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エンタープライズ エピソードガイド
第36話「転送空間の恐怖」
Vanishing Point

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・イントロダクション
岩に囲まれた遺跡。
タッカーは写真を撮っている。
サトウ:「さっきの部屋より、少なくとも 300年以上古いようですね?」 壁に描かれた動物などの絵。
タッカー:「ホシにも読めないのか。」
「まるで。少佐は?」
「……こいつは、そうだな。デカい奴はもてる。」 大きな人物が取り囲まれている絵だ。
「ふーん、言語学者誕生。」
笑うタッカー。
サトウ:「その写真、撮りましょう。」 ライトを掲げる。「何があったのかしら。」
タッカー:「妙だよな。星中に生体反応一つない。」 呼び出しに応えるタッカー。「タッカーです。」
アーチャー:『終わりそうか、トリップ?』
「ものすごい遺跡ですよ、船長。部屋を…24 も見て、あと何部屋あることか。」

船長席を立つアーチャー。「…今日は解明できないな。言っておいた嵐が、やはりコースを変えてない。君もホシもエンタープライズに戻るんだ。」

話すタッカー。「じゃあデカいモテ男の写真を撮り終えて、シャトルに戻ります。5、6分ですかね。」

アーチャーは命じた。「それ以上は遅れるな。以上だ。」
トゥポル:「船長。…もう一つ嵐が。」
「もう一つ?」
司令室の画面を切り替えるトゥポル。「放電量は上回っています。」
アーチャー:「かなりデカいな。」
「強力です。一つめの嵐を山脈に押し上げて、2倍の速度で進んでいます。」
リード:「どちらも反磁気嵐です。極性エネルギーが充満してます。」
アーチャー:「…これがシャトルか?」
トゥポル:「…一つ目の嵐から、10キロ以内です。」

地上の嵐が激しくなってきた。
アーチャー:『まだ見えないかもしれん。だが峠を越えて北へ向かってる。』
タッカー:「もうここからよく見えてますよ。」

伝えるアーチャー。「嵐が大気中に異常な干渉を引き起こしている。シャトルはひとたまりもない。」

サトウがコミュニケーターに向かって話す。「船長。遺跡の壁は厚いので、中にいればやり過ごせると思います。」

アーチャーは否定する。「ホシ、これはただの雷雲じゃないんだ。極性バーストで、シャトルの回路がショートするぞ。…君らの神経もやられかねない。」
サトウ:『でもこの建物は 4,000年以上前のもので、たくさんの嵐をしのいでいるはずです。』
「もう既にマルコムを転送室へ向かわせた。君らを転送収容する。一人ずつだ。」

食い下がるサトウ。「シャトルを装甲モードにして、中でやり過ごせませんか?」

反論するトゥポル。「極性放電を余計引きつけることになります。」
アーチャー:「嫌でも仕方ない。転送しかないんだ。建物の外に出てくれ。一人ずつだ。」

タッカーが応えた。「了解、船長!」
遺跡の中へ戻る 2人。
タッカー:「レディファーストだ。」
サトウ:「経験あります?」
「いや、船長はあるし※1。マルコムは 2度やった※2。大したことないって。」
「分子がバラバラになるんですよ?」
「…でもまた全部元通りになる。」
「身体がいくつの分子でできてるか知ってます?」
「うん、ま多いさ。」
「ええ、数で言うと?」
「…2、3兆だ。」
「巨大ジグソーパズルですよ! ピースがいくつか間違ってはめられたら? 見かけはそっくりなのがたくさんあるのよ?」
「艦隊は安全だと言ってる。それで十分だ。」
「やりますけど! …少佐が先に行って下さい。無事成功したらすぐ後追いますから。」
「手を打った。」 荷物を持ち、外へ出るタッカー。
嵐が近づいている。
タッカー:「エンタープライズへ。」
リード:『どうぞ、少佐。』
「…準備 OK だ。」 転送されるタッカー。
サトウは見守る。「…少佐?」
タッカー:『無事到着した。』
「じゃあ、外に出ます。」 コミュニケーターを使うサトウ。「サトウ少尉、転送準備 OK です。」
ほどなく非実体化した。

操作するリード。転送台の上にサトウが実体化した。
リード:「転送仲間だな?」
タッカー:「分子の具合はどうだ。ちゃんとはまってるか。」
静かに答えるサトウ。「後で知らせます。」 歩いていく。


