コーレンのオフィス。「記録開始。記憶装置を再点検した。ドクターは一つの事柄に関しては確かに、真実を言っていた。彼はホログラムで、バックアッププログラムだ。人工生命体だとはわかっていたが、アンドロイドだと思っていた。それが間違いだったとすれば、ヴォイジャーについても間違いがあるのかもしれない。それに加え、医療用の目的で設計されたホログラムが、あれほどすらすら嘘をつけるものか。起動させた瞬間から無実を主張している。最初は、信じられなかった。記録終了。」
ため息をつく。
博物館は人で賑わっている。コーレンは展示品の医療用トリコーダーを手にした。それを置き、コンピューターを操作する。「再現映像を起動。ヴォイジャーとの遭遇。医療室を表示せよ。」 中へ入る。
パネルを扱い、コーレンはドクターを呼び出した。「緊急事態の概要を…。ああ、君か。」
「あれからいろいろと考えた。」
「そうか。もう聞きたくないかと思った。嘘はね。」
「結論を急ぎ過ぎた。すまない。」
「なぜ気が変わった。」
「頭を冷やした。」
「一つ言っておくが、話の途中で機能を停止させるのはやめてもらいたい。不愉快な、思い出があってね。」
「今後は気を付ける。」
「よし。私を出来の悪いホログラムのように扱うなら二度と協力しないからな。永遠に記憶装置で眠ってる方がよっぽどましだ。」
「口論しに来たんじゃない。」
「じゃあ、何の用だ。」
「わからない。話したかった。700年前ここで本当は何が起こったのか。」
「こんな大量殺戮者の話を、聞くつもりがあるのか?」
「公平な立場を保つ。それは約束しよう。私の身にもなってみてくれ。ずっと昔から信じていたんだ。疑ったこともない。」
「君を混乱させたいわけじゃない。でも白を黒とは言えないからね。」
「ああ、わかってる。私は真実を知りたい。調停官たちにも知ってもらいたい。」
「よし。舞台はもう出来上がってる。ただ人物のキャラクターを替え、プロットも手直ししたい。私はホログラムのプログラムが得意でね。コンピューターにアクセスさせてくれれば、当時のシミュレーションを作って、真実を見せられる。」
うなずくコーレン。
作戦室のジェインウェイ。「大使、ご心配なく。医療品は豊富にありますから、喜んでヴァスカンにお分けしましょう。」
デイリス:「取引成立だ。引き換えにダイリチウム※18を必要なだけおもち下さい。」
「助かります、大使。」
「それではすぐに転送させましょう。あなた方のためを思えば、なるべく早く済ませた方がいい。」
「あら、どうして?」
「我々はキリアンとずっと紛争状態にあります。もう今日明日にでも戦争になり兼ねません。外向的手段は尽くしましたが、何しろキリアンは好戦的で、頑固なんです。」
「そうですか。事情はわかりました。」
「あなたに仲裁をお願いしたいくらいです。あなたなら交渉をうまく運んでくれそうだ。」
笑うジェインウェイ。「漂流中でなければね。ジェインウェイより医療室。」
医療室のドクター。「ドクターです。」
ジェインウェイ:『デイリス大使と合意に達したわ。医療品をまとめてくれない?』
ドクター:『わかりました。第1貨物室に送ります。』
「医療品を地表へ転送したらすぐに…」
船が揺れた。トゥヴォックの通信が入る。『非常警報。艦長、至急ブリッジへ。』
ブリッジに戻るジェインウェイとデイリス。トゥヴォック:「3隻の船から攻撃を受けています。」
デイリス:「キリアンだ。」
ジェインウェイ:「呼びかけて。」
トゥヴォック:「チャンネル、オープン。」
「宇宙艦ヴォイジャー艦長、ジェインウェイ。我々は敵ではありません。攻撃をやめて。」
「応答ありません。」
デイリス:「艦長、急いで退避して下さい。」
キム:「シールド、86%」
ジェインウェイ:「軌道離脱。とにかく離れて。」
パリス:「了解。」
警報が鳴る。トゥヴォック:「侵入者 4名、機関室です。」
ジェインウェイ:「ジェインウェイより機関室。ベラナ、応答して。」
返事がない。
ジェインウェイ:「トゥヴォック。」 向かうトゥヴォック。
キリアンが機関室を占拠している。セブンに銃を向けたテドランが命じる。「ハイテク機器を片っ端から奪え!」
