エンタープライズ エピソードガイド
第35話「三重星系の誘惑」
Singularity
イントロダクション
エンタープライズは、奇妙な星系へ向かっている。 ブリッジではクルー全員が倒れていた。 トゥポル:『科学士官日誌、2152年8月14日。』 廊下も同様だ。 トゥポル:『…エンタープライズ号は三重星系へのコースを維持。救難信号を発信したが、最も近いヴァルカン船でも、到着に 9日以上かかる。』 ベッドに縛りつけられているメイウェザー。そばでフロックスが倒れている。 自室でデスクに突っ伏しているアーチャー。 トゥポル:「…着いた頃にはこの船の残骸が残っているだけだろう。無事にブラックホールをやり過ごすことができたとしても、クルーが生き残れる可能性は、なさそうだ。」 トゥポルは独り自室にいた。 |
本編
デスクに座るトゥポル。「クルーを襲った症状について、分析を続けているが…ドクターの奮闘なしでは、到底治せる見込みはない。…少なくとも宇宙艦隊がことの詳細を把握できるよう、記録を続ける。…症状は、三重星系へコースをセットして、間もなく始まった。…約2日前のことだ。」 司令室の図を見るアーチャー。「ブラックホールか。」 トゥポル:「クラス4 です。」 「ヴァルカンの星図によれば、君らは既に 2,000個以上を調査してるようじゃないか?」 「その通りです。しかし…三重星系内のものは、初めてです。」 「どこまで近づける。」 「恒星間※1の重力シアーが、巨大なのでワープはできませんが、500万キロメートル以内には、接近できると思います。」 タッカー:「さぞいい写真が撮れるだろ。」 アーチャー:「うん。インパルスエンジンで星系に到着するのは?」 トゥポル:「2日後です。」 「…いいだろう。…トリップ。…時間がある時でいいから、私の椅子を見てもらえないか。」 タッカー:「はい?」 「船長の椅子だよ。」 「…なぜです。」 「うん…気づいてるかもしれんが、私はあまり座ることがない。」 「…問題でも。」 「座りにくいんだよ。深くもたれかかると、前に滑りそうなんだ。端っこに…腰掛けるしかない。」 「船で一番の椅子かと思ってた。」 「見てくれないか?」 「あ…インパルスマニフォルドの、掃除が。」 「よければ、椅子を優先してくれないか?」 「…わかりました。」 コンピューターに文章が表示されている。 作戦室のドアチャイムに応えるアーチャー。「入れ。」 トゥポル:「おはようございます。」 「おはよう。」 「お邪魔でしたか。」 「いやあ。ちょっと…野暮用だ。」 「今日の勤務表です。」 「…ありがとう。」 「リード大尉が、新しい保安規約について話したいそうです。」 「兵器室に寄ろう。ほかには?」 「今朝はシェフが出勤していません。病欠です。」 「…悪いのか?」 「ドクターによれば、軽いウィルス感染で、数日すれば治るそうです。サトウ少尉がシェフの代理を務めています。休日によく料理を作っているので、この機会にクルーに練習の成果を披露したいようです。」 「…シェフがいいなら、いいだろう。…一つ聞いていいか。…地球から、原稿が送られてきた。私の父の伝記だ。序文を書いてくれと言われてね? ……終わったら読んでくれるか。」 「はい、喜んで。」 「ああ。本当に終わればだが。何週間も書いてない。」 「…時間なら、この 2日間でたっぷり取れます。」 「時間がないからじゃないんだ。…たった一ページしかない。父の一生をたった一ページで、まとめるなんて。まだ一冊頼まれる方がいい。」 「一つの出来事に絞って書いてはどうでしょう。船長とお父様の関係を端的に表すような出来事に絞れば、考えがまとめやすいと思います。」 「論理的だな? …よければ…代わりに書いてくれ。」 「私には荷が重すぎます。」 出ていくトゥポル。 調理室で話す給仕のカニンガム※2。「今夜はフライドチキンにポテトと、ライサで調達したミナラのホウレンソウ※3を添える予定でした。」 サトウ:「あのオレンジホウレンソウ?」 「はい、一応食べられるそうで。」 「ホウレンソウはシェフに任せましょう。作りたい物があるの。」 日本語で書かれた文章を表示させるサトウ。「祖母の得意料理よ? これは代々伝わっている、我が家秘伝のレシピ。」 「再配列機で作るので、訳してもらえますか。」 「いいの。あなたはチキンやポテトを好きなだけ、再配列しててちょうだい? 私は一から、自分で作る。」 