ヴォイジャー エピソードガイド
第91話「700年後の目撃者」
Living Witness
イントロダクション
※1「外交が行き詰まれば、残る手だては一つ。力。躊躇せずに武力を投入する。それが艦隊のやり方。」 作戦室にいるジェインウェイが話している。髪は短く、制服の下には黒いシャツ、そして黒い手袋をしている。相手の異星人※2が応える。
「実に心強い限りです。力を貸して下さい。」
「あなたたちの戦争に手を貸し、敵を倒せということ?」
「キリアン※3にあなた方の技術力を見せつけて欲しいのです。彼らの指導者を捕え、この船の攻撃力を示してやれば、戦おうとはしないでしょう。」
「我々が体を張り、ヴァスカン※4は悠々とキリアン領土を併合する。そちらはいいことずくめね。こちらは何を?」
「故郷へ、帰れます。」
「思ったよりヴォイジャーのことに詳しいようね。」
「この宇宙域では噂になっていますからな。だからあなたを探した。」
「それで?」
「ここから、5日ほど行った場所にワームホールがある。案内できます。安定させる方法もわかる。」
「本当かしら。」
「このままでは帰れる見込みはない。6万光年は、遥か彼方だ。」
「紛争の戦術的データをすべてこちらへよこして。キリアンの防衛力、ヴァスカン軍勢の配置、全てを。」
「では、1時間以内に。」 警報の鳴るブリッジ。フェイザーライフルを持ったケイゾンのクルーがいる。オプス席にいる、制服を着たニーリックスが報告する。 「キリアン戦闘機、8機接近中。」 ジェインウェイ:「攻撃探査機用意、適宜発射。呼びかけて。」 トゥヴォック:「チャンネル、オープン。」 「戦艦ヴォイジャーの艦長、ジェインウェイよ。攻撃してくれば撃墜する。」 ヴァスカンとチャコティがブリッジに入る。 トゥヴォック:「応答ありません。」 船が揺れた。 パリス:「応戦してきました。シールドは異常なし。」 ジェインウェイ:「チャコティ、指導者の居場所はわかった?」 チャコティ:「まだです。テドラン※5は隠れているようです。」 「でしょうね。いぶり出さないと。」 ヴァスカン:「しかし、どうやるんです。」 「細菌兵器を使う。キリアンの人口の多い都市をいくつかターゲットにしてね。ドクターが兵器を仕上げてる。」 「我々の敵はテドランだけで、民間人は関係ありません。市民に罪はない。」 「民を苦しめれば指導者が出てくる。」 「艦長!」 「中途半端じゃ駄目なの、勝ちたいんでしょ? 勝たせてあげる。ブリッジより医療室へ。」 ドクターの後頭部にケーブルが接続されている。キムもいる。ドクター:「私の神経回路網とフェイザー砲を、リンクさせました。ビームに病原体を乗せ、惑星の大気に撃ち込めるよう調整中です。」 ジェインウェイ:『完成はいつ?』 目が金色のドクターは答えた。「今完成しました。」 トゥヴォック:「フェイザー、オンラインです。」 ジェインウェイ:「最初の都市を狙って。ビーム発射。」 ヴォイジャーの大型フェイザーキャノンから、惑星へ向かって何発も発射される。 そのヴォイジャーの映像が止まった。 「戦艦ヴォイジャーは、当時圧倒的武力を誇る船でした。光子魚雷に素粒子兵器を備えており、数時間で一つの文明を消し去ることも可能でした。あの日我々は幸運だったのです。全滅だけは免れた。テドランが既に多くの都市で住民の避難を始めていました。そして数千人が救われた。しかしジェインウェイのこの攻撃は始まりでしかなかった。ご存知のように、この時大戦争※6が始まりました。今日でも、700年後の現在も、ヴォイジャーとの遭遇はこの星に影を落としています。」 説明を行った異星人の男性※7は、映し出されたヴォイジャーを見つめた。 |
※1: トゥヴォック役、ティム・ラスの初監督作品です ※2: (ロッド・アランツ Rod Arrants TNG第45話 "Manhunt" 「魅せられて」のレックス (Rex) 役) 声:幹本雄之、DS9 デュカットなど ※3: キリア人 Kyrians ※4: ヴァスカ人 Vaskans ※5: Tedran ※6: Great War ※7: (ヘンリー・ウォロニッツ Henry Woronicz TNG第95話 "The Drumhead" 「疑惑」のジダン中尉 (Lieutenant J'Dan)、VOY第65話 "Distant Origin" 「遠隔起源説」のフォーラ・ゲイガン (Forra Gegan) 役) 声:岩崎ひろし |
本編
その男性、コーレン※8は観衆に尋ねた。「シミュレーションを続ける前に、何か質問があれば答えますよ。」
一人の男※9が質問した。「ヴォイジャーはどんな船だったんです? 乗員は何人ですか?」
「300名以上の兵士が乗り込んでいたと思われます。」
「ほかの星も攻撃したんですか?」
「それは、わかりません。ヴォイジャーの行動についてはまだ不明な点が多い。しかしほかにも多くの星を侵略したとみるのが自然でしょうね。」
「ヴォイジャーがやっていた、ボーグの訓練はどんなものです?」
