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ヴォイジャー エピソードガイド
第90話「姿なき追跡者」
Unforgettable

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・イントロダクション
※1ブリッジ。キムがチャコティたちに説明している。「重水素の除去を始めようという時、セブンがバサード・コレクターの改良を申し出たんです。どの程度の改良かは実際作業を始めるまでわからなかった。彼女を責めてるわけじゃない。実際効率は 23%も…」 「結論を言いたまえ。」 「コレクターが限界なんです。ものには限度があるということをどう説明したらいいか。」 「なぜ早くそう言わん。今後は彼女から目を離すな。」 副長席に戻るチャコティ。 キム:「目をねえ。了解。」 話を聞いていたパリスは言う。「ここが、教育係としての腕の見せどころだ。がんばれよ。」 ため息をつくキム。「軽く言うな。」 突然船が揺れ始めた。 「何だ?」 操舵席につくパリス。 チャコティ:「セブンの改良を元に戻してるのか?」 キム:「違います。」 作戦室から出てくるジェインウェイ。「報告。」 トゥヴォック:「船外で複数回、プロトン※2サージを探知しました。1度目は左舷中ほどで、2度目は右舷前方で 2個所。」 「スクリーン、オン。」 宇宙空間だけが映っている。ジェインウェイ:「何も見当たらない。」 だが揺れは続く。パリス:「謎の物体が接近中。」 ジェインウェイ:「非常警報。天体測定ラボ。」 セブン:『セブンだ。』 「測定センサーでプロトンサージをスキャンして。」 天体測定ラボのセブン。「近距離で武器の使用を探知。」 ジェインウェイ:『原因は?』 「姿を隠した船体 2隻が、戦闘中らしい。」 キム:「その、真っただ中に?」 ジェインウェイ:「回避行動。」 パリス:「了解。」 チャコティ:「大規模なサージを探知。どちらか、爆破されたようです。」 爆発と共に破片が飛び散り、もう一隻の船が姿を見せた。 トゥヴォック:「艦長、船内に 1名の生命反応を探知。」 船はまた消えた。 トゥヴォック:「まだ目視領域内にいます。」 キム:「呼びかけてます。音声のみ。」 ジェインウェイ:「聞かせて。」 女性の声。『チャコティ、お願い助けて。』 チャコティは立ち上がり、ジェインウェイと顔を見合わせた。

