エンタープライズ エピソードガイド
第43話「地獄への護送船」
Canamar
イントロダクション
※1漂流するシャトルポッド。 中には誰もおらず、コミュニケーターが空中を浮遊していた。 サトウの通信。『エンタープライズからシャトルポッド1。…エンタープライズからシャトルポッド1。アーチャー船長、応答して下さい。』 スクリーンに映ったシャトル。 サトウ:「…エンタープライズからシャトルポッド1。アーチャー船長、応答して下さい。」 トゥポル:「リード大尉。」 リード:「攻撃を受けています。メインパワー停止。重力プレート※2、生命維持装置も同様です。」 「生体反応は?」 「なし。」 |
※1: このエピソードは、2003年度エミー賞のメーキャップ (装具) 賞にノミネートされました ※2: 「防御プレート」と誤訳 |
本編
司令室。 アーチャーの音声が流される。『航星日誌、補足。トリップと私は、イノール人※3とのファースト・コンタクトを無事果たし、ケト・イノール※4を発った。休暇も取れ、有意義な時間だった。』 サトウ:「この後は、『パン・ザン※5』について、一度記録があるだけです。」 リード:「パン・ザン?」 「スポーツの一種で、記録によれば船長の知る限り、地球の水球に一番近いと。」 トゥポル:「センサーは?」 リード:「データは破壊されています。」 フロックス:「副司令官、シャトルに血液反応が。人間の血液です。デッキと隔壁の 2ヶ所。船長とタッカー少佐のものだ。リード大尉は拉致されたと。」 「でなければ…血を流すわけがない。」 トゥポル:「…ケト・イノールへコースをセット。」 操舵席へ向かうメイウェザー。 ワープ航行中の異星人船。 コックピットにいる、制服を着た異星人※6。「見回ってくる。」 ロッカーのロックを解除し、銃を取りだした。 ドアの前でコードを入力し、開ける。 中は同じ種族の者が見張っていた。 たくさんの男たちが、並んで座らされている。足や手を固定された者の中に、アーチャーとタッカーもいた。2人とも私服姿で、顔に怪我をしている。 下を向いていたアーチャーを呼ぶタッカー。「船長!」 アーチャー:「ん? 責任者か? 違うなら君の上官と話がしたい。」 異星人は何も言わず、持っていた装置を使った。 すぐにアーチャーの手錠に電流が走る。苦しむアーチャー。 身体をのけぞらせるアーチャーは、横の異星人にこずかれた。他にも様々な種族の人物ばかりだ。 タッカー:「船長。」 アーチャー:「あ…大丈夫だ…。」 前にいた男、クロダ※7が話し出す。「おとなしくしていた方がいい。看守は質問が嫌いだからな?」 見張っている異星人と同じ種族のようだ。 アーチャー:「…どこへ向かってるんだ…。…連中はカナマール※8って言ってた。そこに心当たりは。」 タッカーの隣にいる、別の種族の異星人、ゾーマス※9。「犯罪者コロニーだよ。」 タッカー:「…裁判も受けさせないで、いきなり刑務所に送るのか?」 「訴訟基地で裁判を受け、判決を受けてからコロニーへ行く。」 「無実の場合は。」 「捕まったら最後、全員有罪だ。…奴ら何て。」 アーチャー:「…密輸をしたと。」 「…そりゃ相当ヤバいな。…見せしめにされる。」 看守を見るアーチャー。隣の異星人は威嚇する。 ケト・イノール軌道上のエンタープライズ。 トゥポル:「ここへは探査任務で来ました。…我々はうちの船長と機関主任が、そちらを訪問後拉致されたと確信しています。」 スクリーンに映っているイノール人高官※10。『誰にでしょう。』 護送船の護衛や、クロダと同じ種族だ。 トゥポル:「わかりません。」 『ここは星系いち人の出入りが多い。毎日何千何万という来訪者がいます。それと同じだけの泥棒や密輸犯もいる。…従ってお察しいただけると思うが部下も非常に忙しい。お役には立てません。』 「…特徴だけでも送らせて下さい。あなたの部下の中に見た方がいらっしゃるかもしれません。」 イノール護送船。 