「ヴォイジャーは様々な戦略をもっていました。同化した種族から得たものも多い。ボーグ、タラクシア、ケイゾン。彼らは捕えられ、ヴォイジャーの兵士に組み込まれた。シミュレーションの続きを見た方が早そうですね。最初の攻撃から数時間後です。ジェインウェイ部隊はブリッジで戦闘体勢にある。これから見るのは非常に生々しく、恐ろしい映像です。」 映像が切り替わった。 ジェインウェイ:「報告を。報告して!」 ニーリックス:「およそ 3,000人のキリアンが死亡。」 「それだけ?」 トゥヴォック:「細菌は大気を通してまだ広がっています。死者はすぐに 100倍の 30万人にはなるでしょう。」 「すぐって?」 「恐らく、1時間で。」 「私は待つのが嫌いなの。」 トゥヴォックは笑みを浮かべた。「申し訳ありません。もう一度発射します。」 ジェインウェイ:「パワーを倍に。」 ヴァスカン:「艦長、やり過ぎではありませんか?」 「大使、今更怖じ気づいても遅いの。」 「確かに派遣は欲しかったが、これでは大量虐殺だ。」 「大量虐殺ですって? どう言おうと勝ちは勝ち。」 「私はこんなことを頼んだわけじゃない。」 「私たちがキリアンを倒す。あなたは自分の約束を守ればいいの。」 攻撃を受けるヴォイジャー。ジェインウェイはケイゾンに命じた。「少尉? こちらの紳士を拘束室に。全部終わるまで入って。」 連れて行かれるヴァスカン大使。パリス:「キリアン船、更に 3隻接近。」 ジェインウェイ:「まくのよ。」 「アイアイサー。」 ジェインウェイはトゥヴォックの顔を見た。微笑むトゥヴォック。 捕虜を殴るキム。チャコティが尋ねる。「場所を言え。」 捕虜の頭をつかむキム。「おい、朝まで続けて欲しいか。おとなしく吐くんだよ。」 チャコティの顔を見るキム。うなずくチャコティ。キムはもう一発殴った。手を抑える。「俺が朝までもたねえよ。」 顔の半分に入れ墨があるチャコティは言う。「俺は暴力は嫌いだ。俺の種族は聡明で、平和的なんだ。お前たちのように。こんな事態になって悲しいねえ。俺たちが協力し合えば、こんな争いは終わるんだ。」 キムは道具を手に持つ。「チャコティ、どいてろ。それじゃだめだ。」 ドクターがやって来た。「そのスパナで殴れば、意識不明どころじゃないぞ。台無しだ、口が聞けなくなってはな。」 キム:「ほかに名案があるか。」 ハイポスプレーを手にするドクター。「神経溶剤を使う。スマートな拷問方法だ。君の野蛮なやり方よりは、余程効くよ。」 それを捕虜に打つドクター。「まずは、目の奥がチクチクするような感覚があるはずだ。視覚神経が溶けているんだよ。」 チャコティ:「もう一度聞く。テドランはどこだ。」 痛みに耐えるキリアン捕虜。微笑むキム。 ドクター:「痛みは急激に増し、やがては大脳皮質が液化する。解毒できるぞ、命令があればな。」 チャコティ:「まだ命令は間に合うぞ。しゃべりさえすればな。テドランはどこにいる!」 捕虜は叫んだ。 地図を示すチャコティ。「ここです、テドランの居場所は。」 ジェインウェイ:「捕虜の言ったことが本当ならね。」 「奴も最期は協力的でしたよ。」 「ニーリックス。」 ニーリックス:「地下 1.6キロの穴ぐらに防護シェルターが作られてるようですね。」 「チャコティ、トゥヴォックと攻撃班で、テドランを捕えて。ヴォイジャーまで生きたまま連れ帰って。」 チャコティ:「了解。」 ブリッジが揺れた。ジェインウェイ:「何なの?」 パリス:「侵入者です。キリアン 4名が機関室に侵入しました。」 「ブリッジより機関室。応答を。」 ニーリックス:「奴らフォースフィールドを張った。兵士が入れません。」 「じゃあ仕方ないわね。コンピューター、ボーグの戦闘シークエンスを開始。」 男性の声をしたコンピューター。『シークエンス、スタート。』 アルコーブでボーグが動き出した。 ジェインウェイ:『ブリッジよりセブン・オブ・ナイン。』 ボーグの姿のままのセブン。「指示を出してくれ。」 『キリアンが機関室に侵入してる。阻止して。』 「了解した。」 セブンはボーグ・コンソールを操作した。隣のアルコーブで、3人のボーグが一斉に動き出す。 機関室にクルーが倒れている。ボーグが転送された。キリアンはエネルギー武器を使うが、全く効かない。殴り倒され、首を折られ、首にチューブを注入されるキリアンたち。セブンは言った。「抵抗は無意味だ。」 ブリッジに連絡が入る。『セブン・オブ・ナインよりブリッジ。キリアンの脅威は除去した。』 ジェインウェイ:「よくやったわ。」 『2名まだ生きている。処分はどうする?』 「あなた、ずっとドローンを増やしたがってたじゃないの。同化すれば?」 「了解した。」 ジェインウェイに近寄るキム。「攻撃班から連絡が入りました。」 「いいニュースでしょうね。」 「ええ。テドランを捕えました。それに副官も。間もなく戻ってきます。」 「19号室へ通して。ヴァスカンの大使もね。大事な交渉を見逃したくないだろうから。」 第2デッキの広い部屋にドクター、ヴァスカン大使、チャコティ、キムが集まる。ジェインウェイや武器を持ったクルーもやって来た。テドラン※10に話しかけるジェインウェイ。「ようこそ当艦へ。」 「歓迎して頂いて恐縮ですよ。いつもこんなもてなしを?」 「こんな偉い方は滅多にいらっしゃらないわ。