※1: DS9 ガラック役のアンドリュー・J・ロビンソン監督です

※2: 陽子 proton

・本編
船は消えたり現れたりを繰り返している。女性の声が響く。『チャコティ、聞こえてるの? 応答して。』 チャコティ:「こちらはチャコティ副長。君は?」 『ヴォイジャーのクルーなら誰もいいわ。お願い、私を助けて!』 大きな音が聞こえた。 トゥヴォック:「爆発が起こったようです。」 キム:「船体も非常に不安定。生命維持装置、停止。」 ジェインウェイ:「医療室へ転送して。」 「座標を合わせます。失敗、もう一度。転送不可能。ロックをしても、すぐに外れます。」 チャコティ:「船内へ行けば、中から船体を安定させられるかもしれません。」 ジェインウェイ:「お願い。」 「トム、トゥヴォック、乗船準備をしろ。」 ターボリフトに乗る。
船の中へ転送される 3人。ライトを点ける。中は暗く、破壊されている。 トゥヴォック:「環境制御システムが機能していません。酸素レベルが危険値に達しています。」 チャコティ:「トム、生命維持装置の修理を。」 「生命反応なし。」 「船体を安定させてくれ。パイロットを探す。」 奥へ進むチャコティ。「誰かいるか?」 うめき声が聞こえた。 「聞こえるか?」 「チャコティ、あなたなの?」 足だけが見えている。 「そうだ。今すぐ隔壁をどけてやる。」 「梁に気を付けて。」 「てこで持ち上げるとしよう。」 近くにあった棒を使うチャコティ。 「今だと言ったら、自力で出てきてくれ。君の命が懸かってる。」 「わかった。」 「いくぞ。」 「ええ。」 「今だ!」 隔壁を持ち上げるのと同時に、異星人の女性が助け出される。 チャコティに抱きかかえられた女性※3は言う。「来てくれたのね。」 「会ったことが?」 女性は答える前に、気を失った。 「チャコティからヴォイジャー。医療室へ 2名転送。」 転送される 2人。
医療室。ドクターがベッドに寝ている女性をトリコーダーで調べている。ジェインウェイが入り、ドクターに尋ねた。 「容体は?」 「わかりません。スキャンしてるんですが、スキャナーに反応しないんです。幸い私は視診が得意だ。軽い脳震盪と頚骨骨折と診た。心配ありません。すぐに治しましょう。」 「なぜあなたを知ってたの?」 チャコティ:「わかりません。」 ドクターがスキャンしていると、女性はうめくように言う。 「いや…来ないで…。」 ドクター:「意識が戻りました。」 目を開く女性。 ドクター:「怖がらなくていい。君はもう安全だ。」 女性はドクター、チャコティ、ジェインウェイを順番に見た。 「艦長、お願いです。助けて下さい。私を乗せてすぐにここから離れて。じゃないと奴らに捕まってしまう。」 ジェインウェイ:「落ち着きなさい。先にいくつか質問をさせて。あなたは誰? なぜチャコティ副長を知ってるの?」 「話せば長くなるけど、一体…一体どこから始めればいいのか。とにかく私を助けて下さい。じゃないと奴らに捕まり、連れ戻されてしまう。私は二度と戻りたくないんです。」 「事情を聞くまで誰にもあなたを引き渡したりしない。」 「ありがとう。」 「チャコティ、そばにいてあげて。あなたを信頼してる。あなたになら全てを話すかもしれない。」 チャコティ:「だといいですね。」 「逐一報告を。」 ジェインウェイは出ていく。 ドクター:「治療が終わったら少し眠らした方がいいでしょう。」 女性:「ここにいてくれる?」 チャコティ:「もちろん。」 「約束よ。」 ドクター:「よし、これで治ります。ヴァイタルを見てて下さい。まあ、データがないので比べようもありませんが。」 チャコティは返事をせず、女性を見つめている。ドクター:「では、接種記録の仕分けという重要な任務が残っておりますので。」 その場を離れるドクター。 女性:「いなくなった?」 チャコティ:「ああ。」 「二人っきりね。」 「ある意味ではな。早速事情を聞かせてくれないか。」 「そうする。すごく難しいけど。私たち、会ったことがある。」 「そうだとしたら私も覚えてるはず。」 「いいえ、それはありえない。不可能よ。私たちの種族の存在は、ほかの種族の記憶には残らないの。たまたま別の人種と接触した時は、滅多にないけど、数時間だけ覚えててもらえる。でも記憶には残らない。翌日には完全に忘れられてしまう。」 「それは何かの技術でか? テレパシーか?」 「生まれつきそういう生体なの。体から発散する、ある種のフェロモンが、ほかの種族の記憶システムを妨害するみたい。」 「トリコーダーでスキャンできなかったのも、ロックできなかったのも、そのせいか。」 「その種の信号は体を通さないの。」 「船も探知できなかった。」 「身を隠すように生まれついてるんだもん。自ずとそういう技術だって発達する。」 「本当に会ったことが?」 「1ヵ月前よ。何週間かここにいた。」 笑うチャコティ。「そんなに?」 「私たちはずっと一緒にいたの。あなたのおかげで任務を終え、私は去った。あなたに忘れられることを知りながら。」 「なぜ戻ってきた。なぜ我々に助けを求める。」 「そうやってすぐに結論を聞きたがる。あなたはいつだってそう。でも順を追って話さなくちゃ、わかってもらえないことなの。」 「わかった。話してくれ。」 「戻ったのは……あなたを愛してしまったからよ。」

