エンタープライズ エピソードガイド
第44話「光の意志」
The Crossing
イントロダクション
※1モニターを見るリード。「船の素材は特定不能。ワープ特性さえはっきりしません。」 トゥポル:「ワープ6 で接近中。」 アーチャー:「大きいのか。」 リード:「…かなり。幅 500メートル以上です。」 イヤーレシーバーをつけているサトウ。「船体確認。」 アーチャー:「画面を。」 後方から迫ってくる巨大な船。 アーチャー:「見たことあるか。」 トゥポル:「ヴァルカンのデータベースにはありません。」 相手の船はコースを合わせ、ますます近づいてくる。 アーチャー:「呼びかけろ。」 サトウ:「…応答ありません。通信装置さえないようです。」 メイウェザー:「…急接近してきます。」 エンタープライズに近づく船。中央にある大きな口を開いた。 船の姿はスクリーン一杯に広がっている。 リード:「一体何なんだ。」 エンタープライズは、そのまますっぽりと飲み込まれてしまった。 閉まっていく口。 |
※1: このエピソードは、2003年度エミー賞の特殊映像効果賞にノミネートされました |
本編
アーチャーは命じた。「攻撃準備。」 リード:「武器装填不能。オフライン状態です。フェイズ砲、魚雷もです。」 機関室のタッカー。「タッカーよりブリッジ。」 アーチャー:『どうした。』 「どうなってるんです、エンジンが停止しました。」 『ワープか、インパルスか。』 「どちらも。」 指示するアーチャー。「待っててくれ。敵のワープ状態は?」 トゥポル:「…わかりません。センサーが効かないようです。」 「生命維持装置は。」 「…順調に動いています。」 「ひとまず安心だ。生体反応は。」 「…全くありません。」 「……カメラを動かせ。」 操作するメイウェザー。 内部は青い空間だ。 アーチャー:「ストップ。30度上に、傾けて。拡大。」 透けている船体の内部で、もや状の光が浮遊していた。数は多い。 トゥポル:「あの光には、センサーで識別可能な成分はありません。」 アーチャー:「…大気は。」 「ヘリウムと…微量のキセノン。」 「シャトルポッドの準備だ。…トリップ、第1出発ベイに集合だ。」 タッカー:『了解。』 「ブリッジを頼む。回線はオンにしておけ。」 リードと共にターボリフトに乗るアーチャー。 降下するシャトルポッド。下の床の中にも、光が見える。 環境服を着たリードが出てくる。「船長、これを。大気が変化しています。窒素 76%、酸素 21%。」 タッカー:「人間好みの大気を知ってるようだ。」 アーチャー:「気温は?」 リード:「18度です。」 タッカー:「…冬のフロリダだ。」 アーチャー:「…調べてみよう。」 空中に光がやってきた。 タッカー:「何でしょう。」 たくさんの光が集まってきている。 リード:「…生体反応なし。生き物じゃない。」 タッカー:「そう見えるけどなあ。※2」 「生命体がいないとしたら、誰が大気を変えたんでしょう。」 アーチャー:「…偶然の一致じゃないな。」 タッカー:「船長。」 光は 3人を見下ろしている。 アーチャー:「…生体反応はないかもしれんが、光は生きてるみたいだ。」 一つの光が近づいてきた。フェイズ銃を構える 3人。 だがそのままタッカーの身体に入った。声を上げるタッカー。 そして、黄色に変色した光が体内から出ていった。空中に去る。 アーチャー:「大丈夫か。」 何も言わないタッカー。 アーチャー:「トリップ?」 さっきの光が戻ってきた。再びタッカーに入り、元の色になって出ていく。 息を荒げるタッカー。「…おお…何が起きたんです。」 アーチャー:「それはこっちの質問だ。」 「ああ…光と共に天井まで上がりました。…真上から、自分たちの姿を見下ろしてた。別の目で。…説明できません…。」 「ドクターに診せよう。」 「ターポン・スプリングス※3で、リサ※4と泳いでました。彼女、夜が来るのを怖がって。」 リード:「夢を見ていたようですねえ。」 「夢と現実の区別ぐらいつくさ。」 アーチャー:「地球から 150光年離れてる。」 「でも現実でした。」 コンソールを操作するフロックス。「寄生虫も生命体も光の玉※5も、感知できませんねえ。少佐は完全に正常です。」 アーチャーも除菌室の外にいる。「…幽体離脱体験をしたらしい。」 下着姿のタッカー。