配られている食事を、クロダは拒否した。 臭ってみるアーチャー。 タッカー:「ほかにはないのかよ。」 後ろにいるノーシカン※11。「気に入らないなら俺が食う。」 タッカー:「……よく見ると美味そうだ。」 「…こっちへよこせ。」 「……断る。」 「まだ聞こえないらしいな。」 「…面倒な目に遭いたくなかったら俺に話しかけるな。」 ノーシカンは立ち上がった。だがすぐに、護衛が手錠に電流を流した。 タッカー:「…どうも。」 今度はタッカーにも流され、皿を落としてしまう。 ゾーマス:「ノーシカンには気をつけた方がいい。気が荒いから。」 うなるノーシカン。 タッカー:「忠告ありがとう。」 ゾーマス:「…何密輸した? ラチナム? イノール・スパイスワイン※12?」 「密輸なんかしてない。俺は宇宙船の機関主任、彼は船長だ。」 「…船長? 宇宙船の? それいいねえ。…僕もそう言っときゃ、助かったかも。『ゾーマス船長』か、フン!」 ため息をつくタッカー。 エンタープライズ。 アーチャーとタッカーの姿が表示された、パッドを置くイノール人高官。「彼らが軌道を離れようとした時、パトロール船が止めたようです。」 トゥポル:「今どこに?」 「我々の護送船の中に。密輸品と思われる物を運んでいて拘留されたらしい。」 リード:「無実の人間を捕まえる習慣でも?」 「密輸は星系にはびこってる。…部下は不審船に敏感になっています、時にはミスもある。」 「今回がそのミスだ。」 「…護送船と合流するよう手配した。これが、座標です。」 トゥポル:「これ以上ミスが重ならないよう、我々に御同行願います。」 イノール護送船。 タッカー:「このまま助けが来なかったら。」 アーチャー:「話のわかる判事が…訴訟基地にいてくれることを祈るしかない。」 「いなかったら。」 「ノーシカンは敵に回さないことだ。」 睨むノーシカン。 ドアが開き、イノール人看守がやってきた。「アーチャーか? …釈放だ。…船が迎えに来る。」 ノーシカン:「どうして釈放される。」 タッカー:「無実だからだ。」 笑う囚人たち。 ノーシカン:「こいつらにいくらつかまされた。」 看守:「黙れ。」 「俺も無実だ。金を払う。」 「黙れと、言ったろ。」 ノーシカンに近づく看守。 「全員無実だ!」 その時、クロダは手錠を外した。 ノーシカン:「いくらか言え!」 ノーシカンの手錠に電流を流す看守。 クロダ:「いい加減にしろ!」 看守を殴り倒した。 蹴って装置を奪い、ノーシカンを解放するクロダ。 自分の手錠も外せと騒ぐ男たち。 看守を蹴るノーシカン。 |
※3: Enolians ※4: Keto-Enol ※5: pan zan ※6: イノール人看守 Enolian Guard (Brian Morri) 声:相沢正輝 ※7: Kuroda (マーク・ロルストン Mark Rolston TNG第170話 "Eye of the Beholder" 「謎の幻覚テレパシー」のウォルター・J・ピアース中尉 (Lieutenant Walter J. Pierce)、ENT第82話 "The Augments" 「野望の果て」の Magh 艦長 (Captain Magh) 役) フルネームはクロダ・ロー・エン (Kuroda Lor-ehn) で、後に言及されます。声:野島昭生 ※8: Canamar 原題 ※9: Zoumas (ショーン・ウェーレン Sean Whalen) 種族名不明。声:成田剣 ※10: Enolian Official (ホームズ・R・オズボーン Holmes R. Osborne) 声:小山武宏 ※11: Nausicaan (Michael McGrady) 声:楠見尚己、DS9 アレキサンダー、ENT シリックなど ※12: Enolian spice wine 吹き替えでは単に「スパイスワイン」のみ |