※3: (Virginia Madsen) 声:弥永和子

会議室。チャコティは上級士官たちに説明している。「母星はラムラ※4。誰も逃げ出すことのできない非常に閉鎖的な星だそうです。彼女はそれに反抗し逃亡を試みたが捕まりそうになり、我々に助けを求めた。」 トゥヴォック:「彼女がヴォイジャーに乗船したことがあるというのは?」 「1月前らしい。その時彼女は、母星からの逃亡者を追う、追跡者※5だったそうだ。逃亡者を追って当艦に乗船したらしい。」 キム:「ここにいた? 誰も覚えてないんですよ。」 「その通りだ。まずは疑ってかかった方が懸命だろう。」 パリス:「船を調べましたが、かなり高度な分極※6技術が使われてました。あれなら難なく我々のスキャンをかわせるはずです。しばらくつけられたかもしれません。」 キム:「嘘をつくために、我々を観察してたのかも。」 ジェインウェイ:「なぜ? なぜそんな嘘を? 追手と戦う必要だってないじゃないの。助けて欲しいなら、最初から私たちに頼んでくればいいんじゃない?」 チャコティ:「同感です。だが彼女にはほかの狙いがあるのかもしれない。本当にここにいたなら証拠があるはずです。彼女はコンピューターウィルスを船内にまき、自分の痕跡を消したと言っている。だがどこかしらに、何らかの証拠が残っているはずだ。ハリー、トゥヴォック、トム、彼女の船へ行き、航行記録をヴォイジャーと比較してくれ。」 「解散。」 2人だけになり、ジェインウェイはチャコティに言う。 「警戒するのは結構だけど、そこまで疑う必要あるかしら。」 「用心に越したことはありません。」 「そうね。彼女を保護するなら、それなりの責任が出てくる。この件に関わるなら、真実を知って腰を据えなくては。あなたの配慮に感謝します。」 「いえ、艦長。」 出て行くチャコティ。
セブンたちは女性と共に調査を行っている。 「あなたの船から、ここに航行記録をダウンロードした。」 女性:「じゃあ、こちらのここ 2ヵ月の記録と照らし合わせて。」 トゥヴォック:「ヴォイジャーはアルファ宇宙域へ向かっている。」 「私の船の記録は?」 天体測定ラボのスクリーンに、ヴォイジャーの航行図と共に表示される。明らかにしばらくの間、ヴォイジャーの横を航行していた。 女性:「ほらね。少なくとも 2週間は同行してるわ。」 セブン:「航行記録は書き換えることも可能だ。」 トゥヴォック:「ヴォイジャーに乗船した証拠にはならない。」 女性:「2人のそういうとこ、好きよ。理詰めで攻めてくるところや、徹底して疑うところ。書き換えてないことは記録を分析すればわかるはずよ。」 チャコティがやってきた。「どうだ?」 トゥヴォック:「彼女の話は本当のようですが、まだ調査は終わっていません。」 「続けたまえ。」 「何か食べた方がいいな。食堂に悪い思い出がなきゃいいが。」 女性:「とんでもない。ニーリックスの料理は大好きよ。」 「やっぱりここにいたってのは嘘だ。」 共に出て行くチャコティ。その様子を見ていたセブンはトゥヴォックに尋ねた。 「彼女と話すとチャコティ副長の顔が赤くなる。意味があるのか?」 「その件はあまり詮索しない方がいい。深入りすると、危険だ。」 セブンは話をやめた。
料理を渡すニーリックス。「これならお客さんの口にピッタリですよ。豆の揚げたやつ※7に、ニンジンのソテー。デザートはアーモンドプリン※8だ。」 女性:「おいしそうだわ。」 チャコティ:「ありがとう、ニーリックス。」 2人はテーブルに向かう。女性:「気を遣っちゃって。」 チャコティ:「何がだ?」 「ニンジンは嫌い、揚げ物は胃にもたれる、プリンはヌルヌルしてるところが気持ち悪い。違う?」 座る 2人。 チャコティ:「どうもわからん。君は逃亡者を捕まえに来たと言ってたが、我々がずっと一緒だったとも言ってた。私は何を?」 女性:「それよりなぜ私たち恋に落ちたと思う?」 「『私たち』? 私も君に恋をしてたというのか?」 「そうじゃなかったら、わざわざ危険を侵してまであなたのところに戻って来ると思う?」 「……一つずつ教えてくれ。どうやってこの船に?」 「簡単だったわ。大変だったのはあなたたちに見つからないようにすること。でも乗船して 2日で侵入者警報に引っかかり、遮蔽が解けてしまったの。」 「それから?」 「あなたに会ったのよ。」
貨物室で姿を現す女性。警報が鳴っている。女性は武器を構え、中を進んでいく。物音がし、そちらを振り向く。逆の方向からフェイザーを持ったチャコティが言う。「そこまでだ!」 同じく銃を向ける女性。「撃つ気はない。武器を置いて。」 「侵入者は君の方だ。武器を置きたまえ。」 「私は侵入者じゃない。逃亡者を追って来たの。捕まえ次第すぐ出て行きます。」 「だからといって放ってはおけん。チャコティよりトゥヴォック、第2貨物室にいる。侵入者を発見。」 トゥヴォック:『了解、副長。』 「君は数では敵わない。その武器を渡し、事情を説明すれば協力しよう。」 女性は武器を下ろし、チャコティに渡した。
食堂の女性。「すぐにあなたに惹かれたわ。でも、私にはやらなきゃならない任務があった。あなたの気持ちもわからなかったし。」 「それから、何があった。」 「ジェインウェイ艦長の前で、事情を説明したわ。私がヴォイジャーに密航者がいるというと、すぐにあなたに私への協力を命令してくれた。」 「結果は?」 「すぐに結論を聞きたがるのね。私たちの関係は興味ない?」 「私が聞きたいのは、何が起こったかだけだ。君の気持ちは聞いてない。」 「なぜ? 聞きたくない理由でも?」 「ゲームをする気はない。私には君の話が真実かどうか探る義務がある。仮に真実でも、私は君を覚えていない。君に何らかの感情を抱いたという覚えもない。たとえ君が我々の関係を覚えてたとしても、私にはないに等しいんだ。」 「わかった。」 立ち上がり、窓の外を見つめる女性。 チャコティは近づく。 「済まない。ただはっきりしておきたくて。」 「いいの。」 「私にできることは?」 女性はチャコティに向き直った。 「プリンもらっていい?」 笑うチャコティ。「もちろん。」 「じゃ許してあげる。」 突然船が揺れ、女性はチャコティにもたれかかる。警報が鳴り、食堂にいたクルーも出ていく。ジェインウェイの通信。『チャコティ、ケリン※9、大至急ブリッジへ来るように。』 ケリンは言う。「追跡者に見つかったようね。」