※1: ENT第2話 "Broken Bow, Part II" 「夢への旅立ち(後編)」より

※2: ENT第7話 "The Andorian Incident" 「汚された聖地」、および第21話 "Detained" 「テンダーの虜囚」より

・本編
ローブ姿のサトウは、汚れた顔を拭いた。鏡で顔をまじまじと見つめる。
ドアチャイムに応えた。「どうぞ。」
アーチャー:「…元気は残ってるか?」
「ええ、まあ何とか。着替えてから、すぐ持ち場に戻りますので。」
「今日は、いろいろありすぎたんじゃないのか? 明日の朝でいい。」
「…すいません。」
「明日嵐が収まったら、またトリップと行って調査を終えればいい。」
「は?」
「シャトルを残してきたのを忘れたか? 回収しに行かないとな?」
「写真撮影用にライトを持つだけなら、私でなくとも。」 微笑むサトウ。
「ホシ、転送機は使わないよ? もう一台のシャトルで行け。」
「…消えたくないんです。」
「消える?」
「……今日はいろいろありすぎました。少し、休ませて下さい。」
「…明日の朝な?」
また鏡を見るサトウ。

笑いながら食事するタッカー。
リード:「さすが少佐と思いましたね。」
タッカー:「そりゃ嘘だって。」
制服に戻ったサトウが近づく。
リード:「ちゃんと聞きましたよ、ごまかしても無駄です。」
タッカー:「トラヴィスが適当なこと言うからだろうが。」
サトウ:「空いてます?」
気づかず話すメイウェザー。「そう言ったじゃないですか!」
リード:「まったく。」
咳払いするサトウ。「ここ空いてます?」
タッカー:「ああ、いいよ。」
メイウェザー:「どんな感じだった?」
リード:「トラヴィス、食べさせてやれ。」
サトウ:「胃が痛くなったわ。そうじゃありませんでした?」
タッカー:「1、2分はなあ。でも、手足の指も揃ってるし。」
「私はまだ、落ち着かなくて。」
「…あの嵐のせいだろ。神経が高ぶるのも無理ない。」
「嵐じゃありません。転送です。あれから自分じゃない気がするんです。あの機械の実験台になった人たちに、何かなかったかデータベースで調べてみなきゃ。」
リード:「サイラス・ラムジー※3のほかにも? フン。」
「サイラス・ラムジーって?」
タッカー:「サイラスを知らないなんて言うなよ。」
「有名なんですか?」
メイウェザー:「サバイバル合宿に行くと必ず誰かが、霧の夜ラムジーの分子が再物質化するのを見たって言い出しますよね。」
リード:「うん。」
サトウ:「彼どうしたの?」
タッカー:「イースター・バニー※4も知らないって言い出すぞ。」
「彼どうしたんです?」
「…ウィスコンシン州マディソン※5。あれは確か、2146年。彼は長距離転送初の、実験台だった。まあ、100メートルだ。パターンバッファーで何かがおかしくなり、再物質化しなかった。」
リード:「…おいおいホシ、誰でも知ってることだぞ。」 笑う。
サトウ:「怪談話の前に、寝ちゃったんでしょうね。」
タッカー:「サバイバル訓練どこ行った。」
メイウェザー:「カリフォルニア。」
「うーん。」
「デス・バレーですよ。当然 7月のど真ん中。少佐は?」
「船長と同じグループで、オーストラリア、アリス・スプリングス。これでもかってほどハエがいた。」
リード:「フフン。」
「刺すやつだ。」 呼び出しに応えるタッカー。「タッカーです。」
アーチャー:『嵐が弱まってる。明日の朝の再上陸は問題ないようだな?』
「トラヴィスが遺跡を見たいって言ってたところです。」
『それじゃ、ホシは行かないんだな?』
「シャトルの、パイロットがいりますから。」
『じゃトラヴィスだ。明日の朝会おう。以上。』
「上陸任務に連れてってやるよ。」
メイウェザー:「ほんと、たまにですよね。」
リードも笑いながら歩いていった。
独り残されたサトウ。「じゃあまたね。」

