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エンタープライズ エピソードガイド
第17話「果てなき心の旅」
Fusion

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・イントロダクション
一面に広がる星雲。それは本の表紙だった。
トゥポル:「見せたいと言っていたのは、この本ですか?」
アーチャー:「いやあ、そうじゃない。」 コンピューターにも同じ星雲が表示されている。「これは、私が初めて読んだ…天文学の本なんだ。8歳の誕生日に父がくれた。いつもその表紙を眺めていたよ。アラクニッド星雲※1だ。まさかこの目で見られるとはねえ。もう 1光年もない。あと 2、3時間だ。」
トゥポルは最後のページに注目した。「『ジョニー・アーチャー提督の蔵書』とは?」
アーチャー:「夢だけは大きかったんだ。」 呼び出しに応える。「何だ。」
リード:『船体が、インパルス速度 2分の1 で接近中。呼びかけてます。』
「船籍は?」
『周波数はヴァルカンのものです。』
トゥポルを見るアーチャー。

スクリーンに小型の船が映っている。
アーチャー:「あんなヴァルカン船は見たことがないなあ。」
トゥポル:「このクラスの船は、もう使われてません。」
サトウ:「呼びかけてます。」
うなずくアーチャー。
ヴァルカン人が映った。『そちらは地球のエンタープライズ※2で?』
アーチャー:「そうです。私は船長のアーチャー。」
『私はタヴィン※3。ヴァークラス※4の船長です。お会いできてよかった。』


※1: Arachnid Nebula
arachnid=クモ形類の

※2: 吹き替えでは「エンタープライズ

※3: Tavin
(ロバート・パイン Robert Pine VOY第45話 "The Chute" 「地獄星からの脱出」のリリア大使 (Ambassador Liria) 役) 声:沢木郁也、TNG 旅人など

※4: Vahklas
吹き替えでは「ヴァークラス

・本編
アーチャーは尋ねた。「…どうやら、最高司令部の命令で来たわけじゃなさそうですねえ。」
タヴィン:『ええ、その通り。ただの民間船です。』
「なぜ、こんなところまで。」
『あえて言葉にするとすれば、探査任務とでも言っておきましょう。』
「ヴァルカン人は探査になど、興味がないと聞いていますが?」
『我々は少々変わっててね。説明するのはやぶさかではないが、その前にお願いがあります。』
メイウェザーと顔を見合わせるアーチャー。「…何なりと。」
タヴィン:『推進システムと生命維持システムの調子がおかしいんです。修理に力を貸していただけないでしょうか。』
「早速、見てみてましょう。」
通信を終えるタヴィン。

エンタープライズはヴァークラスとドッキングした。
タヴィン:「我々も同じですよ、最高司令部からはしょっちゅう干渉を受けてる。」
笑うアーチャー。「安心しました。うちだけ目をつけられてるのかと思ってた。…うちのシェフは、最近ヴァルカン人の食事を作る機会が増えましてね。トゥポルが言うには、かなり上手くなったらしい。」
タヴィン:「ああ。それは、何です。」
「ああ…これは、チキンです。」
「ほう。ああ…いいですか。」
タヴィンを見るトゥポル。
アーチャー:「…もちろん。」 取り分ける。「これは…肉ですけど?」
タヴィン:「美味しそうだ。」 チキンを受け取る。
「あ、それで…いつヴァルカンを発ったんです?」
「ああ、8年前です。」
同席しているもう一人のヴァルカン人、トラリス※5。「この 8年間、いろいろな経験をしました。普通のヴァルカン人の何倍も。」 トゥポルを意識している。
アーチャー:「探査任務をしてるんでしたよねえ。」
タヴィン:「ええ、だが知りたいのは宇宙じゃない。自分自身です。…うん。」 肉を味わう。
トゥポル:「…ヴトシュ・カトゥー※6です。」
アーチャー:「…なんだって?」
タヴィン:「『論理を欠いたヴァルカン人』。先祖の教えに反発する者を、長老がそう呼んでいるのです。だがそれは、正しい表現ではない。我々は論理も重んじてる。ただ単に感情を抑圧せずとも、人生を全うできるすべを学んだだけだ。…何年もの月日がかかったが、今では感情と論理のバランスを取ることができます。」
トゥポル:「そんなこと不可能です。」
トラリス:「可能だ。」
タヴィン:「確かに論理は、ヴァルカン人の存在の根幹をなす。だがそれは感情を排除するためじゃない。補うためだ。」
「君は感情には詳しいんだろ? 地球の船に乗ってるんだ。ヴァルカン人の大半は人間との共生など耐えられん。」
トゥポル:「私はオブザーバーです。」
「すまない。怒らせたなら謝る。」
「怒りという感情はもちあわせてません。」
アーチャー:「…機関主任によれば、船の修理は 3、4日かかるそうです。その時間を使って星雲を探査したいんですが。一緒に行ってもらえるでしょうか。」
タヴィン:「もちろんです。」
「うん。」