※4: Ramura
種族名 ラムラ人 (Ramurans)

※5: tracer

※6: 分極遮蔽 polarization cloak

※7: soy meal

※8: almond pudding

※9: Kellin

ヴォイジャーは何も見えない空間から、連続して攻撃を受けていた。 ジェインウェイ:「何も探知できない。恐らくあなたの星の人でしょう。」 ケリン:「きっと追跡者です。」 「呼びかけて。」 「応えはしません。」 キム:「その通りです。応答なし。」 攻撃が続く。キム:「敵兵器にシールドは全く効果がありません。」 ジェインウェイ:「周波数を敵の粒子ビームに合わせて。」 「効果ありません。」 トゥヴォック:「シールド強度、29%にダウン。」 ケリン:「降伏するまで撃ってくるはず。私が帰るといえば別だけど。」 ジェインウェイ:「まだ私たちといたい?」 「ええ。」 「トム、いい? 全速前進。」 パリス:「最後の攻撃で推進システムが被弾。スラスターしか使えません。」 ケリン:「艦長、センサーシステムをアクセスさせて下さい。彼らの船を探知できるようにします。」 ジェインウェイ:「お願い。」 ケリンが後ろのコンソールを使っている間、ジェインウェイはチャコティに尋ねる。 「ここが正念場よ。彼女を渡すか応戦するか、どっちにする?」 チャコティはケリンを見てから、言った。 「応戦します。」 ケリン:「今なら彼らを探知できる。ほんの 1、2分よ。」 ジェインウェイ:「ハリー。」 キム:「左舷前方に重装備の船が 2隻。」 「映してちょうだい。」 「これが精一杯です。」 ぼやけたラムラ追跡船※10の映像が映し出される。 ジェインウェイ:「トゥヴォック、武器系統を狙って。」 トゥヴォック:「発射。」 フェイザーが船に命中し、どちらも完全に姿を現した。逃げていく。 ジェインウェイ:「命中ね。非常警報解除。ケリン、あなたがいてくれて良かった。今後どうしたいのか聞いておきましょう。」 ケリン:「この船において下さい。」 「結論は慎重にね。アルファ宇宙域へ向かってるの。途中で気が変わってもあなたの星まで戻れない場所まですぐ行ってしまうわ。」 「考えは変わりません。でも追跡者も、簡単にはあきらめないはずです。警戒して下さい。」 「危険には慣れてる。」 ジェインウェイはチャコティを見た。 ケリン:「さっきはセンサーを一時的に改造しただけですが、天体測定プロセッサーのアクセス許可が頂ければ完全に改造できます。」 ジェインウェイ:「セキュリティロックは上級士官しか無効にできない。」 チャコティ:「私が行きます。」 「お願い。」 チャコティとケリンはブリッジを出ていく。 ジェインウェイ:「トム、機関室と協力して推進システムを修理するように。」 パリス:「了解、艦長。」
機関室に来たチャコティとケリンは、ドアからジェフリーチューブの区域に入った。チャコティ:「第10デッキまで上がるんだ。」 ケリンは動こうとしない。チャコティ:「どうした?」 ケリン:「彼らが絶対追って来られない場所へ行くまで、気が気じゃない。でも今まで、逃げ切れた者はいない。」 「じゃ、君が最初だ。」 「防衛機密を握ってるの。彼らは私が今やろうとしてることを恐れてる。探知法を教えることよ。」 「だが我々が、探知法を知ってしまえば、彼らはこれ以上君を追えなくなるだろう。」 微笑むチャコティに、ケリンも笑みを浮かべる。 「ほんとに優しい人。そういうとこ、よく覚えてる。だからここへ戻って来たのよ。いつか話してあげる。あなたが聞きたくなったら、二人で過ごした最後の夜のことを。」 ケリンは階段を登り始めた。
チャコティは暗い食堂に入った。ニーリックスがいる。「こんばんは。小腹でも空いたんスか?」 「いや、なかなか寝付けないんだ。何かないか?」 「地球じゃそういう時はホットミルクを飲むらしい。私に言わせりゃ最低っス。」 「同感だ。ほかにいい飲み物はないか?」 「ハーブティー※11なんかどうです? 地球のハーブはよりどりみどりだ。別の星とのブレンドもいけますよ。」 「一番リラックスできそうなやつを頼むよ。」 取りかかるニーリックス。 「悩みでも? 失礼、余計な詮索でした。」 「いいんだ。自分でもわからない。」 「お客さんはもうヴォイジャーに慣れたんスか?」 「すっかりな。」 「喜んでるでしょうねえ。」 「そのようだ。」 「失礼を承知で、ストレートに聞かせてもらっていいスか? 彼女が副長に惚れてんのはバレバレっス。副長を見る目からして全然違う。それが不眠症の原因じゃないんスか?」 「彼女がここにいた時、俺たちは愛し合ってたというんだ。俺にはそれが嘘だといえる確信はない。どうしても信じられん。」 「どうしてです。」 「わからんが、ただ俺らしくない。まだ彼女を疑ってる。何らかの目的を達成するために俺を利用してるのかもしれん。」 「信用してないんだ。」 「…あまりな。」 ニーリックスはカップをチャコティに渡した。「あたしに言わせりゃ、副長は自分を信用してないんス。自分の気持ちが怖いんスよ。いい夢を。」
チャコティの部屋。チャイムが鳴り、ドアの前で出迎える。ケリンだ。「眠れなくて。話がしたいの。入っていい?」 中へ入れるチャコティ。尋ねるケリン。「あなたはまだ私の言ったことを疑ってる? それとも私の話を信じてくれた?」 「君の話は証明されつつある。信じるべきだろう。」 「私たちの仲は、証明できない。」 チャコティは何も言わない。 ケリンは話す。「思ってることを隠しておけるたちじゃないからはっきり言うわ。あなたのためにここに来たの。忘れてても構わない。会えばあの時の気持ちに戻ると信じてたから。愛はあった。本当よ。でも今は、もう自信がない。私はこの船を危険にさらしてる。私が戻れば全て解決するはず。だからまだ私に、何の感情もないなら、そう言って。私は帰ります。」 チャコティは言った。「行くな。」

