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エンタープライズ エピソードガイド
第16話「引き裂かれたクルー」
Shuttlepod One

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・イントロダクション
宇宙空間を飛行中のシャトルポッド。小惑星群へ近づく。
操縦するリード。「ここで星図作成をしてるはずなのに。エンタープライズが見あたらないなあ。」
タッカーは後ろで作業している。「別の小惑星帯じゃないか?」
リード:「ここですよ。主星が 2つに、微少惑星が 17。」
「俺たち 3日も早く戻ってきたからな。別の場所へ行ってるのかもなあ。」
「センサーが故障してますし、居所を知りようがないですねえ。…通信機の方は?」
「死んじまってる。どうなってんだろうなあ。」
「出発ベイに戻ったら、機関部員に分解して調べてもらうしかないですねえ?」
「機関主任のメンツがある。エンタープライズが戻るまでに直してときたいんだ。」
「ああ…好きにあがいて下さい。ユリシーズ※1でも読みます。ランデブーまでに、半分も読めないでしょうけどねえ?」
「そんなもん読むぐらいなら、シャトルのマイクロ回路全部チェックする方がましだ。」
「イギリスでは読書の授業があります。バランスの取れた人格形成のためです。…アメリカではほとんどマンガしか読まないんじゃないですか? 後はせいぜい馬鹿げた SF小説。」
「言っとくがスーパーマン※2は単なるヒーローものじゃないんだ。」
笑うリード。
タッカー:「人間味にあふれ、実に奥が深い。」
リード:「もし、コクレイン博士がヨーロッパ人だったら、ヴァルカンも協力的だったでしょうにねえ。だけど、博士はモンタナ州出身。…きっとカウボーイや、インディアンの本を読んだんでしょうねえ…」
「とにかくヨーロッパ人はワープエンジンを発明できなかった。」
「少佐?」
「イギリス人も、イタリア人も、セルビア・クロアチア人も…」
「少佐。ちょっとこれを見て下さい。」
外を見るタッカー。
小惑星の地表に、船の残骸らしきものが見える。
タッカー:「もっと接近しろ。」
降下するシャトル。
リード:「船ですかねえ。」
タッカー:「センサーが使えればもっと詳しく…。もう一度近づけ。」
ポッドは破片に接近する。
タッカー:「ゆっくりだ。」
地表にある破片には、「NX-01」と書かれていた。


※1: Ulysses
ジェイムズ・ジョイス作。1922年

※2: Superman
1938年 "Action Comics" で初登場

・本編
エンタープライズ。
ドアチャイムに応えるアーチャー。「入れ。」 サトウに尋ねる。「テスニア人※3の様子は?」
サトウ:「汚染除去室には、一度に 12人しか収容できないそうです。」
「ほかはどうしてる。あと 22人か。」
「ローテーションを組んでます。この空気で呼吸可能ですが、一日 6時間はボロン※4ガスが必要だそうです。到着までガスは十分です。」
「彼らの言葉はわかったか。」
「はい。」
「何を話してた。」
「動揺していますね。あの船に何年も乗務していたそうです。一度に全てを失ったんですから。」
「だが生きてる。」
うなずくサトウ。
アーチャー:「船長から原因は聞けたのか?」
サトウ:「いえ。ドッキング時の衝突のことで、ひどく恐縮していました。原因はわからないそうです。ドッキングポートに近づいた時、突然センサーが効かなくなり、その数秒後にはもう、ナビゲーションシステムがダウンしたそうで。」
「ポッドが使えただけよかったよ。」
「小惑星上の残骸は、跡形もありません。」
呼び出すアーチャー。「アーチャーよりメイウェザー。到着時刻は。」
メイウェザー:『およそ 20時間で、テスニアに着けます。』
「ご苦労。なら、トリップとマルコムが戻る前に、余裕でランデブー地点へ戻れるな。しばらくワープを解除してくれ。出発ベイのドアの、被害状況を見たいんだ。」
『了解。』