「フロリダに行ったんです。どれだけ離れていようが…地球でした。」 ボタンを押すフロックス。「知った場所に戻ることは、幻覚ではよくあることです…」 フロックスが何を言っているかは、中に聞こえない。 タッカー:「聞こえません! 内緒の話ですか。」 音声を戻すフロックス。「もう結構です、終わりです。」 タッカー:「どうも。」 制服に戻ったアーチャー。「ほんとに大丈夫か。」 タッカー:「もちろん。…それにしてもすごい体験でした。」 「…しばらく休んで欲しいところだが、余裕がない。すぐにエンジンをオンラインに戻してくれ。」 「早速。」 「知らせろよ? 今度ターポン・ビーチに行く時はな?」 「ターポン・スプリングスです。また連絡します。」 出ていくタッカー。 「武器の方もオンラインに。」 リード:「すぐ、かかります。」 ため息をつくアーチャー。 窓の外を見ていたアーチャーは、ドアチャイムに応えた。「入れ。」 トゥポルが作戦室に入る。 アーチャー:「怪物に飲み込まれたみたいだ。」 トゥポル:「相手が敵だと決めつけるのは早計です。」 「船を拘束されてる。」 「とは言えません。」 「そうか? 外を見ろ。ほかに星が見えるか。エンジンも武器も、オフライン状態。敵としか思えない。」 「見方によると思います。」 「……私に何か用だったのか。」 「…サトウ少尉が、生命体と意思の疎通を試みています…」 「それで?」 「…まだ駄目です。……何人もの士官と話をしました。クルーは不安がっていますが…平静を保っていると。」 「…脱出しなければ。」 ワープコアに近づくタッカー。 奇妙な音がして、また光が近づいてきた。 前と同じように身体に入り、色を変化させて出ていく。 気づかずに話しかけるロストフ※6。「プラズマの流れを再初期化しようとしましたが、パワーグリッドが充填されません。※7…少佐?」 何も応えないタッカー。 ロストフ:「大丈夫ですか? …何か、お持ちしますか。」 タッカー:「大丈夫です。」 クルーが出てきた通路を見る。「失礼します。」 その中に入っていった。 連絡するロストフ。「ロストフよりアーチャー船長。」 アーチャー:『何だ。』 「突然、失礼します。タッカー少佐の様子がちょっと変です。」 トゥポルと顔を見合わせるアーチャー。「…どういう風に。」 報告するロストフ。「混乱されているのか、私を上官と勘違いされてます。」 ターボリフトへ向かおうとしたアーチャー。「すぐ行く。」 ロストフ:『もういません。今、出て行かれました。』 「…どこに行くと言った。」 ロストフは首を振った。「いいえ。何も、おっしゃいませんでした。」 呼びかけるアーチャー。「アーチャーよりタッカー少佐。」 返事はない。 アーチャー:「…探してくれ。」 コンソールを操作するトゥポル。 食堂で話しているクルー。「一体いつまで…」 タッカーはテーブルにたくさんの料理を並べ、食べ続けていた。 やってくるアーチャーたち。タッカーは気づかない。 アーチャー:「少佐?」 タッカー:「…チャールズ・タッカー三世です。」 「……空腹か?」 「ええ、どれも美味しくて。」 食パンを手にするタッカー。「これを召し上がったことは。」 「パンだろ? 初めて食べるのか?」 「初めて口にする物ばかりです。」 トゥポル:「タッカー少佐はどこです。」 「ここにいます。私がタッカーです。」 アーチャー:「…では今までタッカーだった男はどこだ。」 外を見るタッカー。「…探検中です。私の世界を。…いずれ戻ります。」 アーチャー:「……今すぐ戻せ!」 「信じて下さい。彼は不可能だったことを体験しているんです。」 「どこにいる。」 「…場所の観念は無意味だ。…彼は肉体を離れていますが、必ず戻る。ほんとです。」 リード:「船外で、青い光が少佐の中に入るのを見た。君はそれと関係あるのか?」 「『光』? 面白い言葉だ。…光…光。…我々をそう呼んでも構いません。光。」 アーチャー:「…君はどこから来た。」 「我々は亜空間に存在し、旅をしています。あなた同様探検家です。」 「…なぜタッカー少佐を選んだ。」 「我々が肉体に出会ったのは久しぶりです。…最初に少佐と入れ替わった時、適合性があると気づいた。…人間はユニークな存在だ。メンテナンスのいる肉体に閉じこめられ…性別がある。殖えるためには交尾を必要とし…食べ物を、摂取する。我々もそうでしたが、進化した。人と出会って祖先の生き方がわかった。」 「…少佐を戻し、船を解放して欲しい。」 すると、音が響いた。 リード:「船長。」 窓の外を見ると、エンタープライズは移動していることがわかる。 タッカー:「彼はすぐに戻ります。あなたも同じ探検家なら、新しい可能性に心を開いて下さい。」 エンタープライズは外に出された。 |