※10: Ramuran tracer ship

※11: herbal tea

笑っているチャコティとケリン。ケリンは食べているものについて尋ねる。 「アイスクリーム※12っていうの?」 「ここにいた時、一度も食べなかったのかい?」 「毎日でも食べたい。」 「どうぞ。」 笑う 2人。 ケリン:「ヴォイジャーって、強いわよね。すごく速いし。」 チャコティ:「ヴォイジャーより強くて速い船とも遭遇してきたが、その都度改良し、攻撃をかわしてきた。」 アイスクリームを置くケリン。「ラムラ船は速い。すぐにこの船に追いつく。」 「ケリン、君を守る。約束するよ。」 「追跡者は手ぶらでは帰らない。一番の不名誉だから。私が捕まえた男は 1年追いかけた。」 「君は捕まらない。彼らの手の内を知ってるじゃないか。」 ケリンはチャコティの腕をつかんだ。 チャコティ:「最後の夜のことを聞かせてくれ。」 「見せてあげる。あなたはここにいたの、この椅子に。そして私は、ここにいた。泡の出る飲み物を飲んでた。」 反対側の椅子に座るケリン。 「シャンパン?」 「そう、お祝いだったから。あなたと逃亡者を捕まえた夜だったの。」 「どうやって?」 「あなたがマグネトン※13を除去すればいいって思い付いたの。そうすれば逃亡者の偽装を解けるって。彼がそばにいるのはわかってたから、罠をかけた。」
転送室に入るチャコティとケリン。 チャコティ:「役に立てずに残念だ。」 ケリン:「先週マイカ※14の軌道上でほかの船へ移ってしまったようなの。そっちを探してみる。」 「力になれることがあれば、言ってくれ。」 「ありがとう。でも大丈夫。自力で探します。」 転送台に乗るケリン。「船へ転送して下さる? マイカへ向かいます。さよなら、いろいろありがとう。」 「転送開始。」 だが転送が行われる代わりに部屋にフラッシュが走り、人間の姿が見える。フェイザーを向けるチャコティ。そのラムラ人は姿を現した。声をかけるケリンとチャコティ。「レスケット※15、随分がんばったわね。」 「せっかく会えたのに残念だが、すぐに帰ってもらおう。」
チャコティに話しているケリン。「そして捕まえたの。神経麻痺エミッター※16を撃ったら、母星に帰れることを喜んでた。」 「神経麻痺エミッター?」 「逃亡者に使う武器。外界での記憶を全て消してしまう。」 「お祝いの後は?」 「あなたの気持ちが変わり始めた。でもこのままでは数時間であなたに忘れられてしまう。だから私から動いたの。」 「いつものことだ。」 「そうね。あなたのそばへ行き、おかげで逃亡者を捕まえられたって、心からお礼を言った。」 ケリンはチャコティのそばに寄る。 「そしてあなたに触れ、告白したの。あなたをすごく好きだって。私は何か思い出が欲しかった。だから、こうしたの。」 口付けをするケリン。「あなたの気持ちを確信したわ。でも私は行かなきゃならなかった。」 チャコティは言う。「もう、その必要はない。」 再びキスに戻る 2人。
廊下。トゥヴォックに話すチャコティ。 「艦長はケリンを、クルーとして迎えるために任務を与えたいらしい。」 「当然の考えでしょう。得意分野は。」 「母星では保安任務についてたらしい。武器や監視の訓練を受けている。戦闘も得意だ。いいポジションはあるかな。」 「ニーリックスなら、喜んで助手にするでしょう。」 立ち止まるチャコティ。「トゥヴォック、冗談だろ。今のは冗談だよな?」 「私の言葉にユーモアを感じたのであれば、可能性はあります。」 「ああそうだ、間違いない。」 「だが理にかなっている。彼女はニーリックスの料理に怒ったクルーから、彼を守るのに役立つはずです。」 