トゥポルはドアを開けた。「伍長。…どうぞ。」 部屋着だ。
コールも制服は着ていない。「失礼します。…今日はありがとうございます。」
トゥポル:「座って。上着を脱いで。…呼吸法は、タッカー少佐に正しく教わっていますね?」
「はい。」
肩に触れるトゥポル。「まずは深呼吸を。…そうです。…ドクターから、今後少佐のマッサージを受けないよう言われましたか。」
コール:「…注意されました。」
「…最近少佐と親しくしているようですね。」
「ん…共通点が多いんです。家がすぐ近くだったっていう話は、聞きました?」
「聞いていません。」
「…高校はライバル同士で、通った映画館も同じでした。…すごい偶然。」
「ごく稀ですね。」
「…だけど 2人とも、故郷の町を失ったんです。あのズィンディの攻撃で。」
「では御家族が被害に。」
「少し前に引っ越して、無事だったんです。幸運でした。」
「少佐には妹さんの死が堪えたようです。」
「いろいろ話を聞きました。」
「…好きなんですか。」
「うん。素敵な人です。紳士的だし、一緒にいると楽しいし。…それに、すごくたくましくて…」 声を止めるコール。
「…失礼しました。少し強く押しすぎましたね。」
ジムの壁に装置が設置されている。
ヘイズ:「我々がジュピター・ステーション※9で考案した、特別訓練システムだ。…10秒間でより多くの的に、命中させる。大尉。…挑戦するか。」
銃を受け取るリード。
ヘイズ:「下がって。…まずはレベル2 だ。」
空中に現れた的を撃っていくリード。次々と命中し、破裂する映像が映し出される。
だが外してしまうのも多い。ブザーが鳴った。
ヘイズ:「10秒間で 4つだな。…はじめはこんなものだ。…だが少し追加訓練を組んだ方がいい。レベル4 に上げろ。」
操作するコール。
的を撃ち抜いていくヘイズ。明らかにリードより速い。
不満そうなリード。
ヘイズ:「9個か。平均的なスコアだ。コール伍長はレベル4 で、14個の記録を出している。」
上級士官の方を見るコール。「ツいていただけです。」
ヘイズ:「では、どんどんやってみよう。レベル2 から、徐々に上げていく。次は誰がやる?」
タッカーが進み出た。視線を落とすリード。
食堂のタッカーはテーブルに座る。「あのシステムはなかなかだな。意外といい訓練になりそうだ。」
リード:「そうですか?」
「気にすんなよ。訓練すればすぐ上手くなるって。」
「的をヘイズの顔だと思って撃ったんです。」
笑うタッカー。「…そろそろ休戦しろよ。」
リード:「冗談でしょ? とことん闘いますよ。」
「まあ、俺がお前の立場でもそう言うけどな。」
「あいつは俺の地位を奪おうとしてるんです。」
「本気で言ってるのか?」
「そうとしか思えませんよ。」
「万全の備えを固めておきたいだけじゃないのか? …追加訓練は、別に悪いことじゃないだろ。」
「…もう、いいです。」
「わかったよ。…フン。」
「…ああそれより、何でアマンダとのことを隠してたんです?」
「…ただの友達だ。…みんなで観察してるのか?」
「目立ちますから。」
「トゥポルにも言われた。」
「トゥポルが彼女にマッサージやってるとか?」
「それが?」
「少佐の優しいタッチの後遺症ですか?」
「不調があるから治してる。それだけだ。」
「…何で少佐は、アマンダに神経マッサージをしたんです?」
「悪いか!」
「密着するもんらしいじゃないですか。ただの友達?」
「まさかお前…トゥポルとも、何かあると思ってんのか?」
「そういう噂も。」
「いいか。言っとくけどな、トゥポルともアマンダとも何もない。一切何もないぞ。」
「なるほど。…2人とも、友達ですか。」
「そうだ。」
「はあ。…じゃ別にそんな親密なものでもないんだな?」
「ああ。」
「だったら…俺もこの辺が痛いから…」
「もういい。」
笑うリード。
目を覚ましている異星人。肌のひび割れはひどくなっている。
アーチャー:「君は何かの実験台になっていたんだろ? …ポッドがあったあの星は何だ! 何が起きてる!」
フロックス:「鎮痛剤が切れてきた。」
ハイポスプレーを打とうとするフロックスの手を止めるアーチャー。「…まだ打つな。」
フロックス:「…しかし…」
異星人:『俺は無理矢理、実験台にされた。…俺がいたところは、あんたらとは…全く違う。別の次元の世界だ。』
アーチャー:「……続けろ。」
『何の実験かまでは知らない。』