機関室にいるタッカー。「こんなにくたびれたエンジン見たことがない。リアクターのプラズマリレーは、全取っ替えだな。」
ヴァルカン人のコヴ※7。「随分女性が多いんですね。」
タッカー:「ハ、3分の1 近くいるよ。」
「人間は一年中、誰とでも交尾するって本当ですか。」
「あんまり人間のことを知らないらしいな。」
「話したのは初めてです。でも、噂はいろいろ聞いてます。みんな、欲望のままに生きてるんでしょ? …食事は一日 6食だとか。」
「いや、3食だ。」
「睡眠はどうです。半日は眠ってると聞きましたが。」
「8時間だよ。大体 8時間だ。俺の場合は 6時間。ここが終わったら一緒に飯を食おう。いろいろ正せるかもしれないからな。…君らの誤解を。」
「お願いします、少佐。」
「…トリップでいいよ。」

パッドを渡すトゥポル。「医療用品と、プラズマ冷却剤 1,000リットルの要望がありました。」
アーチャー:「構わんだろう。」
「そのほかにタヴィンが、チキン・マセラのレシピを教えて欲しいそうです。」
「うん。通常シェフのレシピは機密事項で、外部には漏らさないんだが、今回は特別に許可しよう。…もう少し…ゲストと一緒に過ごす時間をもつと思っていたんだがな。」
「忙しいので。」
「というよりむしろ…彼らを避けてるように見えるが? 彼らが感情をもとうとしていることを君が認められないのはわかる。だが、彼らにも…一理あるぞ。」
「同意しかねます。」
「そうか? 8年は…決して短くない。」
「微笑んでチキンを食べるからといって、感情を解放してるとは限りません。」
「フン。…私は、やっと楽につきあえるヴァルカン人と会えて、ホッとしてるんだがねえ。彼らは感情と論理の…バランスを取れるのかもしれん。」
「船長、彼らが初めてじゃありません。感情を自在に操ろうとした者は多くいます。みな失敗しました。…彼らがしていることは危険です。」
「私には、彼らが危険なことをしているようには思えんな。だが、断言もできん。…彼らと過ごせと、命令することはできんが…なるべく心を開いて接するようにした方がいい。」
出ていくトゥポル。アーチャーは考える。