笑うチャコティ。「それは言える。だが保安チームに入れた方がもっと役立つはずだ。」 「恐らく。チームに入れ、1週間様子を見てみることにします。最終日にポジションを決めるとしましょう。」 「頼む。」 「副長、ラムラ船のことが気になって仕方ありません。再び攻撃してくるのではないでしょうか。」 「私もそれは考えている。」 「プロトン兵器※17は我々にとって最大の敵です。ケリンがセブンとキム少尉に協力すれば、対抗しうる防御策が見つかるかもしれません。」 「喜んで協力するさ。」 「では 13時に、天体測定ラボへ。」
天体測定ラボ。セブンが話す。 「戦略日誌からデータをダウンロードした。このコンソールからアクセスできる。」 スクリーンにヴォイジャーとラムラ船の戦闘の様子が映される。 ケリン:「プロトンベースの兵器は非常に粒子が細かいのが特徴。」 キム:「何千もの針で刺される感じか。」 「どんなシールドでも、何度調節しても防げない。」 「すごいな。」 「防護策なんて聞いたことがない。」 「じゃ、僕らが一番乗りだ。」 「あの武器を防げるの?」 「そう思う。ビームを分散させれば、シールドを通りにくくなるんじゃないかな。バリオンセンサーをディフレクターコントロールに接続してみるんだ。こういうことだ。感想を聞かせてくれないか?」 「見せてもらう。」 パッドを受け取るケリン。 「聞いたよ。副長が君を保安員としてトゥヴォックに推薦したらしいね。」 「みんなの役に立ちたいの。」 「ベータ・チームに志願するといいよ。最高のチームだ。勉強になると思う。」 「ありがとう。」 ケリンは出て行った。 セブンは言う。「副長の名前を聞いただけで顔が赤くなった。副長の方も同じだ。」 キム:「何が言いたい。」 「恐らく副長とケリンは求愛行動をし合っているのだろう。だが生殖行為を行うのに、複雑な前置きなど必要ない。」 笑うキム。「君はそうでも、信じてくれ。必要な人間もいる。」 「つまり?」 「つまり、前もってお互いのことをよく知っておいた方が、スムーズになれるんだ。親密に。」 「どうしてだ。」 「その方が落ち着くからだよ。一緒に時を過ごし、笑い合い、話し合う。そうするとより、親しくなれる。」 「だが最後にすることは同じだ。」 「そりゃそうだけど。」 「やはり私には時間の無駄としか思えない。」 「だったら僕も説明できない。」 「もっともだ。」 セブンはラボを出て行った。
廊下でパッドを読みながら歩いているケリン。ふと立ち止まり、誰もいない廊下を見つめる。後ろや前にも誰もいない。また歩き出し、後ろを気にしながら自室に入った。テーブルの上を見ると、割れた破片があった。
チャコティに話すケリン。「前の戦闘の時には、この船に乗り込んで来てたのよ。」 「決め付けるのは危険だ。」 「絶対に追跡者よ。ここにいる。私のそばに。あの花瓶は警告だわ。」 「俺が守る。君に危害を加えさせない。」 「もう遅い。」 「遅くない! レスケットをあぶり出した時と同じ方法を使うんだ。奴を捕まえて追い返せばいい。」 突然部屋の中で遮蔽が解かれ、ラムラ人の男が姿を見せた。 「残念だがそうはさせん。」 ケリン:「カーネス※18、やめて。」 チャコティ:「チャコティから保安部、私の部屋に侵入者がいる。」 「お願い。お願いだからやめてちょうだい。」 カーネス:「無駄なことはするもんじゃない。」 神経麻痺エミッターを撃つカーネス。 ケリンを直撃する。「やめてー!」 フェイザーを構えるチャコティ。「やめろ! 武器を離せ!」 エミッターを落とすカーネス。「もう遅い。彼女はここのことを忘れ始めてる。」 チャコティは床に座り込んだケリンに近寄った。