大きな鍋を取りだした。 薬を調合しているフロックス。メイウェザーが医療室に入った。 フロックス:「少尉。…何か私に用かな?」 メイウェザー:「ちょっと、頭痛がするんだ。ひどくはない。」 「…ちょっと診てみるか。」 「薬をもらえればそれでいい。航行センサーのアップグレードの途中だから。」 「診察もせずに薬を出すのは無責任だとは思わないか、うん? 座って。ほかに何か症状は? めまいとか、目がかすむとか。」 「ない。」 「頭痛は、いつ頃から。」 「2、3日前から、時々。」 「…何かあれば、すぐに医療室に来いと言ってるだろ、うん? 注意しないとな? 修理基地で移植された、神経インプラントを取り除いているんだ。※4」 「この頭痛は、それが原因なのか?」 「どんな可能性だってないとは言えない。筋肉痛同様、全く心配ない頭痛もあるし。…その一方で、テレリアン病※5のような大病に至る頭痛もある。…それは悲惨な症状が待っているかもしれない。フン…うーん。」 診察を始めるフロックス。 ブリッジに機械音が響いている。 トゥポルは向き直った。「少佐。」 タッカーは船長席での作業を続けている。 トゥポル:「少佐。」 声に気づかず、部下に命じるタッカー。「少し前に。…そのまま離すな?」 トゥポル:「少佐!」 やっとで作業を中断したタッカーに言う。「それは後回しにして。」 タッカー:「…確かにブラックホールほどそそられないが、これも船長命令だ。」 「三重星系の記録を作るのも、船長命令です。」 「ヴァルカン人は精神集中が得意だろ。」 「…ヴァルカン人は耳が敏感なんです。」 「…うん。」 だがタッカーは、また作業を始めた。 装置を手にするトゥポル。「…部屋に戻ってます。」 タッカー:「終わったら連絡するよ。」 トゥポルはターボリフトに入った。 兵器室のリード。「ターゲット識別装置を調整しろ。敵船と間違えて自分の船に魚雷を撃ち込んじゃ、シャレにならん。」 アーチャー:「話があるそうだな。」 「ああ、私から伺おうかと。」 「いや、構わんよ? 話とは?」 「ああ…敵性種族との、遭遇記録を…見直してみたんです。クルーの対応は素晴らしいんですが、まだ改善の余地はあるはずです。」 「それで、君の提案は?」 「非常時の警戒態勢を、船体規模で整えたいんです。『戦闘態勢※6』だけより、もっと大規模で備えられるように。我々は、潜在的な脅威に無防備すぎます。船長命令もしくは、船体への衝撃ですぐに装甲モードに変わるようにしてはどうでしょう。兵器システムを起動し…」 「君の気遣いには、感謝するよ。だがこの船は戦艦じゃない。」 「それはそうですが。」 パッドを渡すリード。「…先のスリバンとの戦闘の際、我々は…彼らの乗船を簡単に許しました。※7マザール※8には最初の一発で、船尾センサーを不能にされています。ほかにも山ほど…」 「ああ、見ればわかる。…上級士官の意見を聞いてくれ。それを踏まえ、もう一度…話し合おう。」 「…わかりました。」 出ていく前に言うアーチャー。「…マルコム。『戦闘態勢』って呼び名はやめてくれ。その響きは、物騒すぎる。」 うなずくリード。 食堂。 テーブルを回っているサトウ。「いかがです?」「おいしいわ。」 リード:「…コンディション・レッド※9。」 タッカー:「あ?」 「呼び名ですよ。新しい保安規約の。」 「ただの『保安規約』でいいんじゃないか?」 「それじゃ地味すぎます。」 「…カップ・ホルダーもいるかな。」 「…何に?」 「船長の椅子だ。調節を頼まれただけだが…もっと改造したい。」 「…非常時に船長が座るところに、飲み物を置く場所なんか。」 「ステータスディスプレイの改良が済めば、肘掛けから戦術データにアクセスもできる。」 「そんなに戦闘準備に興味があるなら、この規約に手を貸して下さいよ。」 「あいにくこれに手一杯でな。」 「椅子にですか?」 「これは船長の、椅子だ。同じくらい大事だろ。リード警報と。」 「『リード警報』。悪くないな。」 サトウが近づく。「いかがです?」 タッカー:「…ああ。美味しかったよ。すごく。」 ご飯や箸も置かれている。 「『おでん※10』っていうんです。日本では家庭ごとに作り方が違います。」 「…そう。売れ行きもいいようだ。おめでとう。」 「ありがとう。ほとんど、手をつけてないわ?」 リード:「美味しかったよ。」 器を手にするサトウ。「…変えてきます。」 