偉大なテドラン。平和を求める男。民の忠実な公僕。さ、今こそ本当に、民を救わなきゃ。」 「要求を言いたまえ。」 「そちらが武装解除すれば、攻撃を中止しましょう。」 ヴァスカン大使を見るテドラン。「ヴァスカンの狙いはよくわかっている。我々の領土と、資源だ。だがあなたの狙いは? 何のためにこんなことをする。」 ジェインウェイ:「故郷へ帰る方法と引き換えに。」 テドラン:「我々の故郷を、破壊してでもか。」 「ええ、そう。同じ立場ならそうするでしょ?」 「いいや、絶対にしない。」 「まさしく殉教者ね。ほんとにご立派だわ。いつまでそうしてられるかしら。何十万の民を死なせても、誇りは守るつもり?」 ジェインウェイは保安士官に合図した。テドランたちをひざまずかせる。 ジェインウェイ:「降伏を命じなさい。」 テドランは大使に言う。「恥を知るがいい。我々だけで解決できたんだ、平和に。部外者抜きで。」 ジェインウェイ:「降伏するのよ。」 テドラン:「断る。」 ジェインウェイは保安士官からフェイザーライフルを受け取った。テドランの副官を狙い、発射した。倒れる女性。目を背けるヴァスカン。 テドラン:「我らは生き続ける。」 ジェインウェイは無言でライフルをテドランに向け、発射した。テドランも死んだ。 ジェインウェイ:「何を驚いてるの、大使。これが望みでしょ。」 遺体をそのままにし、部屋を出ていくジェインウェイたち。窓の一つからコーレンたちが観ている。 ヴァスカン大使が後ずさりしながら部屋を出ていく様子を見ているコーレン。映像を終わらせる。「その後の戦いは悲惨だった。200万のキリアンが殺されました。戦艦ヴォイジャーは攻撃を続け、キリアン王朝は崩壊した。ヴァスカンは我々の領土を占領し、キリアンを隷属させた。この関係を修復するのに数百年かかりました。平等を求める戦いはまだ続いている。このキリアン史跡博物館※11も、その戦いの一部です。ここで何かを学んでもらえたでしょうか。歴史におけるヴォイジャーの役割をもっと知りたければ、ほかの展示物もぜひ見て下さい。どうもありがとう。」 見学者から拍手が起こる。その横には円筒状の物体が飾ってある。「U.S.S.ヴォイジャー」と書かれた、光子魚雷だ。 |
※8: Quarren ※9: (Timothy Davis-Reed) 声:浜田賢二 ※10: (Brian Fitzpatrick) 声:小上裕通 ※11: Museum of Kyrian Heritage 博物館のセットは後に映画 "Star Trek: Insurrection" 「スター・トレック 叛乱」のソーナ身体改良施設として改造されました |
博物館で見学者に話すコーレン。「自由に操作して下さい。」 「ありがとうございます。」 キリアンの子供が光子魚雷を覗き込んでいる。コーレンは言う。
「触らない方がいい。ヴォイジャーの魚雷なんだ。25アイソトン出力。数秒で都市一つを破壊できる。何百年も起動してないが、わからないぞ。ハハ、冗談だよ。でも気を付けてくれ。ここにある遺物が壊れたら、代わりはないんだ。自分たちの歴史は、大事にしないとね。」
ヴァスカンの男性※12が話しかけてきた。「その歴史について聞きたいんですが。」
「どうぞ。」
「真実だという確証は?」
笑うコーレン。「よくご覧なさい。君の周りにいくらもある。」
「かび臭い遺物と再現映像だけ。証拠にはなりませんよ。」
「そうは思わんね。」
「あなたたちはあの戦争の全てをヴァスカンのせいにしてる。僕はキリアンに対して偏見はありませんよ。友達だっています。でもここのシミュレーションで、ヴァスカンだけが悪いように描かれているのは不愉快ですね。あなたたちの歴史観を、押し付けられたくない。」 見学者たちも集まって来た。
「受け入れるよりないだろうね。ここで見たもの全てを裏づける遺物が最近発見されてる。3週間前に、調査隊がケセフ※13遺跡の地下 9メートルに眠るデータ記憶装置を発掘した。ヴォイジャーのものだと判明してる。」
「また遺物か。」
「その記憶装置のデータはまだ生きてる。恐らくクルーか、ジェインウェイ艦長の個人日誌だ。2、3日後にはヴォイジャーから見たあの戦争が、明らかになるだろう。」
「あなた方の解釈と違ったら、どうします?」
「歴史を多少書き換えることになる。」
「そう願いますよ。」 キリアンは歩いて行った。見学者に言うコーレン。
「どうも、お騒がせしました。ごゆっくり見学を。」