※2: 原語では、リード「何も読み取れません。ないのと同じです」 タッカー「俺には見えるけどなあ」。生体反応がないことは、前のトゥポルのセリフで触れられています ※3: Tarpon Springs ※4: Lisa ※5: 原語では wisps of smoke。wisp=小束、房、断片といった意味で、後の「光」は原語ではこう言っている個所があります ※6: マイケル・ロストフ Michael Rostov (Joseph Will) ENT第25話 "Two Days and Two Nights" 「楽園での出来事」以来の登場。声:平田広明 (継続) ※7: 吹き替えでは「パワーグリッドが変化しています」と誤訳 |
外は宇宙空間だ。 アーチャー:「タッカーは。」 タッカー:「楽しかったです。」 リード:「船長。」 黄色の光が窓を突き抜け、食堂に入った。 タッカーの身体に戻る。そして青い光は宇宙空間へ去っていった。 タッカー:「ウワー…。」 アーチャー:「……何驚いてる。」 「…ホパロング・キャシディ※8と、並んで馬に乗ってた。…悪党を追ってね。またリサと一緒で、今度はニュージーランドでスノーセーリングをした。それから 8歳に戻って、9歳かな。パパと落ち葉拾いをした。でも夢ではありません! この瞬間と同じ現実です。…誰でも体験できると、誰でも。」 「誰に言われた。」 「ああ…彼らです。一緒にいた奴。」 「一緒にいたのはホパロング・キャシディだろ? それと彼女。」 笑うタッカー。「ええ…でも…ああ、説明が難しいな。…ぜひ体験を。…俺の話がわかります。みんな試すべきだ。」 アーチャー:「トリップを、医療室に。」 「…船長、大丈夫です。」 「それはドクターが決めることだ。」 リード:「行きましょう。」 ため息をつき、立ち上がるタッカー。リードと共に出ていく。 アーチャー:「何かおかしいな。」 トゥポル:「…でも船と少佐を、解放しました。こっちの願い通りにしてくれた。考えてみて下さい。…彼らは、本当に我々に好奇心をもっているだけかもしれません。」 止まった 2隻の船は、まだすぐ近くにいる。 『航星日誌、補足。トリップの健康は、ドクターが太鼓判を押した。』 作戦室で記録しているアーチャー。「…エンタープライズでここを出ていくことが第一だが、今は無理だ。エンジンが、元に戻るまでは。…あの生命体は、質量というものをもたない。…肉体なき生命体。艦隊としては初めての遭遇だ。トゥポルの言うように好奇心だけなのか。そうかもしれない。我々と異質すぎて信用できないのか。悪くは考えたくはないが…」 ドアチャイムが鳴った。「コンピューター、ポーズ。入れ!」 フロックス:「突然失礼します。」 「どうした。」 「…それが…数分前に例の光が一つ医療室に現れ、私に…入り込んだ。ここに。」 頭を示すフロックス。「でも生理機能と合わなかったのかすぐに出ていきました。」 「身体は大丈夫か。」 「ええ。…少々混乱しましたが、生命体は私の身体を乗っ取ろうと必死でした。」 兵器室に入るリード。 一つの光が近づいているのに気づいた。すぐに階段を滑って逃げ、フェイズ銃を手に取る。 光に向けて撃つが、突き抜けてしまい全く効果がない。 部屋の外へ出るリード。光はドアを通過して追う。 廊下を走るリード。だが突然止まった。乗っ取られたのだ。 表情を変え、周りを見る。 前から来た女性士官が通りかかる。微笑むリード。 別のクルー※9がターボリフトに入る。リードが滑り込んだ。 クルー:「Bデッキに参ります。」 リード:「私もだ。…君は女性か?」 「はい?」 「性別だよ。君は女だな? だろ?」 「前の検査では。」 「私は男だ。」 「…存じています、大尉。」 「人の男と女には、解剖学的違いがあるようだな?」 不快な表情を浮かべるクルー。「失礼?」 出ていった。 リードはボタンを押した。ターボリフトが動き出す。 寝間着姿で本を読んでいるトゥポルは、ドアチャイムに応えた。