リード:「いやあ、必要ない。」 「すぐですから。」 「いいんだ、もういらない。」 「お口に、合わないとか。」 「ああ…ちょっと、しょっぱいかな。」 「しょっぱい?」 一口飲んでみるサトウ。「美味しいわ?」 「…僕に合わないだけだ、ほかのみんなは気に入ってるようだから。」 タッカーもパッドを読みながら去った。 ベッドに寝かされたメイウェザー。「どのくらいかかるかな。」 フロックス:「場合による。」 「何の…」 「ジッとしててくれ?」 「…ブリッジに戻らなきゃ。」 「残念だが今日は勤務には戻れそうにない。」 「アップグレードは船長命令だ。」 「医療に関しては船長より私の命令が優先する。今夜は検査だ。」 「スキャン結果は異常ないんでしょ?」 「だから余計心配なんだ。表面に出ていないだけかもしれん。どこに頭痛の原因が潜んでいるか、全身にスキャンをかけ徹底的に探す。」 起きようとするメイウェザーを押さえるフロックス。「横になって! 早く。動くなよ?」 メイウェザーはイメージチェンバーに入れられる。 文章を作るアーチャー。「私が 8歳の頃父は、モンタナ州ボズマンにあるワープ5 の研究施設※11へ連れて行ってくれた。」 言ったとおりにコンピューターに表示されていく。「そこで 2人の科学者に紹介された。彼らの名前は…タサキ※12、そしてコクレイン。その時の私は、その名前の重要性に気づいていなかった。…そして父が従事していた、仕事の重要性にも。」 一声吠えるポートス。 アーチャー:「コンピューター、ポーズ。すぐに餌をやるから。…録音を再開。…ある意味…ワープフィールドの、安定を…図ることは…父の、宇宙探査への欲望という…」 頭を押さえる。「激しい感情の高ぶりが、たどり着いた…コンピューター、ポーズ。最後の文章を削除。いやあ、全部削除だ。」 またポートスが鳴いた。 アーチャー:「うるさい!」 自分のベッドへ行くポートス。 |
※1: 吹き替えでは「惑星間」。なお重力シアー (gravitational shear) のシアーとは、「剪断、ねじれ」といった意味 ※2: Cunningham (Matthew Kaminsky) 名前は言及されていません。後にも登場。声:福田信昭 ※3: Minaran spinach ミナラ (Minara) は TOS第63話 "The Empath" 「恒星ミナラの生体実験」より ※4: ENT第30話 "Dead Stop" 「謎の自律浮遊基地」より ※5: Terrellian plague TNG最終話 "All Good Things..." 「永遠への旅」など ※6: 吹き替えでは「戦闘部」。リードの管轄のことではなく、命令自体のことを意味しています。なお以前のシリーズでは、普通にこの命令を使っています ※7: ENT第27話 "Shockwave, Part II" 「暗黒からの衝撃波(後編)」より ※8: Mazarites ENT第23話 "Fallen Hero" 「追放された者の祈り」より ※9: 後のシリーズでは「非常警報 (Red Alert)」と言います (その下に警戒警報 (Yellow Alert))。「リード警報」はレッドと掛けている? ※10: oden サトウが日本のことを話すのは初めて ※11: Warp Five facility ENT第1話 "Broken Bow, Part I" 「夢への旅立ち(前編)」で言及されたワープ5 センター (Warp Five Complex) と同一だと思われます。ボズマンはファースト・コンタクトの場所 ※12: Tasaki |
三重星系の図を見ているトゥポルは、ドアチャイムに応えた。「どうぞ。」 タッカー:「…センサーインターフェイスだ。緊急事態って?」 「…三重星系が、異常な放射線を発している。それが何なのか突き止めたいの。」 「俺を、放射線の正体を突き止めるために呼びつけたのか?」 「そうです。」 「急用だって言ったろ。」 「重要だって言ったの。」 「なーるほどな? 仕返しってわけか。…うるさいのに腹を立てて使いっ走りさせたんだろ。だが、喜んでくれ。船長の椅子は、機関室に運んだ。ブリッジは、静かで快適だぞ?」 「ここで続けるわ?」 出ていこうとするタッカーに頼むトゥポル。「これ、手伝ってくれない?」 「君の気まぐれに、付き合ってる暇はないんだよ。…データベースに名前を残したいんだろ? 