夜の博物館。独りでいるコーレンは、装置を持っている。コンピューターを操作した。「再現映像を起動。ヴォイジャーとの遭遇。機関室を表示。」 機関室が映し出された。コーレンはその映像の中へ入る。 ワープコア近くのコンソールに座るコーレン。「記録開始。遺物 271 の作業を再開する。ヴォイジャーのデータ記憶装置だ。試しにシミュレーション内の工具を使って、開いてみることにする。運が良ければ、互換性があるだろう。」 工具を使って調べ始めるコーレン。 「うん、思ったより大きいサイズのデータだな。何かのプログラムかもしれないぞ? そうだ、光電子データストリームだ。ホログラムか!」 コーレンは立ち上がり、コンピューターを操作する。ホログラム映像が再現されるが、消えてしまう。再調整し、もう一度表示された。ドクターだ。「緊急事態を概要を述べたまえ。」 乱れた音声が修正される。 「緊急事態の概要を述べたまえ。」 コーレン:「お前は…ヴォイジャーのドクターだ。」 ドクター:「なぜ機関室に。モバイルエミッターもない。」 「アンドロイドじゃない。」 「もちろんだ。何を言ってる。キリアンか。ブリッジ、侵入者です。機関部へ保安部員を。」 通信バッジを押し、パネルを操作しようとするドクター。 コーレン:「そんなことをしても無駄だ。ここにあるのは、ただのシミュレーションだ。」 ドクター:「ホロデッキか。」 「いや、ここはキリアン史跡博物館だ。」 「私のプログラムを、盗んだのか!」 「待てまて、説明させてくれないか。」 「早くするんだな。」 「君は…ホログラムだったか。」 「そんなことはわかってる。」 「ああ、このデータ記憶装置から君のプログラムを見つけたんだ。」 「それはバックアップモジュール※14だ。君らの攻撃部隊が盗んだに違いない。」 「君はケセフ遺跡から発掘されたんだ。事実は受け入れがたいだろうがね。ヴォイジャーとキリアンが遭遇してから、もう長い年月が経ってるんだよ。」 「どのくらい。」 「700年だ。プラスマイナス 10年、誤差はある。」 「信じないね。」 「考えてみろ。プログラムが作動してなければ、君には 1秒も 1,000年も同じだ。」 「……700年だって? 船はどうなった。クルーはどうなったんだ。」 「わからないね。とうに死んだのは間違いない。」 「私は発掘された、遺物か。」 「いいや、そうじゃない。目撃者だ。歴史の生きた目撃者だ。まだ明らかになっていないことが山ほどある。だが君はその時代に生き、目撃してる。その時代を作ったんだ。ドクター、君を発掘したことは最大の発見だよ。」 「こんなこと、あるわけがない!」 「ドクター。」 「私は信じないぞ!」 「ドクター!」 機関室を出るドクター。追いかけるコーレン。 外に出たドクターは呆然と立っていた。そこは、やはり博物館に過ぎなかった。 |
※12: (モーガン・H・マーゴリス Morgan H. Margolis ENT第36話 "Vanishing Point" 「転送空間の恐怖」のベアード乗組員 (Crewman Baird) 役) 声:浜田賢二 ※13: Kesef ※14: 緊急医療用ホログラム・バックアップモジュール Emergency Medical Hologram backup module |
博物館。ドクターはコーレンに尋ねる。「私はどうなるんだ。展示でもするのか? ホログラムのタイムカプセルだな。」
「まだわからん。」
「艦隊に連絡させてくれ。まだ存在してればだが。」
「それは待ってくれ。」
「どうしてだ。」
「ほかにも多少、問題があってね。」
「どんな問題が。」
「君はヴォイジャーのドクターだ。真相を聞きたがる者は大勢いる。ここでは人工生命体も知能がある限り、行動に責任を負うとされている。裁判にかけられるだろう。」
「裁判?」
「戦犯としてな。君の細菌兵器で 800万の人が死んでる。」
「そんなものは作ってない!」
「君の戦争犯罪の証拠は揃ってる。」
「どんな証拠だ。これが証拠なのか! 3重の外壁、30の魚雷管、25のフェイザー砲、ヴォイジャーとはまるで違うぞ!」 壁面の「戦艦」ヴォイジャーの図を指すドクター。
コーレン:「シリック海※15から見つかった、外略図を復元したものだ。腐食して保存状態は最悪だった。間違いもあるだろう。」
ドクター:「ヴォイジャーは戦艦なんかじゃない。科学調査船だ。」
「ああわかってる。帰ろうとしてた、火星に。」
「地球だ! そんなこともわかってないのか。まるで悪夢だ。私はどうなる。有罪なら何をされるんだ。」
「調停官次第だな。だが恐らく、厳しい裁定が下る。プログラムを削除されるだろう。」
「私を信じてくれ。君には大昔の歴史だろうが、私には昨日だ。生きた目撃者だと言ったな。なら歴史を正す機会を与えてくれ。まずは君らの解釈を見せてもらおう。」 「フェイザー 2機を使いきって、一発も命中してないとはね。」 パリスが話している。部屋の隅でドクターとコーレンが見ている。 トゥヴォック:「女性クルーの尻を追い回している暇に、少しでもコンソールを見れば、そうじゃないのはわかるだろう。」 キム:「だがトゥヴォック、5分で片がつくんじゃなかったのか。」 チャコティ:「いい代案があるか、中尉。」 パリス:「ああ、もちろんあるとも。シャトル戦闘機で直接攻撃だ。」 ニーリックス:「お前の指揮で? 危ないね。」 「何だと、このブタ野郎!」 チャコティ:「代案一つ出せないのか?」 「だったらあんたが何か考えたらどうだ。たまには副長らしくな。」 チャコティはパリスを殴った。ほかのクルーももみ合いになる。「おい、チャコティ! この野郎! おい!」 見守っていたジェインウェイ。「やめて。やめなさい!」 ジェインウェイはフェイザーを手に取り、壁面のパネルを撃った。争いをやめるクルー。「喧嘩はホロデッキでしなさい。今は戦争中よ。