといてくれたの!」 壁に貼られた星図がある。
「まる一ヶ月夜も寝ないで、将来行ってみたい星系を一生懸命描き込んでたのよね?」
「…まだ夢は捨ててないよ。」
メイウェザーを抱くリアナ。「会えて嬉しいわ、トラヴィス。」
メイウェザー:「…僕も。…悲しみを乗り越えなきゃ。」
「……残念だわ? プラズマインジェクターの調整をしなくちゃならないのよ? …行かないと。一息ついたら機関室に来てね? みんな会いたがってたから。」 出ていくリアナ。
たくさんの貨物が並んだ部屋。ホライゾンのクルーが働いている。
メイウェザーが入った。
運搬機械から降りる男性、ポール・メイウェザー※15。「このキャニスターを第4貨物室へ運んでくれ。」
クルー:「ああ。」
メイウェザー:「ずいぶん偉くなったもんだな。」
ポール:「…船長に話しかける時は敬礼したまえ。」
「また『船長ごっこ』か? …独りでやってろ。」
笑うポールは部下に命じた。「先行っててくれ、すぐ行く。」
うなずくクルー。
メイウェザーはポールと抱き合った。「……よく似合ってるよ。」
ポール:「ありがとう。…まだ、着るのは早すぎるんだけど。」
「……順調そうじゃないか。貨物室が満杯だ。」
「どこに何があるのか探すのに一苦労だよ。父さんは頭の中で管理してたから。データベースを整理しなくちゃ。デメリアン※16に運ぶことになってるストロマトポッドの幼虫※17がまだ見つからないんだ。…今頃冷凍室で死んでなきゃいいけど。」
「…何か、手伝うことあるか。」
「ありがとう。…でも大丈夫だ。…休暇中に、働かせるわけにはいかないよ。」
「……夕食でな?」
うなずくポールは、メイウェザーを呼び止めた。「兄さん。もう少し目立たない服に着替えた方がいいんじゃないか?」 仕事に戻った。
出ていくメイウェザーは、一度ポールを振り返る。
惑星軌道上のエンタープライズ。地表には広範囲の火山が見える。
トゥポル:「画像リレーを配備しました。」
アーチャー:「ショーが始まるのはいつなんだ?」
「約30時間後です。…まだ、カメラの調整がありますので。」
タッカー:「手伝います。」
アーチャー:「かかれ。艦隊にも、ぜひ映像を届けたい。提督に特等席をやろう。」
サトウ:「…エコー3 は領域内。地上への送信は可能です。」
司令室でトゥポルに尋ねるタッカー。「今夜、来るんでしょ。」
トゥポル:「…カメラの、調整が済めば。」
「グズグズしてると、席がなくなるけど。」
「…データベースによれば、フランケンシュタインは小説でもあるようだけど。」
「メアリー・シェリー※18のね。有名な詩人の奥さんだ。」
「…小説の方がより啓発されるんじゃないかしら。」
「誰かがただ本を読むのをクルーが喜んで、聞くと思う?」
「作者の真の意図をより正確に理解できるのでは?」
「…クラブ作ったら? 読書クラブ。船長はいらっしゃいますよね。」
アーチャー:「…もちろん?」
トゥポルを見て、ターボリフトに乗るタッカー。「ポップコーン取っておきます。」
アーチャー:「君も行ったらどうだ? 楽しいし、クルーとの交流も深まる。」
トゥポル:「…真っ暗な部屋にじっと座ってるだけでなぜ『交流が深まる』のでしょうか。私には理解できません。」
「同じ経験を、共有することで深まる。…トゥポル。これならどうだ? 18時に一緒に夕食を取り、19時半から映画。デートしよう。」
「どういうことです。」
「私じゃ不足か? …もしも映画が気に入らなかったら…最後まで観なくても構わない。」 アーチャーは船長席に戻った。
ホライゾン。
私服姿のメイウェザーは、道具を「よーし、試してくれ。」
操作する、操舵席のニコルズ※19。
メイウェザー:「うーん。航行センサーの範囲を広げたんだ。これで、コースの修正が早くなる。」
ブリッジに戻るポール。「何してる?」
メイウェザー:「ちょっと、アップグレードしてるんだ。」
ニコルズと顔を見合わせるポール。「そんなことを頼んだ覚えはないぞ。」
メイウェザー:「悪い。でもいいだろ? …きっと気に入る。左舷安定機※20が、すぐ調子悪くなるだろ? ちょっと、タッカー少佐に相談してみたんだ。」
「『タッカー少佐』?」
「エンタープライズの機関主任だよ。空間弁別機の部品変更の仕方を、教えてくれた。これで調子良くなる。」
「…兄さんがアップグレードさせた部分が故障したら? …あんたはすぐ艦隊の船で通信区域外に行っちまう。誰が修理を? ……僕に相談もなしにシステムをあれこれいじくり回すのはやめてくれ。」
「…わかりました、船長?」
「暇なら、機関室に寄ってくれないか。…ワープ5 のエンジンを造ってくれ。」 微笑むポール。
道具を持って出ていくメイウェザー。