助けならほかの奴に頼め。」 「何かあったんですか、少佐。」 「…たかが椅子だと思ってるんだろうが、それは違う! 船で一番重要なものは何だと思う。メインコンピューターか、ワープリアクターか? 違う。クルーだ。その中の最重要人物が、船長なんだよ。毎日生死に関わる決断を下してる船長が、非常時にこんなことを思っていいわけがない。『ああ、何て座り心地の悪い椅子なんだ。』」 タッカーはトゥポルの部屋を去った。 身体の状態が表示されている。 メイウェザー:「ドクター。」 フロックス:「シッ!」 モニターを見ている。 「一体いつ…」 「待て!」 「…シャワーを浴びて、着替える時間くらいはある。」 押さえるフロックス。「まだ検査は終わっていない。」 メイウェザー:「あ…一晩中調べたろ? 勤務時間まで 15分しかない…」 「もっと詳しく調べるのに大脳のサンプルが欲しい。」 「…大脳?」 「横になれ。」 「…もういいよ。ブリッジに行かなくちゃ。」 立ちふさがるフロックス。「少尉、これはドクター命令だ。」 メイウェザー:「アップグレードを終えなきゃ、懲戒処分にある。記録に傷がつくんだ!」 「君にはもっと心配しなきゃいけないことがある。あれを見ろ。」 モニターを示すフロックス。「ん? 大脳をスキャンした結果、セロトニンほかいくつかの神経伝達物質レベルが上がっていた。」 「どういうことです…」 「答えるのは、大脳を調べてからだ。」 「…シフトが終わってからじゃ駄目かな…」 「駄目に決まってるだろ。」 「船長に無能だと思われたら…今後 5年間、Dデッキでプラズマコンジットを磨くことになる。下手すりゃ軍法会議だ!」 「君がプロトシステアンの胞子※13をもっていたら? ん? ほかのクルーに移したらそれこそ君はどうなると思う、うん? もしくはアンドロネシアン脳炎※14にかかっていて、航行中に突然発作が起きたらどうする! 君の身体には明らかに異常が見られる。私は必ず原因を、突き止める。」 「…今日は嫌だ! 僕には仕事がある。ベッドに縛りつけでもされない限り、操縦席に戻る!」 ドアへ向かうメイウェザー。 「…せめて頭痛の鎮静剤だけでも…打たしてくれ。うん。」 「…最初から、そう言ってくれりゃいいのに。」 メイウェザーは戻った。 「ひどくなったり、ほかの症状が出たりしたら…すぐに戻れよ?」 うなずくメイウェザーに、ハイポスプレーを使うフロックス。 メイウェザー:「あ、あ…何を…」 意識を失う。 寝かせるフロックス。バイオベッドに縛りつけた。 機関室に入るリード。「新しい保安規約を考えました。戦術警報が出たら、すぐ反応炉の安全を確保すべきだ。」 タッカー:「『戦術警報』?」 「少佐の言ってた『リード警報』もいいのですが、うぬぼれすぎかと。」 「ハイパースパナを取ってくれ。」 「新たな警報音も考えました。これです。」 リードが操作すると、大きな音が鳴り響いた。「もしくは。」 また別の音。 止めるタッカー。 リード:「どちらがいいと?」 タッカー:「何に。」 「…戦術警報にですよ。」 「どっちも袋に入れられたネコみたいだ。」 「注意を引かなきゃ意味がないでしょ?」 「目を通したら、返しに行くよ。」 パッドをその辺に置くタッカー。 また手にするリード。「実はもう一つ、EPS グリッドの非常停止についても手を貸して欲しいんです。」 タッカー:「だから! 後で見るって!」 「…それまで、反応炉に亀裂が入らないことを祈ってます。」 「マルコーム! お前の部下に工具を貸してんだ。…レーザー・マイクロメーターを返してくれ。」 リードは乱暴にドアを開け、出ていった。憮然とした顔をするタッカー。 カニンガムが調理室に入る。「少尉。すぐに何か作らないと反乱が起きますよ。」 エプロンの汚れたサトウ。「これ、しょっぱい?」 味見しようとしないカニンガム。 サトウは自分で舐めた。「何か一味違うのよねえ。クリタサン・スパイス※15取って、ちょっと入れてみる。あとニンジンも。」 カニンガム:「25人も待ってるんですよ…」 「早くニンジン!」 奥から持ってくるカニンガム。「失礼ですが、さっきから同じ物を作ってるだけだ。」 サトウ:「ここの責任者は私じゃなかった?」 「そうですが…」 「行ってよし。」 「…少尉…」 「いいから出てって!」 兵器室。 トゥポルが入る。「大尉。手を貸して欲しいこと…」 リード:「承認コードは?」 