船体下部から小型ポッドが出てくる。
アーチャー:「今機関部の責任者は誰だ?」
トゥポル:「ヘス大尉※5ですが。」
「第2出発ベイに、新しいドアをつけるよう彼女に言ってくれないか。」
被害場所へ近づく。ドアは大きくえぐられていた。
アーチャー:「ほかに異常はないのか。」
トゥポル:「…小惑星帯の付近に、マイクロ特異点らしきものが複数検知されています。」
「マイクロ特異点は、ヴァルカンの神話だ。実在するという科学的証拠はないぞ。」
「テスニア船が墜落したのと同じ時間に、ディフレクター上で…不自然な滞留電子が確認されています。」
「エンタープライズにも異常があったか?」
「いえ。」
「うん。」
「船体装甲が作動中でした。」
「うーん、マイクロ特異点ね? ヴァルカンは風邪を引いても特異点のせいにしそうだな?」

シャトルポッド。
タッカー:「救命艇があるんだ。墜落前に脱出したんじゃないか?」
リード:「それなら、まだこの付近にいるはずです。時速 300キロしか出ないんですから。」
「…本当に生存者はいないのか…」
「少佐。我々のことを考えるべきです。」
「放っては行けないだろ。エンタープライズだ。せめてブラックボックスを見つけないと。」
「どうやって。受信機が使えないんです。ビーコンをキャッチできません。」
「シャトルビーコンの送信範囲は。」
「故障してますよ。」
「ポータブルの方だ。携帯キットに入ってるだろ。」
「1,000 か、2,000万キロでしょう。その範囲に船がいるとは思えません。」
「…酸素は 10日分しかもたないぞ。……エコー3 まで距離は。」
「インパルスで? 10日以上でしょうねえ。」
「…せめて救難ビーコンが届く位置まで行ければ、艦隊に信号が中継される。」
「その計算には無理があると思いますが? エコー3 に信号が届くまで、何週間も何ヶ月もかかる。艦隊から救助の船が来る頃には…我々は死んでます。」
「だが発見はされる。シャトルポッドも回収される。死体も。…保存状態はいいはずだ…」
「少佐。」
「どっちだ。」
「どっちって何がです。」
「エコー3 だ。エコー3 はどっちだ。」
「言ったでしょ、遠すぎます。」
「方角を知ってるのか知らないのか。」
「ナビが故障してます。」
「そんなことは聞いてないんだよ!」
「勘でいいんですか?!」
「代々海軍の家系だろ、それに記憶力もいいはずだ! 星を見たらどうなんだ。見覚えあるのを見つけて、方角を教えろ!」
「少佐。」
「これは命令だ!」
「…六分儀もってませんよね。」
「…計算尺もないよ。」
リードは向き直り、外を見る。
タッカー:「どうだ。」
リード:「あの青色巨星。あのそばを通ったような気がします。」
「それだけで十分だ。もう一度墜落現場の上を飛んで……それから出発しよう。」
操縦を始めるリード。残骸の上を通る。
タッカー:「船長、また後で。」


