アーチャーのいる作戦室に、サトウはドアを突き抜けて入った。「船長、話を聞いて下さい。あの星の異星人が船に潜入して、Dデッキに爆弾を仕掛けています。…聞こえないの? 船が危険なんです。」
呼び出しに応えるアーチャー。「何だ。」
ベアード:『少尉のお父上と…つながっています。』
「……向こうは何時だ。」
『午前9時です。』
「…つないでくれ。」
デスクに座り、ため息をつくアーチャー。通信をつなぐ。「おはようございます。」
男性※10が映し出される。『アーチャー船長。…トラブルじゃないんでしょうね。』
「実は問題が…起きました。…船の転送装置で、アクシデントが発生したんです。」
『転送装置って…何なんです。』
サトウ:「そんなことしてる時間はないんです…」
アーチャー:「物質ストリーム変換機です。生体物質の輸送に問題ないと、承認されてました…」
「何とかして注意を引かなくちゃ。」
「…何度か問題なく使用し…」
ホシの父親:『生体物質? 農産物ですか、人間のことですか!』
「とにかく、宇宙艦隊は転送装置の安全性を保証していたんです。」
サトウはコンソールに手を伸ばし、父親の顔に指が出るようにしてみた。
ホシの父親:『ホシは、無事なんですか。』
アーチャー:「いいえ。事故がありました。彼女の身体は……身体の分子が、不安定になったんです。」
いろいろなところに手を入れてみるサトウ。
ホシの父親:『身体の分子? 何の話ですか、船長。』
アーチャー:「私が無理に、ホシをこの任務に出しました。全ては私の責任です。ホシは、我々にとっても家族なんです。」
サトウは上の小さなライトに手を伸ばした。すると、そのオン・オフを操作できることに気づいた。音の有無も操れる。
ホシの父親:『家族? ホシの家族は私達です。わざわざ何なんです、あの子があなたの家族だと言うためですか。すいませんが、おっしゃってることがよく。』
アーチャー:「ホシを失いました。ミスター・サトウ、お伝えする私も辛い。」
『死んだと、言うんですか。』
音を出すサトウ。「気づいてくれないと全員死ぬことになるわ?」
アーチャー:「残念です。」
ホシの父親:『また、後で連絡を下さい。午後にでも。』
サトウ:「モールス信号なら? 知ってますよね?」
『…妻に伝えないといけませんから。』
「気づいて? 聞こえない?」
アーチャー:「では午後に。…本当に残念です。」
ホシの父親:『私もですよ。』
通信は終わり、アーチャーはため息をついた。
サトウ:「気づいて? そうよ? こんなノイズ今までなかったでしょ? 聞いて、よく聞いて。SOS、SOS。救難信号です。お願い、気づいて。」
音と光に気づいたアーチャーは、通信機に触れた。「アーチャーよりトゥポル。」
トゥポル:『はい、船長。』
「ちょっと来てくれないか。」
『ただいま。』
サトウ:「よかった、どっちかが気づくはずだわ。」
部屋に入るトゥポル。
アーチャー:「これを見ろ。…こんな音はしてなかった。」
トゥポル:「…プラズマ回路に乱れがありますね。少佐に直すように言いましょう。」
「パターンを聞いてみろ。トン 3つ、ツー 3つ、トン 3つ。SOS だ。」
「…トン?」
「トン・ツーで作るモールス信号だ。地球で何百年も使われてた。救難信号だよ。」
サトウ:「じゃあ、これも覚えてますか? H…O…」
トゥポル:「変わりましたね。」
「S…H…」
アーチャー:「やはりモールス信号だ。」
「I。…船長。」
トゥポル:「このプラズマ回路は自給式です。部屋の外から送られたメッセージとは、考えられません。」
「外じゃない、ここにいるわ?」
「…今日は大変な日でした。お休みになった方がいいでしょう。」
アーチャー:「うん、そうだな。…明日トリップに直してもらおう。」 2人とも出て行く。
サトウ:「明日じゃ船が爆破されてます! 船長!」
アクセスシャフトの異星人たちは、装置を起動した。順番に明かりが灯る。その様子を見ているサトウ。
話す異星人たち。「tosk ZHAS loo RHAN knee JAT.」
階段へ向かう異星人を、サトウも追った。
様子をうかがうサトウ。異星人はワープコアの上に乗り、持ってきたケースを開けている。
全く気づかず作業を続ける機関部員。
異星人の動きを見ていたサトウは去った。
アクセスシャフトへ戻ってくるサトウ。