独りでいるトゥポルは、機械から飲み物を取りだした。入ってきた者に気づく。
トラリス:「ここが食堂か。」
トゥポル:「そうです。」
「クルーは食欲がないらしい。」
「みな寝てるんです。真夜中ですから。」
「…使い方を教えてくれ。」
「…何にします?」
「よくわからん。人間の食べ物には慣れていない。…それは?」
「ミントティーです。」
「それにしよう。」
カップを取りだし、機械の中に置くトゥポル。「ミントティー、ホットで。」 液体が注がれる。
受け取るトラリス。「ありがとう。」 口にする。「複雑な味だ。」
トゥポル:「ほかにもありますが?」
「これでいい。驚いただけだ。…口に合うのか。」
「ヴァルカン人に合う飲み物は限られているので。」
「ヴァルカン・ティーもあるだろう?」
「あります。」
「興味深い。」
「ほかに用がなければ、失礼します。」ドアを開けたトゥポル。
「人間と仕事して何年だ。」
「……地球のヴァルカン領事館にいたのが 2年。エンタープライズに乗船して 7ヶ月です。」
「かなりの年月だ。無意識のうちにうちに人間の影響を受けてしまったようだ。」
「そうかもしれない。…時々カモミールティーも飲みますからね?」
「ユーモアのセンスまである。ヴァルカン人には理解できないとされる概念だ。」
「では勘違いでは?」
「またユーモアで返した。君はなぜ…ここにいるんだ。」
「科学士官が必要だからです。」
「それだけかな? クルーに愛着があると認めたらどうだ?」
「なぜそんなことを。」
「君の感情を覆っているのは薄い膜に過ぎん。透けて見える。」
「今夜は瞑想をしていない。だからそう感じるんでしょう。」
「我々も瞑想は続けている。感情と論理のバランスを保つには継続的な訓練が必要だ。」
「そのようですね? …あなたたちがしていることは無謀な試みです。」
「そうかな?」
「感情をもとうとしたヴァルカン人は、みな原始の姿に戻ってしまう。歴史が証明済みです。」
「作り話だ。5千年前からのプロパガンダだよ。我々の原始の姿は、君が思ってるほど危険じゃない。タッカー少佐に食べてみろと言われた物がある。『ピザ』だ。一緒にどうだい?」
「経験済みです。」 立ち上がったトラリスに言うトゥポル。「後日、機会があれば。」
カップを挙げるトラリス。トゥポルは出ていった。


※5: Tolaris
(Enrique Murciano) 声:大滝寛

※6: V'tosh ka'tur

※7: Kov
(John Harrington Bland) 声:桜井敏治

ドッキングしたまま、アラクニッド星雲へ近づく 2隻。
リード:「想像通りですか?」
アーチャー:「写真の比じゃない美しさだ。」
メイウェザー:「すごい規模だ。直径80億キロメートルはありますよ。」
「80億? 本当か。」
「センサーによれば。」
「私の本には、65億と書いてあったけどなあ?」
サトウ:「出版社に、記録を送りましょう。早速改訂版を出してもらわなくちゃ。」
「図面に起こすにはどれくらいかかる。」
トゥポル:「数週間です。」
ブリッジにいるタヴィン。「うちにトランスリニアーセンサーがあります。我々に調査を手伝わせてもらえれば、効率が上がる。」
アーチャー:「そちらの船で、データを監視する者が必要ですねえ。君、行ってくれるか。」
トゥポル:「…はい。」
タヴィンに話すアーチャー。「申し出感謝します。」 メイウェザーに命じた。「星雲の内部へ。」

中に入るエンタープライズとヴァークラス。
前方に広がる星雲を見るトラリス。「見たまえ。初めて見る美しさだ。感情的だと軽蔑されるかな?」
トゥポルもヴァークラスにいる。「…そんなことはありません。確かに心地よい景観です。」
トラリス:「『心地よい』? 君にしては思い切った表現だな。」 表示を切り替える。
トゥポルは船内に像が置いてあることに気づいた。「スラクの教えを拒否する者が、彼の肖像を飾っているとは興味深い。」
トラリス:「拒否してるわけじゃない。今の解釈に同意できないだけだ。原書を読んでみたまえ。彼は決して感情を、排除しろとは言ってない。上手く操って、生活に取り入れろと言っているのだ。」
「同意する者はいないでしょう。」
「間違ってるとも言えん。」
「…ヴァルカンにいた頃は何をしてたんです?」
「シーカー・アカデミー※8で文学を教えてた。」
「銀河をさまようために大きなものを捨てたんですね。」
「後悔はしていない。論理や理性が全てじゃないと、知ってるからな? そう考えたことは?」
「最近はない。」
「だが以前は?」
「……ありました。…この記録をエンタープライズへ届けてきます。」
「トゥポル。…毎晩瞑想してると言ったな。今夜は、やめろ。いい経験ができる。いつもよりずっと面白い夢が見られるぞ? …君は科学者だ。実験だと思えばいい。」
出ていくトゥポル。