セブン:「捕まるだけだ。」
トゥヴォックたち保安部員が到着した。「武器を下ろせ!」
テドラン:「そっちこそ下がるんだ。」
トゥヴォックは部下に道を開けさせた。セブンたちを連れたまま、機関室を出ていくキリアン。
ブリッジにトゥヴォックの報告が入る。『トゥヴォックより艦長。』
ジェインウェイ:「どう?」
『キリアンは機関部員を 3名殺害。セブンと負傷したクルーを 1名、人質に取っています。第2デッキ、セクション32 に移動。』
「了解。仲裁を頼みたいとおっしゃったわね。そうするしかないようです。ドクターに負傷者の報告。第2デッキに来るように。」 デイリスとキムに話すジェインウェイ。
ターボリフトを降りるジェインウェイ、ドクター、デイリス。
ジェインウェイ:「ジェインウェイよりトゥヴォック。現在セクション31。」
トゥヴォック:『第2デッキのクルーは退避させました。』
「保安チームを 3班こちらへ送って。その後通路は全て封鎖。」
デイリス:「キリアンのやりそうなことだ。」
ドクター:「というと?」
「戦いにも民族性が出る。卑劣なんです。」
奥の通路にキリアンたちが現われた。食堂へ入っていく。
ジェインウェイ:「ジェインウェイよりトゥヴォック。」
トゥヴォック:『はい。』
「キリアンは食堂よ。突入する。」
『保安部が向かっています。』
ドクター:「私が行きます。必要なら銃も使える。」
デイリス:「何と立派な部下だ。」
「いいえ、私はフェイザーで撃たれても死なないからですよ。艦長。」
ジェインウェイ:「行って。」
ドクターを先頭に中へ入る 3人。
デイリス:「テドラン、我々の問題に彼らを巻き込むな!」
テドラン:「魂胆はわかってる。こいつらと同盟を組む気だろう。」
ジェインウェイ:「貿易交渉をしてるだけ。」
「そんなこと信じると思うか? この船で俺たちを叩き潰すつもりだろう。」
デイリス:「お前たちを潰すのに、人の助けはいらんよ。」
ジェインウェイ:「あなたたちの紛争のことも知らなかったの。武器を下ろして。そうすれば危害は加えない。」
保安部員が到着した。その隙にセブンはテドランを殴る。デイリスは銃を構えた。叫ぶジェインウェイ。「やめて!」
だがデイリスは発砲し、テドランに命中した。倒れているテドランを調べるドクター。「死にました。」
ドクターの声。「コンピューター、プログラム中断。確かに殺すことはなかった。ご覧のようにヴォイジャーに責任はありません。テドランが死んだ後、ヴォイジャーはキリアン船 9隻に襲われ、私も機能停止。バックアップモジュールを盗まれたせいだ。次に起動すると、彼の脇に立ってました。700年後にね。」
コーレンや調停官たちも食堂にいる。キリアン調停官※19はいう。「よくできた話ね。」
ドクター:「ホログラムの技術が異なるので、技術的には多少の難がありますが、これが実際に起こったことなんです。」
「そうかしら。戦犯が命惜しさに作り話をしてる可能性もあるわ。」
ヴァスカン調停官※20。「君の証言を裏づける証拠はあるのか?」
ドクター:「はい、あります。実はこれは、テドランが死んだ時私が彼をスキャンした、トリコーダーです。データにアクセスできれば、彼がヴァスカンの武器で殺されたことがはっきりする。艦長のでなくてね。」
「できるのか?」
コーレン:「何年も解読できませんでしたが、ドクターの助けがあればあるいは…」
キリアン調停官:「それが何の証拠になるの? テドランはヴォイジャーで殺された。我が民族を抑圧するための陰謀よ。どの武器を誰が撃ったかなんて問題ではない。」
ヴァスカン調停官:「陰謀などあったのか? 本当にヴォイジャーと我々があの大戦争を始めたのか。我々の方はキリアンが侵略者だと信じてきた。彼の証言で歴史の全てに疑問符がつく。」
「私の子供たちは未だにあなたの子供とは同じ学校には通えないのよ。私たちは郊外にしか住めない。その事実は変わらない。」
「ここで問題になっているのは今ではない。歴史を正すことだ。」
ドクター:「どっちが侵略したかは知りません。ただヴォイジャーのせいでないことは確かだ。」