キリアンの軍事施設ばかりを攻撃してたけど、それが間違いだった。民間人を攻撃するの。」 映像内のドクターが言う。「素晴らしいアイディアです。キリアン・ゲノムを調べたんですが、生物兵器には無防備なようです。」 アンドロイドとなった自分を見て、呆れるドクター。 ジェインウェイ:「いつ兵器を用意できる?」 「1時間以内に。」 「解散。」 出ていくクルー。ドクターは言う。「でっち上げだ。馬鹿馬鹿しい。」 コーレン:「映像停止。」 動きが止まった。 コーレン:「歴史の記録から忠実に再現したものだぞ。もし、多少食い違う部分があるなら…」 ドクター:「食い違う部分? 手の付けようもないね。確かにここは会議室※16らしいが、ヴォイジャーのクルーは、あんなごろつきの寄せ集めじゃないぞ! ま、パリス以外はね。あんなにいがみ合ってもいなかった。エイリアンの星を侵略したりもしないねえ。進んだ文化をもってたんだ。」 「事実と全く違うというのか。」 「ああ。」 「我々とヴァスカンの紛争には関係していないと言うつもりか。」 「ああ。いや、そりゃま関係はしてたが、こんな風にじゃない。」 「詳しく言え。」 「この部屋で、会議があった。だが戦略についてじゃない。我々は、板挟みになってた。ヴァスカンと貿易交渉をしていて、相手の代表者は大使の…」 「デイリス※17大使だ。」 「デイリス。そうだった。取引は予定通り進んでたが、突然……攻撃された。君たちにだ。キリアンだよ。その日に両者が宣戦布告して、我々が巻き込まれたんだ。」 「キリアンが先に仕掛けたというのか。そんな馬鹿な。」 「ジェインウェイ艦長はヴァスカンとの取引を続けつつ、両国の紛争と距離を保とうと会議を招集した。ヴォイジャーは中立だった。キリアンを攻撃などするもんか。」 「再現映像を全て観てから君の意見を聞く。続きを観よう。」 テドラン:「我らは生き続ける。」 ジェインウェイは無言でライフルをテドランに向け、発射した。テドランも死んだ。 ジェインウェイ:「何を驚いてるの、大使。これが望みでしょ。」 遺体をそのままにし、部屋を出ていくジェインウェイたち。 見終えたドクターは言う。「どこかで、宇宙の彼方の草葉の陰で、ジェインウェイ艦長は歯噛みして悔しがってるだろう。これじゃ我々はモンスターだ。艦長は冷酷な殺し屋で、クルーはごろつき、私は大量殺人者だ。」 コーレン:「落ち着きたまえ。」 「落ち着けるか! やってもいない罪で死刑にされるんだ!」 「君の言い分を聞こうか。」 「彼は覚えてる。」 「テドランだ。我々の殉教者だ。」 「殉教者ね。彼がヴォイジャーを攻撃してきたんだ。」 「嘘を言うな。」 「私は見た。」 「保身のために嘘をついてるな。」 「君こそだろう。目を背けてる。ここではキリアンだけが善人のように描かれてるのはどういうわけだ。殉教者に、英雄に、救済者。自分たちに都合のいいように歴史を歪めて解釈してる。中世論者の歴史だよ。気分はいいだろうな。」 「我々は侵略者じゃない。大戦争の犠牲者だ。証拠はこの星の至るところにある。キリアンは今に至るまで抑圧されてきた。」 「今がどうかは知らないが、私は自分がこの目で見てきたことを言ってるんだ。700年前にね。」 「私は信じない。誰も信じないよ。」 装置を操作するコーレン。 ドクター:「何をしてる。」 コーレン:「機能を停止する。」 「頼む、待ってくれ。なら証拠を見せよう。医療用トリコーダーだ。展示してあったろ。あれを調べ…」 だがコーレンはドクターの映像を消し、つぶやいた。「嘘だ。」 |
※15: Cyrik Ocean ※16: Daleth ※17: "briefing room" ですが「作戦室」と訳されています。作戦室 (ready room) は通常ジェインウェイがいる、ブリッジからすると会議室の反対側の狭い部屋を指す言葉です |
コーレンのオフィス。「記録開始。記憶装置を再点検した。ドクターは一つの事柄に関しては確かに、真実を言っていた。彼はホログラムで、バックアッププログラムだ。人工生命体だとはわかっていたが、アンドロイドだと思っていた。それが間違いだったとすれば、ヴォイジャーについても間違いがあるのかもしれない。それに加え、医療用の目的で設計されたホログラムが、あれほどすらすら嘘をつけるものか。起動させた瞬間から無実を主張している。最初は、信じられなかった。記録終了。」
ため息をつく。 博物館は人で賑わっている。コーレンは展示品の医療用トリコーダーを手にした。それを置き、コンピューターを操作する。「再現映像を起動。ヴォイジャーとの遭遇。医療室を表示せよ。」 中へ入る。 パネルを扱い、コーレンはドクターを呼び出した。「緊急事態の概要を…。ああ、君か。」 「あれからいろいろと考えた。」 「そうか。もう聞きたくないかと思った。嘘はね。」 「結論を急ぎ過ぎた。すまない。」 「なぜ気が変わった。」 「頭を冷やした。」 「一つ言っておくが、話の途中で機能を停止させるのはやめてもらいたい。不愉快な、思い出があってね。」 「今後は気を付ける。」 「よし。私を出来の悪いホログラムのように扱うなら二度と協力しないからな。