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エンタープライズ エピソードガイド
第58話「孤独な亡命者」
Exile

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・イントロダクション
※1シャツ姿のサトウが、洗面台にいる。
男の声。『ホシ。』
振り向くサトウ。「誰?」
男:『……聞こえているだろ。』
サトウは部屋を見渡す。
男:『君ならわかるはず。…私が見えるか。』
いつの間にか、部屋の中に人影があった。
通信機に触れるサトウ。「サトウ少尉より、保安部。」
リード:『どうぞ?』
その姿は消えていた。
リード:『ホシ。何かあったのか? ホシ。』


※1: このエピソードは、VOY トレス役のロクサン・ドースン監督作品です。ENT では第51話 "Bounty" 「狙われた首」以来、6話目となります (参考)

・本編
通常飛行中のエンタープライズ。
アーチャーは司令センターに来ていた。「勤務時間外に、ここに呼ばれるとはねえ?※2
トゥポル:「…これを見て下さい。…我々が、空間のひずみに遭遇した地点です。ズィンディの船のデータベースを分析しましたが、異常現象に見舞われた地点は同じでした。」
モニターに星図が表示されている。
アーチャー:「不規則なようだが?」
トゥポル:「私もそう思いましたが、球体※3から放出される重力波のベクトル解析をしたところ…ほかにも重力波の発生源が存在すると見られます。」
直線状に何本も、球体からの重力波が表示されている。球体の位置が複製され、別の場所にもう一つ現れた。
アーチャー:「第2の球体か?」
トゥポル:「恐らくは。…異常現象が発生するのは、双方の重力波が交差する地点のようです。」
「だとしたら、被害を受ける前に異常現象を予測できるな。」
「…正確な位置を割り出すには、球体の重力フィールドの規模を調べる必要があります。」
「第2の球体が本当にあるなら、ここからの距離は。」
「4光年以内です。」
「…コースセット。」

エンタープライズは向きを変え、ワープに入った。

ブリッジのサトウ。「ほんとに?」
リード:「船中をスキャンしたが、侵入者の形跡は一切なかった。」
「センサーにかからないだけかも。」
「過去24時間のあらゆる記録を調べたけど、これといった異常は起きていないよ。安心したろ?」
「ん、じゃ全部幻覚なの?」
「神経が高ぶってるんだ。『敵』の幻覚を見るのは珍しいことじゃない。」
「私の妄想ってわけね?」
「何にしても、よくあることだ。…僕もこないだ、部屋で舌を鳴らすような音を聞いたんだ。振り返ったら、一瞬昆虫族ズィンディの影が見えたような気がした…」
「私が見たのは影じゃない。」
「…わかった。警戒しておく。」

医療室のフロックス。「頭部の血管が少し拡張しているようですねえ。それで、頭痛が起きてる。だがほかは正常です。」
サトウ:「…ほかに、できる検査はない?」
「心配なことでも?」
「ここ 2、3日、ずっと誰かに見られてるような気がしてしょうがないの。……どこにいても、ささやき声が聞こえてきて。…これって、幻覚を引き起こす病気か何かじゃない?」
「そのような形跡は、特に認められませんが。」
「やっぱり気のせいなわけね。」
「恐らくは。」
「そう。」
「フーン、だいぶストレスが溜まっているんじゃないですか?」
「ないものが見えるなんて、よっぽど悪い兆候よね?」
「フフン、考え方次第です。デノビュラでは、ストレスによる幻覚症状を前向きに捉えます。身体を害することなく、負のエネルギーを発散できる。…内に溜め込みがちな私からすれば? むしろうらやましいぐらいですよ。」
「…もう行くわ? ズィンディのデータベースの解読を頼まれてるの。」

司令センターで、独り作業を行うサトウ。
また男の声。『ホシ。』
誰もいない。するとモニターの表示が切り替わり、惑星が映し出された。
他の全てのコンソールも同じだ。
男:『そこが私のいる場所だ。私は君を待ってる。』
サトウ:「サトウより、リード大尉。司令センターに来て下さい。」
男:「ホシ。」 人影だ。
「誰なの。」
「怖がらなくていい。」
惑星の映像が乱れ、サトウ自身が映される。モニターの中にモニターがあり、無限に見える。
男:「ホシ。」
サトウ:「…どうやって侵入したの。」 声が反復される。
「私は船にはいない。」
後ずさりするサトウ。「目的は何。」
男:「君の捜し物を、手伝おう。」
サトウは走り出した。