※12: ice cream

※13: 磁子 magneton
マグネトンスキャン (magneton scan) はセンサープロトコル。VOY第13話 "Cathexis" 「幽体離脱」など

※14: Mikah

※15: Resket
(Chuck Magnus) セリフなし

※16: neurolytic emitter

※17: 陽子兵器 proton weapon

※18: Curneth
(マイケル・キャナヴァン Michael Canavan DS9第55話 "Defiant" 「奪われたディファイアント」のタマール (Tamal)、ENT第50話 "First Flight" 「運命の飛行」のヴァルカン人 (Vulcan) 役) 声:佐々木勝彦

ケリンを調べているドクター。何も言わない。チャコティがケリンに話す。 「ドクターにもなす術がないらしい。君の記憶はもう消え始めてる。」 「そんなの嫌よ、チャコティ。そんなの嫌!」 「何か、記憶を呼び覚ます方法はないか。」 「……約束して。私があなたのことを、忘れてしまったら、私と同じことを…私たちの話をしてちょうだい。私に思い出させて。」 「わかった。だがそれ以上のこともやろう。」 ケリンは目を閉じた。
チャコティは拘留室に入り、カーネスに尋ねる。 「神経麻痺エミッターの効力を消す方法は?」 「効力を消す? 考えもつかん。そんなことを試みた奴はいない。」 「私が最初だ。エミッターの影響を教えろ。記憶中枢がどうなる。」 「せっぱ詰まってるようだな。ケリンがそんなに大切か?」 「君は間違ってる。彼女をほっといてやれ。」 「下らん。エミッターの効力を知っていたとしても、お前に言う気はない。」 チャコティはフォースフィールドを解除し、中に入った。カーネスの襟元をつかむ。だが手を離し、カーネスに言う。 「こんなことをする権利はない。」 「権利なら十分ある。我々の星の法律で、明確に保証されている。逃亡は罪だ。我々のことを外の世界に漏らすことも決して許されん。ケリンはその 2つの命令に違反した。彼女を連れ戻せば、逃亡を考えてるほかの者の見せしめになる。」 「そんなに逃亡を願っている者がいるんだとしたら、君らの社会が間違っているんじゃないのか?」 「我々の社会は強く、結束力が固い。我々の努力の賜物だ。2、3人の逃亡者が出たからといって、問題にはならん。」 「問題にならないなら、放っておけばいい。」 「彼らの存在を無視しろというのか? 恐ろしい男だ。」 「記憶を消したところで、彼女は戻ったりしない。」 「もう少し待てば、結果がわかるはずだ。」 「彼女ははっきりここにいたいと言ってた。上層部に言う、言い訳を考えておいた方がいいぞ。」 再びフォースフィールドが張られる。
部屋の前。チャコティはボタンを押した。ケリンが応える。「はい?」 中へ入るチャコティ。「ドクターがこっちだと。気分は?」 「大丈夫よ。会ったことが?」 「ああ。何度もね。」 「申し訳ないんだけど、なぜここにいるのかわからないの。この 2週間のことすっかり忘れてしまってる。」 「わかってる。」 「あの花瓶、私が怒って投げつけたのかしら?」 「違うよ。」 「追跡者が私を連れ戻しに来たんでしょ?」 「そうだ。だが……君が記憶を失う前に、この話をしてくれと、頼まれてたんだ。君は 1月前ここで逃亡者を捕まえた。そして一旦帰り、またここへ来た。」 「自分の任務を終えたのに、なぜまた来たのかしら。」 「俺を……愛してたからだ。」 「……あなたはとても魅力的だわ。でも、そんなこと言われても、とても信じられない。」 「でも事実だ。仕事をするうち、君の存在が気になり出して、すぐに忘れられなくなった。」 「あなたも私を愛していたと?」 「そうだ。その後追跡者がこの船に現れた。エミッターで撃たれた君は、俺に全てを話してくれと、そうすれば記憶を取り戻せると。」 「何だか、変な気分だわ。私にどうしろと。」 「ケリン、帰らないでくれ。ここにいて欲しい、2、3日でいいんだ。もっと、俺のことを知って欲しい。」 「それであなたを好きになるとは思えない。帰らなくちゃ。」 「時間が経てば、気が変わるかもしれない。」 「だったら尚更だわ。帰らなくちゃ。私は一番大事な決まりを破ったの。これ以上罪を重ねたくないの。」 チャコティは出て行こうとする。呼び止めるケリン。 「待って。もっと違う形で会いたかった。」 チャコティは何も言わず、部屋を後にした。