食事中のタッカー。「どこで聞いたんだ!」
コヴ:「ヴァルカンの人類学者が、地球へ行った時に見たと言っていました。」
「…クォーターバックを殺そうとしてたんじゃないよ。ボールを投げたり持って走るのを阻止してただけさ。ただのゲームだ。誰が、殺し合ったりするかよ。」
「そうだったんですか!」
「俺たちは野蛮人じゃないぞ。」
「噂はいろいろと聞いてましたが、僕はずっと大げさなんじゃないかと思ってました。」
「それじゃ、友達に本当のことを、話しといてくれ。」
「喜んで。」
「……俺も…ヴァルカン人について知りたいことがあるんだ。聞いてもいいか?」
「どうぞ。」
「私的なことだ。」
「構いません。」
「…結婚習慣は、勉強して知ってる。子供のうちから、親にいろいろと決められるんだよな? …だけど、その後の…うん…わかんだろ?」
「セックスのことですか!」
食堂のクルーが、一旦静かになった。
タッカー:「…ヴァルカン人が話してるのを聞いたことがない。」
コヴ:「するかしないかってことなら、しますけど。」
咳払いするリード。「お邪魔でしたか?」
コヴ:「いいえ、大歓迎です、ミスター…」
「リードです。マルコム・リード。」
「コヴです。ヴァルカン人の性生活について話してました。」
「ああ…。」 席につくリード。
「確かにほとんどのヴァルカン人は話したがりませんねえ。全く、自己規制が多すぎる。男は7年に一度、性衝動に駆られます。」
タッカー:「7年に一度?」
リード:「驚きだなあ。」
コヴ:「ここ数年、性周期を早める方法を開発中ではありますが。」
タッカー:「…お代わりはどうだ。」
「もう十分です。…行きますか? 楽しかったです、ミスター・リード。」
リード:「こっちこそ。」
コヴとタッカーは出ていった。笑うリード。

サトウは報告した。「船長。エコー3 から通信が届いています。」
アーチャー:「艦隊から?」
「フォレスト提督です。」
「…作戦室で、取ろう。」

部屋に入ったアーチャーは、コンソールを操作した。「フォレスト提督※9。お元気そうで。」
フォレスト:『君もな。ゲストが来ているそうじゃないか。』
「ヴァルカン人です。なぜそれを?」
『ソヴァル大使から、1時間前に連絡があってな。ヴァークラス※4が、ドッキングしていることを知って…君に頼みがあると言ってきた。』
「私に頼み?」
『最高司令部の、大臣の息子さんが乗ってるらしい。コヴという機関部員だ。会ったかね?』
「いえ、まだです。」
『二人は 10年前に別れたきり今日まで、一度も会ってないらしい。父親の方からは、何度か連絡を取ろうとしてるのだが、コヴが応じないそうだ。』
「私にどうしろと。」
『彼らは普通のヴァルカン人とは違うと聞いている。関係は良好なんだろ?』
「…はい。」
『コヴの父親が、死にかけてるんだ。息子と話したがってる。連絡するよう、言ってやってくれないか?』
「…わかりました。」
『司令部は、トゥポルを残すことを認めた。その礼だと思えばいい。』
「はい、提督。」
『頼んだぞ?』 通信を終えるフォレスト。

自室のトゥポルは、ろうそくを吹き消した。

トラリスの声が聞こえる。『「原始の姿」は君が思ってるほど危険じゃない。』

人が行き交う、夜の街角。
フードを被ったトゥポルが歩いてくる。

食堂でトゥポルに密着するトラリス。「あの味好きか?」

街では笑い声が聞こえる。

ヴァークラスにいるトラリス。「君は感情には自信があるんだろ?」

音楽が聞こえてくる。
店に入るトゥポル。

裸のトゥポル。
ベッドで隣にいるトラリス。「なぜここにいる。」

店の中にいるトゥポル。

アラクニッド星雲がうごめく。

トラリスと抱き合い、キスをするトゥポル。

目を閉じる、店のトゥポル。

ベッドの二人。

スラクの像が落ち、粉々に砕け散った。

飛び起きるトゥポル。隣には誰もいない。


※8: Shirkar Academy

※9: Admiral Forrest
(ヴォーン・アームストロング Vaughn Armstrong) ENT第15話 "Shadows of P'Jem" 「恩讐を越えて」以来の登場。声:金尾哲夫