部屋の様子が変わった。エンタープライズではない。
先に男が立っていた。逃げ出すサトウ。
大きな扉がある。近づいてくる男。
やっとで扉が開いた。外を見て驚くサトウ。
男の姿はない。辺りは雪が降っており、そこは孤立した巨大な岩壁にある家だった。
サトウは後ろから肩に手を置かれた。「ホシ。」

リードだ。「どうした。」
エンタープライズの廊下にいるサトウ。

サトウを調べるフロックス。「これと言って異常は見当たりません。」
リード:「この付近にほかの船はいないし、船内にも『侵入者』の形跡はない。」
サトウ:「あれは幻覚じゃありません。」
アーチャー:「しかし、可能性は否定できない。」
「確かに私は…時々感情が高ぶることがありますが…今回は違います! 断言できます。」
フロックスに命じるアーチャー。「…状況を解明できるまでの間、ホシを監視しておいてくれ。」 続いてリードに言う。「指示があるまで、通路と機関部と兵器室に保安部員を配置しておけ。」
リード:「攻撃の危険があると?」
「何があるかは、予測できん。…明日また来る。」 リードに続いて、医療室を出ていくアーチャー。
ベッドを降りるサトウ。「…餌の時間じゃないの?」
フロックス:「あなたが落ち着いてからでいい。」
「それじゃあ、私があげちゃまずい?」
「どうぞ? ヴァルカン・ルートリーフ※4が入っています。」
サトウは水槽を開け、容器を振りかける。「…不思議なの。…なぜか…異星人の声が、頭の中から響いてくるの。…私の中から、私の目を通して周りを見てるみたいで。…感覚を共有されてるような…呼びかけても、自分に話してるみたいなのよ。こんなの変だけど。」
フロックス:「何も変ではない。君の思考はとても興味深かった。」
「何?」
「私はここ数日…君の思考を読み記憶を探って、君のことを調べていた。」
「なぜ私を?」
「私のテレパシーは相手が限られる。本当に長いこと通じる相手を見つけられずにいたが、やっと君を見つけ出した。」
「何が目的。」

辺りの様子が変わり、草木に囲まれた部屋になった。
男が近づいてくる。「私が住んでいる星だ。そこからわずか 3光年しかない。君に会いに来て欲しい。」
サトウ:「…それは無理だと思うけど。」
男の姿は、地球人と変わらないように見える。「君たちの任務は知っている。私の力が役に立つだろう。」

作戦室のアーチャー。「ズィンディの情報を?」
サトウ:「詳しくは来てから話すと。」
「…情報を餌に、おびき寄せるつもりかもしれん。全ては、ズィンディが企てた罠という可能性もある…」
「我々を助けたいんです。地球が襲われたことに同情して、テレパシーでズィンディを探し出す手伝いをしたいと。…会ってみる価値はあると思います。」
アーチャーは通信機に触れた。「…メイウェザー。」
メイウェザー:『どうぞ?』
パッドを受け取るアーチャー。「…少し寄り道をするぞ。」

エンタープライズは惑星に近づく。サトウが見たのと同じ星だ。

発着ベイのドアが開き、降下されるシャトルポッド。
切り離され、発進する。

岩山の屋敷へ近づくシャトル。

アーチャー、リード、サトウが家へ向かう。サトウが扉に近づくと、自然に開いた。
サトウは既に見た造りだ。また勝手に閉じる扉。
次のドアを開けるサトウ。
男の声。「独りで来てくれと言ったのに。」
アーチャー:「…ファースト・コンタクトには必ず船長が同行する。艦隊の規則だ。何かまずいかな?」
振り返る男。「いいや問題はない。よく来てくれた、皆さんを歓迎する。」
その姿は、地球人とはかけ離れたヒューマノイドだった。


※2: 原語では「勤務時間外にここに来るのが、私以外にもいるとはねえ?」

※3: ENT第54話 "Anomaly" 「オサーリア人の襲撃」より

※4: Vulcan root leaf
ENT第49話 "Regeneration" 「覚醒する恐怖」のセリフからすると、餌をあげているのはエドシアン・ナメクジだと思われます。「ヴァルカン」は訳出されていません