サトウは医療室に入った。「ドクター? ドクター・フロックス?」
動物の声だけが聞こえる。
サトウ:「いないの?」
フロックス:「ああ、少尉。」 後ろにいた。「…どうかしましたか?」
「さっき見た時いなかったのに。呼んだの聞こえた?」
「ヒルに餌をやってました、フン。大丈夫ですか?」 容器を持っているフロックス。
「聞こえてないでしょ。」
「今聞いてますよ? 気分でも悪いんですか?」
「ええ、あまり良くないの。私、非物質化されて、再物質化して…そう、気分が良くないの。」
「地表では大変だったそうですねえ。嵐はさぞ恐ろしかったでしょ。」
「ドクター、嵐の話じゃないわ? 私の身体の分子のこと。」
「うん、ここに座って? じゃあ、診ましょう。」 スキャナーのスイッチを入れるフロックス。「うーん。ああ。全分子を数えるには時間がかかりますが、問題はありませんねえ。次のサイラス・ラムジーになる危険はないと思いますよ?」
「まさかデノビュラでも有名なの?」
「地球で 9ヶ月近く過ごしてますから。」
「とにかくおかしいの。転送されてから、何だか不安定で自分じゃないみたい。」
「分子の異常は一つもありませんよ。」
「そう? これはどう?」 鼻の横を指すサトウ。
「…皮下の色素沈着でしょう。」
「前と位置が違うの、一センチは下だった。」
「ああ、そこでも魅力的ですよう、フフン。」
「笑いごとじゃないわ? …ホクロが動くなら、ほかに何が動いているかわからない。…ほんとに気分が良くないの。」
「まだ…餌をやる動物がいましてねえ。私なら…今夜はよく眠ります。うん?」 離れるフロックス。
サトウはため息をついた。

寝ていたサトウは、呼び出し音に気づいてコンソールに触れた。「はい。」
トゥポル:『少尉、ブリッジに来なさい。』
「何時です?」
『午前11時よ。緊急事態です。』
「11時、そんなはずは。シフトは 8時からなのに。」
『すぐ来なさい。』

ブリッジに、制服に着替えたサトウが来た。「すいません、どうして寝過ごしたのか。」
アーチャー:「タッカーとメイウェザーが、拉致された。一時間前に短いメッセージがきた後、音信不通だ。」
「拉致って誰に。」
「地上の連中は、遺跡を汚したと怒ってる。」
「あの星に生体反応は全くありませんでした。」
トゥポル:「あなたとタッカー少佐が入った部屋に、神聖な遺物があったんです。」
「どうしてわかったんです?」
答えないトゥポル。
アーチャー:「2人の生体反応は。」
リード:「まだ建物内です。今部屋を特定しています。」
サトウ:「メイウェザーの通信機です。」 操作する。
アーチャー:「トラヴィス、無事か。」
声が響いた。『AASK zha Shos! KLESS tahs KO sah moost!』 理解できない。
操作を続けるサトウ。
アーチャー:「少尉。」
サトウ:「話して下さい。」
「…エンタープライズ号船長、アーチャーだ。…不法侵入したなら、申し訳ない。私の部下に、悪意はなかった。」
異星人:『SAHZ kahs moo RAHT tah! AAHSK oohs.』
サトウ:「駄目です、もっと話させて下さい。」
アーチャー:「…部下のどちらか一人と、話がしたい。」
異星人:『NOOK sah! NOOK sah! jous oo RAHS JAHK sah! Shoss tanna raak tooka! Mooras sansanna…』
「これ以上はもう無理そうだぞ。」
トゥポルはサトウに向き直ったままだ。「…わからないんですか?」
リード:「…翻訳機は忘れたらどうだ。話しかけてみるんだ。」
立ち上がるサトウ。「ア・ジャール、スー・カス。」
異星人:『sla AH jous RAH! Rahk Rahk Sah.』
「タンズ・ラ、ウー・ラス、トゥ・ラー・ナ」
『NOOK sah! ha AHS tah!』
「…今のを、翻訳機にかければもしかしたら。」
アーチャー:「それはもうやってみた。話しかけろ。」
「無理です!」
トゥポル:「命がかかってるんですよ。」
「でも、向こうが何を言ってるのかさっぱり。すいません、あの…すいません。」
アーチャー:「謝る必要はない。君は部屋に戻った方がいい。休みたまえ。」
「船長、寝坊したことは認めます。こんなことなかったのに。でも御願いです、私に仕事をさせて下さい。」
「交代しろ。」
ブリッジにいたクルー※6が応えた。「はい、船長。」
アーチャー:「マルコム。」 リードと共に作戦室へ向かった。
サトウはブリッジを出ていく。


※3: Cyrus Ramsey

※4: Easter bunny
イースターに卵を持ってくるとされるウサギ

※5: Madison
州名しか訳出されていません

※6: ベアード乗組員 Crewman Baird
(モーガン・H・マーゴリス Morgan H. Margolis VOY第91話 "Living Witness" 「700年後の目撃者」のヴァスカン見学者 (Vaskan visitor) 役) 名前は後に言及されますが、階級は訳出されていません。声:阪口周平? (河本邦弘?)