永遠に記憶装置で眠ってる方がよっぽどましだ。」 「口論しに来たんじゃない。」 「じゃあ、何の用だ。」 「わからない。話したかった。700年前ここで本当は何が起こったのか。」 「こんな大量殺戮者の話を、聞くつもりがあるのか?」 「公平な立場を保つ。それは約束しよう。私の身にもなってみてくれ。ずっと昔から信じていたんだ。疑ったこともない。」 「君を混乱させたいわけじゃない。でも白を黒とは言えないからね。」 「ああ、わかってる。私は真実を知りたい。調停官たちにも知ってもらいたい。」 「よし。舞台はもう出来上がってる。ただ人物のキャラクターを替え、プロットも手直ししたい。私はホログラムのプログラムが得意でね。コンピューターにアクセスさせてくれれば、当時のシミュレーションを作って、真実を見せられる。」 うなずくコーレン。 作戦室のジェインウェイ。「大使、ご心配なく。医療品は豊富にありますから、喜んでヴァスカンにお分けしましょう。」 デイリス:「取引成立だ。引き換えにダイリチウム※18を必要なだけおもち下さい。」 「助かります、大使。」 「それではすぐに転送させましょう。あなた方のためを思えば、なるべく早く済ませた方がいい。」 「あら、どうして?」 「我々はキリアンとずっと紛争状態にあります。もう今日明日にでも戦争になり兼ねません。外向的手段は尽くしましたが、何しろキリアンは好戦的で、頑固なんです。」 「そうですか。事情はわかりました。」 「あなたに仲裁をお願いしたいくらいです。あなたなら交渉をうまく運んでくれそうだ。」 笑うジェインウェイ。「漂流中でなければね。ジェインウェイより医療室。」 医療室のドクター。「ドクターです。」 ジェインウェイ:『デイリス大使と合意に達したわ。医療品をまとめてくれない?』 ドクター:『わかりました。第1貨物室に送ります。』 「医療品を地表へ転送したらすぐに…」 船が揺れた。トゥヴォックの通信が入る。『非常警報。艦長、至急ブリッジへ。』 ブリッジに戻るジェインウェイとデイリス。トゥヴォック:「3隻の船から攻撃を受けています。」 デイリス:「キリアンだ。」 ジェインウェイ:「呼びかけて。」 トゥヴォック:「チャンネル、オープン。」 「宇宙艦ヴォイジャー艦長、ジェインウェイ。我々は敵ではありません。攻撃をやめて。」 「応答ありません。」 デイリス:「艦長、急いで退避して下さい。」 キム:「シールド、86%」 ジェインウェイ:「軌道離脱。とにかく離れて。」 パリス:「了解。」 警報が鳴る。トゥヴォック:「侵入者 4名、機関室です。」 ジェインウェイ:「ジェインウェイより機関室。ベラナ、応答して。」 返事がない。 ジェインウェイ:「トゥヴォック。」 向かうトゥヴォック。 キリアンが機関室を占拠している。セブンに銃を向けたテドランが命じる。「ハイテク機器を片っ端から奪え!」 セブン:「捕まるだけだ。」 トゥヴォックたち保安部員が到着した。「武器を下ろせ!」 テドラン:「そっちこそ下がるんだ。」 トゥヴォックは部下に道を開けさせた。セブンたちを連れたまま、機関室を出ていくキリアン。 ブリッジにトゥヴォックの報告が入る。『トゥヴォックより艦長。』 ジェインウェイ:「どう?」 『キリアンは機関部員を 3名殺害。セブンと負傷したクルーを 1名、人質に取っています。第2デッキ、セクション32 に移動。』 「了解。仲裁を頼みたいとおっしゃったわね。そうするしかないようです。ドクターに負傷者の報告。第2デッキに来るように。」 デイリスとキムに話すジェインウェイ。 ターボリフトを降りるジェインウェイ、ドクター、デイリス。 ジェインウェイ:「ジェインウェイよりトゥヴォック。現在セクション31。」 トゥヴォック:『第2デッキのクルーは退避させました。』 「保安チームを 3班こちらへ送って。その後通路は全て封鎖。」 デイリス:「キリアンのやりそうなことだ。」 ドクター:「というと?」 「戦いにも民族性が出る。卑劣なんです。」 奥の通路にキリアンたちが現われた。食堂へ入っていく。 ジェインウェイ:「ジェインウェイよりトゥヴォック。」 トゥヴォック:『はい。』 「キリアンは食堂よ。突入する。」 『保安部が向かっています。』 ドクター:「私が行きます。必要なら銃も使える。」 デイリス:「何と立派な部下だ。」 「いいえ、私はフェイザーで撃たれても死なないからですよ。艦長。」 ジェインウェイ:「行って。」 ドクターを先頭に中へ入る 3人。 デイリス:「テドラン、我々の問題に彼らを巻き込むな!」 テドラン:「魂胆はわかってる。こいつらと同盟を組む気だろう。」 ジェインウェイ:「貿易交渉をしてるだけ。」 「そんなこと信じると思うか? この船で俺たちを叩き潰すつもりだろう。」 デイリス:「お前たちを潰すのに、人の助けはいらんよ。」 ジェインウェイ:「あなたたちの紛争のことも知らなかったの。武器を下ろして。そうすれば危害は加えない。」 保安部員が到着した。その隙にセブンはテドランを殴る。デイリスは銃を構えた。叫ぶジェインウェイ。「やめて!」 だがデイリスは発砲し、テドランに命中した。倒れているテドランを調べるドクター。「死にました。」 