エンタープライズ。
ドアチャイムに応えるアーチャー。「入れ。」 サトウに尋ねる。「テスニア人※3の様子は?」
サトウ:「汚染除去室には、一度に 12人しか収容できないそうです。」
「ほかはどうしてる。あと 22人か。」
「ローテーションを組んでます。この空気で呼吸可能ですが、一日 6時間はボロン※4ガスが必要だそうです。到着までガスは十分です。」
「彼らの言葉はわかったか。」
「はい。」
「何を話してた。」
「動揺していますね。あの船に何年も乗務していたそうです。一度に全てを失ったんですから。」
「だが生きてる。」
うなずくサトウ。
アーチャー:「船長から原因は聞けたのか?」
サトウ:「いえ。ドッキング時の衝突のことで、ひどく恐縮していました。原因はわからないそうです。ドッキングポートに近づいた時、突然センサーが効かなくなり、その数秒後にはもう、ナビゲーションシステムがダウンしたそうで。」
「ポッドが使えただけよかったよ。」
「小惑星上の残骸は、跡形もありません。」
呼び出すアーチャー。「アーチャーよりメイウェザー。到着時刻は。」
メイウェザー:『およそ 20時間で、テスニアに着けます。』
「ご苦労。なら、トリップとマルコムが戻る前に、余裕でランデブー地点へ戻れるな。しばらくワープを解除してくれ。出発ベイのドアの、被害状況を見たいんだ。」
『了解。』
船体下部から小型ポッドが出てくる。
アーチャー:「今機関部の責任者は誰だ?」
トゥポル:「ヘス大尉※5ですが。」
「第2出発ベイに、新しいドアをつけるよう彼女に言ってくれないか。」
被害場所へ近づく。ドアは大きくえぐられていた。
アーチャー:「ほかに異常はないのか。」
トゥポル:「…小惑星帯の付近に、マイクロ特異点らしきものが複数検知されています。」
「マイクロ特異点は、ヴァルカンの神話だ。実在するという科学的証拠はないぞ。」
「テスニア船が墜落したのと同じ時間に、ディフレクター上で…不自然な滞留電子が確認されています。」
「エンタープライズにも異常があったか?」
「いえ。」
「うん。」
「船体装甲が作動中でした。」
「うーん、マイクロ特異点ね? ヴァルカンは風邪を引いても特異点のせいにしそうだな?」
シャトルポッド。
タッカー:「救命艇があるんだ。墜落前に脱出したんじゃないか?」
リード:「それなら、まだこの付近にいるはずです。時速 300キロしか出ないんですから。」
「…本当に生存者はいないのか…」
「少佐。我々のことを考えるべきです。」
「放っては行けないだろ。エンタープライズだ。せめてブラックボックスを見つけないと。」
「どうやって。受信機が使えないんです。ビーコンをキャッチできません。」
「シャトルビーコンの送信範囲は。」
「故障してますよ。」
「ポータブルの方だ。携帯キットに入ってるだろ。」
「1,000 か、2,000万キロでしょう。その範囲に船がいるとは思えません。」
「…酸素は 10日分しかもたないぞ。……エコー3 まで距離は。」
「インパルスで? 10日以上でしょうねえ。」
「…せめて救難ビーコンが届く位置まで行ければ、艦隊に信号が中継される。」
「その計算には無理があると思いますが? エコー3 に信号が届くまで、何週間も何ヶ月もかかる。艦隊から救助の船が来る頃には…我々は死んでます。」
「だが発見はされる。シャトルポッドも回収される。死体も。…保存状態はいいはずだ…」
「少佐。」
「どっちだ。」
「どっちって何がです。」
「エコー3 だ。エコー3 はどっちだ。」
「言ったでしょ、遠すぎます。」
「方角を知ってるのか知らないのか。」
「ナビが故障してます。」
「そんなことは聞いてないんだよ!」
「勘でいいんですか?!」
「代々海軍の家系だろ、それに記憶力もいいはずだ! 星を見たらどうなんだ。見覚えあるのを見つけて、方角を教えろ!」
「少佐。」
「これは命令だ!」
「…六分儀もってませんよね。」
「…計算尺もないよ。」
リードは向き直り、外を見る。
タッカー:「どうだ。」
リード:「あの青色巨星。あのそばを通ったような気がします。」
「それだけで十分だ。もう一度墜落現場の上を飛んで……それから出発しよう。」
操縦を始めるリード。残骸の上を通る。
タッカー:「船長、また後で。」
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※3: Tesnians
※4: boron 原子番号 5番、ホウ素のこと
※5: Lieutenant Hess
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