シャワーを出したサトウは、ローブを脱いだ。鏡の前に立つ。
すると身体が薄くなり、後ろが透けて見えた。驚くサトウ。
もう一度鏡に近づくと、それは水滴で曇っているだけだった。鏡を拭き、顔を見つめる。
シャワーの下へ行き、水に濡れた。そばの管から洗浄用の液体を出す。
ふと手が透けていることに気づいた。床の格子模様が透き通っている。
次の瞬間には戻っていた。息を荒げるサトウ。

食堂で料理を取るサトウ。
クルーが話している。「あら、忙しい?」「もうクタクタ。」
サトウはテーブルに近づいた。「ここ、空いてます?」 返事がない。「副司令官。」
咳をすると、やっとで本を読んでいたトゥポルが気づいた。「少尉。一緒にどうです。」
サトウ:「どうも。…ブリッジにいらっしゃるとばかり。」
「どうして?」
「…タッカー少佐に、トラヴィスです。」
「拉致問題は解決しました。もう船に戻っています。」
「一時間しか経ってないのに解決ですか?」
「…ベアードが言語を解析したわ。単純な、バイモーダル式でした。」
「どうやってやったんです?」
「翻訳機を使ったのよ。」
「そんなはずありません、全アルゴリズム試しました。」
「土と岩のサンプルを返し、撮った写真を…破棄すると約束したことで、人質は解放されたわ。」
「…言語が解析できたなら、ブリッジへ戻ります。通信の必要があるかもしれませんし。」
「船長はあなたの任務を一時解くと言っています。…ベアードが通信の責任者に任命されたわ。」 去るトゥポル。

話しながら廊下を歩く、女性士官。「昼食後、サブ連結機をチェックするのよ。調整が必要だから。」
すれ違うサトウ。「アリソン※7。」
アリソンは全く応えずに歩いていく。「Cデッキから始めて下へ降りて。」
クルー:「了解。」

サトウがターボリフトのスイッチを押そうとすると、到着して士官が降りてきた。
中に入りドアスイッチを押すが、反応しない。
突然リードの声が響いた。『ストリームが不安定です…』
サトウ:「何?」
タッカーの声も聞こえる。『少尉ならできる…』
リード:『簡単だ、ワン・ツー・スリーで…』
別のクルーがやってきて、スイッチを押した。動き出すターボリフト。
到着し、サトウは降りた。

サトウが医療室に入ると、フロックスが振り返った。
サトウ:「私が見える?」
フロックス:「少尉?」
「私が見える?」
「…どこか、特に診て欲しいところでも?」
「…おかしいの、何かがすごく…おかしい。転送で船に戻ってからずっと、何もかも調子が変なのよ。…簡単なバイモーダルの言語も訳せなかったわ? でもベアードにはできたの。ベアードは言語データベースの基礎も知らないのにね。おかげで船長に自室待機を命じられたわ。おまけに…部屋にいたらいたで、鏡に映る姿が透き通るの。それに、シャワーの水が弾けないで身体の中を通っていくし。誰も私に話しかけない。まるで私が見えてないみたいなの。…ターボリフトのパネルも反応してくれないのよ?」
「私には見えますよ、少尉。医療室のドアもあなたが来た時開いた。」 スキャナーを手にするフロックス。「…転送の技術はまだ、新しい。車が発明された頃人間は同じように怖がったんでしょう。飛行機も、フン。新しいものに慣れるには時間がかかる。少尉の反応も、全く驚くには当たりませんよ、フン。…一つ、約束できます。少尉は健康体だ。透明でもないし、穴も空いていない。」
「今のこと記録には残さないでしょ?」
「正直申しますと、入ってくるのは見えなかったんです。」
微笑むサトウ。「笑えないわ?」
フロックス:「…弱い鎮静剤を出しましょうか。それでよく、眠れるでしょう。」
「特に必要じゃなければ、今は薬で頭をボーッとさせたくないの。」
「いいでしょう。でも、朝顔出して? いいですね?」
「…朝一でね。ありがとう。」
ドアの前で一瞬立ち止まり、スイッチを押すサトウ。ドアは開いた。振り返り、出ていく。