ヴォイジャーの横でラムラ船が遮蔽を解いた。カーネスとケリンが待つ転送室に、チャコティが入る。 「船が着いた。」 ケリン:「ありがとう、副長。」 カーネス:「我々の痕跡が消えるように、コンピューターウィルスをまかしてもらった。明日の午後には、忘れるだろう。我々の存在自体もな。君のためだ。」 「あなたは優しい人だわ。御恩は忘れません。無事を祈ってる。」 神経麻痺エミッターをカーネスに返すチャコティ。彼とケリンは転送台に乗った。ケリンを見つめるチャコティ。「……転送開始。」 2人は転送されて行った。
「副長個人日誌、宇宙暦 51813.4。確かに忘れた方がいいのだろう。ケリンのことも、彼女と過ごした時間のことも。だが私は、忘れたくはない。」
ラムラ船は再び姿を消した。
チャコティは食堂で、紙に文字を書いている。ニーリックスが話しかける。「コーヒーは?」 「いやいい。終わるとこだ。」 「何でまた、そんな昔のもん引っ張り出して、書いてるんスか。」 「この 2、3日の記憶を留めておくには、これしかないんだ。全て覚えておきたいんでな。」 「随分辛い経験でしたね。」 「一体、どうしてなんだ。俺は 2度も彼女に恋をした。だが彼女は、行ってしまった。俺のせいなのか? 彼女との最後の会話を思い出して、言い足りなかったことがないか考えてる。だが何も思いつかん。」
"Commander... I don't think you can analyze love. It's the greatest mystery of all. No one knows why it happens, or doesn't. Love is chance combination of elements... Any one thing might be enough to keep it from igniting... a mood, a glance, a remark. And if we could define love... predict it... it would probably lose its power.

「愛ってのは分析するもんじゃないっスよ。最大の謎なんスから。人を愛するのに理由なんかないっス。愛は言ってみりゃ偶然の産物なんスよ。何が原因で燃え上がっちまうかわかりゃしません。ムード、視線、言葉。愛を定義できたら、予言できたら、そりゃもう愛じゃない。
…お邪魔を。」 歩いて行くニーリックスにチャコティは言った。「おやすみ。」


・感想
久々のチャコティのエピソードです。前のパリス同様、このような話は必要なのですが……スタートレック俳優の監督エピソードにしては、出来がいまいちでした。設定に無理がありすぎるような気がします (他のあらゆる種族が存在を忘れるとはいっても、忘れること自体を不思議がらないのか。ラムラ人に関する記録だけ消せるウィルスも非常に困難でしょうし、消えた痕跡はどうするのか)
まあ、そういう細かいことはおいといても、ケリンとチャコティにおける最初と最後の立場の対比は良いですね。当然ですがチャコティファンには必見…あ、それと久々にまともにセリフのあったニーリックスも。


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