トゥポルを調べるフロックス。「フーン、これはただの頭痛じゃない。血圧も上がってるし、異常に…シナプスの活動率も高い。だがウィルスのせいでも、バクテリアのせいでもない。あ…念のため、脳をスキャンしましょう。」
トゥポル:「その必要はありません。」
「すぐ済みますが?」
「…症状の原因に心当たりがあります。…夕べ就寝前の瞑想を怠ってしまった。その結果として、感情が呼び覚まされ、動揺したんです。…イナプロヴァリン※10注射をお願いします。25ミリグラムで、十分でしょう。」
「わかりました、『ドクター』? …習慣を変えるなんてあなたらしくないな。今来ている、お客さんと関係が? 向こうの船にも乗ったそうですし。」
「彼らの…一人と親しくなって。…言われたんです、瞑想しなければ…私の夢がもっと『面白く』なると。」
「それで?」
「嘘でした。心を乱しただけです。馬鹿なことをしてしまった。」
「…この注射で、治せないものはありません。彼らの哲学に惹かれるのも無理はない。一度悪夢を見たからといって、焦って答えを出さなくてもいいのでは?」
「危険が多すぎます。続けるのは賢い選択じゃない。」
「…そうかもしれん。しかし、万一実験を続ける気になったら、彼らは何年も続けていることをお忘れなく。あなたは彼らを知ってまだ 2日だ。気を楽に、ウン?」
「ありがとう、ドクター。」

星雲内を見つめていたアーチャーは、ドアチャイムに応える。「…入れ。」
コヴが入る。「船長。」
アーチャー:「かけたまえ。」
「推進システムの修理は順調です。全てタッカー少佐のおかげです。」
「そりゃあよかった。」
「…何か問題でも。」
「ここへ君を呼んだのは伝言を…伝えるためだ。…父上からの。」
「…話したんですか?」
「いや、ヴァルカンの大使から私に託された。非常に言いにくいことなんだが君の父上は、重い病気だ。できるだけ早く君と連絡を取りたがっている。もし…君がよければ、うちの通信士官に手配をさせるが?」
「お気持ちは嬉しいのですが、この件は自分で処理します。…ありがとうございました。」
「お節介を承知で聞くが、父上に連絡するつもりは?」
「最後に父と話した時、僕は我が一族 15代の名誉を汚す恥だと言われました。」
「…死ぬかもしれん。」
「…お手間でなければ、返事を送っていただけますか。…ずっと昔に別れを告げたと。」 作戦室を出るコヴ。

ヴァークラス。
カップを持ってくるトラリス。「おはよう。カモミールだ。」
トゥポル:「…ありがとう。」
「どうだった?」
「…側面センサーの照準がずれていて、ナトリウム層のスキャンに失敗しました。」
「…夕べのことだ。…瞑想したのか?」
「…いえ。」
「それで夢は。」
「話したくありません。」
「すぐに慣れる。今夜はもっと楽だろう。」
「…今夜は瞑想するつもりです。」 トラリスを避けるトゥポル。
「一度であきらめちゃいかん。」
「試したのは間違いでした。」
「全く楽しいことがなかったと言い切れるか?」
「ナトリウム 2千万立方メートル、および塩素酸塩エチル※11の痕跡を感知。」
「スキャンなんか後ですればいい。」 パッドを取り上げるトラリス。「どんな夢を見たんだ。君の感情は解放寸前にある。強烈だったろ?」
「……記憶の通りでした。私は道を歩いてた、サンフランシスコです。地球の。」
「なぜ宿舎※12を抜け出した?」
「人間が興じる娯楽に興味があって、自分の目で見てみたかった。」
「規則を破ってもか?」
「夜も更け、宿舎にいる者は皆眠っていた。数時間抜け出したとしても害は及ばない。」
「どこへ行った?」
「ただ歩いていたら…音楽が聞こえて…」
「音楽。」
「……変わった音楽でした。混沌として…。でも魅力的でした。」
「続けて。」
「…あるレストランに入り…生演奏が行われる中席につきました。」
「どう感じた?」
「……覚えてません…」
「思い出せ。」
「…何となく…」
「あ…」
「爽快な気持ちに。」
「…感情だ。君は感情をもった。」
「…一瞬です。…その後、音楽がやんだので戻りました。」
「また感じることができる。難しいことでも恐れることでもない。やり方を教えよう。」