回転しているタッカー。「少尉が逆さだ、ヘヘ…。」 ジムで巨大な器械に乗っている。
冗談で返すサトウ。「逆だと思いますけど、上官に口答えはしません。ひどい扱いされませんでした?」
タッカー:「縛られなかったし、船長が遺物を返すと約束したら、シャトルまで送ってくれて、帰してくれた。」
「翻訳で、力になれずにすいませんでした。今日はどうしたのか…」
「無事戻れたんだからそれで十分さ。…これやったことあるか?」
「…私乗り物酔いするんですよ。」
笑うタッカー。
サトウ:「昨日の転送以来、体調はどうですか?」
タッカー:「地表に戻り、拉致され解放され、いろいろあって…最高とはいかないけどな。何だ、具合悪いのか?」
運動を始めるサトウ。「良くはないですね。でもドクターが言うには、私の症状は心理的だって。」
タッカー:「症状ってどんな。」
「とにかく変なんです。少しずつずれてる。…物理法則まで。」
「なら、君の言うとおり…これはやめといた方がいい。物理法則が当てはまらないからな。……冗談さ、元気づけようとな。」
「いいんです、ドクターは大丈夫って言ってますし。」
器械を降りたタッカー。「バラバラにされてまた元通りくっつくなんて、誰でも慣れるのに、時間がかかるさ。不安に思って当然だ、当たり前だよ。」
サトウ:「不安だけで済めばいいんですけど。」
「…ほかに何がある。」
「鏡に映った顔が透明になって…お湯が手を通り抜けていったんです。転送後、身体が元通りに戻ってない気がして。」
「…それじゃ何やってもおかしいわけだ。宇宙が崩壊すると思っても不思議じゃない。自分が元通りじゃないっていうなら、考えることも筋が通ってないはずだ。俺だったらドクターに鎮静剤をもらう。寝るのが、一番だぞ?」
「男はみんな同じ。」
「ほんとだって、グッスリ寝るほどいい薬はない。」 出ていくタッカー。
サトウは髪をほどき、上着を脱いだ。
パネルに触れるが、操作できない。隣のパネルも同じだ。
別の道具に手を入れる。持ち上げられない。その時サトウは驚き、手を引っ込めた。
もう一度近づけると、手が機械の中をすり抜けていく。
外へ出ようとドアパネルに手を伸ばすが、やはり突き抜けてしまう。
壁面の鏡に映った姿も、揺らめいている。息をつくサトウ。
そして、その姿は完全に消えてしまった。


※7: Alison
(Carly Thomas) 声:多緒都

ジムの床で眠っているサトウ。
トゥポルとタッカーがやってきたことに気づいた。「来てくれてよかった、何時間も出られなかったんです。ドアが…」
タッカー:「夕べはいたんだ。…すぐそこに。」
「少佐?」
連絡するトゥポル。「トゥポルより船長へ。」
アーチャー:『どうだ。』
「保安部からの報告はありましたか。」
『まだ行方不明だ。』
「…Cデッキ船首側は調べました。少尉はいません。」
サトウ:「ここにいるわ。」
タッカー:「船長、バイオセンサーは試しました?」
アーチャー:『反応なしだ。』
「…俺が行って見てみます。」
『ホシが見つかるまで現在の軌道を維持することにする。トゥポル、医療室で合流してくれ。』
トゥポル:「了解。」
2人は出ていってしまった。ドアが閉まる前に、サトウも外へ出る。

医療室で話すフロックス。「嵐から戻った直後ここに来ています。それに 2度目は、夕べでした。」
アーチャー:「具合が悪いって?」
「不安定だと、言ってました。転送が初めてだったのは御存知かと。」
トゥポル:「わかってます。」
「それで不安がっていたんです。身体の分子配列がずれていると、思っていたようでしてねえ。もっと真剣に聞くべきでした。これは彼女が 2度来た時に、それぞれ撮った生体分子スキャンです。」
サトウは隅の台の上に座り、話を聞いている。
フロックス:「その時は正常に見えましたが。行方不明だと聞いて、もう一度詳しく調べました。タンパク質の微細繊維です。次、見て欲しいのはこれです。」
アーチャー:「……何なのか、教えてくれないか。」
「2枚目は細胞膜がかなり劣化しています。最初のスキャンから 24時間も経っていない。こんなことはありえません。」
「何がありえないんだ。」
トゥポル:「少尉の妄想ではなかったんです。…身体の分子が崩壊し始めています。」

