クルーを起こすアーチャー。別の部下が手助けする。「私が。」
トゥポル:「B、C、Eデッキで船体破損、隔壁を作動。3つのサブセクションが、減圧しています。」
揺れは収まらず、空間異常が天井を伝わる。
リード:「船体前方の強度が落ちています。」
操舵士官に命じるアーチャー。「全停止! …異常現象が激しいな。」
トゥポル:「第2の球体の影響だとしたら、かなり重力エネルギーが強いようですね。」
「このまま留まれば※10…船をバラバラにされかねない。…エネルギー源の位置は。」
「ここから、およそ 75,000キロです。」
リード:「75,000光年にも等しい。」
アーチャー:「…タッカー少佐。」
タッカー:『どうぞ。』
ワープコアのそばにいるタッカー。
アーチャー:『エンジンの状態は。』
タッカー:「…今のところ無事ですが、これ以上進んだら保証はできません。」
アーチャー:「シャトルをトレリウムD で保護するのにかかる時間は。」
タッカー:「精製するのにまる一日と、船体に手を加えるのに※11 12時間は。」
アーチャー:「すぐかかれ。」
タッカー:『了解。』
「位置を保て。」 トゥポルに言うアーチャー。「2、3日は、出発ベイに近づかない方がいい。」
トゥポル:「そうですね。」
タークウィンの屋敷。
薄着姿のサトウは、透けた窓から中を覗き込んだ。タークウィンが座って、片手に丸い物を持っている。
青く光る球。目を伏せていたタークウィンはサトウに気づいた。
サトウ:「…ごめんなさい。もう邪魔しないから。」
タークウィン:「いいんだ。入って。」
タークウィンは光を消した。扉を開けるサトウ。
タークウィン:「私が渡した本はもう読んだかな。」
サトウ:「今、ちょうど半分くらい。」
「そんなに早く解読できるとは。」
「私のことはわかってるんでしょ?」
笑うタークウィン。「それで感想は?」
サトウ:「…とても面白い言語だわ? 中世のクリンゴン語に似てる。…進展は?」
「ああ、少しイメージが…湧いてきた。…ズィンディには 5つの種族がいるようだね。」
「そう聞いてるわ。」
「種族同士が対立していて、争いが絶えない。」
「武器を造ってる場所は?」
「…それは、まだ。もう少し時間がいる。」
球を見るサトウ。「これ何?」
タークウィン:「…テレパシーの範囲を広げてくれるものだ。私が星を出るときに、家族がくれた。これで、君を見つけたんだ。…一度、やってみるかい。」
「できるの?」
「手引きする。」
タークウィンの代わりに座り、球に触れるサトウ。光った。
タークウィン:「目を閉じると…少しずつ光と色を感じてくる。そのイメージを形にして、だんだんとはっきりさせていくんだ。…見えるかな。」
目を閉じたサトウ。「何となく。」
タークウィン:「…そんなに、無理をすることはない。自然と湧いてくるのを、待つんだ。」
サトウの意識は飛んだ。さまざまな惑星、場所、宇宙船、異星人のイメージが次々と見える※12。
そしてズィンディ評議会の、爬虫ズィンディ。こちらを振り向く。
驚き、目を開けるサトウ。球の光は消えていた。
サトウ:「…これを、使いこなしてるの?」
タークウィン:「訓練がいる。」 手を重ねる。「もう一度。」
「後にするわ。…もう行くから、作業進めて。」
「いつでも来てくれ。…話し相手になる。」
「ありがとう。」
タークウィンはため息をついた。
植物で囲まれた部屋に入るサトウ。花に手を触れる。
ドアから外を見た。出る。
強い風。するとすぐそばに、長方形に区切られた場所がいくつもあった。
一端には名前を書いたような石が置かれている。墓だ。
タークウィンが後ろから近づいた。「外には出るなと言ったはずだ!」
サトウ:「…これを見られたくなかったのね? …誰のお墓?」
「私の友人だ。最後の一人は百年前に死んだ。中に入ろう。」
「どうして死んだの。」
「みな私のように寿命が長くなかったんだ。」
「…あなたいくつ?」
「生まれたのは 400年以上前だ。」
「彼らは何者?」
「一人目は、モリアンナ・タール※13。…最初の、パートナーだった。君のように、特殊な心をもっていた。」
「…ほかの 3人は?」
「皆パートナーだ。モリアンナが死んで次のパートナーを探し、また次と。…一体、どちらが辛いのか。孤独に耐えるのと、大切な人を埋葬するのと。パートナーを見つけるには長い年月がかかる。」
「もう中に戻った方がいいみたいね。」
「お願いだ! 考えてみてくれるだけでいい。」
「知ってるでしょ? 私には大切な任務があるの。放り出すわけにはいかないわ?」
「私が力を貸せばその任務もすぐ終わる。」
「冗談じゃないわ、こんな寂しい場所で一生を過ごせって言うの? …あなたとだって、会ってまだ 2日と経ってないのよ?」
「みんな最初はそう言った。だが次第に、ここの快適さがわかってきたんだ。私のように君を理解できる人は、ほかにはいない。」
「力を貸してくれて感謝してるし、作業の間はここに残るけど…あなたの次のパートナーになる気はないわ。」 離れるサトウ。
うめくタークウィン。
中に戻ったサトウ。前に、地球人の姿をしたタークウィンが立っていた。