※3: Tesnians

※4: boron
原子番号 5番、ホウ素のこと

※5: Lieutenant Hess

飛行するシャトル。
『私的記録、マルコム・リード大尉。2151年11月9日…』
音声を記録しているリード。「…誰かこれを聞く頃には、誰か人間ということだが…タッカー少佐と私は、死んでいる。エンタープライズの墜落発見に至る状況を順を追って記す。個人的心情も加えるなら、艦隊での任務は短くも思い出深かった。」
タッカー:「俺も語りたいが仕事が忙しいと入れといてくれよ?」
リードは録音を巻き戻した。『短いながらも思い出深かった。』
すぐに続きを話す。「シャトルポッド1 のターゲットスキャナーをテストするため、タッカー少佐と私はポッドでエンタープライズから 2万キロ離れた。3度目のテストの際、一瞬ではあったがポッドに大きな衝撃を感じ、その後センサーアレイがダウンしていることに気づいた。」
タッカー:「こいつはダウンどころか完全にぶっ壊れてる。」
また戻すリード。『…していることに気づいた。』
リード:「選択の余地はなく、エンタープライズが星図作成作業をしている小惑星帯へと戻った。…だがエンタープライズは、墜落しており…比較的大型の小惑星上に、残骸が散乱していた。もしもポッドのセンサーが使えればあらゆる手を尽くし、墜落原因を調べたいが…使える物は救難ビーコンしかなく、酸素も少なく、エコー3 へ向かう以外我々にできることはない。いつかこのポッドと、この記録が発見されるだろう。…主のお慈悲のあらんことを。」
あきれるタッカー:「そんなことよりこっちへ来て手伝ったらどうなんだ?」
録音を止めるリード。「何を手伝います?」
タッカー:「知るかよ! ライトで手元を照らすとか、温度下げるとか何かあるだろうが。お前の悲観論を聞かされるのに、ウンザリしてきたんでね。」
「役に立つことがあるなら、喜んでやりますとも。でも私の日誌がただの『悲観論』だって言うんなら的外れもいいことだ。私は現実的なだけです。」
「おい、まだ 9日あるんだぞ? 船に出くわすかもしれないだろ。」
「ワープならありえますが、インパルス速度で?」
「ヴァルカンにクリンゴンにスリバン。ジリリアン※6にアンドリアもいる。次の惑星に誰か潜んでるかわからないだろ。」
「だからそこですよ。インパルス速度では惑星にたどり着く可能性はない。少なくとも 6、7年はね。」
「向こうから来るかもしれないだろ、違うか? センサーに引っかかるとか、可能性は無限にある。」
「…携帯食を温めます。それともどこかの船が食事を出してくれるまで待ちます?」
「…携帯食でいいよ。」
「ああ…。どれにします?」
「あ……何が残ってる。」
「ああ、子牛のマルサラ風。チリ産シーバス。中華鶏肉炒め。」
「ミートローフは。」
「ああ、マッシュポテトとグレイヴィーつき。」
「完璧だ。」
ボトルを取り出すリード。「ケンタッキー・バーボンだ。」
タッカー:「船長が誰かに贈るはずだったやつだ。誰だっけ…。うん…もらっていいだろ。」
リードは袋を機械に入れる。しばらくすると温められた物が出てきた。
口にするタッカー。リードも自分の分を温める。
タッカー:「それは。」
リード:「シーバスです。」
「美味いか。」
「うん、いけます。なかなか。」
タッカーは微笑んだ。

シャトルポッド。
リード:「僕のエンタープライズ勤務を二人とも知らなかったとはアーチャー船長から聞きました。そりゃとても信じられません。出発の前に僕は、2度手紙を書きました。でも、手紙が着かなかったのかもしれませんねえ。」
毛布を被っているタッカーは、眠れないようだ。
リード:「…ちょうど二人がマレーシアへ引っ越す頃だったと思います。でもシェリーおばさん※7と話はしたはずです。おばさんは手紙を受け取っています。二人に黙って志願したと…そう思われたままでは、死んでも死に切れない…」
タッカー:「マルコム! さっきから何時間やってんだよ! いい加減にしたらどうなんだ。」
「聞こえたと思いますが、今のが尊敬する同僚、タッカー少佐です。タッカー少佐は、私とは違って、最期の言葉を残すのを、無駄なことだと…思ってるようです。彼こそ、奇跡的に救出されるという、非現実的な希望を持ち続け、息絶えるのです。」
起きあがるタッカー。「大尉の御両親。どうせ我々はもう死んでるんでしょうし、尋ねても返事は聞けませんが、マルコムのことで聞きたい。昔からこう皮肉屋ですか?」
リード:「2、3日すれば、少佐も今の状況を現実として受け入れますよ。そしたら必ず家族や友人にメッセージを残したくなる。でも御安心を。私は邪魔しませんから。」
「俺は眠りたいだけなんだよ、マルコム! ごく自然なことじゃないのか。」
「酸素は後 9日分しか残ってないんです。眠るなんて無駄なことがよくできますねえ。」
「無駄だろうが何だろうが、寝とかないと俺は怒りっぽくなるんでなあ。人生最期の貴重な 9日を、キレる寸前の俺と過ごしたいか?」 録音スイッチを勝手に切るタッカー。「わかったらそんなもんはやめて、お前も寝ろ!」
不服なリード。