「…何ですって?」 「承認コードを聞いてるんです。…兵器室は立ち入り禁止区域です。」 「…副長でも?」 「…なぜあなたが、副長だとわかるんです? 姿を変えられる種族に遭遇したこともある。誰にだってなりすませます。何者かに侵入された時に備え、上級士官全員に承認コードを出しました。」 「新しい保安規約の一部?」 「音声暗号にしてコンソールに送信しておいたはずです。」 「この数時間、ブリッジには行ってません。…さっきも言ったけど、部屋にセンサーインターフェイスを設置するのに手を貸して欲しいんです。タッカー少佐に頼んだら、突然…怒り出して。いくらタッカー少佐でも、あれはおかしい。…少佐の行動に、異常を感じたことは。」 「…なぜセンサーアレイのアクセスが必要なんです? あなたの部屋から。」 「三重星系の詳細なスキャンを頼まれているからです。」 「私は聞いてません。」 「戦闘準備は必要ない。」 トゥポルはリードの腰に、フェイズ銃がつけられているのに気づいた。「大尉。なぜ武装してるの。」 「今後、保安部員はいかなる場所でも、武装することになったんです。」 「船長は御存知なの?」 「私の提案です。」 「その提案は許可された?」 「船長にはスペースドックを発った時から、警備の強化を頼んできました。しかしあの方はクルーと遊んでばかりいた。朝食に招いたり、水球の試合を観てばかり。私は強化すべきところを、強化しただけです。船長の許可が下りないんなら、直接宇宙艦隊に進言するまでだ。…ほかに何か?」 「…ないわ。」 トゥポル:『すぐに、タッカー少佐だけが異常なのではないということを悟った。』 自室のトゥポル。「…事実、出会うクルー全員が異常を来していた。どのクルーも、些細なことにこだわりすぎている。私はその症状には免疫があるようだったが…船長は違った。」 パッドを読みながら機関室に入るアーチャー。「何をしてる。」 タッカー:「ご存知でした? この船長の椅子って、ネプチューン級の調査船※16と全く同じモデルだったんですよ。」 「そんなことを言うために呼んだのか?」 「エンタープライズは、人類史上初のワープ5 機能を備えた船です。艦隊の誇りだ。なのに船長は、時代遅れのワープ2 船と同じ椅子に座っている。取り替えるべきです。…一から造り直す。…王座を献上しますよ。動かないで? …パラメトリック・スキャンをかけて、正確な寸法を測れば身体に吸いつくような椅子になる。」 装置を取り出すタッカー。 アーチャーは後ろに下がる。「位相コイルの調整に使うもんだろ?」 タッカー:「痛くありませんから。」 光を照射する。 「こうしている間、意見を聞かせてくれ。」 「ジッとして。」 「…『人の遺産は何で決まるか。人類の歴史を永遠に変える、技術革新を生み出した業績が遺産と定められるのか?』」 「後ろを。」 「…『もしそうなら、ゼフレム・コクレイン以降人類の未来に永遠なる遺産を残した者は、ただ一人しかいない。私の父、ドクター・ヘンリー・アーチャー※17である。』」 「終わりました!」 「…どう思う?」 「いいんでは?」 「残りも読もう。」 「…仕事に集中したいんです。」 「ほんの数ページだ。」 「何ページです。」 「19ページ。」 「19ページ?! 序文を書いてるんじゃないんですか?」 「言いたいことが山ほどある。」 「馬鹿な。」 「…それどういう意味だ。」 「はっきり言って…読む気になりません。」 「…君は機関士でよかった。文章のことなどまるでわかっちゃいないからな!」 「俺だけじゃないと思いますが?」 アーチャーは出ていった。アーチャーの図を見るタッカー。 調理室のサトウ。「83人のクルーが料理を待ってるんです。」 トゥポル:「プロミーク・スープ※18を一杯欲しいだけよ。」 「特別注文を受けてる余裕はないんです。」 アーチャーが入る。「ランチは?」 サトウ:「…今すぐ用意しますから。」 「時間がないんだ。」 「お急ぎなら、サンドイッチを作っては?」 トゥポル:「船長、お話があります。」 鍋を取り出すアーチャーに言うサトウ。「おでんの味付けはすごく複雑なんです、終わるまで出せません! サトウ家の、一族の評判が懸かってるんです!」 突然、大きな警報が鳴り響いた。 リード:『これは戦術警報です、総員持ち場について下さい。…繰り返します、これは戦術警報です。』 |