「どうぞ。」 リード:「副司令官。」 「私に何か用ですか?」 「君はとても美しい。…船で最も魅力的な女だと、自分で気づいているか?」 「…こんな時間に部屋を訪ねるのは非常識です。」 「服を脱いでくれないかな。…君の身体をもっとよく知りたい。」 トゥポルは本を閉じた。「酔っているんですか。」 リード:「交尾するには、都合がいいからな。裸の方が。」 立ち上がったトゥポルは、コンソールに触れた。「トゥポルよりアーチャー船長。」 アーチャー:『…どうぞ。』 「…保安チームを連れて、至急部屋まで御願いします。」 『すぐ行く。』 リード:「私が怖いのか? なぜなんだ。」 トゥポル:「私は怖がってなどいません。」 「女でいるのはどんな気分だ。…男とは違うのか?」 「…わかりません。」 「身体を入れ替わったらわかる。」 「…どういうことですか?」 「我々のところに来れば、男になるのがどんな気持ちか体験できる。君の役に立つだろう。」 「考えたこともない。」 「考えろ。我々は君が望むことは何でも体験させてやれるんだ。…こんな機会を、利用しない手はないぞ?」 トゥポルの顔に手を触れるリード。 アーチャーたちがやってきた。 リードから離れるトゥポル。「大尉は別人です。」 アーチャー:「もうよせ! …勝手に、我々の身体を利用するな。…本当のマルコム・リードはいつ戻る。」 リード:「…さあね?」 「そうかい。…リード大尉の部屋に監禁されていつまで人間を楽しめるかな?」 保安部員に連れて行かれるリード。 機関室のタッカーは、呼び出しに応えた。「タッカー。」 アーチャー:『マルコムが入れ替わった。いつでも、出発できる状態にしてくれ。』 アーチャーは、制服を着たトゥポルと廊下を急いでいる。 タッカー:『大尉はいずれ戻りますよ。』 アーチャー:「だといいが。」 尋ねるタッカー。「で、彼は今どこに。」 トゥポルを見るアーチャー。「…保安チームがマルコムの部屋に監禁した。急いでくれ、トリップ。」 タッカーは応えた。「了解しました。わかったな、デューテリアムポンプに燃料入れて、エンジン始動だ。」 下へ向かうロストフ。 タッカー:「タッカーよりクック少尉。」 クック:『はい。』 「至急ほかの 2人と、こっちに降りてきてくれ。」 『2人を探します。』 ロストフ:「少佐!」 タッカー:「急いでくれ、以上。どうした。」 下に降りる。「何か問題か。」 コンソールの前で立ちつくすロストフ。「問題? いえ、順調です。」 タッカー:「…ポンプに燃料を注入してるのか?」 「やり方が全くわかりません。エンジンが複雑すぎて。」 「……待ってろ。すぐ戻る。」 連絡するタッカー。「タッカーより船長。」 ターボリフトで受けるアーチャー。「どうした。」 タッカー:『今度はロストフです。マルコムの部屋に連絡を。こっちに、保安チームをすぐ回して下さい。』 ブリッジに入るアーチャー。「ホシ、機関室に保安チームを送ってくれ。ロストフを部屋に拘束するんだ。」 サトウ:「了解。…船長、クルーたちの行動がおかしいと…続々報告が入っています。」 「…保安チームを増やす必要があるな。おかしな行動を取るクルーを特定し、部屋に拘束しろ。」 メイウェザー:「保安士官自身がおかしくなっていたら。」 「…今は正常だと願うしかない。…誰が正常か、そうじゃないかチェックするんだ。クルー全員を。ドクターと協力しろ。」 取りかかるトゥポル。 機関室。 モニターで戦術警報が出されていることがわかる。 クック※10:「少佐!」 駆けつけるタッカー。「…どうかしたのか。」 クック:「いいえ、ダイリチウムマトリックスの準備が整いました。」 「…あ、よし。合図するまで待て。」 ブリッジのサトウ。「船を感知してすぐ船体を装甲モードにしたのに、何の効果もなかった。…我々を生かしておく目的は何でしょう。」 呼び出しに応えるアーチャー。「アーチャーだ。」 タッカーは報告する。「インパルスエンジンが戻りました。」 アーチャー:『ご苦労、位置を維持。』 サトウは尋ねた。「今すぐ出発しないんですか?」 アーチャー:「大尉を取られてる。何人入れ替わっているか。全員取り戻すまで動くわけにはいかない。」 |
※8: Hopalong Cassidy ※9: 女性クルー Female Crewman (Valerie Ianniello) 声:多緒都 ※10: Cook (Steven Allerick) 声:土田大 |