男は言った。「私の名はタークウィン※5。想像していた姿とはだいぶ違っただろ。怖がらせたくなかったので、あなた方の仲間と同じ姿を作り出していた。…来てくれて、ありがとう。」 サトウの前に立つタークウィン。
アーチャー:「手を貸してくれるそうだが。」
「あなた方の探している惑星を破壊する兵器を、私の力で見つけ出せる。何かズィンディに関連する物が必要だが。」
リード:「どうして。」
「人工的な物には作った主や、使った者の…痕跡が残る。私にはそれを読み取る力がある。」
アーチャー:「では、何か用意して届けさせよう。時間はどのくらいかかる。」
「2、3日もあれば。」
リード:「ほかに生体反応はないが、あなたはこの星に独りで?」
「…そうだ。」
「大きな惑星に一人きりなんて。」
「私は長い間ここで暮らしているんだ、ミスター・リード。…外の世界との接触はテレパシーに頼るしかない。…準備をしてくれ、早速始めたい。」
アーチャー:「…急いで戻ってくる。」
「船長。一つ、頼みがある。…作業の間ホシに残ってもらいたい。」
「…それは賛成しかねるな。」
「それが、力を貸す条件だ。」
ため息をつくアーチャー。

エンタープライズ。
作戦室のサトウ。「私さえ行けばいいなら。…危険はないと思います。」
アーチャー:「私にはそうは思えん。何か裏があるぞ。」
リード:「ホシが行くなら、我々も軌道を離れずに待機すればいい。ほんの2、3日です…」
サトウ:「時間を無駄にはできません。球体を探しに行って下さい。…たとえ危険でも、ズィンディの情報を手に入れるチャンスです。…自分の身は自分で守れます。」

ケースの中にあった、金属製の部品に触れるタークウィン。「これが地球を攻撃した武器の一部か。」
アーチャー:「あれは試作品だろう。次はもっと大きくなる。」
「使えそうだ。…荷物を。」
サトウ:「ありがとう。」
受け取るとき、サトウの手に触れるタークウィン。
サトウ:「船長と、話を。」
タークウィン:「ああ…ごゆっくり?」 離れる。
アーチャー:「やはり注意した方がいい。」
サトウ:「もちろん細心の注意を払うつもりです。」
「…フェイズ銃は?」
「枕の下に隠します。」
「…連絡しろ?」 アーチャーは外へ向かった。

テーブルを準備しているタークウィン。
サトウが入る。「いつもこんなに豪華なの?」
タークウィン:「お客さんがいるときはね。」 椅子を引いた。
「ありがとう。」
「君に馴染みのある料理ばかりを、そろえた。」
タークウィンが皿のフタを開けると、ピザやハンバーガーが入っていた。「君の記憶から味を探り出して、プログラムするのにはなかなか苦労したんだ。…食べて?」
ピザを口にするサトウ。
タークウィン:「フィオレラの店※6のレシピを、再現したものだ。…サンフランシスコの、ファウンテン・ストリート※7のね。」
サトウ:「うん…ほんとによく調べたみたいね…?」
「楽しかったよ。」
「…それは?」
「ああ、デザートだ。」 変わった食べ物が入っている。「アラコン星系※8の、珍味でね。きっと気に入る。」
「…今、あんまりお腹の調子が良くないの。」
笑うタークウィン。「おばあさんがそば※9を食べさせようとするたびにそう言ってた。でも今は好きになっただろ?」 自分も席についた。
サトウ:「…私の過去をよく知ってるみたいだけど? 私はあなたのこと何も知らないわ? …出身はどこ。」
「ここから、30光年のところにある惑星だ。快適なところだよ。…テレパシーさえなければね、ヘ。…能力をもつのは 5,000万人に一人。私は不運にもその一人だった。私のような者は社会の脅威と見なされ、星を出るしか生きる道はない。遠い星へ送られるんだ。…人里離れた場所にね。…孤独に乾杯。…君ならわかってくれるだろ。」
「どういう意味?」
「君は才能があったがために、幼い頃から家庭教師をつけられ…独り語学を学んできた。…独りで過ごすのは当たり前だったんだろ。……ああ、すまない。…そんな昔のことまで探ってしまって。」
「ずっと私の心を、読み続けてたの?」
「君が来るまではね。だがここでは、地球人と同じように意思の疎通を図りたい。」
「悪いけど、もう休ませてもらうわ。」
「そうか。」

荷物を運び入れるタークウィン。「何か、必要な物があれば食事の時に言ってくれ。私は一日、作業だ。自由に、過ごしてくれていい。ここには面白い物がたくさんある。…だが間違っても、外には出ない方がいい。…ここは、猛烈な風が吹く。」
サトウ:「中でも十分楽しめそうだわ?」
「ああ、もしよければ…これを読んでみるといい。千年以上前の、文字で書かれた本だ。滅亡した国のことや、古代の人々の暮らしぶりが記されている。」
サトウは本をめくってみた。「ありがとう。」
タークウィン:「…もう孤独に悩むことはない。」
「大丈夫。ほら…この本があるし。」
「そうじゃない。仲間といても、いつも孤独を感じているだろう。君は独りじゃない。」