機関室のタッカー。「俺が奴に言うんですか?」
アーチャー:「君はコヴと仲がいいそうじゃないか。私が言うより効果があるだろう。」
「…言ってはみますが、エンジン直すように簡単にはいかないと思いますよ? かなり恨んでたから。」
「最善を尽くせ。」
「了解。」
「…トラリスのことをどう思う。」
「ほとんど知りませんけど…無口で苦手です。陰気だし。」
「トゥポルが、最近よく彼といるようなんだ。」
「問題でも。」
「つい 2日前まで、彼らを早く船から降ろしたがってた。命令しなきゃ一緒に仕事さえしなかったのが、今じゃ…引き離す方が難しい。」
「一つ間違うと焼き餅に聞こえますよ? 俺がヴァルカン人に囲まれた職場で偶然地球の船に出くわしたら、やっぱりくっついて離れないでしょうね。同胞と過ごしたいだけですよ。」
「フン…」
「うん、当然だ。」
「…コヴのこと頼んだぞ。」
「了解。」

トゥポルの部屋。
私服のトゥポルはトラリスと向き合って座っている。「『精神融合※13』?」
トラリス:「古代の技法だ。何世紀も前に廃れた。だが自分の感情に触れるには、非常に役に立つ。」
「どうするんです?」
「まずはテレパシーのリンクを確立させて、互いの記憶や…思考を共有し、我々の精神を、一つにする。多少苦痛は伴うが、確実に感情に触れられる。心の準備は? …嫌なら、ほかにもっと…伝統的な瞑想誘導法もある。効果はずっと薄れるがね。」
「始めて下さい。」
トラリスは手を、トゥポルの顔へ置いた。「大丈夫。目を閉じて? 私の声に集中したまえ。我の精神は、汝の精神へ。我の思考は、汝の思考へ。互いの精神は、解け合い一つとなる。」
目を開けるトゥポル。「効果はない。」
トラリス:「…抵抗するな、気を楽に。」 再び指を置く。「我の精神は汝の精神へ。我の思考は汝の思考へ。互いの精神は…ああ…解け合い一つとなる。」
トゥポルは目を見開いた。「あっ!」
トラリスの声だけが聞こえる。『一緒にいるか。』
トラリスもテレパシーで応える。『います。』
『私の思考を感じるか。』
『感じます。』
声を出すトラリス。「その調子だ。…宿舎を出た夜のことを、もう一度思い描いてくれ。同じ道を歩いているところを想像しろ。」

街を歩いているトゥポル。
トラリスの声。『そうだ。耳を澄ませ。音楽が聞こえるか?』

口を開けるトゥポル。「ああ…。」

音楽が聞こえてきた。
トラリス:『どうだ?』

指示するトラリス。「さあ、入って。」

店のドアに近づくトゥポル。中に入る。

喜ぶトラリス。「なるほど、君が惹かれたのもわかる。ヴァルカンにないものばかりだ。」
トゥポルの目には涙が見える。

店の中には、同じように目の前にトラリスがいた。「…感情の引き金となっても無理もない。爽快な気持ちだと言った。ほかには?」
トゥポル:「わからない。」 他の席には、たくさんの地球人がいる。
「そんなはずない。表現することに慣れてないだけだ。君は多くの感情をもった。規則を破るという興奮…捕まるかもしれない危惧…そして音楽。音楽は君を…高揚させた。…もう一度その感覚に身を投げ出すんだ。」 逃げようとするトゥポルに言う。「感情を抑え込むな。」
立ち上がるトゥポル。「宿舎に戻らなければ。」
トラリスは腕をつかんだ。「不安を感じてる。それもまた別の感情だ。」
トゥポル:「手を離して。」
「ここにいるんだ、トゥポル。」