ノーシカンは看守の銃をクロダに投げ渡した。 クロダ:「全員黙れ、静かにしろ。ここから出たきゃな。」 看守を抱え、自分がいた席におくノーシカン。手錠をはめる。 ドアのコンソールを操作するクロダ。 コックピットに警報が鳴る。別のイノール人看守が銃を持ち、ドアを開ける。 横に隠れていたクロダが看守を撃った。吹き飛ばされる。 ドアが閉まる前に、ノーシカンが割り込もうとする。席を立つイノール人パイロット。 ノーシカンは力ずくで中に入る。ロッカーから銃を取ろうとしていたパイロットを、壁に打ち付けた。 やってきたクロダと共に、パイロットを運ぶ。 座らせたパイロットにも手錠をつける。 クロダ:「パイロットは必要だと言っておいたろ。」 ノーシカン:「まだ生きてる。」 「こいつを見てみろ、船なんか操縦できると思うか。」 「武器を取ろうとした。」 「余計な真似をするな!」 異星人囚人※13が声をかけた。「俺たちはどうなる。」 クロダ:「…すぐに解放される。」 「いつ。どこへ連れてくつもりだ。」 「おとなしくしてりゃ、すぐにわかるよ。」 ゾーマス:「僕たちみんな、あんたの勇気には感謝してる。だが、3日間もこの状態なんだ。せめて…」 ノーシカン:「黙れ!」 クロダ:「コースを変えられるか見てくる。」 アーチャー:「この船はワープ船だ。無理だな。」 タッカー:「同感。」 「プラズママニフォルドがオーバーロードしたらどうする。反物質抑制フィールドが閉じたら? 全員イオンガスになってしまう。」 クロダ:「パイロットか?」 「腕もいい。…密輸するくらいだ。」 クロダは装置を操作した。「一緒に来い。」 外されるアーチャーの手錠。うらやましそうに見るゾーマス。 アーチャー:「相棒は機関士だ、助けがいる。」 クロダ:「お前一人でいい。」 コックピットへ入るクロダとアーチャー。 ドアの前で見張るノーシカン。 アーチャーは操舵席のコンピューターを見つめた。 クロダ:「パイロットだと言ったろ。」 アーチャー:「初めての船だ。…時間をくれ。」 席につく。「これは着陸スラスターだ。…姿勢制御装置。ワープ安定装置。」 「コースは。」 星図を表示させるアーチャー。「変えられる。」 クロダ:「4光年先に、連星系がある。」 アーチャーは星図に 2つの恒星を出した。「これだ。」 クロダ:「コースセット。」 「星は?」 「星系に着いたら、言う。」 「これは護送船だ、すぐに足がつく…」 「いいからコースをセットしろ!」 操作するアーチャー。 イノール護送船は針路を変えた。 見張っているノーシカン。パイロットは、まだ横になったままだ。 座っている看守。「彼が死んだらどうする。」 ノーシカンはうなった。 看守:「手当をした方がお前の身のためだ。」 何も言わず、腰をかがめるノーシカン。 看守:「俺が治安判事に口添えする。」 ノーシカンは装置を使った。苦しむ看守。 囚人たちは笑う。 クロダは尋ねた。「看守がさっき、釈放すると言ってたが、なぜだ。」 アーチャー:「…無実だからだ。俺と商売できなくなると、困る連中がいてな? 裏で金を動かしてくれたおかげで…無実に。…あんたが暴れ始めなきゃ、今ごろ俺は自由の身だった。成功すんだろうな?」 「当然だろ。」 「どうやって、手錠を外したんだ? …制御できるのは看守だけだ。」 「そうか?」 手首を見せるクロダ。手術の跡がある。「皮下インプラントだ、手錠に作用しロックを外す。※14」 「なぜそんなこと知ってた。」 「俺はカナマールを脱獄した、7年もいたよ。戻るつもりはない。だから、準備をしてた。」 うなずき、隣のコンソールを操作するアーチャー。「今や俺たちは運命共同体だ。俺も、カナマールへなんて行きたくない。俺の相棒も、役に立つぞ?」 クロダ:「それは。」 「亜空間通信機だ。」 「助けを呼ぶ気じゃないだろうな。」 「ハ、停止させるだけだよ。」 操舵席に戻るアーチャー。「足がつくからな。使ってなくても、信号を発信する。」 クロダは通信コンソールを叩き割った。「もう心配ない。」 