転送機のコンソールを見るタッカー。「サブ・フェイズコイルだ。」
アーチャー:「それが?」
「ずれてるんです。…完璧にシンクロしてない。…俺の転送の後ずれが起きたんでしょう。」 転送機の状態が表示されている。
フロックス:「シンクロしないとどうなるんです?」
トゥポル:「…分子結合が崩壊し始めるんです。数時間で、少尉の身体は消えてしまう。」
タッカー:「先に行くのを嫌がった。おいてはいけないと言ったのに、ホシは後に行くと言って聞かなかったんです。ほんとに無事帰れるか、確かめたがって。俺が消えればよかった。無理矢理にでも、先に行かせてれば。」
サトウ:「自分を責めないで。」
アーチャー:「転送機はオフラインにしろ。…原因を突き止めるんだ。宇宙艦隊は問題ないと保証したのに!」
タッカー:「わかりました。」
フロックス:「船長。もし分子結合が失われていれば、ホシ自身を探すのは無意味かと、思います。」
アーチャー:「…何を探せばいいんだ。」
「細胞残留物です。…もう細胞残留物以外、何も残ってはいないでしょうから。」
サトウ:「そんなことない、まだここにいるわ? 見えないだけよ。」
アーチャーはトゥポルに命じた。「……ドクターに聞いてセンサーを調整し直せ。そして、スキャンしてくれ。…残留物を。」
無言のタッカー。
通信機に触れるアーチャー。「アーチャーよりメイウェザー。」
メイウェザー:『はい、船長。』
「軌道離脱の、準備をしろ。元のコースに戻る。」
『了解。』
「……私は、作戦室にいる。」
廊下を歩いていくアーチャーの身体が、サトウを突き抜けた。

狭い通路を通るフロックス。「彼女かどうか判別不能ですねえ。」
タッカー:「ホシの DNA じゃないのか?」
「わかりませんね。アミノ酸が分解されてます。」
サトウ:「無駄よ、私じゃないわ。」 後ろに立っている。
タッカー:「スキャンで、『アクセスシャフト B7』と出たんだ。ここのどこかにいるはずだ。」
「…ちゃんと調べてくれれば、私はまだいるってわかるのに。」
ふと、別の通路から何者かの声が聞こえてきた。「…Raht-soosjaal.」
そしてタッカーの声が響く。『どうなってんだ…』 反響する複数の声。
サトウ:「大尉?」
リード:『…ワン・ツー・スリーで…』
タッカー:「ドクター、これ見て。…どう思う。」 戻るサトウ。
フロックス:「ジペプチドを分離してみて? 彼女の遺伝子特性と比較して。」 スキャナーに一致した結果が出た。
「…何でこんなとこに来たんだ。」
「一生わからないでしょう。これを、アーチャー船長は御両親に送るでしょうからねえ。ご健在なんでしょ?」 液体の一部を採取するフロックス。
「ああ。両親ともな。」
フロックスはタッカーの肩に手を触れた。
タッカー:「先に行ってくれ。俺は…しばらくここにいる。」
フロックス:「わかりました。」
タッカーは振り返った。「…ホシ。」
サトウ:「見えるの?」
「先に行かせるべきだったよ。」 独りで話し続けるタッカー。「…独り残すなんて何考えてたんだ。部下を守るのが上官なのに。あんな激しい嵐の中、君を独りおいていくなんて。なぜ先に行かなかった。安全だと言っただろ。……だからこんなことに。」
ため息をつき、去るタッカー。
また異星人の声が聞こえてきた。「Maask jassoss. Torat!」 2人いるようだ。
サトウが奥を見ると、異星人が壁面に何かの装置を取り付けていた。延びるケーブルを、更に別の物につける。
異星人 2※8:「ahs kuh AHN toe RAHT.」
異星人 1※9:「VAHS...」