※13: プロトシステアン胞子 protocystian spore ENT第2話 "Broken Bow, Part II" 「夢への旅立ち(後編)」より ※14: Andronesian encephalitis TNG第36話 "The Dauphin" 「運命の少女サリア」より ※15: Kreetassan spice クリタサンは ENT第22話 "Vox Sola" 「漂流生命体の叫び」など ※16: Neptune-class survey ship ※17: Dr. Henry Archer ENTパイロット版 "Broken Bow, Part I and II" に登場。ドクター (というより博士) の肩書きは初言及 ※18: plomeek broth ENT第4話 "Strange New World" 「風が呼んだエイリアン」など |
ブリッジで首を振るリード。 アーチャーがやってきた。「報告!」 リード:「クルーの対応があまりに遅すぎます! 38%が持ち場まで行けてません。システムの安全確保どころか、機関部からは連絡さえない。」 「この音を何とかしろ、止めてくれ! …演習の許可など出してないぞ。」 「事前にクルーに知らせては演習にはなりません、そうでしょう? …1分と 15秒です。」 「何?」 「船長が持ち場に着くまでの時間ですよ。1分15秒。司令官にはクルーが見習うよう、もっと俊敏な行動を期待していました。」 タッカーも来た。「船長。」 リード:「遅い! 1分49秒です。」 リードを無視し、司令室で船長席の図を表示させるタッカー。「これを見て下さい。インタラクティブ・ステータスディスプレイ。補助航行制御。慣性マイクロダンパーもつけます。船が裂けるほど揺れても、船長は何も感じない。」 リード:「椅子のために戦術警報を無視したんですか!」 リードを一瞥し、アーチャーに聞くタッカー。「ヘッドレストは何色にしますか?」 リード:「ふざけるのもいい加減にして下さい!」 「お前は黙ってろ!」 「これは観光クルーズじゃないんですよ? 相応の訓練をしなければ、任務上の失敗を招きます!」 「兵隊ごっこをしたいなら別のところでやってくれ!」 「これが本当の戦闘中なら、あなたを撃ち殺してるところだ。」 タッカーはリードにつかみかかる。 間に入るアーチャー。「おい、やめないか、二人とも。トリップ、ヘッドレストの色なんかどうでもいい! アイスティーもなくて構わん、任務中に座るところがあればいいんだ。」 今度はリードに怒鳴る。「もう一度あの警報を鳴らしたら、私がお前を撃ち殺してやる!」 タッカーはリードを笑う。 アーチャーはトゥポルに命じた。「本当の緊急時でない限り、反応炉に亀裂とかな、私の邪魔をするな!」 出ていく。 アーチャーの部屋。 座ったまま寝ていたアーチャーは、ドアチャイムに気づいた。「入るな。」 トゥポルが入る。 アーチャー:「…鍵をかけなきゃならん。」 トゥポル:「本当の緊急時には来てもいいと、おっしゃいました。」 「どうした。」 「…クルーの奇行が目立ってきています。」 アーチャーは慌てて、序文を書いたコンソールを見る。 トゥポル:「人間の標準から見ても、尋常ではありません。…私が会ったクルーは、みな些細なことに夢中になっています。…例えばサトウ少尉のレシピ。…あなたの序文。緊急医療事態を発令し、ドクター・フロックスに診てもらってはどうでしょう。まずはあなたから。」 アーチャーは立ち上がり、顔を近づけた。「忙しい。」 すぐにコンソールの前に座る。 トゥポル:「…船長。」 「下がれ。」 「クルーの危機なんですよ?」 「命令が聞こえないのか。」 「船長!」 「従えないなら、お前を部屋に監禁するぞ! 仲間の…ヴァルカン船が迎えに来るまでな!」 トゥポルを部屋から押し出し、またコンピューターの前に戻るアーチャー。 ドアを閉めるトゥポル。 手術服を着たフロックスは、道具を手にした。 メイウェザーの頭には機械がつけられている。 トゥポルが医療室に入った。 フロックス:「これはいいところに来られましたね、副司令官。マイクロスコープのそばに手術服がある、フン。人間の脳を観察できる稀な機会です。」 トゥポル:「怪我でもしたの。」 「頭痛です、フン。最初はただ血管が膨張しただけかと思ったんですが、スキャンの結果…前頭葉に化学物質の不均衡を発見した、フン。まずは、頭頂葉を 12ミリメートルほど採取してみようと思っています。