エンタープライズ。
水球を壁に打ち付けていたアーチャー。何度か繰り返していると、突然ボールが壁に張り付いた。
アーチャー:「ブリッジ。」
トゥポル:『はい船長。』
「近づいてきたようだな。」
『そのようです。』
「ワープ停止だ。そっちへ行く。」
『了解。』
自室を出るアーチャー。

廊下の壁が波打っている。そばを通りかかるアーチャー。

兵器室のクルー。「フェイズ砲はどうだ。」「全て、点検済みです。」
音が響き、階段が曲がった。今度は階段ごと裏返しになる。

ブリッジで警告音が鳴る。
アーチャー:「報告。」
トゥポル:「全デッキで、異常が起きています。」
火花が散る。ブリッジを一周するように空間異常が続く。
船体の一部が変色している。そこに波打っている部分が近づき、外殻が弾け飛んだ。
内部で電流が発生しているのが見える。


※5: Tarquin
(Maury Sterling 映画 "Behind Enemy Lines" (1996)、「ジャスティス」(2002)、ドラマでは犯罪捜査官ネイビーファイル「軍人の資質」(99)、エンジェル「最後のキッス」(99)、CSI 科学捜査班「グリッソムとの対立」(03)、"Crossing Jordan" (03) などに出演) 地球人としての姿も、もちろん同じ俳優が演じています。声:堀内賢雄、DS9 ジャックなど

※6: Fiorella's

※7: Fountain Street

※8: Arakon System

※9: soba noodles

クルーを起こすアーチャー。別の部下が手助けする。「私が。」
トゥポル:「B、C、Eデッキで船体破損、隔壁を作動。3つのサブセクションが、減圧しています。」
揺れは収まらず、空間異常が天井を伝わる。
リード:「船体前方の強度が落ちています。」
操舵士官に命じるアーチャー。「全停止! …異常現象が激しいな。」
トゥポル:「第2の球体の影響だとしたら、かなり重力エネルギーが強いようですね。」
「このまま留まれば※10…船をバラバラにされかねない。…エネルギー源の位置は。」
「ここから、およそ 75,000キロです。」
リード:「75,000光年にも等しい。」
アーチャー:「…タッカー少佐。」
タッカー:『どうぞ。』

ワープコアのそばにいるタッカー。
アーチャー:『エンジンの状態は。』
タッカー:「…今のところ無事ですが、これ以上進んだら保証はできません。」

アーチャー:「シャトルをトレリウムD で保護するのにかかる時間は。」

タッカー:「精製するのにまる一日と、船体に手を加えるのに※11 12時間は。」

アーチャー:「すぐかかれ。」
タッカー:『了解。』
「位置を保て。」 トゥポルに言うアーチャー。「2、3日は、出発ベイに近づかない方がいい。」
トゥポル:「そうですね。」

タークウィンの屋敷。
薄着姿のサトウは、透けた窓から中を覗き込んだ。タークウィンが座って、片手に丸い物を持っている。
青く光る球。目を伏せていたタークウィンはサトウに気づいた。
サトウ:「…ごめんなさい。もう邪魔しないから。」
タークウィン:「いいんだ。入って。」
タークウィンは光を消した。扉を開けるサトウ。
タークウィン:「私が渡した本はもう読んだかな。」
サトウ:「今、ちょうど半分くらい。」
「そんなに早く解読できるとは。」
「私のことはわかってるんでしょ?」
笑うタークウィン。「それで感想は?」
サトウ:「…とても面白い言語だわ? 中世のクリンゴン語に似てる。…進展は?」
「ああ、少しイメージが…湧いてきた。…ズィンディには 5つの種族がいるようだね。」
「そう聞いてるわ。」
「種族同士が対立していて、争いが絶えない。」
「武器を造ってる場所は?」
「…それは、まだ。もう少し時間がいる。」
球を見るサトウ。「これ何?」
タークウィン:「…テレパシーの範囲を広げてくれるものだ。私が星を出るときに、家族がくれた。これで、君を見つけたんだ。…一度、やってみるかい。」
「できるの?」
「手引きする。」
タークウィンの代わりに座り、球に触れるサトウ。光った。
タークウィン:「目を閉じると…少しずつ光と色を感じてくる。そのイメージを形にして、だんだんとはっきりさせていくんだ。…見えるかな。」
目を閉じたサトウ。「何となく。」
タークウィン:「…そんなに、無理をすることはない。自然と湧いてくるのを、待つんだ。」