※8: 異星人その2 Alien #2
(Ric Sarabia) 声優なし

※9: 異星人その1 Alien #1
(Gary Riotto) 声優なし

アーチャーのいる作戦室に、サトウはドアを突き抜けて入った。「船長、話を聞いて下さい。あの星の異星人が船に潜入して、Dデッキに爆弾を仕掛けています。…聞こえないの? 船が危険なんです。」
呼び出しに応えるアーチャー。「何だ。」
ベアード:『少尉のお父上と…つながっています。』
「……向こうは何時だ。」
『午前9時です。』
「…つないでくれ。」
デスクに座り、ため息をつくアーチャー。通信をつなぐ。「おはようございます。」
男性※10が映し出される。『アーチャー船長。…トラブルじゃないんでしょうね。』
「実は問題が…起きました。…船の転送装置で、アクシデントが発生したんです。」
『転送装置って…何なんです。』
サトウ:「そんなことしてる時間はないんです…」
アーチャー:「物質ストリーム変換機です。生体物質の輸送に問題ないと、承認されてました…」
「何とかして注意を引かなくちゃ。」
「…何度か問題なく使用し…」
ホシの父親:『生体物質? 農産物ですか、人間のことですか!』
「とにかく、宇宙艦隊は転送装置の安全性を保証していたんです。」
サトウはコンソールに手を伸ばし、父親の顔に指が出るようにしてみた。
ホシの父親:『ホシは、無事なんですか。』
アーチャー:「いいえ。事故がありました。彼女の身体は……身体の分子が、不安定になったんです。」
いろいろなところに手を入れてみるサトウ。
ホシの父親:『身体の分子? 何の話ですか、船長。』
アーチャー:「私が無理に、ホシをこの任務に出しました。全ては私の責任です。ホシは、我々にとっても家族なんです。」
サトウは上の小さなライトに手を伸ばした。すると、そのオン・オフを操作できることに気づいた。音の有無も操れる。
ホシの父親:『家族? ホシの家族は私達です。わざわざ何なんです、あの子があなたの家族だと言うためですか。すいませんが、おっしゃってることがよく。』
アーチャー:「ホシを失いました。ミスター・サトウ、お伝えする私も辛い。」
『死んだと、言うんですか。』
音を出すサトウ。「気づいてくれないと全員死ぬことになるわ?」
アーチャー:「残念です。」
ホシの父親:『また、後で連絡を下さい。午後にでも。』
サトウ:「モールス信号なら? 知ってますよね?」
『…妻に伝えないといけませんから。』
「気づいて? 聞こえない?」
アーチャー:「では午後に。…本当に残念です。」
ホシの父親:『私もですよ。』
通信は終わり、アーチャーはため息をついた。
サトウ:「気づいて? そうよ? こんなノイズ今までなかったでしょ? 聞いて、よく聞いて。SOS、SOS。救難信号です。お願い、気づいて。」
音と光に気づいたアーチャーは、通信機に触れた。「アーチャーよりトゥポル。」
トゥポル:『はい、船長。』
「ちょっと来てくれないか。」
『ただいま。』
サトウ:「よかった、どっちかが気づくはずだわ。」
部屋に入るトゥポル。
アーチャー:「これを見ろ。…こんな音はしてなかった。」
トゥポル:「…プラズマ回路に乱れがありますね。少佐に直すように言いましょう。」
「パターンを聞いてみろ。トン 3つ、ツー 3つ、トン 3つ。SOS だ。」
「…トン?」
「トン・ツーで作るモールス信号だ。地球で何百年も使われてた。救難信号だよ。」
サトウ:「じゃあ、これも覚えてますか? H…O…」
トゥポル:「変わりましたね。」
「S…H…」
アーチャー:「やはりモールス信号だ。」
「I。…船長。」
トゥポル:「このプラズマ回路は自給式です。部屋の外から送られたメッセージとは、考えられません。」
「外じゃない、ここにいるわ?」
「…今日は大変な日でした。お休みになった方がいいでしょう。」
アーチャー:「うん、そうだな。…明日トリップに直してもらおう。」 2人とも出て行く。
サトウ:「明日じゃ船が爆破されてます! 船長!」

アクセスシャフトの異星人たちは、装置を起動した。順番に明かりが灯る。その様子を見ているサトウ。
話す異星人たち。「tosk ZHAS loo RHAN knee JAT.」
階段へ向かう異星人を、サトウも追った。