コンピューターにスキャナーの様子が表示されている。 医療室に入るアーチャー。「内密な話か。」 トゥポル:「通信を通さない方がいいかと思いまして。誰が入れ替わっているのか。」 「それで?」 フロックス:「思ったより単純でした。自律神経のアセチルコリンレベルが上昇し…」 「ドクター。全て任せるから、進めてくれ。」 「副司令官が医療コンピューターをプログラムしたので、ハンド・スキャナー※11を修正中です。」 「準備でき次第取りかかれ。」 出ていくアーチャー。 ブリッジに通信が入る。『タッカーよりメイウェザー少尉。』 メイウェザー:「どうぞ?」 『手を貸してくれ、トラヴィス。右舷ナセルに行って、ワープコイルを再分極してくれないか。』 機関室のタッカー。 「わかりました。」 『キャットウォークに着いたら連絡を。』 「すぐ行きます。」 食堂。 たくさんのクルーがいる。 テーブルにつき、密かにスキャナーを使っているトゥポル。「…2人入れ替わってる。」 確認するフロックス。「コール少尉※12と、ロッシ乗組員※13か。」 外に出て、保安部員を呼ぶトゥポル。 はしごを上がるメイウェザー。ハッチを開ける。 光が追ってきているのに気づいた。ハッチを閉め、更に登る。 ハッチを通り抜ける光。 メイウェザーは暗いキャットウォーク内に入り、ハッチを閉めた。 だが今度は追ってこない。 連絡するメイウェザー。「メイウェザーよりブリッジ。」 アーチャー:『どうした。』 「例の光が、右舷ストラットまで追いかけてきましたが、キャットウォークの中には入ってきませんでした。ここに入れない、わけがあるようです。」 船長席のアーチャー。「そこを動くな。」 メイウェザー:『了解。』 「アーチャーよりタッカー少佐。」 応えるタッカー。「はい。」 アーチャー:『あの光が嫌うシールドが、エンタープライズのナセル内に何かあるのか。』 「キャットウォークは、オスミウム合金で強化されていますが。それが、効くかどうか。」 『どうもそれが効くようだ。作業を中断して、全ての指揮系統を右舷キャットウォークに移転してくれ。全員、キャットウォークに集合だ。』 「了解。」 サトウに命じるアーチャー。「至急トゥポルと一緒にキャットウォークにクルーを集めてくれ。…ホシ?」 サトウ:「動かない方が賢明ですよ。」 「…何?」 「人間は大いなる機会を与えられている。我々の存在を体験する機会は二度とないでしょう。」 通信するアーチャー。「至急ブリッジに来てくれ。」 サトウの身体をつかんだ。「少尉と入れ替わったな。なぜだ!」 サトウ:「あなた方が動揺する気持ちはわかります。実体を失い知覚エネルギーとして存在する。入れ替わりを体験すればそのすばらしさがわかります。」 「こっちは『実体』が気に入っている。それを捨てる気はないね!」 「我々は幸せを手に入れています。…今にわかる。」 「私達のためだと言うのか?」 到着した保安部員に命じるアーチャー。「サトウ少尉を、彼女の部屋に御案内してくれ。」 「…後悔しますよ。」 キャットウォークに入るアーチャー。「人数は。」 クルーが集まっている。 トゥポル:「我々を含め、58人。」 「ほかには。」 「監禁したのが 24人。それと、ドクター・フロックスです。」 「大丈夫か、トラヴィス。」 メイウェザー:「ええ、大丈夫です。」 「トリップは。」 「司令区付近で見かけました。」 「ご苦労。」 トゥポル:「生命体について、詳しく知る必要が。」 「仲間を取り戻すのが先だ。」 「彼らの目的を知らずして取り戻せると考えるのは、非論理的だと思います。」 「名案でもあるのか。」 「キャットウォークを出る許可を下さい。」 「それはできない。円盤部に戻る前に、奴らにつかまるぞ。」 「平気です。…生命体が私の意識と入れ替わろうとしても、私なら防御できます。」 「なぜそう思う。」 「…他意はありませんが、ヴァルカンの心は人間より抑制が利きます。」 「うーん…」 「誘惑や、感情に抵抗することができる。あの生命体の侵入も阻止できます。」 「…だとしても、何をする気だ。」 「異星人が乗り替えを試みようとしても、私の心と一体化するまで間があるでしょうから、その間に彼らの目的を突き止めます。」 「それはあまりに危険すぎる。」 