サトウの意識は飛んだ。さまざまな惑星、場所、宇宙船、異星人のイメージが次々と見える※12
そしてズィンディ評議会の、爬虫ズィンディ。こちらを振り向く。

驚き、目を開けるサトウ。球の光は消えていた。
サトウ:「…これを、使いこなしてるの?」
タークウィン:「訓練がいる。」 手を重ねる。「もう一度。」
「後にするわ。…もう行くから、作業進めて。」
「いつでも来てくれ。…話し相手になる。」
「ありがとう。」
タークウィンはため息をついた。

植物で囲まれた部屋に入るサトウ。花に手を触れる。
ドアから外を見た。出る。
強い風。するとすぐそばに、長方形に区切られた場所がいくつもあった。
一端には名前を書いたような石が置かれている。墓だ。
タークウィンが後ろから近づいた。「外には出るなと言ったはずだ!」
サトウ:「…これを見られたくなかったのね? …誰のお墓?」
「私の友人だ。最後の一人は百年前に死んだ。中に入ろう。」
「どうして死んだの。」
「みな私のように寿命が長くなかったんだ。」
「…あなたいくつ?」
「生まれたのは 400年以上前だ。」
「彼らは何者?」
「一人目は、モリアンナ・タール※13。…最初の、パートナーだった。君のように、特殊な心をもっていた。」
「…ほかの 3人は?」
「皆パートナーだ。モリアンナが死んで次のパートナーを探し、また次と。…一体、どちらが辛いのか。孤独に耐えるのと、大切な人を埋葬するのと。パートナーを見つけるには長い年月がかかる。」
「もう中に戻った方がいいみたいね。」
「お願いだ! 考えてみてくれるだけでいい。」
「知ってるでしょ? 私には大切な任務があるの。放り出すわけにはいかないわ?」
「私が力を貸せばその任務もすぐ終わる。」
「冗談じゃないわ、こんな寂しい場所で一生を過ごせって言うの? …あなたとだって、会ってまだ 2日と経ってないのよ?」
「みんな最初はそう言った。だが次第に、ここの快適さがわかってきたんだ。私のように君を理解できる人は、ほかにはいない。」
「力を貸してくれて感謝してるし、作業の間はここに残るけど…あなたの次のパートナーになる気はないわ。」 離れるサトウ。
うめくタークウィン。

中に戻ったサトウ。前に、地球人の姿をしたタークウィンが立っていた。
サトウ:「……人間の姿になれば、私の気が変わるとでも思った? …大間違いよ。」
タークウィン:「君はずっと未知のものに怯えながら生きてきた。…その気持ちを克服する自信がなくて、任務からも逃げ出そうとしただろ※14。…だが君は船に残り、強くなった。今回も、その時と同じだ。」
「…私の記憶を読み違えてるみたいね。…あの時と今は、全く違うわ。」
「…私といれば、君がずっと求め続けてきたものが手に入るんだぞ。…君が言語を学んだのは…人とのつながりを、求めたからだ。」
「あなたの手助けはいらない!」
「…それならなぜ孤独を感じる? …エンタープライズにはたくさんの仲間たちがいる。それなのに君はいつも孤独にさいなまれてきたじゃないか。ここに残るんだ。私の手引きに従いさえすれば、思考や感情を共有することができる。」
「…言ったはずでしょ? …ここに残る気はない。」
「それは嘘だ。君の心の声はそうは言っていない。」
「あなたには関係のないことでしょ!」
「ミチオ※15。…君のおじいさんは、唯一身近な存在だった。だがもう死んでしまった。」
「もうやめてよ。」
「あの安心感を取り戻せるんだ。」
「いいからほっといて!」
また前に現れるタークウィン。「すまない。あまりに一方的すぎたようだ。…だが考えてみてくれ。時間ならたっぷりある。」 そのまま消えた。

エンタープライズから発進するシャトルポッド。

操作するタッカー。「ちょうど、ひずみのあるエリアを通過してます。」
アーチャー:「……異常はないな。」
「トレリウムD の効果だ。」
「エンタープライズ。」
トゥポル:『どうぞ。』
「もう既に、79,000キロの地点まで来てる。…遮蔽フィールドはなさそうだ。」