機械音が聞こえてきた。
リードはベッドの上で目を覚ます。「助かった。」
フロックス:「大尉。まだ安静に。」
「どうなってる。どうやって。」
アーチャー:「君は勇敢な男だ。タッカー少佐は良くなる。君のおかげだ。」
「どういうことでしょうか。」
フロックス:「今は眠って? 事情なら、明日の朝いくらでも説明します。」
アーチャーも出ていった。トゥポルだけが残る。
リード:「副司令官。」
トゥポル:「気分はどうです?」
「事情がわかればもっと落ち着けます。」
「…大尉の英雄的行為を話してしまったら、船長がガッカリなさる。直接伝えるのを楽しみにしているようですから。」
「英雄的?」
「命の危険を顧みず、あそこまで…勇敢になれるなんて。人間の男は大抵恐怖に弱いものなのに。」
「…じゃあ…どうやら事情は話してもらえないようなので、今はおやすみを、言うしかないですね。」
「ヴァルカンは勇者を尊びます。そして私も。今後大尉から目が離せなくなることでしょう。」 トゥポルはリードに近づき、手に触れる。
「私はずっとあなたを…見てました、トゥポル。トゥポルと呼んでいいですか?」
「ええ。マルコムと呼んでいい?」
「ええ、どうぞ。でもほんと言うと、マルコムって名前は好きじゃないんだ。どうも響きが、古くさい。」
「素敵な名前だわ? ヴァルカン語では、『静寂』という意味よ?」
「なら、変えないでおこうかな。本当は…マルコム以外なら何でもいい。『クサーイ』でも。」
トゥポルは微笑んだ。
リード:「自分の目が信じられない。」
トゥポル:「何のこと?」
「笑った。君が笑った。」
「ヴァルカンは笑わないわ。」 顔を近づけていくトゥポル。
「でも君は違う。笑ったよ。」
「見間違いよ。」
「『クサーイ』って、言ったからだろ? クサイなんて変な名前だから笑った。おはよう、クサイ。今日はいい天気だね、クサーイ。」
トゥポルは明らかに笑い、リードに口を近づける。
その時、ノイズが響いた。
リード:「…何だ。」

タッカーは応える。「受信はできるが送信はもう無理だ。クサイって誰が?」
目を覚ましたリード。「何ですって?」
タッカー:「寝言で言ってた。クサイ、クサイって誰のことなんだ?」
「ああ、直ったんですか。その音は、船ですか。」
「受信範囲が狭いからなあ。ただのノイズだろう。銀河が俺たちを笑ってんだ。」
突然、シャトルが揺れた。シューっという音が聞こえる。
リード:「今のは何です。」
タッカー:「わからん! でもセンサーアレイがやられた時と、似てるな。」
「空気が漏れてます。気圧ダウン。」
「手伝え、穴を見つけるんだ。」
「センサーなしで亀裂を見つけるのは容易じゃないですよ。」
「耳を使うんだ。」
周りを見渡す 2人。
リード:「気圧 22%ダウン。」
タッカー:「穴が小さくてわからん。」
「どこなんだ!」
タッカーは天井のパネルを開ける。
リード:「何してるんです。」
タッカー:「冷却剤タンクの窒素だ。いいから見てろ。」
白い気体が充満する。
タッカー:「さあ、穴を探せ。」
リード:「ここだ、ここです!」
「こっちにももう一カ所だ。考える前にとりあえず指でふさげ。」
音は止まった。
リード:「貯蔵庫に、バルブ密閉剤があります。」
タッカー:「手近に何かないのか。」
「ああ…ああ、ミートローフ取ってくれます?」
「何?」
「もういらないでしょう。」
足で皿を取り、リードに向かって蹴るタッカー。
残った料理を指に取り、亀裂に詰めるリード。
タッカーがふさいでいた穴にも詰めた。
タッカー:「俺のチョイスに趣味悪いとか言いたそうだったよな。」
笑うリード。
タッカー:「何かがポッドを貫通してったらしいな。」
リード:「キャビンを貫いただけじゃないようですねえ。抜けていく時に酸素シリンダーを引き裂いてくれました。」
「クッソ! 死への旅路まで時間は。」
「ああ…空気は後、2日ももちません。」