目を血ばらせるトラリス。
トゥポル:「もうやめて…」
トラリス:「だめだ…」
離そうとしないトラリス。音楽が響く。
トゥポルはトラリスを突き飛ばした。「やめて! …やるんじゃなかった。」
トラリス:「君は進歩してる。…ここであきらめるな。」
「…出てって。」
「トゥポル。」
「出てけ。」
「怒りを感じてる。感情が目覚めた証拠だ。…しっかり受け止めろ。」
何も言わないトゥポル。
トラリスは立ち上がり、出ていく前に言った。「弱虫め。」
うろたえるトゥポル。
そのまま倒れてしまった。
何とか起きあがり、コンピューターのスイッチを押す。「トゥポルから医療室。」


※10: inaprovaline
ENT第4話 "Strange New World" 「風が呼んだエイリアン」でも使用

※11: ethylchlorate

※12: ヴァルカン宿舎 Vulcan compound
ENT第1話 "Broken Bow, Part I" 「夢への旅立ち(前編)」では、「居住区」と訳されていました

※13: ヴァルカン精神融合 Vulcan mind-meld
初めて使われたのは TOS第11話 "Dagger of the Mind" 「悪真島から来た狂人」。この時代には一般的には廃れているようです

機関室の階段を上がるコヴ。「僕の答えは船長に言ってあります。」
タッカー:「本当にそれでいいと思うのか?」
「父を知っていたらわかるはずです。」
「無礼を承知で言わせてもらうが、親父さんと和解できるチャンスは限られてるんだ。もしこれを逃したら…」
「あなたを友人だと思っています。心配してくれてありがとう。でも無駄です。父に連絡する気はありません。左舷エンジンが、まだ 88%までしか復活していません。」
「インジェクターに欠陥があるんだろう。簡単に直せるはずだ。……ヴァルカン人は踊るのか? …ダンスだよ。」 手振りで示すタッカー。
「いえ。セレモニーで強制される以外は。」
「うーん、俺の初めてのダンスパーティは、小学校の時だった。フロリダにいた頃だ※14。その時好きだった、メリッサ・ライルズ※15も行くって聞いて、兄弟相手に何週間もツーステップの練習をしたよ。メリッサと、踊りたくって。その夜赤いドレスを着た彼女は、一番可愛かった。…あとは俺が彼女をダンスに誘えばいいだけだ。だけどどうしても誘う勇気が出なかった。彼女と何回か目が合ったが、最後まで…会場の隅に立ってただけだった。」
「…面白い。でもエンジンの欠陥と何の関係が?」
「…20年以上も前のことだ。だが今でも誘えなかったことを後悔してる。君は知らないだろうが、後悔ってのは最も強烈で、最も…悲しい感情だ。まだ経験したことはないと思うが…俺から見る限り、その日は近い。…今ならまだ避けられる。」