キリアン調停官:「あなたがこんな大量殺戮者に協力するなんて信じられない。よりによってこの博物館を作ったあなたが。」
コーレン:「私が思っていたより、ことは単純ではなかったんだ。」
「耳を貸す必要なんてないんです。このホログラムを即刻逮捕して、大量虐殺で起訴すべきね。」
ヴァスカン調停官:「君には決定権はない。」
「そうよねえ。人種差別はしてないってポーズのために、私を委員会に入れただけだもの。」
コーレン:「やめてくれ、人種の問題じゃない。」
「全て人種の問題よ! ヴァスカンは権力を独占するためなら何でもするのよ。」
ヴァスカン調停官:「残念な発言だな。ドクターの言い分を聞くのが我々の仕事なんだ。調査を続けてくれたまえ。」
コーレン:「はい、調停官。」
出ていくドクターにキリアン調停官は言った。「犯した罪は、償ってもらう。」
「700年も経ってるというのに、君らは相変わらずもめてるようだな。もう少し成長していてもよさそうなのに。」 医療室で作業するドクター。
コーレン:「変わるのは簡単じゃないからね。」
「ふん、そのようだね。」
「君がいってた仕様を入力した。」
「じゃあ試してみよう。」
工具が現われた。ドクター:「まあまあだ。この工具でトリコーダーで最初の暗号シーケンスは突破できるだろう。トレスがいれば助かったんだがね。」
コーレン:「トレス? 確か転送主任だな。」
「機関主任だ。それも歴史の本を訂正しといてくれたまえ。」
「どんな人物だったんだ。彼女の性格も違っているというんだろ?」
「私を信じるのか?」
「まあ、なるべく公平に見ようとしているんだ。」
"B'Elanna Torres... intelligent, beautiful, and with a chip on her shoulder the size of the Horsehead Nebula. She also had a kind of... vulnerability that made her... quite endearing."
「ベラナ・トレスは、切れ者で美しく、喧嘩っ早くて、怒ると手がつけられないんだ。でもふと脆さを見せる時もあって、それがかわいかったね。」
「懐かしいか、クルーたちが。」
「ほんの 2、3日前に会ったように思えるのに、実際は数百年だ。二度と会えないんだな。……帰れただろうか、地球に。」
「私もそれが知りたかった。子供の頃からずっとね。」
「そうなのか。」
「私がまだ子供だった頃、ヴォイジャーの名前を初めて聞いて、イマジネーションを掻き立てられた。」
「ヴォイジャーは悪者だったのに?」
「子供にとっては、そんなことは問題じゃなかったね。故郷から遠く離れ、宇宙の星々を旅する船だぞう。ハ、それだけで胸が躍ったよ。ヴォイジャーのおかげで私は歴史に恋したんだ。」
「それが本当なら、君もクルーの一員になれたよ。」
突然大きな音と共に、揺れが走った。ドクター:「シミュレーションであって欲しいねえ。」
調べるコーレン。「いいや違う。」
物が割れる音が聞こえる。ドクターはトリコーダーを持って外に出た。
博物館に多数のヴァスカンが押し寄せていた。手には武器を持っている。「全部壊せ! あっちにもあるぞ、来い!」 爆発も起こる。
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※18: dilithium 宇宙艦上のワープ推進システムに使われる結晶物質。映画 ST4 "The Voyage Home" 「故郷への長い道」など
※19: Kyrian Arbiter (Marie Chambers) 声:定岡小百合
※20: Vaskan Arbiter (クレイグ・リチャード・ネルソン Craig Richard Nelson TNG第62話 "A Matter of Perspective" 「疑惑のビーム」のクラッグ (Krag) 役) 声:大川透、DS9 ガラックなど
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