星図を、ベッドに横になって見ているメイウェザー。ドアチャイムに応える。「どうぞ?」
若い女性のノーラ※21が入る。「…お客さんだって聞いて。」
メイウェザー:「…噂は早いな。」
笑い、抱き合うノーラ。「…船長がもういないなんて。…お悔やみを言うわ、トラヴィス。」
メイウェザー:「ありがとう。」
「…これもういらないんじゃない?」
「いいじゃないか、たまには童心に戻ってみるのもいいだろ?」
ノーラは動物のぬいぐるみを手にしていた。
メイウェザー:「重力プレートを切って、ベッドの上で飛び跳ねるか?」
ノーラ:「…よくやったよね、それ…。艦隊の履歴に傷がつくかもよ?」 笑う 2人。「仕事はどう?」
「…毎日忙しいよ。もう 150光年も旅してきたんだ。有人惑星だけでも、22個所見たよ。」
「18ヶ月で?」
「君には想像もつかない世界だ。」
「コロンブス、マゼラン、トラヴィス・メイウェザー…。どのくらいいられるの?」
「ほんの 2、3日。」
「もっと長い休暇は取れないの?」
「無理だよ…。マゼランも、忙しかったんじゃないかな。」
「うーん。」
「…どうした?」
「…こんなこと言いたくないんだけど、でも…あなたの御父様が亡くなってから、いろいろスムーズにいってなくて。」
「…どういう意味。」
「2週間前、オリオン※22の輸送船と合流できなくて、貨物担当局※23に目をつけられてる。デューテリアムも不足してるの。今月はもう二度も予備を使ったわ。…クルーの士気は下がってないけど、船長の死にショックを受けてる。…それに、ポールに新しい船長が務まるのか疑い始めるクルーも出てきたわ? …ポールが苛立ってるの、気づいたでしょ?」
「いつものことだろ?」
「いつも以上よ。」
「…母は、何も言ってなかった。」
「心配かけたくなかったのよ。」
「……まだ船長になって数週間だ、チャンスをやれよ。きっと慣れるから。」
「そう願ってる。…聞きたくなかったろうけど、言っといた方がいいと思って。」
「ありがとう。」 船が揺れた。「…チャーリーの奴。」
「ちょっとした空間の乱れよ? エンタープライズに甘やかされた?」
だが揺れは収まらず、何度も続く。
メイウェザー:「ただの乱れじゃない。」
ホライゾンは攻撃されていた。
複数の異星人船だ。
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※10: Rianna Mayweather (ジョーン・プリングル Joan Pringle) 名前は言及されていません。声:磯辺万沙子、TNG/DS9 ルーサ、TNG コンピューターなど
※11: ENT "The Catwalk" より
※12: ENT第29話 "Minefield" 「許されざる越境」より
※13: Deneva station TOS第29話 "Operation - Annihilate!" 「デネバ星の怪奇生物」で、惑星デネヴァが登場。ENT第18話 "Rogue Planet" 「幻を狩る惑星」ではデネヴァ・プライムが言及
※14: Juan (Philip Anthony-Rodriguez) 名前は言及されていません。声:滝知史
※15: Paul Mayweather (Corey Mendell Parker) 声:河相智哉、VOY 2代目ケアリーなど
※16: Demerians
※17: stromatopod larvae (larva)
※18: Mary Shelley 1797〜1851年、イギリス人。"Frankenstein; Or, The Modern Prometheus" 「フランケンシュタイン」は 1831年発表。「有名な詩人」というのはパーシー・シェリー (Percy Shelley) のこと
※19: Nichols (Adam Paul) 名前は言及されていません。声:河本邦弘
※20: 吹き替えでは「ポート安定機」
※21: Nora (ニコル・フォレスター Nicole Forester DS9第64話 "Distant Voices" 「老化促進テレパシー」のダボ・ガール (Dabo Girl) 役) 名前は言及されていません。声:甲斐田裕子
※22: Orion TOS第44話 "Journey to Babel" 「惑星オリオンの侵略」など
※23: Cargo Authority 地球貨物担当局 (Earth Cargo Authority)、略して ECA (後に言及)。ENT第42話 "Future Tense" 「沈黙の漂流船」では「地球貨物協会」と訳されていました
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