亜細胞の分析は、脳の謎の解明に役立つはずだ。」 「その手術は後回しにしてくれない? …優先すべき問題が。クルーが全員病気なの。」 「…後で診ます。」 フロックスの腕をつかむトゥポル。「あなたも冒されてる。」 フロックス:「離して下さい。」 持っていた鋭い道具を近づける。「二度と言いませんよ。」 離れるトゥポル。 フロックス:「手術が終わったら知らせます。」 だが声を上げた。 トゥポルのヴァルカン首つかみだ。フロックスは倒れた。 トゥポルはモニターを見つめた。 三重星系へ近づくエンタープライズ。 医療用スキャナーで、廊下に倒れているクルーを調べるトゥポル。 鍋が沸騰し、吹きこぼれている。 やってきたトゥポルは、意識を失ったサトウも調べた。 トゥポル:『クルーの生体反応は、乱れている。数時間後には全員死亡する疑いも出てきた。』 自室のトゥポル。「…皮肉なことに、ドクターがメイウェザー少尉の頭痛に固執したことが役に立った。大脳スキャンの結果から、全ての原因は三重星系が発する放射線だとわかったのだ。」 表示が身体の状態から、星図に切り替わる。「コンピューター、ポーズ。記録を再開。放射線の分析が完了した。疑ってたとおり…すぐにコースを引き返しても、危機的状況は避けられない。…放射線は一方向のみを残し、全方位 0.5光年汚染している。星の間を縫うよう、コースを設定できればクルーが命を落とす前に逃れられるが、私一人では操縦は無理だ。」 トゥポルは部屋に入った。「船長! アーチャー船長! ブリッジに御願いします。」 目を覚ますアーチャー。「邪魔をするなと言ったろ…。」 トゥポル:「時間がないんです。」 「ん…何をする。」 「クルーが死にかけてます。」 「…何?」 「三重星系のことを覚えていますか。」 「ブラックホールのそばの。」 「そこから有害な放射線が出ています。」 隣の部屋へアーチャーを連れて行くトゥポル。「それが前頭葉を冒してるんです。船長や、クルーが些細なことに固執するのはそのためです。…既に、生体反応が乱れてるクルーもいる。…これ以上放射線に晒されれば、船長も生きていられません。」 トゥポルは奥にアーチャーを入れ、パネルを操作した。シャワーから水がアーチャーに降り注ぐ。 トゥポル:「私の言ってることがわかりますか?」 アーチャー:「止めてくれ。」 「わかってるんですか?」 「ああ…放射線だろ? …クルーが、病気なら…フロ…フロックスに言え。あ、フロックスに。」 「ドクターも冒されているんです。」 「…君は違うのか。」 「ヴァルカン人には免疫があるようです。」 「コース反転…。船を旋回させろ。」 シャワーを止め、タオルを持ってくるトゥポル。「それでは済みません。引き返しても、放射線の影響から逃れられるのは 2日後です。コースを考えました。それなら 17分未満で、放射線エリアを抜け出せます。」 持ってきた水筒から飲み物を注ぐ。 アーチャー:「…不味いコーヒーだ…。」 「ですが、ブラックホールから 200万キロ以内を通過します。相当数の岩石や、重力シアーがあります。……私がコースを修正する間、操縦する者が必要なんです。」 「ん…あ、トラヴィスは。」 「意識不明です。」 「…あ…この状態で…とても、船の…操縦は無理だ…。」 「選択の余地はありません。」 |
岩石群の中を進むエンタープライズ。 クルーが倒れたままのブリッジで、操縦を行うアーチャー。 スコープを覗くトゥポル。「また重力シアーです。左舷に※19行きすぎです!」 アーチャー:「…だって方位、2.4 だろ。」 「12.4 です。」 「あ、間違えた…。あ…12.4 と…。…いつまで続くんだ。」 「…あと 6分です。」 「よーし、任せろ。」 「前方に重力シアー。縦軸を※20 12度回転させて下さい。新たな飛行方位は、014、マーク 27。」 「ちょっと待ってくれ。0 の何?」 「014、マーク…」 「マーク27?」 細かな岩石が、船体にぶつかる。 トゥポル:「小さな破片です。防御プレート維持。」 スクリーンに映る岩石群。 トゥポル:「横軸の※21ベクトルが乱れてます。船長!」 アーチャー:「ちょっと待ってくれ? 飛行学校に…いる気分だ。」 「上出来です。針路変更。006、マーク 4。」 「6、マー…。」 前方に巨大な岩石が見えてきた。 トゥポル:「船長!」 アーチャー:「ああ、見えてる!」 