笑うアーチャー。 ワープ航行中のエンタープライズ。 サトウ:「…自動救難信号を受信しました。」 イノール人:「…我々の周波数です。」 トゥポル:「護送船のですか。」 「船は何百とある、いちいち覚えてはいられません。」 サトウ:「発信位置は合流予定の座標付近ですが…今は発信してません。」 トゥポル:「呼びかけて。」 「……応答ありません。」 「速度をワープ4 ポイント 2 に。」 イノール人:「急いでも数時間はかかる。座標付近にパトロール船がいます。」 「…ぜひ連絡を。」 イノール護送船。 ゾーマスが話している。「トジャル※15を食べたことは?」 タッカー:「あ?」 「最高に美味い。冷めると、カチカチになるけどね?」 前にいる異星人たちも、ゾーマスに迷惑しているようだ。 「そりゃあ大変だ。」 「逃げることができたら、一番に食いたい。どこに行くんだろう。」 「聞けよ。」 こちらを見るノーシカン。 ゾーマス:「やめとくよ。イノール人から逃げるなんて、無理だからね。前から整形に興味があったんだ。ブララ・プライム※16にいい医者がいる。あんたもどう?」 タッカー:「俺はこの顔のままでいい。」 「ブララ・プライム知ってる?」 「いや、知らない。」 「北極と南極には行っちゃダメだ。人は親切だけど寒さが半端じゃない。あるのは氷河だけ。僕は仲間に置き去りにされて、3ヶ月もいた。」 「ご苦労さん。」 「一度なんか道に迷ってね。14時間だよ? 基地に戻るまで 14時間も歩き続けた。足はひどい凍傷だ。それから、軽く引きずるようになった。ハ…整形のついでに足の手術も受けようかなあ。名医だっていうからきっと治して…」 タッカーはノーシカンを呼んだ。「すいません。…席変えてくれる?」 笑うノーシカン。 話すクロダ。「今まで会わなかったのが不思議なくらいだ。」 アーチャー:「…来たばっかりなんだ。今まではずっと、太陽系にいた。」 「太陽?」 「そうだ。母星は地球っていう。」 警告音が鳴る。 クロダ:「何だ。」 アーチャー:「船が 2隻近づいてる。」 「見せろ。」 モニターに、異星人船が映った。 クロダ:「イノール人のパトロール船だ。」 |
※13: Prisoner (John Hansen) 種族名不明。声:北川勝博 ※14: 原語では「トライバーニアム合金 (triburnium alloy) を脱分極させる」 ※15: tojal ※16: Burala Prime |
操作するアーチャー。「見つかった。」 クロダ:「予想してたより早い。通信装置を停止させた時、まさかうっかり起動させて…」 「救難信号を送ったと? この船で逃げるのが無理なんだ。足がつきやすい! …攻撃する気だ。」 「応戦しろ。」 「敵は重装備のパトロール船、こっちはただの護送船だぞ。」 「兵器はある、装填しろ!」 「無駄だ! カナマールへ向かった方がいい。」 「…俺はそうは思わん。早く兵器を装填するんだ!」 船が揺れた。 アーチャー:「エンジンを狙ってる。」 クロダ:「撃ち返せ!」 「…断る。」 「死にたいのか?」 「十分な火力がない。応戦すれば今度は破壊されるぞ? …ここを脱出した方がいい。…タッカーの力がいる。」 ワープを抜けるイノール護送船。 パトロール船に攻撃を受ける。 囚人たちも騒ぐ。 ゾーマス:「…何だよこれ。」 看守:「パトロール船だ、一巻の終わりだな。」 「脱出ポッドに行った方がいいんじゃないか?」 ノーシカン:「次にしゃべった奴は外に放り出すぞ! 奴が集中できねえ。」 タッカーは後部で作業していた。 通信するアーチャー。「トリップ、状況は。」 タッカー:『もう少しです。』 訴えるゾーマス。「手錠を外せ、拘束されたまま死にたくない!」 ゾーマスに電流を流すノーシカン。 タッカー:「準備完了。」 うなずくアーチャー。 クロダは通信機を使った。「発砲をやめろ、やめてくれ。降参する。」 静かになった。 様子をうかがうタッカーとノーシカン。 