床に置かれている装置に手を入れると、スイッチを切ることができた。つながっている全てがオフになる。様子を見るサトウ。
切れたことに気づく異星人。もう一人が機関室から戻ってきた。
異星人 1:「soo RAHR aht TOHS.」
異星人 2:「skah AHR nok.」 自分が持っていた、稼働している装置を代わりに置く。「uh KAH ahs loo RAH VEE no yah NAH.」
新しい装置に手を伸ばすサトウ。だが今度はスイッチを切れない。
異星人は取りだした小型の装置を使った。端に円形の機械が姿を現す。
異星人 2:「TATE.」
命じられた異星人が機械の上に乗ると、姿が消えた。転送機らしい。
残った異星人は床の装置を起動させた。
サトウ:「駄目、待って!」
壁面の全ての装置が点滅し、起動していく。
その異星人も転送で消えた。
またタッカーの声が響く。『どうなってる…』
サトウ:「何?」
リード:『ストリームが不安定です…』
タッカー:『がんばれ、ホシ。出てこい!』
『少尉ならできる、簡単だ。ワン・ツー…』
サトウも転送機の上に乗った。非実体化する。
転送機を操作するリード。「スリー。」
転送台の上に現れるサトウ。制服を着て、荷物を持っている。
タッカー:「やったぞ、マルコム。な、言ったろ? チョロいもんだ。」
降りるサトウ。「あいつらを早く止めなきゃ。」
タッカー:「誰。」
「…聞こえたの? ほんと? 私が見えます?」
リード:「全く問題ないよ?」
「あるのよ、奴らがリアクターに爆弾を。」
止めるタッカー。「誰が!」
サトウ:「あの星の異星人よ。」
「あの星に住人はいない、無人だったろ!」
「何言ってるの? 少佐とトラヴィスが奴らに拉致されたじゃないですか。早く止めなきゃ。」
リード:「ホシ、転送機が嵐の影響を受けて、物質ストリームの再統合に手間取っただけだ。」
「…手間取った?」
タッカー:「君はいわば、パターンバッファに閉じこめられた。ほんの 2、3秒だけどな。」
リード:「正確に言うなら、8.3秒だ。」
サトウ:「じゃあ私はついさっきまで地表に?」
タッカー:「俺に先に行けって言っただろ?」
「……鏡あります?」
笑うリード。「え?」
サトウも微笑んだ。「……いいんです。…第二のサイラス・ラムジーになるかと思った。」
意味がつかめないリード。
タッカー:「誰だそれ。」
ワープ航行中のエンタープライズ。
サトウ:「じゃあ、全部 8秒の間に起こったことなの?」
診察するフロックス。「正確には、最後の 1、2秒の間でしょうねえ。再統合し始めた時です。問題はありません。」
アーチャー:「…マルコムが艦隊に転送装置の修正を提案する。…転送ビームを圧縮するようにした方がいいそうだ。」
サトウ:「…修正されても、当分どこにも転送しないでいただけると助かります。※11」
「だが、異星人の転送機に飛び乗ったと言ったじゃないか。自分から。」
「…船を救うためですから。」
「ハ、恐怖症を乗り越えたな。」
「だけど現実じゃありません。」
「…同じことだろ? 消えてなくなるを怖がってたのに…それでも転送機に飛び乗ったんだ。自分の意思でね。」
「もし差し支えなければ、私は当分シャトルで移動させて下さい。」
「うん、行こう! ブリッジへ戻るぞ。」 ドアスイッチへ手を伸ばすアーチャー。
「船長…やらせて下さい。」
代わりに押すサトウ。ドアが開いた。
サトウはアーチャーと顔を見合わせ、医療室を出ていった。
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※10: ホシの父親 Hoshi's Father (ケオン・ヤング Keone Young DS9第16話 "If Wishes Were Horses" 「夢幻の刻」のバック・ボカイ (Buck Bokai) 役) 声:佐藤祐四?
※11: 原語では "Well, I hope you don't plan on beaming me anywhere for a long time." 「転送する」という意味で、"beam" を動詞として使うのは初めて。後の時代では一般的に使われます
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