※6: Xyrillians
ENT第5話 "Unexpected" 「予期せぬ侵入者」に登場

※7: Aunt Sherry

密閉剤を塗るリード。「外壁はこの穴の 5倍のサイズの隕石も弾くようにできてるのに。」
タッカー:「ってことは隕石じゃなかったんだろうなあ。エンタープライズの、墜落原因もこれじゃないか?」
「…知るすべはない。」
「ほんとに楽天家だよ。」
笑うリード。「空気は 40時間分しかないんですよ? どうしろって言うんです。結婚の予定でも立てろって?」
タッカー:「俺はいつかチャールズ四世が生まれるって確信してるね。」
「はあ、じゃあ結婚式を計画しなきゃ。あと 1日半で花嫁が見つかると仮定しての話ですが? 希望あります?」
「訓練生時代、ミル・バレー※8にあるバーによく行ったんだ。」
「602クラブ※9?」
「知ってんのか?」
「…嫌になるほど通いましたから?」
「最初の金曜の夜に理想の女に出会ったんだ。…間違いなく運命の相手だったね。話がピッタリだった。どこに住むとか、子供は何人とか。…ルビー※10。今頃どうしてるかな。」
「ルビー! まさか、ウェイトレスのですか?」
「知ってるのか?」
「ああ…嫌になるほど通いましたから。」
「お前もか!」
「意外に共通点が多いですねえ。」
「ああ…。半日でも延びりゃ、凍える気あるかな?」
「何のことです?」
「ポッド内の温度をマイナス 5度ぐらいまで下げるんだよ。そうすりゃそのパワーを、空気リサイクルの効率アップに回せて、寿命が半日延びる。」
「ああ、最期凍えて 2日半過ごすか、それともあったかい 2日を過ごすか。…どっちも捨てがたい。」
「俺は凍える方だ。半日とはいえ、延びるんだからな。」
「なら、凍えましょう?」 小さな鏡を掛けるリード。
「お前何してるんだ。」
「士官たるもの身だしなみが大切。」 リードはシェーバーで、ひげを剃り出す。
「前向きになってきたのは、いいことだな。」
「というより、むしろ死体になって発見された時のためですけどね。真空状態では、保存状態はいいはずですから?」
「全く。一つ忘れてるぞ、マルコム。」
「何です?」
「俺は生物学は優だったんだが、髪の毛と爪は死んだ後もしばらく伸び続けるんだ。…ひげもおんなじだと思うぞ。」
シェーバーを止め、鏡を取るリード。「どうも。」
うなずくタッカー。

エンタープライズ。
アーチャーはドアチャイムに応えた。「入れ。」
トゥポル:「テスニア船墜落前のスキャン結果を分析しましたが、やはりマイクロ特異点の衝突と思われます。」
「まだ実証はされていない?」
「これは事実です。…エンタープライズも 3つのマイクロ特異点と衝突しています。ここと、ここと、ここです。」 パッドを渡すトゥポル。
「これが、超小型ブラックホールだというのか?」
「そうです。…船体装甲に衝突した後、消滅していますが。」
「うーん。」
「重大な発見になるかもしれません。この 3つの衝突点を量子センサーで調べられれば、恐らく存在を証明できるでしょう。」
「もしノーベル賞が取れるとしても、今そんなことはどうでもいい。それよりトリップとマルコムが心配だ。シャトルポッドには、船体装甲がないんだ。となると、あの小惑星帯に戻らせるのは危険だろう。呼び出して、ランデブーポイントを変更しよう。」
「クルーの生命より科学上の発見の方が重要だなどと言ったつもりはありません。」
「うん。」
「たとえ歴史的発見になりえてもです。」
「急いでくれ。」
作戦室を出て行くトゥポル。