作戦室のドアチャイムが鳴った。
アーチャー:「入れ。」
トラリス:「失礼します。」
「おはよう。何か飲むかい? コーヒーは。」
「結構です。」
「かけて? トリップから、船の修理は大方終わったと聞いたよ。間もなく船を出せる。」
「はい。」
「星雲の調査は?」
「今日中に終わります。」
「そりゃよかった。…君たちのおかげだ、感謝するよ。」
「礼には及びません。私たちこそ楽しかったですよ。あなたのクルーは素晴らしい。」
「精鋭たちだ。夜は眠れたか?」
「ぐっすり。あなたは?」
「寝苦しかったよ。探査中はいつもそうだ。落ち着かない。」
「わかります。では…ほかになければ調査に戻らせていただきます。まだ残り、2千万立方キロメートルもありますから。」
「すまなかったね。それと…残念だが、残りは独りでやってくれ。」
「なぜです。」
「トゥポル副司令官は、医療室にいる。ドクターによれば、かなり深刻な容体らしい。」
「気の毒に。どうしたんです。」
「君の方が知ってるんじゃないか? トゥポルから聞いたよ。何て言ったっけ、精神融合? 彼女がやめてくれと言ったら、怒ったらしいな。力ずくで追い払ったと言ってた。」
「私たち二人の、問題です。あなたに全く関係ない。」
「君は私のクルーを襲ったんだ。」
「そんなことはしていない。精神融合で感情が甦り、混乱しただけです。」
「それだけで医療室に行くはずがない。ドクターによれば神経にダメージを受けてるらしい。君のせいだ。」
「精神融合は強制できない。合意の上です。」
「君はここへ来てからずっと彼女を操ってた。」
「抑圧から抜け出す手助けをしただけですよ。あなたも、ほかのクルーも私の厚意を理解すべきだ。人間ならね? …彼女に会いたい。」
「もう君の助けは必要ない。二度と近づくな。」
「彼女は今目覚めの重大な段階にいる。手助けが必要だ。」
「もういいと言ったはずだ。」
「フン。彼女に聞いてみます。」
「私の言葉が足りなかったようだなあ。医療室は立ち入り禁止だ。」
「邪魔をしないで下さい。どいた方が身のためですよ。」
「どうした、トラリス。怒ってるのか? …感情を操れるんだろ?」
「どけと言ってる。」
「トゥポルの言うとおりだ。君は短気だな。」
「どくんだ。」
「地獄へ落ちろ!」
トラリスはアーチャーを突き飛ばした。軽々と持ち上げ、壁に投げつける。
アーチャーは近くにあったフェイズ銃を手にした。痛みに耐える。
トラリス:「…わざと煽ったのか。」
アーチャー:「こんな風に投げ飛ばされることがわかってたら…もっと違う手を使ったよ。そろそろ潮時じゃないか? 旅に戻った方がいい…。」

廊下。
タッカー:「混合圧に気をつけろ? 5,000 以上にはならないように。」
コヴ:「5,000 ですね。」
「インジェクターポートも要注意だ。」
「わかりました。…ご心配いただいていた、父の知らせが入りました。だいぶ容体が良くなってるようです。」
「そりゃあよかった。」
「血管刺激剤を投与するそうで、運が良ければ…数年寿命が延びるそうです。」
「そりゃあいいや。親父さんに連絡をするかどうか…もう少し迷える。」
「…もう連絡しました。今の話は父から聞いたことです。」
うなずくタッカー。
コヴ:「ありがとう、トリップ。」
タッカー:「いいんだよ。」 コヴの肩に触れる。
エアロックに入るコヴ。

ヴァークラスはドッキングを解除し、去っていった。

部屋で瞑想をしていたトゥポルは、チャイムに応えた。「…どうぞ。」
アーチャー:「…出直そうか?」
「構いません。」
中に入るアーチャー。「気分はどうだ。」
「ヴァルカン船は発ったのですか?」
「20分ほど前にな。」
「ではもう気分も直りました。」
「…毎晩こんなことを?」
「ええ、毎晩。」
「…何となく、どうしてかわかったか気がするよ。…明日会おう。」
トゥポルは呼び止めた。「…船長。夢を…見ますか?」
アーチャー:「見るとも? 時には色が、ついてることもある。」
「楽しい夢ですか?」
「…ほとんどは。」
「うらやましい。……いい夢を。」
アーチャーは出ていった。
トゥポルはろうそくを見つめる。


※14: 原語では「フロリダ、パナマシティー、ベイショアー小学校 (Bayshore Elementary)」

※15: Melissa Lyles

・感想
「朱に交われば赤くなる」ところだった、トゥポルがメインのエピソード。異端なヴァルカン人としては ST5 のサイボックがいましたが、それよりも 22世紀には精神融合が一般的ではないという設定の方が興味深いですね。スポックたちも好んで使用していたわけではありませんが。
トラリスの声優はちょっと老け過ぎな気がしました。


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