「ほかに方法がありません。」 「失敗したら。」 「危険を冒す価値はあると。」 「反対だ。24人も乗っ取られてる。もう一人も許さんぞ。」 アーチャーの手をつかむトゥポル。「私の判断を信じて下さるなら。お願いします、ほかに方法はありません。」 フロックスは呼び出しに応えた。「医療室。」 サトウ:『事故です。』 「…ホシか?」 『怪我を負いました。どう処置していいのかわかりません。』 「どうしました。」 『足を折りました。ひどい痛みなんです、助けて下さい。』 ため息をつくフロックス。 フェイズ銃を持ったフロックスは、ドアチャイムを押した。「銃を持ってる。ドアのそばにいるなら下がれ。」 サトウ:『床に倒れていて、動けません。』 開けるフロックス。 サトウは壁に身体をもたれかけていた。無表情でフロックスを見る。 フェイズ銃を向けたまま、医療ケースを開けるフロックス。スキャナーで調べる。「何の異常もない。」 突然サトウは飛びかかってきた。殴り、フロックスが落としたフェイズ銃を拾おうとする。 サトウの脚をつかむフロックスだが、蹴られてしまう。 フェイズ銃を手にしたサトウ。「残りのクルーの居所を教えろ! どこだ!」 フロックスはハイポスプレーを素早く取りだし、サトウの脚に打った。気を失うサトウ。 フロックス:「…持ってきてよかった。」 廊下を引き返すフロックスは、コミュニケーターで呼び出しに応えた。「ドクター・フロックス。」 アーチャー:『何も問題ないか。』 「とりあえず。」 『よし。トゥポルのところに行ってくれ。』 うなずくフロックス。 はしごを降りてきたトゥポル。 周りをうかがい、誰もいない廊下を歩いていく。 だが分岐点に来たところで、光に出くわした。すぐに身体の中へ入っていく。 |
※11: hand-scanner 「ハンド」をつけて呼ばれるのは初めて ※12: Ensign Cole ※13: Crewman Rossi 吹き替えでは「クルーのロッシ」 |
フロックスは、立ちつくしているトゥポルを見つけた。「副司令官。トゥポル。」 スキャナーで調べる。「大丈夫か?」 フロックスは連絡した。「フロックスよりアーチャー船長。」 キャットウォークのアーチャー。「トゥポルは。」 フロックス:『ここにいます。ほかのクルーのようにはなっていませんが、いつもの彼女じゃない。』 「上手くいかなかったようだな。」 『神経経路が、強く刺激されています。』 「…クソー! …部屋に運んでくれ。」 『了解。』 トゥポルに近づくフロックス。「行きましょう。もう大丈夫です。」 動こうとしないトゥポル。 フロックス:「…嘘じゃ、ありませんよ? 約束します。」 ハイポスプレーを取り出す。 トゥポルが声を出した。光の生命体は、青色のまま出ていった。 身体を支えるフロックス。「トゥポル! 誰だかわかるか。副司令官?」 トゥポル:「彼ら嘘をついてる。」 フロックスにしがみつく。 「トゥポル。」 「時間がないんです、ドクター・フロックス。…船長のところに行かなければ。」 走っていくトゥポル。 キャットウォークの司令区に入るトゥポル。「彼らの船は崩壊して、修理するすべがないので…生き残ることができないのです。」 もう落ち着いている。 アーチャー:「そのために肉体を奪おうとしてると?」 「82人分。一人残らず、クルーと入れ替わるつもりです。」 メイウェザー:「敵の数は。」 「数百。残りは肉体を奪えるほかの船を探そうとしています。…タッカー少佐はどこです。」 「わかりません。」 「探し出して。」 向かうメイウェザー。 トゥポル:「船をシールドする方法が見つかれば、キャットウォークを出て、ワープで脱出できます。」 アーチャー:「クルーを見捨ててか。」 「3分の2 は生き残れます。」 「駄目だ。全員取り戻す方法を探す。」 「…それは無理です。」 「……例の光は、死体の中で生きられるか。」 「…宇宙空間に放り出されるようなものですから、無理でしょう。」 「アーチャーよりフロックス。」 フロックス:『何でしょう。』 キャットウォークを歩き、タッカーを探すメイウェザー。クルーに声をかける。「大丈夫か。」 クルー※14:「何とか。」 カニンガム※15:「いつになったら出られるんです?」 メイウェザー:「早く出られるよう、船長ががんばってる。タッカー少佐を見なかったか?」 