寒そうなリード。「デボラ※11へ。エンタープライズを襲った悲劇については、聞き及んでいると思う。」 帽子を被っている。「僕と同僚のチャールズ・タッカー少佐が、その後数日生きていたことも、恐らく知ってるだろう。君にメッセージを残しておこうと思います。…僕たちの交際は、短かったし、揉め事もあったけど…君の笑顔を思い出すと、心が和みます。時々思い出して下さい。マルコムより。」 またノイズが聞こえてきた。「船ですか。」
タッカー:「前のノイズよりはそれっぽいが、ただのガンマ線のバーストかもしれない。」
「ああ…。」 録音を再開するリード。「ああ…えっと、ロシェル※12へ。エンタープライズを襲った悲劇については…」
「メッセージ一つ録音して、後にそれぞれ名前をつけた方が早いんじゃないか? 同じの 5つも 6つも録音して。」
「違います。全部微妙に違うんです。ロシェルには、笑顔が綺麗なんて言いませんよ。彼女は目だ。」
「…トラヴィスやホシは若かったのに。ほんの 24 か 25 だ。」
「もし船長が生きてたら、彼らをクルーにしたのを後悔しますかねえ。」
「それはないな。2人は本望だったはずだ。」
「…ホシはディープスペース探査を喜んではいなかった。」
「好きになってきてたさ。何度か船の危機を救ったしなあ。」
「うん。」
「家族に優秀だったって伝えてやりたいな。」
「少佐もメッセージを録音した方がいい。」
「会って直接伝えるさ。」
「ああ…少佐、楽観主義もそこまでいくと、甘ったるすぎて鼻につくなあ。」
「サンフランシスコの半分の女に宛てたお前の手紙はどうなんだ。」
「私は少なくとも運命を受け入れてます! 33時間後には 2人とも死ぬんだ! ひげが延びようがどうしようが、一つ確実なのは、死ぬってことですよ! どこかの船がたまたま通りかからない限り、ひげ面の死体は、何年も発見されないままだ。これでも楽観的でいられますか!」
「どうして自分から全部希望を捨てちまうんだ!」
「どうして現実を見られないんですか!」
「周りまで暗くしてくれる男だな、お前は。」 ため息をつくタッカー。「まあ、死刑宣告も出たことだ。…最期の飯を、楽しんだっていいよな。…何にする、選択の余地はございませんけど!」
「いりません。」
「だったら酒でも飲むか。」
「任務中は飲みません。」
「マジで言ってんのか?! 俺たちゃ死人だぞ。どうしたんだ、大尉! まさか検死結果が怖いのか? シャトルの飲酒運転で評判に傷がつくからか?」
ボトルを開けるタッカー。
無言のリード。
タッカー:「力抜け。これは命令だ。」
グラスを受け取るリード。鼻をすする。
口にするタッカー。「ああ。」 一つの道具を取りだし、それに火をつける。ろうそくのように。
リード:「それで暖が取れると思いますか。」
タッカー:「暖を取るのはバーボンだ。気分を出すためさ。」
震えているリード。
グラスを掲げるタッカー。「エンタープライズの…勇敢なクルーたちに。」
酒を飲む 2人。
リード:「ああ。酸素が減るのはわかってますよねえ。」
タッカー:「…この程度死ぬのが 5、6分早くなるだけのことだよ。…構うもんか。それにお前は早く死にたがってるみたいだしな。」
「本当にそう思ってるんですか。周りまで暗くする、永遠のペシミスト。死にたくないですよ、何でそう思うんですか。」
「エンタープライズが小惑星で大破してるのを見てから、綺麗に死ぬことしか考えてないじゃないか。」
「船の親しい仲間をいっぺんに…失ったんですよ。女性とも続かなかった。ロシェルも、デボラも、ケイトリン※13も。それは僕が心を…開けないからです。…ついでに言えば、家族にもですけどね。それは少佐には関係ない。……でもエンタープライズのクルーは違ったんです。それこそ、家族のように…思い始めてた。…ああ、なのに最期のクルーに死に神と思われてるなんて。」
タッカーは火を吹き消した。「…急に最期の 5、6分が惜しく思えてきた。」

シャトルポッド。
さらに凍えるリード。「今の音は人工的ですかねえ…。ああ…。」 毛布を被っている。
タッカー:「人工的?」 同じく酔っている。
「無線ですよ。ハハ、今度もまた銀河が、笑ってるだけかな。」 ボトルから直接酒を飲むリード。
「好きに笑えやいいさ。いくら笑ってもバーボンはやらないぞ。」 タッカーも交互に飲む。
「少佐。トゥポルどう思います?」
「うん?」
「美人じゃないですか?」
「トゥポル? 冗談だろ。」
「れっきとした女性だ。美人ですよ。」
「お前飲み過ぎじゃないのか?」
「ウー、一度ぐらいは覚えがあるでしょ? ムラッと…。」
「ヴァルカンだぞ?」
「でも、やっぱり美人だ。」
「マジかよ!」
「あのヒップなんです。」
「何?!」
「ヒップ!」
「ああ…。」
「…いい形なんですよねえ。」
一緒に笑うタッカー。ボトルを挙げる。「…トゥポル副司令官に。」
大きく笑うリード。「いいんだなあ!」
また音が響いた。
リード:「ノイズですよね。」
タッカー:「いや、今度のは違う! ああ…。」 慌てて席につく。
「ノイズじゃないんだとしたら、何です! ノイズじゃないなら人なんですか!」
「シーッ。」
「失礼。」
「こいつは人間の声だ!」
「でも応答できないんですよねえ。」
必死に作業するタッカー。「ああ、ああ…。」
リード:「孤島に漂着した人の上を飛行機が飛んでくってシーンみたいだな!」
「マルコム!」
「すいません。楽観的に、楽観的にならなくっちゃ。」
声が聞き取れるようになった。『…応答して下さい…』
タッカー:「これホシだ!」
サトウ:『…新しい座標を送ります。』
「でもありえないだろ!」
リード:「悲観的なことは言わないで! ありえますよ! ハハ…ホシの声だ!」
喜ぶ 2人。
リード:「無事だったんだ! エンタープライズは無事だったんだ! ホシですよー!」
サトウ:『…新しい座標へ向かって下さい。ランデブーは 2日後です。少佐、大尉? 応答して下さい。』
「ランデブー! 何ていい言葉なんだあ。…どうしたんです!」
タッカー:「船はまだ 2日先だ。」
「…空気は後 1日分しか残ってない。」
「急いでくれと伝えるすべもない…。」
「ああ…。」