星図を見ているトゥポル。「016、マーク 2 に針路変更して下さい。」
アーチャー:『了解。』

シャトルポッド。
揺れた。
タッカー:「的中の、予感ですね。」

トゥポル:「恐らく、そこが外辺です。右舷 3.6度の方向へ。」

操縦するアーチャー。「見つけたようだ。」
トゥポル:『コースを維持。…真正面に、遮蔽フィールドがあるはずです。』
ライトが明滅する。
タッカー:「パワーが落ちてる!」
大きく揺れた。
シャトルポッドは、遮蔽フィールドの中に消えた。
アーチャー:「船体強度は。」
タッカー:「亀裂はありますが、もちそうです。」 ライトが消える。「回路切り替え。」

フィールドを抜けた。
アーチャー:「見ろ。」
シャトルポッドの先に、最初のと同じ球体があった。
アーチャー:「早速、スキャンしよう。」
タッカー:「…ああ、クソ。」
「どうした。」
「センサーが、やられてます。」
「…どのくらいで直せる。」
「時間はかかりませんが、船に戻って回路のカバーを外さないと。中からは修理できません。」
「……下降スラスターを、準備しろ。」
「…まさか降りるつもりですか?」
「早く、準備だ。宇宙服を着ておけ。」

球体に着陸したシャトルポッドから、環境服を着て出てくる。ブーツで張り付いている。
タッカー:「どうも勝手が違いますね※16。」
アーチャー:「頼むぞ、様子を見てくる。」
「迷わないように。」
笑うアーチャー。


※10: 「留まれば」というより「進めば」でしょうね

※11: 吹き替えでは「船体の修復に」と言っていますが、シャトルポッドは別に壊れたわけではありません

※12: 使われている映像には、ENT第2話 "Broken Bow, Part II" 「夢への旅立ち(後編)」などのクロノス、ENT第3話 "Fight or Flight" 「死のファースト・コンタクト」の異星人船を攻撃するアクサナール船、異星人船、ENT第7話 "The Andorian Incident" 「汚された聖地」のプジェム、ENT第9話 "Civilization" 「狙われた星アカーリ」のマルリア小型船、反物質リアクター、マルリア船、ENT第11話 "Cold Front" 「時を見つめる男」のアゴソリアの大フレア、ENT第12話 "Silent Enemy" 「言葉なき遭遇」のフェイズ砲の実験に使った惑星、異星人、異星人船、小型船、ENT第13話 "Dear Doctor" 「遥かなる友へ」のメンク人集落、ENT第14話 "Sleeping Dogs" 「名誉に生きる者」のターグ、ENT第17話 "Fusion" 「果てなき心の旅」のアラクニッド星雲、ENT第44話 "The Crossing" 「光の意志」の異星人船、ENT第45話 "Judgment" 「反逆の法廷」のナレンドラ3号星、このエピソードにも登場する金属球体などがあります

※13: Morianna Taal

※14: ENT第3話 "Fight or Flight" 「死のファースト・コンタクト」より

※15: Michio

※16: 原語では「こんな上陸休暇は考えたことありませんね」

修理しているタッカー。
アーチャー:「終わりそうか。」
タッカー:「もう少しです。あと、2個所で。」
火花が散った。何かを噴き出すような音が聞こえる。
タッカー:「船長!」
シャトルポッドが空中に上がり始めた。
左舷の先から、下向きに気体が吹き出ている。
アーチャー:「どうなってる。」
タッカー:「起動したんです。」
「それはわかる。」
「バイパスしたときに、推進システムにサージが起きたんです。…よりによって。」
回転しながら上昇するシャトル。
タッカー:「エンタープライズは、すぐに気づかないでしょうね。」
アーチャー:「スラスター抜きで発進は?」
「やってみます。」
2人はフェイズ銃を取り出した。
アーチャー:「どっちが先に当てるかな?」 発砲するが、スラスターには当たらない。
タッカー:「酸素リサイクル装置に当てないように。」 何発撃っても駄目だ。「射撃訓練が足りないなあ。」
上り続けるシャトル。
2人が同時に撃つと、命中したようだ。落ちてきたシャトルポッドが、球体に激突する。
反動で回転しながら、アーチャーたちの方へ向かってくる。身構える 2人。
シャトルは滑り込んできた。2人の目の前で止まる。
顔を見合わせるアーチャーとタッカー。

ブリッジを歩いているトゥポル。操舵士官はメイウェザーになっている。
アーチャーの通信。『エンタープライズ。』
トゥポル:「どうぞ、船長。」
『予測通りの場所だった。スキャンは完了したぞ。』