「…とてもそうは思えんな。」
『ほんとだ。…俺は囚人だった。若い頃に罪を犯して、長い間ずっと刑務所暮らしをしてたんだ。…だが、ある日守衛に実験に協力すれば釈放すると言われて…ポッドに入った。でもその後のことは、何にも覚えてない。』
「君はポッドの装置につながれて、生理状態をモニターされていたんだ。心当たりもないと言うのか?」
『これは重要な実験なんだ。…俺を捨てるわけがない! …ポッドに戻せ…!』
「…それはできない。」
『戻らないと、俺は死ぬ。頼む。』 異星人の左手が、消え始めた。『こりゃ何だ。…どうなってるんだ!』
ワープ航行に戻ったエンタープライズ。
『航星日誌、補足。航行センサーの調整が済み、再び赤色巨星へと向かう。』
うつぶせになっているタッカー。「もう訓練は増えるし仕事は延びるしで、この時間を楽しみにしてたんだ。」
トゥポル:「起きて。」 タッカーと向き合い、首に手を伸ばす。
「…今日はおとなしいな。…まだアマンダのこと怒ってるのか?」
「怒っていません。」
「やっぱり怒ってる。」
「気のせいです。」
「…別にちょっと神経マッサージをしてやったぐらい、そんな気にすることないだろ。…まさか…」
「何ですか?」
「まさか、妬いてるのかなって。」
「私は嫉妬は、感じません。」
「似たような感じには見えるけどな。」
「あなたと、コール伍長のことは何とも思っていません。」
「いま声が上ずったぞ? ごまかせないよ。」
「あなたは声の抑揚の専門家ですか?」
「そうじゃなくてもわかるさ。…認めろよ。ほんとは妬いてるんだろ。」
「…私があなたに惹かれていると?」
「焼き餅焼くってことは、そういうことだろ?」
「…私が惹かれているというのは立場が逆です。」
「…俺が君に惹かれてるって?」
「あなたの口からそう聞きました。」
「そんなこと言った覚えはないぞ。」
「あなたのクローンです、シムにそう言われました。」
「…シムが?」
「私に惹かれていると。」
「そう言ったのか?」
「丁度その場所で※10。」
「ここで何してた!」
「声が上ずりましたよ?」
「声の専門家か。」
「そうでなくてもわかります。」
「…冗談だろ? 俺が、自分に…妬いてるって?」
「違いますか?」
「まさかそんなわけない。」
ため息をつくトゥポル。
タッカー:「…そうだな。…確かに、ちょっと…。」
トゥポル:「あなたは私に惹かれてる。…そういうことでは?」
「…シムと何した。まさか、二人で…」
トゥポルはいきなりタッカーにキスした。そのまま口づけを続ける。
着ていた寝間着を脱ぐトゥポル。背中が露わになる※11。
トゥポルの身体を見るタッカー。「あ…。」
トゥポルはまた顔を近づける。
パッドを持ったフロックスに話しかける異星人。『あんたはほかの奴らとは違うみたいだな。』
フロックス:「…生まれた星が違うんです。」
『あんたたちはどこから、やってきたんだ。』
「私の故郷はデノビュラ星で、彼らの星は地球です。」
『…俺は死ぬのか。』
「最善を尽くしています。」
『いろいろしてくれて感謝してるよ。』
「休むといい。」 離れ、顕微鏡を使うフロックス。
だが突然異星人に後ろからつかまれた。首を絞められる。
異星人の腕がフロックスを通り抜け、フロックスは倒れた。腕を見つめる異星人。
壁に手を近づけると、そのまま突き抜けた。壁を通り抜けて医療室を出ていく。
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※9: Jupiter Station ENT第10話 "Fortunate Son" 「復讐の連鎖」など。今までは「木星ステーション」と訳されていましたし、それで構わないと思いますが
※10: ENT "Similitude" より
※11: 米国で放送された際、映像が修正されたそうです。予告編では脱ぐ途中でフェードアウトするものの、もっと下の方まで見えるようなアングルになっています。一説には「ジャネット・ジャクソン事件」のせいだとも言われており、DVD版、およびカナダやヨーロッパの放送では修正されていないということです。なお日本の放送では、どちらのバージョンなのか確認していません。DVD が発売されればはっきりするでしょうが、どうでもいいという気もします
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