パトロール船から通信が入る。『ドッキングポートを加圧し、乗船に備えろ。さもなければ船を破壊する。』 クロダ:「了解した。」 近づくパトロール船。 その様子がモニターに映る。 アーチャー:「今だ!」 操作するタッカー。「プラズマ放射開始。」 護送船の後部から、プラズマが排出されていく。 それは広がり、パトロール船を飲み込んだ。 操縦するアーチャー。 離れていく護送船。そしてプラズマに向けて武器が撃たれた。 爆発が起こり、パトロール船は吹き飛ばされる。 揺れる後部室。 アーチャーは言った。「成功だ、2隻とも推力がダウンした。」 クロダ:「武器をロックしろ。※17」 「今のうちに脱出する。」 「ワープ反応炉を狙え!」 「必要ない!」 「完全に破壊しないと、また追ってくるぞ!」 「あの 2隻を完全に破壊しても、別な船で追ってくる。俺は密輸犯だ。人殺しの罪を重ねる気はない。脱出するぞ。」 うなずくクロダ。「わかった。」 その場を離れ、再びワープに入る護送船。 座っているタッカー。「また手錠かよ。あんたらを助けたんだぞ、信じてくれ。プラズマ回路を通るパワーの量を知ってるのか。」 無言で手錠をはめていくノーシカン。 ゾーマスが尋ねた。「どのくらい?」 無視してノーシカンに話すタッカー。「…たくさんだ。死んでたかもしれない。ありがとうくらい言えってんだ。」 ノーシカンはタッカーを見すえた。「ありがとう。」 離れる。 ゾーマス:「よかったね。…そういえば思い出したんだけど…」 タッカー:「黙れ!」 エンタープライズ。 イナール人:「護送船は、2隻を攻撃して逃げた。上はパトロール船にもう躊躇するなと命じました。護送船を見つけ次第ただちに、攻撃・破壊せよと。」 トゥポル:「無実の人間が 2名乗船していることを御存知なんでしょうか。」 「今は首謀者に関心が集まってる。声紋が脱獄犯のクロダ・ロー・エンのものと一致しました。多くの罪を犯している、凶悪犯です。…だから殺せと。」 リード:「我々は 2人を取り戻します。」 「では我々より先に見つけることです。」 イノール護送船。 クロダ:「やるじゃねえか、プラズマとはな。」 アーチャー:「…一度やったんだ。コリダン※18の近くで税関の船をまくのに…。」 「だが、ついに焼きが回ったか? じゃなきゃここにいるわけねえ。何があった。」 「……どんな船だろうと、ケト・イノールを発つ船は調査を受ける。それを避けるために俺は、宇宙船の船長だとホラを吹いた。タッカーは機関士だと。」 「フン。」 「平和的な探査任務をしてると。結構上手く説明したつもりなんだが。」 「信じなかったろ?」 「ヘ、この始末だ。シャトルをくまなく調べられたよ。ブツを見つけられ、このザマだ。」 「…俺にはよかった。俺たちと一緒に来ないか。お前の相棒も。」 「何しに。」 「…デカい山があるんだ。俺はその途中で捕まっちまってな。かなり金になる。」 「…無理だ。密輸しかできない。」 「嘘は言わん。俺が考えてる計画を知ればきっと興味が湧く。」 「……今の俺に、選択の余地はないな。…一つ条件がある。行き先を教えてくれ。」 「第4惑星だ。タマール※19と呼ばれる貿易基地がある。」 「それで?」 「そこで船が待ってる。この、護送船じゃ…人目を引きすぎるだろ?」 「フン。」 また話しているゾーマス。「ちょっと筋っぽいけど、悪いやつじゃないよ。口に入れてる時が面白い。噛み砕くまで、跳ね回ってるんだ…」 前の 2人は迷惑そうにしている。 タッカー:「やめろ。」 「気に障った?」 「いや、すごく楽しかったよ! マルヴァラ・泥ノミ※20の話。オリオンの女※21と、2時間過ごした話も。フルヴィアンの菌※22を取り除ける奇跡の医者の話も。」 「あんたの感想なんか聞いてない!」 「たまには聞けよ! …口を挟む隙もない。この手じゃ耳もふさげない。…10分、10分でいい。頼む! 静かにしててくれないか!」 「…そんなに嫌だったとはね。