ワープ中のエンタープライズ。
『航星日誌、補足。トゥポルが球体のデータを分析している間に、サトウ少尉を迎えに行く。ズィンディの情報を得られたかもしれない。』

寝間着姿で横になり、本を読んでいるサトウ。ドアを叩く音がする。
本来の姿のタークウィンが入った。「いいかな? …すぐに済む。船から連絡で…もうじき迎えに来るそうだ。ズィンディの武器のことが、色々わかってきたよ。きっと君たちの役に立つ。」
サトウ:「ご協力ありがとう。」
「…例の話考えてくれたかな。」
「ここには残れない、わかってるでしょ?」
「そうか。…やはり、もともと無理な話だったな。」
「もし次に誰かをここへ呼ぶときは、最初にパートナーを探してると伝えた方がいいわよ。」
「…そうするよ。…本は、持っていってくれ。ここで、過ごした時間の記念に。」
「そう言ってくれてよかった。いま終盤まできて、終わりが気になってたの。」
「…船長に話をしてから、ここへ通す。君に会えて、よかった。」 出ていくタークウィン。
ため息をつくサトウ。

タークウィンの屋敷。
制服を着終えたサトウ。
鏡にアーチャーが映った。「どうだった?」
サトウ:「戻りたくてウズウズしてました。」
「そうか。だが、君の気持ちは無駄にはならなかったよ? 期待以上の情報を入手できた。しかも船が通信可能な範囲にいる間は、情報を送り続けてくれるそうだ。」
「私も嬉しいです。」
「…ただ、条件があるそうだ。…作業を続ける間は、君に残って欲しいと。」
「もちろん断っていただけましたよねえ?」
「強制はできないが、君に懸かってる。手遅れになる前に重要な情報を手に入れるチャンスだ。…上手くすれば、2、3週間かせいぜい一月で済む。任務が済んだらすぐに迎えに来よう。…状況は君もよくわかっているだろう?」
「……一度船に戻って、荷物を取ってきます。」
「ありがとう。荷造りは任せてくれ。必要な物を書いてくれれば、届けさせる。」
「翻訳機のアップグレードを引き継がないと。」
「…対処するから、心配ない。」
「せめてみんなに挨拶をさせて下さい。」
「…時間がない。」
「すぐに済みます、もう会えないかもしれないんです。」
「トラヴィスはわかってくれる。」
「…トラヴィス?」
「トラヴィスやみんなだ。重要な任務なのは承知だろ?」
「今トラヴィスのことを考えたわ。…私の心を読んだの。」
「長い付き合いならわかるさ。」
「アーチャー船長はどこ。」
「とにかく、待っていてくれ。すぐに迎えに来る。」
「船長はどこ!」
「ホシ。」
「アーチャー船長をどうしたの!」
「ホシ!」
つかみかかってくるアーチャーから逃げるサトウ。

アーチャーはエンタープライズにいた。「サトウ少尉に回線をつなげ。」
通信士官※17:「…駄目です、通信できません。妨害フィールドがあります。」
ブリッジのライトが明滅する。
リード:「船長。」
アーチャー:「何事だ。」
「制御不能です。」
トゥポル:「…全てオフラインです。メインに、サブ回路。ワープエンジンに、生命維持も。」
完全に暗くなる。

サトウはタークウィンの部屋に入った。「惜しかったわね、船長が来たら何て言うつもりだったの? 私に化けて、残りたいって頼む気だった? でもそれは無理よね。テレパシーが通じるのは私だけなんでしょ?」
持っていた球の光を消すタークウィン。「エンタープライズは軌道上にいる。船の運命は君次第だ。」 立ち上がる。
サトウ:「それどういう意味。」
「君は手放せない。ずっと探し続けていたんだ。」
「船に何をしたの。」
「君が残るなら、危害は加えない。安全に立ち去らせよう。」
「船長と話をさせて。」
「そりゃ無理だ。」
「なぜ無理なの?」
「…ここに残れば、幸せに暮らせる。」
「船長と話ができないわけを言って!」
「船にパワーが、残っていない。…君が同意しない限り、復旧はしないだろう。」
「…私一人を引き留めるためだけに、80人※18を殺す気?」
「私だって誰も殺したくはない。だから君が残ってくれないと困るんだ。」
サトウは、テレパシーの球を手にした。
タークウィン:「…やめてくれ! …ああ、落としたら壊れてしまう!」
サトウ:「…もちろんわかってるわ。…今すぐ船のパワーを戻さないと、この先一生誰とも出会えなくなるのよ。」
「…脅しても無駄だ。…君さえいれば、もうほかを探す必要などない。」
片手で持つサトウ。「私が生きてるのは、せいぜい 60年か 70年よ。私が 5番目の墓に入った後は? …もうパートナーを見つけられなくなるのよ? …生涯孤独に、過ごすことになる。」
タークウィン:「頼む。…もう一度考え直してくれ!」
サトウ:「これが最後のチャンスよ!」 球を突き出した。