様子をうかがうサトウ。異星人はワープコアの上に乗り、持ってきたケースを開けている。
全く気づかず作業を続ける機関部員。
異星人の動きを見ていたサトウは去った。

アクセスシャフトへ戻ってくるサトウ。
床に置かれている装置に手を入れると、スイッチを切ることができた。つながっている全てがオフになる。様子を見るサトウ。
切れたことに気づく異星人。もう一人が機関室から戻ってきた。
異星人 1:「soo RAHR aht TOHS.」
異星人 2:「skah AHR nok.」 自分が持っていた、稼働している装置を代わりに置く。「uh KAH ahs loo RAH VEE no yah NAH.」
新しい装置に手を伸ばすサトウ。だが今度はスイッチを切れない。
異星人は取りだした小型の装置を使った。端に円形の機械が姿を現す。
異星人 2:「TATE.」
命じられた異星人が機械の上に乗ると、姿が消えた。転送機らしい。
残った異星人は床の装置を起動させた。
サトウ:「駄目、待って!」
壁面の全ての装置が点滅し、起動していく。
その異星人も転送で消えた。
またタッカーの声が響く。『どうなってる…』
サトウ:「何?」
リード:『ストリームが不安定です…』
タッカー:『がんばれ、ホシ。出てこい!』
『少尉ならできる、簡単だ。ワン・ツー…』
サトウも転送機の上に乗った。非実体化する。

転送機を操作するリード。「スリー。」
転送台の上に現れるサトウ。制服を着て、荷物を持っている。
タッカー:「やったぞ、マルコム。な、言ったろ? チョロいもんだ。」
降りるサトウ。「あいつらを早く止めなきゃ。」
タッカー:「誰。」
「…聞こえたの? ほんと? 私が見えます?」
リード:「全く問題ないよ?」
「あるのよ、奴らがリアクターに爆弾を。」
止めるタッカー。「誰が!」
サトウ:「あの星の異星人よ。」
「あの星に住人はいない、無人だったろ!」
「何言ってるの? 少佐とトラヴィスが奴らに拉致されたじゃないですか。早く止めなきゃ。」
リード:「ホシ、転送機が嵐の影響を受けて、物質ストリームの再統合に手間取っただけだ。」
「…手間取った?」
タッカー:「君はいわば、パターンバッファに閉じこめられた。ほんの 2、3秒だけどな。」
リード:「正確に言うなら、8.3秒だ。」
サトウ:「じゃあ私はついさっきまで地表に?」
タッカー:「俺に先に行けって言っただろ?」
「……鏡あります?」
笑うリード。「え?」
サトウも微笑んだ。「……いいんです。…第二のサイラス・ラムジーになるかと思った。」
意味がつかめないリード。
タッカー:「誰だそれ。」

ワープ航行中のエンタープライズ。
サトウ:「じゃあ、全部 8秒の間に起こったことなの?」
診察するフロックス。「正確には、最後の 1、2秒の間でしょうねえ。再統合し始めた時です。問題はありません。」
アーチャー:「…マルコムが艦隊に転送装置の修正を提案する。…転送ビームを圧縮するようにした方がいいそうだ。」
サトウ:「…修正されても、当分どこにも転送しないでいただけると助かります。※11
「だが、異星人の転送機に飛び乗ったと言ったじゃないか。自分から。」
「…船を救うためですから。」
「ハ、恐怖症を乗り越えたな。」
「だけど現実じゃありません。」
「…同じことだろ? 消えてなくなるを怖がってたのに…それでも転送機に飛び乗ったんだ。自分の意思でね。」
「もし差し支えなければ、私は当分シャトルで移動させて下さい。」
「うん、行こう! ブリッジへ戻るぞ。」 ドアスイッチへ手を伸ばすアーチャー。
「船長…やらせて下さい。」
代わりに押すサトウ。ドアが開いた。
サトウはアーチャーと顔を見合わせ、医療室を出ていった。


※10: ホシの父親 Hoshi's Father
(ケオン・ヤング Keone Young DS9第16話 "If Wishes Were Horses" 「夢幻の刻」のバック・ボカイ (Buck Bokai) 役) 声:佐藤祐四?

※11: 原語では "Well, I hope you don't plan on beaming me anywhere for a long time." 「転送する」という意味で、"beam" を動詞として使うのは初めて。後の時代では一般的に使われます

・感想
転送が元で身体が見えなくなるといえば、TNG "The Next Phase" 「転送事故の謎」を真っ先に思い出します。そのほかにも "Remember Me" 「恐怖のワープ・バブル」や、"Realm of Fear" 「プラズマ放電の謎」なんていうエピソードの要素も混じっていますね。全部足して 10 で割ったような感じです。邦題もゴッチャになりますね。
夢落ち自体はよく使われる手法ですからあまり責めたくはないのですが、それにしても「夢」の展開が突拍子もないですね。ちょっと見ただけなのに、どうして異星人が仕掛けているのは爆弾だとわかったんでしょう? かといってクライマックスといえば、あまりにもあっさりとした終わり方です。結局低予算エピソードだったんでしょうか…。


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