気が合うと思ったのに。どうせこれから 10年は刑務所暮らしなんだ。その前に楽しい話をしたかっただけだよ。」 「…なあ…あの…当たって悪かったよ。…だがここは話を、楽しむ場所じゃない。」 タッカーの方を見ようとしないゾーマス。 回路を見ているアーチャー。「…スラスターアッセンブリがダメージを受けた。タッカーに見てもらった方がいい。」 クロダ:「必要ない。」 「ヘ、パイロットはあんたじゃない。」 「どうせこの船は捨てるんだ。」 機関室のドアが開き、ノーシカンが食べ物を持ってきた。 クロダ:「腹は減ってない。」 ノーシカン:「2日も食ってないぞ。」 「…大丈夫だ。」 「バカ言うな。」 「うるさい! 腹は減ってないんだ。」 皿を払い落とすクロダ。 出ていくノーシカン。 クロダ:「こんなもん食えるか! フン。」 アーチャー:「…ないよりマシだ。」 「犯罪者コロニーにいたことがないからそう言える。俺が初めてあの臭い飯を食ったのは 14 の時だ。俺はもう…一生分食った。」 「……随分と、早かったようだなあ? その道に入ったのは。」 「若かった。…だが何もしてない。」 「何も?」 「親父と、ケト・イノールの造船所で働いていた時…監視員にラチナムを盗んだと責め立てられた。」 「うん、うん…」 「俺は盗んじゃいない。ただ、餌食にされただけだ。…なのにデュロノム※23で 5年の刑を、言い渡された。」 「……ひどい話だな。」 「イノール人の看守は血も涙もない。その目で見たろ。」 「ああ。」 「…ムショではいろいろ学んだよ、親父には教われないことをな。釈放されてからは、そこで学んだすべを使って生きてきた。…感謝すべきだろ? …イノール人の看守がいなかったら、人生に…退屈してた。」 「フン。」 ワープを抜ける護送船。 連星へ向かう。 アーチャー:「タマールへようこそ? …お友達は。」 クロダ:「直に来る。」 「…着陸座標は。」 「必要ない。…ドッキングして移る。」 「…ほかの連中は、ムショに送る気か。」 「いいや? …船を移る前に、自然落下軌道に向けてコースをセットしろ。」 「……船ごと灰になる。」 「着陸しようとして、墜落したと思われる。」 「…全員殺す必要はないだろ。解放しろ。」 「全員死んだと思われれば誰も追ってこない。…嫌だと言うんなら、自分の席に戻りな。操縦はできなくても、船を墜落させることはできる。」 |
※17: 吹き替えでは「兵器を狙え」。こちらの武器を相手にロックしろという意味です (直後に反応炉を狙えと命じています) ※18: Coridan ENT第15話 "Shadows of P'Jem" 「恩讐を越えて」より ※19: Tamaal ※20: Melvaran mud flea 吹き替えでは「泥ノミ」のみ ※21: Orion slave girl TOS第1話 "The Cage" 「歪んだ楽園」など ※22: Fluvian fungi ※23: Duronom |
エンタープライズ。 メイウェザー:「…護送船が、ワープを解除。連星系に入りました。…第4惑星に向かってるようです。」 イノール人:「タマールだ。200万人以上が住む大規模な貿易基地です。」 リード:「潜伏するにはもってこいだ。」 トゥポル:「…ワープ解除。星系に向かって。…人間の生体反応は?」 「船長と、少佐です。可能域に入ったら、転送をお勧めします。」 イノール人:「護送船だ、厳重にシールドされています。」 第4惑星軌道上の護送船。 出てきたアーチャーを遮るノーシカン。「どこへ行く。」 アーチャー:「さっきの攻撃でドッキングハッチが壊れた。…クロダがタッカーに直させろと言ってる。」 手錠の解除装置を見せる。 タッカー:「待ってました。」 囚人:「誰とドッキングする。」 アーチャー:「そりゃこっちが聞きたいよ。」 パネルを開けるアーチャー。ノーシカンに聞こえないように話す。「俺たちを仲間の船へ移し、船を墜落させる気だ。」 