※8: Mill Valley

※9: シックス・オー・ツー・クラブ 602 Club

※10: Ruby

※11: Deborah

※12: Rochelle

※13: Catelin

シャトルポッド。
タッカー:「その座標で間違いないのか。」
凍り付いたコンソールを操作するリード。「ええ。無駄ですけどね。」
タッカー:「大尉。」
「…エンタープライズの速度は、ワープ2 か 3 でしょ? それに比べたらこっちはカタツムリ。どこへ行こうと見つけてはもらえませんよ。」
「…フィルターを掃除すれば、多少空気がもつ。」
「どのくらい? 1時間?」
「…それ以下だ。」
「じゃあ、2日後のランデブーの頃には、空気がなくなって…11時間後だ。11時間、息止めたことは?」
「…ニューヨークを 3時に出た電車が西へ向かう。シカゴからも 4時半に出て東へ向かう。…これが解けなくてな。」
「なぜ応答しないのか、みんなおかしく思う。でしょ? 心配して速度を上げるかもしれない。」
「かもな。…だが最高ワープ速度まで上げて欲しきゃ、もっと目立たなきゃな。応答しないだけじゃ、地味すぎる。」
「…ポッドはセンサーにかかります?」
「…ワープ3 で 2日。…ああ、そのはずだ。目立ちはしないが、ビューワーでチカチカしてるはずだ。」
「うん。じゃあ速度を上げたくなるぐらいの光にしないと…。武器を使うのは?」
「向こうは 4分の1 光年先。…プラズマ砲の射程距離は 10キロ以下だ。…チカチカ程度にしかならない。…もっと派手でなきゃダメだ。」
「…インパルスエンジンを放出したら。」
「…それでどうなる。」
「自爆させるんですよ。かなりの規模の爆発になります。それなら、注意を引けるんじゃないですか? 何とか。」
「そんなことできるか! …そしたら後は、漂流だ。」
「カタツムリの速さと、どう違うんですか?」
「…エンジニアが、エンジンを吹き飛ばせるか!」
「じゃあ、また聞きますけど、11時間息止められます?」
「ああ…。ああ…その辺に、マイクロ爆弾があったはずだ。」

エンジンを止めたポッドは、その後部を切り離した。
爆発する。
タッカー:「ああ…。」
リード:「……カタツムリより遅い気分は?」
「…面白いアニメがあった。…カメに…カタツムリが 2匹乗っかったんだ。…そして一匹がこう言う。…『しっかりつかまれ、速いぞ。』」
笑うリード。