クルー:「いいえ。」 カニンガム:「見てません。きっと下でしょう。」 メイウェザー:「ありがとう。」 環境服を装着しているフロックス。「呼吸が止まっている 20秒以内に二酸化炭素を取り除けば大丈夫。」 アーチャー:『蘇生させるためには十分なのか?』 キャットウォーク司令区に、フロックスの声が流れる。『ええ、大丈夫です。右舷ナセルへの換気装置を忘れずに閉じること。キャットウォークにガスが漏れたら大変です。』 アーチャー:「わかった。」 メイウェザー:「失礼します、タッカー少佐が見つかりません。」 「…腹部ハッチを開けた形跡はあるか。」 調べるトゥポル:「誰も開けていません。」 アーチャー:「…ではいるはずだ。」 メイウェザー:「…探してきます。」 また出ていく。 パネルのラベルを順番にチェックしているフロックス。「4、5、6、7。」 アーチャー:『よし。識別タグは。』 「『ジャンクション 4-1 アルファ』。大気再生マニフォルド。」 司令区から指示するアーチャー。「よし。両側に、ボタンがあるだろ。」 フロックス:『ええ、4つあります。ブルーが 2つ、シルバーが 2つ。』 その会話を、いつの間にか来たタッカーが聞いていた。入れ替わっている。 アーチャー:「押せ、シルバーからだ。」 指示された通りにするフロックス。「押しました。」 アーチャー:『パネルを外せ。』 「…外したパネルは?」 答えるアーチャー。「好きにしろ。床に置け。」 フロックスは言った。「わかりました。」 パネルを外す。「ああ、やはりここにありました。ええ。」 コンピューターを見るアーチャー。「コントロールパネルは。」 状態を伝えるフロックス。「あります。緑のライトが、6個ついてる。」 アーチャーは画面を見ながら話す。「それぞれの横に、スイッチがついてるはずだ。」 モニターに構造図が表示されている。 フロックス:『左 5センチのところですね?』 「よーし。中央換気装置にガスを送る前に、供給ラインを二酸化炭素タンクにつないでくれ。」 タッカーは立ち去った。 聞くフロックス。「どうやってやるんです?」 トゥポルが答えた。「6個のスイッチは、量をコントロールしているので、二酸化炭素を出すには順番に再調整します。私が指示します。」 取りかかるフロックス。 またキャットウォークに来たメイウェザー。「少佐! やっと見つけました。…大丈夫ですか。」 コンソールを操作していたタッカーは、歩き出した。「大丈夫だ。」 メイウェザー:「船長が探しています。司令区に、来て欲しいと。…少佐?」 タッカーは走り出した。ぶつかったクルーが脇に落ちる。追いかけるメイウェザー。 ハッチを開けようとするタッカー。 止めるメイウェザー。「危険ですから外には出られません!」 タッカーに倒される。「何をするんです。」 メイウェザーを殴るタッカー。はしごを降りていく。ハッチは閉まった。 狭い通路を歩くフロックス。「アクセスチューブに着きました。」 アーチャー:『よし、パネルを外せ。』 力を込めるフロックス。「…外れません。」 トゥポルを見るアーチャー。「外れるさ。もう少し、力を入れろ。」 フロックスはもう一度外そうとする「…めいっぱい『力』を入れてもビクともしない。」 指示するアーチャー。「足を、テコにするんだ。」 言われた通りにすると、パネルが勢いよく外れた。 床に倒れたフロックス。「やりました。」 アーチャー:『よし。次の作業は簡単だ。』 メイウェザーが戻ってきた。「大変です、船長。」 アーチャー:「待機だ、ドクター。」 通信を切る。「どうした。」 「タッカー少佐が、前方ハッチから外に出ました。」 「何?」 「止めようとしましたが…少佐は、別人のようでした。入れ替わっているようです。」 トゥポル:「…作業を知られたかも。」 アーチャーは再びフロックスとつなぐ。「作業を急いでくれ、ドクター。トリップが入れ替わった。数分前にキャットウォークから逃げた。監視がいないから仲間を勝手に部屋から出されたら、大変なことになる。」 尋ねるフロックス。「ご指示を。」 アーチャーは言う。「浸透性フィルターを、取り払ってくれ。バルブは、コントロール回路のすぐ右にある。支持プレートの上部にある穴から、指を 2本入れるんだ。本来は簡単な作業だが、手袋をはめながらでは難しいかも。」 フロックスには問題ないらしい。「家じゃあ車の修理が得意でねえ。