スクリーンを埋め尽くすほどの岩石だ。 激しい環境の中で、岩石は自ら壊れていく。だが依然として大きな破片が残る。 アーチャー:「フェイズ砲を準備するんだ。」 トゥポル:「時間がかかりすぎます。」 破片が迫る。 船を大きな衝撃が襲う。と同時に、警報が鳴り出した。 戦術コンソールを見るトゥポル。「全兵器オンライン? …新しい保安規約のおかげです。」 アーチャー:「発射しろ!」 フェイズ砲により、前方の岩石は砕け散った。 操縦を続けるアーチャー。 次々と岩石を破壊していく。 スクリーンの岩石は少なくなってきた。 アーチャー:「音を止めてくれ。…あと何分。」 トゥポル:「もう 10秒ありません。……残り後 5秒。」 ついに岩石群を抜けるエンタープライズ。 アーチャー:「…ほかに障害は。」 トゥポル:「探知していません。」 タッカーが起きあがった。「…ブラックホールの写真は撮ってくれました?」 トゥポルと顔を見合わせるアーチャー。 エンタープライズはワープに入った。 クルーを診察するフロックス。「気分は?」 メイウェザー:「疲れただけ。頭痛はない。何したの?」 フロックス:「何も? 幸いね。もう行っていいぞ?」 アーチャーたちと入れ替わりになるメイウェザー。「船長。」 アーチャー:「…クルーの容態は。」 フロックス:「生体反応をずっとモニターしていますが、放射線の影響はもう全く見られません。多少の興奮と、意識を失った拍子にできた打撲や捻挫が残ってるだけです。…ああ…副司令官には感謝します。」 肩を示す。「メイウェザー少尉の、手術を止めて下さって。」 トゥポル:「デノビュラ人に効くか、わからなかったけど。」 「フフン、いやいやとてもよく効きましたよ…」 アーチャー:「おい、どんな手術を…やろうとしてたんだ?」 「私の放射線汚染も深刻でしたよ、うん。すぐに行く。」 クルー:「わかりました。」 「クルーを治療し終えたら、詳細を御報告します…。」 リードは作戦室に入った。「お呼びでしょうか。」 姿勢を正す。 アーチャー:「ああ。……トゥポルと、岩石を避けて航行中に、君の戦術警報が鳴り出した。」 リード:「知ってます。新規約は機能を停止させました。」 「…なぜだ。兵器システムの起動は役立った。君に異論がなければ…正式に取り入れたい。」 「…もちろんありません。」 ドアを開けるアーチャー。「あの警報音は変えてくれよ?」 リード:「すぐにかかります。」 共に出ていく。 アーチャーたちがブリッジに戻ると、タッカーは部下と共に船長席を元に戻していた。 アーチャー:「どこも変わったようには見えないが?」 タッカー:「試して下さい。」 座ってみるアーチャー。「うーん…。うん! ……いい感じだ。何をした。」 上級士官は皆ブリッジに揃っている。 「足組んで。」 「ああ…何をしたんだ? 前より格段にいい。」 「…下げたんです。…一センチだけ。」 笑うアーチャー。「…それだけ?」 タッカー:「ステータスディスプレイや何かは、つけている暇がありませんでした。必要なら…これから、つけますが。」 「これで十分だよ、少佐。ありがとう。」 「カップ・ホルダーだけつけましょうか。」 「うーん、必要ない。」 「了解。」 「フン。」 タッカーはターボリフトに入り、親指を立てた。同じ仕草を返すアーチャー。ドアが閉まる。 アーチャーはパッドを持って、トゥポルに近づいた。「これはどうかな。」 ワープで進むエンタープライズ。 |
※19: 「右に」と誤訳 ※20: 吹き替えでは「経路上のアクセスを」。axis ≠ access ※21: 吹き替えでは「腹部の」。lateral と ventral の混同? |
感想
低予算エピソードのことを「ボトルショー」と呼びますが、その典型のような話でした。ゲスト俳優もチョイ役の一人しかいません。もちろん低予算であっても (もしくは低予算であるがゆえに) ストーリーが優れたエピソードは、過去には数限りなくあったのですが…今回は全然ですね。クルーの様子が変になるというプロットも、ありがちなものでした。 後の「非常警報」誕生のきっかけ、それと「おでん」くらいでしょうか。なお文章だけ読むとコメディのように取れるところもありますが、一貫して暗い雰囲気です。 |
第34話 "The Communicator" 「危険なコンタクト」 | 第36話 "Vanishing Point" 「転送空間の恐怖」 |