漂流するシャトル。
タッカー:「俺が勝てばバーボンはもらうぞ…。」
リード:「…どうぞ。」
「…うん。」
「12時間以下なら、少佐で…それ以上なら、私の勝ち。」
「うん…。」
「見てきて下さい。」
「お前が行けよ。足が動きそうにない。」
リードはボトルを渡して何とか立ち上がり、コンソールの氷を取って表示を見た。「そんなに経ってたとは。」
タッカー:「もったいつけるなよ! …何時間もつ。」
「10時間。」
「ああ…そこまでとは思わなかったが、俺の勝ちだ。勝ったんだから祝杯だな。」
「ああ…飲んで下さいよ。でもまず我々に、乾杯して下さい。」
「ああ…2人の…10時間に。」
口にするタッカー。ボトルを渡されたリードも飲んだ。
タッカー:「もし独りなら、20時間もつよな…。」
リード:「ええ、名案だ。…なら少佐、エアロックに上がって…ドア閉めたらどうです。」
「そうしようと思ってた。」
「…誰かに…伝えたいことは。」
「ああ…。」 足を叩き、立ち上がるタッカー。「アーチャー船長に! …下で働けてよかったってな…。」 上り始める。
「何してるんです!」
「ああ…俺たちの打ち上げ花火に気づいたかどうかわからんが…どっちにしても…お前のチャンスは倍になる。」
「何言ってるんです、下りてきて!」
「お前は座ってろ!」
「どっちかが行くとしたら私でしょう。そっちが上官なんだから!」
「つまり誰が残るか決めるのも、俺の権限だ。わかったか、大尉。」
フェイズ銃を取り出すリード。「少佐!」
タッカー:「…何だよ、殺すか?」
「麻痺になってます。使いたくないですが、やりますよ。」
「…そんなもん下ろせ!」
「やなこった!」
下りてきたタッカー。「ヒーローぶるのはよせ、ガラじゃない。」 また上る。
リード:「あんたこそ何もわかっちゃいないくせに! 独り穴蔵で死ぬことがヒーローと言えるか!」
「なら撃ったらどうなんだ! …その時は救出されない方が身のためだぞ? もしも助かったら、命令不服従で二等兵に格下げしてやるからなあ!」
「ああ、好きにしろ! 責任が軽くなっていいねえ。さあ、下りてこい!」 無理矢理引き下ろすリード。
「何様のつもりだ!」
「俺は兵器士官で、あんたの友達だ!」
「友達が撃ち合うのかよ!」
「俺はドクターじゃないが、酸素がずっと早く減ると思うねえ、そんな風に怒鳴るとな!」
タッカーは座った。「……ってことは…エンタープライズが来た時に…両方死んでた方がいいって…」
リード:「そうとも、その通りだね。1,000分の 1 の確率で…あの爆発が目に留まってれば、速度を上げるはずだ。俺はそれに賭ける。あんたのことを理解するのに、たっぷり時間を投資したんだよ。…全部無駄だったなんて、認めないからな…。」

機械音が聞こえてきた。
リードはベッドの上で目を覚ました。「助かった。どうやって。」
アーチャー:「動くな、マルコム。2人とも、低体温症になってたんだからなあ。」
「…少佐は!」
「すぐ良くなる。」
フロックス:「体温を戻すのに 3時間近くかかりましたよ。」 眠っているタッカーについている。
リード:「ああ…あの爆発を見たんですね。」
アーチャー:「派手だった。酸素はもう 2、3時間分しか残ってなかったんだぞ?」
「わかってます。…小惑星に船の残骸があって、てっきり…クルーは全員…」 泣きそうになるリード。
「それは明日説明する。とにかく、まずは後 2、3度体温を上げることだ。」 医療室を出ていくアーチャー。
リードは呼び止めた。「副司令官。」
トゥポル:「…何か。」
「私に話があるんじゃないですか?」
「何のです?」
「勇敢な、英雄的行為とか。」
「…おやすみ、大尉。」 トゥポルは去った。
リードは微笑んだ。ライトが消される。
リード:「トリップ。」
眠ったままのタッカー。
二人きりになったリードは言った。「トリップでいいよな。よく寝ろよ、相棒。」



・感想
ゲストキャラが誰一人としておらず、特撮も目立ったものがほとんどないという、見るからに低予算なエピソード。レギュラーも中心となるのはタッカーとリードだけで、メイウェザーに至っては声でしか出演していません。
となると必然的に中心となるのは、タッカーとリードの会話です。このようなエピソードだと「STらしくて、キャラクター性が深まる」という肯定的な見方と、「単調でつまらない」という否定的な見方に分かれがちですが、今回は残念ながら私は後者に感じました。あまりにも二人の性格がステロタイプな描写で…。せめて、実際には船が墜落していないということが、もう少し後で判明すべきではなかったでしょうか。


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