真っ暗だったエンタープライズの船体に、パワーが戻っていく。
ブリッジの明かりが復旧した。
アーチャー:「報告!」
トゥポル:「全システム復旧しました。」
「マルコム。」
リード:「武器もオンラインです。」
「…戦術警報。」
「了解。」
通信士官:「サトウ少尉です。」
アーチャー:「つなげ。」
サトウ:『船長、ご無事ですか。』
「何とか復旧したが、どうなってる。」
『迎えに来て下さい。』

『航星日誌、補足。サトウ少尉が船に戻ったが、ズィンディの情報は得られなかった。後は球体の分析結果に、期待するしかない。』
司令センター。
アーチャー:「どうだ。」
トゥポル:「データのおかげで、ひずみの地点はほぼ正確に割り出せそうです。」
「ほぼ?」
「船長たちが強い異常現象に、遭遇した地点です。」 モニターの星図に表示させるトゥポル。
「交差する点と一致してないな。」
「その通りです。…どうやら、エネルギーの発生源はほかにもあるようです。」
「…第3の球体が?」
「しかし、それだけでは完全に一致しないので…シミュレーションで発生源の数を推測しました。」
交差点が補正され、星図が縮小される。そこには線が何本も集中していた。
アーチャー:「いくつある。」
トゥポル:「データが少ないので、正確にはわかりませんが…少なくとも 50 は。」
次々と球体の位置が追加され、星図は重力波の線で埋め尽くされるほどになった。
アーチャー:「月ほどの大きさのものを、50 も造ったというのか。」
トゥポル:「それぞれが、膨大な重力エネルギーを放出しています。」
「こうは、考えられないか。この球体を造った主が、デルフィック領域を造り出した。」
「何のために、こんなひずみの網を作る必要があったんでしょう。」

本を閉じたサトウ。すぐそばにタークウィンがいた。
サトウ:「何しに来たの?」
タークウィン:「終わりはどうだったかな。」
「もういいでしょ。監視するのはやめて。」
「これが最後だ。約束する。…情報をもってきた。役に立ててくれ。」
「どうして。」
「危険な任務だ。君に何かあっては困る。」 笑うタークウィン。「いつか、君の気が変わるかもしれないからね。」

作戦室のアーチャーは、ドアチャイムに応えた。「どうぞ。」
制服に戻ったサトウが、パッドを持って入る。
アーチャー:「休めと言ったのに。」
サトウ:「タークウィンが来ました。」
「…やはり現れたか。」
「この座標を、船長に。」
「何の位置だ。」
「ズィンディのコロニーです。…武器の一部を造っていると。」


※17: Com Officer
(Philip Boyd) ENT第55話 "Extinction" 「突然変異」以来の登場。声:大久保利洋

※18: MACO が何人も増えたはずなのに、原語でも「80人以上」と言っています。この文脈からすると MACO も含めているはず。整理するとズィンディ襲撃前は 83人、ENT第52話 "The Expanse" 「帰還なき旅」で「(クルーで) 降りるのは 7、8名に留まる」というセリフがあり、その後 MACO が乗船し、ENT第54話 "Anomaly" 「オサーリア人の襲撃」で 1名が殉死しています。今回の「80人以上」という表現からすると、サトウを入れて 90人が最大と仮定されるので、MACO は多くても 14〜15人ということになるでしょうか

・感想
放送前から公式サイトでも触れていたとおり、「美女と野獣」型のストーリー。定番ということでしょうが、内容も定番というかありきたりというか…。ただし、ズィンディに関する連続ストーリーの中にあって、サトウが主役であるエピソードを作ったことは大いに評価したいです。既にレギュラー登場頻度の偏りはヴォイジャーの後半辺りから見られていましたが、やっぱり毎週見ているようなファンとしては、まんべんなく活躍を楽しみたいですからね。その反動といっては可哀想ですが、メイウェザーは生でしゃべるシーンが全くありませんでしたね… (通信のみ。しかも特に理由もなく、エキストラの操舵士が座っている場面もあり)。
脚本は共同製作の Phyllis Strong。新シーズンになって初めて、MACO が全く登場しませんでした。2代目ホシの弓場沙織さんの演技を、じっくり堪能できる機会ができましたね。


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