※16手袋をはめたって、手先は鈍りませんよ?」 今度はトゥポル。「開口部の奥にある、2つの筒型コイルを同時に叩くと、プレートが引っ込むはずです。」 確認するフロックス。「…コイルは 2つ?」 モニターを見るアーチャー。「約3センチ離れてる。」 フロックスは操作した。「…やった!」 アーチャー:『回転バルブとレバーが見えるはずだ。』 「あります。」 『両方のバルブをめいっぱい開けて、それからレバーを 3時の位置まで回せ。それでいい。』 環境服のヘルメットを密閉するフロックス。 トゥポル:『作業が終わったら、9時の位置でガスが排出されます。』 バルブを回すフロックス。レバーに触れた時、いきなり手を取られた。 タッカーだ。 床に倒されるフロックス。タッカーはバルブを閉め始める。 起きあがったフロックスは、さっき外したパネルをタッカーにぶつけようとする。だが避けられてしまった。 作業を続けるタッカー。フロックスはヘルメットで頭突きをし、タッカーを倒した。 また両方のバルブを回す。 レバーを止めようとするタッカー。だが二酸化炭素ガスが出てきた。 必死にタッカーの手を押さえるフロックス。咳き込むタッカー。 ついにタッカーは、意識を失った。 スキャナーで調べるフロックス。「フロックスよりアーチャー船長。」 アーチャー:『どうぞ。』 「任務完了。タッカー少佐を診ています。」 誉めるアーチャー。「よくやった。」 自室で苦しむリード。気を失う。 他の部屋も同じだ。 黄色の光が、サトウに入る。 青色の光が出ていく。 タッカーからも同様に、光が去った。 フロックス:「少佐から光が出てきました。」 アーチャー:『換気しろ。』 「了解、その前に船内の二酸化炭素レベルが十分か確かめます。光が全て出ていったか。」 尋ねるアーチャー。「いいか、トラヴィス。」 メイウェザー:「はい。」 レバーを 9時の位置に回すフロックス。「終了。」 ガスが排出されていく。 アーチャーは命じた。「フルインパルス!」 移動し始めるエンタープライズ。すぐに「光」の船が追ってくる。 トゥポル:「追いかけてきます。」 再び口を開き、迫る船。 トゥポル:「スタンバイ。」 もうすぐで追いつかれる。 トゥポルは振り向いた。「攻撃!」 エンタープライズは 2発の魚雷を発射した。 口を通して、敵の内部に命中する。「光」の船は大きく爆発していく。 タッカーは目を覚ました。「何があったんです。」 フロックス:「深呼吸して? もう大丈夫。」 「…バーベキューの最中だった。」 「鼻から吸って、口から吐いて?」 「…山盛りの肉が消えちまった…。」 「さあ、行きましょう。仕事が溜まってますよ?」 タッカーは、ため息をついた。 |
※14: クルーその1 Crewman #1 (Alexander Chance) 声はクック役の土田さんが兼任 ※15: カニンガム Cunningham (Matthew Kaminsky) ENT第35話 "Singularity" 「三重星系の誘惑」以来の登場。クレジットではクルーその2 (Crewman #2) ですが、俳優が同じなことからカニンガムと見なしてよいと思われます。声:羽田智彦。前回は福田信昭さんでした ※16: "Back home, I'm known for my fine motor skills." がこう訳されていますが、motor skill は「運動技能」という単語なので、全くの見当違いなような…。「故郷じゃあ器用で通ってましてねえ」ぐらいの意味でしょう |
感想
光のような煙のような寄生生命体という、スタートレックでは王道中の王道ともいえる話でした。宇宙艦隊が遭遇するのは初めてだそうですが、ストーリーも初めての方にも楽しめるようなストレートなもの。ただテンポ遅い病は発症しなかったものの、ほんとにオーソドックスでしたね。もう一ひねりあってもよかったかも。 「青色の光」を追い出すことに躍起になっていましたけど、「黄色の光」つまり本当の精神が戻ってくる保証はあったのでしょうか? 下手すると空っぽの身体になっていたような。最後は相手の船が完全に破壊されたような描写でしたが、そこまでしなくても…という印象も受けました。 |
第43話 "Canamar" 「地獄への護送船」 | 第45話 "Judgment" 「反逆の法廷」 |