サトウ:「……人間の姿になれば、私の気が変わるとでも思った? …大間違いよ。」
タークウィン:「君はずっと未知のものに怯えながら生きてきた。…その気持ちを克服する自信がなくて、任務からも逃げ出そうとしただろ※14。…だが君は船に残り、強くなった。今回も、その時と同じだ。」
「…私の記憶を読み違えてるみたいね。…あの時と今は、全く違うわ。」
「…私といれば、君がずっと求め続けてきたものが手に入るんだぞ。…君が言語を学んだのは…人とのつながりを、求めたからだ。」
「あなたの手助けはいらない!」
「…それならなぜ孤独を感じる? …エンタープライズにはたくさんの仲間たちがいる。それなのに君はいつも孤独にさいなまれてきたじゃないか。ここに残るんだ。私の手引きに従いさえすれば、思考や感情を共有することができる。」
「…言ったはずでしょ? …ここに残る気はない。」
「それは嘘だ。君の心の声はそうは言っていない。」
「あなたには関係のないことでしょ!」
「ミチオ※15。…君のおじいさんは、唯一身近な存在だった。だがもう死んでしまった。」
「もうやめてよ。」
「あの安心感を取り戻せるんだ。」
「いいからほっといて!」
また前に現れるタークウィン。「すまない。あまりに一方的すぎたようだ。…だが考えてみてくれ。時間ならたっぷりある。」 そのまま消えた。
エンタープライズから発進するシャトルポッド。
操作するタッカー。「ちょうど、ひずみのあるエリアを通過してます。」
アーチャー:「……異常はないな。」
「トレリウムD の効果だ。」
「エンタープライズ。」
トゥポル:『どうぞ。』
「もう既に、79,000キロの地点まで来てる。…遮蔽フィールドはなさそうだ。」
星図を見ているトゥポル。「016、マーク 2 に針路変更して下さい。」
アーチャー:『了解。』
シャトルポッド。
揺れた。
タッカー:「的中の、予感ですね。」
トゥポル:「恐らく、そこが外辺です。右舷 3.6度の方向へ。」
操縦するアーチャー。「見つけたようだ。」
トゥポル:『コースを維持。…真正面に、遮蔽フィールドがあるはずです。』
ライトが明滅する。
タッカー:「パワーが落ちてる!」
大きく揺れた。
シャトルポッドは、遮蔽フィールドの中に消えた。
アーチャー:「船体強度は。」
タッカー:「亀裂はありますが、もちそうです。」 ライトが消える。「回路切り替え。」
フィールドを抜けた。
アーチャー:「見ろ。」
シャトルポッドの先に、最初のと同じ球体があった。
アーチャー:「早速、スキャンしよう。」
タッカー:「…ああ、クソ。」
「どうした。」
「センサーが、やられてます。」
「…どのくらいで直せる。」
「時間はかかりませんが、船に戻って回路のカバーを外さないと。中からは修理できません。」
「……下降スラスターを、準備しろ。」
「…まさか降りるつもりですか?」
「早く、準備だ。宇宙服を着ておけ。」
球体に着陸したシャトルポッドから、環境服を着て出てくる。ブーツで張り付いている。
タッカー:「どうも勝手が違いますね※16。」
アーチャー:「頼むぞ、様子を見てくる。」
「迷わないように。」
笑うアーチャー。
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※10: 「留まれば」というより「進めば」でしょうね
※11: 吹き替えでは「船体の修復に」と言っていますが、シャトルポッドは別に壊れたわけではありません
※12: 使われている映像には、ENT第2話 "Broken Bow, Part II" 「夢への旅立ち(後編)」などのクロノス、ENT第3話 "Fight or Flight" 「死のファースト・コンタクト」の異星人船を攻撃するアクサナール船、異星人船、ENT第7話 "The Andorian Incident" 「汚された聖地」のプジェム、ENT第9話 "Civilization" 「狙われた星アカーリ」のマルリア小型船、反物質リアクター、マルリア船、ENT第11話 "Cold Front" 「時を見つめる男」のアゴソリアの大フレア、ENT第12話 "Silent Enemy" 「言葉なき遭遇」のフェイズ砲の実験に使った惑星、異星人、異星人船、小型船、ENT第13話 "Dear Doctor" 「遥かなる友へ」のメンク人集落、ENT第14話 "Sleeping Dogs" 「名誉に生きる者」のターグ、ENT第17話 "Fusion" 「果てなき心の旅」のアラクニッド星雲、ENT第44話 "The Crossing" 「光の意志」の異星人船、ENT第45話 "Judgment" 「反逆の法廷」のナレンドラ3号星、このエピソードにも登場する金属球体などがあります
※13: Morianna Taal
※14: ENT第3話 "Fight or Flight" 「死のファースト・コンタクト」より
※15: Michio
※16: 原語では「こんな上陸休暇は考えたことありませんね」
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