ドクターの声。「コンピューター、プログラム中断。確かに殺すことはなかった。ご覧のようにヴォイジャーに責任はありません。テドランが死んだ後、ヴォイジャーはキリアン船 9隻に襲われ、私も機能停止。バックアップモジュールを盗まれたせいだ。次に起動すると、彼の脇に立ってました。700年後にね。」 コーレンや調停官たちも食堂にいる。キリアン調停官※19はいう。「よくできた話ね。」 ドクター:「ホログラムの技術が異なるので、技術的には多少の難がありますが、これが実際に起こったことなんです。」 「そうかしら。戦犯が命惜しさに作り話をしてる可能性もあるわ。」 ヴァスカン調停官※20。「君の証言を裏づける証拠はあるのか?」 ドクター:「はい、あります。実はこれは、テドランが死んだ時私が彼をスキャンした、トリコーダーです。データにアクセスできれば、彼がヴァスカンの武器で殺されたことがはっきりする。艦長のでなくてね。」 「できるのか?」 コーレン:「何年も解読できませんでしたが、ドクターの助けがあればあるいは…」 キリアン調停官:「それが何の証拠になるの? テドランはヴォイジャーで殺された。我が民族を抑圧するための陰謀よ。どの武器を誰が撃ったかなんて問題ではない。」 ヴァスカン調停官:「陰謀などあったのか? 本当にヴォイジャーと我々があの大戦争を始めたのか。我々の方はキリアンが侵略者だと信じてきた。彼の証言で歴史の全てに疑問符がつく。」 「私の子供たちは未だにあなたの子供とは同じ学校には通えないのよ。私たちは郊外にしか住めない。その事実は変わらない。」 「ここで問題になっているのは今ではない。歴史を正すことだ。」 ドクター:「どっちが侵略したかは知りません。ただヴォイジャーのせいでないことは確かだ。」 キリアン調停官:「あなたがこんな大量殺戮者に協力するなんて信じられない。よりによってこの博物館を作ったあなたが。」 コーレン:「私が思っていたより、ことは単純ではなかったんだ。」 「耳を貸す必要なんてないんです。このホログラムを即刻逮捕して、大量虐殺で起訴すべきね。」 ヴァスカン調停官:「君には決定権はない。」 「そうよねえ。人種差別はしてないってポーズのために、私を委員会に入れただけだもの。」 コーレン:「やめてくれ、人種の問題じゃない。」 「全て人種の問題よ! ヴァスカンは権力を独占するためなら何でもするのよ。」 ヴァスカン調停官:「残念な発言だな。ドクターの言い分を聞くのが我々の仕事なんだ。調査を続けてくれたまえ。」 コーレン:「はい、調停官。」 出ていくドクターにキリアン調停官は言った。「犯した罪は、償ってもらう。」 「700年も経ってるというのに、君らは相変わらずもめてるようだな。もう少し成長していてもよさそうなのに。」 医療室で作業するドクター。 コーレン:「変わるのは簡単じゃないからね。」 「ふん、そのようだね。」 「君がいってた仕様を入力した。」 「じゃあ試してみよう。」 工具が現われた。ドクター:「まあまあだ。この工具でトリコーダーで最初の暗号シーケンスは突破できるだろう。トレスがいれば助かったんだがね。」 コーレン:「トレス? 確か転送主任だな。」 「機関主任だ。それも歴史の本を訂正しといてくれたまえ。」 「どんな人物だったんだ。彼女の性格も違っているというんだろ?」 「私を信じるのか?」 「まあ、なるべく公平に見ようとしているんだ。」 "B'Elanna Torres... intelligent, beautiful, and with a chip on her shoulder the size of the Horsehead Nebula. She also had a kind of... vulnerability that made her... quite endearing."「懐かしいか、クルーたちが。」 「ほんの 2、3日前に会ったように思えるのに、実際は数百年だ。二度と会えないんだな。……帰れただろうか、地球に。」 「私もそれが知りたかった。子供の頃からずっとね。」 「そうなのか。」 「私がまだ子供だった頃、ヴォイジャーの名前を初めて聞いて、イマジネーションを掻き立てられた。」 「ヴォイジャーは悪者だったのに?」 「子供にとっては、そんなことは問題じゃなかったね。故郷から遠く離れ、宇宙の星々を旅する船だぞう。ハ、それだけで胸が躍ったよ。ヴォイジャーのおかげで私は歴史に恋したんだ。」 「それが本当なら、君もクルーの一員になれたよ。」 突然大きな音と共に、揺れが走った。ドクター:「シミュレーションであって欲しいねえ。」 調べるコーレン。「いいや違う。」 物が割れる音が聞こえる。ドクターはトリコーダーを持って外に出た。 博物館に多数のヴァスカンが押し寄せていた。手には武器を持っている。「全部壊せ! あっちにもあるぞ、来い!」 爆発も起こる。 |