タッカー:「で、名案浮かびました?」 「できるだけ早く…主導権を握るしかない。」 ノーシカンを見たアーチャー。「だませるか。」 「…朝飯前です。」 報告するメイウェザー。「小型船がワープを解除しました。」 トゥポル:「パトロール船?」 リード:「違うようです。生体反応 4名、全員イノール人。」 イノール人:「我々の船じゃない。」 スクリーンに映った小型船※24。 トゥポル:「拡大して。…行き先は?」 メイウェザー:「…第4惑星です。」 サトウ:「護送船に呼びかけてますが…応答がないようです。」 トゥポル:「……クロダを助けに来たのかもしれません。…装備してある兵器は。」 リード:「前後に素粒子砲。大したものじゃない。」 イノール護送船。 クロダ:「仲間がもうすぐ来る。予定のコースをセット。」 アーチャー:「……その仲間の船が大きいことを祈るよ。そうすれば、全員…」 「その話は終わったはずだ!」 操縦するアーチャー。「トリップ、ドッキングポートはどうだ。」 力を込めて作業をしているタッカー。「…まだかかります。…こりゃ大仕事だ。」 アーチャーは言った。「…頼んだぞ?」 見張っているノーシカンに話すタッカー。「あのさ、あんたとはいろいろあったけど、悪気はないんだ。機嫌を直して…手を貸してくれ。」 ノーシカン:「…機関士はお前だ。」 「そうだ。…だが入り口のバルブが上手く開けられない。俺じゃ、力が足りないんだ。あんたも聞いてたとおり、クロダはこのハッチを直したがってる。」 従うノーシカン。 タッカー:「そこのバルブを、向こう側に回してくれ。…もう少し、少なくとも 90度は回して欲しい。」 ノーシカンが後ろを向いている隙に、予備の手錠を手に取る。「そうだ。」 うなるノーシカン。 タッカー:「もう少し!」 ノーシカンを殴り倒した。銃を手に取るタッカー。 囚人:「おい、何する気だ。」 ゾーマス:「僕らの恩人だぞ?」 タッカー:「奴らは殺す気なんだよ、あんたらを。」 囚人:「どうしてそう言える。」 ゾーマス:「それがほんとだって証拠は?」 タッカー:「静かにしろ!」 ドアを開けようとする。 コックピットに警報が鳴る。 クロダ:「ここにいろ。」 後部室に来るクロダ。 隠れていたタッカーが撃とうとする。 ゾーマス:「危ない!」 避けるクロダ。 タッカーは逆に撃たれてしまった。 コックピットに戻るクロダ。アーチャーに銃を向ける。 アーチャー:「あんたにハッチが直せるか? 簡単じゃない。…自然落下軌道上にいるんだ。俺を撃てば全員死ぬ。」 再びドアを開けるクロダ。「ハッチを直せ。」 アーチャー:「…全員殺すことはない。」 「早くしろ!」 護送船に、小型船が近づいてくる。 高度を下げていく護送船。 また手錠をつけられたタッカーは、目を覚ました。 ゾーマス:「……感謝しなよ?」 タッカー:「…何? …アーチャーは。」 「あそこでドッキングハッチを直してる。シャトルが迎えに来てるんだ。…さっきは悪かったよ。でも、これでよかった。運が強いな。クロダはカンカンだよ。でももう大丈夫、自由になれる。…礼はいい。」 船が揺れた。 アーチャー:「ドッキングした。」 タッカーと目配せする。 コンソールを操作するアーチャー。ドアが開く。 すると、中にいたリードがノーシカンを撃った。他の保安部員たちも発砲する。メイウェザーもいる。 反撃するクロダにやられる保安部員。リードはアーチャーにフェイズ銃を渡す。 クロダと撃ち合いになる。必死に身をかがめる囚人たちやタッカー。 コックピットに逃げようとしたクロダを、アーチャーが撃った。 倒れ、白目を剥くクロダ。 メイウェザーは、撃たれた保安部員の脈を確認した。 アーチャー:「…信号が届いたか。」 リード:「届きました。」 タッカー:「船長。これを。」 手錠を示す。 ゾーマス:「こいつら何者?!」 リードに装置を渡すアーチャー。「これで手錠を外せ。」 大きく船が揺れた。 