※18: dilithium 宇宙艦上のワープ推進システムに使われる結晶物質。映画 ST4 "The Voyage Home" 「故郷への長い道」など ※19: Kyrian Arbiter (Marie Chambers) 声:定岡小百合 ※20: Vaskan Arbiter (クレイグ・リチャード・ネルソン Craig Richard Nelson TNG第62話 "A Matter of Perspective" 「疑惑のビーム」のクラッグ (Krag) 役) 声:大川透、DS9 ガラックなど |
展示品やコンピューターを壊し続けるヴァスカン。コーレンはたまらず、一人に近づいた。「よせ、やめるんだ!」
「ホログラムのことは聞いた。嘘だらけだ。」
「やめろ、聞いてくれ!」
「もう聞き飽きたんだよ!」
倒されるコーレン。ドクターが駆け寄る。コーレン:「光子手榴弾※21を使ってる。隠れた方がいい。こっちだ。」
トリコーダーを置いて来てしまったが、ドクターは気づいていない。身を隠す 2人。 夜が明けた。破壊し尽くされた博物館。戻って来たコーレンに尋ねるドクター。「どうなってる。まだ銃声がする。」 「ひどくなってる。抗議行動に暴動、2人も死人が出た。大丈夫だ。この周りは非常線が張られた。」 「そんなことはどうだっていい。私のせいで死者が 2人も出たのか。」 「君はきっかけに過ぎない。何年も緊張が続いてた。爆発は時間の問題だった。トリコーダーは見つかったのか。」 「まだだ。」 「早く見つけないと。キリアンは君を罰しろと要求してるが、ヴァスカンは歴史の見直しをしたがってる。調査を続けろと言ってきた。」 「これからどうなる。」 「わからんよ。ヴァスカンはキリアンの怒りを抑えられんだろう。また戦争になるかもしれない。」 「それなら道は一つだ。私を消してくれ。私はこの戦争のシンボルになってる。私がいる限り、君の仲間は戦いをやめない。プログラムの消去法を教える。昨日の襲撃で傷ついたといえばいい。責任は問われないだろう。」 「そんなことできっこない!」 「なら自分でやる。」 「だめだ!」 「私は医者なんだ。人を救うため作られた。なのに星全体を危険にさらしてるんだ。再起動以来、ヴォイジャーの汚名返上だけを考えてきた。だがもういい。大勢の命が懸かってる。」 「以前なら君に同意しただろう。だが真実はどうなる。」 「真実がなんだ! 名前に、日付に、場所。それが何だ。解釈次第でどうとでもなる。第一それで、何が変わるんだ。君たちの今や、未来には何の関係もない。」 「その目で見た真実は変えられないだろう!」 「変えられる。変えるとも。テドランは真の殉教者で、英雄だ。キリアンの聖戦のシンボルだ。700年後にひょっこり現れた私が、それを否定してどうなる。」 「歴史の歪曲のせいで、我々は責任を擦りつけ合ってきた。今真実を明らかにしないと、また 700年戦いが続くんだ。」 ドクターは考えて、言った。「トリコーダーを探そう。」 残骸の中を探し始める 2人。その様子を見ているキリアンやヴァスカンたちがいる。キリアンの女性※22が説明する。「歴史の大きな転換点でした。」 女性がコンピューターを操作し、ドクターたちの映像が消えた。「ドクターが真実を明かした結果、キリアンとヴァスカンは対話を始めました。そして私たちは、お互いの文化や伝統を尊重するようになったのです。コーレンやドクターたちの努力が、統一への地ならしをしました。コーレンは 6年後に亡くなりますが、協調の時代の夜明けを見届けました。 "And the Doctor? Well... he served as our surgical chancellor for many years... until he decided to leave. He took a small craft... and set a course for the Alpha Quadrant... attempting to trace the path of Voyager. He said he had... 'A longing for home.'では次へ。」 部屋を去る見学者。壁面のパネルには、誇らしげなドクターの姿が映し出されていた。 |
※21: photon grenade 短距離用で、効果を調整できるエネルギー兵器。TNG第80話 "Legacy" 「革命戦士イシャーラ・ヤー」でも使用 ※22: (Mary Anne McGarry) 名前は Tabris ですが、セリフ中には言及されていません ※23: surgical chancellor |
感想
ティム・ラスの初監督作品は、民族の対立と歪曲された歴史という重いテーマを描きながら、見事にスタートレックの形に納めた素晴らしいエピソードでした。導入の意外性といい、最後のシーンといい、言うことないでしょう。こういう話があるから、やめられません。 バックアップモジュールとしての「もう一人のドクター」は、"The Swarm" 「ドクターのオーバーロード」での事件を考えると少々不可解ですが、そのエピソードの後に設計されたものかもしれません。必死にヴォイジャーのクルーの汚名を晴らし、その後独り地球へ旅立ったドクター。泣けますね。 |
第90話 "Unforgettable" 「姿なき追跡者」 | 第92話 "Demon" 「人を呼ぶ流動生命体」 |