アーチャー:「全員シャトルへ!」 クロダの銃をタッカーに渡し、コックピットに入る。 操縦席に座るアーチャー。 小型船とドッキングしたままの護送船は、大気圏に突入している。 次々と手錠が外される囚人。 メイウェザーはハッチのドアを開けた。 捕まっていた看守たちも解放される。 メイウェザー:「全員急いで、早くしろ。こっちだ。」 看守はパイロットに話しかける。「大丈夫か、しっかりしろ。ここを出る。」 メイウェザー:「早くしろ、時間がない。」 出ていくゾーマスたち。 メイウェザー:「急げ、おい早くしろ。」 クロダは身体を動かす。 保安部員に近づくメイウェザー。「しっかりしろ。」 コックピットに入るタッカー。「手伝います?」 アーチャー:「いや、スラスターがもうもたない。避難したか。」 「ほぼ全員。」 「…すぐ行く。」 タッカーに続き、コックピットを離れるアーチャー。 リードが戻ってきた。「船長! もうドッキングシールがもたないそうです。」 揺れがひどくなっている。 アーチャー:「残りは 2人だ。」 倒れているノーシカンを引っ張る、タッカーとリード。 アーチャーはクロダを抱える。 だがクロダは目を覚まし、アーチャーを床に倒した。 ハッチのドアを閉めてしまうクロダ。「軌道を離脱しなきゃならん!」 アーチャー:「無理だ! スラスターがダウンした!」 「嘘をつけ!」 部屋で爆発が起こる。 アーチャー:「早く出よう!」 ドアを開けようとするアーチャーを、引き離すクロダ。殴り合いになる。 迫る地表。 アーチャーは蹴ろうとするクロダの脚を取り、倒した。 引き下がらないクロダは、予備の手錠を手にとって殴りかかってくる。 アーチャーは制御装置を手にした。手錠を持っていたクロダは、身体が痺れる。 蹴り倒し、ドアを開けるアーチャー。再びリードがやってきた。 クロダはコックピットへ戻っていく。 アーチャー:「クロダ! …あきらめろ!」 クロダ:「俺は絶対戻らん!」 爆発が続く。 リードはアーチャーを押さえた。「時間がありません!」 クロダはコックピットに入った。 ハッチのドアが閉められる。 護送船から離れる小型船。 操舵席に座るクロダ。窓からは明るく輝く、空気の流れしか見えない。 操縦しようとしても、ブザーが鳴るだけだ。クロダは悔しそうに、コンソールを叩いた。 エンタープライズとドッキングする小型船。 エアロックから出てくるアーチャー。「治療が必要な者がいる。」 フロックス:「船長は?」 「私はいい。」 イノール人:「イノール政府を代表し多大な御迷惑をおかけしたことを謝罪します。上官が是非とも…」 「トリップ。」 歩き出すアーチャー。 イノール人:「あ、船長。…船長、ことの一部始終を上官に報告していただきたい…」 「いま報告しよう。クロダは死亡、ほかの 11名は拘束してある。ご覧の通り、我々は無実の罪で逮捕され、牢獄へ送られるとこだった。ほかにも無実の者が、いるんじゃないのか? …以上だ。」 立ちつくすイノール人。トゥポルもアーチャーたちについていった。 |
※24: ENT第23話 "Fallen Hero" 「追放された者の祈り」に登場した、マザール・シャトルの使い回しの可能性があります |
感想
囚人と間違われて、何とか切り抜けるお話。ここ数話のエピソードがよかっただけに、内容もテンポも「いつもの ENT」に戻ってしまった感があります。反乱が起こるところと、最後にエンタープライズのクルーが乗り込むところくらいは驚きでしたが、後は…。 おしゃべり異星人のゾーマスが緩和剤になっていますが、最後にもう一つタッカーとのシーンがあってもよかったかも。今回はやたら「船が飛んでいる」カットが多かったですね。それとアーチャーが護送船を操縦するところは、液晶ディスプレイを本当に押しているように見えます。 |
第42話 "Future Tense" 「沈黙の漂流船」 | 第44話 "The Crossing" 「光の意志」 |